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最近の五冊
- 『薬屋のひとりごと13』 日向夏
- 『無垢の時代』 イーディス・ウォートン
- 『マルドゥック・アノニマス4』 冲方丁
- 『マルドゥック・アノニマス3』 冲方丁
- 『ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短篇29』 ジェイ・ルービン編
and more...
薬屋のひとりごと13
日向夏/ヒーロー文庫/主婦の友社/Kindle
ようやく西都編が終わって、ここから新章スタート!――かと思いきや。
前巻までが慌ただし過ぎたせいだろうか。今回はほとんど物語が動かない。いままでになくおだやかな印象の一冊だった。
まぁ、猫猫が都に戻ってきたら、なぜだか羅半にモテ期が訪れていたり、緑青館の三姫のひとり女華の過去になんらかの秘密があることが匂わされたりと、今後への伏線らしきエピソードがいくつか埋め込まれているのだけれど。
それでもやはり今回はとてものんびりとした一冊だなぁと思っていたら、ラストにすごい爆弾が仕込まれていた。
前巻でようやく壬氏との関係を受け入れた猫猫が、いきなり彼と大人の関係に!
――とか思わせておいて。
やっぱそう簡単にはいかないぜというのがマンガやラノベのお約束。
初夜に備える猫猫の準備周到さが失笑を誘った。
壬氏には同情を禁じ得ない。
(Mar. 25, 2025)
無垢の時代
イーディス・ウォートン/河島弘美・訳/岩波文庫
二十世紀初頭に活躍したアメリカの女性作家、イーディス・ウォートンの代表作にして、マーティン・スコセッシ監督の『エイジ・オブ・イノセンス』の原作。
僕はこの人の『イーサン・フロム』という作品を大学の授業で読んだことがある。
不勉強でほとんど原書を読まなかった僕にとって、英語で読んだことのある数少ない作家のひとりなので、その存在はつねに気にはなっていたのだけれど、日本では知名度が低いため、これまでほとんど翻訳が出ていなかった。
ん? でもこの作品は映画化されているんだから、普通に考えるとそのタイミングで翻訳が出るよな?――と思って確認したら、やはり『エイジ・オブ・イノセンス』公開当時に新潮文庫から
なんで気がついてないんだろう? 当時はまだインターネットが使えなかったので、刊行を見逃したか、はたまた映画のポスターを使った表紙が趣味ではなかったので、あえてスルーしたか。いや、文庫の新刊をチェックしていないとか当時はあり得ないはずだから、後者の確率が高い。映画はいまいち好みではなかったし、きっとそのせいでスルーしてしまったんだろう。
いずれにせよその作品の新訳版が『無垢の時代』とタイトルを変えて岩波文庫から刊行されたのが二年近く前のこと。このたびは見逃さすにゲットして、ようやく読みました。『イーサン・フロム』も知らないうちに白水Uブックスに入っていたので、手に入るうちに入手しておかないと。
さて、そんなこの作品は十九世紀末のニューヨーク社交界を舞台にした恋愛劇。
若くて美しい令嬢メイと婚約中の主人公ニューランド・アーチャーの前に、ヨーロッパの伯爵と結婚したかつての知り合い、エレンが姿をあらわす。
はっきりと書かれてはいないけれど、ふたりのあいだには若いころにロマンスがあったらしく――終盤にニューランドがエレンのお祖母さんから「あなたたちが結婚しなかったのが残念だわ」とか言われるシーンがある――エレンの存在はニューランドのメイとの幸せな日々を徐々に蝕んでゆく。
ウォートンの文体は端正で、いかにも古典という味わいがある。ただ、前述したとおり、ふたりの関係性が曖昧なので、前半の第一部はいまいちもやもやした感触を残したまま、ニューヨークでの上流階級の風俗描写に費やされている感があって、いささか盛りあがりを欠いた。
その第一部の最後でようやくニューランドが態度をあきらかにしたと思ったら、事態が急転してふたりの関係はふたたび暗礁に乗り上げてしまう。このふたりの結ばれそうで結ばれない関係性と、結ばれたとしても決して幸せにはなれそうもないシチュエーションがこの小説の肝だろうと思う。
舞台が十九世紀ということもあって、全体的に古典的な印象なのに、最後の一章だけいきなり時代が変わる構成に意外な現代性を感じた。
ラストシーンの余韻がやる瀬ない……。
(Mar. 16, 2025)
マルドゥック・アノニマス4
冲方丁/ハヤカワ文庫JA/Kindle
前巻の引きがあんまりに強烈だったので、ひきつづき読まずにはいられなかった『マルドゥック・アノニマス』の第四巻。
今回もめっぼうおもしろかった。それは否定しようがない。
でもさ、まさかあのあと、ガス室のある建物からふたり――ではなくひとりと一匹――が脱出しないうちに残りページがなくなっちゃうとは思わないじゃん!
