2008年のコンサート
Index
- エレファントカシマシ @ Zepp Tokyo (Jan 6, 2008)
- BUMP OF CHICKEN @ 幕張メッセ・展示場ホール9・10・11 (Feb 23, 2008)
- エレファントカシマシ @ 渋谷C.C.Lemonホール (May 03, 2008)
- エレファントカシマシ @ 日比谷野外大音楽堂 (Jun 28, 2008)
- サマーソニック08(一日目) @ 幕張メッセ+千葉マリンスタジアム (Aug 9, 2008)
- サマーソニック08(二日目) @ 幕張メッセ+千葉マリンスタジアム (Aug 10, 2008)
- サザンオールスターズ @ 日産スタジアム (Aug 17, 2008)
- 東京事変、エレファントカシマシ、SCOOBIE DO @ JCBホール (Aug 23, 2008)
- レディオヘッド @ さいたまスーパーアリーナ (Oct 5, 2008)
- エレファントカシマシ @ JCBホール (Oct 18, 2008)
- 椎名林檎 @ さいたまスーパーアリーナ (Nov 28, 2008)
- ソウル・フラワー・ユニオン @ LIQUIDROOM (Dec 13, 2008)
エレファントカシマシ
2008年1月6日(日)/Zepp Tokyo
今年で三年連続となった、エレカシの Zepp Tokyo 公演。ここは武道館やコマ劇とちがって、特別、新春らしい風情があるライブハウスでもないと思うんだけれど、なぜだか正月公演の定番となっている。まあ、お台場というのは、ほとんど生活臭のしないところだから、その点では正月の非日常的な気分に向いていなくもないかなと思ったりする。
この日のエレカシは、今月末にリリース予定のニューアルバム 『STARTING OVER』 のプロデュースを務めている蔦谷好位置が去年の野音と同じくゲスト参加していて、最初から最後まで五人編成だった。宮本はあいかわらずの長髪に白シャツ、黒ジャケットという格好。そのほかのメンバーは、セイちゃんがオールバック、トミはようやく耳が隠れるくらいの長髪、石くんは丸坊主と、三者三様のヘアスタイル。
今年の一発目は、なんとも嬉しいことに 『おはようこんにちは』 だった。リリースから20年もたつというのに、この曲での宮本のボーカルの迫力は昔と変わらない。いや、実際には衰えているのかもしれないけれど、それを感じさせない生々しさが、彼の歌には、いまも変わらずある。とても20年も活動を続けているバンドだとは思えない若々しさが(もしくは未熟さが)エレカシにはある。そこが素晴らしい。
この日は懐かしいこのオープニング・ナンバーに続けて、新曲が2曲連続して演奏された。ブルージーなAメロのあとに、いかにも宮本らしい滑稽味のあるサビがつながるおもしろい構成の曲──すでに着うたで配信が始まっている 『今はここが真ん中さ!』 という曲らしい──と 『さよならパーティー』の2曲。以降のセットリストもこのところの常で、新旧とりまぜた非常に充実した内容だった。
新譜からはもう一曲、『まぬけなJohnny』 というナンバーも初お目見え。なんでも宮本いわく、この曲は「ジゴロを気取ってふられた男がファミレスでコーヒーを飲んでいる歌」なのだとか(やや簡略化してます)。これもなかなかブルージーな(もしくは歌謡曲的な)曲だった。
これらの曲を聴くかぎりだと、最近の宮本は、かなりオーソドックスなスタイルのロックンロールを書くモードにあるらしい。蔦谷くんの影響か、はたまた僕の気のせいか。ちなみに蔦谷くんのことは「歳は十も下なのに、音楽的な見識は僕の八十七倍もある素晴らしい青年です」というような紹介の仕方をしていた。
こんな風に、この日の宮本は演奏だけではなく、MCでも絶好調だった。ユーミンの 『翳りゆく部屋』 ──去年の野音の一発芸だと思っていたら、なんと新譜に収録されるというでびっくりだ──を演奏するに際して、「シングルを作るときには、この曲と『ボヘミアン・ラプソディ』 をすごく意識している」 というような、エレカシのパブリック・イメージからは、ずいぶんとずれた告白をしてみたり(なぜユーミンとクイーン?)、その曲に続けて「主題は一緒なんですけど、僕が歌うとこんな曲になってしまう」といって、 『太陽の季節』 を聴かせてみせたり。 『翳りゆく部屋』 と 『太陽の季節』 が同じ主題って、それはある意味、深いというか、なんというか……。いずれにせよ、あまりに楽曲のムードが違いすぎていて笑えた。
ちなみにこの曲、宮本がパイプ椅子で演奏を始めたのに加えて、リズム・パターンが似ているせいで、僕はイントロで不覚にも勘ちがいして、キーボードが加わったニューアレンジの 『珍奇男』 かと思ってしまった。
【セットリスト】
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そうそう、この曲のMCではまた、「廃盤になったアルバムからお送りしました」という発言もあった。あとで調べてみたところ、本当にアルバム『奴隷天国』 が廃盤になっていた。ほかにも 『明日に向かって走れ』 と 『愛と夢』 が廃盤になってしまっている。 あとの2枚はともかく、『今宵の月のように』 が収録されている 『明日に向かって走れ』 が廃盤ってのは、ちょっとびっくりだ。まあ、コーネリアスのデビュー・アルバムが廃盤になっているくらいだから、エレカシも一部のアルバムが手に入らなくなっていても、なんの不思議もないんだけれど、 『奴隷天国』 は僕の人生を変えたと言っていいほど、個人的に思い入れのある作品なので、それがいまやレコード屋で売っていないという事実は、なんとも寂しいものがあった。
あともうひとつMCでおもしろかったのが、マンションの管理人さんに関する話。「うちのマンションの管理人のおじさんがいい人でねぇ──中略(年末年始のごみの分別がどうしたという話が続く)──シングルの 『俺たちの明日』 をあげたんですけど、そしたら前から親切だったのが、ますます親切になっちゃいました」とかなんとか。いやはや、この日の宮本のMCはほんと、おもしろかった。
とはいっても、当然よかったのはMCだけじゃない。肝心の演奏のほうでも、このところの好調を維持している。とくに今回は蔦谷くんの全面的な参加により、随所でいつもとはちがった味わいを
なかでも一番おもしろかったのが、電子ピアノのアルペジオで彩られた、ちょっとアップテンポで、なんとなく可愛らしい 『うつらうつら』。いやっはっは、こんなキュートなアレンジの 『うつらうつら』 を聴くことができるなんて、思ってもみなかった。とてもおもしろかった。
いつものことで、演奏に関しては部分的に不満もあった。Aメロをベースとドラムだけでひっぱる 『生活賛歌』 の新アレンジはいまひとつあわせにくかったし、宮本エレキ、石くんアコギで演奏された 『俺たちの明日』 も、宮本がギターをあまり弾かないものだから、音が薄くていまいち盛りあがりに欠けた。それでも最近は、そうした欠点があるからこそ、エレカシというバンドはいつまでも完成することなく、魅力的であり続けているんではないかとさえ思う。ということで、この日も全体としては非常に満足のゆくコンサートだった。
個人的なこの日のクライマックスは、アンコールで 『歴史』 『デーデ』 『星の砂』 の3曲が続けて演奏された部分。演奏自体もよかったけれど、ここではそれ以前に、これらの楽曲の特殊性がきわだっていた。
なんたって 『歴史』 は、ドコドコとしたダイナミックなリズム・セクションに乗せて、森鴎外の生涯を
そんなこんなで、あらためてエレファントカシマシというバンドの特異性と、宮本浩次という人の天才ぶりを再確認させられた一夜だった。
(Jan 09, 2008)
BUMP OF CHICKEN
2008 TOUR "ホームシップ衛星"/2008年2月23日(土)/幕張メッセ展示場ホール9・10・11
バンプ・オブ・チキンのアリーナ・ツアー初日だったこの日は、記憶力のあやしい僕でさえ、ちょっとやそっとじゃ忘れられないような印象深い一日になった。
この日の関東では春一番が吹き荒れ、多くの電車が止まった。ライブの会場となる幕張メッセの最寄り駅、海浜幕張を走る京葉線もそのうちのひとつ。海沿いを走るこの電車は強風に弱く、普段もたまに運行停止に追い込まれることがあるけれど、運悪くこの日がそれにあたってしまった。いつものルートで会場に向かうことができない僕らは、仕方なく総武線で幕張本郷まで行って、そこからバスでメッセまで移動することにした。
とはいっても当然、総武線だってダイヤは乱れている。快速がまともに走ってそうにないので、やってきた各駅停車に飛びのり、ごとごとと目的地へ向かう。荻窪の妻の実家に子供を預けてから、御茶ノ水のりかえで幕張本郷に着くまで、およそ2時間。しかも電車しか移動手段がない人はおなじ選択をするしかないので、ようやくたどり着いた幕張本郷のバス停留所には長蛇の列ができていた。冷たい強風が吹きすさぶ中でバスを待つのは、ちょっとばかりつらかった。
やってきたバスは都内では見たことのないタイプの、普通のバス二台分が連結した長いやつ。ちょっぴり 『ONE PIECE』 の長~い島のエピソードを思い出した。バスのくせして交差点で二つに折れ曲がるんだから、なかなかすごかった。
結局、このバスにのって海浜幕張駅に到着したときには、定刻を5分ばかり過ぎていた。京葉線はまだ動いていないので、会場へと向かう道すがらは閑散としている。吹きつける向かい風は激しく、強烈に冷たい。とても電車の運行は再開しそうにない。これはもしや、人が集まらないで中止になるんじゃないかと思いつつ、会場に入ってみると、いやはやこれが。
すでにほぼ満員でした。すげー、バンプ・ファン。このコンディションのなか、ちゃんと集まってるよ。しかもすでにグッズ売り場でこのツアーのTシャツやらタオルやらを買って、身に着けている若者たち多数。駅前に人が少なかったのは、ほとんどの観客が定時にちゃんと到着していたからみたいだ。いやはや、ほんと感心しました。ライブが始まってから、チャマがMCで「おまえら、すげえよ。どうやってきたんだよ」と笑っていたけれど、ほんとすごいと思った。
ちなみにライブは当然の措置で、1時間遅れの開演となった。あらかじめ場内アナウンスがあったので、どうせ待つなら、あたたかいコーヒーでも飲みに行きたいところだったけれど、おもては震えるほど寒いし、場内の売店に並ぶのもめんどうだ。そもそも移動に2時間半もかかったので、始まる前からすでに疲れている。結局、展示場ホールの冷たい床に腰をおろして、コンサートのスタートを待つことにした。
それにしても、バスを並んで待ち、開演まで地べたに坐りこみ──って、このシチュエーションは去年の夏に体験したフジロックのそれにそっくりだ。はからずもこの日のオーディエンスは、真冬の幕張でロックフェス的擬似体験を余儀なくされることになったのだった。暑さにまいったあのときとは正反対に、この日は寒さにふるえていたわけだけれど。
