2014年のコンサート
Index
- エレファントカシマシ @ さいたまスーパーアリーナ (Jan 11, 2014)
- ローリング・ストーンズ @ 東京ドーム (Mar 4, 2014)
- エレファントカシマシ @ Zepp DiverCity (Sep 13, 2014)
- エレファントカシマシ @ 日比谷野外大音楽堂 (Oct 19, 2014)
エレファントカシマシ
デビュー25周年記念SPECIAL LIVE/2014年1月11日(土)/さいたまスーパーアリーナ
本来ならば去年開催されるはずだったんでしょう。宮本難聴による活動休止のため、一年遅れでの開催となったエレカシの25周年記念ライブ。初のさいたまスーパーアリーナ公演。
宮本いわく、この日の入場者数は1万3千人とのこと。ここはフルで入れると2万人以上入るらしいので、けっして満員ではなかったようだけれど、それでも空席は目立たず──指定席は完売だったという噂だから当然か──オールスタンディングのアリーナ後方から見た限りでは、ちゃんと大入り満員な感じになっていた。めでたい。
いや、それにしても今回の公演は25周年記念+過去最大規模の会場ということで、初物づくしだった。
そもそも開演を待つあいだのBGMからして違う。なにやらピアノのジャズ・ナンバーがかかっていたりするし。いざ、開演というときには、壮大なスケール感のあるSEが流れるし(『悪魔メフィスト』で始める気かと思った)。最初からもう、あ~、今回は特別なんだという感ありあり。
オープニング・ナンバー、『Sky is blue』(僕としてはとても意外な選曲だった)では、ステージ後方の大型スクリーンに巨大な「昇れる太陽」の映像が映し出され、その前にメンバーのシルエットが浮かび上がるという、なにやら今風の趣向。
さらに2曲目が始まる前には、そのスクリーンで1から26までの数値がカウントアップされてゆき──25周年記念といいつつ、ちゃんと1年オーバーしている分をカウントするところが律義だ──、その最後に「奴」「隷」「天」「国」の文字がインサートされるという演出つき。そして『奴隷天国』が始まるとともに、大量の風船が天井からどーっと降ってくるという。さらには巨大なボールがフロアのオーディエンスの頭上にごろごろと転がり込んでくるおまけつき。
まさかエレカシのライブで風船と巨大ボールを浴びせかけられる日がこようとは!
ちなみに僕は前ばっか見ていて後方に気がつかず、うしろから飛んできたボールに3度も頭を直撃されました。あのボール、でかいだけあって意外と重いんだ。不意打ちで頭にぶつけられて、首がくじけるかと思った。
去年のバンプの幕張でも同じ演出があったけれど、あのときはボールが飛んできても、まわりの若者たちが反応するから、すべて頭上を通過してしまって、一度も触わる機会がなかったのに、この日は頼みもしないのに3回も頭に……。そのへん、やはりスタンディングの観客が少なくて、おまけに若くない証拠なんだろうなと思ったり……(失礼)。
なんにしろ、そんなんで風船と巨大ボールが飛びかっちゃうもんだから、楽しいっちゃ楽しいものの、演奏に集中できないこと、はなはだしい。ライブでこんなにちゃんと聴けない『奴隷天国』は初めてだったよ。
そのあと、3曲目で早くも『悲しみの果て』を聴かせてから、ステージには満を持して金原千恵子ストリングスの皆様と山本拓夫グループのホーン四名様が登場。とうぜん最初からいた蔦谷、ヒラマの御両人も含めての、豪華な大所帯でのセッションとなった。
エレカシがストリングスとホーンをゲストに迎えるというのは武道館でもすっかり定番化しているけれど、この日はその規模が違った。いつもだったら、出たり入ったりを繰り返すストリングスとホーンの皆さんが、今回は序盤はそのままずっと出ずっぱり。中盤でいったん引っ込んだものの、その後も出てないよりは出ているときのほうが多く、最終的にこれらゲストの方々をまじえて演奏された曲の数、じつに20曲以上とくる。
要するに、ふつうのライブだったら、それだけで全編といってもいいくらいの曲が吹奏楽団をフィーチャーして演奏されたのだった。いやぁ、すげー豪華。さすが25周年記念。
【SET LIST】
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それらの曲の中でとくに印象的だったのは、もともと歌謡曲テイストあふれる『ヒトコイシクテ、アイヲモトメテ』が、ホーンとストリングスがついたことにより、見事なまでの歌謡ナンバーに仕上がっていたこと。あと、『MASTERPIECE』のツアーを見逃したことで、もしや一生聴くことがなく終わるんじゃないかと思っていた『Darling』が、なぜかその曲だけが金原・笠原の御二方をフィーチャーして演奏されていたことなど。
