2019年のコンサート
Index
- エレファントカシマシ @ 日本武道館 (Jan 18, 2019)
- チューン・ヤーズ @ 渋谷WWW X (Feb 21, 2019)
- コートニー・バーネット @ TSUTAYA O-EAST (Mar 8, 2019)
- リッキー・リー・ジョーンズ @ オーチャードホール (May 17, 2019)
- ジーザス&メリー・チェイン @ Studio Coast (May 19, 2019)
- RADWIMPS @ ZOZOマリンスタジアム (June 22, 2019)
- FUJI ROCK FESTIVAL '19 @ 苗場スキー場 (Jul 28, 2019)
- オハラ☆ブレイク'19夏 @ 猪苗代湖畔 (Aug 11, 2019)
- SUMMER SONIC 2019 @ マリンスタジアム&幕張メッセ (Aug 17, 2019)
- The Birthday @ Zepp DiverCity TOKYO (Oct 10, 2019)
- ずっと真夜中でいいのに。 @ Zepp Tokyo (Oct 23, 2019)
- BUMP OF CHICKEN @ 東京ドーム (Nov 3, 2019)
- U2 @ さいたまスーパーアリーナ (Dec 5, 2019)
- ソウル・フラワー・ユニオン @ 下北沢GARDEN (Dec 21, 2019)
エレファントカシマシ
新春ライブ2019/2019年1月18日(金)/日本武道館
新春恒例のエレカシ武道館。今年は年明け最初の週末に大阪城ホールの2デイズがあって、東京公演はそれから十日遅れての平日二日間だった。一昨年の三十周年記念ライブも大阪だったし、最近はなんだか大阪びいきだな。大阪のほうが乗りがいいという噂だから、やる側もそのほうが楽しいんでしょうかね。
さて、この日の僕らの席はアリーナの5列目。それだけ聞くととてもいい席のようだけれど、席番号は1番と2番。つまり左手のいちばん隅っこ。
おかげさまでステージを真横から眺める形になって、ステージの視野がやたらと狭かった。バンド・メンバーのうち、トミは頭がかろうじて見える程度。金原さん率いる弦楽四重奏の方々にいたっては、まったく見えなかった(最後のメンバー紹介で初めて四人だったことがわかった)。左手の花道に宮本が出てきたときだけは、とても近くで宮本の姿を拝むことができたけれど、そういうシーンはせいぜい二、三度。
まぁ、真横を向いて観ているせいで、おのずから対角線上にある一、二階席の様子が視界に入るので、普段とはまた違った臨場感はあった。ステージを見ながらにして、同時にステージ上から見えているだろう観客席の風景の一端をのぞき見られるという点では、なかなかおもしろい席でした。
あと、これは席のよしあしに関係するのかわからないけれど、今回の武道館は音がよかった。いや、音──というよりはボーカルの通り、でしょうかね。宮本のボーカルがくっきりはっきり、とてもクリアに聴こえた。セットリストがポップな曲中心のメジャー感の高いものだったこともあり、ボーカリスト宮本浩次の魅力を堪能したいって人には最高のコンサートだったように思う。
今年の新年一発目は『脱コミュニケーション』。エレカシにとっては代表曲というほどの曲ではないと思うんだけれど、ちょっと前にも一曲目に演奏されていたし(調べたら三年前の東京国際フォーラムでの新春ライブ)、なぜだか宮本にとっては大事な曲らしい。第一部ラストは『悪魔メフィスト』だったし――ひさびさに同期モノ入りで演奏は超ラウド、宮本の歌もメタメタですごかった──全体的にポップなセットリストだったので、最初と最後くらいはハードに決めたかったのかもしれない。
二曲目が最新作のタイトル・トラック『Wake Up』、三曲目がストリングス付きの新春ライブでは定番の『新しい季節へキミと』、四曲目『星の砂』と、そこからしばらくはそういう感じで、新旧・硬軟とりまぜたオーソドックスな選曲がつづいた。
この日の演奏で印象的だったのは、曲の最後で静かにフェードアウトして終わる曲が多かったこと。
エレカシって曲の最後は宮本がジャンプしたりして、ジャカジャカジャーン、ジャン!──って締めかたをする印象が強いのだけれど、この日は演奏の最後の一音がすーっと消えていくまで待って、そのまま静かに終わる曲がけっこうあった。第二部の『so many people』でも「かりそめでいい喜びを」という締めのフレーズを最後にビシっと終わったし、そういうのって、いままでになかったので(ないのは俺の記憶だけ?)、とても新鮮だった。
ガチャガチャ騒ぎ立てずにそっと終わる。そういうところに、これまでにない落ち着いた大人の風格のようなものを感じた──ような気がする。ほんのちょっとだけ。
【SET LIST】
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あと『絆』だったかで、ミッキーのアコギと村ジュンのピアノ(この日もこのふたりのサポートは鉄板)を中心に、金原チームのストリングスを絡めたアレンジがレコーディング作品とは違う感触だったのも新鮮だった。エレカシって基本的にライヴでもレコーディング時のアレンジに忠実なので、ちょっとした変化でもすごくレア度が高く感じる。
そういう意味ではバンドのメンバー三人をステージから下げて、宮本、ミッキー、村ジュン、金原さん、笠原さんの五人だけで演奏された『風に吹かれて』はあきらかに新機軸だったし、これから始まる宮本ソロ活動への序曲的な意味合いにおいても重要な気がした。
この日はボーカルの通りのよさと金原四重奏のおかげもあって、それらの曲や『マボロシ』などの、普段はそれほど好みでないバラードがとても沁みた。
とはいえ、やはり基本的にはバラードよりもアッパーな曲のほうが好きなので、この日の個人的なクライマックスは、カラフルな楽曲が並ぶなか、飾らないシンプルなギターサウンドが気持ちよかった『too file life』(大好きな曲なのに不覚にもイントロで「なにこの曲?」とか思ってしまった)、問題だらけの『珍奇男』、そして『今をかきならせ』──特別好きな曲でもないのに、この日はなぜだか最高にカッコよかった──の三曲が並んだところ。
なかでも『珍奇男』のレア度はすごかった。途中でエレキに持ち替えたら機材トラブルでギターの音が出なかったので、仕方なくハンドマイクで歌いだす宮本。
石くんとミッキーのギターで音は足りていたから、そのまま最後まで行ってもよさそうなものなのだけれど、やはりこの曲は自分でギターをかき鳴らさないと気がすまないのか、宮本は途中で曲を打ち切り、ふたたびアコギを手にして最初から歌いなおすことにした。
珍しい展開に観客も喜んで、アコギ・パートでは手拍子が自然発生的に始まる。でもそれが宮本にはしっくりこなかったらしく、やめるようにしぐさで促したりして。
結局、二度目の『珍奇男』も演奏はけっこうぐだぐだで、出来はいまいちもいいところだったけれど、それでもこの曲を宮本がハンドマイクで歌ったり、手拍子がついたりってところも含めて、珍奇度では史上最高レベルの『珍奇男』でした。まぁ、宮本にとってはこれが生放送されちゃったのは痛恨だろうけど。いやはや、とてもおもしろいものを見せていただきました。
駄目だったといえば、第二部の一発目で演奏された『Easy Go』は歌い出しが安定していたので、もしや過去最高の出来かと期待させておいて、途中からいつもどおり息切れ気味になって、やはりこの日もいまいち。いつになったら宮本さんはこの名曲を歌いこなせるようになるんですかね。困ったもんだ。
演出はライティングだけで特別なものはなにもなかった(──と思う。なにかあっても僕の席からは見えなかったので)。そんな中でカッコいいなと思ったのは、『かけだす男』で上下から多数のスポットライトが白い柱のように乱立したシーン。そこまでビジュアル的な演出が特になかったぶん、あのライティングのクールさにはぐっときました。
あと、最初に書いたように、この日は観客席が視界に入る席だったためもあり、お客さんたちのリアクションがいつもより印象的だった。
椎名林檎さんの影響なのか、いままでになく「ミヤジ~」ってコールが多かった気がしたし、『俺たちの明日』で「十代、二十代、三十代」の歌詞のときにお客さんが宮本のアクションに合わせて、指を一本、二本、三本と立てて腕を振るのも、へー、みんなこんなことやってんだって思った。
そうそう、『風と共に』ではなぜだか宮本がタオルで顔をぬぐうほどに大泣きしていたのだけれど──僕には宮本の泣きどころがいまいちよくわからない──それを見てもらい泣きした女性たちのすすり泣きが聞こえてきたのにも驚いた。ほろりと涙をこぼすどころじゃなく、ぐすぐすいっているんですもん。それもひとりふたりじゃないし。そこまで共感して泣けちゃうってすごいなぁと思いました。僕にはそこまで入りこめない。
ということで、涙あり、笑いありの三時間。今年もエレカシの新春ライブ──というにはちょっと時期的に遅かったけれど──をたっぷりと楽しませてもらいました。サンキュー、エレカシ。今年もどうぞよろしく。
それにしても、気がつけば、『ガストロンジャー』も『RAINBOW』も『奴隷天国』もやってないんだよな。それでこの充実感ってのがすごい。
いまのエレカシって最強かもしれない。
(Jan. 27, 2019)
Tune-Yards
2019年2月21日(水)/渋谷WWW X
去年のフジ・ロックでもっとも注目していたにもかかわらず、エレカシと時間がかぶっていたため、わずか二曲しか観れなかったチューン・ヤーズが、あれから一年もしないうちに再来日してくれた。しかも今回は単独公演。なぜこのタイミングで再び? もはや俺のための来日としか思えない(自意識過剰)。
まぁ、理由はともあれ、改めて彼女たちのステージをフルで観られて本当によかった。その内容は期待にたがわぬ素晴らしいものだった。
わずか半年ばかりのインターバルだから、内容的にはフジロックのステージとそれほど変わっていないんだろうけれど、開放的な野外テントと都会のライブハウスというロケーションの違いもあってか、印象はけっこう違った。
フジロックのステージでは最新作『I Can Feel You Creep Into My Private Life』のジャ写をバックに、あのアルバムの収録曲でスタートしたので、いかにも新譜のお披露目ライヴって感じだったけれど、この日は小さなライブハウスってこともあってか、ステージ装飾はゼロ。でもって一曲目はセカンド・アルバムの『Gangsta』。
にわかファンだから断定はできないけれど、おそらく彼女たちの代表曲といっていい一曲でしょう。いわばストーンズなら『サティスファクション』、エレカシなら『ファイティングマン』でステージが始まるのに近いイメージ(違う?)。
そういう曲で始まったという時点で、ステージの印象はとうぜん異なる。最終的にもっとも多く演奏されたのは新譜の曲だったけれど、でもそうやってオープニングからバンドの代名詞的な曲を持ってきたことで、この日のステージはフジロックのときよりも、よりバンドとしての立ち位置がはっきりしたものにになっていたように思う。新しい曲中心でお届けしていますが、これが過去から変わらぬ私たちです、みたいな。
あと、イメージの違いは主役のメリル・ガーバスの衣装の違いも大きかったかもしれない。フジロックのときは暑かったせいか、オーガニックなネグリジェみたいなワンピース姿て、飾らないにもほどがあるって感じだったけれど、この日はハイネックの長袖白のアンダーに暗色の半袖ワンピースを重ねて、白い細めのマフラーみたいなのを巻いていて、前回よりはドレッシーな印象だった。大都会・東京でのライヴだから、ちょっと着飾ってきてくれたのかもしれない。
バンドは前回同様、ベーシストのネイト・ブレナーが右手にいて、左手にはサポートのドラマーの計三名。ふたりの男性リズム隊にサポートされながら、メリル嬢が足元でなにやらのエフェクター類を操りながら、自らのボーカルをオーバーダビングしたり、キーボードを弾いたりで音を足してゆく。マイクもなぜだか二本つかっている。あと、またにウクレレを鳴らしてみたり、ジミヘンが歯でギターを弾くみたいな感じでウクレレに歌いかけたり(?)。あれはウクレレのボディに自分の声を反響させてんですかね? それともウクレレに仕込んだマイクに声を拾わせているとか? なんかいまいち意図がよくわからなかった。
【SET LIST】
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そのウクレレやマイク二本の使い分けのみならず、とにかくチューン・ヤーズの演奏は電子楽器の知識がほとんどない僕には、いったいどういう仕組みで鳴っているのかわからない音がやたらと多かった。どうやってこんな演奏しているのって。ある種マジックを見ている感じに近い気がする。その不思議さが魅力のひとつ。
でも、そんな風に電子楽器がなければできない音楽であるにもかかわらず、チューン・ヤーズの音楽はとてもフィジカルだ。機械がないと成り立たない音楽でありながら、音のそこここに、とても強くヒューマン・タッチを感じさせる。電子的でありながら肉体的。そんなある種の矛盾が自然体で音楽に宿っている。そこが彼女たちの音楽のいちばんの特徴だと思う。
まぁ、そんな風に強い肉体性を獲得しているのは、音楽の中心にダンス・ビートがあるのに加えて、メリル・ガーバスという女性がボーカリストとして優れた力量を持っているからこそでもある。
ほんとね、メリルさん、めちゃくちゃ歌うまいです。僕は新譜での彼女のボーカルを初めて聞いたときに、それを男性黒人のファルセットだと勘違いしてしまったくらいなので。そんな彼女のボーカリストとしての力量が生で映えるのも当然だった。
まるで黒人のように歌える白人女性が、その歌声をサンプラーを駆使して自在に増幅してみせるんだから、もうそのボーカリゼーションのすごさは推して知るべし。
時代は違うけれど、飛び抜けた表現力を持った白人女性ボーカリスト(しかも決してルックスが売りではない)という点で、僕は彼女にジャニス・ジョプリンに通じるものを感じた。まぁ、本格的にブルースを歌ったジャニスと比較するのは違うだろうっていわれるかもしれない。それでも僕はそこにアメリカの白人女性ボーカリストとしての一筋の流れをかいま見た。
あとで確認したところ、この日のセットリストはフジロックよりたった三曲多いだけだった。正味一時間半と短いステージだったけれど、それでも本当に内容が濃かったので、それだけで十分に満足だった。
いやぁ、ほんと実にいいライヴでした。次にいつ観られるかはわからないけれど、機会があったら絶対にまた観たいと思う。
(Apr. 07, 2019)
コートニー・バーネット
2019年3月8日(金)/TSUTAYA O-EAST
これくらい生で聴かなきゃって思わせるミュージシャンって個人的にはとても珍しい。
僕は基本的に出不精で人混み嫌いな厭世家なので、音楽は日々の生活を満たしてくれるレコーディング音源があればよくて、ライヴは無理してまで行かなくてもいいやって男なんだけれど、それでもそこそこライヴ会場に足を運んでいるのは、ときには生で聴かないと伝わらないものが確実にあるから。この日観たコートニー・バーネットはその極みのような人だった。
