2005年のコンサート

Index

  1. R.E.M. @ 日本武道館 (Mar 16, 2005)
  2. エレファントカシマシ @ リキッドルーム・エビス (May 23, 2005)
  3. エレファントカシマシ @ 日比谷野外大音楽堂 (Jul 9, 2005)
  4. ビリー・コーガン @ SHIBUYA-AX (Aug 4, 2005)
  5. サマーソニック05 @ 幕張メッセ+千葉マリンスタジアム (Aug 13, 2005)
  6. ソウル・フラワー・ユニオン @ リキッドルーム・エビス (Oct 1, 2005)
  7. ジャミロクワイ @ 日本武道館 (Nov 16, 2005)
  8. ピクシーズ @ Zepp Tokyo (Dec 15, 2005)

R.E.M.

2005年3月16日(水)/日本武道館

Around the Sun (Dig)

 R.E.M.の来日公演は十年ぶりなのだそうだ。そう言われてみると前回の来日公演は "Monster" の時だったような気がする。道理でこれまで見る機会がなかったはずだ。
 当時の僕にはR.E.M.に対する特別な思い入れはなかったので、その時の来日公演は観に行かなかった。既にアルバムはひととおり持っていたはずだけれど、そのくせまともに聴いた作品はひとつもないという状態だったから、それも当然だった。
 しかしながらそのライブが 『ロッキング・オン』 で「これぞ真のロック」といった風な絶賛を受けているを読むに到り、これはやっぱり見ておくんだったかと無念に思うことになる。その後に "Road Movie" のDVDを買う気になったのは、R.E.M.のライブが本当にそんなに素晴らしいのかを確認したかったからだった。もちろん生で観るのとビデオで観るのでは大違いなのだけれど、それでもそのビデオ映像を見て、僕はかなりの感銘を受けることになる。そして次の来日公演は必ず観に行こうと誓うことになるのだった。
 そんなこんなでようやく観ることができた今回のR.E.M.のライブ。席は2階席の前から二番目、ステージに向かってかなり右寄り。武道館の広さを考えるとそれほど悪い席じゃなかったけれど、かといってステージに近いともいえない。マイケル・スタイプが頭につけていた黒いやつが、サングラスかマスクか、はたまた鉢巻きか帽子なのかもわからない距離だった。
 この日のライブにはオープニグ・アクトがあった。7時ジャストに場内の照明が落ちて、そのあまりの遅延のなさにびっくりしてているところへ出てきたのは、残念ながらお目当てのR.E.M.ではなく、DOAという日本人バンドだった。
 これが言っちゃ悪いけれど、あまりおもしろくない。演奏は達者だし、コーラスワークも綺麗だ。けれど曲も歌詞もおもしろくないし、なによりボーカリストに動きがなく、ステージ映えしないことこの上ない。まるでB'Zからキャッチーさとユーモアと派手なアクションを取り除いたようやバンドだなと思っていたら、これがまさにそのとおりで、中心メンバーはB'Zのバックを務めている人たちだった。
 とにかくどう考えてもR.E.M.のファンが好きになるタイプのバンドだとは思えない。ボーカリストが「R.E.M.さん」と呼んでいたところから判断する限り、彼はまともにR.E.M.を聴いていないのだろう(好きなバンドを「さん」付けで呼ぶなんて考えられない)。どうしてこういうバンドをR.E.M.の前座に持ってきたのかさっぱりわからない。バンドにとってもファンにとっても不毛なオープニング・アクトだった。

【セットリスト】
  1. I Took You Name
  2. Bad Day
  3. Animal
  4. The Outsiders
  5. Seven Chinese Brothers
  6. Electron Blue
  7. Drive
  8. High Speed Train
  9. Electrolite
  10. Leaving New York
  11. Orange Crush
  12. I Wanted to Be Wrong
  13. Final Straw
  14. The One I Love
  15. Walk Unafraid
  16. Imitation of Life
  17. Losing My Religion
    [Encore]
  18. What's The Frequency, Kenneth?
  19. Everybody Hurts
  20. The Great Beyond
  21. I'm Gonna D.J.
  22. Man On The Moon