過去にも披露されたことのある曲でいえば、ホーンならこの曲という印象のある『今はここが真ん中さ!』や、ストリングス入りならばぜひこれが聴きたいって思っていた『シャララ』、『昔の侍』、『あなたのやさしさをオレは何に例えよう』などがちゃんと聴かせてもらえるあたり、さすがに25周年記念だなぁと思った。とくに『昔の侍』のストリングスのはまり具合なんかは、これまでで最高だと思った。いや、その曲にかぎらず、ストリングスとホーンとのアンサンブル自体が、過去最高の出来映えだったんじゃないだろうか。
そんな風に全体的に大所帯のステージだっただけに、ポプコンに出演したときの思い出ばなしを枕にした『やさしさ』と、それにつづく『珍奇男』がメンバー4人だけでの演奏だったのが、また泣かせた。
また、そのあとの『風に吹かれて』と『傷だらけの夜明け』では、エレカシのメンバー3人を引っ込め、蔦谷くんとミッキーだけをバックにアコースティック・セットを聴かせてみせる。いろいろ手をかえ品をかえ。その姿勢がさらなるスペシャル感をあおる。
そうそう、その間に演奏された『男餓鬼道空っ風』では、観客に「へーい、へいへいへーい、へい」と歌わせる、伝説のコール・アンド・レスポンス・コーナーが復活(なっつかし~)。僕らを含むロートル・ファンの苦笑を買いながらも、かつてはなかったほどの大合唱を引き出してみせるなんて一幕もあった。
この日のステージには花道もあって──当然これもエレカシ史上初──、『あなたへ』では、その先端まで宮本だけがひとり出張して、そこにマイク・スタンドを立てて歌うという、ふつうのバンドはあまりやらなさそうな演出もあった。アンコールではスタッフがわざわざ立てたマイク・スタンドを結局使わない、なんて曲もあったり。宮本、自由人。
この花道が最大の見せ場となったのが、アンコール──それだけで11曲も披露されたので、関係者に配られたセットリストでは「第二部」となっていたようだけれど、そんなの知らずに観ていた僕らにとっては、完全にアンコール──で演奏された『桜の花、舞い上がる道を』。
この曲では文字通り、桜の花びらが舞いあがるという粋な演出があって、これがめちゃくちゃきれいだった。とくに宮本が花道へと出張ってきたときがクライマックス。ピンクにライトアップされたステージをバックに、桜の花びらが舞い上がる中、ひとりピンスポットを浴びた宮本が、いつものように腰を落として天を仰ぎ絶叫している、その絵のなんと格好よかったことか!
もともと演出に凝らないバンドだけに、20年以上の長きに渡りエレカシのライブを見てきているけれど、あそこまで絵になるビジュアルを目にしたのはおそらく初めてだ。エレカシのライブ史上でも、屈指の名場面だった。
この日、僕らがいたのはスタンディング・ブロックのBということで、とてもステージが遠かったのだけれど、それでもあの絵を見れたのは、あの位置にいたからこそ。それだけでも、あえてオールスタンディングのチケットを選んでよかったなぁと思った。それくらいにめちゃくちゃカッコいいシーンだった。叶うならば写真に撮って額に入れて飾っておきたいくらい。
そのほか、アンコールでは宮本が『未来の笑顔で』の歌詞を忘れまくって失笑を買ったり、ホーンつきの『生命賛歌』がえれぇ迫力だったり、その曲でスクリーンを四分割にしてメンバー四人を映し出した映像を見て、あらためてみんな年を取ったなぁと思ったりと、まだまだ書くべきことにはこと欠かないのだけれど。
とにかくもう、見どころ、聴きどころ満載のライブだったので、いま現在の僕の文章力では、とてもそのすべては書き残せない。
最後の最後、このライブを締めくくるのにふさわしいというか、ふさわしくないというか、大笑いさせてもらったのが、2度目のアンコールで、ふたたびエレカシのメンバーが4人だけで現れて演奏し始めた、『男は行く』。
いやぁ、これがひとかったんだ。音はすかすかで、演奏ぐだぐだで。あきらかに練習不足なのがありあり。なんでここまで素晴らしいライブをやったあとで、最後の最後にこれなのって。この曲ではずっと客席のライトがついたままだったこともあって、まわりの客席の熱気が一瞬ですーっと引いてしまったような印象を受けた。初物づくしのこの日だったけれど、こんなに迫力のない『男は行く』も初めてだよ……。
