2017年のコンサート
Index
- エレファントカシマシ @ 日本武道館 (Jan 06, 2017)
- PJハーヴェイ @ Bunkamuraオーチャードホール (Jan 31, 2017)
- ウォーペイント @ LIQUIDROOM (Feb 28, 2017)
- エレファントカシマシ @ 北とぴあ・さくらホール (Apr 08, 2017)
- エレファントカシマシ @ オリンパスホール八王子 (Jul 09, 2017)
- プリザヴェーション・ホール・ジャズ・バンド @ Billboard Live TOKYO (Oct 12, 2017)
- SUMMER SONIC 2017 @ ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ (Aug 19, 2017)
- HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER @ 幕張メッセ (Aug 19, 2017)
- レキシ @ 日本武道館 (Oct 10, 2017)
- Beck @ 日本武道館 (Oct 23, 2017)
- エレファントカシマシ @ 大宮ソニックシティ 大ホール (Nov 19, 2017)
エレファントカシマシ
新春ライブ 2017 日本武道館/2017年1月6日(金)/日本武道館
毎年恒例のエレカシ新春ライブ、今年の開場は日本武道館。正月からこの場所でエレカシを観られるってのは、やっぱ幸せだ。
僕らの席は一階席。ファンクラブで取ったにもかかわらず、アリーナではなく一階席、しかもステージ向かって左のいちばん隅っこのほう……と知ったときには、ステージを横から眺めることになって、いまいちじゃないかと思っていたんだけれど、なんと今回はそれがすごくよかった。
なんたって、武道館ほどの規模の会場にもかかわらず、今回もエレカシのステージにはスクリーンがないわけです。花道やサブステージなんかも当然ない。照明を除けば、演出らしい演出も皆無。要するに肉眼で観られるものだけがすべて。
こうなると、なにより距離がものをいう。で、僕らの席は一階席ながら、その最前列だった。要するに同じ一階席ならば、真正面なんかより、だんぜんステージが近い。しかも目の前をさえぎるものはなにもないという。おまけにバンドがステージ中央にこじんまりと集まっていたこともあって、僕らの視野にはメンバー全員がしっかり入ってくる(全員横向きだけど)。
この横から少し見下ろす感じで、メンバー全員を自然と視野に収められるアングルがとてもよかった。広い会場だとメンバーのひとりひとりを見る感じになってしまうことが多いけれど、この日はつねに全員が視野に入っていたので、あたかもライブハウスで観ているような臨場感があった。
以前に石くんが「ライブハウス武道館へようこそ」っていって笑いをとったことがあったけれど、この日の武道館はまさにそんな感じでした。これくらい大きなハコでこんな感じでライブを楽しめるって、とても貴重だと思った。
この日のエレカシはメンバー四人にミッキーとSunnyというキーボードの人を加えた六人編成。
サニーさん(年下なのになぜか「さん」をつけたくなる)、何度かエレカシのステージに参加しているとは聞いていたけれど、僕が生で観るのはこれが初めて。オーソドックスなピアノやオルガン主体のプレーって感じで、エレカシにはあっていると思った。なかなか好印象でした。
アリーナの場合はストリングスやホーンを加えた大所帯で華やかにやるってパターンが多いけれど、今回は余計な演出なしに、エレファントカシマシというバンドの演奏をシンプルに聴かせようって、俺たちが三十年をかけて築き上げてきた音楽をたんとお楽しみあれって。そういうステージだったと思う。
そのことをなにより象徴していたのが、一曲目に演奏された『夢のちまた』。
この曲はエレカシが初めてこのステージに立った伝説の武道館三千席でもオープニングを飾ったナンバーだった(はず、たぶん。間違っていたらごめんなさい)。
そのときと同じ曲を、あれから二十六年後のこの日、エレカシはふたたび武道館の一曲目に聴かせてくれた。同じように飾り気のない演出で。今度は超満員の観客の前で。
宮本の歌声はあのころよりもおおらかになっていたけれど、その伸びやかな歌声がまたなんとも味わい深かった。
この日のライブはそんな『夢のちまた』から始まり、ひさびさに『デーデ』と『星の砂』がメドレーで演奏されたり、『珍奇男』が近年まれにみる絶品(ほんと絶品!)だったりして、本当にあの武道館三千席を思い出させるものがあった。
でもだからじゃあ懐古的な内容だったかというとそんなことはない。古い曲と新しい曲を交互にくりだしつつ進むそのステージは、かれこれ三十年に及ぼうってそのキャリアをバランスよく反映した素晴らしい内容だった。懐メロ感は皆無。
そもそも『デーデ』からして、この日は宮本がイントロを弾くという、思いがけない演奏だったし(弾いたのはイントロだけみたいなもんだったけど)。長いことエレカシを観てきたけど、あの曲で宮本がギターを弾くのなんて初めて観たよ(でもあの曲のイントロは数少ない石くんの見せ場なのに。なんてご無体な)。
【SET LIST】
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僕がこの日の演奏でもっともいいと思ったのは、前にも書いた『珍奇男』。聴かせてもらえて嬉しかったのは、『東京ジェラシィ』(宮本が「なぜか好きな曲です」と紹介するのを聞いて「俺も俺も」と思った)。あと、『はじまりは今』も、苦手なポニーキャニオン時代の曲のなかでは比較的好きな曲なので、ひさしぶりに聴けて嬉しかった。
そういえば、なんかの曲の前に、宮本が『晩秋の一夜』をギターだけでひとくさり歌っておきながら、でもそれでおしまい、なんてこともあった。次の曲がぜんぜん違う曲だったので、なおさら、おいおいと思った。せっかくだからそこは全部聴かせてくれよ~。
あと、この日のステージで印象的だったのは、曲が終わったあとで宮本が「歌いたりない!」とでもいうように、ふたたび一人で歌を歌い始めて、バンドがそれに追従して演奏を再開してみせる場面が何度もあったこと。宮本の気まぐれなアドリブにつきあって、ちゃんと演奏を再開できるトミたちって、意外と演奏力が高いのかもしれないと思いました。それとも、ああいうのもあらかじめ練習してたりするんだろうか。
とはいえ、演奏に関していえば、曲の途中でトミが宮本にせかされて、リズムが速くなったり、遅くなったりってシーンも二度三度あったけれども。
ああいう風に曲の途中でリズムが変わっちゃうのって、ほかのバンドではまずないと思う(というか音楽的にあっちゃいけない気がする)。しかも武道館ほどの広い会場で、ああいう演奏するバンドって、ほかにはいないんじゃないだろうか。そういや、宮本がいつもの黒いストラトのチューニングが狂っていることに憤慨して、「このギター駄目、失格」とかいって、演奏を中断したこともあった。
ほんとエレカシって、上手いんだか下手なんだか、よくわからない──っていや、やっぱ上手くはないな。
でもまぁ、何度も書いているように、エレカシの場合はそこがまたおもしろかったりするわけです。この安定感のなさこそがロックだと思う。下手なままでも武道館を満員にできる。そこには確実にロックバンドだからこその夢がある。そう思いません?
そのほか、どうでもいいようなことでおもしろかったことといえば、黒いジャケット姿で出てきた宮本が、序盤で脱いだそのジャケットを、真ん中あたりでふたたび着たこと。「ステージじゃ風が吹いていて」とか言っていたけれど、いつも汗だくなステージを見せてくれている人だけに、演奏中に一度は脱いだジャケットをもう一度着るのって、珍しい気がした。さすがに武道館は広くて、なかなか体が温まらなかったらしい。
珍しいといえば、第二部では靴をスニーカー(黒のジャックパーセル?)に履きかえていたのも珍しいと思った。ステージで宮本がスニーカーを履いているのを見たのって、初めてな気がする。最近ではたまにあるんでしょうか?
そうそう、服装といえば石くんを忘れちゃいけない。この日はTシャツにジーンズというところは普通ながら、帽子をかぶってウエストくらいまで伸ばした長いカーリーヘアをなびかせたそのさまは、まるで七十年代の伝説のロック・スターのよう。でもなによりのつっこみどころは、ぶっとくて赤いマフラーをなんとも珍妙な感じで身につけていたこと。横からみるとそのマフラーがちゃんちゃんこのように見えて、還暦祝いには十年早いけれど、なんだありゃって感じでした。彼はこの先どこまで行っちゃうんだろう。
本編の最後はそんな石くんの見せ場である『ファイティングマン』。最近恒例のストーンズみたいなお別れの挨拶を、この日の宮本はアンコールの最後ではなく、この曲のあとでやってみせた。数をこなしてすっかり慣れたのか、以前のようなぎこちなさがないのが微笑ましかった。
そしてアンコール。一曲目で宮本が男椅子に坐り、ひとりスポットライトを浴びて『涙』を歌う姿は、この日いちばん絵になった。ああいうのを見ると、女性のほうが多いのも当然かなぁと思う。
そのあとに『今宵』を挟んで間髪入れずに始まったこの日のラスト・ナンバーは『待つ男』。
場内まっくらな中、まっかなライト(しかもかなり暗め)だけに照らされた宮本は、はじめのうち、いつものように中腰にならず、すっと背筋を伸ばしたまま、この歌を歌っていた。あの破格の大声を直立姿勢で歌っているのが、いつにない不思議な感じだった(さすがに最後のほうはいつも通り中腰になっていたけど)。
このラストのアングラ感がすごかった。だだっ広いまっくらな武道館に、赤一色でぼうっと浮かび上がる宮本の姿には、一種異様なものがあった。オレたちいったいなに見てんだろうってあの感じ。武道館でこういう感じを味わうことってめったにないだろう。そういう点でもこの日の武道館には三千席の昔に通じるものがあった。あれこそ超アングラの極みだったから。
でも、いまがあのころとは確実に違うと思わせたのは、その曲が終わった瞬間に照明がぱっと全灯して、場内が一瞬で明るくなったところ。闇から光へ。あの瞬間の爆発的な解放感こそが、エレカシが三十年をかけて培ってきたものを象徴しているんだろう。
ほんと新年そうそう素晴らしいライヴをみせてもらって大満足でした。春から始まるデビュー三十周年記念の全国横断四十七都道府県ツアーもとても楽しみだ。
今年もいい一年になりますように。
(Jan 15, 2017)
PJハーヴェイ
2017年1月31日(火)/Bunkamuraオーチャードホール
PJハーヴィー(日本では「ハーヴェイ」と綴るのが一般的らしいけれど、なぜだか僕は長いこと「ハーヴィー」と呼んできたので、いまさら変えるのも違和感があるし、英語の発音を確認したら、あながちそれが間違っているわけでもないようなので、とりあえず本文中はそのままにさせてもらいます)は僕にとって不思議な立ち位置にいるアーティストだったりする。
そもそも僕はいつから彼女の音楽を聴いているのかはっきりしない。デビュー当時に『Sheela-Na-Gig』のビデオを観て、おっ、カッコいいかもとか思った覚えはあるんだけれど、なぜかその時点で僕は彼女のデビュー・アルバムを聴いていない。
その後、のめり込むようにして聴いた最初の曲は、5枚目の『Is This Desire?』からのシングル『A Perfect Day, Elis』なのだけれど、ではそのアルバムから彼女の作品を聴くようになったのかというとそうではなくて、それ以前から確実に聴いてはいた。でも、ではそれはいつから?……というのが、なぜかはっきりしない。
おそらくメディアの高評価にのせられて、どこぞのタイミング──『Rid of Me』かなぁ──で聴き始めたのだけれど、そのころはそれほどのめり込むこともなく、つかず離れずの関係をつづけていたんだろうと思う。ようやくこの人って特別だと思うようになったのは『The Stories from the City, The Story from the Sea』からだ。
ということで、なにがいいたいかというと、要するに僕は彼女のリスナーとしてはへなちょこなわけです。いったん好きになってからは、初期の作品もさかのぼって聴きなおして、その素晴らしさを再認識したので、いまとなれば旧譜もすべて愛着はあるけれど、それでもやはり聴き込みのあまさは否めない。ファンを名乗るのもおこがましい。
そんなやつが節約生活のおり、12,500円もするチケット代を払ってこのコンサートに行っていいものか、少しばかり悩んだんですが……。
いやぁ、思いきって観ておいてよかった。ほんとよかった。ロック・ファンなのにこのライヴを観なかった人って、人生をいくぶん損したんじゃないかって思ってしまうくらいによかった。今回の彼女のツアーはロックの経験値が高い人ほど感銘を受ける、そういう種類のライヴだったような気がする。
いやもうね、会場に一歩足を踏み入れて、ステージを観たとたんに、あ、きょうはなにか特別なものが見られるに違いないと、そんな感触があった。BGMのかかってないホールには、静かなざわめきとともに、不思議なオーラが漂っていた。
ステージには新作『The Hope Six Demolition Project』のジャケットに描かれていたエンブレム風のイラストが飾られていて(ただしジャケットのそれとは白黒反転)、そのまえに総勢十名のメンバーの並ぶひな壇があり、わずかなライトに照らされて楽器が並んでいるのが見える。
楽器の配置こそ見慣れない感じだったけれど、それでも特別なギミックのない、ごくシンプルなステージ。それを眺めながら開演を待っている人々の立てるざわめきが──22年ぶりに実現した単独公演に対するわくわく感が──目に見えない何かになって空間を満たしているかのようだった。
やがて開演時刻を5分すぎたところで場内の照明が落ちて、湧きあがる拍手喝采のなか、無人のステージからドラムロールが聴こえはじめる。
おや、SE?──とか思ったら違った。マーチング・バンドのように太鼓を腰の前にぶらさげたドラマーを先頭に、PJハーヴィーを含めた総勢十名のミュージシャンが列をなし、それぞれの楽器をたずさえて、演奏しながら入場してくるという趣向。
こういう場合、主役は最後というパターンが多いけれど、ハーヴィーさんはステージの並び順どおり、真ん中あたりに、ふたりのサキソフォン奏者とともにブーブーとサックスを鳴らしながら登場してきた。あまりにさりげなく出てきたので、それがすぐには彼女とわからなかった。
おもしろかったのは、彼女の衣装が来日公演のポスター──サキソフォン片手に大胆に足を広げて腰を落としているやつ──に使われていたものと同じだったこと。わはは、あれってプロモーション用かと思ったら、ステージ衣装だったんだ!