 そんな前座があったものだから、R.E.M.のメンバーがステージに登場したのは、定刻から40分ほど過ぎたあとだった。
 初めて生で見るマイケル・スタイプは遠いせいもあって思いのほか小さく見えた。でも反対にピーター・バックはビデオで見たより大きくなっている感じで、なんだか近年のジミー・ペイジを彷彿させる体形になっていた。マイク・ミルズはあいかわらずラメのジャケットを着ている。サポート・メンバーとしてドラマーのほか、ギターとキーボードを主に扱うマルチ・プレーヤーが二人いた。少人数というイメージがあったので、ステージに六人もいるのがちょっと意外だった。
 一曲目は "I Took Your Name" 。 "Road Movie" でも最初に演奏される曲なので、なんとなく嬉しい。マイケル・スタイプもしょっぱなから元気一杯で、終始あの独特のステージ・アクションで観客を楽しませてくれていた。年長のスタイプの方が前座のバンドのボーカリストよりもぜんぜん元気だった。
 この日に見た二つのバンドの一番の違いは、見せることに対する意識にあったと思う。DOAには音楽は聞かせるだけではなく見せるものだという意識がまったく感じられなかった。それはハンドマイクでつったっているだけのボーカリストの姿勢であきらかだ。
 それに対して、R.E.M.というバンドは、一見ヴィジュアルに気を使っていなさそうでありながら、実はとてもその辺に対して意識周到だ。個々のメンバーの動作の中に、観客を楽しませようという意識がきちんと滲み出している。表現力というのは演奏力とは違うものなのだなと思う。決して派手な演出があるわけでもないのに──といいつつレディオヘッドと同じタイプの電飾を配したステージセットはとてもきらびやかだった──それでいてエンターテイメントとしての不足をまったく感じさせないのは、彼らのステージが表現すべきことに対する確固たる意識に支えられているからではないかと思う。
 二曲目が "Bad Day" 。このほかにも "Animal" や "The Great Beyond" が演奏されたことからするに、今回の公演は新作 "Around The Sun" に加え、その前のベスト盤 "In Time" も意識していたものと思われる。ま、セットリストが新譜に代表曲を加えたものになるのはあたりまえのことなのかもしれないけれど、ちょっとくらいは十年ぶりの来日だということに対する配慮もあったに違いない。
 音響に関しては音がやや小さめかなという感じがした。けれどこのところ武道館へゆくたびにそう思っている気がするので、その辺は単にむやみやたらと大音量をのぞむ僕の趣味の方に問題があるのかもしれない。
 演奏以外で印象的だったのは、マイケル・スタイプのユーザー・フレンドリーなMC。おそらく英語が不得手な日本人の観客にもわかり易いようにと、ゆっくりしゃべってくれていたのだろう。おかげで海外アーティストのコンサートにしては、いままでにないほど話している内容がわかった(ぜんぶ勘違いという可能性もある)。 "Electron Blue" は新譜で一番気に入っている曲だと紹介された。 "I Wanted to Be Wrong" は現在のアメリカを恥かしく思うと語ったあと、反戦の歌だと紹介された。 "High Speed Train" では、今回日本へ来て初めて超特急に初めて乗ることになった(東京-京都間)と話していた。そうしたMCもコンサートの印象をよりよくしている。やはり言葉はわからないよりわかった方が圧倒的に楽しい。あらためてもっと真剣に英語を勉強しないといけないと思わされた。
 アンコールで演奏されたアルバム未収録の新曲 "I'm Gonna D.J." は、メローな曲の多かった新譜とは対照的なパンキッシュなナンバーだった。こういうナンバーが新しく出てくるようならば、R.E.M.もまだまだ現役としてガンガンいけるだろう。
 この日のライブの好印象に加えて、この日のために2ヶ月にわたってじっくりと全アルバムを聴き続けたことで、いまさら僕はこのバンドがとても好きになってしまった。日本が好きだと言ってくれていたことだし──十年の空白を考えるとリップ・サービスかもしれないけれど──、次回の来日を楽しみに待ちたいと思う。
(Apr 09, 2005)

エレファントカシマシ

すまねえ魂2005/2005年5月23日(月)/リキッドルーム・エビス

風

 およそ半年ぶりとなるエレカシのライブ。アルバムのリリースのない時期だから、どんな内容になるのかと思っていたのだけれど……。
 この日の印象は一曲目の新曲で決定してしまった。「探してる~」というフレーズで始まるこの曲が、見事に 『愛と夢』 路線の歌謡曲タッチの作品だったのが、あのアルバムが大嫌いな僕らには決定的だった。ああ、このところの迷いのないロック路線も、結局は宮本にこれだという確信は抱かせられなかったのかと。そんな失望がこの日は最後まで余韻として残ってしまうことになった。そうした悪印象は 『風に吹かれて』 『今宵の月のように』 『悲しみの果て』 といった、ポニー・キャニオン在籍時のナンバーが多く演奏されたことでもさらに強くなった。迷えるロック・バンド、エレファントカシマシの変わらぬ姿がそこにあった。

【セットリスト】
  1. 新曲[探してる~]
  2. パワー・イン・ザ・ワールド
  3. 風に吹かれて
  4. 今宵の月のように
  5. 傷だらけの夜明け
  6. 新曲[鮮やか過ぎて]
  7. 新曲[甘く切ない絶望]
  8. 新曲[流れ星]
  9. 遠い浜辺
  10. どこへ
  11. おまえと突っ走る
  12. 悲しみの果て
  13. 生命賛歌
    [Encore 1]
  14. 浮き草
  15. てって
    [Encore 2]
  16. 星の降るような夜に

 四曲演奏された新曲の中で気に入ったのは、 『星の降るような夜に』 に通じる「流れ星」がどうしたという歌のみ。今回のライブの傾向でアルバムが作られているのならば──まあこのところのロックに向かう姿勢が一気に払拭されることはないんだろうから、まったく期待はずれに終わることはないにしても──次回作が最近の三作ほどの感銘を与えてくれることはなさそうだ。そんな思いが胸をよぎって、ライブ自体を十分に楽しむことができなかった。
 アンコールで演奏された 『浮き草』 『てって』の2曲は、今聞くと見事にニート礼賛のアンセムみたいでおかしかった。それが反語的な意味合いであったにしろ──そうじゃないと言われると困ってしまうけれど──、宮本は日本という国の世相を読む上で、十五年先を行っていたと言えるかもしれない。
 あまり楽しめなかったこの日のライブでもっとも救われたのは、最後のナンバーが 『星の降るような夜に』 だったこと。特別に聴きたいと思っていたナンバーではなかったけれど、不思議といまの気分にぴったりだったので、よーし、これで終わるならOK、と思わせてもらえた。
(Jun 11, 2005)

