2020年のコンサート
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- エレファントカシマシ @ 東京国際フォーラム・ホールA (Jan 4, 2020)
エレファントカシマシ
新春ライブ2020/2020年1月4日(土)/東京国際フォーラム・ホールA
去年の新春ライブから一年ぶりとなるエレカシのライブ。
このところ野音はチケットが取れなくてあたりまえになってしまったし、去年は宮本のソロがあってエレカシがほとんど活動していなかったこともあって、じつに一年ぶりということになった。
ファンになってから一年もエレカシを生で観なかったのって、たぶん宮本が難聴をわずらったとき以来二度目だ。まあ、オハラで宮本の弾き語りを観ているので、実際には一年ぶりってほどのインターバルは感じなかったけれど。
まあ、なんにしろ宮本のソロよりエレカシがいいよねって。この日の東京国際フォーラムに集まった大半の人がそう思ったに違いない。
宮本のソロが悪いとはいわないけれど、やはりエレカシの宮本こそが本当の宮本。ミック・ジャガーのソロではストーンズほどには盛り上がれないのと一緒。エレカシこそが宮本の真骨頂。エレカシのステージには、そう感じさせてくれる安心感がある。
どんなに宮本のソロでのバック・メンバーが上手かろうと、何十年って歴史を重ねてきたバンドの楽曲郡とアンサンブルの味わいにはかなわない。宮本浩次というボーカリストの魅力を最大限に引き出せるのはエレカシだよなぁって、この日のステージを観ながらしみじみと思った。
もうひとつ、この日のステージを観て思ったのが、ヒラマミキオという人がいかにエレカシのバンド・サウンドに大きな安定感を与えていたかってこと。
というのも、この日のステージにはなんとミッキーがいなかったから。かわりに山本幹宗という人がギタリストとして加わっていた。
おいおいおい、ミッキー抜きのエレカシ観るのっていつ以来だよ?
『MASTERPIECE』のツアーではフジイケンジがギターを弾いたと聞いているけれど、僕個人はつまらない理由でそのツアーを観ていないし、そのほかのギタリストはとんと記憶にないので、おそらくミッキー以外の人がギターで加わったエレカシを観るのって、僕にとってはこの十何年で初めてのことなんじゃないかと思う。
調べてみたら、ミッキーが初めてエレカシのステージに登場したのが2008年の『STARTING OVER』リリース後の渋公だから、それからかれこれ十二年になる。そのほとんどのステージで石くんのとなりではヒラマミキオがギターを弾いていた。
キーボードは蔦谷くんから村☆ジュンへと引き継がれ、ときには細海魚さんやサニーさんがかわりを務めることがあっても、ギターはいつでもミッキーだった。
おかげでいつのまにか僕がエレカシの音として思い描くイメージは、ミッキーのギター抜きでは考えられなくなっていた。ミッキー不在のこの日のエレカシの音を聴いて、僕はそのことに気がついた。
やっぱ違うんですよ、ギタリストがひとり替わっただけでバンドの印象が。
今回のヤマモトカンジという人が比較的ラフなギターを弾く――そういう意味ではエレカシ本来のイメージに近い――ギタリストだったので、なおさらミッキーの不在が強調された印象があった。
ミッキーはもとより安定感のある綺麗なギターを弾くギタリストだし、宮本をはじめとするバンド・メンバーと長いこと苦楽をともにしてきただけあって、ぴたりと息があっていた。宮本の破天荒さを笑って受け止めて、バンドの音に一本筋の通った安定感をもたらしていた。
それと比べてしまうと、やはり初登場のカンジ君は様子を見ながら手探りで演奏している感じが否めなかった。もとよりエレカシは技術的には問題の多いバンドだし、あいかわらず宮本の暴走も激しいし。この日は大半の曲に金原千恵子さん率いる弦楽四重奏が加わっていたこともあって、なおさらアンサンブルには難しいところがあったんだろう。お疲れさま。
ということで、この日のエレカシはひさびさに微妙なアンバランスさを感じさせる演奏となっていた。
でもまぁ、それはそれでまたこのバンドの持ち味かなと思う。よくもわるくも毎回どこかがちょっとずつ違う。三十年以上に渡ってそのライブに通いつづけているのに、いまだまるで飽きることがないのは、そういうバンドのまとまらなさゆえなのだろうから。
