2018年7月の音楽
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- Wake Up / エレファントカシマシ
Wake Up
エレファントカシマシ / 2018 / CD
全国四十七都道府県ツアーに紅白出演と、デビュー三十周年を祝いたおしたエレカシが新たなシーズンへ向けて第一歩を踏み出した注目のニュー・アルバム。
二年前のシングル『夢を追う旅人』から先行配信シングル『Easy Go』を含めたシングル曲とそのカップリングが六曲、タイトルナンバーの『Wake Up』ほかの新曲が六曲。計十二曲が収録されている。
このところの常で半分は知っている曲だから、新譜を聴いたって満足度があまり高くないのがネックだけれど、作品の質自体は高いと思う。なんたって近年の最重要曲『Easy Go』が収録されているのがなにより大事。
エレカシってスタジオ録音の音源よりもライヴがいいことのほうが多いんだけれど、この曲に関しては宮本がいまだライヴだとまともに歌いこなせていないので、このスタジオ・テイクのしっかりと歌えているバージョンがなおさら最高に思える。五十を過ぎてからこんなに高速でノイジーでパンキッシュな曲が書けるのって尋常じゃないと思う。
これであとは宮本がライヴでもっとうまく歌えれば最強なのに。しかしなんで自分で書いた曲をあそこまで歌えないかな。そこだけがいつまでたっても残念で仕方ない。まぁ、ファンとしてはそこんところの駄目さ加減が愛おしかったりもするんだけれど。いつの日か生で完璧な『Easy Go』を聴ける日がくるのを待ち望んでいます。
とにかくこの曲と『RESTART』という昨今のシングルでは最高の強度を誇るロック・ナンバーが一緒に収録されている一方で、『夢を追う旅人』のようなキャッチーなシングルや、『風と共に』や『今を歌え』のような優しいバラードが一緒に並んでいる。『神様俺を』のようなエレカシ初のレゲエ・ナンバーもある(あまりレゲエっぽくないけど)。先日のツアーを観ても思ったことだけれど、この振り幅の広さ、バラエティの豊かさが今回のアルバムではとても印象的。
あと『旅立ちの朝』『いつもの顔で』『オレを生きる』という新曲が三曲ならんだラストがいい。ここんところには、どことなくEMI期を思い出させるテイストがあって、ぐっとくる。とくに『オレを生きる』はあのころの無骨な宮本っぽさが濃厚で、個人的には最高のラスト・ナンバーだと思う。
もうひとつ印象的だったのは『旅立ちの朝』のサウンド・スケールの大きさ。
基本エレカシの音ってどうしてもライヴハウスが最適で、スタジアムの規模で鳴らすのは無理があるってイメージが強いのだけれど、この曲からはエレカシの作品では初めてスタジアムで鳴らしても遜色なく聴けそうな印象を受けた。
今回のアルバムでは全曲に村山☆潤がプロデュースでクレジットされている。ムラジュンのプロデュースって、彼自身の好みかエンジニアリングの問題か知らないけれど、なぜだか音は厚いのに芯が軽いイメージがあって、洋楽ファンの僕にはもの足りなく感じることが多い。そんな彼が全編的に絡んだ今回のアルバムは、あ、なるほどムラジュン印って感触が強いのだけれど、それでも『Easy Go』と『旅立ちの朝』は文句なし。この二曲に関しては本当にいい仕事をしてくれている。
いやしかし、やっぱ『Easy Go』がいいです。聴いてるとやみくもに力が湧いてくる。エレカシの曲をこんなに繰り返し聴いたのって本当にひさしぶりだ。
(Jul 31. 2018)