そのあとにつづけて披露された『待つ男』は、蔦谷くんたちがふたたび参加したこともあり、音の厚みも十分で、迫力のある演奏に真っ赤なライトアップも映えて、これぞトリを飾るにふさわしいって熱演だったから、推測するに、おそらくあの『男は行く』は、宮本が最後にメンバー四人だけでやりたいといって、突発的に突っ込んだ曲なのではないかと思う。それゆえセッティング不十分に練習不足が重なって、満足のゆく音が出せなかったんじゃないかと。そうとでも考えないと、あの出来の悪さは考えられない。
とはいえ、僕はこの曲の不出来さにこそ、エレカシの変わらなさを見た気がして、逆に盛りあがってしまったのだった。演奏自体はいただけなかったけれど、過去最大のステージで最高の演奏を繰り広げたあと、あの局面でよりによってあの曲──だって「豚に真珠だ貴様らには聞かせる歌などなくなった」だよ?──を、完成度を無視して、あえて演奏してしまう(しかも照明をつけたままで)。そんな宮本のズレた姿勢が、ほんと僕はもう大好きだ。
終わってみれば、正味4時間で全37曲という、わが音楽人生の中でも間違いなく最長のライブだった。それだけで、ふつうならば圧巻といって終わってしかるべきところを、そう思わせて終わらせてくれないところが、よくも悪くもすごい。いいところも悪いところも含めて、これぞ僕らのエレカシと思わせてくれる。やっぱこんなバンド、ほかにない。
この日のライブはWOWOWで生放送された。そのテレビ放送枠の4時間を超えてなお終わらなかったというのもすごいけれど、その破格の長さをまったく感じさせなかった点もなおすごい。あれやこれや含め、やっぱりエレカシって特別だよなぁとあらためて思った新春の一夜でした。いやぁ、いいもの見せてもらった。
(Jan 19, 2014)
ローリング・ストーンズ
14 ON FIRE TOUR/2013年3月4日(火)/東京ドーム
ストーンズの来日公演もこれが6回目。
90年の初来日から数えれば、じつに足かけ四半世紀。当時四十五歳前後だったミックとキース(つまり、いまの僕より若かったわけだ)もすでに七十歳。
いやぁ、この期に及んで、ふたたびそんなストーンズを生で観れようとは、思ってもみなかった。それも、まったく衰え知らずな。
いや、キースはさすがによぼよぼしてる。歌もギターもあやしい。
とはいえ、あの人の場合、若いころだってラリっていて、歌も演奏もあやしかったわけで。そう考えれば、いまでも十分すぎるくらいに元気だ。この日はミックに負けずと、花道を走ってたし。あれには驚いた。
十年前に喉頭がんの手術を受けたはずのチャーリーも、そんなこと嘘のように元気だ。
そして、なによりも恐るべしは、ミック・ジャガー。
いやぁ、走る、走る。七十歳の老人が二時間のコンサートのあいだ、走りまくり、スキップしまくって、息も切らさないって、そんなのありですか?
ミックを見ていると、人間って精進していれば、死なないんじゃないかと思えてしまう。
ほかのメンバーと比べればまだ若いロン・ウッドだって、もう66歳だ。サラリーマンなら定年退職していて当然の年齢だよ?
そんなすっかり老人と化したストーンズが来日して、いまなおストーンズにしか奏でられないロックンロールを生で聴かせてくれる。
さすがにもうこれが最後だろうというさびしさと、でも、もしかしたらこの人たちなら、まだまだこの先も現役でいてくれるんじゃないかという期待と。
そして愛する妻と友人たちが、となりで一緒にこのライブを観ているという幸せと。
この日のライブは単なるライブ・コンサートというだけではなく、そんな風になんだかいろんな思いが──僕の人生のさまざまな思い出が──入り混じる、なんともいえない幸福感にあふれる一夜になった。僕に限らず、そういう人が多かったんじゃないだろうか。
今回の僕らの席は三塁側一階席の前から十列目で、前回のアリーナ席に比べると、ステージは遠かったけれど、それでも前には遮るものがいっさいなく、頭上も二階スタンドに邪魔されない位置だったので、音の通りが最高によかった。イントロのギター・リフとか、くっきりと聴きとれたし。こと音響という面でいえば、過去のストーンズの来日公演では最高だったんじゃないかと思う。
まぁ、斜め横からステージを眺めるような位置だったので、ステージうしろのスクリーンの映像がまったく見えなかったのは残念だったけれど──とくに『It's Only Ronk 'n' Roll』では、ロックの歴史を回顧するような映像が流れていたのを『Sweet Summer Sun』で断片的に見ていたので、それが生でも結局見られなかったのは非常に残念だった──、それでも音のよさが前々回以前と比べれば段違いだったので、とても気持ちよくストーンズの音に集中できた。