あまりにストーリーが進まなさすぎて笑ってしまう。
まぁ、もちろんエントランスまでの廊下を一冊かけて牛歩のような歩みでのろのろ進んでいたという話ではなく。
今回はいかにしてバロットがウフコックの居場所までたどり着いたかを――現在の脱出劇を描く一方で――過去にさかのぼって描くのが中心になっている。
法律家となるべくロースクールへと進学したバロットの大学生としての日々。突如キャンパスへと姿をあらわしたハンターとの邂逅。イースター・オフィスの新たな仲間となるらしきライムやアビゲイル(これから妹分となるらしい)との出会い。そして助けを求めて訪れた「楽園」ふたたび――。
そんな過去のシーケンスと並行で描かれる現在進行形のバロットは、その間の成長に加えて独自の能力ゆえにクインテット相手に無敵の強さを誇る。このヒロインのチート感が最高に痛快だ~。
いやぁ、もうおもしろいったらありゃしない。最高すぎる。
もう九巻まで出ているので、まだ半分にも達していないけれど、このシリーズは絶対に再読したくなること必至だから、ぜんぶ紙で買いそろえようかって気がしてきた。
(Mar. 20, 2025)
マルドゥック・アノニマス3
冲方丁/ハヤカワ文庫JA/Kindle
前の巻がほぼ全編ヴィランの話だったので、このシリーズはこれからどうなってしまうんだろうとやや心配していたら、この第三巻で物語は無事主役側に復帰。
冒頭からバロットの進級祝いのためにイースター・オフィスの面々が集まり、彼女の新たな門出を祝うというハートウォーミングなエピソードが描かれる。
その後、ハンター率いるクインテットの躍進に危機感をおぼえたウフコックに同調する形で、イースターが都市の有力者をつのって反撃に出るという展開に。
ウフコックの潜入捜査を知らないハンターたちは、内部事情に通じた行政側からの反撃を受けて窮地に陥る……かと思わせて、そこはスーパーヴィラン。そんな簡単にはやられるわけがない。
イースターたちの計画はあえなくとん挫し、チームは甚大な被害を負う。そして敵に追い詰められ、(文字通り)地下に潜って身を隠したウフコックは、ついには囚われの身となり、ガス室へと……。
そう、シリーズ序章で描かれたウフコックがガス室で死刑になるのを待っているシーン。僕が勝手にこのシリーズの最終巻で描かれると思いこんでいたあの場面に、はやくもこの第三巻で物語が追いついてしまったのだった。なんてこった!
そして物語は前巻の最後のシーンへとつながる。その部屋へと姿をあらわしたバロットとウフコックの再会から始まる圧倒的で感動的なラスト!
いやぁ、最高だった。こんなに盛りあがるとは思わなかった。
僕はそろそろ冲方丁を自分にとって特別な作家のリストに加えてもいいんじゃないかって気がしてきた。
(Mar. 15, 2025)
ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短篇29
ジェイ・ルービン編/新潮社
英米文学科の出身者なもので、ペンギン・ブックスのオレンジ色の表紙を見ると、どうにもノスタルジーをそそられてしまう。この本はジャケ買いせずにいられなかった。
ということで、村上春樹の英語版の翻訳家にして、日本文学教授であるアメリカ人、ジェイ・ルービンがペンギン・ブックスから依頼されて編纂した日本文学の短編小説アンソロジーの逆輸入版。村上春樹氏によるボリュームたっぷりの序文つき。
アメリカ人の紹介で日本文学に接するというのも変なものだけれど、日本人のくせに日本文学に疎い者としては、いい機会だという思いもあった。
ただ、序文で春樹氏も書いているように、これがけっこう癖のあるセレクションになっている。
日本文学の全体像を紹介するという趣旨ならば、太宰治や大江健三郎らが収録されていないのは不適切だろう。それどころか、ページ数の都合か、出版社の大人の事情か知らないけれど、この日本版では英語版に収録されている夏目漱石や谷崎潤一郎の作品が割愛されてしまっているから、なおさらだ。
日本文学のアンソロジーに、夏目漱石が入っていないとかあり得る?
願わくば英語版に収録された作品をすべて読みたかった。まぁ、おかげでこれまで読んだことのなかった作家の作品をいろいろ読めて勉強にはなりましたが。
一方で、やっぱ日本文学って苦手だなぁと思わせるような作品もちらほら。
正直なところ、切腹シーンの詳細な描写が数ページに渡ってつづく三島由紀夫の『憂国』とかは、この先もう二度と読まないで済ませたい。
死んで花実が咲くものか。僕にはやっぱり死の美学はわからない。
(Mar. 08, 2025)