【セットリスト】
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なんにせよ、過ぎたる苦しみは喜びを倍増する。そうやって苦労してたどり着き、さんざん待たされたこともあって、この日のライブはなおさら感動的だった。なかでもオープニングが問答無用に素晴らしかった。
新譜のジャケットでおなじみの「星の鳥」にまつわる、とても美しいCGが大型スクリーンで上映されたあと、『星の鳥』 がSEで流れる中にバンプのメンバー登場する。その間、スクリーンではデジタル数字がストップウォッチのように01、02、03……とミリ秒単位でせわしなくカウントアップされてゆく。前のCGとの相乗効果だろうか。この数字を見ているうちに、なぜだか涙腺が緩んでくる。そして数字は当然のごとく、28になったところでぴたりと止まり、一曲目の 『メーデー』 が始まる。くぅー、かっこいい~。こりゃたまらない、最高のオープニングだった。
それにしてもライブで聴く藤原基央のボーカルは素晴らしい。とても通りがよくて、バンドのラウドな音に負けていない。メッセージ性の高い歌を書く人だけに、歌詞のひとこと、ひとことがくっきりと心に刻みつけられるようで、本当に感動的だった。遠くてよくわからなかったけれど、思いのほかギターも上手かった。
セットリストは大半が新作を中心としたもの。 『メーデー』 や 『カルマ』 のようなアッパーな曲はもとより、CDで聴いたときにはメロウすぎると不満に思っていた楽曲群も、こうして生で聴くと十分にダイナミックだった。うちではボリューム控えめで聴いているのがいけなくて、もしかしてもっと大音量で聴いたならば、ぜんぜん印象が違っていたりしたのかもと思うくらい、いい演奏だった。ちょっぴり自分の不明を反省した。
アンコールでは、藤原くんが「俺たちは自分たちについて客観的になれない気持ち悪いバンドなので、どんな曲が人気なのか、まるで知らないんだけれど、なかではこの曲は評判がいいって聞いてます」とかなんとかいって、演奏し始めたのが、なんと 『K』 。やったーって心の中で叫んでいるファンがとてもたくさんいたと思う(僕もそのうちのひとり)。前回同様、ほかにも聴きたい曲はたくさんあったんだけれど、この日はこの曲をやってくれたことが、苦労して幕張にたどり着いたことへのなによりのご褒美だった。いやはや、最高でした。
コンサートはあらかじめ場内アナウンスにあったとおり、ほぼ2時間ちょうどで幕となった。ラストナンバーの 『ガラスのブルース』 を聴き終えておもてへ出てみると、海浜幕張駅には上り電車が停車していた。おーっ、京葉線、動いてる──こんなふうに、ただ普通に電車が走っているだけのことを嬉しく思うことなんて、そうそうない。そういう意味では、春一番のトラブルのおかげで、なかなか貴重な経験をさせてもらった。
わが家ではこの日のライブに感動した奥さんが、追加で決まった5月のさいたまスーパーアリーナも観にゆくと豪語している。はてさて、チケットが取れますことやら。
(Feb 24. 2008)
(※)案の定、チケットはとれなかった。バンプ人気、衰えず。
エレファントカシマシ
コンサートツアー2008 "STARTING OVER"/2008年5月3日(土)/渋谷C.C.Lemonホール
ひさしぶりの渋公でのエレカシのライブ。都内にライブハウスが増えたせいか、ここともすっかりご無沙汰だった。名前がC.C.Lemonホールに変わってから、この会場に足を運ぶのはこれが初めて。エレカシを指定席のホールで観るのも、野音をのぞけば随分とひさしぶりだ。
この日のコンサートの見どころは、サポートメンバーに、いまやすっかりおなじみになった蔦谷好位置──宮本からは「バンマスも同様」などと紹介されていた──とともに、東京事変の初代ギタリストだった
僕はかつて彼のことを、椎名林檎のバックバンドのメンバーとして一度だけ、生で観ている。けれどそれは武道館の二階最上段という、やたらと遠いところからの話。対照的にこの日の僕らの席は一階の三列目、ステージ向かって右手のスピーカーのまん前という、非常にいい席だった(アンコールのときには、宮本が手の届きそうな距離までやってきた)。かつてはあれほど離れたところから見たギタリストを、この日の僕は、わずか十メートルも離れていないところで見ることになったわけだ──しかも宮本に無理やり肩を組まれたりしているところを。
エレカシに外部のギタリストが加わること自体が珍しいのに、それが数年前まで椎名林檎のバックをつとめていた人ともなれば、否が応でも興味がわく。しかもその人が、僕らにとってはステージで一番近い場所にいる。仮にも一度はリード・ギタリストとしてオリコン1位に輝いたことのある人が、なにゆえそのバンドを辞めたあとでエレカシのバックでギターを弾く気になったんだろう──そんな疑問を胸に、この日の僕は、最初から最後まで彼のプレーに注目し続けることになった。
ヒラマくんは肩にかかるほど長かった髪をばっさり切り落としていて、見た目の印象も以前とはずいぶんと違っていた。あれ、こんなに若くて普通の人だったっけと不思議に思って調べてみれば、なんだ、僕より十も年下じゃないか。東京事変のころは亀田誠治と組んでいたこともあって、もっと年上だと思い込んでいたけれど、思いのほか若かった。蔦谷くんと同い年のようだから、彼とのつきあいからエレカシに誘われたのかもしれない。そのせいか、宮本や石クンとのコミュニケーションも自然で、ずいぶんエレカシになじんでいる感じがした。
なにはともあれ、そんなわけでひさしぶりの六人編成となったこの日のエレカシ渋公ライブ。会心作 『STARTING OVER』 のお披露目ライブでもあるし、一発目は 『今はここが真ん中さ!』 だろうと思っていたら、そんな僕の安直な予想を裏切って最初に演奏されたのは、なんと6年前のミニ・アルバムのタイトル・ナンバー、『DEAD OR ALIVE』 だった。あまりにひさしぶりだったので──おそらくライブではいままでに一度しか聴かせてもらったことがない──、はて、いったいこの曲のタイトルは……と首を
二曲目が 『今はここが真ん中さ!』 で、それ以降は新譜の曲にヒット曲をまじえた、バランスのとれたセットリストがつづく。新曲は弾き語りの 『冬の朝』 をのぞいて全曲が披露された。意表をついたのは 『風』 が演奏されたこと。この曲を生で聴かせてもらうのは、多分これが初めてだった。
この日の宮本のMCは、多くがそれぞれの曲を作った経緯を紹介する内容だった。『風』 では、アルバムのレコーディングに苦労している時に、近所のタバコ屋でタバコをカートンで買ったら、その店の親父が愛想よくしてくれて嬉しかったとかなんとかいう話のあとで、当時の気分を歌にしたものだと紹介された。なので、その歌の中に「タバコ屋のあの親父も」というフレーズが出てきたときには、ああなるほどと思う。語り自体はどれもやたらとたどたどしかったけれど、それぞれにちゃんと歌を引き立てているんだから、なかなかいいMCだった。
【セットリスト】
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音楽的な面において、この日のライブでもっとも印象的だったのは、中盤に 『リッスントゥザミュージック』 『こうして部屋で寝転んでるとまるで死ぬのを待ってるみたい』 『starting over』 と、新曲が3曲つづけて演奏された部分。
前の2曲は──正直なところ、個人的にはあまり好きな曲ではないのだけれど──70年代的な長尺ロック・テイスト溢れる後半の演奏が素晴らしかった。『こうして部屋で……』 には、ささやくようなトーキング・ブルース調のフレーズにスローなブルース・ロックを組み合わせた、ま新しい導入部(もしくは新曲)がまるまるワンコーラスつけ加えられていた。
『starting over』 ではひさしぶりにシーケンサーを使用。打ち込みのビートにブルース調のアレンジをほどこしてイントロをたっぷりと引き伸ばし、宮本と石クンがギター・バトルをくりひろげて見せた。
これらの曲における、いままでにない古典的なブルース・ロックへのアプローチは、あきらかに蔦谷くんが参加したことによる影響だろう。斬新さはないけれど、ロック
トリプル・ギターの構成は、基本的にヒラマくんがリズム・ギターを担当して、石クンがオブリガートを加え、宮本はいつもの調子で、きままにギターをかき鳴らしたり、リフを聞かせたりするというもの。自分以外にもギタリストが二人いるわりには、宮本も大半の曲でギターを弾いていた。ただしボリュームは以前に比べればぜんぜん控えめ。三人がだいたいバランスよく平等に鳴っている感じだった。普段ならば、エレカシにしてはバランスがよすぎておもしろくないと思ってしまいそうな音作りだったけれど、さいわいこの日はスピーカーが目の前だったので、音圧・バランスとも申し分がなかった。
本編ラストの 『俺たちの明日』 の前には、宮本が突発的に 『花男』 をやってくれるという最高の一幕もあった。一度はアコギを持ったヒラマくんに、宮本が指示を出してギターを持ち替えさせたから──席がステージに近かったので、宮本がオフマイクで「花男」というのが聞こえてきた──、当初のセットリストにはなかったのだろうと思う。これがまた最高のパフォーマンスで、なんとも嬉しくなってしまった。
この日の僕のベスト・ナンバーはこの 『花男』 と 『starting over』 。こんな風に、新しいもの、古いもの、両方とも同じように愛せるというのは、ロック・リスナーとしてはこれ以上ないほど、幸せなことかもしれない。
(May 04, 2008)
エレファントカシマシ
2008年6月28日(土)/日比谷野外大音楽堂
エレカシ、十九回目の野音公演。一年に二度やった年も何回かあるので、通算ではもっとやっているはずだけれど、宮本もこの日のステージでは十九回目と言っていたし、いずれにせよ、僕にとっては間違いなく十九回目となるエレカシの野音。
いやあ、それにしても来年でもう二十回だ。そんなに長いことこのバンドを観ているのかと思うと、なんだか不思議な気がする。僕がロックを聴き始めた頃は、野音といえばRCサクセションというイメージだったけれど、彼らにしたっておそらくエレカシほどの回数はやっていないだろう。いまやエレカシほど野音にふさわしいバンドはないんじゃないかと思う。この日の野音も立見の大盛況だったし、そう思っている人は僕だけじゃないだろう。
バンドは今年も蔦谷好位置くんを加えた五人編成。この前までスキンヘッドだった石くんは、五分刈りに伸ばした髪を赤く染めて登場した。僕は、日本人であることを強く意識するリーダー宮本への遠慮のせいで、メンバーが髪を染めたりするのはご法度だと思い込んでいたので、これはちょっとした驚きだった。やるなあ、石くん。エレカシっぽくないけれど、それなりに似合っていた(うちの奥さんは桜木花道みたいだと言っていたけれど、サングラスをかけていたせいもあって、僕は馳星周みたいだと思った)。