彼女はまぎれもないギター・ヒーロー――もとい、ヒロインだった。
もともとも僕は彼女のアルバムを聴いてもその実力に気づけず、その後にたまたまYouTubeで観たステージの映像にぶっ飛んで彼女のファンになったわけで。映像でさえすごさが伝わるステージを実際に生で観たらどうかは推して知るべし。もうただひたすら最高のロックンロールが目の前で鳴っていた。
この日のオープニング・ナンバーだった『Hopefulessness』も、セカンド・アルバムの一曲目として聴いたときにはずいぶんと地味だなぁと思っていたけれど、生で聴くとちっとも地味じゃない――というか、曲自体はやっぱ地味なんだけれど、サウンド的には旨みたっぷりだった。
ギター、ベース、ドラムのスリー・ピース・バンドで、ここまでギターが前に出た、刺激的なサウンドを聴かせてくれるバンドって、最近じゃ珍しいんじゃないだろうか。少なくても僕の知っている範囲ではほかに思いつかない。去年観たフラテリスも同じ編成で、ジョン・フラテリはとてもギターが上手い人だと思ったけれど、それでもこんなにギターの音がビビッドに伝わってはこなかった。
【SET LIST】
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いやはや、とにかくコートニー・バーネットのギターが素晴らしい。技術がどうしたというよりは、出てくる音の気持ちよさがはんぱない。フィンガー・ピッキングで彼女が鳴らすギターの音色には、古典的なロック・サウンドとは違う、オルタナティヴなディストーション・サウンドの魅力がこれでもかと詰まっている。そして彼女のギターを中心としたバンドのバランスが最高にいい。僕には彼女たちが鳴らしている音楽は、現時点で聴けるギター・ロックのひとつの理想形のように思える。
セットリストは最新作であるセカンドの曲がいちばん多かったけれど、でもそこだけに偏ることなく、メジャー・デビュー前の曲も多く取り上げられていて、自身がこれまでのキャリアで作ってきた音楽をバランスよくセレクトした感じ。おかげでインディー時代の聴きこみが甘い僕にとっては、なじみのない曲も多かったんだけれど、それでも曲の好き嫌いを抜きにして、そのサウンドだけでじゅうぶんに酔える。そういうコンサートだった。
なまじコートニー・バーネットという人が、ぱっと見、ごくふつうの女の子だから――まぁ、もう三十すぎているから、女の子でもないかもしれないけど――その見た目の平凡さとギターを鳴らしている姿のカリスマ性とのギャップがすごい。だっていないよ、いまどき白いTシャツ一枚でステージに出てくる人。80年代のスプリングスティーンじゃあるまいし。しかも女性だし。
ここまで飾り気のない女の子が、あんなに魅力的なギターを弾いてみせるのがすごい。「こんなの観たことない」感がはんぱない。
左利きだってのもあって、僕は彼女のステージを観ていて、もしかしてカート・コヴァーンってこんなだったのかもしれないなと思った。ニルヴァーナのようなシリアスさはないけれど、それでもギター・バンドとしての存在感には、あのバンドを連想してしまうほどのスペシャル感があった。僕がこれまでに観た史上最高のスリー・ピース・バンドはこのバンドだといってしまってもいいんじゃないかってくらい。
惜しむらくは帰宅してレコーディング音源を聴いても、あの生での感動がよみがえらないこと。こんなにライヴとスタジオ盤とのギャップが大きなアーティストも珍しいと思う。本当に観られるならばこの先、何度でも観たい。そんな魅惑のステージだった。
すでに今年のフジロックでの再来日が決まっているのに、出演日がキュアーと違うのが返すがえすも残念だ。
もしもキュアーが出ていなかったら、今年は彼女を観るためだけに苗場に足を運んでいたかもしれない――それくらいコートニー・バーネットは素敵だった。
(May. 03, 2019)
リッキー・リー・ジョーンズ
Japan Tour 2019/2019年5月17日(金)/オーチャードホール
九年ぶりにリッキー・リー・ジョーンズの来日公演を観た。
前回クアトロで観たときには、その素晴らしさに感動して、今後は逃さず観にゆこうと心に誓ったはずなのに、その後三度も来日公演があったにもかかわらず、すべてスルーしてしまったのは、ひとえに娘の受験期に突入して進学資金に不安を抱えていたがゆえ。ようやく娘を大学卒業まで養える目処が立ったので――まぁ、僕の稼ぎが増えたわけではなくて、たんに彼女が国立大学に入学してくれたおかげなんだけれど――ひさびさに観ることができました。わが最愛の女性ミュージシャン、リッキー・リー・ジョーンズのライヴ・パフォーマンス。
この人のライヴがおもしろいのは、毎回来日ごとにバンドの編成が違うこと。前回同様、今回もスリー・ピース・バンドだったけれど、ふつうにギター、ベース、ドラムの三点セットだった前回と違い、今回はベーシストがいなかった。つまりドラムにギター二本という変則的な編成。
で、今回のバンドの要だったのが、新譜『Kicks』にもプロデューサーとして名を連ねているドラムのマイク・ディロンという人。
この人が単なるドラマーではなく、ヴィブラフォン奏者も兼ねていたのが今回のポイント。それもふつうに両方を演奏できるというレベルではなく、ドラムセットとヴィブラフォンにあいだを縦横無尽に行き来して、一曲のなかで両方を併用するというトリッキーな技術の持ち主。この人がいることでバンドの音作りがスリー・ピースとは思えないほど表現力豊かになっていた。初期の名曲郡を引き立てる上で、これほど有能なバンド・メンバーもなかなかいないんじゃないかと思いました。すごいです、この人。
今回のバンドはこの人の存在抜きにして語れないというのは、演出上でも最初から提示されていた。なんたって一曲目がサポートの二人のみによるインストゥルメンタルの演奏なんだから(曲名は不明)。ソロのシンガー・ソング・ライターのライヴで、主役抜きで一曲目が演奏されるなんてこと、そうそうなかろう。それだけでも今回ディロン氏がどれだけ重要視されていたかわかるってものだ。
このオープニング曲では最初ヴィブラフォンを演奏していたディロン氏が途中からドラムセットへ移動してドラムを叩き出したことで、この人の超絶マルチ・プレーヤーぶりがあきらかになる演出もおもしろかった。演奏も素敵でした。
もちろんギタリストのクリス・ハインズという人もリッキー・リー女史のお眼鏡にかなうのだから技術的には文句なしなんでしょう(遠くてよくわからなかった)。そんな二人にバックを任せての今回の来日公演だ。これが悪かろうはずがない。
今回は新譜のカバー・アルバム『Kicks』のリリース直後――しかも日本では本国アメリカよりも一ヶ月近く前倒ししての先行リリース――だということで、このアルバムの収録曲中心になるのかと思っていたら、ライヴの中心はその新譜よりもむしろファースト、セカンドだった。ツアー自体がデビュー四十周年をうたっていたので、それも当然だったのかもしれない。
【SET LIST】
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この日リッキー・リー・ジョーンズがステージに登場して、最初に聴かせてくれたのが『Weasel And The White Boys Cool』。でもって、そこからつづけてファーストの名曲を連発。中盤に新譜の曲を二曲だけ聴かせてくれたけれど、カバーはそれだけ(『Lonely People』がとてもいい曲だった)。あと不覚にもタイトルがわからない曲が二曲あった(セットリストはネットで拾ってきました)。それ以外はほとんどが初期の曲だった。
リッキー・リー女史は前半はずっとアコギで、『Bad Company』だけエレキを弾いていた。まだ始まってそうたたないうちに『Chuck E's in Love』をやってくれちゃったので、おいおいずいんぶんと早いなと思っていたら、そのあとの『I Wasn't Here』(タイトルがわからなかったうちのひとつ)からはずっとピアノ。でもってラストの『Love Is Gonna Bring Us Back Alive』でもう一度ギター(もしかしてエレキ?)を弾いて、でもっておしまい。今回もアンコールはなかった。
賞味一時間半だろうか。決して長いコンサートではなかったけれど、それでもすごくひさしぶりにこの人の音楽を生で聴かせてもらって、なんかもうすごく幸せだった。
リッキー・リー・ジョーンズって歌が上手いのは当然として、とにかく、いっつもバンドとしての音の鳴らし方が素晴らしいんですよ。たとえばセカンドのタイトル曲とか、レコーディング作品ではホーンが入っているけれど、この日はその曲をスリー・ピース・バンドで、ちゃんとそのバージョンと遜色のない感触で聴かせてくれる。それってかなりマジカルなことだと思う。ほんと、セカンドの代表曲三曲をつづけて聴かせてくれた終盤は、やはり圧巻だった。
今回は個人的なフェイバリット・ナンバーのひとつである『The Horses』を聴けたのも嬉しかった。まぁ、この日はピアノ・バージョンで、僕が大好きなあの曲のリズム感がちょっと変わってしまっていたけれど、それでもこの曲は本当に好き。浸みまくる。
そういえば、この曲は娘さんが誕生したときに作ったんだって紹介してました(ヒアリングが怪しいので推定)。そうそう、わが子に捧げた歌だからこそ、「あなたが馬から落ちたら、私が助けあげてあげるから」ってサビのフレーズがなおさら感動的なんだよねぇ。収録されているアルバム『Flying Cowboy』が出たのが1989年だから、その娘さんも今年でもう三十過ぎなのか。いやぁ、なんかこの人の音楽ももうずいぶんと長いこと聴いてるんだなぁ……って感慨深かった。
今回の公演で残念なことがあるとしたら、それはちょっと席が遠かったこと(一階席のうしろの隅のほう)。ケチって一般発売を待って失敗した。やっぱこの人の演奏はなるべく近くで、その演奏を間近で確認できるところで見たほうが絶対に楽しい。次の機会には迷うことなく先行発売でチケット取ろうと思いました。
今後の来日公演は全部観るぞ~。
――とかいいつつ、根っからの出不精がたたって、いずれまた観逃すことになりそうな予感大。
(Jun. 30, 2019)
ジーザス&メリー・チェイン
2019年5月19日(日)/Studio Coast
うちの奥さんがファンなので、一緒にジーザス&メリー・チェインを観にいった。
場所は新木場。このバンドを生で観るのはこれが三回目――といっても、初回はまったく記憶にないし、前回観たのはサマソニで、幼い子供と一緒だったので、ステージからは遠く離れていたため、あまりちゃんと観た気がしなかった。なので今回が初見も同然という印象。
僕はファンを名乗れるほどにはこのバンドの音楽を聴きこんでいないので、どれだけ楽しめるのか疑問だったのだけれど、そこはまったく問題なし。全編これ、ノイジーでメジャー感たっぷりなロックンロールの金太郎飴状態。タイトルがわからない曲ばかりでもまったく問題なく楽しく聴けた。
ステージはカラフルなライティングの中に、スポットライトなしでメンバーのシルエットが浮かび上がる、これぞシューゲイザーという印象のもの。
顔さえよくわからないので、ボーカルがリード兄弟の弟のジム・リードで、おそらく右手のギタリストが髪型からして兄のウィリアムだろうって推測するしかない。あとはドラム、ベース、ギターがもう一本で、たぶん五人編成。スポットライトなし&スモークもくもくなせいで、いまいちよくわからなかった。
【SET LIST】
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観ていて印象的だったのは、このバンドの音楽がとてもシンプルなこと。ドコドコとしたストレートな8ビートにディストーション・ギター。ポップなメロディ。それが七色のライティングのなかで鳴り響いている。なんか、ただそれだけって感じで、とてもわかりやすい。これ、きっと一曲でも芯にささったら、もう恍惚としちゃうくらい気持ちいいのかもしれないなぁと思った。
僕自身は正直なところ、ストーン・ローゼズのように、もうちょっとダンサブルなグルーヴを持ったバンドのほうが好きなので――だからジザメリでいちばん好きな曲は『Reverance』(この日は本編ラストで演奏された)――残念ながらそこまで夢中になりきれなかったのだけれど、九十年代からまったく変わらないんじゃないかってそのステージには、その時代に二十代を過ごした僕にとってなんとも懐かしい感触があって、それなりに感じるところがあった。
あと、今回のツアーは去年出た新譜『Damage and Joy』のツアーだったらしく、あとでセットリストを確認したら、そのアルバムの曲が五曲と、もっとも多く演奏されていた(アルバムが出てからけっこう経っているので、いまさらそのツアーをやっていると思っていなかった)。次点が『Automatic』と『Honey's Dead』の四曲で、その二枚は僕にとってはこのバンドでもっとも馴染みの深いアルバムだったから、新譜をちゃんと聴き込んでいたら、もっと盛り上がれたのかなぁと思ってしまった。しまった、ちゃんと予習しておくべきだったか……と思うもあとの祭り……。
まぁでも、僕なりのレベルで楽しく観ることができたからよし。うちの奥さんは大喜びだったから、またいずれ観る機会もあるでしょう。そんときはもうちょっと聴きこんでゆこう。
(Jul. 06, 2019)
RADWIMPS
ANTI ANTI GENERATION TOUR 2019 / 2019年6月22日(土)/ZOZOマリンスタジアム
三年半ぶりにRADWIMPSを観た。
これまでにフェス以外でラッドを観たのは全部ひとりだったけれど、今回は娘が一緒。二十歳になったわが子に拒否られることなく一緒にライヴに行ってもらえるんだから、俺って恵まれているよなぁと思う。
さて、それはともかく。
最新作『ANTI ANTI GENERATION』を引っさげての今回のツアーで、ラッドとしては初の単独スタジアム公演だったというこの日のオープニング・ナンバーは『NEVER EVER ENDER』だった。個人的には、え、この曲からなのか、という意外性のある一曲目。
調べてみたら、ひとつ前のアリーナ公演ではアルバムの曲順どおりに『tazuna』で始まったようなのだけれど、スタジアムの大観衆(三万七千人だそうだ)を前にしてオープニングを飾るには、あのしんみりとしたバラードじゃふさわしくないと思ったんだろう。この日はその曲をカットして、よりアッパーな曲を最初に持ってきた。
僕自身はこの曲の八十年代風のシンセの音があまり好きではなくて、いまいち愛着がないものだから、これが一曲目なのには意表をつかれたのだけれど、でも生で聴くとこれがとてもノリがよい曲で、最初から盛り上がりはばっちり。
二曲目は『ギミギミック』。
今回のライヴで個人的にショックだったのは、何曲かタイトルが思い出せない曲があったことで、なかでもこの曲と『'I' Novel』のタイトルが出てこなかったのは特に驚きだった。
だって『ギミギミック』は飽きるほど聴いた『おかずのごはん』の収録曲だよ?