【SET LIST】
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セットリストはネットの人気投票で選ばれた『Silver Train』が超レアだったのを除けば、基本定番曲ばかり。
その『Silver Train』は個人的にとくに思い入れがある曲ではないので、選ばれたのがその曲だと知った時には、正直ちょっとがっかりしたのだけれど、いざ聴いてみれば、ミック・テイラーとロン・ウッドがふたりでスライド・ギターを奏で、ミックがブルース・ハープを吹きまくるという、演奏自体がとてもレアなものだったので、それはそれでよかった。なんでもこの曲を生で演奏したのは、この曲が収録された『山羊の頭のスープ』のリリース当時以来だという噂だし。いやぁ、いいもの、見せていただきました。
そのほかだと『Angie』を聴きながら、そういや学生時代にこの歌の歌詞に胸を切なくしたよなぁ……とか思ったり、シングルでは今風のシャープなアレンジだったはずの『Doom And Gloom』が、この日はなんだかドコドコした泥臭い演奏だったのをおもしろく思ったり。アンコールの『無情の世界』では、日本人の合唱隊をゲストに加えてみせたのも、スペシャル感が高かった。あのコーラスの人たちも随分な役得だよなぁ……。
スペシャル・ゲストのミック・テイラーは、『Midnight Rumber』と『Satisfaction』二曲だけかと思っていたら、前に書いた『Silver Train』ともう一曲、『Slipping Away』でも登場。
彼自身がレコーディングに加わった『Silver Train』はともかく、キースがボーカルの『Slipping Away』は彼が脱退して随分たってからの曲だし、なぜその曲で?って感じで、ちょっと不思議だった。そのあとの『Happy』へのつなぎかと思ったら、それ一曲弾いて引っ込んでしまったので、なおさら謎。
なんにしろ、そんな一部の例外を除き、セットリストのほとんどの曲は定番中の定番だった。
でも今回はそれでよかった──というか、今回に関しては、そうでないとならなかった──と思う。
なんたって、これがもしかしたら最後の生ストーンズかもしれないわけですよ。
『Tumbling Dice』も『Honky Tonk Women』も『Sympathy For The Devil』も『Jumpin' Jack Flash』も『Brown Sugar』も、生で聴けるのはこれが最後かもしれない──そう思っただけで、もうすべての曲がスペシャル以外の何物でもなかった。
いや、ミックのあの元気さからすれば、彼はもしかしたらふたたび日本に来てくれるかもしれない──というか、平気で80歳でも現役でいそうな気もする。
でもチャーリーやキースが、同じようにこの先そう長く現役で活動を続けられるとは思えない。いい加減、この辺が限界じゃないだろうかと思う。
そしてストーンズというバンドの音楽は、ミックのボーカルとキースのギター、そしてチャーリーのドラムが揃わないと成り立たない(ロニー、ごめん)。そのうちの一人が欠けた時点で、ストーンズの歴史は終わるのだと思う。
──そして悲しいことに、その日は決してそう遠くない未来に必ずやってくる。
僕みずからも年を取ったせいで、そのことが妙に実感をもって感じられただけに、今回の公演ではなおさら一音一音がとても切実だった。一期一会な気分だった。
なんたってストーンズは僕の人生を変えたバンドのひとつだから。
この夜のライブがそのバンドと生で接する最後の機会になるかもしれないと思えば、それはもう感極まろうってもので。
とはいえ、当然のことながらその感慨は決してメソメソしたものではなかった。
このバンドと人生の半分以上をともに生きてこられて幸せだったなぁと──。
そして今、そんなストーンズを観ながら、となりには妻が、そして友人たちがいてくれて、なお幸せだなぁと──。
心からそう思える、しみじみとそう思える、至福の一夜だった。
ストーンズが好きで本当によかった。
(Mar 23, 2014)
エレファントカシマシ
CONCERT TOUR 2014/2014年9月13日(土)/Zepp DiverCity
人生に節目があるとしたら、僕にとって今年は確実にそのひとつだった。