注目の一曲目は 『パワー・イン・ザ・ワールド』。演奏自体は悪くなかったものの、イントロから同期ものを使う新企画のアレンジに演奏がうまく乗ってゆかず、入り方がいまいち締まらなかった。オープニングとしてはやや失敗気味。
この曲に限らず、この日は全体的に曲の入り方が悪くて、メンバーが演奏を始めたのを宮本が中断させたりすることが、やたらと多かった。蔦谷くんの参加でいろいろ細かい芸を見せるようになったものの、そうした新機軸がまだ十分に血肉化していない感じがする。あと宮本のギターのミスも目立った。昔からメンバーに厳しいわりには、自身のミスも多い人だけれど、それにしても改善されないよなあ。一度くらい、最初から最後までノーミスのエレカシというのも観てみたい気がしてきた。
この日のライブでは、いつになく珍しい曲が多く選曲されていた。 『平成理想主義』 や 『東京ジェラシィ』、 『勝利を目指すもの』 『せいので飛び出せ!』 ──宮本いわく「セイちゃんとの競作ですけど、詩は九割五分、僕が書きました」とのこと──というあたりは、過去に一度くらいしか聴いたことがないと思う。「スピードの限界に挑戦します」といって演奏された 『今をかきならせ』 も、ちょっとレアな感じだった。
【セットリスト】
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そうしたなかでも、もっとも珍しい曲ナンバーワンは、なんといっても宮本の座りアコギ四連発のなかで演奏された 『月と歩いた』 。この曲を聴くのは、かつてバウスシアター5デイズで 『浮世の夢』 のフルセットを聴いたとき以来かもしれない。しかも今回の演奏はボーカルの緩急のつけ方が傑作で、「ドライブ楽しブブッブー」のところの暴走ぶりがはんぱじゃなかった。いやー、宮本サイコーでした。
そのほかにも、今回もピアノのイントロで始まった 『うつらうつら』 や、トミのパワフル・ドラムでいつでもライブ映えする 『一千回目の旅のはじまり』、スローながらやたらと腰にくる 『真夏の革命』、迫力満点の 『FLYER』 などがこの日の僕のお気に入り。 『FYLER』 で石くんが赤い頭でヘット・バンティングしていたのは、なんだか見知らぬヘビーロックのバンドみたいで、エレカシっぽくなかったけれど。
エレカシのすごさを感じさせたのは、最後までニューアルバムの曲を温存して、本編ラストをそこからの三曲で締めてみせた点。ちょっと前にもほかで同じことを書いたけれど、普通、キャリアの長いアーティストとなれば、ライブの締めってのは過去の曲になるのが定番だ。この曲をやったらばコンサートはおしまい。そういう暗黙の了解ができあがっている。でもこの日のエレカシは最後の最後に新譜の曲をどーっとやって、それでもって本編を締めてみせた。『ファイティング・マン』 も 『ガストロンジャー』 もなし。それでもまったく問題なしってところに、このバンドの底力をあらためて見せられた気がする。
アンコールでは 『今宵の月のように』 を演奏する前に、「野音のみなさんは退屈かもしれないけれど」と前置きしていたのもおもしろかった。なんだそうか、要するに毎年野音に足を運んでいる僕らのような長年のファンのなかには、この手の曲をあまり好まない人がいるってのは、本人も自覚しているんだ。その自覚があってなお、「最近になって自分でなおさら好きになったから」といって、宮本はこの曲を演奏してみせた。好きならばいいや。いくらでもやってください。
ああそうそう、アンコールでは、最近のライブで個人的にずっと聴きたいと思っていたにもかかわらず、ひさしく演奏されることのなかった 『武蔵野』 を聴かせてくれたのも嬉しかった。宮本は「野音でこの曲をやると涙腺うるんじゃうんだよね」みたいなことを言っていた。ほんと、これはいい曲だと思うし、スローなわりにはグルービーで非常に踊れる曲だと思うのだけれど、いつもあまり踊っている人がいないのが不思議だ。
それにしても今年の野音はボリュームたっぷりだった。本編が終わって時計をみると、もう八時過ぎ。開演は五時半だったから、本編だけで二時間半はやっていたことになる。宮本自身もちょっと驚いたようで、アンコールに出てきたときに「二時間半もやっちゃっいました」と言っていた。結局、アンコールの待ち時間も含めれば、三時間コースだ。これだけたっぷりと聴かせてもらって文句を言ったらば、罰があたる。
今年のラスト・ナンバーは初お目見えの新曲。「春・夏・秋・冬~(中略)~明日のグラデーション」とかいう風なサビの、最近のシングルに通じるポジティブで元気な(蔦谷印の?)ナンバーだった。このところ、エレカシのまわりではいい風が吹いているなあって感じがする。僕も彼らに負けぬよう、がんばらないといけない。
(Jun 29, 2008)
サマーソニック08(一日目)
2008年8月9日(土)/幕張メッセ+千葉マリンスタジアム
3年ぶり、2度目となるサマーソニック参戦。夏フェスと呼ばれるやつに足を運ぶのは、去年のフジロックも含めてこれが通算3回目だけれど、これまではどちらも1日ずつで、それでもう十分ってくらいに、くたくたになった。それが今年は思いきって2日間とも観にゆくことにしたものだから、それだけでもう不安いっぱい──なんたって若いころから体力のなさには折り紙つきなもので。しかも両日とも、観たいバンドがオープニグ・アクトをつとめるので、最初から行かないわけにはいかない。なので今回は2週間前から酒を断って、万全の体調で行ってきました、サマソニ・ゼロエイト。俺って真面目だ……。
初日の一発目はマリン・スタジアムで、この日のお目当てひとつ、ロス・キャンペシーノス。このウェールズからきた男女七人夏物語なバンドは、フェスティヴァルのオープニングを飾るにふさわしい、にぎやかで楽しげなステージを見せてくれた。いきなりメンバーが輪になって、全員日本語で「イチ、ニイ、サン、シー、イチ、ニイ、サン、シー」とカウントをとって一曲目を始めたところから、もう和気あいあい。アリーナの観客も大喜び。
メンバーの構成はリード・ボーカルとギターふたりとドラムが男性、ベースとキーボードとバイオリンが女の子。ボーカルの男の子がおもちゃみたいな鉄琴(?)を打ち鳴らしたり、キーボード(横幅がとても狭かったから、シーケンサーとかかもしれない)の女の子がリード・ボーカルをとったり、バイオリンの女の子がキーボードを弾いたり、ギターの二人ががむしゃらなコーラスをつけたりと、リズム・セクションの二人以外は、なにかしら複数の役割をこなしていた。七人と大人数なバンドがその調子で、いろいろ手をかえ品をかえ楽しませてくれる。しかも曲は速い曲ばかりだ。これで盛りあがらないわけがない。司会のサッシャもオープニングの挨拶で、今年のマリンはこれまでで一番の客の入りだと言っていたし、本国での評判はどうか知らないけれど、日本では確実に人気を博しているようだった。
ただ、このバンドはなんとも
さて、ここからメッセに移動、次は噂の Perfume でも観てみようかと──そんな甘っちょろいことを思った僕がバカだった。メッセに向かって歩いている途中で「ダンス・ステージは入場規制中です」というナレーション。まだ開演30分前なんですけど……。しかもルートをよく確認しないで人の流れに従っていたら、やたらと無駄な道筋をたどる羽目になって、メッセに着くまでに30分近くも歩くことになってしまった。
で、やっとメッセについてみれば、なるほどダンス・ステージは通路まですし詰め状態。あまりの混雑に、通常は開いている入り口横のシャッターを下ろして、通行止めにしているありさまだった。さすがオリコン・ナンバーワン・アイドル、注目度がちがう。こんなグループを屋内で一番狭いステージで見せようって姿勢が間違っているぜ、サマソニ事務局。知名度を考えれば、マウンテン・ステージか、スタジアムでしょう。野外のアイランド・ステージ(ここも狭い)をあてがわれた翌日のキョンキョンも、同じように大変な混雑だったらしい。まったく、なにを考えているんだかって感じだった。
ということで、Perfume はあきらめて、ソニック・ステージでブラッド・レッド・シューズをちょっとだけ観る。本当はマウンテン・ステージのビート・ユニオンというバンドを観ようかと思っていたのだけれど、先に書いたように移動に失敗して、オープニングの時間に間に合わなかった上に、ダンス・ステージの入場規制のせいで、一度おもてに出ないとマウンテン・ステージに移動できない状況になっていたので、めんどうになって、そのままとなりのソニック・ステージに腰をすえることにした。
なんたって、この日は暑かったんですよ。炎天下でロス・キャンペシーノスを観たあと、30分も歩いたせいで、すっかり汗だくだったから、再びおもてに出る気になれなかった。なので、まだお昼過ぎだったけれど、ソニック・ステージの床に座り込んで、この日一杯目のビールに手を出すことになった。前回のサマソニでは、日が暮れるまでビールを我慢していたような気がしたけれど、この日はさすがに我慢できない。いやぁ、2週間ぶりのビールのうまいこと……。
ちなみに今年の公式ビールはコロナ・エキストラ。瓶入りのやつを、さすがにそのままじゃ危険だからか、紙コップに移し換えて出してくれる。一杯500円と比較的、良心的な価格設定なのが嬉しかった。
ブラッド・レッド・シューズは、女性ギター・ボーカルと男性ドラマーのコンビで、メンバーは二人きり。いわばホワイト・ストライプスを裏返しにしたようなバンドだった(そういえばバンド名も対照的だ)。演奏自体は悪くなさそうだったけれど、なにせそれまでで疲れてしまって、音楽に集中できなかった。
その後、お昼どきになると屋内の出店はどこも大行列なので、並ぶの大嫌いな僕は食事を諦め、2杯目のコロナで栄養補給をすませて、メッセ内でいくつかのバンドを観てまわった。キッズ・イン・グラス・ハウス、バンド・オブ・ホーシズ、ニュー・ファウンド・グローリー、サントゴールド……。でも残念ながら、どれもいまひとつ、ぴんとこない。サントゴールドには、3年前にM.I.A.に受けたインパクトの再現を期待していたのだけれど、観てみたらぜんぜんちがった。どちらかというと、インディーズ版メリー・J・ブライジとでもいった感じで(ちがう?)、実力があるのはわかったけれど、僕の趣味からは、ずれている感じだった。
さて、そのあとは、ソニック・ステージに移動して、ケイジャン・ダンス・パーティ。
このバンド、意外と注目度が高いらしく、かなりの集客だった。僕個人はバーナード・バトラーのプロディースだということで事前にアルバムを聴いていたにもかかわらず、いまひとつ盛りあがれなかったのだけれど……。
で、ライブだとまた違うかと期待していたものの、やはり印象はいまいちだった。ボーカルの男の子がナルシスティックな、典型的UKバンドという感じ。あまりにオーソドックスすぎて、おもしろみがなかった。けっこう帰ってゆく人が目についたから、おそらくそう思ったのは、僕だけじゃないんだろう。ただ、最後に 『The Race』 や 『The Next Untouchable』 など、シングル曲をたたみ掛けたあたりでは、それなりに盛りかえした。まだ十代だというし、もしかしたら今後、大化けするのかもしれない。