『'I' Novel』は最近のシングルだよ?
なんで忘れるかな、俺。自分で自分が信じられない。
終わりのほうで「昔の曲」といって紹介された珠玉のバラード『ブレス』もタイトルが思い出せなかったけれど(そんな昔の曲でもないよね)、さほど愛着のないその曲よりも、大好きなアルバムの収録曲やシングル曲(文章まで書いている)のタイトルを忘れていた自分がちょっと心配になってしまった。老化が激しすぎる。
でもまあ、タイトルがわからなかったから、その分だけ気になって集中して聴いたせいかもしれないけれど、これらの曲はどれもとても素晴らしかった。この日のフェイバリット・ナンバーはこの三曲。とくに『'I' Novel』には『俺色スカイ』あたりの初期の曲に通じるテイストがあって、あぁ、野田くんってあのころからここまでちゃんと地続きなんだなぁって思った。
『カタルシスト』と『万歳千唱』という新譜でもっとも盛り上がりそうなアッパー・チューンを序盤に持ってきたセットリストにも意外性があった。もうこれやっちゃうのかって、ちょっともったいなく思ったくらい。
そのあとの『謎謎』はこの日いちばんのレア・ナンバー(個人的見解)。このかわいい曲をいまさら聴くとは思わなかった。
【SET LIST】
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つづく『I I U』と『そっけない』はアリーナの中央に設けられたサブ・ステージでの演奏。このステージはぐーんと持ち上がる構造になっていて、『I I U』は三人がそれぞれ、そのへりに腰かけて足をたらしてしていた。『そっけない』では野田くんひとりが残ってキーボードを弾くという――しかも今度はそのキーボードのセットだけがせりあがるという――演出があった。
この日はその出島と本ステージをつなぐ花道が四角形をしていて、左右どちらからでも移動できる仕組みになっていた(映像で観たU2のライヴを思い出した)。
で、つづく『洗脳』と『PAPARAZZI』ではその花道を野田くんがのし歩いて一周しながらのパフォーマンス。特に後者はパパラッチというテーマにあわせて、野田くんのあとをカメラが追いかけてゆくという演出がなされていた。
どちらも新曲のなかではもっとも過激なメッセージを持った曲なので、否応なくその歌の世界に引き込まれるような迫力があった。
『おしゃかさま』から『いいんですか?』までの本編のクライマックスとなる部分は、あいだにスローな歌いだしの『DRAMA GRAND PREX』(個人的には大好きな一曲)や新曲の『TIE TONGUE』、『IKIJIBIKI』、前述のバラード『ブレス』を挟んだことで、過去のそれに比べてやや加速度が足りない感じがしたけれど、でも逆にいえば、いつもとは一風変わった味わいになっていて、それはそれで悪くなかった。
『TIE TONGUE』ではゲストとして MIYACHI が出演。『IKIJIBIKI』では ONE OK ROCK の Taka が歌ったパートがそのままテープで再現されていた(――と思う。「みんなで歌おう」って合唱曲だったせいか、よく聴き取れなかった)。今回のツアーではあいみょんがゲスト参加した『泣き出しそうだよ』がセットリストから漏れているのが残念なところだ。
本編のラストを飾ったのは、もちろん『正解』――だろうと思っていたら、そうではなく。新海誠の新作『天気の子』の挿入曲『愛にできることはまだあるかい』だった。
いまだフル音源が未発表の曲で、ちゃんと聴くのはこれが初めてだったから、さすがに慣れ親しんだ曲のような感動は味わえなかったけれど、それでも曲自体はなるほど野田くんらしいテイストだったし、なによりスタジアム全体を使ったライティングが美しかった。
で、アンコールの一曲目が『正解』だったのだけれど、これはやや失敗した感じ。歌詞をスクリーンに映し出して、みんなで歌ってと大合唱を期待したものの、なまじ映像がある曲だけに、全体的にどれだけ歌っていいのやらというオーディエンスのためらいが感じられる歌いっぷりで、いちばんの聞かせどころである最後の「はじめ」のひとことがいまいち力ない感じになってしまって残念だった。
まあ、そこでやや腰砕けになった分はラストナンバーの『DADA』で一気に頂点まで盛り上げてこの日のライヴは締め。
終焉後にひとりステージに残った野田くんから「僕らから最後にプレゼントがあります。カウントダウンしてもらっていいですか?」ってなMCがあり、「5、4、3、2、1……」でドーンと花火が上がるおまけつき。幕張の夏の風物詩をひと足はやく堪能して幕となった。
今回のライヴで全体的に印象的だったのは野田くんのボーカルの通りのよさ。僕は彼のボーカルって特別に上手いって思ったことがないんだけれど、それでもこの日のライヴではボーカリストとしての存在感が抜群だった。だてに十五年も活動してきちゃいないなと思いました。
惜しむらくは終了後の規制退場で足止めをくらい、スタジアム退出後も雑踏を避けようとして無駄なルートをたどる羽目になって、駅のそばのステーキハウスで一杯目のビールにありつくまでに一時間以上かかってしまったこと。
あぁ、あれがなければ最高の夜だったのに……。
父、面目なし。
(Jul. 07, 2019)
FUJI ROCK FESTIVAL '19
2019年7月28日(日)/苗場スキー場
ザ・キュアー、三度目のフジロック出演!――ということで、初の二年連続、四度目のフジロックへと行ってきた。今回も二十四時間の弾丸バスツアー。
しかし、今回のフジロックのラインナップ、残念ながら個人的には過去最低だった。なんたって観たいバンドがキュアーしかないんだから。
一日目、二日目にはトム・ヨーク、ソウル・フラワー・ユニオン、ずっと真夜中でいいのに。、コートニー・バーネット、アジカン、デス・キャブ・フォー・キューティーなどなど、観たいバンドがたくさんあったのに、僕が行った最終日はほぼゼロ。かろうじて引っかかるジェイムズ・ブレイクはキュアーの裏だから観れなかったし、結果的にキュアーの二時間のステージを観るためだけに苗場で十五時間を過ごすことになってしまった。なんだかなあ……。
ほんと、この日のラインナップはへんてこりんで、グリーン・ステージのトップバッターはモンゴルのバンドだし――通りすがりにちら見したけど、なんかすごかった――そのほかにもキューバやイタリアやタイなど、ワールドワイドなバンドが集まっていた。もしかしたらワールド・ミュージックを聴かせる日という企画だったのかもしれない。でもキュアーのようなUKロックを象徴するようなバンドがヘッドライナーの日をそんなラインナップで固めなくても……。
キュアーは観たいけれど、それ以外には興味がないって。――この日は僕以外にもそういうリスナーがたくさんいたんじゃないかと思う。
思うに、前回のキュアーは動員がいまいちだったという噂なので、観客の分散を防ぐために、ウドーがわざとキュアーが観たいオーディエンスだけが集まるようなラインナップにしたんじゃないかって疑いたくなるレベルだった。
でもまあ、それでも観たかったSFUとずとまよとコートニーは、YouTube配信でフル・ステージを観られたのが救い。とくに二日目は過酷な大雨だったというので、自宅でエアコンの効いた涼しい部屋にいながらにして、ずとまよとコートニーのステージがフルに観られたのはとてもラッキーだった。でもって、ずとまよが最高だった。ぜひ生で観たくなって、単独公演のチケットを取ってしまったくらい。十月のその公演がいまからもう楽しみでしょうがない。
さて、ということで今回のフジロックは、とくに観たいステージがないものだから、バスが苗場に到着した午前十時から、キュアーが登場する午後九時までの十一時間、いかに時間をつぶすかが問題だった。
悩んだ挙句に観たのが、スカート、渋さ知らずオーケストラ、Superfly、ブルース・ザ・ブッチャー with うつみようこ、の四組だけ。気がつけば、国内アーティストしか観ていない。基本フジロックは洋楽フェスなのに。なんとなく不幸な気分。
そのほかにも Phony PPL というヒップホップ・バンドのステージをちょっとだけ観たり、ユザーンのステージをちら見したりもしたけれど、前者は午後三時くらいで、すでに疲れていたので乗り切れずに離脱。その前のユザーンは小さな屋内ステージで中に入れず、外で見るのは前日の雨で足元がぬかるんでいて居心地が悪い上に、陽射しの暑さの二重苦で挫折。そのあとの近藤等則さんのバンドにも興味があったんだけれど、ユザーンと同じステージだったので、ここじゃ駄目だと思ってパス。キュアーだけはちゃんと観ようと思っていたので、一時間前からモッシュピットで待機していたから、その待ち時間にステージがあったヴィンス・ステイプルスや平沢進は観られず。ということで、結局ちゃんと観たのは五組に終わってしまった。過去最高に不毛なフジロックだった。
この日最初に観たのは、レッドマーキーのスカート。澤部渡という人の体形から、岡本体育やレキシのようなコミカルなステージを想像していたら――ってほどに岡本体育もよく知らないんだが――すごく正攻法のポップ・ソングを聴かせる人だった。僕の守備範囲で言えば、スピッツのフォロアー的な? うちの奥さんに言わせるとカジくん的ということになるらしい。僕にとっては毒が足りない感じで、積極的に聴こうとは思わないけれど、ライブはなかなかよかった。
次の渋さ知らずオーケストラ@フィールド・オブ・ヘヴンは、始まるなりいきなりの大音量に驚いた。管楽器隊をフィーチャーした大人数のバンドだけれど、出てくる音はジャズ的なストイックさゼロの迫力。こんなにでかい音を出すバンドとは思わなかった。
しかもステージにはサックス奏者を模した巨大あやつり人形――全長3メーターくらい? うちの奥さんからは「ジャンボ・マックス?」っていわれてました――がいる。オレンジ色のウィッグをつけた女性コーラス&ダンサーも三人いて、そのうちのいちばんスレンダーな人が大きなバナナのフィギュア二本を振り回しているのがすごく目立っていた。
とにかくやたらと大人数のバンドが一曲目からいきなりこれが最後の曲かってハイテンションをかましてくるのにびっくり。じつは渋さ知らずのステージはフルには観ていなくて、一曲目のあと離脱して、最後の二、三曲で戻ってきたんだけれど、それだけ聴いただけで十分に満足って濃厚さだった。すげーハイテンションでした。
演奏が終わったあとに「このまま新潟に滞在して来週の某のイベントに出ますから、ぜひ来てください」といっていたのもおもしろかった。
渋さ知らずのあとは Cafe de Paris というステージでユザーンと近藤等則を観るつもりが前述のとおりで果たせず。諦めてレッドマーキーまで帰ってくるも、すでに疲れていて立ったまま Phony PPL を観る気になれず。ということで、だらだらと移動して数時間を無駄にしたあと、次に観たのがグリーン・ステージの Superfly。
Superflyは歌詞に惹かれなくて聴いていないんだけれど、ツアーにはかつてのエレカシのプロデューサー蔦谷好位置がキーボーディストとして帯同しているようなので、蔦谷くんが観られるかもと期待して観ることにしたのでしたが。
残念ながらキーボードは蔦谷くんじゃなかった。でもギターが最近の宮本ソロにも参加している名越由紀夫氏だったので、まあいいかってそのままフルに観た。
いやしかし、越智志帆は歌が上手いですね。知ってはいたけれど、だだっぴろいグリーン・ステージに響き渡るその歌声には確かな説得力があった。スカート同様、好きになる人がいるのがよくわかる。あまりに気持ちよくて、ついうとうとしてしまいました。グリーン・ステージは座ったままで観られるのがいい。
そのあとつづけてグリーン・ステージでジェイソン・ムラーズを観ようかとも思ったんだけれど、そのまま同じ場所で座って一時間近くじっと待つのには耐えられず(基本的にじっとしていられない性分)。そろそろ日も陰るころで、キュアーの前に食事もしておきたかったから、ジプシー・アバロンへ移動して、blues.the-butcher-590213+うつみようこを観ることにした。
僕はブルース・ザ・ブッチャーというバンドをまったく知らなかったんだけれど、こんなにビンテージ感のあるブルースをやっているバンドが日本にもあるんすね。見ためは黒スーツ姿のお笑い芸人みたいなのに、出す音は本格的で、そのギャップに驚いた。とくにギターとブルース・ハープの音色が素晴らしい。もしかして生演奏じゃなくて昔のテープを聴かされてんのかと思ってしまったくらい。それくらいビンテージ感バリバリだった。
