2009年のコンサート
Index
- プライマル・スクリーム @ Zepp Tokyo (Jan 29, 2009)
- BECK @ NHKホール (Mar 25, 2009)
- エレファントカシマシ @ 日本武道館 (Apr 11, 2009)
- RADWIMPS @ 幕張メッセ国際展示場No.4~6 (Apr 25, 2009)
- エレファントカシマシ @ Zepp Tokyo (May 22, 2009)
- エレファントカシマシ、Dragon Ash、NICO Touches The Walls、SBK @ SHIBUYA-AX (Jun 27, 2009)
- サマーソニック09(2日目) @ 幕張メッセ+千葉マリンスタジアム (Aug 8, 2009)
- サマーソニック09(3日目) @ 幕張メッセ+千葉マリンスタジアム (Aug 9, 2009)
- エレファントカシマシ @ 日比谷野外大音楽堂 (Oct 24, 2009)
- ソウル・フラワー・ユニオン @ LIQUIDROOM (Dec 12, 2009)
プライマル・スクリーム
2008年1月29日(水)/Zepp Tokyo
09年の一発目はプライマル・スクリーム、半年ぶりの来日公演。前回の来日は去年のフジロックで、その前が06年の9月だから、フジロックを見逃した僕ら夫婦にとっては、およそ2年と4ヵ月ぶりということになる。
それにしてもこのバンド、観るたびにどんどんよくなってゆく気がする。バンド自体が大きく変わっているわけではないけれど、ボビー・ギレスピーという人がソングライターとして衰えぬ才能を持っているがゆえに、キャリアが長くなった分、素晴らしい楽曲が増えて、引き出しが多くなる。毎回、新しいアルバムがリリースされるごとに、いい曲の比率が上がってゆく。そういう積み重ねが、そろそろ飽和状態になってきた感がある。ほんとにこの日のセットリストはいい曲ぞろいで、強力無比だった。
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エレカシなんかもそうだけれど、僕らの世代にはこういうバンドが多い気がする。ストーンズみたいに若いころにヒットさせた必殺のナンバーをいつまでも大事にしてゆくだけではなく、つねに新しいナンバーを定番リストに加えて、最新型の自分たちの音楽を提示してくれる。僕がいつまでも飽きることなくロックを聴きつづけていられるのは、こういうバンドとのつながりがあることのが大きいのだと思う。
この日のステージは演出もすごかった。ステージの背景には多数の電球を並べた大型スクリーンが配され、その中央からは緑色のレーザーライトが客席上方に向かって暗闇をつらぬく。ライブハウス規模のステージではあまりお目にかかれない、ゴージャスな演出だった。会場は満員とまでいえなかったので(いいライブなのにもったいない)、僕らは開演5分前に着いたにもかかわらず、かなりステージに近い位置で観ることができたので、きらびやかな映像が視界いっぱいに広がって、なおさら刺激的だった。
そんな派手な視覚効果のおかげで、ただでさえノリのいい音楽がなおさら引き立つ。もとよりライブだと──素晴らしいバラッドがたくさんあるにもかかわらず、それらをいっさい排して――、アッパーな曲だけで勝負するバンドだけに、そのノリのよさは半端じゃない。ガシガシとハードなリズム・セクションにのって、ノイジーなギターが大音量で鳴り響く。これぞまさにロックというサウンドで、本当に最高だった。
この半年くらいは、レディオヘッドや椎名林檎など、レベルの高いコンサートをいくつも観てきたけれど、こんなふうにストレートに、これこそがロックだと実感できるライブはひさしぶりだ。
いやあ、本当によかった。プライマル・スクリームは現時点でもっとも素晴らしいライブ・バンドのひとつだと思う。少なくても僕個人にとっては、まちがいなくそうだ。
(Feb 07, 2009)
BECK
2009年3月25日(水)/NHKホール
ベックも今年でもうデビューから15年になるらしい。この人のことはファーストのころからフォローしているけれど、ずっとつかず離れずという感じでそれほど入れ込んだことがなかったので、ライブはこれまで一度も観たことがなかった。才能は認めつつも、その音楽性が僕の趣味からは若干ずれている気がしていて、生で観たいとまでは思わなかった。
けれども、ここ数作の彼は(というかデビュー以来ずっと?)コンスタントに高水準の作品をリリースしているし、新作の 『Modern Guilt』 が比較的シンプルなロック・フォーマットにのっとったライヴ映えしそうな作品だったこともあり、今回初めて生で観たいなと思ったのだった。
で、ちょっと
この日の会場はNHKホール。ここもずいぶんとひさしぶりだなと思って調べてみれば、前回この会場に足を運んだのは、じつに10年も前のことだった。つまりこの日が21世紀初。この頃は中規模のライブハウスが増えたので、この手の全席指定のホールでの公演もすっかり珍しくなってしまった。まあ、単に僕が観たいと思うアーティストが、スタジアム級かライブハウス級かで二分してしまっていて、こういう中規模のキャパを必要とするアーティストが少ないというだけなのかもしれないけれど。
僕らの席は3階の前から2列目。前が1列しかないのはラッキーだったけれど、なにせ3階席だけあって、ステージが遠い。今回のベックのバンドはシンプルな5人編成で、音量もあまり大きくなかったので、正直なところ、一曲目の 『Gamma Ray』 が始まったときには、その音のしょぼさにがっかりした。
でもそんな音への不満は──よくあるパターンで──コンサートが進むにつれて、あっという間に解消される。PAが状況にあわせて調整しているのか、はたまた僕の耳がその音の構成に慣れるのか、その辺はよくわからない。いずれにせよ3曲目くらいになると、もうなんの不満もなく、その音を全身で楽しめるようになっていた。
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でもって、いったん慣れてみるとこのバンドの音がいい。けっして上手くはないけれど、下手にまとまりすぎることなく、適度にとっちらかったその音作りは、まさしく僕好みだった。たとえるならば、エルヴィス・コステロの音にヒップホップを掛けあわせたようなイメージ。こんな演奏を楽しまずにいられるわけがない。
コンサートの演出自体はそれほど凝ったものではなかった。ステージ上には裸の白いマネキンが30体、集合写真を撮るような感じで並んでいたけれど(ちゃんと数えた)、特に動くでもないし、なんのために置いてあったのか、よくわからなかった。バック・スクリーンにはいろいろな映像が映し出されていたけれど、3階席からだと上っかわが隠れてしまっていたので、これまたどんなだったか、ほとんど印象がない。バンド・メンバーのルックスも(ベック本人を含めて)きわめて地味だし、いずれにせよ余計なことはしないから純粋に音楽を楽しんでくれと──そういうステージだったと思う。
セットリストは新譜を中心に旧来の楽曲をバランスよく配したもの。僕は知らない曲が3曲ばかりあったけれど、後日ネットで調べてセットリストを作成したところだと、すべてアルバム未収録曲だった。
バンドの演奏は基本的にはきわめてオーソドックスなものながら、そろそろ終盤に差し掛かっての 『Hell Yes』 からの3曲では、メンバー全員が楽器を手放してステージ最前列に出てきて、それぞれにリズムボックスだかなんだかを片手に踊ってみせる余興的なヒップホップ・コーナーがあった。場内、大盛り上がり。
そのあとのパートではベックがアコースティック・ギターを弾いてみせたのだけれど、これがまたよかった。ロック・バンドでアコギを弾く場合、他の音量に押されて音が隠れてしまうことが多いけれど、彼のアコギはその音がきちんと聞き分けられるどころか、バンド・サウンドのコアとして見事な存在感をもって鳴り響いていた。しかもその音色が素晴らしい。あのアコギはむちゃくちゃカッコいいと思った。
しかしながら、ベックがさらに魅せたのはそのあと。アゴギから再びエレキに持ち替えた彼は、ひとしきりソロで 『You Gotta Blues』 などのブルース・フレーズを弾いてみせたあと、その流れからおもむろに“あの” 『Loser』 のイントロに突入してみせたのだった。うぉー、そうくるのか。こりゃやられた。彼に特別な思い入れのない僕でさえ感動しちゃうんだから、ファンの人にはこたえられないだろう。いやぁ、カッコよかった。
バンドの人数が少ないので、 『Sexx Laws』 のような、もとがファンキーな曲では、ややもの足りなさを感じさせた部分もあったけれど、それでも今回のベックのライヴは、彼がロック・アーティストとしていかに優れた存在かを十二分に知らしめる、じつに素晴らしい内容だったと思う。いやぁ、本当によかった。次もまた観たくなった。
(Apr 01, 2009)
エレファントカシマシ
桜の花舞い上がる武道館/2009年4月11日(土)/日本武道館
エレファントカシマシ、8年ぶりの武道館公演。
ふたたびエレカシが売れて武道館に戻ってきた!――というような高揚感や興奮は、売れなかったころの彼らの作品をより深く愛している僕にはとくにないけれど、それでも日本武道館という舞台の独特のたたずまいはエレカシにはぴったりだし、それに季節はまさに、「桜の花舞い上がる」春。千鳥が淵はすでに葉桜だったけれど、それでも十分に日本情緒あふれる春。これだけでもうこの日の公演は特別なものになりそうだと思えるし、いやおうなく期待値は上がろうってものだ。果たしてこの日のエレカシはその期待にばっちりと答えてくれた。
今回の武道館公演にはいくつかのサプライズがあった。
まずひとつめは、ステージの左右に配された大型スクリーン。いまやこの規模のライブ会場ならばあって当然の設備なのだけれど、僕にはこれまでに大型スクリーンつきのステージでエレカシを観た記憶がなかった。宮本がわざわざ「横のスクリーンに俺が映っているはずなんですけどね。ここからは見えない」てなことを言っていたし、エレカシの単独公演でこうした大型スクリーンがあるのはおそらく今回が初めてなんだろう。少なくても僕個人がコンサート会場で生の宮本をスクリーン越しに見たのはこれが初めてだった。