娘の高校入学を機に、みずからの甲斐性のなさ(預金残高のあまりの少なさ)を痛感させられたり、長年にわたって働かせてもらってきた会社との契約が打ち切りになったり。さいわい新しい仕事もすぐに見つかったので、現時点ではとくに困ってはいないけれど、このさき何年かのあいだに(主に金銭的な)問題が待ちかまえていそうな予感がたっぷり。
こんな調子だと、さすがにライブだ!っていって盛りあがる気にもなれない。進学にあたって親から都立高校を厳命される娘に悪くて、はしゃぐ気になれない。もとより出不精なものだから、すっかりライブ会場から足が遠ざかり、気がつけば、この日のエレカシは3月のストーンズ以来、じつに半年ぶりのライブだった。
まぁ、節約を心がけるっていうならば、これまでに何度となく観ているエレカシこそ観なくてもいいんじゃないかと思わないでもないんだけれど、でも、そこはそれ。エレカシはすっかり僕の人生の一部と化していて、気楽にパスできないのだった(2年前の『MASTERPIECE』のツアーを観なかったことをいまだに後悔していたりするし)。
それにね、やっぱりおもしろいんだ、エレカシのライブは、毎回違っていて。
ほんと違う。はからずして違う。毎回確実に違う。
でもそれって、ジャズのように即興が命だからとか、同じ演奏を繰り返さないのがモットーだから、とかの話ではなくて。たんに技術力の問題で、同じことが繰りかえせないんだと思う。
同じ曲をやっていても、ミスでどこかが変わってくる。日々のコンディション次第でなにかしら変わってくる。バンドの編成のちょっとした違いが、モロに音に反映される。そんなエレカシの安定感のなさが僕にはおもしろくてたまらない。
そう、ちょっと前にキース・リチャーズがどこぞのインタビューで、「いまだに『サティスファクション』を演奏していて飽きませんか?」という質問に対して、「俺たちは下手すぎて毎回違う演奏になるから、決して飽きたりしないんだ」みたいな発言をしていたけれど、まさにそうそう、その通りって感じ。僕はリスナーとしてエレカシに対して、同じように感じている。
この日のライブはそんなエレカシの珍妙な魅力をひさしぶりにつよく感じさせる内容だった。なぜって、蔦谷くんがいなかったから(ミッキーはいたけど、耳が出るくらいに髪を切っていたので、遠めには違う人みたいだった)。
このところ、蔦谷・ヒラマご両人のサポートを受けて、格段に演奏の安定感を増していたエレカシだけれど、この日の演奏は、宮本をしてバンマスとまで言わしめた男、蔦谷くんの不在により、ひさびさに安定感を欠いた内容になった。『珍奇男』のクライマックスともいうべきアウトロの部分をとちったりするし。『sweet memory』でも最後のほうがぐだぐだだったし。
でもね、そこがおもしろかったりするんですよ、エレカシの場合。
【SET LIST】
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上手くないからこその緊張感、とでもいうものが彼らの演奏には常にある。メンバーがちょっと油断すると、演奏が乱れてしまう。その乱れに宮本が怒りをあらわにする。そして御大の不機嫌に客席がひやりとする、みたいな。
決してほめられたことではないと思うけれど、そうした欠点がエレカシというバンドのライブ・パフォーマンスの魅力の一部になっている感が、僕には否めない。そして何度も書いているけれど、そうした演奏の下手さ加減が、ロックに不可欠な要素としてエレカシの音楽を特別にしているとさえ思う。
下手なことが武器となるという、珍しい状況。それってある意味、ロック・バンドとしての正しいあり方のひとつなんじゃないかとさえ思っている。
宮本ほどの才能があるミュージシャンならば、とっくの昔にあとのメンバーを見限ってソロで活躍していてもおかしくないのに、技量的に問題のある仲間たち(まぁ、彼自身もだけれど)とのバンドという形にこだわったからこそ、いまの状況があるわけで。蔦谷くんやヒラマくんみたいな上手いプレーヤーだけに囲まれて音楽を作っていたら、決していまのエレカシのような音は生まれてこないだろう。
きちっとしたプレーで優れたロックを生み出しているプレーヤーはいくらでもいるし、そうでないと作れない素晴らしい音楽も当然ある。というか、そっちの方が本来ならば本筋だと思う。でも、技術的には問題あり、でも音楽的にも魅力たっぷり、なんてバンドはそうそうないでしょう。しかもそれで四半世紀の歴史を誇るという。僕はそんなバンドとともに人生の半分以上を歩んでこれたことを、心から誇らしく思っている。
以上、閑話休題。