そんな彼女の衣装のコスチュームっぽさや、ほとんど吹かないサックスを片手に歌う仕草が芝居がかっていたせいもあってか、この日のステージにはどことなく演劇っぽいところがあった。前述したとおり、舞台装置にはとくに演劇的な要素はなかったし、PJハーヴィーもほとんどしゃべらなかったにもかかわらず(たぶんMCはメンバー紹介と最後の挨拶だけ)、それでいてなぜだか不思議と演劇でも観ているような感触があった。
バンドの構成はPJハーヴィー以外はみんな年配の男性ミュージシャンばかりが九人。内訳はドラム、キーボード、ギター、サキソフォンがそれぞれ二人ずつに、ベーシストひとり──とはいっても、ほとんどの人が複数の楽器をこなすようで、けっこう頻繁に楽器を取り換えていたので、誰がなにを演奏しているのか、いまいちよくわからなかった。
それこそドラム(というか太鼓と呼んだほうがイメージに近い)が三人のときもあったと思うし、小さな四角いギターみたいな、それはなに?って弦楽器を弾いている人もいたけれど、いずれにせよ、楽器自体はすべて昔ながらのオーソドックスなものばかり。それを曲ごとにメンバーそれぞれが持ち替えて、バラエティにあふれた演奏を聴かせてくれる。基本となるナチュラルなトーンは変わらないのだけれど、楽器の数が変わることで音のボリュームや感触にさまざまな変化が生じる。
【SET LIST】
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おもしろかったのは、それぞれが腕利きのミュージシャンなんだろうに、サキソフォン以外にはソロの見せ場などは特になく、全員でひとつの音像を形作ることに専念しているような演奏だったこと。ドラムも普通のドラム・セットではなく、立ったまま叩くセッティングになっていたから、メンバーはひとり残らず最初から最後まで立ちっぱなし(年寄りばっかなんだろうに)。十人ものメンバーが全員ずっと立ったままのロック・バンドってのもなにげに珍しいと思った。
まぁ、そんなふうにバンドの構成もなかなか風変わりだったんだけれど、このバンドでなにがいちばん印象的だったって、それは全員がたえまなく歌っていたこと。
いやぁ、ほんと全員が全員、歌うこと歌うこと。演奏中は口がふさがっているサックス奏者以外のメンバーは、終始たえずに全員で歌っていた。それもハモリのコーラスとかではなく、PJハーヴィーと一緒に主旋律をユニゾンで歌う。新譜を聴いて、僕が「素人の合唱団っぽい」と思ったコーラスの正体はこれだったのか!と目からうろこだった。
とにかくこの全員で歌うってのがこのバンドの肝。個々のメンバーの歌が上手いわけではないんだけれど、低い男性ボーカルがまとまってひとつの層をなすその上で、ポーリー・ジーンの通りのよい歌声がなおさら引き立って輝きを増してゆく。陳腐なたとえだけれど、スイカに塩をかけると甘みが引き立つみたいな。そんなふうに九人の男性陣の声が、ただでさえ表現力の豊かなPJハーヴィーの歌声をなおさら魅力的に響かせていた。
この日のライヴを特別なものにしていたのは、そんな風にメンバー全員がひとつになって演奏し、ひとつになって歌う姿勢だったと思う。『The Wheel』のような曲では、演奏パートがない人たちが手が腫れあがりそうな勢いでハンド・クラップしていたりするし(すいません、そんなに速い手拍子、ついてゆけません)。ほんと全員が休みなく、さまざまな形でその音楽に貢献しつづけていた。ひとりの美女を囲んで九人のおじさんたちが歌って踊るそのさまは、白雪姫と七人の小人ならぬ、PJハーヴィーと九人の親父。
とにかく、昔ながらの楽器をオーソドックスに演奏して、オーソドックスに歌っているだけなのに、それがちっとも古めかしくなく、それどころか、いままさに鳴らされるべき現在進行形の音楽としての説得力を持ってヴィヴィッドに鳴っていた。これがなにより特筆すべきことだと思う。レコーディングされた音源を聴いたときにはとくに斬新とも思わなかったその音楽が、いざ生で観たらこれまでに体験したことのないような新鮮な喜びを味わわせてくれるという。これぞ音楽のマジック。PJハーヴィーすげぇ。
セットリストは新譜を中心としたもので、初期の曲はほんのわずかしか演奏されなかったけれど──『White Chalk』の曲が新譜のモードにみごとに混じりあっていて、あぁ、この人の音楽はこの辺からずっと同じモードだったのかなと思いました──、それを残念だと思う人でも、この日のライヴにはじゅうぶん満足がいったんじゃないだろうか。
本編のラストナンバーが新譜のなかでも地味目な『River Anacostia』ってのにも意表を突かれたけれど、でもこの曲でのPJの歌声には、鈴の鳴るような声ってのはまさにこういう声をいうんだろうと思わされる美しさがあった(そのたぐい稀なる美しさを支えていたのは、間違いなく男性陣のコーラスだ)。
そしてこの曲では演出が最高にいかしていた。メンバーが徐々に持ち場を離れて、ステージ前方に集まってきて──そのたびに音数が少なくなる──最後は全員が演奏をやめてアカペラだけになり、最後のワンコーラスを歌い終えると同時に照明が落ちてステージが暗転、ジ・エンド。ほのかにシルエットが浮かぶ真っ暗なステージに向かって、割れんばかりの拍手の嵐が湧きおこったのはいうまでもありません。
いやぁ、ほんと素晴らしかった。願わくばすぐにでも、もう一度観たいと思ったくらい。ぜひとも今回のツアーは映像に残してパッケージングして欲しい。映像でもいいから、ぜひ追体験したいと思うほど、ほんとに味わい深いライブだった。音楽にはまだまだこんなに可能性があるんだって。そんな思いに胸が熱くなった。
最後に素晴らしい演奏を聴かせてくれたメンバー全員の名前をプロモーターの公式サイトから書きうつしておしまいにします。ほんと素晴らしい夜をありがとう~。
(Feb 12, 2017)
【出演者】
PJ Harvey (PJハーヴェイ)
John Parish (ジョン・パリッシュ)
Mick Harvey (ミック・ハーヴェイ)
Alain Johannes (アラン・ヨハネス)
Jean Marc Butty (ジャン・マルク・バティ)
Alessandro Stefana (アレッサンドロ・ステファナ)
Terry Edwards (テリー・エドワーズ)
James Johnston (ジェームズ・ジョンストン)
Kenrick Rowe (ケンリック・ロウ)
Enrico Gabrielli (エンリコ・ガブリエリ)
ウォーペイント
2017年2月28日(火)/LIQUIDROOM
念願かなってようやく生で観ることができました、ウォーペイント。
このバンドのなにが好きかってそのグルーヴ。このバンドの紡ぎだす音とリズムには僕の嗜好のど真ん中を射抜くグルーヴがある。初めてその音を聴いたときからこの子たちの音楽は生で聴いたら最高だろうなと思わせるものがあったけれど、今回ようやくそれが正しかったことを確認できた。
いやもう最高に気持ちいい~。その音とリズム、さらにはメンバー個々の
いや、決して上手いバンドだとは思わないし、このバンドがビッグになってスタジアムを埋められるかというと、そりゃちょっと無理なんじゃないかと思う。フェスで野外とかで聴けたらさぞや気持ちいいだろうなぁと思うけれど、満員のスタジアムをいまのこの音のままで揺るがすところはちょっと想像できない。
でもライブハウスがジャストサイズって感じのそんな親密感もまたこのバンドの魅力という気がする。飾らない女の子たちが勝手気ままなファッションに身を包み、自分たちが好きな音楽を集まって鳴らしている。そんな自由な感触がとっても魅力的。こんなバンドが近くにあってくれたら最高だろうなぁって。そう思った。
ほんと、このバンドが日本にあってくれたら、年じゅう観に行っちゃうのに。めったに見れないのが残念だなぁって──海外のバンドを観て、そんな風に思ったのって初めてな気がする。先月のPJハーヴィーも僕はもう一度観たいと思ったけれど、あれはあの独特なステージをもう一度観たいという感覚だったのに対して、ウォーペイントの場合はこのバンド自体をもっともっと身近に何度でも楽しみたいという感じだった。
【SET LIST】
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ウォーペイントのメンバーは女の子四人。ステージ向かっていちばん左がドラムのステラ・モズガワ(どこの人だ)、そのとなりがギター・ボーカルのテレサ・ワイマン、もうひとりのギター・ボーカルのエミリー・コカル、でいちばん右にベースのジェニー・リー・リンドバーグという並び(印象的な名字の人ばかり)。フロントにギター・ボーカルのふたりが並んでいて、左右のふたりは一段高いところにいた。
メインボーカル兼ギタリストのふたりが目立っているのは確かなんだけれど、ベースのジェニーリーもちょこちょこ動き回っているし、ビート感がとても前に出ているから、ドラムの存在感も十分にある。ということで、誰かひとりが突出している印象はなくて、全員で一体になって演奏を楽しんでいる感じが伝わってくる。服装もまちまちで、てんでに自分がかわいいと思う格好をしている感じ。
調べたらメンバー中三人がすでに三十なかばのようだし、それぞれがとくに美人って感じでもないのだけれど、でもステージ上の彼女たちはホント可愛くて魅力的だった。とくにテレサが演奏の合間にロングヘアーをかきあげるしぐさがいちいち色っぽいこと。エミリーとジェニーリーが最後の曲でまとめていた髪をほどいたりしたのも、いかにも女の子って感じで素敵だった。
演奏に関して意外だったのは、一曲目の『Bees』でいきなりテレサがハンドマイクで歌い始めたこと。おいおい、ギター弾かないのかよ!