エレファントカシマシ

2005年7月9日(土)/日比谷野外大音楽堂

野音 秋(Amazon.co.jp 独占限定盤)

 今年はあいにくの雨となった恒例の野音。ほとんどの人が雨合羽着用という状況で、カッパを着ないでびしょ濡れになっていた数少ない酔狂者のうちのひとりはこの僕です。
 このところのエレカシのライブはいつも1時間半ほどで終わってしまっていたけれど、やはり野音は思い入れがあるから頑張るようで、この日は2時間をゆうに超えるボリュームだった。途中一時的にあがった雨も、終わり頃にはまた降り出していた。宮本も雨の中で見ている観客への感謝を表すためか、二度も自らバケツを持ち出して水をかぶっていた。
 この日は珍しくバックの三人がカラーコーディネートしている。石くんが黄色のTシャツ、トミが青いTシャツ、セイちゃんが臙脂のシャツ。三人合わせて信号機ブラザーズという様相を呈している。とうぜん宮本はいつもの白シャツ姿。石くんは坊主刈りの上に、この日はサングラスまでかけていて、とても恐い人に見えた。

【セットリスト】
  1. 生命賛歌
  2. デーデ
  3. 浮き草
  4. 風に吹かれて
  5. 悲しみの果て
  6. 今宵の月のように
  7. すまねえ魂
  8. お前の夢を見た(ふられた男)
  9. 孤独な旅人
  10. 珍奇男
  11. 真夏の星空は少しブルー

  12. 新曲[人生の午後に]
  13. おまえと突っ走る
  14. かけだす男
  15. OH YEAH!(ココロに花を)
  16. うれしけりゃとんでゆけよ
  17. 四月の風
    [Encore 1]
  18. 昔の侍
  19. 極楽大将生活賛歌

  20. 凡人-散歩き-
  21. 明日に向かって走れ
    [Encore 2]
  22. 月の夜
  23. ガストロンジャー
  24. ファイティングマン

 この日のライブで一番感銘を受けたのは、今までは宮本のギターが音の中心だったいくつもの楽曲が、宮本のギターなしで演奏されたことだった。 『風に吹かれて』 や『昔の侍』 『明日に向かって走れ』 など。そう言えば 『極楽大将』 も、確か僕らが見る限りでは宮本のギターなしは初めてだと思う。それは宮本がギターは石くんに任せて歌に専念して大丈夫だと思えるようになったということなのだろうから、バンドとしては非常に大きな前進だ。はりきりまくりの石くんは何度となくギターの弦を切っていた。最後の方で宮本に「ギター交換し過ぎ」とチャチャを入れられていたけれど、あれくらい弦を切っちゃうと交換しないわけにはいかない。
 そう言えば 『珍奇男』 では、宮本がギターをエレキに持ち替えたあとで、椅子から立ちあがって演奏していたけれど、あの曲を宮本が立って演奏したのを見るのも初めてだと思う。パイプ椅子の背もたれの部分に腰かけて演奏するのを見るのも初めてだけれど(あぶなっかしい)。
 とにかく新機軸をいくつも打ち出して見せてくれた今年の野音だった。 『孤独な旅人』 のほとんどを宮本と石くんのギター二本だけで聴かせるアレンジが変な感じだったり、僕らの席からだと 『OH YEAH』 のキーがあっていないように聴こえてとても気持ち悪かったりと、欠点も随所にあった。セットリストの中心が 『ココロに花を』 の曲だったから、その点も個人的には若干残念だった。それでも 『お前の夢を見た』 『道』 『凡人』 など、聴かせてもらうのは10年ぶりじゃないかと思うような嬉しい曲もあったし──前の2曲は僕の日々の愛唱歌の一部なので特に嬉しかった──、全体としてやる気がびんびんと伝わってきて好感の持てる、非常に充実したコンサートだった。
(Jul 10, 2005)

ビリー・コーガン

2005年8月4日(木)/SHIBUYA-AX

TheFutureEmbrace [FROM US] [IMPORT]

 最近の僕は生音志向が強いので、打ち込みを中心とした音作りのビリー・コーガンの初ソロ・アルバムには正直なところ、あまり好感が持てずにいた。ネットでツアーのフォトなんか見ると、バックメンバーは奇妙なキーボードやシンセ・パーカッションだけみたいだし、こりゃあ今回のライブははずれかもしれないと思っていた。
 ところが実際に見せてもらったショーは、そんなつまらない心配は不要だったと思わせる、なかなかすばらしいものだった。身近なところではエレカシの 『ガストロンジャー』 を考えてみても、同期モノによる演奏は、(味気なさこそあるものの)ダンス・ミュージックとしての機能性においては生演奏を上回る破壊力を持ち得る。この日のコーガンさんのライブは、僕にそのことを思い出さしめたのだった。
 あと、このライブで重要だったのが演出。ステージを扇型に取り囲むように、高さ2メートル半くらいのタイル状の電光パネルが配置されていて、これが演奏にあわせてカラフルな色彩を放って目を楽しませる。最近のPCの音楽再生ソフトに必ずついているヴィジュアライゼーション、あれをステージ上に再現して見せたような演出で、とてもおもしろかった。この程度の規模のライブハウスであの演出は珍しい。さぞ金もかかるだろう。あまり客も入っていなかったし、全然ペイしそうにない。なんとも贅沢なショーだった。
 そんなデジタルな演出に加え、バンドはキーボードの男性、キーボードとコーラス担当の女の子、シンセサイザー・パーカッション、そしてコーガンさんの4人という小編成。キーボードの奇抜でキッチュな近未来的デザイン、デビュー当時のマドンナみたいな女の子のルックス、そしてエレクトリック・ポップな音作りがあいまって、なんだか「未来」というよりは80年代を思い出させる内容だった。
 それにしてもビリー・コーガンのディストーションがかかったような声と、達者なギター・プレイはとてもライブに映える。そのシャイな人となりにも好感が持てるし、もっと多くの人に見てもらいたい、愛すべきアーティストだと思う。
 それなのにスマッシング・パンプキンズの観客動員数を考えると、この日の観客の少なさは本当に不思議だった。おかげで盛者必衰{じょうしゃひっすい}なんていう、あまり馴染みのない言葉を思い出した。
(Aug 07, 2005)

