2016年1月の音楽
Index
- RAINBOW / エレファントカシマシ
- 記号として/'I' Novel / RADWIMPS
RAINBOW
エレファントカシマシ / CD+DVD / 2015
エレファントカシマシ、待ちに待った三年半ぶりのニュー・アルバム。
このアルバムについては、まずはそのインターバルの長さについて語らずにはいられない。
ほかのアーティストはいざ知らず、エレカシが三年半も新譜を出さないというのは、いまだかつてなかったことだから。
こりゃちょっとした事件ですよ、奥さん──とか思ってこれまでの最長記録を調べてみたところ、『東京の空』でエピックとの契約が切れて、次の『ココロに花を』が出るまでの二年三ヵ月が最長(たぶん)。つまり今回はおよそ二十年前のその記録を一気に1.5倍に伸ばしたことになる。
まぁ、その間に宮本の難聴による活動休止期間を挟んでいることを考えれば、そのインターバルを一概に長いとは言えないのかもしれない。世の中にはもっと長いあいだ作品を発表しないでいるアーティストがごまんといる。キャリア二十年を超えるベテランとなれば、なおさらのことだ。
そもそも、エレカシの場合、たんにアルバムが出てなかったってだけで、シングルはリリースしているし、ライヴだってやっている。活動を再開した復活の野音から2年と考えれば、ある意味ちょうどいい頃合いなのかもしれない。
とはいえ、長いこと二年周期に馴染んできたファンにとっては、三年半は、やはり長いわけです。復活後のシングルは、『あなたへ』をはじめとして、なんだかマイルドな作品ばかりだし、そこへきてこのインターバルの長さだ。さすがの宮本も、病気やなんかで創作意欲が衰えて、守りに入っているんじゃないか。そんないらぬ心配をしたくもなる。
そんなところへ、先の野音で先行公開されたのが、アルバムのタイトル・ナンバー『RAINBOW』だった。うぉーなんだこりゃ、カッコいー。その爆発的なパフォーマンスは、たった一曲でアルバムの到着を期待させるに十分だった。
はてさて。そんな会心の一曲をフィーチャーした新譜の出来やいかに?
──って、聴き始めてすぐに、一曲目の『3210』に驚く。ビートルズのサージェント・ペパーあたりを思い出させるサイケデリックなオーケストラ・サウンドによるファンファーレ。これがわずか1分たらずでさくっと終わってしまうのだった。
ええ、エレカシがいきなりインストのSEからスタート?──と思う間もなく、爆発的に『RAINBOW』が始まる。さらにはそのあとに名曲『ズレてる方がいい』がつづくという。このオープニングはもう問答無用。
とにかく、一曲目のインスト・ナンバー(のちにラスト・ナンバー『雨の日も風の日も』のイントロとして再び繰り返し鳴らされることになる)でみせたクラシカルな王道ロックへのアプローチ。これがこのアルバムの肝。これまでにも『明日への記憶』などで同じようなことをしているけれど、今回の作品では全編がそうしたヴィンテージ・テイストで貫かれている。ロックの歴史を踏まえて丁寧に作り込まれたそのロック・サウンドの豊かな響き。これこそ本作の最大の聴きどころだと思う。
個別に聴いたときにはそれほどインパクトはなかったシングル群も、そんなこのアルバムの音響のなかに置くと妙に収まりがよく思えるから不思議だ。奇をてらいすぎに思えた『TEKUMAKUMAYAKON』さえ、そのクイーン風な装いゆえに、まったく違和感なくその古典的な世界観のなかに溶け込んでいる。
あと、もうひとつこのアルバムで印象的なのが、これまでにない宮本のボーカルの表情の豊かさ。
難聴で活動を控えていたときにファルセットに目覚めた、みたいなことを言っていたけれど、このアルバムでは随所にそのファイルセットを織り交ぜつつ、これまでになく多彩な歌い方をしてみせている。僕は『シナリオどおり』を聴いて一瞬イエモンの吉井とか思ったし、『Under the Sky』ではスピッツの草野くんかと思った。エレカシ聴いてそんな風に思ったってだけで意外もいいところ。そんな宮本のボーカリゼーションの変化もこの新譜の聴きどころのひとつだ。