まぁ、その曲の途中から弾き始めて、結局大半の曲では弾いていたけれど、でも彼女とエミリーのどちらか一方しかギターを弾かないで、もう片方がハンドマイクって曲がけっこうあった(比率的にはエミリーが弾かないほうが多かった印象)。
あと、目立たないながらもそれなりにシーケンサーも使われているっぽかった。ジェニーリーがベースを弾いてないのにベースの音がしている時とかもあったし、ところどころでシンセも鳴っていた。僕の位置からはよく見えなかったけれど、『New Song』のイントロではエミリーがキーボードを弾いていたから、もしかしたらコンピュータ頼りではなく、普通に弾いていたのかもしれないけど。
いずれにせよ印象的だったのが、とにかく自由にやってるなぁってこと。べつにギターが二本も必要ないと思ったら弾かなければいいし、足りない音があったらコンピュータ使って補えばいい。とにかく自分たちが鳴らしたい音を鳴らしたいように鳴らせばいい。彼女たちの音楽を奏でる姿勢にはそういう自由闊達さがあった。そこがなんともよかった。
この日は前座があったので、彼女たちのステージが始まるまで一時間近く待たないとならず、しかも始まったら始まったでアンコールまで含めて一時間半という、ふだん僕が観ているエレカシなんかのライヴからするとずいぶん短めのステージだったけれど、それでも十分に満足だった。とても素敵な経験をさせて頂きました。
惜しむらくは、僕の前にいた人たちの背が高くて、ステージがよく見えなかったこと。あと、けっこう混んでいて、身動きがとりづらかったこと(ダッフルコートを着たままだったのでかなり暑かった)。できればもっと見晴らしのいいところで、ゆったりと観たかった。
そういう意味ではこのバンドをフェスで観たらさぞや気持ちいいだろうなぁと思った。またフジロックに出演することが決まったら、次はがんばって観に行こうかなぁ。ほんと最高でした、ウォーペイント。生で観て惚れ直した。
そうそう、あまりライブ自体には関係のない話だけれど、開演前のSEで最後にかかったのがキュアーの『Push』だった。僕は彼女たちのことをキュアーの純正なフォロアーだと思っているので、わが意を得たりで、おぉ~と盛りあがったのだけれど、僕の横にいた女の子たちは「こんなのもかかるんだねー」とか言ってました。ま、キュアーでも、もっとも明るい部類の曲だからねぇ。確かにミスマッチかも。
(Mar 05, 2017)
エレファントカシマシ
30th ANNIVERSARY TOUR 2017 "THE FIGHTING MAN"/2017年4月8日(土) /北とぴあ・さくらホール
エレカシのデビュー三十周年記念・全国四十七都道府県ツアーの初日。メンバーの地元・東京都北区にある北とぴあが会場ってことで、全日程のうちでももっとも人気があったんだろうに、それでもさらっとチケットが取れてしまうあたりが、わがエレカシラッキー運のラッキーたるゆえん。
会場の北とぴあ・さくらホール──僕は高校時代のクラスメートの半分が北区出身って印象で、二十代のころにはこの施設の一室でクラス会が開かれたこともあった(どんなところかぜんぜん覚えてなかったけど)──はなかなかきれいなホールでした。僕が知らないだけで、こういうホールがきっとあちこちにあるんだろう。東京ってすごいなと思う。
この日のエレカシはメンバー四人にヒラマくん、村山☆潤の六人編成。アニバーサリー・ツアーってことで、メンバー四人はスーツ着用(トミはよく見えなかったけど、きっと着ていたんでしょう)。宮本はこのごろ凝っているというネクタイを締めていた(でもシャツの裾は出したままという)。村ジュンもたぶんスーツ姿。ミッキーだけはジーンズにジャケット着用(?)というラフな印象だった。
ツアーのオープニングを飾る注目の一曲目は『歴史』。いきなりガツンとぶっぱなすんでも、しっとりと歌い上げるんでもない、ニュートラルな立ち上がり。でもまぁ、エレカシってこういう感じで入ることが多い気がする。そういう意味ではこれから始まる長丁場のツアーのオープニングにはふさわしいかなと思う。
2曲目の『今はここが真ん中さ!』からの本編は、キャリアのポップな面を前面に打ち出したようなヒットパレード色の強い内容になっていた。宮本のダークサイドを感じさせたのは『ハロー人生!!』くらいじゃないだろうか(あと『戦う男』)。その点、僕にとってはちょっともの足りない内容だった。
でも歌うたいとしての宮本の魅力は全開になるセットリストだったとも思う。宮本の大らかで強い歌声を堪能したいって人にとっては最高の内容だったんじゃないだろうか。そういう意味での気持ちよさは確かにあった。
アニバーサリーということで、宮本が一曲一曲、その当時の思い出を語ってみせるのも今回のツアーの特色らしい。『今宵の月のように』が街中で流れているのを聴いて感動したとか、『戦う男』を野茂英雄のCMのために書いたとか。けっこう最近テレビに出て語っていることも多かったので、それほど耳新しいエピソードはなかったけれど、でもステージで宮本自らが語ってもらうと、それはそれで感慨深いものがある。
【SET LIST】
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この本篇のつっこみどころのひとつは、『デーデ』がまたもや宮本のイントロで始まったこと。でもこれが正直なところ上手くない。やっぱそこは石くんに任しておいたほうがいいんじゃないの?――というか、この曲は石くんのイントロで聴きたいぞと思ってしまった。宮本のイントロの不安定さを聴いて、じつは石くんってギター上手いんじゃないかと僕は初めて思った。
なぜだかこのツアーの宮本はギターを弾きたいモードらしく、この曲を含めて本編の途中まではほとんどの曲(もしかして全部?)でギターを弾いていた。こりゃもしかして最後までギターを手放さないのかなと注目していたら、『RAINBOW』でようやくハンドマイクになる。でもここでもちょっとしたミスがある。その前のインスト・ナンバー『3210』から『RAINBOW』へのつなぎの部分でギターを手放すのに若干もたついて、いささか締まらないことになっていた。あそこはアルバムと同じように『3210』から間髪入れずに『RAINBOW』に突入してくれないとなぁ。聴いていてちょっとずっこけた感あり。
でもこの日のミスはその二点くらいじゃないだろうか。あとはとても安定感のある、充実したステージだった。
三週間前に三十周年記念コンサートと題した大阪城ホールの生放送をテレビで観たときにも思ったことだけれど、今回のツアーの『やさしさ』がとてもいい。村ジュンのエレピの優しい響きが加わって、なんとも味わい深かった。
あの日のコンサートは『ファイティングマン』で始まって、本編だけで主なヒット曲はすべて網羅するような内容だったので、第二部以降はどうすんだよと思ったもんだけれど、その点はこの日も似た感じ。今回は『ファイティングマン』こそ温存してあったけれど、あとの主要なシングルはほとんど本編だけで披露してしまった。
こうなると第二部以降は全曲俺のフェイバリット・ナンバーのオンパレードか──と思ったら、意外とそうでもない。たしかにハードな曲が多くはなったけれど、それでも『いつか見た夢を』(なんかとてもひさしぶりな感じ)や『夢を追う旅人』など、ポップ・サイドも適度に交えたバランスの取れた選曲になっていた。
とはいえ、その中でもっともインパクトがあったのは『奴隷天国』。なまじ本編がMC多めでフレンドリーだっただけに、そこから一転してまったくMCなしで演奏されたこの曲での宮本の迫力には襟を正したくなるような緊張感があった。すでに二時間をゆうに超えたあの時間帯に、あんな緊迫したムードを醸せるバンドなんてほかにないだろう。
開演時間の五時から五分ほど遅れてスタートして、アンコールの『花男』で終わったのが八時ちょっと前。およそ三時間弱という長さをつゆとも感じさせない充実した内容だった。地元でのライブ──とはいえ、場所は王子なので、赤羽出身の宮本にしたら、地元意識はそれほど強くないんじゃないかと思っていたら、やはりMCでそれに近いことを言っていた──ということで、そのせいか、いつになくオジさんのお客さんが多いのも印象的だった(まぁ、僕もそのひとりなわけだが)。
そういや、ライブが終わるなり、僕の二列前にいた男性グループのひとりがニコニコしながら前後左右にお辞儀していたけれど、あれはメンバーのお友達かなんかだったんですかね? もしかしたら俺の知りあいの知りあいだったりするのかもと思ったりしました。エントランスには中学の同級生一同から贈られた花が飾ってあったし、そういうところもいつにない感じでおもしろかった。
(Apr 23, 2017)
エレファントカシマシ
30th ANNIVERSARY TOUR 2017 "THE FIGHTING MAN"/2017年7月9日(日) /オリンパスホール八王子
ツアー初日からおよそ三カ月ぶり。エレカシの三十周年ツアーをふたたび観ました。
会場は八王子のオリンパスホール(八王子市民会館が駅前に移転したものらしい)。メンバーは前回と一緒でミッキーと村ジュンをサポートに迎えた六人編成。村ジュンは今月で離脱するそうなので、彼の演奏を観るのはこれが最後かもしれない。
今回のツアーはエレカシには珍しくアンコール以外は全日程ほぼ同じセットリストということで、どれだけ楽しめるものか若干心配だったのだけれど、いざ観てみたらなんの問題もなかった。前回のセットリスト、ほとんど忘れていたんで(記憶力なさすぎ)。そりゃさすがに『歴史』から始まることくらいは覚えていたけれど、それ以降の展開はすっかり忘却の彼方。ということで二度目なのに普通に楽しめてしまった。
ライブは『歴史』で始まり、『今はここが真ん中さ!』と『新しい季節へキミと』、『ハロー人生!!』までがほぼノーMCで演奏されて、そこからはヒット曲を中心に、思い出話つきでキャリアを辿る本編に突入するというパターン。その点は前回も同じだったのだけれど、驚いたのは話の内容がそれぞれにアップデートされていた点。
『デーデ』でのバンド結成当時の思い出話とか──そういやこの曲で宮本がギターを弾いているのは、やはり自らの処女作ということで、初めて自分で考えたギターリフだから、自分で弾きたいと思ったんでしょうかね──、『悲しみの果て』で事務所を解雇された話とか。前回も同じようなことは話していたとは思うんだけれど、そのディテールがけっこう違っていた(でもどう違ったかはもう忘れた)。
『戦う男』での梶原一騎が好きって話とか──三十周年のキャッチコピーの「どーんと行け!」は『巨人の星』の主題歌からだといって、その歌詞をほぼ全編引用していたのには笑った──、たしか『風に吹かれて』だったと思うけれど、佐久間正英プロデューサーのレコーディング秘話とか(トミに壁をむいて演奏するように指示したとか)。なんかいつになくレアなトークのオンパレード。
話のなかで佐久間さんやその他の人の口調を真似して笑いを誘ったりしていたし(似てるかどうかは知りません)、八王子のどことかの史跡をバスで訪れたときに、近くをゆくトラックの音を熊の鳴き声と勘違いしたというような話を即興で弾き語りして、笑いをとったりもしていた。こういう感じで毎回少しずつ違う話を披露しているとしたら、そりゃ毎週のツアーについて歩きたくなっちゃうファンがたくさんいても不思議じゃないなぁと思いました。
とにかくこの宮本のトークが今回のツアーの大きな目玉になっているのは間違いないところ。まぁ、うちの奥さんにはちょっとしゃべりすぎでライヴの勢いが足りない気が……みたいなこといわれてましたが。
そういや、全員スーツ着用は前回と一緒だったけれど、この日は宮本が白シャツの裾をズボンにしまっていた。で、そのままジャケットを脱いだあとも第一部のあいだはずっと入れっぱなし。おそらく宮本がシャツの裾を出していないライヴってこれが初めてだと思う。もしかしたらネクタイ締めっぱなしもなのも(第二部では黒シャツに着替えてました)。こういうディテールの変化が気にかかるのも、長丁場のツアーならではだ。
【SET LIST】
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演奏面でいうと、なんだかいつもよりゆっくりめになっている曲が多かった印象だった。北区のときにはとくに気にならなかったから、ツアーをつづけるうちに徐々にスピードが落ちてきたんだろうか。とにかくたっぷりの話とゆったりめのビートが今回は印象的だった。前回はおかしいと思った『デーデ』のイントロとか、『RAINBOW』の入り方とか、それなりに堂にいった感じになっていたし、さすがに三ヶ月もつづけているだけあって、演奏の
