2016年2月の音楽

Index

  1. Blackstar / David Bowie
  2. Not To Disappear / Daughter

Blackstar

David Bowie / CD / 2016

Blackstar

 遺作となってしまったデヴィッド・ボウイの最新作。
 このアルバムのなにが素晴らしいかって、とにかくその音。
 噂によると、アルバムの制作にあたってデヴィッド・ボウイは新進気鋭のジャズ・ミュージシャンを呼び集めて、非ロックなるものを作ろうとしたんだという。
 そう聞いていたものだから、とうぜん聴くまでは、いわゆる「ジャジーな音」が出てくるのかと思っていた。
 ところがどっこい。ここで鳴っている音は、まぎれもなくロックだった。それも旧来の意味でのそれではなく、いまという時代にぴったりと沿った現在進行形の音楽としての。
 そりゃ確かにロックの象徴たるべきディストーション・ギターはそれほど鳴っていない。それでもしっかりとロックを感じてしまうのは、そのビート認識の鋭さゆえだ。
 そう、このアルバムでは、レディオヘッドがスタジオにこもって緻密な作業で築きあげた昨今の音楽に通じる音が鳴っている。まったく同じとは言わないけれど、僕には極めて近いスタンスの音に感じられる。そのストイックで無駄のない音作りは、ディアンジェロの最新作にも通じると思う。
 デヴィッド・ボウイという人は今という時代にふさわしい音楽を、コンピュータに頼ることなく、優れたテクニックを持ったジャズ畑のミュージシャンの力を借りることで──いわば人力で──実現させてみせた。そのことに僕は大いなる感銘をうけた。
 ロックの黎明期を築き上げたレジェンドのひとりが、そのキャリアに満足することなく、死の直前にしてなおアグレッシヴに音楽と向きあって、こんなに素晴らしい作品を残してみせたという事実に感動しないでいられようかって話で。
 デヴィッド・ボウイという人が最後の最後まで前を向くことをやめなかった類まれなるアーティストであったことを証明する名盤。
(Feb 27, 2016)

Not To Disappear

Daughter / 2016 / CD

not to disapper

 予想外に素晴らしい出来だったドーターのセカンド・アルバム。
 僕は彼女たちのファーストを「ほの暗い」と表現したけれど、あれが夕暮れどきの暗さだったとしたら、今作ではどっぷりと日が暮れた感じ。ロックは夜のイメージと切っても切り離せない音楽だと思うので、そういう意味ではじつに正統的に進化した印象がある。
 アレンジはより複雑になり、音作りの上でも様々な音を取り入れていて、とてもスリー・ピース・バンドとは思えない凝った音作りになっている。最初に聴いたときはちょっと機械に頼り過ぎかなと思ったけれど、いやいや、そんなことなし。より綿密に音を積み重ねて、以前より重厚さを増したそのサウンドやよし。前作が水彩画だったとしたら、今作は油絵のよう。見事に進化を遂げてくれました。いやぁ、文句なしにカッコいい。
 前作ではまだボーカルのエレナ嬢の声の魅力を前面に出そうとしているような印象があったけれど、今作では彼女の声も演奏の一部であるってくらいに、ボーカルの比重も変わってきていると思う。そんなところにもバンドとしての成長と自信を感じる。
 僕は彼女たちのファーストには、似たイメージの The xx やウォーペイントほどには盛り上がれなかったのだけれど、この二枚目で両者に肩を並べたというか、こと二枚目だけに限って比較するならば、いっきに抜き去ったといってしまいたくなるくらいの充実感がある。
 いやぁ、不覚にもリリースになったのを知らずに、Apple Musicで見つけて聴いたアルバムだったのだけれど、あまりによかったのでCDで買いなおさずにはいられなかった。アナログ盤でも欲しいくらい。それくらいのお気に入り。まだまだ一年が始まったばかりにもかかわらず、すでに今年の僕のベスト5入り確実な一枚。
(Feb 27, 2016)