この日の僕らの席はアリーナの前から十一列目という、とてもよい席だった(なんたってファンクラブ発足時からの会員ですからね。名義はうちの奥さんだけれど)。なので武道館といえども、距離的にはふつうのライブハウスで観るのと変わらない。それなのに視野には、肉眼で見る宮本の姿とともに、左右の大きなスクリーンに映し出された彼のどアップの映像がある。なまじ、これまでに何十回も観ているバンドだけに、この状況のなじみのなさはなんとなく不思議な感じだった。
ふたつめのサプライズはオープニング・ナンバーの 『新しい季節へキミと』 でいきなり登場した、金原千恵子さんの率いるストリングス楽団の存在。このところの楽曲にはストリングスをフィーチャーしたものがけっこうあるし、武道館ではかつてもストリングスをゲストに招いたことがあるから、今回もあるかなとは思っていたけれど、まさか一曲目からいきなり登場するとは思わなかった。しかもそれが、年末の桑田佳祐のひとり紅白にもゲスト参加していたバイオリニストの金原千恵子さんの楽団だというんだからびっくりだ。
この弦楽団はバンド・サウンドの干渉をふせぐためのセパレータのうしろに隠れていたので、アリーナの僕らの席からは左隅のほうの三人くらいしか見えなかった。おかげで目のよくないうちの奥さんは、結局最後の方になるまで、彼女たちの存在に気がついていなかったらしい。途中で宮本が「本日は金原ストリングスの皆さんを含めた、総勢18名だか20名だかでお送りします」というような紹介していたのに──ちなみにそのなかには当然、蔦谷・ヒラマの両氏も含まれる──、それは裏方さんを含めた人数だと思ったんだとか。とことん、とぼけている。最初にちゃんと教えてあげればよかった。
金原楽団はオープニングで登場したあと、いったんは引っ込み――楽団の出入りを隠すため、ステージを前後に区切る黒いカーテンが引かれていた――、しばらくしてから再登場。その後は出たり入ったりを繰り返していた。「かつては女人禁制と言われていたステージに!」という宮本の正式な紹介を受けて二度目に登場した際には、金原さんと笠原さんというチェロの女性、ふたりだけが前に出てきて、 『リッスントゥザミュージック』 を演奏してみせた(このとき宮本は失礼にも、もうおひとかたの名前を忘れていて、石くんに尋ねて、ご本人を含めた武道館じゅうの苦笑を誘っていた)。個人的にはそれほど好きな曲ではないけれど、彼女たちの参加のおかげもあり、これが絶品だった。気が早くも僕は、この曲がこの日のクライマックスかと思った。
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いや、じつはその一曲前でも僕はすでにそう思っていたのだった。なんたって、そのひとつ前に演奏されたのが 『男は行く』 なのだから。 『男は行く』 ですよ、 『男は行く』。武道館で 『男は行く』。20年来のファンとしては、これが興奮せずにいられようか(否、いられまい(反語))。
ということで、今回の武道館での三つめのサプライズは、この曲を始めとした往年の激烈な名曲のいくつかが、当時を思い出させるようなハイテンションで演奏されたことだった。 『新しい季節へキミと』 のあとの2曲目が 『この世は最高!』 だったし、 『リッスン~』 の次の次―― ちなみにそのあいだにやったのは、ストリングスがつくならば必ずやるだろう予想していた 『昔の侍』 ――には、なんと 『シャララ』 が演奏された! しかもこの 『シャララ』 は金原ストリングス・セッションの流れのなかの一曲だった!
仕事からの帰り道、飯田橋の歩道橋の上を歩きながら、わけもなく泣きそうになっていた二十代なかばの僕が、ありったけの共感を持って聴きまくっていたこの曲を、まさか四十過ぎてから、こともあろうに武道館で、ストリングスつきのライブ・バージョンで聴くことになろうとは……。僕にとってのこの日のベスト・ナンバーは、まちがいなくこの曲だった。
『シャララ』 にしても 『男は行く』 にしても、この日の宮本はこれらの往年の荒くれたナンバーを、かつての彼自分を呼び起こすような荒々しさで演奏していた。ギターをとちるのも気にせず、歌のフレージングも乱れさせ。ギョロっと大きな目を見開いて、「おめえだよ、おめえ」とすごんでみせた。現在進行形のポップな路線を基調にしつつも、過去から引きずっているアンチポップな一面を、なんのてらいもなく堂々とさらけ出してみせた。そこがなによりもよかった。
こんなことを書いていると、まるで今回の武道館が懐古的な内容だったみたいだけれど、決してそんなことはない。逆にかつてのエレカシを彷彿させたのは、これらの曲と 『珍奇男』、あとはオーラスの 『ファイティングマン』 くらいで、コンサートのメインとなるのは、ほとんどが最新モードのエレカシだった。とくにコンサート本編の終盤からラストにかけては、今回のライブで初めて聴かせてもらった 『絆(きづな)』 やCMタイアップの新曲 『ハナウタ』 などを含めた、ここ最近のシングルや代表曲だけを並べて一気に押し切ってみせた。僕としては 『ガストロンジャー』 とか、ほかにも聴きたい曲はたくさんあったのだけれど、でもまあ、それはそれである意味すごいと思う。新曲ばかりで本編を締める二十年選手なんて、そうそういやしない。
そういえばアンコールでも「宮本らしいなあ」と思うことがあった。 『今宵の月のように』 から始めて4曲を聴かせてくれたのだけれど、その間、曲が終わるごとにギター担当のスタッフが宮本のもとへエレクトリック・ギターを持って行っては、受け取ってもらえずに引っ込むというパターンが繰り返された。おそらく予定では宮本がエレキを弾く曲をやるはずだったのに、彼の心変わりで別の曲をやることになったのだと思う。演奏されたのは 『風』 『流れ星のやうな人生』 『ファイティングマン』 の3曲で、結局アンコールのあいだ、宮本はエレキを弾かずじまいだった。
だから当然2度目のアンコールがあるんだろうと思っていれば、予想に反してコンサートはこれにて終了してしまう(場内がっかり)。結局、宮本がエレキを弾いてなにをやる予定だったのかは、わからずじまいだった。これがこの日、唯一の心残りかもしれない。
でもまあ、そこまでで2時間半を優に超える長丁場だったので、僕自身はすっかり疲れ切っていたから(体力がないやつ)、それだけでもう十分満足という気分だった。ラストの 『ファイティングマン』 が、これまた往年を思い出させるものすごい迫力だったので、ここで終わるのがベストなんじゃないかとも思った。
「この世の春」という言い回しがあるけれど、ということで、まさにそんな感じのする今回のエレカシの武道館だった。いや、満足まんぞく。
(Apr 16, 2009)
RADWIMPS
イルトコロニーTOUR 09/2009年4月25日(土)/幕張メッセ・国際展示場No.4~6
念願のラッドウィンプス・ソロ公演を、幕張メッセのだだっ広い展示場ホールまで観に行ってきた。
コンサート本編は、新作 『アルトコロニーの定理』 の一曲目 『タユタ』 で始まり、最終曲 『37458』 ──「みなしごはっち」と読みます(ファンじゃない方のための蛇足)──で終わるという構成。どちらもバンドにとっては、アルバムでの収録位置までを含めて、特別に思い入れの深いナンバーだというので、あらかじめ予想していた通りの展開だった。
でも正直なところ、そんな予想は裏切って、オープニングはもっとアッパーな曲にして欲しかった。 『タユタ』 が一曲目では、どうにも勢いがつかない。まわりに同世代の観客がほとんどいないことに居心地の悪さを感じていたひとりぽっちの四十男としては、どうせならば2曲目の 『おしゃかしゃま』 を最初に持ってきて、問答無用にぐいっとその世界に引きずり込んで欲しいところだった。
最初の2曲ではステージ上方とフロアの中間あたりの左右に配された大型スクリーンが使われないままだったのも、ライブへの入りにくさを助長した。
とにかくこの会場は広すぎる。僕がいたEブロックは、前後3列に分けられた中間のブロックの右側で、僕はだいたいフロアの真ん中あたりにいたのだけれど、それでもステージはようやく人の姿が見分けられるくらいの距離だった。それなのに、(演出だとは思うけれど)せっかくの大スクリーンは消えたままで、ステージの様子がよくわからない……。これはかなりのストレスだった。
3曲目の 『バグパイプ』 でようやく4人の姿がスクリーンに映し出されたときの歓声の大きさからすれば、そう思っていたのはなにも僕だけじゃなかったはずだ。デビュー3年目のバンドとそのスタッフだけに、やはり初めてのこの規模──3万人も集まっていたらしい──は難しいのかなと思ってしまった。
ということで、ホールの広さを踏まえた演出の面ではやや疑問をおぼえはしたものの、音響や演奏の面においては文句なしの内容だった。ボーカルがくっきりと浮かび上がる分離のいい音作りからは、野田洋次郎という稀有のソングライターが放つその言葉を、広い会場のすみずみまでまっすぐに届けようという思いが伝わってきた。野田くんの歌も 『生春巻き』 のDVDで観られる2年前のライブよりも格段に上手くなっている。 『アルトコロニー』 で聴かせた透明感のある歌声は、ライヴでも同じように美しくホール中に響き渡っていた。
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さらに彼がその音楽的センスのとんでもなさを見せつけたのは、『遠恋』 でのこと。この曲の間奏の部分で、ギターの桑原とベースの武田の両氏がソロ・バトルを繰り広げているあいだに姿が見えなくなったなと思ったら、なんと彼はドラムの山口くんのとなりにもう一台のドラムセットを用意させて、ツイン・ドラムでのソロを披露してみせたのだった。
これが上手いんだ。いや、技術的なことはよくわからないけれど、スコンスコンとやたらに音の抜けがよいラフな演奏で、片手間にたたいているとは思えないグルーヴがあった。新譜の 『七ノ歌』 におけるゴスペル風コーラスは彼がひとりで全パートを歌って多重録音したものだという話を知ったときにもびっくりしたけれど、ドラムをたたかせてもこんなにいけてしまうたあ、重ねてびっくりだ。いやはや、この人は本当に音楽の天才だわ。改めてそう思った。