あ、ちなみにこのバンドもキーボードが女の子でした。考えてみれば、僕が今回のサマソニで観たバンドのうち、過半数はメンバーに女性がいる。最近は男女混合バンドが大流行みたいだ。
この日はここまででメッセを離れ、このあとはずっと野外だった。まずはマリン・スタジアムの横に設けられたアイランド・ステージに移動して、楽しみにしていたジョニー・フォーリナーを観る。
ここはフジのレッド・マーキーの小型版みたいなテントのステージで、午前中の失敗で懲りた僕が、早めに移動して十分前に到着してみると、テントの下はガラガラだった。注目度、低いなぁ……。まあ、ほとんど無名のバンドだし、僕にしたって10日前にCDを買っていなかければ、観ようとは思わなかったかもしれないから、それもわからなくないんだけれど。
でもこのジョニー・フォーリナーが本当に素晴らしかった。これはもう無条件に絶賛できる。なんたって、終わったあと、まだ明るいうちなのに、アンコールの手拍子が起こったくらいですからね。僕も含め、みんな大興奮だった。
ジョニー・フォーリナーというのは、個人名ではなくバンド名で、メンバーはギター・ボーカルの白人男性アレクセイ、ベース・ボーカルの女の子ケリー、そして黒人ドラマーのジュニア(ジュニオールと読む?)の三人組。
背高のっぽの──でもってちょっとビール腹ぎみの?──アレクセイは、フィンガーピッキングでネックのあたりを爪弾き、プログレっぽいフレーズを聴かせる意外な技巧派。でも大半はこれぞロックというノイズを響かせていた。
ケリー嬢は髪をアップにして、ダークカラーのワンピースを着た、とても可愛くい女の子だった。そのスレンダーで可憐な容姿とアクティブなプレーぶりで、男性客を魅了しまくり。このバンドの魅力の半分はこの娘の存在かもしれないとまで思わせた。最後のほうで結っていた髪をほどいたのがまたキュートで……。いやあ、思わずみとれてしまった。
ドラマーもたいこを叩くかたわら、シーケンサーも駆使してみせる芸達者さで、この三者三様の個性ががっぷりと噛みあって、最高のロックン・ロールを聴かせてくれた。スピードがあってうるさくて、これぞライブの醍醐味。音響がいまいちだったにもかかわらず、問答無用の大盛りあがりだった。いやぁ、この日のベスト・アクトはこのバンドで決まりだと思った。マジでこのときは……。
ジョニー・フォーリナーのステージの余韻が覚めやらぬまま、となりのマリン・スタジアムに移動すると、すでにパニック・アット・ザ・ディスコのステージが始まっていた。ソニック・ステージのデス・キャブ・フォー・キューティーも観たかったのだけれど、さすがにメッセまで移動に十分以上かかるとなると考えてしまう。遠くのデス・キャブより近くのパニック──ということで、ここからは無理をしないことにして、あとの時間はスタジアムの一階席に腰をすえることに決めた。
そうしたら、これが快適。すでに陽も傾いているし、海風が吹くスタンドはとても涼しい。VIPルームの直前の席に陣取って、あとの時間はとてもいい気分で、残りの3アーティストの演奏を楽しむことになった。
とはいっても、パニック・アット・ザ・ディスコに関しては、その前のジョニー・フォーリナーの余韻が強かったため、その王道ロックな音楽に入り込めない。ケイジャンにしろ、翌日のクークスにしろ、この手のまっとうなロックよりも、ジョニー・フォーリナーやロス・キャンペシーノスのほうがよほどおもしろいと思ってしまうあたり、俺って意外とオルタナティヴなんだなと、改めて思ったりした。
そんなわけで、あまり集中できなかったものだから、途中で席を離れて、この日初めての食料を調達。本場フィラデルフィアの味をうたうチーズステーキ──デイヴィッド・ハンドラーのミステリにくり返し名前の出る「ホーギー」って呼ばれるサンドイッチのことだと思う──をゲットして、スタンドでビールを片手につづきを観た。でもこのサンドイッチ、味はともかくパンがぱさぱさで、残念ながらいまいち。
バンドのほうは、リード・ボーカルが曲ごとに替わったりするあたりも、いかにも古典的なアメリカのロック・バンドという印象。きちんと観られれば、きっと楽しめたと思うのだけれど、今回は巡りあわせが悪かった。音楽とのつきあいにも運命ってものがある。そういう意味では、今回このバンドとは縁がなかった。
そしてその次がいよいよ、ヘッドライナーの一組目、ザ・ヴァーヴだったのだけれど……。
いやー、これがすごい。一曲目の 『This Is Music』 が始まった途端、その格好よさに鳥肌がたった。
いやはや、このバンドの音はそのスケール感が破格。このスケールはU2やレディオヘッドと比べても遜色がないんじゃないだろうか。広大なスタジアムをすっぽりとその轟音で包み込み、完全制圧している。不覚にも僕はヴァーヴがこんなにすごいバンドだとは思っていなかった。
とにかく音のスケールがでかい。ギターの轟音がきちんと音楽として鳴り響く。そしてその大音量に負けないだけのボーカリストとしての存在感が、リチャード・アシュクロフトという人にはある。あれほどの大音量の中で、あれだけきっちりと言葉を響かせることのできるボーカリストがどれだけいるって言うんだろう。スタジアム級という表現はまさにこのことだと思った。
ヴァーヴ、ヴァーヴ、ヴァーヴ。あまりにすごかったので、名前を連呼してみる。いやあ、これはすごいや。びっくりだ。ジョニー・フォーリナーの好演も、ヴァーヴがスタジアムじゅうに響き轟かせた轟音の前では、かすんでしまった。とにかくスケールが違った。この日のベスト・アクトはまちがいなく、このザ・ヴァーヴだった。本当にこういうステージが観られてたことは、ロック・ファンとしての至福──惜しむらくはその至福の体験が、わずか1時間しかつづかなかったのが残念だった。あと、できれば僕はこれが最後のほうがよかったかなと。できればこの感動の余韻を味わいつつ、帰りたかった。
とかなんとかいいつつ、この日のマリン・ステージのとりは、ザ・プロディジー。これがまた、とんでもなかったりする。ただでさえハイパー・エッジなプロディジーの音が、スタジアムにあわせてさらにパワーアップしているのだから、その破壊力は半端じゃない。しかもそのビートにあわせて踊るのは、アリーナを埋め尽くす1万人だかの大観衆だ。スタンドからそれだけのオーディエンスがいっぺんにジャンプするのを観て、僕は思わず爆笑してしまった。すげー、なんだこりゃ。
いや、本当にプロディジーはおかしかった。このバンドもヴァーヴとは違った意味ですご過ぎた。僕はスタンドでその音楽を聴きながら、そのあまりのハードさに何度となく笑った。こりゃあ、アリーナにいたら大変だ。帰る余力が残らなくなりそう……。
裏でやっているセックス・ピストルズやポール・ウェラーや GO!GO!7188 にも興味はあったけれど、それでもはやり、これだけのステージを見逃すわけにはいかない。しかもこれほどハードなダンス・ミュージックをスタンドで座ったまま観るってのは、なんとも贅沢というか、まちがい過ぎているというか……。いずれにせよ、なかなかできない貴重な体験だという気がした。
ということで、プロディジーの圧巻のパフォーマンスが終わったあと、恒例の花火を観て──スタジアムから見る花火がまた絶品──、サマソニ・ゼロエイトの初日は終了。終盤ずっと座りっぱなしだったので、疲労感もそれほどないし、なんとも幸福な気分に浸って、ひとり家路についたのだった。以降、二日目につづく。
(Aug 15, 2008)
サマーソニック08(2日目)
2008年8月10日(日)/幕張メッセ+千葉マリンスタジアム
サマソニ・ゼロエイト二日目は妻子同伴。
去年フジロックに子連れで行って、まだこういうイベントは小学三年生には早かったかなあと思ったくせに、一年たって懲りもせずに、ふたたび連れていくことになっちゃうあたり、まさに喉もと過ぎれば熱さを忘れる。しかもサマソニの場合、フジロックのように自然を楽しむ要素はあまりなく、疲れたからといって、木陰でひと休みというわけにもいかない。わが子にとっては去年よりもさらに実り少ない夏休み体験になりそうな気もしたけれど、まあ、なにごとも経験だ。なにもないよりも、ちょっとくらいつらい思い出でもあったほうがましだろうと、ロック馬鹿な親父はそう考えて、子供の分のチケットも取った。
保護者同伴の小学生以下は入場無料というフジロックと違って、サマソニでは小学生でもしっかりチケット代を取られる。しかもラインナップは洋楽中心ということで、親子連れの数はとても少ない。おそらくフジロックとサマソニ、両方体験したことのある小学四年生の女の子なんて、日本中探してもそんなにいないだろう。そういう意味では貴重な体験だ。まあ、うるさいのきらいって感じのわが子なので、それがいいことなのかと問われるとムムムだけれど、それでもまあ、僕にとっては十分意味のあることなので、それでよしとすることにしたい。
というようなことで、小石川家のこの夏一番の家族イベントとなったサマソニの二日目。
この日のサマソニ一発目は、ソニック・ステージでのシルヴァーサン・ピックアップス。注目のスマパン・フォロアー、その実力やいかに……って、すいません。このバンドは、家族がまるで関心のないところへきて、次のティン・ティンズが気になって、きちんと集中できなかった。よさそうな感じだったので、全部観ればちゃんと満足いったかもしれないけれど、ステージから一番遠いあたりで2曲観ただけではいいも悪いも判断がつかない。
どのステージでもそうだけれど、僕の場合、途中から観たり、途中で移動したりしてしまうと、移動のタイミングを気にするあまり、音楽に集中できない。ということで、このバンドについては、まとも観れず、もったいないことをした。いずれ単独で来日することがあれば、ぜひ一度、観にゆきたいと思う。というか、あらかじめそう思っていたからこそ、この日はあえて、わざわざ単独好演はいかないかなと思ったティン・ティンズを優先したのだった。
ということでSSPUに未練を残しつつ、グリーン・ステージに移動。このステージのオープニング・アクト、ザ・ティン・ティンズを観た。
このグループは思いがけない大人気だった。屋内で最大のグリーン・ステージがほとんど埋まっている。おかげで身長125センチの子供といっしょの僕らは、位置取りにひと苦労。結局、ステージから遠く離れた壁際に腰を下ろして、大型モニターに映る映像を眺めることになった。
このグループ、驚いたことにステージ上にいるのは、メンバーの二人のみだった。一曲目では男性のほうのジュールズ・デ・マルティーノがドラム・セットに腰をおろして、ギターを弾いていた(2曲目以降はドラムに専念)。ボーカルのケイティ・ホワイト嬢は、ボーカルだけかと思っていたら、そうでもなく、曲によってはキーボードを弾いたり、ギターを弾いたりする。まあどちらも味つけ程度って感じだけれど、それでも単なるアイドルなんかじゃないぞっていう気概を感じさせるパフォーマンスだった。