カバー曲ばかりでオリジナリティはゼロだったけれど、それでも一芸もここまで突き詰めれば立派な芸になるもんだなと感心しました。コーラスと一部メイン・ボーカルでゲスト参加したうつみようこさんがずっとセンターでギターを弾いていたのも新鮮だった。
ちなみに前日は史上最大級の大雨だったというので、この日も雨を覚悟していったのに、ここまでは雨知らず。三度目のフジロックにして一度も雨に降られないうちの奥さんの晴れ女っぷりはすさまじいなと思っていたら、さすがにここからちょっとだけ降られました。でも雨が降ったのはこのステージと次のキュアーの途中しばらくだけ。それだけでも十分にすごいついていると思った。晴れ女万歳。
さて、ということでそのあとがようやく本日のヘッドライナー、ザ・キュアー。予定時刻の一時間も前から駆けつけていたのに、開演が十分以上押したので、始まる前からいささか疲れ気味だった。
三度目の今回、もっとも印象的だったのは、ロバート・スミスがやたらと上機嫌だったこと。メンバーよりひと足遅れてステージに登場した時点ですでにニッコニコだった。
一曲目の定番『Plainsong』のイントロが鳴り響くなか、はにかむような微笑みを浮かべたまま、ステージの隅のほうを行ったりきたり。なんだかとてもかわいい。
前述したとおり、今回はキュアーのファン以外は誰も観に来ていないんじゃないかみたいなラインナップだったせいか、オーディエンスの数も前回よりも多かったんだろう。あとのインタビューで今回がよかったというようなことを言っていたし、喜んでもらえて何よりだった。
ご機嫌さんなロバート・スミスと並んで目を引いたのがベーシストのサイモン・ギャラップ。なんだか妙に若々しいなぁ……と思ったら。はて? あれ、もしかしてサイモン・ギャラップじゃない? いやいやいや、あきらかに違う。
えー、まさかいつの間にかベーシスト変わっちゃってる? サイモン・ギャラップ脱退?!――とショックを受けたのでしたが……。
あとで確認したところ、サイモンは個人的な事情により今回の来日公演に参加できなかったため、急遽、彼の息子であるエデン・ギャラップが代理でサポートを務めることになったんだそうだ。なるほど、言われてみればなんとなく似ている。しかし子供のころから慣れ親しんだ父親のバンドの曲とはいえ、代役で全曲弾けちゃうのがすごいな。
そういや、最初のほうのMCでロバート・スミスが「サイモンが……」というコメントがあったんだよね(リスニング能力が低すぎて理解できなかった)。あの時点でちゃんと説明があったのかもしれない。
ということで、今回のキュアーはサイモンの息子エデンを加えたイレギュラー編成でのステージだった。エデンくん、長年のバンド・メイトの息子ってことで、ロバート・スミスとも長いつきあいなんだろう。向かい合ってギターを弾く姿などにもサポート・メンバーらしからぬ親しみが感じられた。
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ロバート・スミスの上機嫌さとサイモン・ギャラップの不在と並んで、この日の三つ目のサプライズが、いまだかつてない公演時間の短さ。二時間半の特別枠が与えられていたのに、その時間に満たないで終わってしまった。
今回のキュアーのステージはジャスト二時間とこれまででもっとも短かった。選曲も『Disintegration』三十周年記念の流れを踏んだ『Last Dance』とか、映画の挿入曲『Burn』がレアなくらいで――この曲のイントロでロバート・スミスが妙な縦笛を吹いていたのもやたらとレア・シーンだった――あとはいたってオーソドックスな印象。オーソドックスというか正攻法というか(同じ意味?)。
とにかく今回はストロング・スタイルのキュアーを標準的なサイズに圧縮して観せるショーって感じだった。演出も過去二回ほどの過剰なボリュームじゃない分、キュアーの魅力がより凝縮されている感があった。
デビュー四十周年の記念ツアーってことで、ほとんどの曲で過去のMVやアートワークを踏襲した演出がなされていて、ビジュアル的にも目に鮮やかだった。もっとも好きなバンドの演奏を、華麗なビジュアルを背景にすぐ目の前で観られるのだから、これが幸せじゃないはずがないでしょう?
今回の二時間のショーを観ていてわかったのは、キュアーの曲がどれも僕にとってはジャストなビート感を持っていること。
とにかくどの曲もちゃんと踊れる。ポップでアッパーな曲は当然として、スローな曲、ダークな曲であっても、わけへだてなく身体を揺すぶってくる。このグルーヴこそが僕がキュアーをここまで好きな理由のひとつだなぁと思った。
終演後にロバート・スミスは今回も「See you again」といって帰っていった。今年リリースされるという噂の新譜のツアーで来年――今度はサイモン・ギャラップと一緒に――再来日してくれることを期待しよう。そしてどこでやるにせよ、ちゃんと客が集まることを祈ろう――。
ということで、今回のフジロックもキュアーを観ておしまい。正確にいうと、そのあと帰りのバスの出発時間が来るのを待つあいだに、G&Gミラー・オーケストラ――グリーン・ステージ×グレン・ミラー・オーケストラの略らしいです――というビッグ・バンドが、トータス松本をゲスト・ボーカルに迎えて、締めのステージでマーヴィン・ゲイの『Stubborn Kind Of Fellow』なんかを演奏しているのを遠巻きに眺めたりもしたんだけれど、気分的にはキュアーを観終わった時点で今回のフジ・ロックは終わったも同然だった。燃え尽きました。あぁ、疲れた。
東京オリンピックの都合で来年は8月開催だそうだけれど、これでもう当分は苗場にくることはないんじゃないかって気がする。
(Aug. 16, 2019)
オハラ☆ブレイク'19夏(三日目)
2019年8月11日(日)/猪苗代湖畔 天神浜オートキャンプ場
ソロ活動を始めた宮本浩次のライヴを観るため、猪苗代湖畔のキャンプ場で開かれる小規模の音楽フェス、オハラ☆ブレイクに行ってきた。
フェスとはいってもステージは三つで、砂浜に設置されたいちばん大きなステージでもたぶんサマソニのビーチ・ステージより小さい。参加者も弾き語りが中心で、バンドでの参加は佐野元春&ザ・ホーボー・キング・バンドと、キイチ・ビール&ザ・ホーリーティッツという若い子らだけだった。いちばん小さなステージには知らない人しか出ていなかった。
音楽だけでなくポップ・アートの展示なんかもあったようだけれど、どこにあるんだかよくわからなかった。会場内の飾りつけは学園祭のようだし、フェスのしおりも一色刷りの紙一枚。なんとも手作り感たっぷりのローカル・イベントという感じだった。まあ、そのぶんチケットも安かったからよし。
いやしかし、今年は夏フェスの厄年なのか、どこでもトラブル続出だった。
史上最大級の大雨に見舞われたフジロックの二日目に始まり、台風のせいでライジング・サンの初日が中止、同じ日のサマソニ大阪ではメイン・ステージの造営が間に合わずにキャンセル続出。サマソニ東京でも初日のビーチ・ステージが中止になった。このオハラ☆ブレイクも強風による倒木でステージが破損したとかで、初日が中止になっている。
さいわい僕らの観に行った最終日は快晴に恵まれたけれど――おかげで暑くてたまらなかった――そのかわりに出演者はトラブルだらけ。
二時からのステージに出演予定だった田島貴男は渋滞に巻き込まれ、開演時間に間に合わず。結局ヘッドライナーの宮本のあとに出演時間が変更されたため、帰りのバスの都合で僕らは観ないで帰ってしまった。
キイチ・ビール&ザ・ホーリーティッツはフロント・マンのキイチ・ビールくんが自律神経失調症とかで活動休止。かわりにコーラスの女の子がギター・ボーカルでセンターを務めるという異例のバンド編成になっていた。
ブラフマンのTOSHI-LOWとKOHKIに憂歌団のギタリスト内田勘太郎の三人で出演するはずだった『ブラフ団』は、内田さんが緊急入院したとかで、ふたりだけでの演奏だった(でもゲストで菅田将暉が登場! 大盛り上がり)。
まあ、そんなわけで出演者も大変そうだったこの日のイベント。あれこれ書いたけれど、僕らにとっては馴染みのない出演者が多かったので、ちゃんと観たのはおめあての佐野元春と宮本浩次だけ。この二組の出番を待つあいだ、石崎ひゅーいという人と尾崎豊の息子が一緒に出ているのをちょろっと観たり、キイチ・ビールやブラフ団の演奏にちょっと離れたところで耳を傾けたりしつつ、暑い一日を湖畔の木陰でだらだらと過ごしていた。トイレが少なかったので、あまりビールをがぶ飲みするわけにもいかず。フェス飯屋もおいしそうなところは、明るいうちから完売だって閉まっちゃうし。なかなか手持ち無沙汰で困った。
さて、そんなわけで午後5時まで待って、ようやくおめあての佐野元春&THE HOBO KING BANDが登場~。
サマソニのコヨーテ・バンドのときもそうだったけれど、この日も開演前にホーボー・キング・バンドのメンバー自身が出てきてチューニングを行い、その流れで軽いセッションに突入。開演時間を待つ僕らを楽しませてくれた。セッションを終えると「着替えてきます」といったん引っ込んで、全員それまでのラフなTシャツ姿から大変身。ビシッしたスーツ姿になって再登場してきた。暑いのにみなさん立派(長田さんは出てくるなり、さっさとスーツ脱いでたけど)。
メンバーは左から、Dr.Kyon、長田進さん、井上富雄さん、古田たかしさんという並び。あと、井上さんと古田さんに挟まれてパーカッションの人(スパム春日井さん?)がいた。主役の佐野さんは最後に遅れて登場。喝采を浴びる。
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ライブは『Please Don't Tell Me A Lie』というファースト・アルバムの曲からスタート。佐野さんのファーストをまともに聴いていない僕にとってはまったく馴染みのないロックンロール・ナンバーなので、新曲か、はたまたオールディーズのカバーかと思った。
でもそんな風に勘違いしてしまうのは、いまのホーボー・キング・バンドのサウンドがとてもビンテージ感が強いから。この日は『約束の橋』なんかもまったく新しいアレンジの、意図的に高揚感を抑えた演奏になっていたし、旧作をアレンジし直した去年の『自由の岸辺』あたりから、佐野さんのサウンド志向がどんどんシンプルでストイックになってきている気がする。で、それがカッコいい。
この日の演奏でとくに印象的だったのがドクター・キョンの鍵盤で、昔からそうだったのかよく知らないけれど、いま現在このホーボー・キング・バンドの肝は確実にこの人だと思う。同じメンツでのビルボード・トーキョーでの公演を観てうちの奥さん(鍵盤好き)が興奮した理由がよくわかった。
まあ、キョンのキーボードが前へ出て、長田さんのギターが引き気味になるバランスは、佐野さんの声量不足ゆえの必然なのかもとも思ったりもした。実際にキョンがギターを弾いて、ツイン・ギターとなった曲(どれだか忘れた)では分厚いギター・サウンドのせいでボーカルの通りが悪かったし。コヨーテ・バンドでは深沼くんとのツイン・ボーカル的なスタイルだからいいけれど、ホーボー・キング・バンドの場合は佐野さんひとりで乗り切るしかないので、結果的にボーカルを邪魔しないキーボード中心の音作りになっているのかなと思った。
ま、理由はともあれ、いまの佐野元春のバンド・サウンド、僕はけっこう好きです。声が出ない現実を受け入れて、無理せずに自然体で歌えるサウンドを追求した結果たどり着いたベスト・バランスの最新モードって感じ。髪を短くしたルックスもとても精悍だし、六十を過ぎたいまの佐野さんって、これまででもっともカッコいい気がする。
佐野さんのあと、同じステージでトリを飾ったのがソロでの出演となった宮本浩次。
佐野さんと宮本のあいだに隣のステージでは9ミリの菅原くんが出演していて、オハラではメインの二ステージの演奏時間が重ならないように配慮されているので、観ようと思えばそちらも観られたのだけれど、ソロの宮本を観るのはこれが初めてだから、なるべく近くで観ようと思って、そのまま同じ場所で待機した。つまり佐野さんと宮本のステージに待ち時間を合わせれば、合計三時間半以上立ちっぱなし。おかげですんげー疲れました。
この日の宮本については、登場したところからもう驚きの連続だった。
だって普通に考えたら、いつもの白シャツ黒パンツで出てくると思うじゃん、ソロでも?