この日のライブは『ドビッシャー男』『この世は最高!』『地元のダンナ』という、地味ながらもアッパーな歴代アルバムのオープニング・ナンバー3連発で始まったのがとてもいい感じだった(「おまえらのために歌うぜ」とか「捧げるぜ」とかいって歌い出したのが『この世は最高!』だったのには笑った)。蔦谷くんがいないので、ギター3本の奏でるガリガリとしたラウドなディストーション・サウンドが堪能できたのがまた気持ちよかった。
そのほかの選曲でもこの日は比較的レアな曲が多かった印象。じつにひさしぶりに聴かせてもらった『甘い夢さえ』はエピック期の最後の曲だけれど、そういや宮本が「甘い夢」なんて言葉をてらいなく使い出したのはこの辺からだったよなぁとか思ったり。『さらば青春』や『ゴッドファーザー』も好きな曲なので嬉しかった。
『飛べない俺』では、宮本がキーボードを弾くのを初めて観た(そういや、『我が祈り』を生で聞くのも僕はたぶん初めて)。とはいえ、片手でワンコード鳴らす→マイクスタンドを両手で握りしめて歌う→また片手でワンコード鳴らす→また両手はマイク……なんて調子。そんな風にたどたどしくキーボード弾きながら歌う人、いままでに見たことないぞ。
そういや、『珍奇男』の前だったか、ライブの途中で宮本が「すいませんけど着替えます」とかいって、シャツを替えたのも珍しかった。で、着替えたシャツがまた白シャツなのが笑えた(自前のシャツではなかったらしいけれど)。
終盤は定番曲中心のメニューながら、『新しい季節へキミと』あたりは、キーボードが鳴らない分、いつもと音作りが違っていておもしろかった。
それは本編ラストの新曲『Destiny』も一緒。レコーディング音源ではあたりさわりのない印象であまり好きになれない曲だったけれど、この日はギターだけのせいでラフな手作り感が全開だった分、なかなか好感が持てた。ニューシングルからの2曲で本編を締めくくる──しかも最後が『Destiny』のようなポップな曲だ──ってのも、なにげに新らしかった。
アンコールでは、やはり『流れ星のやうな人生』がいい。もともと大好きな曲だし、その前後の2曲が定番中の定番だっただけに、この曲が聴けてとても嬉しかった。
そして締めくくりは、この日も真っ赤なライトを浴びての『待つ男』。
ライブ全体でみれば、ところどころおかしなところもあったけれど、そういう部分も含めてとても充実した内容だったと思う。
じつはこの日のライブ、僕ら夫婦のチケットの整理番号は4番と5番だった。つまり開場前から並べば、最前列真正面の柵にかぶりつきで観られる極上プレミア・チケット。
でもさ、正直なところ、僕はいまさらいい年して最前列でエレカシを観たいとか、思わないわけですよ。この頃はそれでなくても日々疲れ切っているし。ライブは開演直前にいって、適当な場所で観られればそれでいい。相応しく暮らせればそれでいい。
ということで、僕の分は人に譲って、いつも通りふつうに観ました。でも、うちの奥さんはめったにないことだからと、がんばって最前列を確保したので、この日は別行動。長いこと一緒にエレカシを観に行っているけれど、おそらく彼女と同じライブを別々の場所で観たのって、これが初めてだと思う。会場の Zepp DiverCity も僕は初めてだったし、個人的にはとてもレア度の高いこの日のライブでした。来月の野音も楽しみだ。
(Sep 27, 2014)
エレファントカシマシ
2014年10月19日(日)/日比谷野外大音楽堂
ぐずぐずしているうちに、すでにあの日から一カ月近くが過ぎてしまった。今年で25年連続という、節目の年の記念すべきエレカシ野音。
継続は力なりで、エレカシといえば野音というイメージがすっかり定着してしまい、近年はチケットがプレミア化しまくりの野音公演だけれど、今年はきわめつけ。ファンクラブでも会員ひとりにつき、一枚しかチケットが取れなかった。
ニューヨーク・ニックスの熱烈なファンとして有名な映画監督のスパイク・リーが、「一緒に試合を観て語りあう仲間がいなかったらバスケ観戦の楽しみなんて半減だ」みたいなことを言っていたけれど、そこまで極論しなくても、一緒にゆく人がいるならば、誰だって一人よりは二人のほうがいいだろう。ファンクラブ経由だとチケットが一枚しか確保できないってのはちょっとひどいと思う。
まぁ、とはいえ、ここ数年はファンクラブに入っていてもチケットの抽選に外れて観られないという人が少なくないようで、実際にわが家でも2年連続で外れたことがあるのだから、ファンクラブ事務局としても苦肉の策なんだろうけれど。