セットリストで前回と違っていたのは、本編のラストが『俺たちの明日』で終わらず、そのあとにNHKの『みんなのうた』のために書いた新曲『風と共に』が演奏されたこと。こども向け番組のために作ったにしては、やたらと凝った構成の曲で、ラストが弾き語りになるところが、ライヴだとなかなか感動的だった。
この曲が入った分、一曲増えたのかと思ったら、アンコールでは『いつか見た夢を』がカットされて、結局曲数は前回と一緒だった。でもポップなその曲が抜けたために、アンコール序盤は硬派な曲がずらりと並んで、前回より倍くらいハードな印象になっていた。僕はこういうエレカシのほうが好きだ。
なかでもすごかったのが、やはり『奴隷天国』。前回もだけど、今回も問答無用のド迫力だった。MC多めの本編のフレンドリーさのあとだけに、この曲の愛想のない宮本のパフォーマンスにはビリビリきた。バンドの演奏もソリッドで最高だし、なまじゆっくりめの曲が多かったぶん、この曲の迫力には図抜けたものがあった。今回のツアーのクライマックスは常にこの曲なんじゃないだろうか。
第二部の締めは『ファイティング・マン』。前回書き忘れたけれど、この曲のときに満を持して三十周年記念のエンブレム──宮本がジャンプした姿をシルエットにしたやつ──のたれ幕がずずずい~っと降りてきた。それまでライティングだけで、ほかに演出らしい演出がゼロだったので──たかだかたれ幕一枚ながら──これまたとても感慨深く、胸に迫るものがあった。
あと、そのあとのアンコールが『so many people』一曲だけってのも、なにげに新鮮。個人的には宮本がハンドマイクで歌う曲のほうが好きなので、『待つ男』で締める王道パターンとご無沙汰なのはちょっと残念だけれど、でもまぁ、そういう変化もまたバンドには必要だと思うので、この日のアンコールはそれはそれでよし。
しかし、四十七都道府県ツアーの東京編だったはずが、この日の宮本は「八王子」ばかりを連発していて、いちども「東京」と言ってないんじゃないだろうか。やっぱ八王子を東京と呼ぶのは違和感があるんだろうなぁと、同じく二十三区内の片隅で育った身としては思ってしまいました。ごめん、八王子。
それはそうと、この日のライヴは(数えまちがいでなければ)僕にとって通算99回目のエレカシのライヴだった。つまり次でついに百の大台に到達。うまくいけば野音が百回目か?――と思っていたんだけれど、うちの奥さんの希望でサマソニにゆくことになったので、記念すべき百回目はサマソニということになる予定。
これでツキが落ちて今年はついに野音を観れずに終わりそうな予感が……。
(Jul 17, 2017)
【追記】1992年に記録漏れが一本あったので、実際にはこの日が百回目だった模様。そしてやはりこの年の野音は観られなかった。
プリザヴェーション・ホール・ジャズ・バンド
2017年8月12日(土)/Billboard Live TOKYO
ニューオーリンズのフレンチ・ウォーターの一角にプリザヴェーション・ホールというライブハウスがある。
ライヴハウスといっても、一般的なそれとは違って、ドリンクや食べ物は提供されない。というか、そもそも入っている建物自体がライブハウスとして設計されたものではなく、そういうものを出すための設備がない。築三百年を超えるおんぼろ店舗の一階をそのまま転用していて、店内はほとんどからっぽ。せいぜい演奏をするスペースを照らすための照明と、前列のお客さんが坐るための椅子がいくつかあるくらい。板張りの床はなんだかでこぼこしているし、ライブハウスと呼ぶにはあまりに狭くてぼろい。びっくりするくらいぼろい。
でもその店がニューオーリンズきっての観光名所となっているのは、そこでは昔ながらのディキシーランド・ジャズが四六時中演奏されているから。
フレンチ・クォーターにはたくさんのライヴハウスがあるんだろうけれど、基本的にどこも商売でやっていることだから、そこで演奏される音楽も時代の淘汰を受けて、たいていはいま現在の音になっている。僕らがニューオーリンズ・ジャズと聞いて思い浮かべるような、明るくて陽気なジャズを聴かせる店はそうそうない。いや、あるのかもしれないけれど、僕などにはどこあるんだかわからない。少なくても石を投げればあたるってくらい、簡単に見つかるものではないだろう。
そんな中、プリザヴェーション・ホールへ行けば──そしてわずかばかりの入場料を払えば(僕らが二十年前に行ったときにはたった四ドルだった)──、そういうジャズがいつでも気軽に聴ける。ワンステージ三十分とかだった気がするけれど、それでも聴ける。びっくりするくらい古いおんぼろ家屋のなかで、それゆえにごく近くで、昔ながらのスタイルで演奏されるディキシーランド・ジャズを聴くのって、なかなか得がたい経験だったりするわけです。
この日の主役のプリザヴェーション・ホール・ジャズ・バンドは、その名のとおり、そのプリザヴェーション・ホールの専属バンド。そういうバンドがニューオーリンズを離れて海外ツアーに出ちゃっていいのか、ちょっとばかり疑問だけれど、まぁ、バンドの性格上、メンバーがびしっと固定されているわけでもなさそうなので、現地では別のメンツで夜な夜な演奏が行われているんでしょうかね(ミッキーマウスが世界中のディズニーランドにいるのに近い印象)。よくわからない。
僕は新婚旅行でニューオーリンズに行ったときに、妻に導かれるままにプリザヴェーション・ホールへと足を運び、彼らの演奏を現地て観た(僕にとっては生涯でただ一度だけの海外旅行)。今回そのバンドの来日公演があることを一週間前になってたまたま知り、会場のビルボードライヴ東京には一度行ってみたいと思っていたこともあったので、じゃあせっかくだから観にゆこうってことになった。
まぁ、一度だけ聴いたことがあるってだけで、知っているというのもおこがましいくらいのバンドだから、去年までだったら絶対に観に行ってないですけどね。こうやって観にゆけるのも、娘さんが国立大学に入ってくれて、進学資金の悩みから解放されたいまだからこそだ。出来のいいわが子に感謝。
なんにしろ、僕らが前回このバンドの演奏を観たのは二十年以上も昔の話だし、そのときのバンドのメンバーがどういう人たちだったか、すっかり記憶にないので、まったく違うバンドだったりするのかなと思っていたら、案の定だった。メンバーはドラマー以外、あきらかに僕らより年下。当時はまだメンバーじゃなかろう。
せっかくだからビルボードライヴ東京の公式サイトに上がっているメンバーの名前を書き写しておく。
ベン・ジャフィ / Ben Jaffe (Bass, Tuba)
クリント・メドゲン / Clint Maedgen (Saxophone)
ロネル・ジョンソン / Ronell Johnson (Trombone)
シャノン・パウエル / Shannon Powell (Drums)
カイル・ルーセル / Kyle Roussel (Piano)
ブランドン・ルイス / Branden Lewis (Trumpet)
ベースのベン・ジャフィはプリザヴェーション・ホールの経営者の息子(この前フー・ファイターズの作った音楽ドキュメンタリーで知った)。彼とサックスの人が白人で、残りの四人が黒人。ドラマーのシャノン・パウエルという人が最年長で五十五歳らしい。あとは三十代から四十代って感じでしょうか。本当は八十二歳のチャーリー・ガブリエルというおじいちゃんも来日する予定だったらしいのだけれど、残念なことに健康上の理由でキャンセルになってしまった。
というわけで、伝統のジャズ・バンドとはいえ、メンバーは比較的若め。だからなのか──それともキューバ音楽に影響されたという全曲オリジナルの新譜をリリースした直後のツアーだからなのか──、この日の演奏はあまりディキシーランド・ジャズっぽくなかった。これぞセカンド・ラインって曲もあったけれど、でも全体的な印象として「昔ながらの」って言葉がふさわしい感じではなく、それなりに現在進行形でアップデートされている感じ。
僕はジャズというとセロニアス・モンクやマイルズ・デイヴィスあたりしか聴いていないので、そういう50~60年代の音楽とはあきらかに違うし、でも純然たるディキシーランド・ジャズって感じでもない。ジャズというとインストのイメージだけれど、この日の演奏では最初と最後が歌もの(というかコーラスが大いにフューチャーされた曲)だったし、ドラムの人が最初から最後まで歌いっぱなしのゴスペル・ナンバーなんかもあった。ということで、ちょっとばかり予想していたのとは違う内容だった。
でもまぁ、基本的に全編にわたって陽気なヴァイヴが満ちているあたりがやはりニューオーリンズらしいっちゃらしいなと思いました。若いメンバーが多いからか、全体的にとにかくパワフル。マイナーコードの曲にもデューク・エリントンっぽい陽性のヴァイヴがあった。
バンドの六人は、白人のサックス奏者(カジノで酔っぱらっていそうなタイプ)、スマートなトランペットに、太っちょのトロンボーン(いちばんキャラが立っていた)。この三人が前に並んで、左手奥にドラムセット、ステージ中央にウッドベース(終始うしろ向きで演奏していて、シューゲイザーのジャズ版みたいだった)、で右手にキーボードという編成(鍵盤の人は僕らがいたステージ向かって左手のカジュアルエリアのカウンター席からは背中しか見えなかった)。ジャズなのに電子ピアノだったのが、個人的にはちょっとばかり残念なところ。
そういやステージ右手にはバンド名の入ったチューバ(?)だかなんだかが置いてあったけれど、それは最後まで結局吹かれずじまいだった。あれはステージセットの一部だったんでしょうかね? それともバンドのアイデンティティーの一部として、いつでも飾っておくならわしなのか。よくわからない。
門外漢なのでタイトルのわかる曲はひとつもなかったけれど──あとで確認したら半分以上は新譜の曲だったっぽい(予習不足)──、でもまぁ、生音好きとしてはジャズの生演奏ってそれだけでもう楽しい。ロックのライヴとはかなり感触が違うし、会場のビルボード・ライヴ東京は食事をしながらライヴが楽しめるのが売りのおしゃれなライフハウスなので、ちょっとディズニー・ランドのアトラクションを観るのに近い楽しさがあった。たまにはジャズの生演奏を聴くのもいいなぁと思いました。
アンコールの最後にはリズム隊が引っ込んだあともトロンボーンのにいちゃんたちだけが残って客席に下りてゆき、観客のあいだを演奏しながら練り歩いて退場するってエンディングもおもしろかった。いかにもニューオーリンズって感じがする。
そういや、ビルボードライブ東京ってステージのうしろがガラス張りになっていて、東京の夜景を眺めながらライブを楽しめるってのが売りのひとつだと思うんだけれど、この日の僕らが観たのは16時からの回だったので、最後までカーテンが閉まったままでした。それはちょっと失敗だったかも。次はふつうに夜のステージを観にきたい。
(Sep 03, 2017)
SUMMER SONIC 2017(一日目)
2017年8月19日(土)/ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ
今年で三年連続のサマソニなのだけれど……。
今年は直前になってもまったく気分が盛りあがらなかった。なんたって観たい洋楽アーティストがぜんぜんいないんだから。ラインナップに関しては、少なくても僕個人的にとっては、間違いなく過去最低。
うちの奥さんはエレカシと佐野元春のファンなので、この両者が一緒に観られるってだけでぜひ行きたいって言っていたけれど、両方あわせて一時間半くらいのステージのために一万五千円は高いでしょう? それだったら同じ値段で別々にワンマンのチケット取った方が満足度高いじゃん、とか思ってしまった。
だから本当はスルーしようかと思っていたんだけれど、結局観にゆくことに決めたのは、サマソニ会場をそのまま使って深夜に行われる別枠のイベント、ホステス・クラブ・オール・ナイターにセイント・ヴィンセントの出演が決まったがゆえ。
サマソニ本編の不作さとはうらはらに、そちらにはホラーズ、ライド、モグワイと、ほかにも興味のあるUKアーティストが多かったので、まぁ、それを含めてサマソニと考えれば、行ってもいいなと思ったんでしたが……。
去年まで無料だったそのホステスが、今年は別料金だとか言いやがることを、チケット購入後に知りました。なんだそりゃ~。会場はサマソニと同じだよ? 去年まで無料だったんだよ? そしたら今年だって無料だと思うでしょうよ、普通?