ところがこの日の宮本くんは白いパンツにオフィシャル・グッズの黒Tシャツ――「宮本夏の散歩」と縦に書いてあるやつ――、黒のジャケットに白い中折れ帽という、これまでのライヴでは一度もなかったようなファッションで登場してきた。
思うに、この日は自分で車を運転して会場入りしたようだし、着替えるのも面倒なので、プライベートの格好そのままでステージに立ったのではないだろうか。エレカシではあり得ないその服装に、ソロ活動ならではの身軽さを感じた。こんな宮本を生で見られただけでも猪苗代湖までわざわざ来た甲斐があるかもって思った。
で、驚かすのは服装だけじゃない。一曲目の『俺たちの明日』で、歌い出しをやり直しまくって失笑を買う。
どうにもモニターの音がしっくりこなかったらしく、アコギで歌い始めてすぐやめて、もう一度やり直し。で、まだしっくりこなくてエレキに替えてみるも、これも納得がいかなくて、結局アコギに戻してやり直し。そんな感じで五回目くらいやり直してようやく――納得しきってはいないようだったけれど――歌い始めた。
まったく、どこの世界に一曲目からイントロ五回も歌いなおすやつがいるかって話で。本当に宮本浩次って人はおかしな人だ。おもしろすぎる。
まぁ、モニターに関しては、難聴発症以降エレカシではイヤモニを使っているので、普通の地べたに据え置きのモニターで演奏するのもひさしぶりだったんだろう。環境的にリハもできないんだろうし、ぶっつけ本番みたいなものだから、難しさはあったのかなと思う。
それにしてもねってくらいにこの日の宮本はギターをミスりまくり。おそらく一曲として間違えなかった曲がないんじゃないだろうか。とくにユーミンの『翳りゆく部屋』がひどかった。自作曲の場合は新曲でもあそこまで間違っていなかったから、やはり
本人も「小林武史さんから『宮本くんギター下手だよねぇ』っていわれて、『冬の花』のギターは全部差し替えられました」みたいな裏話を披露して笑いを誘っていた。
まあでも、宮本の場合、コードのミスは本当に多いんだけれど、その一方でギターのプレー自体には独特の味がある。とにかく荒くれでカッコいい。あれはもう天性の才能だよねぇ。そう以前からずっと思っている。要するに練習が足りないんだと思う。歌が素晴らしいだけに、ほんともったいない。もっとちゃんと練習して欲しい。
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とにかくこの日のステージはプロとしてはかなり恥ずかしい内容だった。宮本を知らない人にとっては、なんだこいつって出来だったんじゃなかろうか。
それでもそんな宮本を愛してやまないファンにとっては、そんな駄目さ加減も含めて、もう愛おしくて仕方ないって。そんなステージでもあった。そして、そういうファンに囲まれて、宮本も本当に楽しそうだった。ほんと、惚れちゃう女性がたくさんいるのわかる。宮本、チャーミングすぎる。
セットリストはソロで発表した全曲に、高橋一生に提供した『きみに会いたい』、あとエレカシの代表曲を数曲という内容。『解き放て、我らが新時代』では自分でコンピュータをいじくって、そのぎこちない所作で笑いを誘っていた。
レコーディング作品では歌謡曲テイストばりばり過ぎてちょっとなぁと思った『冬の花』とか、自分で歌うなら絶対にこんな曲書けないだろうと思った『きみに会いたい』とかも、ソロで弾き語りされると、ちゃんと宮本らしい曲になっていて、カッコよかったりする。
いまだ音源がリリースされていない新曲『Do You Remeber』も聴かせてくれた。横山健らのサポートを受けたと聞いて予想していた通りのパンク・ナンバー(この日初めて聴いた)。でもワン・コーラスだけの演奏だったのがちょい残念。
最後は『笑顔の未来へ』からエレカシのナンバー数曲をつづけて締め。
ラスト・ナンバーの『悲しみの果て』を歌い終えた宮本は、いったんステージを去ろうとしてからすぐに戻ってきて、一方的にアンコールだといって『風に吹かれて』を聴かせてくれた。
これまでに観たことがない宮本浩次のひとりっきりのステージは、それはそれはもう、とっても新鮮でおもしろかった。始まったときには明るかった空も、途中で陽が落ちて、終わるころには真っ暗になっていた。真っ黒な夜空に向けて光を放つライトに夏の虫が集まる。そんな野外ステージの環境もとても味があってよかった。
ただ、やっぱ洋楽ファンとしてはオハラはちょっともの足りない。今後よほど魅力的なラインナップが揃わない限り、これが最初で最後かなぁと思った。
(Sep. 01, 2019)
SUMMER SONIC 2019(二日目)
2019年8月17日(土)/ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ
フェス三昧の夏休み、最後に観たのは今年で二十周年ということで三日間開催となったサマソニの二日目。東京では三日間すべてのチケットが完売という大盛況だったらしい。
今回のサマソニ、僕はRADWIMPSと木村カエラとフォールズ、そのほかにもけっこう観たいアーティストがあったから二日目のチケットを取ったのだけれど、いざタイムテーブルが発表されてみれば、フォールズはラッドとまるかぶりで観られず。興味があったキャットフィッシュ&ザ・ボトルメンもヘッドライナーのレッチリの裏だからNG。マキシマム・ザ・ホルモンもカエラの裏。サンボマスターはラッドとレッチリの間だから、席を離れたくなくてスルー。
ということで、観たいバンドが半分も観られず。しかもラッドは先々月に観たツアーの縮小版みたいなセットリストで満足度がいまいち。カエラさんも十五周年の特別企画で代表曲をメドレーで演奏してくれちゃったのが僕的にはいまいち(普通に聴きたかった)。
ということで、終わってみれば、わざわざ行かなくてもよかったかなぁ……と思ってしまうような今回のサマソニ二十周年記念大会だった。
さて、この日のトップ・バッターはマリン・ステージの東京スカパラダイスオーケストラ。
いつもだと最初のアーティストはアリーナで観るのに、今回はスカパラの知名度からしてアリーナは混むと思ったので、最初から人混みに巻き込まれるのも嫌だったから、スタンドに上がってみた。そしたらこれがとても快適で。
そうそう、マリン・スタジアムのスタンドって、海風が吹き抜けて涼しくてとても気持ちがいいんでした(まぁ、陽が当たらない場所ならって条件付きだけれど)。
ということでスタンドに座って観ていると、そこからやはりお客さんが入ってくるくる。あっという間にアリーナの前方のブロックはぎっしり。マリンの一発目からこんなに客が入っているの、珍しいんじゃないだろうか。
スカパラはこの暑いのに全員スーツでびしっと決めて、パワフルな演奏でガンガン盛り上げていました。ただでさえ盛り上がっているところへ、ゲストでミスチルの桜井和寿が登場したりするんだから、そりゃオーディエンスは大喜び。今年のサマソニは最初から熱すぎた。
本当はスカパラを観たらスタジアムを離れて、あとはラッドが出る夕方までメッセで過ごそうかと思っていたんだけれど、スタンドが快適だったのと、次の10-FEETでもさぞや観客が盛り上がるんだろうなという興味から、ここで方針変更。この日はスタンドに腰を据えて、ここで観られるすべてのアーティストを観てしまおうってことになった。腰が悪いうちの奥さんにもそのほうが楽だし。
ということでその次は10-FEET。
スカパラと10-FEETとある程度リスナーがかぶるのかと思っていたけれど、そうではないらしく、上から見ていたらかなりの数の人たちが入れ替わっていた。
でもまぁ、10-FEETもさすが人気バンド。スカパラに負けない客の入り。でもってアリーナではあちらこちらで噂のサークル・モッシュが巻き起こる。ダイヴしたオーディエンスがステージ側で通路に下りて、外側の通路をぐるっと回って、てけてけとまたアリーナに戻ってゆく。なんか、そういうお客さんの動きを見ているのがおもしろくて、演奏そこのけでオーディエンスの動向を見守ってしまった。
10-FEET、3ピース・バンドなのにスタジアムの広さにまったく負けていないのがすごい。余裕しゃくしゃくな感じに感心した。だてに長いことやってないなと思いました。
そのまま次のマキシマム・ザ・ホルモンを観ようか、木村カエラに移動すべきか、すんごく悩んだんだけれど――だってホルモンのライヴ、すごそうじゃん?――、カエラの前日のセットリストをちら見したところ、大好きな『STARs』をやっていたので、これはやっぱ生で聴いとかないとならないだろう――アルバム全部聴いているカエラと一枚も聴いたことがないホルモン、どっちを観るべきか、考えるまでもないでしょう?――と結論して、奥さんをその場に残し、10-FEETのライブの途中で席を立って、ひとりでメッセに向かったのでしたが……。
でも結果からいうとこれが失敗。先に書いたようにこの日の木村カエラのセットリストはメインがメドレーで、『STARs』はその中の一曲でさわりしかやんなかった。メドレー以外にやったのが『リルラリルハ』『いちご』『Butterfly』『BEAT』『Magic Music』の五曲のみって……。個人的にはちょっと残念なセットリストだった。
あと、カエラさんがやたらと合唱を誘うのも、五十男にはちょっとこそばゆい。おそらくその点は僕だけの問題じゃなかったと思う。サマソニのオーディエンスは木村カエラ的にはアウェイ感があったんじゃないかって気がする。その点も観ていて(おそらくやっている側にとっても?)残念な感があった。
でもまぁ、初めて生で観た木村カエラは、遠めに見てもとても細くてキュートでした。さすが元モデル。とても二児の母とは思えない。
そういや、コートニー・バーネットを観たときに、いまさら白いTシャツでステージに立つ人も珍しいとか書いちゃったけれど、この日のカエラさんも白Tでした。なんでも流行ってるらしいですね、白T。知らなかった。失礼しました、バーネットさん。
木村カエラが終わったあと、マウンテン・ステージでインターラプターズという女性ボーカルのスカ・バンドを横目に見て、スタジアムに戻った。その帰り道の陽射しの暑かったこと……。もう今日は二度とマリンには戻れないなと思いました。
さて、再びスタジアムに舞い戻り、次は西側のスタンドに腰を据えて――最初は東側の二階スタンドにいたんだけれど、そのままそこにいると西日に苦しみそうだったので西側へ移動した――ロバート・グラスパーのステージを観た。
ロバート・グラスパーってグラミーで最優秀R&Bアルバム賞とか取っているはずだけれど、でも日本での知名度はいまいちだよね? マリンでちゃんと客が入るのかな?――と思っていたら、案の定。この時間帯のマリン、信じられないくらいガラガラでした。
なんでこの人がこのステージ?――と不思議に思いながら観ていたら、二、三曲目くらいから知った顔のラッパーが登場。あれ、この人ってもしや?
――と思ってウェブでアーティスト紹介を確認すると、アーティスト名に "RBERT GLASPER featuring CHRIS DAVE, DERRICK HODGE and YASIIN BEY" とある。
やっぱ。ヤシン・ベイって、モス・デフじゃん!