そのほかにも演奏や演出で格好いいなあと思うシーンがいくつかあった。ひとつは 『謎謎』 のアウトロから 『メルヘンとグレーテル』 のイントロにつながってゆく部分。ギターのフレットを右手でハンマリングする奏法(なんと呼ぶのか知りません)でしつこくアルペジオを弾きつづけ、いつまでたってもやめる気配もない桑原くんに、野田くんが「もうやめろって」みたいなことを耳打ちして笑いをとり(もちろん実際になんと云ったかは聞こえない)、そこから 『メルヘン~』 の美しいイントロへとつなげていってみせたのには胸が熱くなった。 『グーの音』 のリフをミディアム・テンポのハードロックとしてブルージーに聴かせてみせた長尺の導入部も気持ちよかった。
また、『トレモロ』 で緑のレーザー光線がフロアの上空で数知れず交錯したのは鳥肌ものだったし、手書き風の白黒アニメとともに演奏された 『オーダーメイド』 の演奏は、まるでPVを観ているかのように完成度が高かった。本編ラストの 『37458』 ではスクリーンを消し、ステージ後方を一面の星空としてみせる演出で、この傑作ナンバーを引き立ててみせた。
全体的に意外だったのは、新曲群がそれほどオーディエンスの熱狂的な反応を呼び起こしていなかったこと。メディアからは絶賛されている 『アルトコロニー』 だけれど、リリースから日が浅いこともあってか、ファンに対する浸透度という点ではまだまだなようで、野田くんが場内からの歌声を期待して歌うのをやめても、オーディエンスがついてこないなんてことが何度もあった。昔の曲の場合は 『ギミギミック』 のような合唱しにくそうな曲でも、自然とフロアから歌声が巻き起こっていたから、これは単に時間の問題なのかもしれない。なんにせよ、非常にシンガロングな印象の強い 『七ノ歌』 で大合唱が巻き起こらなかったのは意外だった。
アンコールにはサプライズがあった。場内で自然発生的にインディーズ時代のデビュー・シングル 『もしも』 の大合唱が巻き起こるなか──あれっていつものことなんでしょうか?──、いつまでたってもアンコールが始まらないと思ったら、ようやくメンバーの四人が登場したのはメイン・ステージではなく、フロアの右側に突如出現した仮設ステージ。それがなんと、僕がいるEブロックの真横なのだった。ということで、悲鳴とともに、どどっとそのステージに殺到する若者たちの流れに飲まれて、僕もラッドウィンプスを間近で見ることに。
演奏されたのはアコースティック・セットでの 『ラバボー』 と 『25コ目の染色体』。どちらもめったに聴けないレアな演奏でしょう。それをわずか十メートルかそこらの距離で見られちゃったのだから、俺ってもしかしてすごくラッキーかもしれない──って、終わってみれば、そこには思わぬ落とし穴が待ち受けていたのだけれど(後述)。
ちなみにこの演奏のときにドラムの山口くんはカホンをたたいていた。この楽器は要するに、たたくととてもいい音のするただの箱で、その上に座って演奏する。僕は友人のドラマーが所有しているので知っていた。それにしてもカホンを使ったステージを幕張メッセで見るとは思ってもみなかった。
このアンコールのあとのまわりの反応もおかしかった。右側から出てきたんだから、次は反対にも出現するかもしれないと思って、「わー、次はどこ? わかんなーい」みたいに右往左往している女の子がけっこういました。冷静に考えれば、いまのはアコースティックセットだからできたことで、次はメイン・ステージに戻るしかないと思うんだけれど……。まあ、それはそれで純情な証拠かも。そう考えると、なんだか可愛かった。
2度目のアンコールは 『いいんですか?』 1曲の予定だったみたいだけれど、野田くんが「楽しいからもう一曲やる」といって、『有心論』 も聴かせてくれた。とうぜん場内大興奮。サビでは3万人がいっせいに飛び跳ねるもんだから、広いフロアがゆれる、ゆれる(僕は飛んでません)。なんとも堂々たるエンディングだった。
最後に思わぬ落とし穴の話。この日のライブは幕張メッセの展示場ホールの4~6で行われた。これまでメッセで見たライブは(サマソニを除くと)いつも9~11だったから、このホールで観るのは初めてだったのだけれど、終わってみてから、なぜこちらがあまり使われていないのかがよくわかった。要するに出口が少ないもんだから、何万もの観客を退場させるのが大変なんだった。いやあ、規制退場にご協力くださいといって、待たされた、待たされた。結局、僕のいたEブロックはいっとう最後まで待たされた。ようやく会場から抜け出したのは、ライヴが終わってから1時間近くもたってからだった。
ああ、あのアコースティック・セットでの大サービスは、このことに対するねぎらいの意味だったのねと思ったのでした。おしまい。
(Apr 28, 2009)
エレファントカシマシ
コンサートツアー2009 "昇れる太陽"/2009年5月22日(金)/Zepp Tokyo
これまでに僕が観たエレカシのなかで、もっともポップなステージだった気がする。大ヒットの新作 『昇れる太陽』 をひっさげてのツアー、Zepp Tokyo 公演。
いやしかし、一曲目が 『こうして部屋で寝転んでるとまるで死ぬのを待ってるみたい』 ってのはなしでしょう。タイトルが長すぎるからってわけではないけれど、いまいち盛りあがらない。 『ジョニーの彷徨』 のラウドなイントロをSEで流したあとだっただけに――そうそう、このためにステージ上にノートPCが用意されていたのも、エレカシとしては珍しかった――、あまりに意表を突きすぎで、大半のオーディエンスが引いていた。
その直後に 『悲しみの果て』 を持ってきたのは、もしかしたら多くの人には好評だったのかもしれないけれど、少なくてもこの曲にすっかり食傷気味の僕らには当然のごとく受けが悪い。三曲目でなお 『新しい季節へキミと』 へつづくに到っては、うちの奥さんに「今日は駄目かもと思った」と言わしめるほど。僕としても、わるかないけどなあ、という内容だった。
ようやく待ってましたという展開を見せてくれたのは、そのあとの 『いまはここが真ん中さ!』 から。つづく 『おかみさん』 は期待していたほどではなかったけれど、その次が 『BLUE DAYS』 となれば、興奮せずにはいられない。うぉー、なんてこった。それをやるのか!
この曲、僕はこれまで一度もライヴで聴いた記憶がない。覚えていないだけで聴いたことがあるのかもしれないけれど、だとしてもそれはきっと、まだエレカシにそれほど特別な思い入れのない初期も初期のこと。デビュー・アルバムの中でもボーカルの迫力では群を抜いているこのナンバーを、いまさら生で聴かせてもらおうとは……。しかも宮本のボーカルの迫力はデビュー当時から衰え知らず。それだけでも十分に感動的なところへきて、この日のバージョンには、驚くことに石くんのコーラスまでついている! 石くんがあんなにシャウトするのを見たのは初めてですよ。いやあ、いいもの見せてもらった。この一曲でオープニングからのいまいち感もすっかり帳消しになった。
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嬉しいことに、その後もさらに好印象な演奏がつづく。乾いたギターの音色が心地よい 『まぬけなJohnny』。生で聴いたら思いのほかその曲と似ていた 『ジョニーの彷徨』。オーケストラ抜きのバンド・アレンジが意外とチャーミングだった 『絆』。思いのほかダイナミックだった 『あの風のように』。宮本とヒラマくん二人のアコギが
本編最後の 『sky is blue』 では、宮本がスライド・ギターを披露。スライドを弾くのは石くんかヒラマくんだと思いこんでいたので、これには意表をつかれた。まあ、そう云われてみれば、あのイントロはいかにも宮本らしい演奏だという気もしてくる。なんにせよ、本編は新譜を代表するこのナンバーで、気持ちよく終了した。結局、新作の曲で演奏されなかったのは 『It's my life』 のみだった(この曲が大好きなうちの奥さんは非常に残念がっていた)。
アンコールの一曲目はこれまたサプライズの 『太陽の季節』。個人的に大好きな曲だから、これも嬉しかった(ただし演奏自体はやや軽めな気がした)。演奏後には宮本が、「この曲と同じテーマをいまの気分で書くと 『sky is blue』 になることを発見した」みたいなことを話していた。あと「この曲の収録されている『奴隷天国』 はいま廃盤になっていて、オークションで高値がついているみたいなんで、レコード会社はぜひ再発してください」とも。まさにそのとおり。あんないいアルバムが手に入らないなんて、日本の音楽市場は間違っていると思う。
その後のアンコールは 『今宵の月のように』 ほか、このところの定番曲がつづき、いったんは 『俺たちの明日』 で終わるのかと思ったら終わらず。さらにつづけてもう一曲、 『ファイティングマン』 をやって幕となった。
で、この 『ファイティングマン』 がまたすごかった。全身全霊をささげて身体の奥底から声を絞り出しているような宮本が圧巻。そこまでやったら、もうあとはなにも残らないだろうってくらいの、素晴らしいパフォーマンスだった。あんな歌を聴かされたら、もうそれ以上は望めない。まさに終わるべくして終わった、これぞ大団円というエンディングだった。
ということで、これですっかりいい気分になった僕らは、終わりよければすべてよしという言葉どおり、序盤の不満などなかったかのように、気分よく会場をあとにしたのだった。この夜のビールは美味かった。
(May 24, 2009)
エレファントカシマシ、Dragon Ash、NICO Touches The Wall、SBK
JAPAN CIRCUIT Vol.47/2009年6月27日(土)/SHIBUYA-AX
ラッキーなことに、ロッキング・オン主催のライヴ・イベント、JAPAN CIRCUIT Vol.47 のチケットが手に入った。
今回は ROCK IN JAPAN FES. の「一月早い前夜祭!」と銘打って、出演者はわれらがエレカシにドラゴン・アッシュ、SBK(スケボーキング)、売り出し中の新人バンド NICO Touches The Walls というラインナップ。