そんなわけで、わが家では今年もファンクラブ経由でチケットを確保したものの、入手できたチケットは一枚きりだった。しかも転売をふせぐという理由で、入手したチケットはファンクラブの会員当人しか使えないという(入場時にランダムに身分証明書の提示を求められると聞いていたら、実際に僕がひっかかった)。わが家の会員証はうちの奥さん名義。だから僕のぶんのチケットはない。
ファンクラブでも手に入らないチケットが、一般発売で手に入るとも思えない。あぁ、さすがに俺のエレカシ野音皆勤記録も今年でついにおしまいか──と思っていたのだけれど、ところがどっこい。
一般発売当日にローソン店頭の券売機に並んだうちの奥様とそのご友人(ご協力感謝)のご尽力により、立ち見ながら僕のぶんのチケットも確保できてしまいました(自分でやれって話が)。すげぇな。行動力のある人のもとには運が巡ってくるんだな。いやはや、勉強になりました。
ということで、前振りが長くなってしまったけれど、今年も妻の尽力に支えられて、他力本願で観ることができた恒例エレカシの野音。
【SET LIST】
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チケットを別々に入手した関係で、うちの奥さんは指定席、僕は立ち見だったので、この日も前回の Zepp DiverCity につづいて、ライブのあいだは夫婦別行動となった(今年はそういう巡りあわせの年らしい)。
で、どうせひとりで観るならば、開演前に並ぶのも嫌だし、べつに早くなんて行かなくていいや、エレカシのファンは女性が多くて平均身長が低いから、立ち見のうしろのほうでも十分に見えるだろう──とたかをくくっていたら、これが大まちがい。
開演時間ぎりぎりについてみたら、立ち見はぎっしりと人で埋まっていて、しかも思いのほかその人の壁は背が高く、ステージがぜんぜん見えない。あらら、なめてました、野音の立ち見。
ステージが見えないだけならば、まぁ仕方ないと思うのだけれど、人の壁に遮られているせいか、音がとても悪いのにはまいった。僕は最初、ステージ向かって右手の隅のほうで観ていたのだけれど(うちの奥さんの席がその辺だったので)、なんだかぶあつい幕一枚を隔てているような音響で、とてもこれでいいやって思える環境じゃない。せっかくひさしぶりに聴けたオープニングナンバー『おはようこんにちは』も、これではだいなし。
ただ、不幸中の幸いだったのは、野音の立ち見だと、移動が気楽にできること。ライブの最中に移動するのって、ほかの人の邪魔になるので、普通のライブハウスだと気兼ねすることが多いのだけれど、野音では指定席の外の通路の部分で観ているので、人の邪魔になることもなく、気楽に移動できる。
ということで、最初の2曲は我慢して聴いていたんだけれど、いい加減こんなんじゃ仕方ないなと思って、3曲目の『浮世の姿』(お~、なんて嬉しい選曲!)のときに場所を移して、少しでも音のよさそうな、ステージがいくらかでも見えそうな場所を探して歩いた。宮本が絶叫しているのを横目に、どこかいい場所はないかと、暗いなかをぶらぶら歩いているというシチュエーションは、野音歴25年目にして初めての経験で、なかなか新鮮だった。気分はちょっぴり野外フェス。
で、そうやって最終的にたどり着いたのが、ステージ真正面のPA席のうしろ。テントが張ってあるのを嫌ってか、そこは比較的ひとが少なくて、ステージがそれなりに見えたし──まぁ、テントに上下左右の視界を遮られて、なんだかモニター映像を観ているみたいだったけれど──、なによりPA卓の3メートルくらいうしろだから、音がとてもよかった。それまでのこもったような音とは大違い。視野の狭さはともかく、音響的には文句なしの場所を確保できた。なんでこんないい場所が空いているのか、ちょっと不思議だった。みなさん、野音で立ち見をするときはPA席のうしろが意外な穴場です。
ということで、今回の僕の野音はここからが本番。それもちょうどそこからの選曲が『ひまつぶし人生』に『お前の夢を見た』と、個人的に愛着大の5枚目の収録曲がつづくんだから、こたえられない。とくに『お前の夢を見た』はもともと大好きな曲が、ここでは演奏自体にとても迫力があって最高。これがはやくも本日のクライマックスかって素晴らしさだった。
でも嬉しいことに、この日はその「本日のクライマックス」がその後もどんどん更新されてゆく。
まずよかったのが、そのちょっとあとの『太陽ギラギラ』。とくに好きな曲ではないんだけれど、生で聴くとその重さがライブ映えすることすること。きょうのベストはこれかも……。
と、そう思ったとたん、その次の曲が『見果てぬ夢』とくる。うぉ~。
これは僕が三枚目のアルバムを聴いてエレカシファンとなったときに、もっとも衝撃を受けた一曲。