ここで疑問が氷解。ロバート・グラスパーだけならばともかく、モス・デフ(【注釈】ラッパーにして『16ブロック』でブルース・ウィリスと共演した人気俳優)も一緒ならば合わせ技でマリンもありか。でもやっぱ、最後までアリーナはガラガラでしたが……。
まあ、映像を使った演出もなかったし、音楽至上主義的なその演奏を観ていて、やっぱりこの手のアーティストにスタジアムはないかなと思った。
動員的にはソニック・ステージとかのほうが適度に人が入って盛り上がったんじゃないかと思うんだけれど、本人たちが野外にこだわったんですかね? よくわからない。
その次にマリンに登場したのは、四半世紀近いキャリアを誇るカリフォルニアのパンク・バンド、ランシド。
このバンド、初めて聴いたけれど、見事なまでに明快なパンクでおもしろかった。ガイコツがスーツを着た背景幕からいかにもパンク。でも見ためはすっかりおじさんで(外国のバンドマンって、見た目を気にしてストイックに節制したりしないよねぇ……)、メイン・ボーカルの人はたくさんタトゥー入れてるくせして、学生みたいな白いボタンダウンの半袖シャツを着ているし。リード・ギターの人はスキンヘッドにZZトップみたいなあごひげもじゃもじゃだし。そんな見た目のアンバランスさがおかしかった。
で、このバンドでもあたりまえのようにサークル・モッシュが起こってた。きょうのマリンは本当にこんなバンドばっかだな(ロバート・グラスパーの例外感がはんぱない)。すごいな。こういうの好きななら、たまんなく楽しいんだろうなと思いました。
まあ、僕自身の趣味ではないけれど、こういう明るいパンク(ポジパンっていうんですかね?)って部外者として聴いていても楽しめるからいい。頭つかわないでもわかりあえちゃう感じが単純に気持ちいい。
次は狼さん、MAN WITH THE MISSION の出番。
このバンドも初めてちゃんと聴いたけれど、売れてるの、すごくよくわかった。曲はスピード感たっぷりでアッパーでキャッチーだし、演奏力も文句なし。狼のマスクをかぶった色物バンドかと思っていたら、予想外に本格派だった。
しかもこの狼さんたち、国内・海外問わず音楽業界でも人気者で、交友関係がやたらと広いらしい。いやぁ、ゲストが出てくる、出てくる。
10-FEETのタクマを筆頭に、ゼブラヘッド、フォール・アウト・ボーイ、そしてスカパラの面々と、今回のサマソニ出演者がぞくぞくと登場。最後はとびっきりのサプライズで、布袋寅泰・大先生まで登場ときた~。
布袋さんのトレードマークである白黒ジグザグの幾何学模様がスクリーンに出てきた演出には大笑いしてしまった。
いやぁ、今回のサマソニでもっともインパクトがあったのはこのバンドかもしれない。僕が日常的に聴くタイプのバンドではないけれど、とりあえず、すごかった。
そういや、狼さん、歌っているのに口が動いていないのは不自然だからてことなのか、スクリーンに映し出されるのは、ボーカルの狼の頭のアップだけで、口から下は映さないようにしていた。おかげで終始、狼の顔のアップばっかがスクリーンに映っているという。それもへんてこりんだった。
さて、ということで、そのあとがようやく本日のマイ・メイン・イベント、RADWIMPS。
でも、前述したとおりで、この日のラッドのセットリストは、最新ツアーのダイジェスト版という印象で、見ごたえはいまひとつだった。二ヶ月前にツアーで観たのは会場も同じマリンスタジアムだったし、『NEVER EVER ENDER』で始まって『愛にできることはまだあるかい』で終わるという構成もいっしょ。唯一の違いはツアーでは聴けなかった『アイアンバイブル』をやってくれたことくらいじゃなかろうか。でもこの曲が聴けたのは嬉しかった。大好きな一曲なので。
あと、ソロ公演の演出ではあまりアーティスト自身の映像をスクリーンに映していなかったけれど、この日はフェスゆえにあまり凝った演出ができないからなのか、左右のスクリーンに洋次郎のアップが映されることが多かった。その点、たんに洋次郎がたくさん見たいって人には、意外とおいしいライヴだったかもしれない。
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個人的に残念だったのは、僕のとなりに座ったレッチリ・ファンの業界人らしき男女が、ラッドのライブのあいだ、ずっと大声でしゃべっていたこと。途中で男のほうに注意してみたけれど、その後も女のほうはおかまいなしだった。自分は興味がないアーティストだからって、まわりの迷惑になることに気がつかない。あんなデリカシーのない女性とは、俺なら絶対につきあわない。
まあでも、そんな風に部外者然としたオーディエンスがいるってのは、いまだにラッドの音楽が万人を夢中にさせるだけの問答無用の力を持っていないってことなんだろうなとも思った。いまのラッドならサマソニのヘッドライナーでもいけるんじゃないかと思っていたけれど、まだまだそこまでのレベルにはないみたいだ。
そういや、ラッドを初めてサマソニで観たときにも、同じように無関心なオーディエンスのおしゃべりに悩まされたんだった。すっかり忘れていて、また同じ目にあってしまった。馬鹿みたいだ。
ラッドの次がこの日のヘッドライナー、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ。
初めて観たレッチリでもっとも印象的だったのは、そのオルタナ感。オルタナというか、インディーズ感というか。これだけ長いこと第一線のビッグネーム・バンドとして活動していながら、ちっとも大物らしくない。
ボーカルのアンソニー・キーディスはまったくMCをしないし、かわりにMCを務めるベースのフリーは妙にぎこちないし。
演奏力ははんぱないのに、過剰にオーディエンスの興奮をあおったりする姿勢がゼロ。代表曲の『By The Way』や『Get It Away』みたいな曲をずらっと並べて一気に盛りたてれば、さぞやオーディエンスは大興奮だろうに、そういう演出をしない。いたって淡々とした印象だったのが意外だった。
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なんか、やっていることが、いちいちロック・コンサートの定番からずれている。そこんところがなんかとてもおもしろかった。レッチリって一筋縄ではいかないバンドなんだなと思った。
だってさ、ライブの途中でフリーがニール・ヤングの『The Needle and the Damage Done』を歌っていたけれどさ。普通ないよね、ベーシストがベースの弾き語りで人の曲をカバーするコーナーなんて。
そうそう、あと驚いたのが、レッチリの演奏がサポートなしの、メンバー四人きりでのものだったこと。アンソニーは歌うだけで演奏しないので、つまりバンドのサウンドは、ドラム、ベース、ドラムのスリー・ピースだけで成り立っている。とくに動機ものとか入れているようでもない。
それであの広いスタジアムじゅうを揺さぶるようなミクスチャー・ロックを鳴らしているという。その演奏力にはひたすら脱帽でした。レッチリ、すげー。
いや、すごいのにすごくないというか。すごくなさそうなのにすごいというか。とにかく、そこんところのアンバランスさがおもしろかった。うん、楽しかったです。
ということで今年のサマソニはレッチリのあとの花火を観て終了。すぐに帰ると埼京線が混みまくりだろうからと、メッセに寄って一休みしてみたら、なぜかメッセは異常にガラガラだった。サカナクションが仕切るオールナイト・イベントがあるので、そのために入場規制がかかっていたのかもしれない。
よくわからないから、係の人に聞いてみたら中に入れてくれたので、閑散としたメッセで唐揚げをつまみにビールを飲んだりして、しばらく休んだあとで退散した。あいくに途中の南船橋-西船橋間はぎゅうぎゅう詰めだったけれど、それ以外はとくに混雑もなく、比較的楽に帰れました。
でもうちの奥さんは次からは絶対に帰りのバスを予約するといっていた。来年は東京五輪のせいでサマソニはなしとのことだから、あるにしても再来年以降の話になるけれど。ほんと、音楽ファンにとってはオリンピックはいい迷惑だ。
(Sep. 07, 2019)
The Birthday
VIVIAN KILLERS TOUR 2019/2019年10月10日(木)/Zepp DiverCity Tokyo
ミッシェル・ガン・エレファントの解散ライヴからじつに十六年ぶりにして初――。
しかも日付はたまたまそのライヴと一日ちがい。The Birthdayの最新作『VIVIAN KILLERS』のツアー・ファイナルを観た。会場はZepp DiverCity。
開演は定刻ほぼジャスト。真っ赤なライトの下で、オールディーズの『シックスティーン・キャンドル』が流れる中、メンバーが登場するオープニングからして、ミッシェルから地つづきの美意識たっぷりで懐かしさ全開だった。
――ただしミッシェルを思い出させたのはその部分だけ。いざライヴが始まってからは、懐古趣味皆無の最強のロック・バンドがそこにはあった。
新譜のツアーということで、セットリストは一曲目の『LOVE IN THE SKY WITH DOROTHY』からほぼ全曲が『VIVIAN KILLERS』とそのあとのコンピ盤の収録曲だけ――例外は名曲『BABY YOU CAN』のみ――という内容だった。
The Birthdayについては、個人的に新譜を問わずに全体的に聴きこみが甘いので、どれだけ盛り上がれるのか疑問だったんだけれど、ぜんぜん問題なし。バースデイの曲って、ほとんどバラードなし――唯一の例外はアンコールで演奏された『星降る夜に』のみ――で、あとはためらうことないストレートなロックンロールなので、曲に馴染みがあろうとなかろうと関係なく、問答無用に身体を揺さぶってくる。そのビートに身を任せていれば、ただそれでオッケー。そういう二時間だった。これぞロックンロールの醍醐味。
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まあ、とはいえやはり好きな曲だと盛り上がりが違う。
新譜では『青空』がよかった。シングルで聴いたときには「お前の未来はきっと青空だって言ってやるよ」というサビの直球な歌詞がちょっとこそばゆいかなと思ったんだけれど、そのファンキーなベースラインと哀愁漂うメロディに乗せて、チバくんがそういうポジティヴな言葉を発すると、彼独特の胡散臭さが照れくささをいい具合に緩和して、とても感動的だったりする。「あ、もしかして本当にいいことがあるかもしれない」と思わせる絶妙な説得力があって、素晴らしいなと思った。あの味はなかなか出せない。
もう一曲のお気に入りが『BABY YOU CAN』。――って、まあこれはね。おそらくバースデイでも屈指の人気曲なんだろうなと思います。アルバム『I'M JUST A DOG』で初めて聴いたときから、個人的にはバースデイでもっとも好きな曲のひとつだから、生で聴くことができてとても嬉しかった。メッセージのポジティヴさという点では『青空』に通じる曲(でもこっちのほうがメロディはより明朗)。僕はふだんはドライなイメージのチバくんがたまに見せるこういうストレートさにとても弱い。
そういえば、この曲のラストのブレイクの部分で、チバくんが突然「優勝してーなー」って叫んでたのもおもしろかった。おそらくFC東京のことだよね(現在J1で鹿島に抜かれて2位の)? そのあとに「俺達はまだ何もしてねえよ」って歌詞がつづいたところがなんとも最高でした。――って、え、もしかして俺の勘違い? 「優勝したい」なんて言ってない?――まあいいや。俺にはそう聞こえたんだって話。
The Birthday を生で観て意外だったのは、何曲かチバくんがギターを弾かない曲があったこと。俺はずっとツイン・ギターのバンドだと思ってたので、あ、ハンド・マイクもあるのかと思った。そういやチバくん、ミッシェルのころはハンド・マイクで歌ってましたっけね。すっかりギターを弾く人ってイメージになっていた。
アンコールのラスト・ナンバーが、そんなチバくんがハンド・マイクでがなる、ど直球のパンク・ナンバー『DISKO』ってのも、らしーなーと思った。しかもそれが新譜の曲だし。五十過ぎて、アンコールの締めが新曲のパンク・ナンバーって、なかなかないよ?
そうそう、あと生で観てすごいなと思ったのは、チバくんのボーカル。CS放送でオハラ☆ブレイクのMidnight Bankrobbers(チバユウスケ+イマイノブアキ)のアコースティック・ステージを観たときにも思ったことだけれど、チバくんってあんなに声の出る人でしたっけ?
あのだみ声の通りのよさと声量はすげー。ボーカリストとして年を経てむちゃくちゃ成長している気がする。ああいう声であれだけ歌えるボーカリストって、日本じゃなかなかいないんじゃないだろうか。脱帽です。
とにかく、新譜のツアーとはいえ、新譜全曲を聴かせて、なおかつ初期の曲はぜいぜい『涙がこぼれそう』だけってくらい。あとはフジイケンジ加入後の曲だけで、まったく文句なしのセットリスト。――いや、個人的には大好きな『さよなら最終兵器』が聴けなくて残念だったけれど、不満はせいぜいそれくらい。あ、あと、前の人が大きくて、ステージがよく見えなかったことくらい(場所取り失敗)。
メンバー個人はみなデビューから二十年以上のキャリアを誇り、アルバムを十枚もリリースしているロック・バンドが、基本的には最新モードの自分たちを全開で鳴らすだけのノスタルジー皆無ってステージでしっかりと結果を出してみせているところがなんともすごいなと思った。
なんで俺はいままでバースデイを観ないで生きてきたんだろう?
――そんな自分を不思議に思いつつ、本編ラストの『OH BABY!』でせりあがってきたドクロの背景幕とともに描き出された「SEE YOU」の文字を眺めながら、今後のツアーのチケットはマストだなと思った一夜でした。
(Oct. 22, 2019)
ずっと真夜中でいいのに。
潜潜ツアー(秋の味覚編)/2019年10月23日(水)/Zepp Tokyo
去年のエレカシ@たまアリにつづいて、今回も自慢話になってしまう。
長いこと音楽を聴いているから、それなりの数のコンサートを観てきているけれど、この日のライヴはそのなかでもベストテンに入るスペシャルさだった。
ずっと真夜中でいいのに。――通称「ずとまよ」がファースト・アルバム『
その初日を僕は「こんなのもう二度と観れないだろう」ってくらいの特等席で観てしまった。いやぁ、ごめん、若い子たち。でもすごくいい整理番号のチケットが手に入っちゃったもんで、いちばん前で観ないではいられなかった。俺たち彼女の親の世代なのに。まるで父兄参観みたいな距離感だった。
以前エレカシで一桁台の整理番号を手に入れたときには「別に無理に前で観なくたっていいよ」って
だって、ずとまよは顔出しNGだから、ステージが暗くてよく見えないわけですよ? となれば、なるべくいい視界をキープしたくなるのが心情ってものでしょう?