これらのバンドが一度に観られて3,800円という価格設定は、あり得ないってくらいに良心的だ(さすがロッキング・オン)。
そんなチケット取れるわけないじゃんと思っていたのに、ものは試しとうちの奥さんが先行予約に申し込んでみたら、あっさりとチケットが取れてしまった。なんだか去年からライヴに関しては、むちゃくちゃついている。この調子で toto が当たったら左団扇なのに。あちらは当たるどころか、枠にさえ飛ばない。
さて、当日。このイベントでは開演前にロッキング・オンJAPAN編集長の
SBKというバンドを僕はほとんど知らない。あらかじめ出演順が発表されていたわけではないし、前説を聞きそこなったので、それがSBKだとわかったわけでもない。ただ、ほかの3組ではないことは確かだったので、SBKだろうと思った。
ところがだ。そのバンドの一曲目は、意外にも普通の歌ものだった。DJ込みの5人編成のバンドで、メイン・ボーカルがアコギを弾きながら歌っている。MCもいない。あれ、スケボーキングって、ラップじゃなかったっけ? じゃあこれ誰? ぜったいニコでもないよなぁ──と、首をかしげる僕ら。
この謎は2曲目になって簡単に解ける。ボーカルの人とキーボードを弾いていた人が楽器を手放して、いきなりラッパーに変身。プロディジーやケミカル・ブラザーズを思わせるアッパーなエレクトロ・サウンドをバックに、典型的な日本語ラップを吐き出し始めたからだ。ああ、やっぱりこの人たちがSBKなんだ。SBKってこういうバンドだったんだ。
考えてみれば、ドラゴン・アッシュだって歌ものとラップの両方をやっている。SBKもその点は同じということらしい。だた、やはりラップの比重はドラゴン・アッシュよりも圧倒的に高かった。この日のステージでは最後と最後だけが歌もので、あとは全部ラップ。なのでとりあえずラップが本分のバンドだと思っていてもまちがいではなさそうだ。
この日はドラマーとDJが代役だったそうで──それでライブやっちゃうのもすごいなと思う──、ドラムをたたいていたのはドラゴン・アッシュの桜井くん。さらには3曲目にKjがゲストとして参加していた。RO69のライヴ・レビューによると、Kjの参加した曲のタイトルが 『Episode V』 とのことで、ドラゴン・アッシュのナンバーに 『Eposode 4』 と 『Episode 6』 があって、5が抜けているのはなぜだろうと思っていた僕としては、またひとつ謎がとけて気分すっきりだった。
二番手は注目の新人、NICO Touches The Walls。このバンドも音が気持ちいい。SBKのファットなエレクトロ・サウンドもかなり強力だったけれど、こちらのフォー・ピース・バンドが繰り出すラウドなギター・サウンドも非常に痛快。安直な表現を許してもらうならば──少なくても僕が受けた印象は──、バンプとグレープヴァインとミッシェル・ガンを掛けあわせたような感じ。テレビで去年のライブを観たときは、もっと一本調子だったような気がしたけれど、この日の演奏は思いのほかバリエーションに富んでいて、ギター・アレンジも多彩だった。さすがこのイベントの一員としてわざわざ選ばれるだけのことはある。これでボーカルがもうちょっと僕の好みだったらば、積極的に聴こうと思ったかもしれない。まあ、ニコ・タッチズ・ザ・ウォールズという舌をかみそうなバンド名はどうかと思うけれど……。少なくても僕はいまだに舌がまわらない。
さて、その次が待望のドラゴン・アッシュ。 『Lily Of Da Valley』 で出会って以来、一度は生で観たいと思いつつ、その後の作品に対する盛りあがりがいまひとつで、単独好演に足を運ぶまでには到らなかったこのバンドだけれども(そもそもいまだに全アルバムを聴ききっていない)、ようやく生で観ることができたと思ったら、これがすごかった。すごいんだろうなと思っていたけれど、やっぱりすごかった。盛り上がり方がはんぱじゃなかった。
このバンドをこの規模のホールのフロアで観られるのって、むちゃくちゃ贅沢なことなんじゃないだろうか。とにかく音がクリア。複雑なリズムを刻む硬質なパーカッション──実態がドラムなのか打ち込みなのか定かじゃないけれど(半々?)――を中心としたサウンドは、やたらと分離がよくて、ライヴとは思えないほどの完成度だった。Kjの存在感のあるボーカルもサウンドに埋没することなく、はっきり聴き取れる。この日に観たバンドのなかでも、音の完成度の高さでは、ずば抜けていた。
ただでさえラテン・フレーバー漂うダンサブルな楽曲をそんな素晴らしい音響で聴かせてもらえるのだから、盛りあがりは必至。ここんところのシングルは、どれもミディアム・テンポの曲ばかりで、なんとなくライヴでの盛りあがりはいまいちなんじゃないかという気がしていたけれど、とんでもない。どの曲も確実に踊れる、踊れる。ミディアムテンポで聴きやすいんだけれど、しっかり踊れる。ダンス・ミュージックとしての機能性を兼ね備えた、せつないポップ・チューン。生で聴いて、その素晴らしさが初めてわかった気がした。とくに 『繋がりSUNSET』 はこんなにいい曲だったのかと、目からウロコだった。
あと、この日、僕がなによりも楽しみにしていた 『Fantasista』 も期待を裏切らない素晴らしさだった。「ミクスチャー・ロックは好きですかー」というKjの問いかけ──彼はこのMCでこの曲を始めるのが恒例になっているらしい──が飛び出したときには、おおっ、いよいよきたーっ、と思ったもんだった。
【SET LIST】
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いや、じつは僕は今年になって、いまさらながらこのナンバーに大いに感銘を受けて、これは日本のロックが誇る最高傑作のうちのひとつじゃないかと思い始めていたのだけれど(本当になぜいまさら……)、生で聴いてみて、あらためてその思いをあらたにした。いやあ、本当にこの曲はカッコいい。オーディエンスの合いの手が楽曲の一部としてこれほどまでに有効な曲もめったにないだろう。ライヴならばなおさらで、いやおうなく盛りあがる。歌詞がほとんど英語という点だけはややとっつきにくいものの、英語だからこそのノリのよさもあるわけで。いやぁ、ほんと、よかった。あのライブの日以来、iPod で何度この曲を聴いたかわからないけれど、いまだに聴くたびに鳥肌が立つ。本気で傑作だと思います。21世紀のジャパニーズ・ロック最強のアンセムのうちのひとつ。ロック・ファンだったらば、一度は生で体験しておかないとまずいんじゃないかと――そう思うくらいに、この曲は素晴らしかった。
ドラゴン・アッシュで意外だったのは、男性ファンの多さ。Kjのルックスのよさからして、僕はもっと女性ファンが多いものだと思っていたら、少なくてもこの日のフロアは、なんだかやたらとヤロー度が高かった。野郎ばかりが集まって異常に踊り狂っている図――これってなんだか馴染みのあるパターンだなのと思ったら、そうそう、ソウル・フラワー・ユニオンに近いものがあるのだった。民謡ミクスチャーな関西のソウル・フラワーに対して、ラテン・ミクスチャーな東京のドラゴン・アッシュ。音楽性はかなり違うけれど、踊れるメロディアスなロックで、男性陣に大いにアピールしているという点では、両者はかなり近いものがある気がした。
まあ、ベースのIKUZONE氏の珍妙なコスチューム――おさげに電球を飾り、ライトサーベルでバイオリン奏法したりしていた――やダンサーふたりの存在など、なんなんだろうってところもあるにはあったけれど、それでもドラゴン・アッシュは問答無用によかった。これはやはり、一度は単独ライヴを観ておかないとまずい気がする。いや、でもその前に聴いてないアルバムをすべて聴かないと……。
さて、狂騒のドラゴン・アッシュが終わり、フロアの3分の1か半分くらいが入れ替わって、最後に迎えたのが、われらのエレファントカシマシ。宮本が「最後まで残っていてくれてありがとう」と言っていたけれど、僕にしてみれば、エレカシを観ないで帰っちゃうロック・ファンの存在が信じられない。
いや、それにしてもエレカシがこういうイベントでとりを飾るという状況には非常に感慨深いものがある。
ファン歴が長いので、僕らはこれまでにも何度か、エレカシがほかのアーティストと対バンするのを観てきている。昔ならばストリート・スライダーズやソウル・フラワー・ユニオン、記憶に新しいところでは去年の東京事変。そのほか、でかいイベントでならば、サザンやミスチル、奥田民生なんかと同じステージに立つのも観た。でも、どれもすべて前座だった。
それがこの日はとりですよ、とり。ドラゴン・アッシュという大物がいるにもかかわらず、とり。ライヴ・イベントの最後をエレカシで締めるというのは、ファン歴20年目にして初めての体験だった。それだけでも感動的なところへ来て、その出来がまた素晴らしかった。ひいき目ながら、決してドラゴン・アッシュに負けていなかったと思う。まさにとりを飾るにふさわしい、そのキャリアに恥じないパフォーマンスを見せてくれた。
この日のセットリストは 『Sky is blue』 から始まる、直前のツアーの縮小版のようなもの。約1時間と短いなかで、最新作の曲を中心に、 『悲しみの果て』 や 『今宵の月のように』 のようなヒット曲をきちんと聴かせる一方、 『BLUE DAYS』 や 『月と歩いた』 のようなマニアックな曲も盛りこんでみせたのにはびっくりした。当然、僕なんかはあとの2曲に興奮する。
【SET LIST】
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『BLUE DAYS』 では、宮本がギターを弾いていたので、イントロを聴いた時点では不覚にも「あれ、これってなんだっけ?」とか思ってしまった。この曲で宮本がギターを弾くのを観るのは初めてだ(結局、曲の途中でギターを弾くのをやめて、2コーラス目くらいからはハンド・マイクになってしまっていたけれど)。