サマーソニック05

2005年8月13日(土)/幕張メッセ+千葉マリンスタジアム

Here Come the Tears

 フジ・ロックが始まって、日本に夏のロック・フェスティバルが定着してから随分になる。出不精で人混み嫌いの僕は、これまで一度もこの手のイベントに参加したことがなかった。それが今回、重い腰をあげて初めて観に行こうという気になったのは、ひとえにティアーズ──元スエードのブレット・アンダーソンとバーナード・バトラーの十年ぶりのコラボレーション──、このバンドが見たかったからだった。
 残念ながら、ほかにはどうしても観たいと思うほどのバンドはなかった。かろうじてナイン・インチ・ネイルズとZAZEN BOYSが引っかかるくらい。翌日にはオアシスやウィーザー、パブリック・エナミー他、観たいバンドがもっとたくさんあった。けれど、ティアーズを無視するわけにはいかない。さて、じゃあ二日行く体力と経済力があるかと考えると首を傾げざるをえない。どうしようか悩んでいるうちに翌日の分のチケットが完売になってしまった。なんだか間が抜けている。
 その後もなお行こうかやめようか悩んだ挙げ句、ようやく行くことに決心したのは、開催の十日ほど前に観たビリー・コーガンのライブが思いがけず良かったことによった。失礼ながら、あまり期待していなかった彼のライブの素晴らしさは、生で観ないと伝わらないロックの魅力を再確認させてくれた。これはきっとナイン・インチ・ネイルズなんか、そうとうすごいのだろうと思わされたし、それよりなにより、やっぱりティアーズを生で見ないで済ましちゃいけないだろうと思ったのだった。

 というわけで一人出かけていった初のロック・フェスティバル。
 欲張りの僕はティアーズとナイン・インチ・ネイルズ、そしてZAZEN BOYSの三つのバンドはフルに観て、あとは出来るだけ多くのバンドを少しずつでいいから、かじって歩こうと思っていた。けれど、なんたって乗り継ぎに失敗して片道2時間弱、幕張メッセに到着した時点でもう既に疲れているという体力のなさなものだから、そんな風に最初から疲れているようでは、好きでもないバンドの知らない曲に集中するのは、これがなかなか難しい。結局大半のバンドは、ああ、やってんなあと横目で見てやり過ごしてしまうていたらくとなった。
 ストレイテナー、サブウェイズ、RIZE、ルイXIV、HAL、TV on the Radio、インターポール、ブルー・アイド・サン、MEW、M.I.A.、フリップサイド、ルーツ、エコー&ザ・バニーメン……。この辺は1曲聴いたり、ちらりと通りすがりに見たという程度。その他、ルースター、デパーチャー、電気グルーヴ×スチャダラパー、イアン・ブラウンについては数曲だけれどじっくりと観た。

Arular

 これらの中で一番おもしろいと思ったのは、スリランカ出身の女性ラッパー、M.I.A.だった。この人は若さあふれるやんちゃな感じがとても良かった(後日、実は28歳とそれほど若くないことを知った)。こういうところで見るには、ロックよりヒップホップの方がいいかなと思う。少なくてもリズム主体のヒップホップの方が、アイディアの乏しいギター・ロックよりも退屈しない。
 とはいいつつ、電気グルーブ×スチャダラパーはこの日はそれほど楽しめなかった。単発で観たならばそれなりに盛りあがったのかもしれないけれど、洋楽中心にあれこれ物色しながら足を棒にしていたせいか、観ていてもどうにも集中し切れなかった。あの人たちのパフォーマンスはあまり疲れている時に見るものではない気がする。
 そのほかでは注目していたルースターが、案に反して苦手なタイプのバンドだった。それだったらディバーチャーのほうがまだ好きだ。端的に言ってしまえば、スエードとパルプとブラーを足してもっとバックをシャープにした感じ。強いオリジナリティは感じなかったものの、悪くないと思った。
 サブウェイズ、ルイXIV、MEW(デンマークのバンドらしい)、フリップサイドあたりは、なかなか良さそうだと思いつつ、時間と体力の関係できちんと見られなかった。ちょっと残念なことをした。