あまりにむかついたので、ホステスは観ないで帰ってきちゃおうとかとも思ったんだけれど、でもあとから「セイント・ヴィンセント最高!」とかいう他人のツイートをみて後悔するのも嫌だしなぁ……ってことで、仕方なく追加料金払いましたよ。ちくしょうめ。来年以降は気をつけよう。
さて、そんなわけでやたらと低調な気分でスタートした今回のサマソニ。ひと組目のアーティストはなんと、ピコ太郎@マリンスタジアムだっ。
去年はサンフラワー・ビーン、一昨年はウルフ・アリスだったオープニング枠が、今年はいきなりなぜピコ太郎……。
でもまぁ、ピコ太郎、なかなかおもしろかったです。『PPAP』しか知らないし、それはスタートからわずか1分で終わっちゃったけれど。でもそのあとサングラスについて歌った新曲とか、サマソニ音頭もそれなりにおもしろかったし、とりあえずどれもバックトラックは打ち込みのダンス・ビートなので乗りがいい(本人とDJとの二人組)。まわりも楽しそうで、最初からなかなかの盛りあがりだった。わずか15分だけのステージで、おまけにただでさえ短い曲ばかりなのに、一曲やるたびに「ちょっと休憩しま~す」とかいうのもおかしかった。
とりは当然のごとく、ふたたび『PPAP』。ただ今度のはロングバージョン。アリーナを「アッポー・サイド」と「パイナッポー・サイド」に分けてのコール・アンド・レスポンスも一見の価値あり。意外とやるな、古坂大魔王。
いやしかし、このときのスタジアムは暑かった。開演前にふった雨が水たまりを作っていて蒸し暑いし、陽射しは凶暴だしで、辛抱たまらず。さっさとメッセに戻ることにした。
メッセではサンダラ・カルマ、ハイ・タイドを流し観。スタジアムのホセ・ジェームズに興味があったので、そのあとがんばってふたたびスタジアムに戻って、二階席のスタンドに腰をおろしてみたけれど、やはり暑さに負けて、いまいちライヴに集中できず。途中で抜け出して、ビーチ・ステージへ足を運んで、大森靖子を二、三曲観てメッセに戻った。
そのあとスタジアムに出演予定だったチャーリーXCXが喉の不調によりキャンセルとなったので、選択の余地がなくなったこともあり、次にマウンテン・ステージでデュア・リパ(Dua Lipa)をフルに観た。
でもこの子が予想外によかった。若干21歳のUKの歌姫だけれど、美人だわ、スタイルはいいわ、歌はうまいわで、スターとしてのオーラたっぷり。なんか、007シリーズでボンド・ガールを務めさせて、なおかつ主題歌も歌わしちゃっていいんじゃないのって思った。そういうのがぴったりな感じ。すげー感心しました。
声が低めなこともあって、直前にスタジオ音源を聞いたときには、チャーリーXCXやこの次のザラ・ラーソンのほうが好きかな……と思ったんだけれど、生で観たらすごいよかった。バックトラックも一本芯の通ったカッコよさがあった。なんとなく白人版のリアーナみたいな感じで、本気で音楽活動に身を捧げる覚悟があれば、この先けっこういいところまでゆくんじゃないだろうかと思った。
デュア・リパが黒髪のロングヘアーに黒のパンツ・スーツでスタイリッシュに決めていたのに対して、次のザラ・ラーソンは黒いサマソニのオフィシャルTシャツにデニムのショートパンツ姿という、いかにもピチピチした金髪ギャル(スウェーデン出身)。それもそのはず、わずか19歳だって。ひえー、うちの子と同い年。
この子も歌は文句なしに上手いし、ステージングも堂々としている。若くてもできる子たちはできるんだねぇ……と感心してしまいました。
そういや、この二組のステージはフロアのうしろのほうで坐ったまま観ていたのだけれど、客はこっちの子のほうが多かった。僕の印象だとデュア・リパのほうが大物感があったので、出演順といい、客の数といい、ザラ・ラーソンのほうが人気があるらしいのは、ちょっと意外だった。
さてこのあとがようやく日のメイン・イベント第一弾、エレファントカシマシ。
待ち時間にレインボウ・ステージでやっていた中田ヤスタカときゃりーぱみゅぱみゅの師弟コンビによるステージにも興味があったのだけれど、入場規制がかかりそうだったので、パワー温存で移動せず。マウンテンでそのままエレカシの出番を待った。
うしろのほうでゆったり観るつもりでいたんだけれど、移動しなかったため、待ち時間は前方がガラガラだったので、結果的にけっこう前のほうで観ることになった。好きなアーティストをいつもより近くで観たい人はフェスはお薦めだと思う。とくにサマソニは洋楽主体のフェスだけに、エレカシのような邦楽アーティストは最前列に近い距離で観られそう。
この日のエレカシのステージは三十周年ツアーの縮小版のような感じだった。メンバーはミッキーとサニーさんを加えた六人で、オープニングが『ドビッシャー男』だったのは意表をついていたけれど──しかもワン・コーラス目の歌い始めでいきなり歌詞を忘れる宮本──、それ以降は『悲しみの果て』『今宵の月のように』らの代表曲に『RAINBOW』や『ガストロンジャー』のようなライヴ映えするナンバーを加えて、『ファイティングマン』で締めるという納得のメニュー。
【エレファントカシマシ】
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「一発目の『ドビッシャー男』でがんばりすぎました」と『風と共に』で声が枯らしていたのも宮本にしては珍しかったし、自分たちのファンではない人に囲まれて、ちょっぴり謙虚なMCを繰り出す宮本も新鮮だった。
あと、前述のヒット曲二曲や『俺たちの明日』では、珍しく男性客主体の大合唱が起こっていた。あれは普段エレカシの歌をカラオケで歌っている人たちでしょうかね? あまりワンマンではないことなので、少なからずびっくりした。
ステージ自体は短くて、普段から彼らの三時間超えのパフォーマンスをあたりまえのように観ているファンとしてはものたりなかったけれど、それでもシチュエーション的にいつもとは違うところが随所にあったのが新鮮でおもしろかった。フェスで観るエレカシもなかなか悪くないなと思いました。
あ、ちなみにこれが僕にとっては記念すべき通算百回目のエレカシのライブ。今年は予想どおり野音のチケットが取れなかったので、次は十一月の大宮の予定です。
(【追記】とか思っていたら、実際には百一回目だった)
エレカシのあと、ガーデン・ステージに出演する佐野元春を待つまでのつなぎに観たのは、ソニック・ステージのブラッド・オレンジと、マウンテンのSuchmos、フェニックスの三組。本当はSuchmosをフルで観ようかと思ったんだけれど、このルーキーがすごい人気で(おそらくマウンテンではこの日いちばんの入り)、坐って観るスペースがなさそうだったので、ここで無駄に体力を消耗しちゃいけないからと、ほかへ移動した。あとで戻ってきてちょっとだけ観たけど、まぁ、僕の趣味からするとややスマートすぎるかなという感じだった。
ブラッド・オレンジも集中力が足りず、観たというのがおこがましいレベル。それに比べるとフェニックスは、とてもわかりやすくポップかつパワフルでよかった。観たのは数曲だけだけれど、こりゃ盛りあがるのわかるって感じ。
フェニックスの時間帯にはマリンでブラック・アイド・ピーズ、ビーチで東京スカパラダイスオーケストラのステージがあったので、当初はそのどちらかを観ようかと思っていたのだけれど、折悪しくちょっと前に雨が降っていたので、本命のまえに雨のなかで体力を消耗したんじゃ仕方ないからと、その二組は諦めた。実際には雨が降ったのはほんの一時だったみたいなので、ちょっと失敗した気もする。でもフェニックスが思いほのかカッコよかったので、まぁよし。
さて、この日のサマソニ本編のとりは佐野元春&ザ・コヨーテ・バンド@ガーデン・ステージ。このあとでカザビアンも観たけれど、気分的には文句なしにこちらがクライマックス。
野外ステージなので雨を心配しつつ、ちょっと早めにステージに行ってみたら、夏枯れした芝生の広場にしつらえたステージでは、やはり強い風にまじって雨の気配が漂っていた。なんたってその夕は関東各地で雷雨警報が出ていて、花火大会が中止になったところもあるという。佐野元春のステージも中止になったりしないかとちょっとばかり心配だった。
そしたら、海を背にしたステージの後方では、遠く向こうの夜空の上で断続的に雷が光っている。おいおい、こんな状況でライブやって大丈夫なのかよと思った。
ただ、雷は派手に光りこそすれ、ゴロゴロという音はいっさい伝わってこない。あぁ、こりゃ雷が落ちているのはかなり遠方なんだなというのがわかって、ちょっぴり安心した。そういや、海の上に落ちる雷ってきれいなんだよねって。三十数年前に高校の修学旅行でフェリーに乗った夜に観た雷のことを思い出したりした。
なんにしろ、雨は降りそうで降らなかった。おかげで湿り気の混じった海風が涼しくてやたらめったら心地よい。シャンゼリアが吊るされ、アンティーク調の装飾が施された薄暗いステージはムード満点だ。なんかもうシチュエーションが最高。これから素晴らしいライヴが観られる予感ひしひし。
とはいえ、不安定な天気を嫌ってか、開演を待つオーディエンスは極端に少ない。隅の方へゆけば、ステージ最前列の柵にしがみつけちゃうくらいに少ない。おいおい、天下の佐野元春だってのに、こんなにお客さん少なくていいの?―─って思ってしまった。あぁ、もったいない。
おもしろかったのは、開演を待つ機材セッティングのあいだに、深沼くんらコヨーテ・バンドのメンバー自身が出てきて、自ら楽器をチューニングしていたこと。ライティングがないので、顔とかはよく見えないけれど、これってメンバー本人だよなぁと思って見ていたら、そのうちチューニングの音出しがインストのセッションへと発展してゆくという。いやぁ、涼やかな風に吹かれながら、薄暗いステージから流れてくる飾り気のないバンド・サウンドに身を任せていると、なんて気持ちがいいことか。始まる前から最高の予感がさらに高まる。
そのセッションの流れにのって佐野元春が登場するのかと思ったら、そんなことはなかった。メンバーはその演奏を適当なところで終えると、いったんステージから引っ込んで、しばらくたってから再登場。あらためて主人公の出番を待つ。
【佐野元春】
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そしてメンバーが持ち場についたあと、満を持して佐野元春が登場~。
と、この日の佐野さんはこれまでと装いが違う。なんとグレーのスーツにネクタイまで締めている。しかも髪が短い! 白髪を短く刈ってスーツでビシッと決めた佐野元春は、まるでファッション業界のお偉いさんのようだった。
もうひとつ意表をついていたのは、この日の佐野さんがほとんどギターを弾かなかったこと。佐野元春というとハンドマイクよりはギターを弾きながら歌っているイメージのほうが強いので、ラストナンバーの『アンジェリーナ』でおなじみの赤いストラトキャスターが登場するまで、一度もギターを手にしなかったのが僕にはとても意外だった。
そうそう、もうひとつ意外だったのは、コヨーテ・バンドの音の小ささ。待ち時間のセッションのときから随分と控えめな音量だなと思っていたら、本編に入っても変わらないままだった。おいおい、なんて音が小さいんだ。
佐野さんは現在の自らの音楽をアダルト・コンテンポラリー・ミュージックと呼んでいるようなので、もはや自分の音楽には若さの代名詞のような大音量は必要ないと思っているのかもしれない。まぁ、実際にその音はとんがってはいないものの、その夜の雰囲気にはぴったりだった。
かくして湿り気まじりの涼しげな海風の吹く中、控えめな音量のロックンロール・サウンドをバックにして、ハンドクラップしたり、タンバリンをたたいたりしながら新旧の名曲を歌うスーツ姿の佐野元春を僕らは観た。オーディエンスこそ少なかったけれど、その分、ひとりひとりが盛りあげなきゃファンとしての沽券にかかわると思ったかのようで、とてもいいムードのライヴだった。
コヨーテ・バンド向けにタイトにアレンジされなおした『君をさがしている』から始まったステージは、そのあと新譜『MANIJU』と前作『Blood Moon』の曲を中心に聴かせたあと、最後は『New Age』、『約束の橋』、『アンジェリーナ』の三連発でとどめを刺すという鉄壁な内容。とくにラストの『アンジェリーナ』でのオーディエンスでの大合唱がすごかった。佐野元春の声が聞こえないくらいの大合唱に、佐野さんもとても嬉しそうだった。