『月と歩いた』 では、やはりあの静と動のコントラスが強烈。「ドライブ楽し、ブブーブーブブー」と目をむいて絶叫する宮本の珍妙な迫力には、誰にも真似のできないものがある。おかげでその前後の静かなパートもとても印象的。終わったあとの静寂のなか、その静寂を破って鳴り始めた 『ハナウタ』 のイントロでは、蔦谷くんのキーボードの
そして 『ガストロンジャー』 がある。前に書いたとおり、ドラゴン・アッシュの 『Fantasista』 はライヴの華というべき名曲中の名曲だと思うけれど、エレカシの 『ガストロンジャー』 もそれに負けない名曲だ。この2曲を一晩で聴けたってだけで、僕らをはじめとするこの夜のオーディエンスは日本一の果報者なんじゃないかと思う。
いや、とにかくエレカシのセットリストは新旧のバランスの取れた素晴らしいものだった。でもって、こうしてそれらの名曲群を聴いてくると、とにかく宮本のボーカリストとしての力量のすごさを、あらためて思い知る。もう桁ちがいにすごい。あとの3つのバンドでは、正直なところ、なにを歌っているかわからなかったり、歌詞があまり気にかからなかったりしたけれど、宮本の場合は――僕が全曲をしっかり知っているというのを差し引いても――、どの歌でも言葉がしっかりとオーディエンスに届く。とにかくボーカリストとしての存在感が破格。
この日に出演したバンドのうち、演奏自体をとったらば、その完成度では、もしかしたらエレカシが一番低いかもしれない(サポートのふたりがいてもなおそう思う)。それでも宮本というボーカリストを要しているということで、その完成度の低さはまるで問題なくなる。それどころか、壊れていることを是とするロックであるがゆえ、それさえ魅力に思えてくる。そんなエレカシが僕はどうしようもなく好きだ。
わずか1時間程度のあいだながら、エレファントカシマシの魅力がぎゅっとつまった、とても満足度の高いステージだった。いやあ、いい夜でした。
(Jul 05, 2009)
サマーソニック09(2日目)
2009年8月8日(土)/幕張メッセ+千葉マリンスタジアム
10周年ということで初の3日間開催となった今年のサマソニ。初日はどうしても観なくちゃと思うアーティストがいなかったので、2日目から参加してきた。うちの子は去年で懲りたらしく行きたがらなかったので、今年は夫婦水入らず。
いやあ、それにしても今回はきつかった。去年がけっこう楽勝だったので、自分に体力があるような錯覚を起こしていたけれど、あれはスタジアムでスタンドに座っている時間が長かったたため、体力が温存されていただけなことを発見。今回はお目当てがメッセばかりだったので――つまり大半がスタンディングだったので――、いやあ、疲れた、疲れた。最後のほうは足の裏が痛くてたまらなかった。ロック・フェスというのは、僕のような室内型の不健康なリスナーにまでこういう体力勝負を強いる点で、ある意味では非常に健康的で、非ロック的なイベントのような気がする。まあ、ひとつでも多くのステージを観ようと欲ばるからいけないのかもしれないけれど……。なんて、弱音を吐くのはほどほどにして本題に。
この日の僕のお目当ては、バンドでの来日はじつに5年ぶりとなるエルヴィス・コステロ。それ以外は絶対に観たいと思うほどのアーティストがいなかったので、コステロの出番を待つあいだ、気になるアーティストをはしごして歩くことになった。
ということで、正午ジャストのマウンテン・ステージから僕らのサマソニ09はスタート。レンカ(Lenka)を皮切りに、デルフィック(Delphic.)、ザ・テレフォンズ、パウロ・ヌティーニ、リトル・ブーツ、マンドゥ・ディアオ、プラシーボ、カジヒデキ、EGO-WRAPPIN' AND THE GOSSIP OF JAXX、ホラーズ、メトロノミーと、昼間のあいだだけで、じつに11アーティストを観まくった。途中、プラシーボではマリンスタジアムへ移動しているし――その帰り道にこじんまりとした野外ステージでカジくんを2曲だけ観た――、これだけ観れば、疲れてあたり前という気がする。
どのステージも2~3曲観ては次に移るという、いわばデパ地下の試食状態だったので、個々のアーティストについてどうこう言えるレベルにはないけれど、それでもみんなそれぞれに個性的で、つまらないステージはひとつもなかった。きちんと身を入れて観れば、それぞれに盛りあがれたんじゃないかと思う。そうできなかったことがちょっと心残りだった。
ようやくフルに観たのが、2年連続のサマソニ出演となるザ・ティンティンズ。まだデビュー2年目で、セットリストに新しく加わった曲とかもなく、さすがに新鮮味に欠けるので、今回はあまり期待していなかったのだけれど、いやしかし、これがよかった。このバンド――というかコンビ?――、僕はとても好きだ。
あいかわらずステージ上にいるのはケイティとジュールズの男女二人だけなのだけれど、シーケンサー+二人の生演奏というシンプルなフォーマットゆえの音のまとまらなさが、感心するくらいちゃんとロックしている。ぜんぜんタイプは違うけれど、ホワイト・ストライプスと同じように、わずか二人だけできちんとロックを鳴らしてみせる姿勢がなにより偉い。仲間がいないからロックができないというような、(過去の僕自身を含めた)アマチュアにこそぜひとも観せたい演奏だ。去年は遠巻きにマウンテン・ステージの大型スクリーンを眺めていたので、今回きちんと肉眼でそのパフォーマンスが観られてよかった。
セットリストは去年のステージでとりを飾った 『We Walk』 から始まって、2曲目がいきなり 『Great DJ』、あいだの選曲は忘れたけれど――中ではバラードの 『Traffic Light』 がかわいかった――、ラストは 『Shut Up And Let Me Go』 から 『That's Not My Name』 という流れ。予定終演時間がコステロの開演時間と重なっていたため、早めに切り上げるつもりだったのだけれど、ぜひ聴きたいと思っていた 『That's Not My Name』 が最後じゃ、おいそれとステージを離れられない。ついつい粘って、最後まで観てしまった。
ということで、ティンティンズが終わるなり、あわててマウンテン・ステージへ移動。ここからがこの日のメイン・アクト、エルヴィス・コステロ&ジ・インポスターズ。
いくらティンティンズがよかろうと、コステロの開演に間にあわないなんてことになっちゃ洒落にならないと思って、最後のほうは走ったのに、いざマウンテン・ステージへ着いてみれば、時間が押していて、まだサウンド・チェックの最中だった。待っている人もさほど多くなかったので、ずずずいーと前のほうへ移動。おかげでけっこう近くでコステロ師匠の雄姿を拝むことができた。
それにしても、この日はセットリストがすごかった。これぞコステロの代表曲という、ベスト・アルバムに入っている曲ばかりがずらりと並んでいる。それもバラード系を排した、のりのいい曲ばかり。コステロはそれなりに数多く観てきているけれど、2曲目でいきなり 『Pump It Up』 なんて展開はおそらく初めてじゃないだろうか。
【Elvis Costello's SET LIST】
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オープニングこそ最近のナンバー、『Stella Hurt』 だったけれど、これだって 『Momofuku』 のリリース後に一度も来日していないことを受けての、コアなファンに対するサービスだと思うし(僕としては嬉しかった)、そのほかだと、『Bedlam』 も比較的新しいけれど、これはライブでは映えるタイプの曲だし。それ以外はもうこれでもかってくらい往年の名曲ばかりを並べたサービス・メニューだった。これぞまさにロック・フェス仕様のエルヴィス・コステロ。全般的にややギターの音が小さすぎる嫌いはあったけれど、そのほかはもう文句なしの内容だった。
コステロらしいなあと思ったのは、ラストの2曲。さんざんアッパーに盛り上げてきたので、最後も 『Love, Peace And Understanding』 でノリノリで終わるかと思いきや、本編ラストは名曲 『Alison』 でしんみり締めてみせる(バラードはこれが初)。しかも曲の最後には「今日はピート・トーマスの誕生日だから」と、オーディエンスに「ハッピー・バースデイ」を合唱させるおまけつき(僕も珍しくちゃんと歌いました)。英語のヒヤリングが苦手な人たちや、メンバーを知らない人たちには誰の誕生日かわからなかったのか、「ハッピー・バースデイ、ピート」の部分が、あいまいになっていたのがおかしかった。
さらに、これでいったん引っ込んだと思ったら、しんみりと終わったんじゃ俺の沽券にかかわると言わんばかりに、即座にステージに戻ってきて、アンコールでパンキッシュな 『Mystery Dance』 を奏でるコステロ先生。いやあ、最後の最後までこれぞコステロって感じで、短いながらも大満足だった。
さて、コステロ先生のステージが終了したあとを受けて、マウンテン・ステージで2日目のラストを飾ったのはザ・スペシャルズ。
本当は裏のクラクソンズを観るつもりだったのだけれど、スペシャルズのデビュー・アルバムをプロデュースしたのはコステロだというし、だとすれば両者の共演というのもあり得るかなと思ったので、さんざん悩んだあげくにクラクソンズは諦めた。クラクソンズはこれからまだ観る機会があるだろうけれど、スペシャルズはおそらくこれが最初で最後だろうし……。
まあ、本当のところは、様子をみて途中で移動しようかとも思っていたのだけれど、そうするには、あまりにスペシャルズのステージが素晴らしすぎた。コステロとの共演は結局なかったとはいえ、これを途中でやめて、ほかに移るわけにはいかないだろう――そう思わされる最高のパーティー・ミュージックだった。
とにかく踊れる。というか、踊らないではいられない。展示ホールふたつをぶち抜いて作った広いマウンテン・ステージに集まった99%の人が、陽気に踊りまくっていた。プロディジーなどの縦のりのライブでは珍しくないのかもしれないけれど、こういうどちらかというと横のグルーヴでこれだけ多くの人がいっぺんに踊っているのを観るのって、僕としてはあまりない体験だった。しかもそれが二十何年かぶりに再結成したバンドだというんだから恐れ入る。現役の脂の乗ったバンドでも、なかなかこんな風景は生み出せない。いや、びっくりした。