これをふたたびライブで聴ける日がこようとは! しかもCDで僕を愕然とさせた、あの宮本の超絶的な絶叫も衰え知らず。なんでこの人の喉はこうもすごいんだ。あれから25年たった今でもまだ、こんなに声が出るなんて。もうびっくりだよ。
そのあとの『珍奇男』でもサプライズがある。なんの予告もなく、こっそりと蔦谷好位置くんが登場したのだった。
今回の野音では、その前からつづくツアーと一緒で、蔦谷くんが不在、ヒラマミキオくんのみのサポートだった。
蔦谷くんはちょうど同時期に行われているSuperflyのツアーに同行していて、ブログにもこの日はその移動日だと書かれていた。エレカシことには「エ」の字も触れていなかったので(いや「エ」くらいはもしかしたら)、野音のステージ上にキーボードこそ置いてあったものの、また宮本が『飛べない俺』を披露するのかな、もしくは誰かべつの人が途中でゲストとして出てくるのかなと思っていたらば、だ。
『珍奇男』の宮本ソロパートが終わって、バンドの演奏が始まったら、そこにはいつの間にか蔦谷くんの姿がありました。
──といいつつ、何曲かあとので宮本が紹介するまで、僕はそれが蔦谷くんだって気がつかなかったんだけれど(宮本もなかなか紹介しないし)。僕の場所から距離がありすぎて顔がよくわからなかったし、蔦谷くんは絶対にきょうは出てこないものと思い込んでいたから、ずっとほかの人だと思って観ていた。不覚。
あとで聞いた話によると、蔦谷くんの出演を最後までサプライズにしていたのは、宮本の提案なのだとか(変なところで変なサービス精神を発揮するミヤジ)。まぁ、蔦谷くんにしても、これで8年連続だそうだから、いまとなると本人も「俺抜きでなんかやらせない」って気分なんじゃないかと思う。
蔦谷くん登場後は、それまでのエピック攻めから一転、ポニーキャニオン以降の曲中心のセットリストにシフトチェンジ。で、そうした選曲のせいもあるのかもしれないけれど、蔦谷くんが加わったとたん、やはり演奏がぐっと安定感を増して、このごろのエレカシの音になるからおもしろい。
あ、でもそんな中で意外性があったのは『東京の空』。この長大な曲を、原曲の目玉である近藤等則のトランペットのかわりに蔦谷くんのキーボードをフィーチャーして鳴らしたりして、オールドファンの心をぐっとつかんでみせた。
後半戦でとくに印象に残っているのは、『It's my life』。ひさしぶりに聴いたら、軽快なサウンドとコミカルな味わいが、なんかとてもいい感じだった。
あと、エレカシ作品としては例外的に好きでない『愛と夢』からの『Tonight』も、この日はけっこうラウドに響いて、なかなか悪くなかった。つづく『startnig over』は、あいかわらずミドルテンポの大きなグルーヴが気持ちいい。この曲のビート感はいつ聴いても僕のツボ。
本編の最後は先月のライブハウスのときとほぼ同じ内容。最近の代表曲を並べて、最後をシングル『Destiny』からの2曲で締めてみせた。ただ今回は蔦谷くんがいるので、サウンド的には、よりこなれた印象だった気がする。
ツアーの時とあきらかに違っていたのは、そのあとのアンコールで、そこだけでさらに10曲が披露される気合の入れよう。しかもセットリストがまたふるっている。『友達がいるのさ』『I am happy』『世界伝統のマスター馬鹿』『悪魔メフィスト』などのレアナンバー連発(しかも傑作揃い)。これだから野音はこたえられない。チケットが奪い合いになるのも当然かと思ってしまう。
まぁ、弾き語りの『月夜の散歩』で宮本がコードを間違えまくったあげくに演奏を中断、「最近は歌詞を覚えられなくて」なんて言い訳をしてやり直すという失笑もののシーンもありましたが。それもまたご愛嬌ってことで。
長いアンコールのラストはお約束の『ファイティングマン』。そして2度目のアンコールでは、きょうもやはり『待つ男』を聴かせて大団円か──と思っていたら、この日は違った。なんと今回の野音のラスト・ナンバーは『男は行く』!! おぉ、そうか、これがあったか!
知る人ぞ知る──。
この曲こそ『生活』リリース直後に行われた第1回目の野音のとりを飾ったナンバーだった(はず、おそらく)。
あれから25年後の野音を、ふたたび宮本はこの曲で締めくくってみせた。これに感動せずにいられようか(否、いられまい)。もう文句なしの締めくくり。いやぁ、今年も野音が観られてほんとうによかったと思える、感動のラストだった。
エレカシとチケットを取ってくれた妻に心からの感謝を。
(Nov 16, 2014)