いやぁ、とにかく気持ちのいいライヴだった。稲光が光って、涼しい風が吹き抜ける自然の演出が最高のムードだったし、バンドの演奏もよかった。両者の相乗効果で、この夜しかできない体験をしているって感覚がすごくあった。僕の今年のハイライトは完全にこのステージ。これを観れただけでもチケット代のもとがとれた気がしました。
佐野さんのステージが終わったあと、そのままその場所で花火が上がるのを観てからメッセに戻ろうと思っていたんだけれど(マリンスタジアムのとりはカルヴィン・ハリス)、貧乏性なもんで、なにもせずに待っているのももったいない気がしてきてしまって、結局花火は諦めて中途半端にメッセに戻った。それでもちょうど西側からメッセに入る連絡通路に差し掛かったときに花火が上がり始めたので、窓ガラス越しではあったけれど、とりあえず花火も見られました。ラッキー。
そのあとマウンテン・ステージで三十分足らずカザビアンを観て、この夜のサマソニ本編は終了(カザビアンってハッピー・マンデーズっぽいバンドかと思っていたら、どちらかというとマニック・ストリート・プリーチャーズっぽい印象だった)。しばらく休憩をはさんで、HOSTESS CLUB ALL-NIGHTERへとつづく──のだけれど、前述のとおり今回は別料金を取られたので、そちらは別枠で書きます。ということで今年のサマソニはここでおしまい(つづく)。
(Sep 03, 2017)
HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER
2017年8月19日(土)/幕張メッセ
サマソニでホステス・クラブ・オールナイターを観るのも、なにげにこれで3年連続。とはいえ、ふだんは日が替わる前に寝てしまう男にとっては、夜の11時過ぎからのイベントを観るって行為には、いまいち体力的に無理がある。なので今回ちゃんとフルで観たのはお目当てのセイント・ヴィンセントだけ。あとは無理せずうしろのほうで坐ったまま聴いていた。
レインボウ・ステージでの一発目、シガレッツ・アフター・セックスにも興味はあったんだけれど、次のホラーズとかぶっているから、観られるのは10分程度だし、なぜだかステージの入口には長蛇の列ができていたので、並んでまで観る気になれなかった。
なので最初はソニック・ステージのオープニング・アクト、マシュー・ハーバードのDJプレイを聴きながらのホラーズ待ち。
マシュー・ハーバードって2年前に観たときにはけっこう派手な演出があった気がするんだけれど(勘違い?)、この日はステージは暗いままで、エレクトリックなダンス・ビートだけが鳴り響いていた。遠くからだとDJ本人がどこにいるかもわからなくて、単なる次のステージを待つあいだのBGMのような感じだった。
ということで、最初に観たのはザ・ホラーズ。
ホラーズって僕は09年のサマソニでちょっとだけ観ているらしいんだけれど、ぜんぜん記憶にない。そもそも今年になるまでどういうバンドか、まったく知らなかった。9月リリースの新譜からの先行シングル『Machine』がゴリゴリとしたラウドな音作りでカッコよかったので、いまさら興味を持った。
生で観たホラーズの印象は、なんだか妙に
演奏はきっちりしていて隙がない印象だったから、けっこう演奏力は高いんだろうと思うけれど、ただ僕の趣味からすると整いすぎている気がした。もうちょっとどこかにくだけたところが欲しいかなって思ってしまった。ま、要するにシンセや同期ものを使いすぎってことかもしれない。次のライドと比べると、そんな気がした。
ホラーズも残りあと1、2曲かなってところでレインボウ・ステージへ移動、再結成したばかりのライドの演奏を3曲だけ観た。
いやでも、このライドがよかった~。予想外のよさだった。ことサウンドに関していえば、まちがいなくこの日観たすべてのアクトのなかでいちばん好きだった。やっぱ90年代初頭にマッドチェスターやシューゲイザーの洗礼を受けた身としては、ああいうノイジーなギターだけのアンサンブルって、それだけでもうこたえられないものがあるなと。あ~、もうどうしようもなく好き。
ライドってちょっとメランコリックな印象があって、僕はリアルタイムで聴いていたときにはそれほど盛りあがれなかったから、自分がこれほどまでに彼らの演奏に感銘を受けるとは思っていなかった。いやぁ、よかった。ほんと、3曲だけしか観られなかったのが残念。なまじ3曲目に演奏されたのがファースト・アルバムのオープニング曲『Seagull』だったので、なおさらもっと聴きたいって思ってしまった。
今回のサマソニでの最大の心残りは彼らのステージがフルで観られなかったこと。なんでセイント・ヴィンセントとかぶらせるかなぁ。勘弁して欲しい。
うしろ髪惹かれながら戻ったソニック・ステージでその次に観たのがこの日の目玉、セイント・ヴィンセントことアニー・クラーク。
秋から始まるワールド・ツアーに先駆けて、日本ではじめてお披露目されるセイント・ヴィンセントの最新モードやいかに?──というのがこの夜の注目ポイントだったわけだけれども。
終わってみて思うに、アニー本人が最後のほうのMCで「日本のためのスペシャル・セットです」だといっていた通りで、この日のセットはおそらく今後のツアーの内容とはちょっと違うんだろうなと思わされる内容だった。
いや、演出のコンセプトはとても凝ったものだったから、おそらくこのあとのツアーでも踏襲されるんだろうけれど、ことセットリストの構成は絶対に大きく変わるんだろうなと思う。なぜって、この日のセットリストは、彼女がこれまでにリリースした4枚のアルバムの代表曲を、リリースされた順番どおりに演奏してゆくというものだったから(観ているときにはそのことに気づかなかった馬鹿野郎はこの僕です)。
要する彼女のソロ・アーティストとしてのキャリアを最新モードの演出でもって振り返るような内容だったわけだ。きたるべきツアーが新譜(来月リリース!)に連動したものになるのならば、きっとその構成自体が大きく変わることになるだろと思われる。そういう意味で「この夜だけの限定」という言葉にたがわないスペシャルな内容だったのだろうと思う。
【SET LIST】
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単にセットリストがスペシャルなだけではなくて、演出も非常にふるっていた(おそらくこっちのほうがより重要)。
ステージの上にいるのは彼女ただひとり。それもひな壇というか、巨大なお立ち台みたいな壇が用意されていて、その上にマイクを前にして、レオタード姿でギターをぶらさげて、すっと立っている。まっくらなステージに浮かび上がるそんな彼女のシルエットは、まるでB級SFの世界からやってきた怪しげなアンドロイドのよう。
ステージの背景には短冊状のモニターが三枚並んでいて、そこに彼女自身が出演して撮られたさまざまな映像作品が演奏にあわせて映し出される。
ヴィジュアル・コンセプトは新曲『New York』のシングルの、ピンク色の壁から足がつきだしているあれ。あの手のシュールなイメージを、曲ごとにブルー、グリーン、イエローと彩りを変えながら展開してゆく。
ケーキでできたタイプライターを握りつぶしたり、オレンジ色の紙をシュレッダーで切り刻んだり(にんじんの千切りにしか見えませんでした)。はたまたボンテージ風の女性たちが登場したり、彼女自身が開脚して黒いパンティを披露したりというエロティックな演出もある。──というか、本人がレオタード姿って時点で、セクシャリティはかなり意識的に打ち出されていた。
彼女はそんなセクシーで凝った映像をバックにひとりきり、録音されたバックトラックにあわせて歌を歌い、独特のエキセントリックなギターでそこに音を加えてゆく。バックはカラオケだったけれど、でもコンピュータで作った人工的なものではなく、ストリングスを使ったりして丁寧に作り込まれた印象のものだった。
僕は今回の彼女のパフォーマンスは、同じ夜のヘッドライナーを飾ったカルヴィン・ハリスなどのように、自らは演奏することなく出来合いの音源を鳴らすことでスタジアム規模の興奮を生むDJやラッパーたちに対する、いちロック・アーティストとしての回答のようなものなのかなと思った。「生演奏でなくてもいいのならば、こんなのもありでしょう?」という。
そういう意味では、2年前に同じ場所で観たトム・ヨークのステージに近いものがあると思った(モニター三枚を並べた演出的にも通じるものがあったし。音楽性はずいぶん違うけど)。
まぁ、正直いえば、ふつうにバンドとしてのプレーを聴かせてくれた前回の来日公演のほうが僕は好きだった。とはいえ、この日のパフォーマンスには彼女の表現者としての特異な才能がいかんなく発揮されていたと思う。まさしくこの夜しか、彼女のステージでしか観られないものを観ているというスペシャル感があった。
本編終了後にアンコールで演奏されたのは、この日が世界初公開となった新曲『LA』。そしてオーラスは『New York』。この曲のサビのフレーズ──「ヒーローを失ってしまった。友達も失ってしまった。でもダーリン、それでもまたやり直すわ」みたいな歌詞──のなんて感動的だったことか……。
いやぁ、とてもおもしろいものを観させていただきました。ケチな料簡をおこして、これを観ずして帰らなくて本当によかった。
セイント・ヴィンセントのあと、みたびステージを移動してこの夜最後に観たのがモグアイ。
観たというか、聴いたというか。ステージからいちばん遠いあたりに座りこんで、まわりで寝ているたくさんの人たちを横目に、彼らの轟音に耳を傾けていた(ときはすでに午前3時すぎ)。
もうね、モグワイの感想はただひとこと──。
うるせー、このバンド。
とにかくめちゃくちゃ音が大きい。おそらく僕がこれまでに観たことのあるなかで、もっとも音が大きなバンドなんじゃないだろうか。なんでここまで大きな音を出さなきゃいけないんだと不思議になってしまうほどの大音量だった。まったく午前3時半になんて音出してるんだか。
インスト・バンドだから、ボーカリストへの気兼ねなく、ギターが最大限に自己主張した結果なんでしょうかね。とにかくうるさかった。コヨーテ・バンドと足して二つで割るとちょうどいい気がする。これぞ轟音と呼ぶにふさわしかった。
いやぁ、この轟音はすごいです。ロック・ファンだったら一度くらい経験しておいたほうがいいんじゃないかって。それくらいの大音量だった。おそるべし、モグワイ。
それにしても、あの轟音を子守唄に、たくさんの人たちがすやすや寝ている風景もなかなか珍妙だった。思えばピコ太郎から始まって、普段は観られないようなものがたくさん観られた一日だったなぁと思う。
ということで、この夜の僕らのイベントはこのモグアイの轟音ステージを最後まで観て終了。そのあともまだ別のステージはあったけれど、そこまでですっかり満足だったので、しばらく時間をつぶして、東西線の始発を待って帰ってきた。本当は自宅までタクシーのつもりだったんだけれど、ホステスで追加料金を取られたので──と書くと水商売みたいだな──、その分は節約してタクシーは西船橋までにしておいた(でも意外と高かった)。
今回のサマソニはひさしぶりに奥さん同伴だったけれど(あと、ところどころは彼女の友達も一緒だった)、やっぱフェスってひとりじゃないほうが楽しいですね。
最初は文句ばっかりいっていたくせに、終わってみれば今年も十二分に堪能しました。サンキュー、サマソニ。
(Sep 06, 2017)
レキシ
レキシツアー2017 不思議の国の武道館と大きな稲穂の妖精たち ~稲穂の日~/2017年10月10日(火)/日本武道館
うちの奥さんが観たいというので、レキシのライヴを観に武道館へ行ってきた。
あとから考えてみれば、今年はRADWIMPSもBUMPも見送ったのに、俺はなんで特別ファンでもないレキシなんか観に行っているんだろう?──とか思ってしまいましたが。でもまぁ、ライヴ自体はとてもおもしろ楽しかった。少なくてもこれまでに観たことのあるどんなライヴにも似ていなかった。
とにかく全編に盛り込まれた笑いの量がはんぱでない。自分が音楽のコンサートにきているのか、お笑いの演芸会にきているのか、よくわからなくなるレベル。なんたって演奏された曲数がわずか十四曲なのに、所要時間が三時間オーバーってんだから、なにそれだ。二週間後に同じ武道館で観たベックは一時間半で二十曲はやってたよ? 倍以上の時間をかけて、いったい何をやっているんだか。平日なのになぜ六時半なんて早い時刻に開演するかと思ったら、そういうわけだったかと納得。