とにかくこのふたりの演奏は思いのほか熱かった。たったふたり(+シーケンサー)で、あの広いグリーン・ステージに集まった大観衆をしっかり盛りあげてみせたあたり、思いのほかプロフェッショナルで感心させられた。とても好印象のステージだった。
ティン・ティンズが終わってすぐに、マリン・ステージへ移動。ヴァンパイア・ウィークエンドのステージの終盤に間にあったので、このバンドをアリーナで2曲ばかり観る。
CDで聴いたときには、なんだかへんてこりんなバンドだなと思ったものだけれど、ステージで観ても、同じようにへんてこりんさは顕在。変だというよりは、むしろ、ひたすら軟弱そうな、ひ弱そうなバンドだった。こんなへなちょこなバンドがアメリカの音楽シーンでサバイヴできるのかなとか、集客もいまいちだったので、これだったらばティン・ティンズをマリンでやらせた方がよかったんじゃないかとか、いろいろ余計なことを思ってしまった(失礼)。
ちなみにアップル風味のボルヴィックを持っていたうちの奥さまは、入り口で荷物チェックに引っかかってました(マリン・スタジアムのアリーナは水以外の飲み物は持ち込み禁止)。サマソニ・スタッフ、チェックが厳しい。
さて、この時間帯には、ほかにも関心のあるバンドがたくさんあったのだけれど、子連れで無理は禁物──とりあえずお目当ての RADWIMPS までをいかにしのぐかがこの日のポイントだと思ったので、以降のステージはもったいなくも全部あきらめ、砂浜で水遊びする妻子を見守ったり──すぐ近くのビーチ・ステージでは ET-KING が入場規制になっていた──、再びメッセに戻って簡単な食事をしたり、あえて音楽からは離れて、3時間ばかりをやり過ごした。
その後、下手に歩き回って疲れるよりも、座っていたほうがいいだろうということで、メッセで最後にジャンキーXLをちょっとだけ観てから、再びマリン・スタジアムへ。1階のスタンドに腰をおろして、クークスを観る。
サマソニでなにがよかったって、こうやってスタンドで座ったまま、ライブが観られる点。スタジアム級のコンサートだと、たいていは指定席でもオールスタンディングを強いられる。ところがサマソニの場合、踊りたい人間はアリーナにゆく、踊りたくない人間はスタンドに座る、という棲み分けが自然とできる。まあ、前日のプロディジーなどでは、スタンドで興奮のあまり踊ってしまう人たちがいたりもしたけれど、前の人が気に入らなければ、ほかの席へ自由に移ればいい。一階でも二階でもアリーナでも、お好きな席へどうぞ──この自由度の高さはほかではめったに味わえないフェスティバルならではの魅力だ。少なくても、背が低くて体力のない小学生に立ちっぱなしを強いることなく済んだのは、とてもありがたかった。これでフジロックみたいに小学生以下は無料だったり、せめて子供料金があれば、ぜひともお子さんのロック初体験の場として推薦したいところなのだけれど……。
クークスは悪くなかった──でも趣味でもなかった。いいバンドなんだろうとは思うのだけれど、なぜかあまり盛りあがれない。単にカーリーヘアのボーカリストのルックスが趣味じゃないだけかもしれない。それでも、ある曲の合間に「スワッテ、スワッテ」と日本語でアリーナを座らせておいて──これがなかなか座らない──、サビでいっせいに立たせて、場内の大興奮を誘うという演出は、とてもおもしろかった。
さて、そのあとがいよいよ、お目当ての RADWIMPS ──だったのだけれど……。
うーん。これはどうなんだろう。演奏はとてもよかったけれど、まだまだスタジアムを制圧するところまではいっていないかなあと──そんな感じ。なんたって前日、同じ場所でザ・ヴァーヴのものすごいステージを観ているので、どうにも点が辛くなる。
まあ、サマソニは全体手に洋楽中心だから、RADWIMPS には分が悪いだろうと思っていたわりには、そんな僕の予想に反して、アリーナは案外しっかり埋まっていたし、盛りあがりも文句なしだった。よーじろーの「しあわせなら手をたたこう」のコール・アンド・レスポンスに反応して、ちゃんとアリーナ全体で手拍子がパン、パンと起こるんだからすごい。
でもやはりその反面、スタンドは静観というか、少なくても僕のまわりのリスナーはやたらと無関心な感じだった。静かな曲の最中に大声でおしゃべりしている無礼な女の人とかもいて、僕自身もそんなまわりの雰囲気に引きずられ、うまくその音楽の世界に浸りきれなかった。スタンドでなんか観てたのだから、ある意味、自業自得なんだけれど……。
【RADWIMPS SET LIST】 (順番はうろ覚え…)
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それでもやっぱ、なんだかんだいいつつ、僕はこのバンドが大好きだ。 『ます。』 から始まって 『いいんですか』 で終わる(多分)全10曲のセットリストは、1時間足らずという時間のなかで聴かせるならば、ほぼ完璧だと思った。序盤にアッパーな曲を並べてしっかりと場を盛りあげ、終盤に最新シングルの 『オーダーメイド』 など、若干メローな曲も聴かせ、最後は 『いいんですか?』 でハッピーに締めてみせる。だだっ広いスタジアムに「大好物はね、鳥の唐揚げ」なんて歌が大音量で響きわたるのは、バカバカしくも痛快だった。
まあ、いずれにせよデビュー3年でアリシア・キーズのひとつ前のステージ、しかもスタジアムを任されるってのは快挙なんだろう。個人的にはこの一年、これでもかってくらいに聴いた四枚目のアルバムを中心としたセットリストでこのバンドを観られて、よかったと思っている。
さて、このあたりからスタジアムでは日が陰り始める。お次はアリシア・キーズ。
今回のサマソニは非常に時間に正確で、ほとんどのステージが開演時間ちょうどに始まっていた。これまでに観たステージでそうじゃなかったのは、前日のプロディジーで、これもせいぜい5分押し。なのにこのアリシア・キーズのステージは定刻を10分過ぎても始まらない。でもって、ようやく始まったと思ったらば、なぜだかユーリズミックスの 『スウィート・ドリームズ』 をSEで2コーラスもフルで聴かせられるし(なぜ?)、バンドの演奏が始まってからも、煽るばかりで肝心の本人がいつまでたっても出てこない。なんだよ、グラミー何冠のアーティストだけあって、もしかして女王様なのかと、僕がいっそこのステージは観ないで会場を離れてしまおうかと思うくらい焦らされたあげく、ようやくグレーのタンクトップに黒のスパッツという飾り気のない格好のアリシアが登場する。
そしたらこの人が、圧巻のR&Bショーをみせてくれちゃうのだった。まさにこれぞブラック・ミュージックの真骨頂。アッパーなダンス・ナンバーでは、ぐいぐいと観客を惹きつけ、スローなバラードでは、こまめなトークを挟んでリスナーを歌の世界に引き込む。考えてみればオープニングでの焦らし方なんて、まるでJBのようだったし、女性コーラス二人をまじえたパフォーマンスはシュープリームスを思い出させた。アッパーなダンス・チューンの迫力では決してビヨンセに引けをとらない。まさにアメリカ黒人音楽の歴史がぎゅっと凝縮したような、濃厚で完璧なステージをみせてくれた。僕は彼女がパフォーマーとしてここまですごいなんて思ってもみなかった。不覚でした。
充実したステージに未練を感じつつも、余裕を持って移動できるようにとアリシア・キーズの途中で席を立って、幕張メッセへと戻り、ソニック・ステージでこの日の最後のパフォーマンスを観る。僕らのサマソニ08のとりは、ザ・ジーザス・アンド・メリー・チェイン。
ジザメリは思ったほどの轟音ではなかった。まあ、ステージの近くまで行けばまた違ったのかもしれないけれど、少なくてもフロア後方から観ているかぎりでは、耳をつんざくような大音量ではなく、非常にバランスのいい、聴きやすい音作りだった。それでも、ボーカリストにまったくスポットライトの当たらないそのステージングが、見事に80年末~90年初頭の記憶を喚起してくる。ああ、こういうのばっかり観てた時期があったよなあと……。
まあ、僕は演奏された曲の大半のタイトルがわからない胡乱なリスナーなので、あまり偉そうなことはいえない。それでも 『Head On』 『Blues from A Gun』 『Reverence』 あたりは好きな曲だけあって、聴けて非常に嬉しかった。特に 『Blues from A Gun』 は、絶対に聴きたいと思っていたナンバーだった上に、びしびしとアタック音の効いた演奏で最高だった。あと 『Darklands』 も甘いメロディが疲れた体に浸みるようで、とても気持ちよかった。子供も前半はいっしょになって踊ってくれていたし──後半は疲れて横になっちゃっていたけれど──、なかなか幸せなライブ体験でした。
ジザメリのライブはアンコールなしの1時間ちょっとで終わった。その後、マウンテン・ステージを通って、ファットボーイ・スリムに集まった大観衆を横目にみつつ退却(ちょうどノーマン・クックがウサギのマスクをかぶっているところだった)。最後にスタジアムに向かう歩道橋の上で花火をみて、この日のイベントは終了となった。
実際には花火が上がるまで30分ほど待つはめになったので、その気になればコールドプレイも何曲かは観られたかもしれないけれど、スタジアムに入っちゃうと帰りは大混雑必至だし(そもそも入れるという保証もない)、子連れの身としては、それは避けたかった。なので、あえてコールドプレイは見送った。全世界で一千万枚以上のセールスを誇るバンドを観ないなんて、ロック・ファンとしては非常にまちがっている気がしないでもない。
でもまあ、僕らの体力では、やはりあのくらいが限界だったと思う。普段ならその時間にはすでに寝ているうちの子はさすがに疲労困憊で、帰りの電車では床に座り込んでしまっていた。
ちなみに気がきかない僕は、混雑するその電車のなかで「またサマソニに来たい?」と彼女にたずねてみた。すると、それに対する彼女(小学四年生)の答えはたったひとことだった。
「いまは疲れているから聞かないでほしい」
ごめんよ、俺が馬鹿だった。
(Aug 17, 2008)
サザンオールスターズ
「真夏の大感謝祭」30周年記念LIVE/2008年8月17日(日)/日産スタジアム
自慢じゃないけれど、僕は記憶力があやしい。サザンのライブは、これまでにイベントやクワタ・バンドなども含めると、6回は観ているはずなのに、その大半が忘却のかなたで、ついこのあいだも友人とサザンの思い出話をしていて、十周年のときの西武球場では桑田のソロ・コーナーがあったよねとか、トレクンダと対バンしたときにも雨が降っていたよなとか云われて、あれ、そうだったっけ、なんて答えるありさまだった。なってなさ過ぎる。