アルバムを聴いていても思ったことだけれど、中心人物のテリー・コールという人は、声質がかなりザ・キュアーのロバート・スミスと似ている。僕にとってキュアーは白人ロックの象徴ともいうべき存在なので、そんなロバート・スミス似のボーカリストが、黒人音楽の特徴が色濃いスカ・バンドで、黒人の仲間と一緒に歌っているというのは、それだけでも不思議と新鮮な味わいがあった。
スペシャルズについてほとんどなにも知らなかった僕は、ツートーン・バンドだというので、白人黒人が半々くらいかと思っていたのだけれど、黒人はボーカルの片方とギターの人、ふたりだけだった(ファースト・アルバムのジャケットをちゃんと観てみれば、たしかに黒人はふたりしかいないのに、気がつかない
スペシャルズが終わったあと――アンコールでコステロが登場するかもと期待していたら、アンコール自体がなかった(涙)――、クラクソンズが少しでも観られるかと思って、未練がましくソニック・ステージへと移動してみれば、そちらもすでにライブは終わったあとだった。開演予定時間からすると1時間もやっていない計算になる。いくらレパートリーが少ないからって、若いくせして、おじさんたちのバンドに負けんなよなぁと思いながら、疲れた足を引きずって家路についた僕らだった。最終日へつづく。
(Aug 10, 2009)
サマーソニック09(3日目)
2009年8月9日(日)/幕張メッセ+千葉マリンスタジアム
最終日は前日の反省を踏まえて方向転換。前日のように欲ばって見知らぬバンドをつまみ食いして歩くのはやめて、知っているバンドをしっかり観ることにした。ということで、興味があったオープニング・アクトの andymori や二番目のトライセラトップスは見送って──とはいっても、トライセラは狭いアイランド・ステージだったために入場規制が出て、観たくても観られなかったみたいだけれど──、正午過ぎのミュートマス@マリンスタジアムからのスタートとなった。
ミュートマス(Mute Math)――カタカナで書くと、昔なつかしいTVKの音楽番組みたいで、どうにも違和感がある――はニューオーリンズ出身の四人組・技巧派バンド。ニューオーリンズとはいっても、セカンドライン系の黒っぽさは皆無の、いかにも白人らしいロックを聴かせる。ボーカリストはショーケン似で(たとえが古い)、声質はスティングっぽい。この人はショルダー・キーボードを弾いてみたり、据え置きのキーボードの上で逆立ちして、そのままでんぐり返しして転んでみたりと、ステージングが思いのほかアクティヴだった。
そんなフロントマンの熱いパフォーマンスに比例して、バンドの音自体もとてもパワフル。最近のアメリカのバンドはどれも技巧的で、リズムに対する意識が高いけれど、このバンドも例外ではなく、各メンバーが楽器を持ち替えるシーンが目立った。ただ、僕の趣味からすると、音造りもボーカリストのスタイルも、きちんとしすぎている印象がある。すごいなと思いながらも、いまひとつ集中しきれなかった。
ということで、最初のうちは一階のスタンドで観ていたのだけれど、曇天からさす陽射しが思いのほか暑かったこともあり、途中でそこから逃げ出し、屋根がある二階スタンドに移動。エレカシはそこから観ることにした。
エレカシはこれまでに何度も近くで観てきているし、スタジアム・ライヴはこれが初めてなのて、この日はあえて、初めからスタンドで観ようと思っていた。
二階席でよかったのは、どれくらいの人が集まっているかが見てとれたこと。ミュートマスが終わったとたん、アリーナにいた人の過半数が退場してしまったのには、おいおい、これしかいなくなっちゃったよとあせったものだけれど(うちの奥さんとともに、5分前まで待って客が増えないようならば、下に降りようかと相談していた)、開演時間が近づくにつれて、アリーナに向かう大行列が途切れなくつづき、ひと安心。最終的には満員とはいえないまでも、かなりの人が集まっていた。いやあ、よかった。
注目していたこの日のオープニング・ナンバーはなんと、『おはようこんにちは』。うわー、これっすか。この広い会場で、この曲でくるとは思いもしなかった。初期のオープニング・ナンバーの定番だったこの曲も、このところはすっかりご無沙汰だっただけに、想像だにしないこの展開に内心にんまりの僕ら。
それにしてもさすが、マリンスタジアムは広い。二階スタンドで聴いていたせいもあるんだろうけれど、音響がいつもとはぜんぜん違う。サウンドが空洞化しているというか、音の芯が軽いというか……。やはり音響スタッフがこの規模の会場に慣れていないんだろうか。ミュートマスのガツンガツンとアタックの強いハードな演奏を聴いたあとだけに、この音にはちょっとばかり違和感があった。こういうところに、なにげなく洋楽と邦楽のギャップを感じる。キャリアはこちらのほうが十倍もあるのに……。
【エレカシ SET LIST】
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ただね。そんな弱点を補ってあまりある強い武器がエレカシにはある。それはもちろん、宮本のボーカル。
いやあ、スタジアムに響きわたる宮本の声のすごいこと、すごいこと。まるでバンドの音が足りない分を、彼ひとりの声で補っているようなすさまじい歌声だった。半分くらい、人間技を超えている気がした。この歌声が聴けただけでも、わざわざこの日のステージを観にきた甲斐は十分にあったと思う。
2曲目以降のセットリストは 『悲しみの果て』 『今宵の月のように』 『ハナウタ』 などのポップな曲に、直前のツアーでの定番だった 『BLUE DAYS』 や 『Sky is blue』 『ジョニーの彷徨』 のような硬派な曲をバランスよく配したもの。宮本がMCで「サマソニのような洋楽の祭典に呼んでもらって光栄」みたいなことを言っていたので、普段とはリスナーが違うという心づもりがあったんだろうか。クライマックスは 『俺たちの明日』 などの最近のシングルで締めるのだろうと思っていたら、これまた大はずれだった。この日のクライマックスとなったのは、なんと、『待つ男』 だった!
いやあ、まさかいまさらこの初期の名曲を、スタジアムで聴くことになろうとは……。しかも蔦谷・ヒラマ両氏を加えて厚みを増した演奏が、この広い会場では非常に映えていて素晴らしかった(音響に対する違和感もこのころになれば、慣れてしまって特に感じなくなっていた)。僕にとってのこの日のベスト・アクトは間違いなくこの曲だった。
このあとに 『ガストロンジャー』 を披露して、エレカシのサマソニ初ステージは終了。結局、最近のシングルは一曲も演奏されなかったので、残念に思った若い人もいたかもしれないけれど、僕らにとってはこれ以上ないってくらいの素晴らしいパフォーマンスだった。短いながらも中身が濃くて満足。ほんと、観にきてよかった。
エレカシが終わるのを見届けるやいなや、さっさとスタンドをあとにして、早足でメッセへと向かう。次なるお目当てはグリズリー・ベア。エレファントのあとがクマってのが、ちょっと動物園めぐりみたいで楽しげだ。
開演時間がエレカシの終演とほぼ同時だったので、移動時間の関係で数曲しか聴けなかったけれど、このブルックリン出身の四人組バンドも素晴らしかった。緻密な演奏と美しいハーモニーはCDで聴けるそのまま、生だと音がなおソリッドでハードになっている。メンバーが横一列に並んだまま、あまり動かないので、もともと地味な見た目がなおさら地味だったけれども、その演奏のテンションの高さで、聴くものの耳をひきつけて離さない感じ(まあ、フロアのうしろの方には、気持ちよさそうに寝ている人がたくさんいたけれど)。
そうそう、生で観ても、やはりこのバンドはレディオヘッドに近い印象だった。あちらから快楽的な部分とエレクトロ志向をいっさい排除して、代わりにオーガニックな耽美主義を持ち込んだ、みたいな感じ?(ぜんぜんわかり易くないたとえで恐縮)。レディオヘッドのツアーで前座に抜擢されたというのもよくわかった。
まあ、宗教的な
グリズリー・ベアが終わったあとで軽く食事をして(今年も公式ビールはコロナ)、次はさあヴァセリンズ──と思ったら、このバンドが意外と人気だった。基本的に日本人好みって気はするけれど、ニルヴァーナがカバーしているというのもでかいんだろう。開演時間とほぼ同時にソニック・ステージに戻ってみれば、すでにフロア中央の
ヴァセリンズのあと、ユニコーンにするか、ティーンエイジ・ファンクラブにするかで最後まで悩んでいたのだけれど、ヴァセリンズを諦めたことで、ふんぎりがついた。この先に本命ふたバンドが控えているんだし、いまは体力温存が第一。だとするならば、まともに聴いていないティーンエイジ・ファンクラブを立ち見して体力を消耗したり、メッセのフロアに座ってステージが見えない状態で音楽だけ聴いているよりも、スタジアムのスタンドで休みながらユニコーンを楽しむべきだろうと。で、ちょうどいまにも雨が降り出しそうな空模様だったので(この日の天気予報は曇りときどき雨)、ならば善は急げとスタジアムへ向かい、ふたたび屋根のあるスタンドの二階席をキープ。そしたら、僕らが席に着くとまもなく、ざーっと大粒の雨が降り始めた。おお、ラッキー。
ステージではレザーライトが熱演中だったけれど、どたばたと移動してきたばかりで集中しきれず。ほどなく、雨をさけて避難してきた人々で、二階席はあっという間に満席状態になった(逆に屋根のない一階はがらがら)。あと5分遅かったらば、スタジアムへ向かう途中でびしょ濡れになっていただろうし、席が確保できていたかも怪しかった。いやはや、ほんとラッキーでした。
ということで、雨のマリンスタジアムでユニコーンを観た。
いやあ、これがまたすごかった。オープニングの 『ひまわり』 のドラムが入ってくるところで、いきなり、おおっと思う。バンドのアンサンブルといい、奥田民生の歌のとおりのよさといい、これぞまさにスタジアム級。スケールの点で、まったく洋楽陣に負けていない。この規模の会場で観てしまうと、やはりエレカシとは核がちがうなと思わされた。スタンド二階の同じような位置から観ていたので、なおさら対比が鮮やかだった。
とくに奥田民生はやっぱりすごい。この人のパフォーマンスを生で観るのはひさしぶりだけれど、観るたびに必ず感心させられる。あいかわらず