まぁ、一曲一曲が長くて、途中に新旧とりまぜた他人のヒット曲が割り込んでくるってパターンが多いので、実質的な曲数でいえば、もっと増える(どんな曲やったんだかすでに忘れました。『涙のリクエスト』とか、『傷だらけのローラ』とか?)。いずれにせよ、レキシの曲だけに限ってみれば、メドレーとして演奏された三曲を別々にカウントしても、全十六曲。アルバム五枚も出しているんだから、三時間もかけるんならば、もっと曲数増やしてよといいたくなる。
その辺のことはファンからつねにいわれる課題らしく、だから「曲数を増やす新しい技を身につけました」みたいなことをいって、『妹子なぅ』『真田記念日』『RUN 飛脚 RUN』の三曲をメドレーにして演奏していたりしたけれど──その名も『飛脚記念日なぅ』──、それもメドレーというよりは三曲のフレーズを自在にミックスしたスペシャル・バージョンと化していたのがすごかった。
とにかく長丁場だから、ライヴはほぼ定刻に始まった。でもまず最初はいとうせいこうとみうらじゅん出演のミニ・ムービーからという趣向。レキシこと池田貴史が演じる若君が父母から家督を相続するという内容で──なんとみうらじゅんが母上の役(笑)──、家督として渡された門外不出のオルゴールの箱を開けてみたら、あら不思議、そこに吸い込まれた若君が時空を超えて武道館に降りたってしまいました──みたいなコントが延々と繰り広げられる(ステージに謎の大きな箱状の物体があると思ったら、このためのセットだった)。しょっぱなから演奏が始まるまでの前ふりがまず長いこと、長いこと。
ということで、巨大オルゴール箱のなかから登場したレキシによるこの日のオープニング・ナンバーは、当然のごとく最新シングルの『KATOKU』。レキシはトレードマークのアフロではなく、そのシングルのアートワークでみせた前髪ぱっつんの若君ルック。そのままずっとその格好なのかと思いきや、一曲目の最後でうっかりカツラが脱げたというギャグをかまして、さっさといつものアフロに戻っていた。
二曲目の『大奥~ラビリンス~』もけっこう長尺だった感じで(そこまでですでに三十分くらい経過していた気がする)、その享楽のディスコ・ナンバーがこれがライヴのクライマックスかって盛りあがりだったこともあり、まだ始まったばかりだというのに、レキシは「今日は来てくれてありがとう。次が最後の曲です」みたいなギャグを連発する(それがまたくどい)。
つづく『KMTR645』ではアリーナの客席に大量のイルカのバルーン──蘇我入鹿(そがのイルカ)にちなんだ定番ギャグらしい──が投げ込まれて、場内はさらなる躁状態に。
【SET LIST】
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そのあとに前述のメドレーと『SHIKIBU』をはさんで、この日のゲスト・コーナーに突入。タブラというインドの民族楽器奏者の「ニセレキシ」ことユザーン(U-zhaan)をステージに招いて、生で演奏するのはこの日が初めてだという『Takeda'』を聴かせた。この曲はふたりきりでの演奏。
ユザーンはレキシがアマゾンで買ったというビニール製の兜と紙の鎧を着せられて、ゲストと呼ぶにはふさわしからぬ姿を強いられていた(お気の毒さま)。演奏もレキシが「これまで練習でも一度もまともに演奏できたことがない」といっていた通りで、なんだかとてもぐだぐだだったけれど、でもそれゆえにとても笑えました。で、またこのコーナーも長かった~。
ユザーンともう一曲、今度はバンド全員で『Salt & Stone』を演奏したあと、ライヴは後半戦に突入。珍しくなんのギミックもなく『最後の将軍』を感動的に歌いあげたと思えば、つぎの『キャッチミー岡っ引きさん』ではキーボードの人が歌うコーナーを設けて、この人をいじって延々と時間を消費したりする。レキシってソウルやファンクをベースにした音楽をやっているわりにはバンドにコーラス専門の人がいないので、このキーボードの人がつけるコーラスがけっこう重要な役割を果たしていた。
そのあとに『アケチノキモチ』と『憲法セブンティーン』――この曲を聴くと「和をもって尊しとなす」なんて大昔の憲法に書いていた日本人の協調性って筋金入りですごいなと思う──をはさんで、つづく『年貢 for you』では「年貢キミに届け」という歌詞のコンセプトを実践するべく、ミニチュアの俵を一階席のお客さんの手渡しで場内一周させてみたりする(つまりこの曲だけで年貢が広い武道館の一階席を一周するくらいの時間を使っている)。
で、最後は『きらきら武士』で本編の締め。この曲はむちゃくちゃ演奏がカッコよかった。椎名林檎が参加したレコーディング・バージョンもカッコいいけれど、この日のアレンジはハードでエッジーで最高だった。こんなカッコいい演奏をしながら、こんなに笑わせてくれるバンドってほかにないと思う。
この曲にかぎった話ではないけれど、池ちゃんってふつうに歌が上手いだけではなく、アルバムではゲストが歌っているラップのパートもちゃんと遜色なく自分でこなしているのがすごい。この人って音楽力高ぇって思った。
別の意味ですごかったのはそのあとのアンコール。本編が終わった時点では九時を少しまわったくらいだったから、思ったより早く終わるのかと思ったのに、アンコールでたった一曲『狩りから稲作へ』を演奏し終わってみたら、もう十時十五分前だという。たった一曲で三十分以上って……。おいおい。
まぁ、それというのもいろいろと演出が凝っていたからで、その演奏に先だってまたミニ・ムービーが上映され──やついちろうがキャッツの妖精、岡井千聖という女の子が稲穂の妖精役で登場(それはなにと問われても困る)──、それにつづいてレキシをはじめとしたバンドのメンバー全員が、緑のレオタードに黄色をあしらった稲穂の妖精のコスチュームで登場してきて、さらには曲の後半ではツアー・タイトルにある「大きな稲穂の妖精」(全長3メートル?)が数名の黒子にあやつられながら地響きとともに登場するという。このコーナーでは、ネコのコスチュームのやついちろう本人が生出演して、レキシとコントを繰り広げていた。
いやぁ、ということで最初から最後まで大笑いさせていただきました。でも自分が音楽を聴きに行ったんだか、笑いにいったんだかよくわからない。おかげで長いこといた割には音楽的な満足度がそれほど高くないってのが珠に疵。ほんとこんなにいい曲ばかりで、演奏も文句なしなのに、こんな風に思うライブって珍しいぞ。
でもそういうコンサートだからこそ、お客さんの一体感がすごい。もう最初から最後まで繰り出されるお約束の連発に、広い武道館に集まったオーディエンスのほとんどがいっせいに反応しているのは壮観のひとこと。これって好きだったら楽しくてたまらないだろうなぁと思いました。まぁ、僕はお腹いっぱいでもう向こう一年くらいは観なくていいやって気分だけど。でも喉元すぎたらで、いずれまた観たくなるかもしれない。
ということで楽しかったこの夜の記念に、公式HPに掲載されていたツアー・バンドのメンバーをコピーしておしまい。
(Nov 05, 2017)
【ミュージシャン】
Gt: 健介さん格さん (奥田健介 from NONA REEVES)
Piano&Cho: 元気出せ!遣唐使 (渡和久 from 風味堂)
Ba: 御恩と奉公と正人 (鈴木正人 from LITTLE CREATURES)
Dr: 蹴鞠Chang (玉田豊夢)
Sax&Flute: TAKE島流し (武嶋 聡)
Trumpet: 元妹子 (村上 基 from 在日ファンク)
BECK(Opening Act:コーネリアス)
2017年10月23日(月)/日本武道館
最近はコンサート・チケットがすっかり高くなってしまって、この日のベックもS席が1万2千円。フジロックのヘッドライナーを務めるほどのアーティストなので、いまやそれくらいであたり前なのかもしれないけれど、僕の感覚からするとちと高すぎる。
なので当初は見送るつもりでいたのだけれど、直前になってオープニング・アクトとしてコーネリアスが出演することが発表された。
となれば話は別。コーネリアスとベック、両方観られてその値段ならばぜんぜんありでしょう──というか、かえってお買い得。ということで、急きょ観にゆくことにしたベックの来日公演。会場は二週間前のレキシにつづいてまたも武道館。
平日だけれど前座ありってことで、この日も開演時間は18:20と早かった。なので仕事を早退して武道館に駆けつけると、定刻ジャストにコーネリアスがスタート。
いやぁ、しかしこのコーネリアスがむちゃくちゃカッコよかった。演奏、映像、照明の三つがきっちりと計算しつくされていて、ショーとして完璧。わずか40分のステージながら、新作『Mellow Waves』のツアーのための演出をその長さにパッケージし直したんだろうって内容で、まさに一部の隙もないパーフェクトな出来映え。
おそらくフェスなんかに出演する際にもこういうステージをやっているんだろうけれど、どう考えたって前座なんて言葉で語れるレベルじゃないです。これだけでもじゅうぶん金がとれる。平日だからそんな時間にはいけないとか、興味がないからって観なかった人は絶対に損している。
【Cornelius】
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一曲目はSE的なインストナンバーに同期させて、ステージをおおい隠すスクリーンに映像を映し出しながら、メンバーのシルエットを浮かび上がらせ、最後に『Mellow Waves』のタイトルが出るというスタイリッシュな演出とともにスタート。
その後も全曲にわたって、演奏される曲のイメージをビデオ化した映像とともにステージは進んでゆく。あまりに映像とライティングの使い方が巧妙なので、曲によっては映像に夢中で見入ってしまうような場面も多々ある。とくにピタゴラ装置的なおもしろビデオの出来映えたるや傑作。あんなのを生演奏と同期する形で見せられて、夢中にならずにいられようかって話だった。
僕らは二階席だったから、どうしても遠巻きに眺めているような感じになってしまったけれど、あれを映像が視野いっぱいに広がるアリーナやライヴハウスで観たら、さぞや没入感がすごいだろうなと思った。
バンドのメンバーは四人で、右からギター中心のマルチ・プレーヤー、女性ドラマー、小山田くん、ベーシストの女性(キーボード兼任?)という構成。この四人が等間隔で一列に並んでいる。とにかくすべてが幾何学的にきっちりとしている印象。
それは音も一緒で、近年のコーネリアス独特の構築美的な音楽性がライヴでも存分に再現されていた。途中に『ファンタズマ』のメタル系のナンバーをラウドに響かせたり、終盤に『Star Fruits Surf Rider』でポップに盛りあげたりして、一筋縄ではゆかない音楽性の幅広さを感じさせもしたけれど──この辺の起承転結もみごとだった──、やはり印象的だったのはシャープでクリスプな音作りだった。
スタジオ職人的な印象のあるコーネリアスだけれど、特別ファンでもない僕を魅了するくらいライヴでの表現力も素晴らしかった。
コーネリアスのあと、三十分ほどのインターバルをはさんで、いよいよ本日の主役、ベックの登場~。
新作『Colors』がリリースされたばかりだから、そのお披露目公演として新曲をガンガンやるのかと思っていたら、そういうわけではなかったらしく、セットリストは非常にオーソドックス。最初から『Devils Hearcut』、『Nausea』と、僕のもっとも好きなベックのナンバーを連発するという、代表曲目白押しのストーンズ的な王道ライヴだった。
音の輪郭がすっきりはっきりしたコーネリアスのクリアなサウンドと比べると、ベックはもっとラフで分離の悪い音だったので、最初はその音響がいまいち気になったのだけれど、でもよくあるパターンで二、三曲聴くうちにそんなことも気にならなくなり、その後は知らないうちにベックならではのポップ・ワールドに浸りきっていた。
ベックって一部のアルバムは例外として、それほど極端にポップな人だと思わないんだけれど、でもライヴで観ると不思議といい曲ばっかって気になる。一曲一曲がコンパクトで、あとくされなくサクッと終わる。その連続がとても快感。
どの曲もポップ・ソングとしての芯がしっかりしているということなんでしょうか。かつてレディオヘッドを観たときにも同じ感覚を受けたことがあるけれど、優れたアーティストが長年のキャリアを通じて育んできた音楽って、自然と豊かな味わいを身にまとってポップになるのかもしれない。
あと、ベックも映像や照明はなかなか凝っていて派手だった。ただナルシシズムとは縁遠い人柄ゆえか、アーティスト本人を映すことがまったくないので、広い武道館だと肉眼でしかアーティストの姿が確認できず、どんな表情で演奏しているのかがまったくわからないのが残念なところ(その点はコーネリアスも同じ)。まあでもベックさんの場合は遠巻きに眺めるその動作からだけでもアーティスト自身がライブを楽しんでいることが伝わってきて、おかげでこっちも楽しい気分になれた。