おまけに同行したうちの奥さんが腰痛持ちだから、できれば柵があるポジションをキープしたいという。なのでいつもは開演ぎりぎりに入場することの多い僕らが、この日は会場時間ジャストに整理番号順で並んで入場した。
入るまでは「最前列は遠慮して二列目の柵のあたりでいいかな」と思っていたんだけれど、いざ入場してみたらほぼいちばん乗りだから人は少ないし、ステージの装飾がやたら凝っていておもしろかったもんで、勢いで最前列をキープしてしまった。それもステージのいちばん手前に配置されたこたつのまん前。
そこがどれだけの特等席だったかわかったのは、アンコールのときだった――。
まぁ、その話はのちほど。
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今回のツアーは「秋の味覚編」というサブタイトルがついている。おそらく秋の夜長のプライベートな部屋みたいなイメージなのだと思う。ステージにはいろんな雑貨(ガラクタ?)がランダムに配置されていて、アングラ・ムードたっぷりだった。
右手のキーボードの前のキャスターからはゲーム機のコントローラーがぶらさがっている。左手の背面では斜めに反転した赤い数字のデジタル時計が大晦日の時刻をカウントダウンしていたりする。
なかでもめだっていたのが二つのこたつ。先程書いたとおり、ステージ手前ぎりぎりのところに普通のこたつが置いてある。こたつ板の上には果物のかご。あと、ステージ中央後方には通常より一点五倍くらいの大きさのこたつが斜めに傾けて配置してあった。
「ああいう四角い箱から人が出てくるライヴを知っている」って、うちの奥さんが去年のレキシの武道館公演を思い出して笑っていたら、なんとこの日の主役もそこから登場してくるというサプライズがあったりして……。
この日のライヴはフジロックの配信でも披露されたOpen Reel Ensembleのふたりによるパフォーマンスでスタート。ステージの左右に配置されたオープン・リールのテープを引っぱってサンプリングの音を鳴らすという風変わりなパフォーマンスでもって、スクラッチされたACAね(アカネ)のMCが開演の挨拶を伝える。
盛大な拍手と歓声でこたえるオーディエンス。すると、こたつ(大)の布団がもぞもぞ動き出して、そのこたつ布団をかきあげてACAねちゃんが登場~。なんだそりゃって笑いを誘って、一曲目の『脳裏上のクラッカー』が始まる。
バンドはボーカルのACAねに、キーボードがエレカシでお馴染みの村山☆潤、ドラム、ベース、ギターの5人編成。あと、オープニングを飾ったOpen Reel Ensembleのふたりが、最初の二曲と『君がいて水になる』『彷徨い酔い温度』とラストの『秒針を噛む』に参加していた。
Open Reel Ensembleはほかの曲でも演奏していたかもしれないけれど、ステージ中央付近にいた僕らには、左右の隅のほうでプレーしている彼らは視野に入らないことが多かったので、僕が気づいたのはその五曲だけ。ちなみに彼らがシュノーケルをつけていたのは、今回のツアータイトルが「潜潜ツアー」――アルバム名は「ひそひそばなし」だけど、ツアー名は「もぐもぐツアー」と読むらしい――だからだと思われます。
主役のACAねちゃんは白いもこもこした感じの太めのパンツ・ルックで登場。基本的にステージがずっと暗いから見ためはよくわからないけれど、印象的にはとてもキュートなお嬢さんでした。とにかくしぐさが可愛い。消え入るようなウィスパーボイスのMCと歌っているときの超絶な高音シャウトのギャップがすごい。
あと、僕がACAねのパフォーマンスで好きなのがダンス。ダンサブルな楽曲にのせて自然体でステップを踏んでいるところがとても好み。
椎名林檎みたいに型を決めたきっちりとした振り付けではなく、Coccoのように民俗学っぽい自己流でもない。aikoみたいに元気に走りまわったりもしない。この音楽を聴いたらこんな風に自然に踊りたくなるよねって感じのしぐさが観ていてとても好印象。
そもそも、ずとまよを特別視するようになったのは、もとよりその音楽に感銘を受けていたのに加えて、フジロックの配信で彼女のそんな姿を観れたのも大きかった。これは絶対に生でじかに観たいと思った。その夢がかなった――しかもこれ以上ないってくらいの至近距離で目撃できた――この夜は至福だった。
それにしても、オープニングの二曲が『脳裏上のクラッカー』と『勘冴えて悔しいわ』という、ずとまよきってのアッパーなナンバーだったのは、なんて惜しみないんだと思った。新譜の曲順どおりだからってことなんだろうけれど、それにしたっていきなりこれって、もったいなくない? と思ってしまった。
三曲目の『ハゼ馳せる果てまで』からは三曲つづけて新曲コーナー。MV配信ずみのその曲と『こんなこと騒動』のあいだに、「はじめて聴いてもらう曲です」とかのMCで演奏されたのは『居眠り遠征隊』だった――らしい(その夜初めて聴く曲だったので記憶があいまい)。
ACAねは『ハゼ果てる~』のほか何曲かでテレキャスターを弾いていた(個人的にテレキャス弾く人は無条件に仲間だと思っている)。基本的にコード・ストロークだけって印象だけれど、僕のいる位置からだと『ハゼ』のイントロでアンプから出る音がストレートに聴こえてきたりして、彼女のギターが飾りじゃなく、ちゃんと演奏の一部となっていることがわかった。
つづく『君がいて水になる』はオープン・リールがフィーチャーされていたため、スタジオ音源とはけっこう印象が違った。ずとまよでもっとも繊細な曲だけれど、この日のライヴではもっとラウドな印象になっていた。
その次の『彷徨い酔い温度』ではACAねちゃんがフジロックでも着ていた白いどてらみたいなやつを着用(綿入り半纏?)。ぱん、ぱぱんという音頭のリズムにあわせてアーティスト・グッズのしゃもじを鳴らすオーディエンスで場内は大盛り上がりだった。村ジュンも手作りの(猫の?)お面を斜めにかぶって弾けまくっていた。
そのあとに新曲のバラード二曲がつづけて披露された。ACAねがステージ中央右手に配されたひとり掛けのソファにしどけなく体を投げ出してのアンニュイでセクシーなパフォーマンス。
まずはベーシストの青年とグラスをカツンと鳴らして乾杯して始まったのが『グラスとラムレーズン』――だったらしい。グラスを鳴らした音をそのままサンプリングに使った、音数の少ないヒップホップなアレンジだけが印象に残っている。
つづけて演奏されたのが「僕のパワーが」というフレーズが印象的だった『Dear Mr「F」』。これまでのレコーディング作品ではまったくといっていいほど披露していなかったスロー・バラードが二曲つづいたので、記憶ではこれと前の曲あわせて一曲みたいな印象になってしまっていた(ぜんぜん違う曲なのに。あてにならない記憶力)。
この曲のバックは村ジュンのピアノだけ。村ジュン、エレカシのときは最年少だからかおとなしくしているけれど、このバンドでは逆に最年長だからか、もうノリノリでおちゃらけまくりでした。最後のほうのメンバー紹介でもひとり笑いを誘ったりして。エレカシでは見られない一面が見られておもしろかった。
その次の『蹴っ飛ばした毛布』では歌う前に「最近は安心できるようになったことに対する不安があって、そのことを歌にして伝えられて嬉しかった」みたいなMCがあった(真意を読み取れてない感ありあり)。彼女にとっては大事な曲らしい。おとなしめな曲だと思っていたら、間奏でバンドの演奏が爆発的な大音量になってびっくり(ウィルコか!って思った)。新譜の曲はアルバムがリリースされるまで温存しておこうと、あえてあまり聴かずにいたので、こんな曲だったっけ? と思ってしまった。
『眩しいDNAだけ』では冒頭の語りの部分の歌詞をまるごと変更。手書きのメモに書いたけん玉がどうしたって詩を朗読するパフォーマンスを披露した。でもって、そのパートが終わったあとで、メモを丸めてフロアのオーディエンスへ投げ込む――つもりが投げそこなってステージに落ちるというハプニング。歌い終わったあとで拾って、こたつかどこかに置いてあったらしい栗(?)をくるんで、再び投げ入れてました。「ごめんね、栗投げちゃって」とかいって。いちいちやることがかわいい。
『サターン』――じゃなくてもしかして『マイノリティ脈絡』?――ではアウトロのディスコ・ビートでバンド全員でステップを踏んで、「一緒に踊ろうよ」とオーディエンスにもダンスを求める。こたつに土足であがってオーディエンスをあおったりもする(お行儀悪い)。本編ラストの『正義』では「近づいて遠のいて~」のフレーズのコール・アンド・レスポンスもあったし、シャイなふりして、そういうオーディエンスとのコミュニケーションを積極的に取っているところに意外性があった。
ということで本編は『正義』で終了。そのあとが個人的にはこの日最大のサプライズだったアンコール。
だってさ、ACAねさん、こたつに入ってバラード歌うんですよ。
俺、こたつの真ん前にいるんだよ?
その距離おそらく二メートルちょい?
そんな至近距離で、この日の主役がこたつに入って、高校生活をテーマにした新曲の切ないバラード『優しくLAST SMILE』を歌うの見ているという……。
なんかすげー非現実的なシチュエーションだった。
まぁ、ステージは暗いし、アルバム初回限定盤の箱を本にみたてて、それを読んでいる風をよそおって、顔を隠しながら歌うってパフォーマンスだったから、顔とかはよく見えなかったんですけどね。――というか、たまに照明の加減で顔がちらりと見えたりすると、なんか見ちゃいけないものを見てしまったような背徳感があったりして……。
いやいやいや。なんにしろ、あまりに貴重すぎた。
この歌のあとには「秋の味覚編」というツアータイトルにあやかり、そのままこたつで梨の皮をむいて、かぶりついて“シャク”って音をマイクで拾って聴かせるという余興あり(拍手と歓声で一度目は音が拾えず、二度かぶりつくというハプニングもあり)。うす暗いなかでナイフ使って果物の皮をむくパフォーマンスはちょっぴりスリリングでした。怪我しないでよねって心配になった。
そのあと、こたつから離れるときにさらなるサプライズ――。
なんとACAねちゃんが「柿いりますか?」と、こたつに置いてあった柿を客席に向けて差し出してくれちゃったりするんだ、これが。
差し出された彼女の手の最短距離にいるの、どう見ても俺だった。
でもまわりの若い子を差し置いて、俺がもらっちゃ駄目だよね?
――と遠慮していたら、柿は僕の頭上を越えてうしろのお客さんのところへ投げ込まれました。あとから「せっかく柿をくれるっていっているんだから、もらえるかどうかは別として、手を差し出すのが礼儀だったのでは?」と思うもあとの祭り。
ごめんなさい。なんかとても悪いことをした気分です……。
そのあまりの衝撃展開にぼうっとしてしまって、アンコール・ラストの『秒針を噛む』はなんか印象が薄かった。もったいないにもほどがある。
そういや、その曲じゃなかったかもしれないけれど、ギターの青年が一曲だけアウトロでバイオリン弾いてました。オープン・リールにしろなんにしろ、いろいろと芸達者なバンドですごいなと思った。
まあ、なにはともあれ素晴らしいライヴだった。スポットライトなしのステージがずっと暗いこともあって、とても幻想的な気分になる、本当に非現実的な印象のコンサートだった。いまだかつてないとてもレアな体験をさせてもらいました。
終わったあとに余韻の収まらないまわりの男の子たちが『脳裏上のクラッカー』だか『秒針を噛む』だかを合唱していたのもすごいなと思った。いやでもわかるわ、歌いたくなるの。本当に楽しかったもんねぇ……。
それにしても、最前列にいてもまったく押されることなく、ぎゅうぎゅう詰めにならないあたり、最近の若い子たちは本当に行儀がいい。大変ありがたかったです。どうもありがとう。おかげさまで素晴らしい一夜でした。一生の思い出にする。
(Nov. 06, 2019)
BUMP OF CHICKEN
TOUR 2019 aurora ark/2019年11月3日(日)/東京ドーム
およそ三年半ぶりにBUMP OF CHICKENを観た。
プラチナ化ひさしく、すっかり入手困難なBUMPのチケット。今回のツアー、わが家ではアルバム発売直後にスタートした初日の西武ドームのチケットが手に入ったものの、「どうせ観るならばツアー終盤がいい」と思った僕は愚かにもその公演をパス。西武球場は交通の便が悪いので、どうせ観るならばツアー終盤がいいやってと思って、つい敬遠してしまった。
そしたら追加で発表されたこの日の東京ドーム公演はチケットが取れないこと取れないこと。うちの奥さんがあちこちのサイトの抽選に何度も応募して、はずれを繰り返したあげく、何度目かでようやく入手できたのが「注釈付き着席指定席」というやつだった。
なんだそりゃ?――って思っていたら、これがなかなかすごかった。バルコニー席という、一階席と二階席にあいだに設けられた、野球のシーズンチケットに割り当てられたセレブな席の最前列。野球場なのにシートはふかふかで、飲食用のテーブルなんかもついている。ただし、ステージをほぼ横から観る形になって、演出の映像がよく見えないのと、席の前の柵が低くて、スタンディングで観ると危ないので、立ち上がるなってことで「注釈付き」ってことになったらしい。
なににしろ、いわくありげな名前のチケットの割にはとてもいい席だった。まあ、映像の演出がとても凝っていたので、横からの眺めだとそれが満喫できないのは残念だったけれど、そのかわりにスタジアムの全体が見渡せた分、また違った感動が味わえた。
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BUMPを見るのは三年半ぶりと書いたけれど、僕が前回最後に観たのは二十周年のスペシャル・ライヴで、アルバムとしては『RAY』と『Butterfly』のツアーを見逃している。なので今回はじつに三作品ぶりのツアーだったのだけれど、そうしたらどうにもその間の演出の進化が尋常じゃなかった。ものすごいグレードアップしていてびっくりしてしまった。
まずはすっかりBUMPのライブでは定番となった無料配布の発光リストバンドの進化がものすごい。僕が以前にもらったやつは色は固定で、光るのは一色だけだったけれど、いまのはPIXMOBとかいう名前になっていて、どういう仕組みかわからないけれど、自由自在にいろいろな色で光る。それが会場の場所によって自在に制御されて、何万人というオーディエンスの腕で点滅して、さまざまな演出効果を巻き起こす。
これがもー、信じられなくらいに綺麗。とくに僕らがいたのはステージを横目に会場全体を見下ろすような席だったので、つねにそのライトの瞬きが視野に入っているから、なおさら壮絶な美しさだった。なんだかエレクトリカル・パレードのロック・コンサート版を見ているみたいだった。
もちろん、光の演出はリストバンドだけでは終わらない。ステージ全体のバック全体に配された超巨大なスクリーンには曲ごとに様々な映像が映し出される(僕らの席からはよく見えなかったけど)。花道のサイドや縁にまでLEDのスクリーンやランプが設置されていて、それらもメインのスクリーンと同期して光まくる。もう会場内のすべてを光らせてやるってくらいのきらびやかさ。
で、単に光り輝いているばかりではなく、演出も凝っている。ほぼすべての曲になんらかの驚きがある。一曲たりとも手を抜かない豪華絢爛さがある。
アルバムのタイトル曲であるインスト・ナンバー『aurora arc』とともに美麗なオーロラの映像で始まったと思ったら、本編の一曲目を飾った『Aurora』ではドカンと爆裂音がして、バンドのロゴ入りの金銀のテープが舞い上がる。『虹を待つ人』ではステージ前方でばんばん炎が上がる。ちょっと待ってよ、まだ三曲目だよ?