ただ、そんな僕でも、さすがにこの日のサザンのライブについては、そう簡単には忘れやしないだろうと思う。なんたって日本の音楽史上最強のロック・バンドが、名曲の限りをつくして、全46曲、3時間強という破格のボリュームでもって楽しませてくれたのだから、これはもう忘れようにも、忘れられない。おそらく一生記憶に残るだろうという、素晴らしいコンサートだった。あいにくの雨だって、いい思い出になった。それこそ「思い出はいつの日も雨」という 『TSUNAMI』 のフレーズのまんまに。
この日のコンサートは開演時間の6時ジャストにスタートした。公式サイトには十分前には席についているようにという注意書きがあったそうなのだけれど、リサーチ不足の僕と友人は、まさか定刻に始まるとは思わず、のんきに雨やどりなどしていて、あぶなくオープニングを見逃しかけた(小林克也がサザンを紹介する前ふりのビデオなんかは、まるきり見逃した)。僕らが自分たちの席にたどり着くのと、一曲目の 『YOU』 の演奏が始まったのが、ほぼ同時だった。ぎりぎりセーフ。
いやしかし、本当にこの日のセットリストは最強無比だった。オープニングの 『YOU』 ──僕としてはちょっと意外な選曲だった──につづけて、『ミス・ブランニュー・デイ』 と 『LOVE AFFAIR ~秘密のデート』 を聴かせたあと、「青山通りから KAMAKURA まで」と称してメドレー・コーナーに突入(このネーミングが最高)、デビューアルバムの 『熱い胸騒ぎ』 から8枚目の 『KAMAKURA』 までの曲を、1時間ばかりにわたってノンストップで聴かせてくれたのは、ただひたすら圧巻だった。
【SET LIST】
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僕の場合、サザンを夢中で聴いていたのは 『KAMAKURA』 までで、それ以降はつかず離れずというスタンスなものだから、もっとも好きだった時期の曲がメドレーになって随所ではしょられしまうのは残念な部分もあったけれど、でもそのパートだけで20曲以上も演奏されたのは、やはり感涙もの。 『いとしのフィート』 やら 『東京シャッフル』 やら 『顔』 やら、いまさらなんでそれをやるって曲もけっこうあって、それはそれで楽しかった。
そういえば、このコンサートでおもしろかったのが、すべての曲のタイトルとその曲のインターネットでの人気投票の順位、そしてその歌詞がスクリーンに字幕で出ていたこと。おかげでライブなのに、なんだか巨大なテレビを観ているような感覚があった。ライブだと歌詞が聴き取れなくてストレスを感じることがよくあるけれど、この演出の効果で、この日はそんなことは皆無だったので、広い会場では音の悪さをおぎなう意味で、意外と効果的な演出かもしれないと思った。
メドレー・コーナーのあとは 『愛の言霊』 から5曲、90年代以降のアッパーな曲を聴かせて盛りあげる。僕にとってはあまり愛着のない時期の曲だけれど、それでも聴くだけはさんざん聴いてきているし、それにこの辺からステージの演出も派手になり、いきなり火炎が吹き上がって、その熱気がスタンドの1階席にいる僕らのところまで伝わってきたり、花火の爆音にびっくりしたりと、スタジアムならではの臨場感も楽しめた。
ひとりきり盛りあげたあと、メンバーはゴルフ・カートみたいなやつでサブ・ステージへ移動。最少人数で 『涙のキッス』、 『チャコの海岸物語』、 『夕陽に別れを告げて』 の3曲を聴かせて、サイド・スタンドの観客を沸かせた。
ちなみに僕らが観た日にはサブ・ステージへの移動のあいだ、ぴーひょろろと祭囃子が流れて失笑を買っていたけれど、WOWOWで観た一週間後の最終日では、かわりにエレクトリカル・パレードのテーマがかかってました(追記:後日WOWOWの再放送を観たら、移動の直前に祭囃子がかかって、その後がエレクトリカル・パレードのテーマだったから、もしかしたら僕が気がつかなかっただけで、毎回同じだったのかもしれない)。あと、桑田にとっては馴染みのないサッカー場でのコンサートのせいか、一週間前は「バック・スタンド~、メイン・スタンド~、サイド・スタンド~」とスタンドを場所ごとに呼び分けていたのが、最終日にはいつもどおり「スタンド~」だけになっていたのも、ちょっとおかしかった。ちなみに「ファミリー・シート~」ってのは、両方ともやっていました。
さて、サイド・ステージから戻ってきてからの終盤戦、ここがものすごい。なんたって、いきなり 『いとしのエリー』、『真夏の果実』、『TSUNAMI』 という珠玉の名バラッド3連発ですもん。普通ではあり得ないでしょう、こんなサービスぶり。そりゃ泣くさ、若い女の子たちだって。桑田は冒頭で「今回のテーマは『いつものどおりのサザン』です」と云っていたけれど、これのどこが普通だ、とちょっと思った。
ちなみに僕は今回初めて気がついたのだけれど、サザンを代表するこれらの名バラッド3曲は、それぞれ79年、90年、00年と、ほぼ10年間隔でリリースされている。このペースでゆくと、次の名曲が生まれるのは2010年ごろという計算になる。だからサザンの活動休止は意外と短いのかもしれない──って、そんなことないですか。いずれにせよ、この部分の三連発はその辺のことを意識したんだろうと思う。
ライブはこのあと、最新シングル 『I AM YOUR SINGER』 でカラオケをバックに、メンバー5人で踊ってみせてから(今回のツアーには不参加のはずの毛ガニも、この曲と最後の2曲には飛び入り参加していた)、いよいよクライマックスに突入。 『希望の轍』 をはさんで、新曲の 『OH! SUMMER QUEEN』 から 『マンピーのG★スポット』 まで、怒濤の歌謡ダンス・チューン5連発で場内を興奮の渦に巻き込んでみせた。いやあ、それにしても新曲でも歴代の曲と比べてなんら遜色なく盛りあがれるあたりが尋常じゃない。これを観てなお、サザンはロックじゃないとかいう人はどこかおかしいと思う。ほんと、圧巻でした。
本編はこれにて幕で、そのあとのアンコールは4曲。 『夕方Hold On Me』、『みんなのうた』、『勝手にシンドバッド』 でさんざん盛りあげたあと、最後は 『Ya Ya』 でしんみりと締めてみせた。すでに開演から3時間以上が経過していたし、この局面でこの曲をやられちゃ、誰ももうこれ以上は求められないなと──そういうまさに大団円な終わり方だった。
正直なところ、これだけ聴かせてもらってなお、聴きたい曲はまだまだあった。でも、欲を云ったら、きりがない。次にいつサザンが観られることになるのかわからないけれど、また逢えるまではこの時を忘れないでいよう。そして、いつの日にかまた。
(Aug 26, 2008)
東京事変、エレファントカシマシ、SCOOBIE DO
SOCIETY OF THE CITIZENS vol.2/2008年8月23日(土)/JCBホール
エレカシについては、これまでにかなりの数のライブを観てきているので、いまさら1時間たらずのステージのためになけなしの金と時間を費やそうという気にはなれないから、普通ならばイベントに参加すると聞かされても、へぇそうなんだ、くらいの感じで聞き流してしまうのだけれど、対バンが東京事変となれば話は別。椎名林檎が主催するイベントにエレカシが出る!──それは僕にとって、まちがいなくひとつの事件だった。
でもまさかチケットが取れるとは思わなかった。僕がいままでに椎名林檎のライブを1度きりしか観たことがないのは、何度先行予約に申し込んでも、必ず抽選ではずれていたからだ。それがこのイベントでは、東京事変のファンに加えて、エレカシやもうひとつのバンドのファンまで加わっての争奪戦になるのだから、これはもう取れなくてあたり前──そんな風に思っていた。それが驚いたことに、そんなチケットがさらっと取れてしまった。まあ、振り返って考えてみれば、僕がエレカシのほかのイベントに行かないのと同様で、この手のイベントは、プロパーなファンが無理をしてまで観ようと思わない分、もしかして最初から競争率はそれほど高くないのかもしれない。
ということで、東京事変主催で二日間にわたって開催されたライブ・イベント、 SOCIETY OF THE CITIZENS vol.2 の初日を観に行ってきた。場所は僕らが初めて足を運ぶライブ会場、JCBホール。ここはアリーナを三階分の指定席(テラスと呼ばれている)がぐるりと取り囲んだ、ちょっと風変わりなホールで、雰囲気的には武道館をミニチュアにして内装をいま風のライブハウスに改装したような感じ。三階席が地上一階にあり、アリーナが地下四階相当に位置するあたりも変わっている。僕らの席は一番上の三階席だった。
トップバッターの SCOOBIE DO (スクービー・ドゥ)は、これまで名前しか知らなかったけれど、そこはさすが、椎名林檎から声がかかるだけあって、なかなかどうして、非常に個性的なバンドだった。非常にファンク色の濃いロックン・ロールを聴かせる、全員スーツ姿のフォー・ピース・バンドで、云ってみればミッシェル・ガン・エレファントにウルフルズを掛けあわせたような感じ。
ボーカリストのコヤマシュウという人は──名前がカタカナ表記なところもミッシェルっぽい──「ご機嫌なロックンロールで、いっしょに最高に気持ちいいことしようぜ、エブリバディ」みたいなMCを連発して、観客を煽りまくるタイプで、しかも繰り出すのは大半がアッパーなロックンロールなものだから、アリーナはこのバンドのときが、もっとも盛りあがっていた気がする。ただ、残念ながら僕らがいた三階席は音響がいまいちで、ボーカルの分離が悪く、このバンドの歌詞はほとんど聞き取れなかった。
エレカシの出番を待つあいだに、椎名林檎がこの日は出番がないはずの向井秀徳とともに登場。向井くんのアゴギ弾き語りで、ZAZEN BOYS の 『KIMOCHI』 という曲をデュエットしてみせてくれた。待ち時間もオーディエンスを退屈させまいというサービス精神が立派だ。
ちなみにエレカシのステージが終わったあとにも同じように、スクービー・ドゥのギターとベースが、彼らのステージにゲスト参加していた SOIL & "PIMP" SESSIONS のメンバー二人とともに出てきて、やたらとアッパーなインスト・ナンバーを奏で、場内の喝采を浴びていた。翌日には椎名林檎がコヤマシュウと 『悲しみの果て』 をデュエットした(!)というし、どうやらこのイベントに出演したバンドのうち、この部分のセッションに参加していないのは、エレカシだけらしい。蔦谷くんなどとの交流により、以前にくらべれば、ずいぶんと社交的になった印象のエレカシだけれど、そういう人見知りなところはあいかわらずみたいだ。
でもまあ、もしも宮本が翌日に出てきて林檎さんとデュエットしたとかいう話をあとから聞かされたら、それはそれでたまったものではないので、とりあえずよしとする。
【エレカシ SET LIST】