ZAZEN BOYSIII

 観ようと思っていたのに観られなかったのがZAZEN BOYS。これまで気になりつつも、一度も聴いたことがないバンドだったので、今回のイベントはとてもいい機会だと楽しみにしていた。ところが、彼らに割り当てられていたのは、場内ステージのうち、でもっとも小さなステージ。国内組のなかでは、注目度ではナンバーワンじゃないかと思うのに、いったいなにを考えているんだ、サマーソニック事業部。こんなところで観られるのかなと心配になったので、開演の十五分前に行って待っていたら案の定だった。あとから詰めかけてくる観客が溢れ出して警備がおっつかず、いつまでたっても始まらない。結局一時間待たされたあげくに、公演は一時中止すると言われてしまった。ロック・フェスティバルに来て、一時間も音楽を聞けないまま、待ちぼうけを食わされるなんて思ってもみなかった。
 一時中止を発表した、いかにも企業のお偉いさんという感じの係のオジさんは、「再開が決まったら必ず場内放送でお知らせします」なんて調子のいいことを言っていたけれど、そんなものがあてになるとは思えなかった。案の定、あちらこちらをうろうろしていても、そんなインフォメーションはいっこうに聞こえてこない。その後一時間ちょっとして、ふたたび僕がそのステージを訪れた時には、またもやステージの外に人があふれ、入場規制がかかっている状態だった。結局、二時間遅れでZAZEN BOYSのステージがスタートした時、僕は隣りのラーメン屋の前で、床に座り込んで担々麺をすすっていた。まったく困ったもんだ。

 もうひとつ、観ようと思っていながら観るのをやめてしまったのがマニー・マーク。この人の場合は手前勝手な理由で、出演するビーチ・ステージというのが、その名のとおり砂浜にあったので、暑さと砂にまみれるのを厭って敬遠してしまった。なんたって、こちとら一年中、黒革のドタ靴を履いている男だ。ビーチは似合わなさ過ぎる。夏フェスにそんなもの履いてくるなという話もある。スニーカーやビーチサンダルを履かない僕のような男には、やはり夏フェスは似つかわしくない気がした。

【The Tears セットリスト】
  1. In The Asylum
  2. Lovers
  3. The Primitive
  4. Imperfection
  5. Autograph
  6. The Ghost Of You
  7. Brave New Century
  8. Refugees
  9. Two Creatures
  10. Apollo 13
  11. Beautiful Pain

 お目当てのティアーズは、やはり観ておいて良かったと思わせる素晴らしい内容だった。若干、音量にものたりなさを覚えはしたけれど、すぐ近くでバーナード・バトラーがギターを弾き、ブレット・アンダーソンが歌を歌う姿が観られたのは、意外なほど感激した。なんでおれは今までにこの二人の来日公演を一度も観にゆかなったんだろうと、心から後悔した。
 特にやはりバーナード・バトラー。スエードのライブ・ビデオで観た姿と比べると、幾分おとなしめにはなっていたけれど、それでも十分にエキセントリックなしぐさで、官能的なギターを鳴り響かせてくれていた。おまけにコーラスまでつけている。ギター一本のイメージがあったから結構驚いたけれど、考えてみれば自分のソロでは歌を歌っているわけで、今の彼ならばコーラスワークもできて当然。ギターだけでもすごいのに、コーラスまでちゃんとつけられちゃうなんて、もう本気で脱帽だ。そこには僕の理想を具現化したひとりのギタリストがいた。
 ブレット・アンダーソンの歌もレコーディングのクオリティそのままで素晴らしいし、このバンドはもう何度でも観たい。これっきりだなんて言わずに、今後も二人で活動を続けていってくれることを願ってやまない。そして次回はぜひ単独での来日を──。

Solarized

 ティアーズのあと、ナイン・インチ・ネイルズのライブが行われるマリンスタジアムに移動するまでのつかの間、イアン・ブラウンを観た。この人の場合は、今までに観た二度ほどの来日公演の内容があまり芳しくなかったので、今回はほとんど期待していなかった。だから始まった時もまだステージの外にいたくらいなのだけれど、なんとその時に聞こえてきたのが "I Wanna Be Adored" のイントロで……。そりゃ、慌ててステージに向かうだろう、普通のロックファンならば。
 ローゼズの解散から十年。またあの曲を、イアン・ブラウンが歌うのを聴く日がくるというのは、なんとも感慨深かった。ローゼズと比べてしまうと、やはりグルーヴ感の乏しさは否めない演奏だったけれども、それでもなんというか、やっぱり感じるものはある。続けて "Made of Stone" に "Waterfall" だもの。反則じゃん。
 四曲目でやっと "Golden Gaze" が演奏され、ここから先はソロ・ナンバーだろうということで、時間も時間だし、僕は会場をあとにした。でもこのまま聴いていれば、クライマックスでは "Fool's Gold" が演奏されるのは必至? みたいな気がして、この際、ナイン・インチ・ネイルズを諦めて、このままイアン・ブラウンを観続けてしまおうかと思う気もなくはなかった。演奏も今までに観た彼のライブの中では断然良かったし……。
 いや、いまだにあの続きを見なかったことを後悔する気持ちが若干あったりする。やっぱ、複数のアーティストが同じ時間に別々のステージに立つロック・フェスのシステムってやつは罪作りだと思う。

With Teeth (Dig)