楽曲的なところでいえば、しっちゃかめっちゃかにアッパーなタイトル・トラックと、アルバム中でもっともポップな『永遠の旅人』を除くと、シングル以外の新曲──『昨日へ』、『なからん』、『雨の日も風の日も』など──はどれもかなり地味なのだけれど、それらの地味さ加減がウェル・メイドなサウンドやボーカル・スタイルの多彩さとほどよくあいまって──なおかつそれらがポップなシングル群にまざりあうことによって──非常にバラエティ豊かでバランスのとれた味わいが生まれている。
──というか、シングル群の耳あたりのよさをもの足りなく思っていた者としては、そうした地味な──いいかたを変えれば、リスナーに媚びない──新曲群にこそ、強く惹かれるものを感じていたりもする。
まぁ、ここ二、三作のつねで、アルバム収録曲の過半数がシングルだから、なかなか繰り返して何度も聴くには厳しいけれど(悪いけど最近のシングルはポップすぎて簡単に飽きてしまうのです)、それでもこのアルバムの充実感には決して否定できないものがある。ほんと、いい作品だと思う。
とはいえ……というか、だからこそ。こんな素晴らしいアルバムを作れるのだからこそ。次こそはぜひこの調子で全曲新曲の新作を。そう願ってやみません。
(Jan 06, 2016)
記号として
'I' Novel / RADWIMPS / CD Single / 2015
RADWIMPSのドラマー、山口智史がフォーカル・ジストニアという病気により、無期限の活動休止を発表したのは昨年9月のことだった。
山口くんの病気は、演奏中に手足が思うように動かせなくなってしまうという神経性のものとのこと。スタジオ・ミュージシャンならばまだしも、ライヴ活動をしているミュージシャンにとっては深刻な問題なのは想像にかたくない。完治するたぐいのものなのかどうかわからないけれど、一日も早く回復して戻ってこれるよう、陰ながら祈っています。
このシングルについては、そんな発表があったあと初の作品でもあるので、山口くんが参加しているのかどうか、気になるところなんだけれど、クレジットには参加ミュージシャンの名前が明記されていないし、もとより音を聴いてわかるほどの耳は持っていないので、詳細は不明。
ただし三曲目の『お風呂あがりの』、これだけはドラムレスのアコースティック・ナンバーなので、あきらかに山口くんが抜けたあとの、残りのメンバー三人による演奏だろう。RADWIMPSのカップリング曲には昔からよくあるタイプの、カジュアルで力の抜けた、おまけのようなナンバーだけれど、そういう意味では、これが今回のシングルでは最重要ナンバーな気さえする。
メインとなる両A面シングルの二曲は、最初の『記号として』がビート重めのファンキーなミクスチャー・ロックで、つづく『'I' Novel』(日本語にすると「私小説」?)は「小説にしたらせいぜい/まだ三行目あたりのこの人生」という、たまに聞くような人生論を野田君らしいレトリックで語り聞かせるポップ・ナンバー。
それぞれにポップな面とハードな面、RADWIMPSの両面性がはっきりと出た二曲ながら、そのうち、よりポップでかわいい『'I' Novel』よりも、『記号として』が先になっているところがおもしろい。普通のバンドならば絶対『'I' Novel』が先でしょう?
『五月の蠅/ラスト・バージン』のときもそうだったけれど、どう考えたって万人受けしそうな曲をあえて二番手に置いて、メッセージ的にも曖昧模糊としていてとりとめがない(それでいて確実に苦い)『記号として』をあえて頭に据えてみせる攻めの姿勢が、らしくていいと思う。
そういや、野田くん主演の映画『トイレのピエタ』の主題歌だったひとつ前のシングル『ピクニック』については、つい書かずに済ませてしまったけれど、あれはあれでいい曲だった。「希望のたぐいから一番/遠い場所で待ち合わせしたんだ」なんて歌詞、なかなか書けない。
(Jan 11, 2016)