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さて、二番目の登場となったそのエレカシは、蔦谷好位置、ヒラマミキオの両君をサポートに加えた六人編成で、堂々たるステージをみせてくれた。やや音が小さい気はしたけれど、それでもその分だけ演奏には安定感があったし、なによりボーカルの通りがよくて、宮本のボーカリストとしての存在感が際立っていた。セットリストも、新作を中心にしつつ、『悲しみの果て』 などのヒット曲を加え、さらには 『珍奇男』 でもって旧来の過激さも垣間見させるという、この手のイベントにおいては、ほぼ完璧って内容だったし、二十年のキャリアは伊達じゃないなと、あらためて思わされた。
単純にロック・バンドとして観客を盛り上げていた度合いでは、スクービー・ドゥのほうが上だったかもしれないけれど、こと音楽として、どれだけオーディエンスを惹きつけていたかという求心力では、決してエレカシは負けていなかったと思う。それどころか、もしかしたら東京事変をさえ、上回っていたのではないかと──贔屓目ながら──僕はそう思った。新曲も聞けたし、大満足だった。まあ、うちの奥さんは「ぜんぜん聴きたりない」とぼやいてましたが。
あと、僕は東京事変主催のイベントだけに、以前は東京事変のメンバーだったヒラマくんが出演するのかしないのか、出演するとしたらば、東京事変との関係はどうなっているのかと、野次馬的な関心を持っていたのだけれど、ヒラマくんはそんな過去のうんぬんは知らぬ顔で、ごく普通の格好で登場して、ごく普通にギターを弾いていた。メンバー紹介のときに宮本が「ステージ裏で旧交を温めてました」みたいなことを云っていたのが、微笑ましかった。
まあ、ただイベントのせいか、出てくるときも、去ってゆくときも、宮本はいつもより心なしか、そっけない感じがした。
とりを飾る東京事変のステージは、いきなり 『某都民』 という裏技的な選曲でスタート。浮雲と伊澤一葉のボーカルではじまり、途中から林檎さんが顔を出すこのナンバー、ステージでもその構成のまま、椎名林檎ぬきで演奏が始まったので、林檎ファンとしては、ちょっとばかり肩すかしを食う。
ようやく林檎さんのボーカル・パートになって、控えめな態度で主役が登場。この日の林檎嬢は、膝丈の黒いワンピースにピンヒールという、ドレッシーな
【東京事変 SET LIST】
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バンドの音は思っていたよりキーボード中心でおとなしめな印象。やはり林檎さんがギターを弾かないと、僕としてはさびしい。おまけに演奏時間も──競演したふたつのバンドに遠慮してか──アンコール込みでわずか40分という短いものだったので、正直なところ、かなりもの足りなかった。なんたって2週間前にサマソニで多くのステージを観て、1週間前にはサザンの3時間を超えるライブを観たばかりなので、無意識のうちに体が自然とより多くの音を求めてしまう、みたいなところもあった。でもまあ誰だって、ヘッドライナーが正味40分で終わってしまったらば、ええ~って思いますよね。せめて1時間はやって欲しかった。
それでも最新作の曲を中心としたステージは非常にキャッチーで、あのアルバムの出来のよさを再確認させられるような内容だった。しかもアンコールは 『丸の内サディスティック』 だし。これは嬉しかった。これであともうちょっと、全体的にギターがラウドだったらなあと……そういうステージだった。
なんにしろ、そんなわけで3バンドの演奏が終わってみれば、一番の好印象を残したのはエレカシだったという、われながら思いがけない展開。たとえサポートメンバーがいたとはいえ、演奏面でエレカシが東京事変を凌駕することがあるとは思ってもみなかった。まあ、年がら年中、エレカシばかり観ている男の個人的感想だから、ある程度のバイアスはかかっているのはまちがいないけれど、それにしてもねえ。いやはや、なかなか感慨深い一夜だった。
(Aug 31, 2008)
レディオヘッド
JAPAN TOUR 2008/2008年10月5日(日)/さいたまスーパーアリーナ
レディオヘッド、4年ぶりの来日公演。彼らのライブを観るのはこれが3度目になる。
いや、しかしこれがすごかった。前回との違いは最新アルバム 『In Rainbows』 一枚だけのはずなのだけれど、それにしてはやたらと懐が深くなったというか、余裕を感じさせるようになったというか。とにかく彼らが現時点で最強のロック・バンドのひとつであるという事実を、万人に知らしめるような素晴らしいコンサートだった。
なかでも印象的だったのは、ライブ映えしそうには思えなかった新譜からの曲が、思いがけないダイナミズムをもって鳴り響いていたこと。 『Weird Fishes/Arpeggi』 などは思いっきりダンサブルだったし、スローバラードの 『Videotape』 が、スローなまま、非常にアグレッシブに鳴らされていたのにも感心した。
でもって、そうした新曲群を包み込むように、選りすぐった名曲の数々が惜しげもなく披露されるのだから、たまらない。なんたってオープニングからして、いきなり 『15 Step』 『Airbag』 『Just』 『There, There』 という、とんでもないサービスぶりですからね。これで盛り上がらなかったらばどうかしている。ステージの上方からつるされた無数のパイプ状の電飾が、色とりどりの光の雨を降り注ぐかのようなライティングも非常に美しかったし、音楽的にも演出的にも非の打ちどころのないステージだった。まさに圧巻。
【セットリスト】
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レディオヘッドがすごいのは、ロックという音楽形態の可能性を引き出せるだけ引き出そうという姿勢が一貫している点。とにかくひとつひとつの楽曲にこめられたアイディアの豊かさがはんぱじゃない。一聴して地味だと思った曲でも、よく聴くとじつに丁寧に考えて作られている。きちんとポップさを保持しつつ、これだけ挑戦的なことばかりしているバンドって、ほかには思いつかない。でもって、そうしてそうした引き出しの多さが、ライブだとなおさら際立つ。おのずとその音の世界に引きずり込まれてしまう。
僕は彼らのいいファンとはいえないので、この日のライブでも「あれっ、これってなんて曲だっけ」と思ってしまう曲が数曲あった(知らない曲も一曲あった)。要するにそういう曲を、僕はふだん愛聴していないわけだ。なのにライブで聴くと、そういう曲までがやたらといい。というか、これはいらないと思わせる捨て駒的な曲がひとつもない。どんなにスローで暗い曲であっても、例外なくいい。すべての曲に引き込まれ、耳をすまさないではいられない。一音も聴きもらしたくない──いや、聴きもらしてはいけない。そんな風に思わせるバンドはそうそうない。
よく、ロックはライブで聴いてこそだといわれる。僕は単純にそれは、でかい音で踊りながら聴くことで楽しみが倍増するフィジカルな音楽だからだと思っている。
でもレディオヘッドは単にそういう肉体性を超越したところで、生で音楽を聴く喜びを感じさせてくれる。そこには音楽がその場で新しく生まれ出づる、その瞬間の奇跡を目撃しているような、えもいわれぬ感動がある。楽曲の新旧に関わりなく、音楽は本質的にその場その場で新しく生まれては
単に音楽としての好き嫌いだけでいうならば、レディオヘッドより好きなバンドはほかにいくつもある。でもこんな風な不思議な感動を与えてくれるバンドは、おそらくほかにはないのではないかと思う。あらためてレディオヘッドというバンドがいかに稀有な存在であるかを思い知らされた、とても貴重な一夜だった。願わくば、もう一度観たかった。
(Oct 14, 2008)
エレファントカシマシ
2008年10月18日(土)/JCBホール
僕らにとっては今年五度目にして年内最後となるエレカシのライブ。一年に五回もエレカシを観るのなんて、おそらく十何年ぶりだ。
この日のライブはセットリストがふるっていた。 『理想の朝』 で始まって 『地元のダンナ』 で終わる全23曲(あいだに「JCBホール~、オーイエー」みたいなアドリブ曲を挟んでいたので、それも入れれば24曲)。ニュー・シングルのカップリング 『It's my life』 も初披露されたし、宮本が「激渋な曲をお送りします」と紹介した 『雨の日に……』 や 『流されてゆこう』 などのレアな選曲があったり、アンコールでは実にひさしぶりに 『Baby自転車』 が演奏されたりと──この曲でも「激渋」という表現を使っていたけれど、こちらについてはどこが渋いんだと思った──、意外性のある選曲で、最後まで飽きさせなかった。セットリストのありきたりさで失望を買った、かつてのエレカシの面影はもうない。最近は本当にいい状態で活動しているなぁと思う。
【SET LIST】
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今年はMCで曲ごとに、その曲をどんな心境のときに書いたかを告白してから演奏に入ることが多くて、これがまたいい感じだったりする。この日は前述の 『雨の日に……』 で、「駅からレコーディング・スタジオまで十数分歩くあいだの、雨の日の道すがらの風景を眺めつつ、あれこれ思いを馳せているときの心情を書いた曲」というような話を聞かせてから演奏に入った(ぜんぜん違った気もする)。宮本の紹介どおり激渋で、あまり聴き込んだ記憶がない曲だけれど、この紹介のおかげで非常に心に染みた。
そのほかのMCでおもしろかったのが 『まぬけなJohnny』 のあとで、「昨日ともだちが観にきてくれていたんだけれど、この曲がリアルすぎるといって、カノジョが引いていたと云われました」というやつ。もしかしたらその次に演奏した 『珍奇男』 のことだったかのもしれないけれど、どちらにせよ、さもありなんなエピソードで笑えた。
バンドは今回も蔦谷、ヒラマの両氏を加えた六人編成。このバンドでのアレンジも回を重ねるごとに変化しているようで、2曲目に演奏された 『こうして部屋で寝転んでると~』 など、以前とはずいぶんと雰囲気が変わって、より荒削りな印象になっていたのが印象的だった。前回、東京事変のイベントで観たときには、音響の悪さが気になったJCBホールだけれども、あれはやはり3階のバルコニー席のせいだったようで、アリーナで観た今回はまったく問題がなかった。なんにせよ、今回もとても充実した2時間強のコンサートだった。
来年は年明け準恒例の正月公演がないとのことで、その代わりというわけではないんだろうけれども、四月に八年ぶりとなる大舞台での公演を予定していることが──現時点ではファンクラブ限定ながら──発表された。恒例の野音も二十周年だし、来年もいろいろとにぎやかな一年になりそうだ。
(Nov 03, 2008)
椎名林檎
“生”林檎博'08~10周年記念祭~/2008年11月28日(金)/さいたまスーパーアリーナ