 後ろ髪ひかれつつメッセをあとにしてマリンスタジアムへ移動し、最後に観たのがナイン・インチ・ネイルズ。1時間半に及ぶライブの完成度は相当なものだった。髪をクルーカットにしたトレント・レズナーはやや太めな印象で、やたらとマッチョなイメージだった。ちょっと意外。
 いやしかし。生で観てみて、あらためてこのバンドは僕のバンドじゃないなと、いまさらながら思った。すごいとは思うのだけれど、入りきれない。このバンドに対する違和感は、この暑いのに革のパンツとベストというファッションが象徴的している(普通にポロシャツやTシャツを着ていたティアーズと対照的)。やっぱりこの手のハード・ロックやメタルの影響下にあるバンドには距離感を感じてしまう。
 まあそういいつつも、最初は二階スタンドで観ていたにもかかわらず、どうせならばもっとちゃんと大きな音で感じたいと思って、途中からアリーナに降りたりもした。最初から下で見た方がいいとは思ったのだけれど、さすがに疲れていて、立ち見はきついと思って、ついスタンドにあがってしまったのだった。なんとも根性なし炸裂の一日だった。

 サマーソニックは半分以上のステージが冷房の効いたインドアだし、夏のフェスティバルといいつつ、やたらと快適な環境でただひたすら音楽を楽しめる、おもしろいイベントだと思う。エスニック料理の屋台がたくさんあるのも、個人的には嬉しかった。並ぶのが嫌でほとんど食べられなかったけれど。
 ただ、やっぱりこの手のイベントに行くならば、その日の夜は近くのホテルに泊まってしまいたい。いや、本当に疲れた。帰りの電車がつらかった。車も持っていなければ、ホテルに泊まる経済的余裕もない自分の不甲斐なさを痛感させられた夏フェスだった。ちくしょう。そのうちどうにかしてやるぜっ──って、まったく口ばかりで、この男は……。
 反省と後悔を重ねつつ、ロックの夏は過ぎてゆく。
(Aug 20, 2005)

ソウル・フラワー・ユニオン

「ロロサエ・モナムール」発売記念日本ツアー(其の二)/2005年10月1日(土)/リキッドルーム・エビス

ロロサエ・モナムール

 気がつけば今回もまた、前回ソウル・フラワーを見てから既に2年近くが経過していた(年をとると時の流れが速い)。新作の出来が素晴らしかったこともあり、この辺でひさしぶりに見ておかないといけないと思って足を運んだ恵比寿のリキッドルーム。そこには新陳代謝を繰り返しながらも、あいも変わらぬ充実したパフォーマンスを繰り広げる中川敬たちの姿があった。
 メンバー編成はほぼ2年前と同じ。中川──黒のツアーTシャツに海賊風バンダナというスタイル──と奥野はいつも通り。河村はギターで、リズム・セクションはジゲンとコーキ。英坊は不在(当然?)で、ゲスト・コーラスに、ジゲンと二人で桃梨というユニットで活動している上村美保子さんという編成。朱色の着物姿で登場したこの“みほちゃん”が、普段から民謡的な音楽をやっているらしく──途中でジゲンと二人で出身地岐阜の民謡を歌うコーナーなどもあった──、ソウル・フラワーの音楽性に見事に馴染んでいた。
 選曲は新譜 『ロロサエ・モナムール』 からのほぼ全曲── 『ひかり』 だけは演奏されなかった──を中心としたもの。というか、普通新曲をそれだけやれば、それが中心という印象になるものだけれど、そこはソウル・フラワー。トータルで3時間近いボリュームだから、そんな印象にならない。また前述のみほちゃんがメインボーカルをとった曲が2曲あったほか、奥野がビートルズの "Cry Baby Cry" を歌ったり──「クラ~イ、ベイビー、クラ~イ、お泣きなさ~い」という歌詞には思わず笑ってしまった──、ジゲンのボーカルで 『秋田音頭』 が演奏されたり──見事にロックン・ロールしていて感心した──、バンドとしての広がりを印象付けるステージでもあった。

【セットリスト】
  1. うたは自由をめざす!
  2. サヴァイヴァーズ・バンケット
  3. 完璧な朝~ア・ルータ・コンティヌーア~
  4. 星降る島
  5. 夢の中
  6. 世紀のセレナーデ
  7. 無防備な女の子とドタ靴の俺
  8. そら
  9. パンチドランカーの夢
  10. 松葉杖の男
  11. クライ・ベイビー・クライ (奥野Vo)
  12. ああわからない
  13. 見世物小屋から愛を込めて
  14. 不死身のポンコツ車
  15. 春駒~八竹 [群上踊り] (ミホ&ジゲンVo)
  16. 最前線ララバイ
  17. 零年エレジー
  18. 秋田音頭 (ジゲンVo)
  19. アル・ファジュル
  20. 極東戦線異状なし!?
    [Encore 1]
  21. 酒と共に去りぬ
  22. リキサからの贈りもの
    [Encore 2]
  23. 神頼みより安上がり
  24. 殺人狂ルーレット
    [Encore 3]
  25. 海行かば 山行かば 踊るかばね