その次が『天体観測』って。まだ四曲目だよ?
――って。そんな風に何度思ったかわからない。
コンサート中盤の『記念撮影』での『ONE PIECE』コラボのカップヌードルCMのフルバージョン初公開とか、後半の『新世界』でのロッテCMとのコラボ映像とか、『アリア』でのステンドグラス風のCGとか。アニメや映像の使い方でも見どころ(泣きどころ)がたっぷり。
BUMPの音楽はそれ自体とてもドラマチックで感動的なわけですよ。藤原くんの芯のつよい歌声は通りがよく、広いドームのすみずみまで響きわたる。そんなただでさえ魅惑的な歌がこれだけ惜しみない視覚効果とともに供されるのだから、もうとんでもない濃度の高揚感が押しよせてくる。なんなの、この豪華さは?
スタジアム公演は高額なわりに広すぎて純粋に音楽を聴く場としてはいまいちな印象があったけれど、この日のBUMPの公演はスタジアムだからこそ、ここまでできるんだって、そんな驚きがあった。これまでに観たスタジアム公演では個人的に史上最強だと思っているU2にも負けないスペクタクルがあった。すげー、バンプ。こりゃチケットが取れないのも当然だわ。
こんなツアーを何年もつづけてきたからだろう。藤原くんの姿勢にも以前とは違った自信が見てとれた。かつてサブステージを「ハズカシ島」と呼んだころの面影はもうない。サブステージで演奏した『ダイヤモンド』を途中で中断して、その曲を書いたころの四畳半の部屋での思い出を語りだしたり、公演終了後にひとりステージに残って「お前らが俺たちを見つけてくれたんじゃない。俺たちの音楽がお前らを見つけたんだ」というようなことを熱く語る彼の姿を見て、ああ、彼らもすいぶんと長いこと旅をつづけてきたんだなぁって思った。そうだよねぇ、バンプの面々ももう四十過ぎだもんねぇ……。
個人的にはアンコールがかつてもっとも数多くリピートしたアルバム『ユグドラシル』からの『同じドアをくぐれたら』と、ライヴでもっとも聴きたいバンプ・ナンバーのひとつ『メーデー』の二曲だったのもツボだった。
そんな見どころだらけのこの夜の二時間半の公演の中から、あえてハイライトとして一曲だけを選ぶとしたら、僕がもっとも感動したのは『望遠のマーチ』。それほど好きな曲ではないんだけれど、この曲のサビの「いこうぉーうぉうおーうぉうおおー」の部分での会場全体での大合唱は本当に感動的だった。思わず涙ぐみそうになった。
休む暇なしってくらいに演出たっぷりのコンサートだったけれど、それがなおさら感動的だったのは、そんな過剰な演出のもとで会場全体がこれくらいないってくらいに一体化していたからかもしれない。
それにしても、そんな感動的な曲のなかでちゃんと「羽根は折れないぜ、もともと付いてもいないぜ」って、シニカルかつユーモラスなフレーズを歌ってみせる藤原くんってほんといいよなって思う。
(Nov. 17, 2019)
U2
The Joshua Tree Tour 2019/2019年12月5日(木)/さいたまスーパーアリーナ
個人的には三回目となるU2の来日公演。それも今回は名盤『ヨシュア・ツリー』の完全再現ライヴをさいたまスーパーアリーナで観た。
U2に関しては、アリーナ席で観た過去二回の公演がどちらも最高だったので、今回も躊躇なく「スタンディング(前方)」というチケットを獲ったのだけれど――さすがにいちばん高い六万円のチケットは手が出ない――結果的にこれが大失敗。
今回のU2のライヴはメインである『ヨシュア・ツリー』に至るまでの5曲が、すべてステージ向かって左手に作られた花道の先にあるサブ・ステージで演奏されたのだけれど、僕らがいたアリーナBブロックの隅のほうからは、そのステージがまったく見えなかった。
おまけにこのパートは演出がほぼゼロ。なにも見えない状況でオープニングの『Sunday Bloody Sunday』から『Pride』に至るまでの『ヨシュア・ツリー』以前の名曲郡を、ただ音だけ聴いて楽しめって言われてもなぁ……。おまけに『ヨシュア・ツリー』後の本編最後の一曲、『Desire』も同じサブステージに戻っての演奏という……。
今回のステージには『ヨシュア・ツリー』のジャケットに使われた樹――あれがたぶんヨシュア・ツリーなんですよね?――の巨大なシルエットが配されていて、サブステージはその樹の影の形をしているという粋な設定だったっぽいのだけれど――それゆえに樹の位置にあわせてセンターよりも左手寄りに配置されていた――僕らのいる場所からは当然そんなこともわからない。これだったらスタンドで観たほうがよほど楽しかっただろうって思ってしまった。
『ヨシュア・ツリー』のメイン・パートやその後のアンコールは巨大なスクリーンが視界全体にあって、とてもきらびやかで刺激的ではあったけれど、それでも全二十五曲のうちの六曲――割合にして全体のおよそ四分の一――でバンドの姿がまったく見えないことのがっかり感は、ライヴ全体の高揚感を損なうに十分だった。あれでサブステージの近くと僕らのチケットが同じ金額ってのは、絶対に間違っているでしょう。なまじチケットがほぼ二万円と高額だっただけに、そうとう損した感があった。
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演出に関していえば、『ヨシュア・ツリー』というアルバムの性格を反映して、映像も比較的叙情的。最初の二曲はモノクロの風景映像で、次は夜明けのグランド・キャニオン的な場所のライムラプス映像。それぞれに映像は4Kだか8Kだか、非常に美しくて臨場感たっぷりだったけれど――それこそ映像が揺れると酔いそうになるくらいの臨場感だった――基本的にはきまじめで地味。その後もアーミーのブラス・バンドとか、廃屋を星条旗風にペイントする女性の映像とか、最後の母親たちがロウソクを灯して並んでいるやつまで、基本的にはゆっくりとした動きの少ないものばかりだった。
その後にボノが化粧をして出てきて歌ったアンコールの頭の二曲『Elevation』と『Vertigo』のど派手でダイナミックな音と映像を見て、やっぱ俺の好きなU2はこっちなんだよなぁ……と思ってしまった。まぁ、それにつづく『Even Better Than the Real Thing』の映像のいきなりのB級感にはなにそれって思いましたが。
まぁ、そんなわけで観ていた場所がよくなかったので、満足感がいまひとつだった今回のU2だったけれど、でもその演奏力の高さには今回も非常に感銘を受けた。なかでもやっぱ、エッジがすごい。あれだけ印象的なギターのフレーズをたたき出しながら、ボノのボーカルをさらに引き立てるコーラスをきちんとかぶせている。U2のすごさの半分はこの人の才能によるのではないかと思った。
エッジってロック史上、もっとも過小評価されているギタリストではないかと思う。
あと、今回のツアーでは、開演前の待ち時間に人権問題を扱った英語や日本語の詩がスクリーンに流されたり、アンコールの映像では社会的に活躍してきた世界中の女性たちのポートレートが使われたり、終演時にはスクリーン全体を使って巨大な日の丸が映し出されたりと、これまで以上に社会問題への意識の高さを感じさせる演出が多かった。単純に「いやっほー、楽しかった」といって終えられないのは、席の悪さに加えて、そういう政治的な演出に負うところもあったかもしれない。
いやしかし、本当にもっとちゃんと観たかったなぁ。さっさともう一度、再来日してくれないでしょうかね。願わくば『アクトン・ベイビー』の再現ライヴを熱望。それだったら二日ともゆくかも……。
(Dec. 15, 2019)
ソウル・フラワー・ユニオン
年末ソウル・フラワー祭2019/2019年12月21日(土)/下北沢GARDEN
十年一昔というけれど、よもやこのバンドと十年もごぶさたするとは思ってもみなかった。かつては年一くらいの頻度で観ていたソウル・フラワー・ユニオンのライヴを去年の暮れにじつに十年ぶりに観た。
すっかりごぶさたしていた理由のひとつは、この間に彼らの東京公演の会場が下北沢になったから。若いころからあまりシモキタに縁がなかった僕には、なんとなくあの街のサブカルの聖地的なイメージに対する苦手意識があって、知らずと敬遠してしまっていた。
でも今回初めて訪れた下北沢GARDENは、なかなかいい感じのライブハウスだった。リニューアルから十年足らずということでまだまだきれいだし、入り口から場内まで赤煉瓦で統一した内装には落ち着いた雰囲気があって、これならリキッドルームよりもいいんじゃないかって思った。少なくてもソウル・フラワーがリキッドからこちらに根城を移した理由には納得がいった。いままで食わず嫌いでスルーしていてちょっと損をしたかなって思ってしまった。
ソウル・フラワー自体は十年もごぶさたしていたのが嘘みたいに変わらなかった。
前回僕が観たのはギタリストとして高木克が加入した直後だったけれど、その後のメンバーチェンジをへて、中川・奥野の両氏をのぞけば、いまではその高木さんが最古参。現在のメンバー構成はベースが阿部光一郎、ドラムがJah-Rah(ジャラ)、コーラスがLIKKLE MAI(リクルマイ)というメンツで、要するに六人編成のうち半分が入れ替わっている。
なのに音楽それ自体の印象は旧メンバーのときとほとんど変わらないという。
ソウル・フラワーの場合、十年前の時点で和洋ミクスチャーなその独自の音楽性がすっかり確立されきっていたので、ひとりやふたりメンバーが入れ替わったところでまったく問題がないってことなんだろう。まぁ、その変わらなさ加減ゆえに油断して、十年もごぶさたしてしまった感がなきにしもあらずだけれど……。
今回のライヴではセカンド・アルバム『ワタツミ・ヤマツミ』の二十五周年だとのことだったので、あのアルバムの再現ライブになるのかと思いきや、そんなことはなし。オープニングから『陽炎のくに、鉛のうた』と『たこあげてまんねん』がつづけて演奏されたけれど、最終的にそのアルバムからは四曲のみ(のはず)。その後は未発表の新曲を何曲か聴かせてくれたりする、新旧とりまぜたオールタイムベスト的な内容になっていた。そういうところもこの人たちらしいと思う。個人的にはひさびさのソウル・フラワーだったから、下手にノスタルジックにならず、そうやって新曲をガンガン聴かせてくれたのは願ったり叶ったりだった。
あと、かつてのライブは過剰なまでに長くてパワフルすぎるくらいの印象だったけれど――それゆえ体力のない僕にはついていけない感が強かった――さすがに中川さんたちも年をとったのか、この日のライブは短すぎず長すぎずな、ちょうどいいボリューム感だった(でもMCは長い)。
【SET LIST】(不完全)
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ライブ構成で印象的だったのは、コーラスのリクルマイさんがボーカルをとる唄が四曲もあったこと。すべて洋楽のカバーで――内訳は僕の知らない曲が一曲と、クラッシュ、アレサ・フランクリン、ミラクルズという中川セレクション感の強い楽曲郡だった――アレンジは基本的にレゲエやスカ。なぜかと思ったら、リクルマイという人がソロではレゲエ・シンガーだかららしい。
なるほど。そういう人にサポートしてもらっているので、比較的見せ場を多めに用意しているのかなと思った。なんたって彼女のような女性コーラスの存在抜きではソウル・フラワーの音楽は成り立たないので。
このライブで初めて聴かせてもらった新曲は、アフガニスタンで命を落とされた中村哲さん(U2のライブでも追悼されていた)に捧げた『ラン・ダイナモ・ラン』と、吉田拓郎っぽい節回しのフォーク・ロック・ナンバー『オオイヌフグリ』、「オール・パワー・トゥ・ザ・ピープル」というサビのフレーズがいかにもソウル・フラワーらしい『魂のありか』の三曲。あと、『もののけと遊ぶ庭』とのメドレーで演奏された曲も知らなかったので、あれがもしも新曲ならば四曲。ただ、ライブではぼぼ全曲、中川さんからタイトルの紹介があったのに、この曲だけはスルーだったから、僕の記憶から抜け落ちている既存曲かもしれない。
ちなみに『平和に生きる権利』がビクトル・ハラというチリ人のカバーだってことはこのライブのMCで初めて知った。
あと、レアだった(そして熱かった)のが、本編の締めが『ソウル・フラワー・クリーク』と『外交不能症』というニューエスト・モデル・ナンバーの二連発だったこと。前者をライヴで聴くのはたぶん初めてなので嬉しかった。
いやしかし、いまさらながら『ソウル・フラワー・クリーク』という楽曲の持つポテンシャルってアリーナ級だと思った。ソウル・フラワーが売れていないせいで、この曲をこんな小さなライブハウスでしか聴けないのって、日本のロックにとっては大いなる損失じゃないかって思ってしまった。
まぁ、いずれにせよいい曲ばっかりの楽しいコンサートでした。
それにしても、かつて中川孝から「一緒にセッションしようや」と誘われて尻込みしていたというエレカシ宮本が、この十年のあいだに彼のバンドのメンバーふたり(奥野真哉とJah-Rah)と競演するようになっているんだから感慨深いというかなんというか。ほんと十年ひと昔だよなぁと思った。
ソウル・フラワー、次はもう少しあいだをあけずに観にゆこう。
(Jan. 12, 2020)