ライブの前に調べてみたら、僕はこの10年間に椎名林檎の作品を、東京事変のものもあわせると、じつに43タイトルも買っていた。その数はエレカシやコステロよりも多い。もちろんキャリアが違うから、通算ではエレカシなんかのほうが多いのは間違いないけれど、この10年にかぎってみれば、その数はおそらく最多記録だ。それなのに、これだけCDやらDVDやら買いまくっていながら、ライブを観るのはこれがわずか3度目という、椎名林檎のデビュー10周年記念のさいたまスーパーアリーナ公演だった。
この日のライブのコンセプトはずばり、「椎名林檎オンステージ」とでもいった内容だった。ステージに配されているのは巨大な白い台形の箱をかべと天井に見立て、遠近法をもちいて奥行きを出してみせた無機質なセットだけ。バンドもベース亀田誠治、ドラム河村智康、ギター名越由貴夫の三氏のみで(亀田氏は珍しく普通の髪型のままだったので、最初はもしや別の人かと思った)、10周年記念祭とうたっているわりには、ステージ上は妙にがらんとしている。その代わり、ステージの手前にはオーケストラピットが配されて、斉藤ネコ氏が率いるフル・オーケストラが控えていたのだった(でもアリーナ後方の僕らの席からは、指揮者のネコ氏の頭のてっぺんしか見えなかった)。
このオーケストラの存在がこの日の一番のポイント。要するに 『平成風俗』 のコンセプトを、生で再現して見せようって企画だったのだと思う。かといって特別あのアルバムにこだわることもなく、これまでの椎名林檎の集大成ということで、過去の代表曲多数──そのなかには東京事変の曲も含まれる──をこのフォーピース・バンド+オーケストラのスタイルで惜しげもなく披露してゆくのだから、まったくもって贅沢きわまりない。こんなに贅沢なロック・コンサートはめったに観られないんじゃないかと思った。
しかもこの日のライブのなにが素晴らしかったかって、オーケストラがついた歌謡ステージっぽい構成にもかかわらず、歌謡曲っぽいところがほとんどなかったこと。序盤の衣装が小林幸子か美川憲一かって感じだったり──巨大な鹿の角にクモの巣が張ったみたいなやつが頭にのっていた──、わざと演歌っぽくこぶしを回していた曲── 『歌舞伎町の女王』 だったと思う──もあったけれど、それでもそういう演出があってもなお、この日のステージには全編にわたって、これぞロックというダイナミズムがあふれていた。
先日、東京事変をJCBホールで観たときにはバンドの音に埋もれてしまっていたボーカルも、さすがにこの日は一大イベントだけあって音響への配慮に怠りなし。はっきりくっきりしていて、ボーカリストとしての存在感がきわだっていた。特にオーケストラが絡んでいるせいか、彼女にいまのステータスをもたらした初期の情念系の曲、『ここキス』 や 『本能』、『ギブス』、 『罪と罰』 といったシングル群があまりに素晴らしかった。正直なところ、僕は普段これらの曲をそれほど好んで聴かないのだけれど、この日は掛け値なしにいいと思った。
あと、この日の演出で一番の傑作だったのが、『浴室』 でリンゴの皮をむいたり、切り刻んだりしてみせたパフォーマンス。ステージ上にキッチンを用意して、包丁を振り回しているアーティストなんて前代未聞でしょう。いやあ、笑わせてもらった。しかもそれでいてちゃんと楽曲のテーマとその演出がみごとに調和してるのがまたすごい。椎名林檎って本当に天才だと思う。
【SET LIST】
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あえて云えば、唯一残念だったのは、MCがほとんどなかったこと。終盤になって兄の椎名純平がゲストとして登場したところで紹介のために口をきいたのが、この日の初MCだったんじゃないかと思う。その後も不思議なくらい口数は少なかったし、大型スクリーンに映し出される映像は、大半がモノクロのロングショットばかりとだったこともあり、アーティストとしての態度は──あいかわらず礼儀正しくはあったものの──、いまいちフレンドリーではないように感じられた。そうしたイメージに加え、この日はお土産と称して、オーディエンス全員に手旗が配られたので、みんなそれで手がふさがっていたせいもあってか、なんだかライブの素晴らしさのわりには、場内のリアクションが心なしかおとなしかった気がした。僕の気のせいかもしれないけれど。
でもまあ、MCが少なかった分は、十年の活動歴を振りかえる特製の映像が流されたり、息子さん──もう7歳なんですね。はええなぁ──のあどけないナレーションで彼女の半生を振りかえる映像が流されたりした(なんでも彼女は赤ん坊のころに生死にかかわるような大手術をしたとか)。自身が7歳のときに初めて作った処女作だといって、みかんの皮にまつわるお手製の童謡を聞かせてくれたりもしたし、決してリスナーをないがしろにしていたわけじゃない。ただ単にフル・オーケストラ付という音楽性の贅沢さが、広い会場でのややかしこまった演出とあいまって、若干の距離感を感じさせるステージだったかなと。そんな感じだった。
なんにせよ、やはり椎名林檎はすごいやと改めて思わされた一夜だった。
なんでもすでに来年の3月にはこのライブがDVDでリリースされることが決定しているとのことで、ライブと前後して、買おうかどうしようか迷っていた 『平成風俗 大吟醸』 と 『無罪モラトリアム』 のアナログ盤をご祝儀気分で購入してしまったわが家では、来年のそのDVDが通算46タイトル目の林檎作品になる予定です。がんがんと記録更新中。
(Dec 13, 2008)
ソウル・フラワー・ユニオン
年末ソウルフラワー祭2008/2008年12月13日(土)/LIQUIDROOM
不本意ながら、またもや3年ぶりのごぶさたになってしまったソウル・フラワー・ユニオンのライブ。
ソウル・フラワーの場合、年がら年中ライブをやっているので、わずかでもこちらの都合が悪かったりすると──たとえば前日に別のライブや宴会があったり、興味のないバンドとの対バンだったりすると──、「今回ダメでも次に観ればいいや~」とか思って、見送ってしまうことが多い。やたらと多い。基本的にソウル・フラワーは僕にとって、もっとも重要な日本のロック・バンドのひとつだし──いまとなると「だった」と過去形にした方が正しい気がするけれど──、できれば一年に一度くらいは観ておきたいと思っているのだけれど、そんなこんなで見送ってばかりいたら、気がつけば今回もまた3年ものインターバルが空いてしまった。
でもまあ、今年はサザンに椎名林檎にバンプにラッドウィンプスにと、大好きな国内アーティストを総ざらいした感がある一年だったので、このバンドでとりを飾るというのは、それはそれでふさわしいと思う。
それにしても3年もご無沙汰すると、その間にバンドをとりまく状況もそれなりに変わるものらしく。この日のライブでは、おや~っと思うことがいくつかあった。
会場に足を踏み入れてまず意表をつかれたのが、リキッドルームというハコのせまさ。前回このライブハウスを訪れたのが、まさに3年前にこのバンドを観たときだったから、すっかりどんなだか忘れていたけれど──ほんと道順さえ忘れていて、直前にアクセスマップを確認するはめになった──、ウィキペディアによると収容動員数は900人だそうで、Zepp Tokyoの半分にも満たない。
そんな小さなライブハウスのステージの背景にはモノノケたちをカラフルに描いた、いかにも素人画家の作品らしい大きな垂れ幕が掲げられている。
せまいハコに素人の絵を飾ったステージ。でもって客の入りもそこそこ。しかもいまとなると決してネームバリューの高くないソウル・フラワーを愛して足を運ぶ客だけあって、その過半数が野暮な男衆とくる(男女比は7:3といった印象)。
こうしたシチュエーションは、なんともはやインディーズっぽかった。僕はソウル・フラワーを日本でもっとも完成度の高い演奏を聴かせるプロフェッショナルなバンドだと思っていて、これまで彼らのことを一度もインディーズ・バンドとして考えたことがなかったので、こうしたインディーズっぽさはかなり意外だった。まあ、現状ではレコードのリリースはインディーズ・レーベルみたいだから、実際には名実ともにインディーズ・バンドなのかもしれないけれども。
【SET LIST】
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メンバーについては、中川、奥野、川村のオリジナルの3人についてはほとんど印象が変わらず。一方で中途採用の3人はずいぶんと正式メンバーらしいたたずまいになっていた。3年前には坊主頭だったジゲンはロン毛の茶髪に変貌を遂げているし、今回のアルバムから正式メンバーとしてクレジットされるようになった“みほちゃん”こと上村美保子も──伊丹英子の不在を補ってあまりあるとか、往年の内海洋子さんを髣髴とさせるとかいうところまではいかないものの──、すっかりバンドに溶け込んでいて、とても楽しそうだった。
そういえば、みほちゃんはソロで 『マウンテンバイク・フロム・ヘブン』 を歌ったりもしていた。英坊不在のステージで、別の女性がメスカリン・ドライブの曲を歌っているってのは、なんとなく不思議な感じだった。
この日のライブでなによりも感銘を受けたのが、とにかくいい曲が多いこと。ソウル・フラワー名義でのアルバムがそろそろ二桁になろうってキャリアはだてじゃない。ほんと、歌って踊れるナンバーのオンパレード。いまのロックシーンだと、「歌える」曲や「踊れる」曲をやっているバンドはたくさんあるかもしれないけれど、こんなふうに「歌って踊れる」を兼ね備えたバンドは意外と少ないんじゃないかと思う(そんなことはないのかな)。
「歌える」という部分でもっともすげーと思ったのが 『荒地にて』。「ハラすかして夢を喰う」というフレーズが印象的な、とても男気あふれるナンバーだけあって、男性中心のリスナー層にやたらと受けがよく(前から僕も大好きだった)、いまやライブの定番となっているらしい。いやー、オーディエンスが歌う、歌う。さびだけじゃなく、全編合唱しっぱなし。アウトロでの「オー、イエー」のコール・アンド・レスポンスもすごかった。野郎どもが遠慮なく声を張りあげている。こんなにすごい合唱を体験したのは初めてだ。日本のオーディエンスはすべからくシャイで、コール・アンド・レスポンスは苦手だと思っていたけれど、そんなことはないってことを証明する、すごい光景だった。いやあ、いい経験をさせてもらいました。
それにしてもこの日の僕は、前夜に飲み会があったせいで二日酔い気味で、場内の盛りあがりに百パーセントでシンクロできていなかった。その点がやや残念だったかなと。やはりソウル・フラワーのライブは体力が必要だ。次こそはちゃんと体調を整えて、万全の体勢でのぞもう。ということで、次回は必ず来年のうちに。でもすでに決まっている3月のライブ──ニューエストとメスカリンの新しいベスト盤がリリースされるとのことで(またですか)、それを記念してヨウコさんを呼ぼうかと思っていると中川が云っていた──は、また対バンありみたいなんで、遠慮申しあげることになりそうですけど……。
(Dec 21, 2008)