 個人的に楽しみにしてた 『ア・ルータ・コンティヌーア』 や 『そら』 も聴けたのだけれど、この日もっとも良かったのは、それらよりも2度目のアンコールで演奏された 『神頼みより安上がり』 だった。いやはや、あれは盛り上がった。前日の酒のダメージが残っていたせいで、もうその頃には疲れ切っていて、さっさと終わってくれ、みたいな気分だったのだけれど(駄目なやつだ)、あれで疲れが吹き飛んだ。いや、本当によかった。
 あともう一曲、比較的早い時間帯に演奏されたボ・ガンボスのカバー 『夢の中』 もとてもよかった。いや、もしかしたら個人的に一番盛り上がったのはこの曲だったかもしれない。もとから好きな曲だったし、ミディアム・テンポのレゲエのリズムが気持ちよくて仕方なく、踊らずにいられなかった。
 2度目のアンコールが終わり、場内にBGMが流れ出したあとに、唐突にメンバーがステージに戻ってきて最後のアンコール・ナンバー、 『踊るかばね』 を演奏し始めたのにも笑った。普通やらないぞ、あの展開で率先して。
 この日は阪神タイガースの優勝直後ということもあり、「おめでとう!」を連発していたりして──サッカー好きの東京人である僕には、最初はなにがめでたいんだかさっぱりわからなかった──MCでもいろいろと笑わせていた。いやはや、やはりソウル・フラワーは音楽のみならず、その存在自体がおもしろい。次は来年の3月、中川敬の四十歳のバースデイ公演があるようならば、ぜひ見にゆきたいと思う(※)。その前に年内にもう一本、東京公演があるみたいだけれど、それにゆく余裕はちょっと……。
(Oct 02, 2005)

(※)結局3月の公演もストーンズの来日と時期が重なったために見送ってしまった。ストーンズのチケットが高すぎて、ほかのライブを観る余裕がなかった。貧乏暇なし。
(Jan 20, 2007)

ジャミロクワイ

Dynamite Tour 2005/2005年11月16日(水)/日本武道館

Dynamite

 気がつけばジャミロクワイもデビューからはや12年。来日公演は今回で実に7回を数えるらしい。アルバム6枚で7回の来日というのだから、なかなかの親日家なんだろう。もしかしたら単に働き者なだけで、アルバムを出すたびに世界中をまんべんなく回っているだけなのかもしれないけれど(なんだかそんな気もする)。いずれにせよデビューした時から聴き続けていたにもかかわらず、7回目の来日にして初めて観にゆくことになったジャミロクワイだった。
 僕らの席はアリーナの一番うしろの方。照明が落ちると、大音量のカンフー・ミュージックをSEにしてバンドのメンバーが登場してきた。JKは新作 "Dynamite" のジャケットと同じ黒い羽付き帽子をかぶって登場。その他のメンバーはドラムとパーカッションが黒人、ギターとベースとキーボードがどこにでもいそうな平凡なルックスの白人、あと黒人の女性コーラス三人組という編成。

【セットリスト】
  1. Canned Heat
  2. Space Cowboy
  3. Cosmic Girl
  4. Revolution 1993
  5. Little L
  6. Seven Days In Sunny June
  7. High Times
  8. Dynamite
  9. Don't Give Hate A Chance
  10. You Give Me Something
  11. Use The Force
  12. Black Capricorn Day
  13. Love Foolosophy
  14. Main Vein/Time Won't Wait
  15. Alright
    [Encore]
  16. Deeper Underground

 今回のツアーはどこの国でもほぼ同じセットリストだったようで、一曲目は "Canned Heat" 、以降 "Space Cowboy"、"Cosmic Girl"、"Revolution 1993" と続く。そりゃあ、盛りあがりは必至ってものだろう。
 その後の選曲は日によって曲順が異なったみたいだ。僕らが見たこの日のライブでは若干曲の並びにムラがあって、クライマックスに向かって熱が上がってゆく、という感じがしなかったのが若干残念なところだった。あと前日は演奏された "Love Blind" がこの日は端折られていたのも残念だった。それでも十分に楽しいコンサートではあったけれど。
 JKはもっと暴れまわる人かと思っていたら、意外と動きがなかった。バンドのその他のメンバーもルックスは地味で、道ですれちがってもミュージシャンだとは思わないようなタイプばかりだし、それだから一番観ていて楽しいのは女性コーラス三人組だった。このバンドの音楽は女性コーラスの存在なくしては成り立たない。この人たちだけがバンドの正式メンバーじゃないってのが不思議なくらいだった。
 意外と盛り上がったのが、最新シングルの "(Don't) Give Hate A Chance"。CDで聴いた時にはシンセが中心のアレンジがしっくりこなくて今ひとつ気に入らなかったのだけれど、ライブではとても映えた。僕のこの日のハイライトはこの曲。あとアンコールのゴジラを意識して地響きがするようなSEとともに始まった "Deeper Underground" も最高だった。あの重低音には痺れまくった。
 なんにしろたまにはこういうブラック・ミュージック寄りのライブを観るのもいいものだなと思う。やはりダンス・ミュージックに徹したバンドのコンサートは観ていて単純に楽しい。個人的な唯一の問題は、終わった後で無性にディストーション・ギターが恋しくなることだったりする。
(Nov 27, 2005)

ピクシーズ

Japan Tour 2005/2005年12月5日(月)/Zepp Tokyo

セル・アウト ~リユニオン・ツアー 2004 [DVD]