なにはともあれ、十年以上の長きにわたっておなじみだったミッキーがいないのはどうにもにさびしかった。なんで今回不在だったのかわからないけれど、また次のツアーでは彼のギターが聴けたらいいなと思っている。もしも宮本のソロの都合で仕事がなかったせいで、愛想をつかされたなんていうだったら悲しすぎるから。
以上、閑話休題。
【SET LIST】
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さて、昨年につづき今年の新春ライブでも僕らはいい席に恵まれた。今回は前から八列目。去年は席こそもっと前だったけれど、すみっこでストリングス・チームがまったく見えなかったのに対して、今年は金原さんたちと村山☆潤が真正面にいて、ちゃんと全員が視野に納まる位置だった(僕のとなりにいたうちの奥さんは金原さんが見えなかったらしい。ごめん)。おかげでストリングスの音がビビッドなのがとてもよかった。『昔の侍』のイントロなどは過去最高の迫力だった。
この日のライブで「やっぱりエレカシはいいよなぁ」と思わせたのは、セットリストのよさもあったと思う。
最近の代表曲である『Easy Go』や『RAINBOW』など――楽曲はハードで最高だけれど、喉への負担が大きすぎて、宮本がちゃんと歌えない曲――がこの日は温存されて、ボーカリスト宮本浩次の魅力が最大限に生きるタイプの曲ばかりが選ばれていた印象だった。
そうそう、みんなが大好きな宮本の歌って、やっぱこういうのだよなと思わせた(まあ、『悪魔メフィスト』みたいに、なんで毎回こうなっちゃうのかなって曲もありましたが)。
個人的にはひさびさに『旅』が聴けたのが嬉しかった。『真冬のロマンチック』からの「冬の歌」三連発はとても味わい深かったし、『未来の生命体』と『旅立ちの朝』がつづいたところには意外な洋楽テイストがあふれていて、これまでにないロック・バンドとしての懐の深さを感じさせた。
あと、今回のライブで個人的におもしろかったのが、通路を挟んで僕の右隣にいた女の子の熱狂ぶりがものすごかったこと。とくに第二部に入って、『RESTART』、『ガストロンジャー』、『ズレてる方がいい』などが連発したあたりがすごかった。曲が始まるごとに興奮のあまり、両の手のひらを天に向けて、元気玉を作らんばかりの勢いだった。あれくらい熱狂できたら本気で楽しいんだろうなぁって思った。いやはや、とても微笑ましかった。
この日のライブでもっともエレカシらしさ――というか宮本らしさ――を感じさせたのがそんな第二部の最後の部分。
本当は『今宵の月のように』で終わる予定だったんだと思うのだけれど、宮本がきまぐれを起こして、すぐにつづけてアコギの弾き語りで『やさしさ』を歌いだした。
お~、アコギの『やさしさ』は超レア!――とか思っていたら、ワンコーラス歌い終わらないうちに中断。「やっぱみんなで演奏しよう」と仲間たちに問いかけて、あらためていつものアレンジ+村☆ジュンのオルガン+宮本のアコギというスタイルで演奏し直してみせた。
まあ、アコギはワンコーラスだけで弾くのをやめてしまったけれど、それでもこれまでにないアレンジの『やさしさ』はとても味わい深くてよかった。村☆ジュンのオルガンもとても心に沁みました。
このあとつづけて演奏された『ファイティングマン』もあきらかに予定外。なぜって、その時点でセイちゃんはベースを置いて帰ろうとしていたから。石くんのギターもいつもみたいにビシッとチューニングが決まっていなかったし、いまいち締まりがない感じになってしまっていて、ちょっと笑えた。でもまあ、そういう突発的な宮本の暴走っぷりが見られるのもエレカシのライブならではの楽しみだったりする。
ということで、そのあとあらためて再登場して、金原さんらも含めた出演者全員で演奏されたアンコールの〆は『友達がいるのさ』。ひさびさのエレカシとの再会を締めくくる意味でも最高のラスト・ナンバーだった。
今年も宮本のソロ活動が中心の一年になってしまいそうだけれど、せめてもう一度くらいはエレカシのライブをみたいとせつに思うよ。
(Jan. 26, 2020)
【追記】まさかこんなことを書いたあとにパンデミックでエレカシどころかライブ自体がまったく観れなくなろうとは……。