ちなみにユニコーンの開演前に一時は上がっていた雨が、1曲目の 『ひまわり』 でドラムが入ってきて、バンドの演奏が弾けるのと同時に、ふたたびざーっと本降りになったのだそうだ。それがまるで演出したようにドラマチックだったとうちの奥さんが言っていた(僕の記憶はあいまい)。たしかに雨のスタジアムでのライブというのも、自分が濡れる心配がないとなると、それはそれで味があった。
2曲目以降のメニューは 『服部』 『BLACKTIGER』 『すばらしい日々』 『WAO!』 『ヒゲとボイン』 『大迷惑』 というもの(だったらしいです。インターネット万歳!)。ベースの人(EBI?)がボーカルを取った曲以外は、定番中の定番という感じのする、とてもおいしいセットリストだった。 『服部』 や 『大迷惑』 での民生氏のハンド・マイクというのも、ソロではあまりお目にかかれない光景で(そんなことはないんでしょうか?)、やはりソロとユニコーンとはちがうんだということを感じさせた。
次のソニック・ユースに遅れると嫌なので、残念ながら 『大迷惑』 が終わってすぐに席を離れてしまったのだけれど、スタジアムを出ようとしているときに聴こえてきたのは 『Hello』 で、どうやらそれが最後の曲だったらしい。しまった、最後まで観てから移動してもじゅうぶん間にあった……と思うもあとの祭り。
まあ、できれば聴きたいと思っていた 『大迷惑』 を最後の最後で聴けただけでもよかったとしよう(もちろん、まわりもこの曲が一番の大盛りあがりだった)。スタジアムを出るころには雨も上がっていたし、ユニコーンを観ることにして大正解だった。
さて、ということで再びメッセに戻って、そのあとに観たのが、この日のメイン・イベントであるラスト二本。まずはソニック・ユース。
僕はこのバンドを20年間近くも見逃しつづけてきたことを本当に後悔していて、それゆえ今回のサマソニでは、エレカシ、コステロと並ぶくらい、この人たちのステージを観るのを楽しみにしてた。だからユニコーンもあえて早めに切り上げてきたのだし、なるべくステージの近くで観ようと思って、珍しく前の方へいった。
前日のコステロでも思ったことだけれど、ロック・フェスの場合、たくさんのアーティストが出演する分、オーディエンスの関心が分散するので、その気になって少し早めに移動しておけば、たいていのアーティストは比較的簡単にステージの近くで観られる。これもロック・フェスのメリットのひとつだと思う。まあ、その分、ひとつひとつのステージは短いんだけれども。
この日のソニック・ユースでおもしろかったのは、セットリストの大半が新作からの曲だったこと。おかげで最近になって彼らの作品をフォローし始めたばかりの僕でも、ほとんどの曲を知っていた。ふつうデビュー25周年を優に超えるバンドならば、もっと総括的なセットリストになりそうなものなのに、そうなっていないところがすごい。いまだ現役意識バリバリ。
まあ、音は思っていたような轟音にはほど遠かったけれど(それでもエンディングでフィードバック・ノイズを延々と聴かせるあたり、インディー・ロック魂は顕在らしい)、最新作 『The Eternal』 がとても気に入っている僕としては、そのアルバムからの曲がたっぷりと聴けてただけで、十分嬉しかった。というか、そういう意味では、「もっと聴きたい曲がたくさんあるのに……」と思ってしまうようなコアなファンよりも、僕のようなにわかファンのほうが楽しめるステージだったのかなという気もする。
意外だったのは一曲目でキム・ゴードンが楽器を演奏しないで、マイク・スタンドでボーカルを取っていたこと。あと彼女以外にベーシストが別にいたこと(なんでもベースを弾いていたのは、元ペーヴメントの人だとか)。僕は彼女のことをベーシストだばかり思い込んでいたら、このライヴでは大半の曲でギターを弾いていた(最後の一曲(?)はダブル・ベースだった)。サーストン・ムーアも思ったよりしゃべっていた。
いやしかし、このバンドは1時間くらいでは味わい切れない気がした。もっと元気なときに、もう少し小さな箱で、2時間くらいぶっつづけで聴きたい。旧譜をきちんと聴き込んで、次の来日公演を待つことにしよう。
さて、サマソニ09のラスト・ステージはフレーミング・リップス。
このバンドがまたすごかった。すごいというか、やたらとおもしろかった。これまでに観たことのないような、最高に楽しいステージを見せてくれた。今回で4度目のサマソニ出演だそうだけれど、こんなおもしろいものをこれまで知らないでいたとは、不覚もいいところだ。
大トリだけあって、まずはそれまでに出演してきたバンドとはちがって、セットが凝っている。ステージ上には半円形の大型スクリーンが配されていて、ステージの脇にはなにやらカエルやウサギの衣装をつけた、得体の知れない人たちがたくさんいる。そもそもセッティングの最中に、ボーカリストのウェイン・コインがステージ上をうろついて、観客に手を振ったりしている。おかげで開演前から歓声が上がったりして、なんとも楽しそうな雰囲気があたりに漂っていた。
オープニングがまた最高にふざけている。スクリーンで黄色に輝く裸のインド人風女性のアニメが踊り出したと思ったら、やがてこの人が仰向けになって、大股開きで出産のポーズ。女性の秘部にサイケデリックでカラフルな輪が描かれ、外科医姿のスタッフがそこにタラップをかけると、スクリーンのその部分が扉のように開いて、バンドのメンバーがひとりずつ(生まれ)出てくるという趣向。わはは、なに考えてんでしょうか、このバンド。
このおふざけには、さらにつづきがある。ボーカルのウェイン・コインだけが出てこないと思ったら、この人はステージの真ん中の床から、謎のビニール袋に包まれて登場。なにをやるつもりだろうと見守っていると、その袋がふくらんで、彼が入ったまま巨大な透明のビーチボール状になり、フロアを埋め尽くすオーディエンスの頭上へとコロコロと転がりだしたのだった。いわば人間入りの大玉おくり。こんな馬鹿なオープニング、観たことないぞと、さらに大笑い。
ウェインがステージに戻ってきてボールから出るのと、一曲目の 『Race For The Prize』 が始まるのと、どちらが先だったか記憶が定かじゃないけれど、ようやくこの曲のイントロが高らかに鳴り響くと同時に、たくさんの大きな風船と紙吹雪がフロアの上空に舞い上がった。歓喜を爆発させていっせいに踊りだすオーディエンス。すげー、いきなりこんな風に祝祭感がフロア中にあふれ返ったようなコンサートは初めてだ。まさにフェスの締めにはうってつけ。でも、フロアの上に跳ねあがる風船が多すぎて、ステージがよく見えないのには笑った。
結局、この風船はその後もライヴの大半のあいだ、オーディエンスの頭の上で跳ねつづけていた(でも終盤になるといつの間にかなくなっていたから不思議だ)。ステージの両サイドにはカエルやウサギの衣装をつけた人たちに混じって、いつの間にか不思議なモンスターの着ぐるみが現れ、なにをするでもなくゆらゆらと踊っているし、ほんと、なんだこりゃってステージだった。いやあ、おもしろすぎた。
もちろん、単にステージングがおもしろいだけじゃなく、そこで鳴らされる音楽がまた素晴らしい。センチメンタルでメロディアスで、でもって必要なときには必要なだけラウドに鳴り響く、最高にポップなロックンロール。ウェイン・コインの歌は決して上手くはないけれど、下手ゆえにセンティメンタルな部分がべたつくことなく、いい
唯一残念だったのは、彼が 『Yoshimi Battles The Robots』 などのバラードで「一緒に歌おう」と呼びかけたのに、まったく合唱が起こらなかったこと。どれも簡単なフレーズをリピートするような曲ではなかったので、英語が苦手な日本人としては致し方ないところだったけれど、それでも、あそこで大合唱が巻き起これば、なおさら幸せな気分になれただろう。そう思うと、ちょっとばかり残念ではある。僕らロック・ファンはもっと英語を勉強しないといけない。
まあ、なにはともあれ、フェスティバルのとりを飾るにふさわしい、非常に幸福感あふれる素晴らしいステージだった。裏でやっていたビヨンセのステージもそうとうよかったらしいので、そちらが観られなかったのは残念だけれど、それでも、もう一度チャンスをやるから、どちらかを選べと言われたら、やはり僕としてはフレーミング・リップスを選ぶ。このバンドも次の来日好演は必見だ。
ということで、フレーミング・リップスの楽しすぎるステージでもって、今年のサマソニは終了。またいくつかの新しいバンドとの出逢いとともに、ロック・ファンとしての幸せをたっぷりと味わった素敵な夏の二日間だった。
いやあ、それにしても疲れた。前日はまだ帰宅後にサッカーを観るだけの余力があったけれど、この日は完全にガス欠状態で、ひと風呂あびてビールで渇きをいやすと、倒れるように眠ってしまった。やはり軟弱者の僕としては、ロック・フェスは一日だけで十分な気がした。
(Aug 11, 2009)
エレファントカシマシ
2009年10月24日(土)/日比谷野外大音楽堂
あいにくの雨となったエレカシ野音20周年公演の初日。
今回は節目ということで2日間あったから、できれば両方とも観たかったのに、残念ながら2日目のチケットは取れなかった。ここのところ、年を追うごとに立ち見客が増えている気はしていたけれど、今年は20周年という肩書きのせいもあって、とくにすごかったらしい。なんでもファンクラブに入っているにもかかわらず、抽選にはずれた人もたくさんいたそうだ。それじゃ贅沢はいえない。とりあえず20年連続でエレカシの野音を見つづけることができているだけでも、自分は幸運な人間なんだろうなと思う。
さて、そんなわけで、しとしとと雨が降リつづけ、止むことのなかったこの日の野音(2年前にフジ・ロックのために買ったレイン・パーカーが初めて役に立った)。オープニングを飾ったのは、僕らの大好きな春の歌、『夢のちまた』 だった。
ひさしぶりに聴くこの曲だけれど、今回はその季節はずれな選曲をまったく意外に思わなかった。野音だもんよ、やっぱりこの曲だろー、って気分。秋だろうとなんだろうと、雨が降ろうと雪が舞おうと、やっぱこれでしょう、これ。ああー、きょうも夢か幻かぁあぁ、夢のちまた。