 ピクシーズはオルタナティブ・ロックの理想形と言ってもいいバンドだと思っている。コンパクトでキャッチーな楽曲と絶妙なとっ散らかり方をした音作り。グロテスクさの入り混じったポップなビジュアル・コンセプト。メンバーの冴えないルックスさえ欠点などではなく、スイカの甘さを引き出すためにかける塩のように(なんて陳腐な比喩)、バンドの魅力を引き立てる上で必要不可欠の要素だと思う。ピクシーズが90年代のロックを語る上で欠かすことのできないバンドのひとつだという意見に反論がある人とは、おそらく友達にはなれない。
 僕は以前 "Gouge Away" のライブ映像をテレビでちらりと見て、その圧倒的なパフォーマンスに驚き、それ以来このバンドを生で観る機会がなかったことを残念に思ってきた。だから去年、再結成したピクシーズがフジ・ロックに参加すると知った時にはかなり悩んだものだった。PJハーヴィも参加することだし、さずがに今度ばかりは苗場まで足を運ばないといけないかとも思った。
 けれど結局、貧乏には勝てない。3日の享楽に大枚をはたく経済的・精神的な余裕はいまの僕にはないからと諦めた。結局その程度の興味しかなかったんだろうと{けな}されても仕方ない。もとよりサラリーマンになった時点で現実に負けている。そもそも「ロックはライブだ」と躊躇{ちゅうちょ}なく盛り上がれるタイプのリスナーではないんだし。出不精を絵に描いたような僕にとっては致し方のない結論だった。

【セットリスト】(順不同・欠落あり)
  • Gouge Away
  • Ed Is Dead
  • Head On
  • Broken Face
  • Caribou
  • U-Mass
  • Planet of Sound
  • Mr. Grieves
  • Crackity Jones
  • I Bleed
  • Debaser
  • Monkey Gone To Heaven
  • Is She Weird
  • Bone Machine
  • No. 13 Baby
  • La La Love You
  • Winterlong
  • In Heaven (Lady in the Radiator Song)
  • Wave of Mutilation (UK Surf)
  • Here Comes Your Man
  • Tame
  • Hey
  • Where Is My Mind?
  • Vamos
  • Into The White
  • Gigantic

 そんな風に去年のフジ・ロックという機会を逃したことで、僕は一生ピクシーズを体験できずに終わるのかと思っていた。それだから、その一年後に思いがけず単独公演が決まった時には、一人でそうとう盛りあがった。ピクシーズは僕がようやくその魅力に気がついた時点で既に終わっていたバンドだったし、まさか見られる日が来るとは本当に思っていなかった。
 しかしフジ・ロックの時といい、ピクシーズとはあまり巡りあわせがよくないらしい。いつもならばライブを観にゆく日には、仕事を休んで一日気分を盛りあげてから会場へ足を運ぶのだけれど、この日は直前に会社でトラブルがあって、休めない状況になってしまった。結果として中途半端な服装と精神状態で観にゆくことになり、大盛りあがりの会場にあって、なんだか一人だけ浮いているような気分を味わうことになった。
 とはいえピクシーズはピクシーズだ。再結成したバンドとは思えないような、気負いのない{たたず}まいで登場するや、いつになく白人の姿の多いZepp Tokyoを興奮の渦に巻き込んでみせた。
 一曲目は僕がもっとも好きなナンバーのひとつ "Gouge Away" だ。もう、すげー、格好いい。音もいい。フランク・ブラック──この場合はブラック・フランシス?──のボーカルはとても通りがいいし、楽器のバランスも取れている。それでいて音圧も不満を感じない大きさ。これだー、これがロックだって感じだった。
 そんなだから観客の乗りもいい。なんたってほぼすべての曲が十年以上前のものだ。みんなCDで何度となく聴いてきた曲ばかり。盛りあがらずにいられるわけがない。でもって白人が多いこともあって、踊るだけじゃなく、歌う、歌う。キム・ディールのコーラスが聞こえないことがあるくらいの歌いっぷりだった。バンドも観客もすごいじゃないか。
 それにしても生で観てもピクシーズというバンドはやはりバランス感覚が絶妙だった。フランク・ブラックのソロでもブリーダーズでも、この感覚は味わえない。フランク・ブラックとキム・ディール、そしてよく知らないけれど(失礼)、ギターのジョーイ・サンティアゴにドラムのデヴィッド・ラヴァリング。この四人がタッグを組んだ時に生まれる不思議なロック的科学反応には、唯一無二のものがあると思った。
 いや、なかでも特に印象が強かったのはキム・ディールの存在だ。フランク・ブラックがまったく愛想を振りまかないのに対して──太っているし、禿げているし、まるでヴァン・モリソンの年の離れた弟みたいだった──、キム・ディールは終始にこやかで、観客の興奮に、はにかんでいる感じがなかなかキュートだった。それに彼女のベースとコーラス。上手いんだか下手なんだかわからない、それでいてとても存在感のある演奏は、確実にピクシーズの生命線と言えるものだった。
 わずか1時間半で終わってしまう──25曲も演奏しているのに!──という公演内容には、若干もの足りなさもあった。アンコールの "Gigantic" が、ステージから姿を消さずに、そのまま続けて演奏されたことも、やや尻切れトンボな印象を残した。それでもそんなささやかな不満が、ピクシーズを観られたという喜びを損なうことはなかった。
 どうして妻や友人たちとこの喜びを分かち合えなかったんだろうと、僕はひとりぼっちの帰り道で、そのことをなによりも悔やんでいた。
(Dec 07, 2005)