【Beck】
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演奏で印象的だったのは、スタジオ版よりもちょっぴりアップ・テンポにアレンジされた『Lost Cause』と『Blue Moon』がつづけて演奏されたところ。どちらも珠玉のバラード・アルバムからの曲だけれど、それがアッパーなライヴのモードにあわせてアップデートされていて、とてもカッコよかった(聴き込みが甘くて後者はタイトルわかりませんでしたが)。
あと、ライヴのクライマックスを飾ったのが新作『Colors』からのタイトル・ナンバーを含む三連発ってのもよかった。ベックのポップ・センスが爆発したような新作だけに、どの曲もライヴ映えすんだろうなぁと思っていたら、予想通りの大盛りあがりだった。ベテランが新曲でライヴのクライマックスを飾れるのって、なにげにすごいことだと思う。
そのあと『Loser』でオーディエンスの大合唱を誘い──まぁ、冷静に考えると「俺は負け犬だ~、殺してくれ~」って大合唱はちょっとどうかと思うけど──、それで大団円かと思いきや、そこでは終わらず。本編の締めは次の『E-Pro』だった。
アンコールは定番の『Where It's At』。あいだに初期のブルース・ナンバー『One Foot in the Grave』をはさんで味のあるブルース・ハープを聴かせたり、メンバー紹介でそれぞれに別の曲を演奏させたり──ギタリストのジェイソン・フォークナーという人(名前に聞き覚えあり)が歌ったのは武道館ライヴで有名なチープトリックの曲とのこと──、最後の最後になんともローファイな空気を醸しだして、この日のライヴは終幕となった。
いやぁ、とても楽しかった。でも終わってみれば、コーネリアスとインターバルまで含めてもわずか二時間半という。それでも全三十曲ほどを聴けて、音楽的には大満足したという。やっぱライヴはこうじゃないと。
ほんと二週間前のレキシはいったいなんだったんだ。
(Nov 12, 2017)
エレファントカシマシ
30th ANNIVERSARY TOUR 2017 "THE FIGHTING MAN"/2017年11月19日(日)/大宮ソニックシティ 大ホール
エレカシの三十周年記念ツアー、僕らにとっては三度目にして最後となるこの日の会場は大宮ソニックシティの大ホール。
昔ここでコステロを観たっけね、ひとりで。たしか台風で日程変更になったんだよな。あれは『Mighty Like A Rose』のツアーだから……もう二十五年前? それ以降は一度もきた記憶がないから、つまりこの地を訪れるのは二十五年ぶりとかだ。さすがにひさしぶりすぎて、はじめても同然だった。
今回のツアーは基本的なセットリストが毎回一緒だから、そう何度も観なくてもいいんじゃないかって思っていたけれど、そうでもなかった。前回は記憶力がないから二度目でもじゅうぶん新鮮とか書いたけど、今回は違う意味でおもしろかった。逆に三度目だからこそっておもしろさがあった。
というのも、過去に二度見ているせいで、あ、きょうはここが違う、みたいなのがやたらと多かったから。演奏にしろMCにしろ、あちらこちらが微妙に変わっている。
「あれ、前回は『今はここが真ん中さ!』でギターを弾いてたのに、きょうは弾いてない」とか、「あれ、きょうはここで曲紹介のMCが入らない」とか。『デーデ』で自らイントロを弾いて歌い始めた宮本が、ワン・コーラスを歌い終わるとギターを手放して、あとのギターは石くんに任せたりとか(前回は最後まで持ってなかったっけ?)。第二部では宮本が自分のシルエットをあしらったツアーTシャツを着ていたりした(ツアーT着た宮本もひさしぶり)。
そういう、おやっと思うところがたくさんあって、まるで間違い探しのクイズ番組を見ているようなおもしろさがあった。さすが落ちつきのなさでは日本一の男、宮本浩次とその仲間たち。同じことは二度とやらない(やれない)。あぁ、この分ならば何回観ても飽きずに楽しめちゃんだろうなぁって。これだったら全国について回るファンがたくさんいても不思議じゃない。すげーなエレカシって。素直にそう思いました。
今回の僕らの席は二階だったので、一階席で観た前の二回とは見ための違いも大きかった。真正面から見るのと上から見下ろすのではずいぶんと印象が違う。距離的にも遠いから、必然的にバンド全体が視野に収まる。一階席だと角度によっては見えないメンバーがいたりするけど、この日は全員がよく見えた。とくにドラムセットに隠れて見えないことが多いトミがこの日はばっちり見えた。宮本いうところの“パワフル・ドラマー”、トミ富永のドラミングをたっぷりと見られたのがこの日の最大のポイントかもしれない。
あとね、遠目に見た石くんが驚くほどカッコよかった。とくに赤いセミアコのギブソンを持っているときの立ち姿が。全身黒一色のスーツに身を包んで真っ赤なギブソンをぶらさげたその姿はとても絵になっていた。脚がすらっと細くて長くて、とてもスタイリッシュ。そのままミッシェル・ガン・エレファントに入れそう。こんなに石くんのことをカッコイイと思ったのはおそらく初めてだ。
最近は毎回奇抜なファッションで笑わせてくれる石くんに、こんな風にギター・ヒーロー然とした姿で感心させられるとは思わなかった。いやはや、まいりました。
そうそう、ルックスといえば、忘れちゃいけない。この日のライヴでもっとも注目していたのは、宮本が二十年来の長髪をばっさりと切り落とした姿を観る初めての機会だったこと。『奴隷天国』以来初の短髪の宮本やいかに!――ってのを楽しみにしていたんですが。
なんたって二階席は遠かった。残念ながら髪の長さの違いなんて、ほとんど見分けられない。あぁ、そういや短いかもねってくらい。なんか拍子抜け。
でも、そんな宮本にあわせたのか、石くんもミッキーもこの日は短髪だった。石くんが必要以上にカッコよく見えてしまったのも、きっとあの髪型のせいだ。彼の場合、長髪だとなんだか名ギタリストのパロディかって滑稽感が漂ってしまうので(失礼)、短くした方が絶対スタイリッシュでカッコいいと思う。まぁ、でも本人はそういうことも踏まえたうえで、これからもエレカシのファッション部門担当として独自の道を生きてゆくんでしょうかね(できれば音楽に生きてほしい)。
ここまで書いたら成ちゃんのことにも触れとかなきゃと思ったんだけれど、成ちゃんは帽子をかぶっているから髪型わかんないし、ベースかっこいいと思った曲もあったんだけど、どの曲だか覚えてないしで、これといって書くことがありませんでした。あしからず。ごめん、セイジさん。
【SET LIST】
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今回のツアーの目玉だと思っていた宮本の昔語りも、この日は前回にくらべると少なめになっていた。まぁ、僕ら夫婦からして三度目なわけで、とくに終盤ともなるとリピーターも多いだろうから、そのことを見越してなんだろう。とにかく、過去二回にくらべてMCは少なめだった。
それでも大宮という土地は赤羽と近いから──快速ならば二駅(僕はかつて赤羽での飲み会の帰りにまちがって反対行きの急行に乗って、池袋へ帰るはずが大宮へ運ばれて焦ったことがあります)──、やはり宮本にも親近感があるようで、「好きだぜ~、埼玉~」なんて即興のご当地ソングを歌ったり、アマチュア時代に大宮フリークス(僕も先輩のバンドを観にいったことがある)に出演していたときの思い出を語ったりしていた。
MCが少なくなったといっても、それでもさすがにふだんのツアーに比べれば宮本も饒舌だったから、なんかそのほかにもいろいろレアな話をしていたような気がするんだけれど、もうすっかり忘れました(だから早く書いとけって話で)。
そうそう、もうひとつこの日のライヴで重要だったのは、これが紅白出演が発表された直後の公演だったこと。自らの口から紅白出演の喜びを語る宮本と、そんな宮本を祝福するオーディエンスの喝采で、この日の大宮ソニックシティはいつになく幸福感のあふれる空間になっていた。こんなにほんわかしたムードのエレカシのライヴって初めてな気がする。
まぁでもそうした祝福感はなにも紅白出演という特別な出来事があったからというだけではなく──花見なんぞのどこがいいとうそぶく宮本が紅白出演を喜ぶのって不思議な気がするんだけれど──、半年以上にわたるツアーの終盤にあっての感謝の意味も多く含まれていた気がする。僕ら以外にもこの日が見納めという人が多くいたんだろうし、素晴らしいライヴをどうもありがとうという気持ちが観ているこちらと演奏している彼ら、双方の胸のうちから自然と溢れだして、この夜の特別な祝祭空間を彩っていたんだろうと思う。なんかとてもフレンドリーな一夜でした。
セットリストはアンコールをのぞいて基本的に全日程で同一といいながら、その時期その時期で若干の変更がある。『風と共に』のリリース直前だった前回はその新曲が追加になっていたし、今回もリリースされたばかりの最新シングルから『今を歌え』が本編で、『RESTART』が第二部で披露された。あと、なぜか『ハナウタ』がカットされていた(追加分のかわりに省かれたのは『やさしさ』と『テクマク~』)。
で、この日のライブでもっとも印象に残ったのがこの新曲二曲。
『今を歌え』はそのミニマムな演奏が新鮮だった。音数が少ない楽曲は昔からあるけれど、この曲は宮本のアコギとトミのドラム(とくにベードラ)の音響がいままでにない優しい味わいを醸し出していた。いわば、以前ならば宮本がひとり弾き語りで演奏していた曲を、今回は初めてバンドにふさわしいアレンジで鳴らすことができた、とでもいった味わい深さがあった。
あと、この曲ではキーボードのSUNNYさんがコーラスをつけていたのもインパクト大。村ジュンにかわってツアーの後半から参加しているこの人、あんなに歌えるとは思わなかった。それもきれいな高音で、なかなか立派な歌いっぷり。エレカシってあまり宮本以外の人が声を出さないバンドなので、ほかの人のコーラスが加わるのはとても新鮮だった。歌えて弾けるキーボーディスト。素敵です。
もう一方の新曲、『RESTART』も素晴らしかった──というか、この曲こそがこの夜のハイライトじゃないかって出来だった。
『ズレてる方がいい』から始まる第二部はただでさえアッパーな曲ばかりが並ぶ最高の内容なのに、その中にあってこの新曲はこれぞクライマックスと呼びたくなるほどの迫力を持っていた。シングルを聴いたときから、宮本らしい無骨なリズムとメロディが印象的なナンバーだと思っていたけれど、ライヴだとその無骨さがなおさら映えた。感触的には『ズレてる方がいい』と『RAINBOW』のいいとこどりをしたような印象。ほんともう最高に盛りあがった。この日のライヴから一曲だけ選べっていわれたら、僕はまちがいなくこれを選ぶ。
──いや、もとい。もしくはアンコールの『待つ男』。
アンコールで出てきたと思ったら、拍手も鳴りやまないうちに間髪入れずにいきなり始まったこの曲が、やはり今回もハズレなしの素晴らしさだった。場内のライトを全部消して、いつになく暗いステージでわずかばかりの赤いライトに照らされた宮本の姿には、いつもながら尋常ならざる迫力があった。
加えてこの日は、歌い終わりの「らったっとぅ、らったっとぅ、たっ!」の絶叫とともに、場内の照明が一瞬で全灯する演出があって、これがまた強烈。暗から明への転換が激しすぎて、一瞬目の前が真っ白になった。いやぁ、壮絶にカッコよかった。最高のエンディングでした。
なんでも今回のツアーで『待つ男』が演奏されたのはこれが初めてらしい。個人的に今回のツアーのとりを飾るこの日のライブをこの名曲で締めてくれたことがなにより嬉しかった。いやー、どうもありがとう~。
来年年明けの新春ライブはチケットが取れなかったので──エレカシの新春ライヴを観れないのも今回が初めてだ(涙)──、次にエレカシを観るのは三月のツアー・ファイナル。さいたまスーパーアリーナだからきっとスペシャルなセットリストを用意してくれるんでしょう。いや、それともファイナルだから、あえてツアーを再現するとかかな。どうなるかわからないけれど、いずれにせよ楽しみにしてます。
あ、でもその前に紅白があるのか。どうなっちゃうのか、宮本がなにかしでかさないか、そちらは楽しみというよりは、ちょい心配。
(Nov 29, 2017)