20周年を意識したんだろう、オープニングのこの曲はエレカシのメンバー4人だけでの演奏だった。で、2曲目からすっかりおなじみとなった蔦谷・ヒラマの両氏も登場して 『俺の道』。
この日の宮本は黒いジャケットに黒いシャツ、スパッツみたいなぴっちりした黒のパンツと黒ずくめ。珍しくシャツの裾をしまっていて、ベルトもしているようだった。
石くんはまたもやスキンヘッド(宮本いわく、前日までは角刈りだったのにこの日になって突然、剃りあげてきたらしい)。セイちゃんは帽子着用、ヒラマくんはメガネ着用(すっかり髪が長くなって、女の子みたいだった)。トミと蔦谷くんはいつもどおり。
3曲目 『女神になって』 では、宮本がこの日、はじめてギターを手にする。この曲、以前は確かギターを弾いていなかったはずなので、これまでとはちょっとイメージが違って、サビになるまでタイトルが思い出せなかった。好きな曲なのに不覚。
つづいてライヴでは初お披露目となる 『石橋たたいて八十年』。これが意外にも素晴らしい。エピック時代の宮本らしい、ドッコンドッコンというリズムが強烈なナンバーだけれど、ここまでライヴ映えするとは思わなかった。終盤にキャンベラだの、大阪だのと、地名を連呼するところもおかしくていい。この日一番印象に残っている曲のひとつ。
もう一曲、レア・ナンバーがつづく。エピック時代最後のアルバム、7枚目の 『東京の空』 から 『暮れゆく夕べの空』。これもライヴで聴くのは初めてじゃないかと思う。あの「フリ~ダム」って滑稽味のあるコーラスがとても印象的なので、聴いていたことばあれば記憶に残っているはずなので。コーラスは蔦谷くんとセイちゃんがつけていた(っぽい)。ちゃんとコーラスがついていることに笑いつつ、ちょっと感動もした。蔦谷くんたちのアシストがある今のエレカシだからこそ演奏できる曲なんだろうと思う。
【SET LIST】
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このあとの 『悲しみの果て』 あたりから先の記憶はすでに曖昧。たしか 『遁生』 をやったあとで、蔦谷くんたちがいったん引っ込み、『生命賛歌』 からまた6人に戻ったんだったと思う。個人的には 『珍奇男』 のあと、大好きな 『生命賛歌』 と 『武蔵野』 がつづけて演奏されたあたりが、この日のクライマックスのひとつだった。
この日の野音で印象的だったのは、『遁生』 『何も無き一夜』 『地元の朝』 など、スローでやたらと長いナンバーが多く演奏されたこと。十年前だったらば、「雨の野外でこんな曲やるなよなぁ」とか思っていたんだろうけれど、そこは僕も年をとった。若いころよりは体力がなくなった半面、疲れた状態があたり前になってしまっているので、いまさらちょっとやそっとの疲労にはめげない(夏フェスで鍛えられたというのもある)。おかげでそういうスロー・ナンバーも、「まあ、秋の夜長だ、これもありだろー」と、じっくりと耳を傾けることができた。なんだか、こういうのはまさに年の功という気がする。
珍しい曲ということでは、今回のベスト盤三組中、唯一の未発表ナンバー 『きみの面影だけ』 も初披露された。いかにもポニーキャニオン時代の曲って感じで、それほど好きではないけれど、初めて生で聴くだけあって、これはこれで新鮮だった。
そのほかでよかった曲といえば──まあ、過半数の曲は大好きなんだけれど、あえて言うとするならば──、やはり 『ガストロンジャー』。この日は「だから胸を張ってさ、そう」のあたりが長尺になっていたり、「せっかくのロックンロール・バンドだ」のあとで「最近はシンガーソングライターと呼ばれるのが」どうとかいうアドリブが入ったりしていた。僕は今年だけでこの曲を4回も聴いているというのに、いまだ飽きることがない。ほんとこの曲は何度聴いても最高だと思う。
全体的なセットリストは、発売したばかりのベスト盤三組からまんべんなく選び出した楽曲群に、懐かしい曲をいくつか加え、さらにユニヴァーサル移籍後の最新作2枚の曲を加えて彩りをよくしました、みたいな感じ。いつもより宮本のギターのミスが多かった気がしたけれど──よりによって 『珍奇男』 のアコギ部分でコードをまちがえていた──、基本的には非常に充実した内容の、素晴らしいコンサートだったと思う。
降りしきる雨も、こんな日にはちょっとした演出みたいなもの。雨のせいでいつもよりハイ・テンションだったのか、今回は宮本とともに歌う男性客の声なんかもけっこう聞こえたりして、それがまたいいムードを
これから先、あと何年エレカシを野音で観られるのかわからないけれど、いずれはまた雨の日があったりして、そういえば20周年のときにも降っていたよねぇ、なんて笑いながら思い返せるようであればいいと思う。
(Oct 29, 2009)
ソウル・フラワー・ユニオン
年末ソウル・フラワー祭2009/2009年12月12日(土)/LIQUIDROOM
一年ぶりとなるソウル・フラワーのリキッドルーム公演。ニューエスト・モデル時代からのオリジナル・メンバーだった河村博司が脱退して、かわりに高木克という新しいギタリストが加入したというので、一度ちゃんと観ておかないとと足を運んだ。
高木克という人は SHADY DOLLS というバンドや、晩年の清志郎の相棒だった三宅伸治のバンドなどでギターを弾いていた人だそうで、なるほど、スライド・ギターを多用する正統派のロック・ギタリストだった。でもって、河村がとても地味だったのと比べると、いかにも関西人らしくて表情豊か。奥野からは「かっちゃん」とか呼ばれていたし、68年生まれと年齢的に中川たちと近いので、昔からの知り合いなんだろう。まったく新加入とは思えないくらい見事にソウル・フラワーのカラーになじんでいた。
それにしても、気がつけば、僕が初めてソウル・フラワーを観たときにいたメンバーはすでに中川と奥野のふたりになってしまっている。ドラムの伊東孝喜やベースのジゲンも今年で加入十周年になるようだし、いまやミホちゃんも我がもの顔でステージを闊歩しているし、現在の民謡ミクスチャーなスタイル──自称、なんでもありの闇鍋音楽──を発展させながらメンバーチェンジを繰り返してきたソウル・フラワーも、今回の高木克の加入で完成をみたかなという印象を受けた。
いやあ、しかしこのごろのソウル・フラワーは、ほんと強力だ。ポップで乗りのいいナンバーが目白押しで、濃いこと、濃いこと。3時間近いライヴで、すっかりおなか一杯な気分になってしまった。オーディエンスも、メイン・ストリームからはずれてひさしい今のソウル・フラワーを観ようと、わざわざ集まってくる人たちばかりだから、盛りあがりようがすごい。こういう乗りのよさは、エレカシでは絶対に味わえない。
そうそう、ポップで踊れるミクスチャー・ロックという意味では、やはりソウル・フラワーとドラゴン・アッシュって似ていると思う。片や民謡、片やラテンと、向かった方向性はちがうけれど、ヤローを中心としたオーディエンスの反応のよさは似た感じだと思う。
【SET LIST】
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この日のライヴは 『月光ファンファーレ』 から始まり、最近の名曲の数々に加え、おおっと思うような懐かしのナンバーも披露された。『もぐらと祭』 や 『夕立ちとかくれんぼ』、そして 『もののけと遊ぶ庭』 などなど。
とくにひさしぶりに聴く 『もののけ』 はものすごかった。すでに1時間半くらい過ぎてからだったので、奥野が「もののけ、いいわ~」と自画自賛したあと、「普通これで終わりやん」みたいなことをいっておどけていたけれど、ほんとこれが本編最後の曲でもおかしくないくらいの名演だった。というか、マジで終わるかと思った。でも、そのあと本編が1時間くらいつづくんだから、またとんでもなかった。
じつはそれまでに演奏された曲がほとんどすべて中川のボーカル曲だったので、その時点で僕は、きょうはジゲンやミホちゃんのボーカル曲抜きで、ソウル・フラワーの王道を見せようって企画なのかと思ったのだった。でも、彼や彼女のボーカル・タイムもその後、ちゃんとあった。単にライヴが長いもんで、そこまで達していないだけだった。
というか、なんでもありの闇鍋音楽バンドを自称する以上、いまや中川が歌う曲だけやってたんでは、ソウル・フラワーたりえないってことなんだろう。奥野真哉や高木克をフィーチャーしたインスト・ナンバーや、ミホちゃんが歌うメスカリン・ドライヴの 『闇の波間』、ジゲンの歌う民謡ロック 『ソーラン節』 など、それらすべてがそろってこそ、初めてソウル・フラワーはソウル・フラワーたりうると。このバンドはすでにそういう境地にあるのだと思った。
本編ラストを 『神頼みより安上がり』 と 『うたは自由をめざす』 で終わり、アンコールでは新曲 『パンゲア』――先行発売されたニュー・シングル 『アクア・ヴィテ』 に収録されている曲かと思ったら、入ってなかった──と定番中の定番 『海行かば 山行かば 踊るかばね』 を聴かせ、それで終わりかと思ったらば、そのあとにもう一曲、最近一番人気の 『荒れ地にて』 をやってこの日のライヴは終了した。表に出てみれば、もう十時だった。いやぁ、本当に濃い3時間だった。
高木克の加入でソウル・フラワーは、これまでで最強のラインナップになったと思う。この日のライヴも本当に素晴らしい内容だった。ただし、あまりにスタイル的に完成しすぎていて、意外性がなくなってしまったかなぁという感がなきにしもあらず。ギタリストの交替があったにもかかわらず──それで完成度はより一層高くなったと思うけれど──、一年前と今回で印象はほとんど変わらなかった。もしもソウル・フラワーがロック・バンドとしての革新性にこだわるならば、この状況をいかに打破して見せるかが、次の課題になるのではないかと思う。
でもまあ、中川は「あと50年、93才までやるでぇ」と言っていたので、すでにイノベーションよりも、いい音楽を絶えずやりつづけることがバンドの目的になっている気もする。初めてこのバンドを生で観たときのインパクトからするとちょっと寂しいけれど、でもそれはそれで悪いことじゃないとも思う。
(Dec 20, 2009)