2003年のコンサート

Index

  1. ズワン @ Zepp Tokyo (Feb 01, 2003)
  2. ローリング・ストーンズ @ 東京ドーム (Mar 15, 2003)
  3. ミッシェル・ガン・エレファント @ 赤坂ブリッツ (Apr 10, 2003)
  4. エレファントカシマシ @ 日比谷野外音楽堂 (Jul 21, 2003)
  5. チャック・ベリー (opeing act: O.P.キング) @ 赤坂ブリッツ (Aug 5, 2003)
  6. エレファントカシマシ @ 新宿リキッド・ルーム (Sep 5, 2003)
  7. テレビジョン @ SHIBUYA-AX (Sep 25, 2003)
  8. 椎名林檎 @ 日本武道館 (Sep 27, 2003)
  9. エルヴィス・コステロ @ 東京芸術劇場大ホール (Oct 1, 2003)
  10. ミッシェル・ガン・エレファント @ 幕張メッセ大展示場ホール (Oct 11, 2003)
  11. エレファントカシマシ @ 渋谷公会堂 (Oct 31, 2003)
  12. ニール・ヤング&クレイジー・ホース @ 日本武道館 (Nov 15, 2003)
  13. ソウル・フラワー・ユニオン @ 新宿リキッドルーム (Dec 19, 2003)

ズワン

JAPAN TOUR 2003/2003年2月1日(土)/Zepp Tokyo

Mary Star of the Sea

 ぐずぐずしているうちに一月{ひとつき}が過ぎてしまった。スマッシング・パンプキンズの解散から2年半くらいだろうか。ビリー・コーガン率いる新バンド、ズワンがファースト・アルバムのリリースとほぼ同時に来日した。
 ドラムがジミー・チェンバレン、ベースは女性、ギターにはアジア系の青年という構成がほとんどパンプキンズのまんま。違いはもう一人、白人のギタリストがいること、そして全体的に非常にポジティヴなイメージの楽曲が多いことだ。
 実際、スマパンの時に見せたビリー・コーガンのダーク・サイドは、このバンドでは、ほとんど見られない。ライブを見た印象では、この意表をついた明るさの原因は、ベースの女の子にあるんじゃないかという気がした。とにかく楽しそうに、伸びやかにベースを弾いている。となりのコーガンも終始にこやかで、とても楽しそうだった。全体的に和気あいあいとした幸福感の溢れるステージだった。まあ一曲目でいきなり十分を超える大作 "Mary Star of the Sea" が始まった時には、どうなっちゃうものかと思いはしたんだけれど。
 アルバム一枚だけのリリースにしては、そこに収録されていない曲が結構演奏されていたし、新しいバンドにしては堂に入ったステージだった。スマパンの時の暗く激しい側面がないことにもの足りなさを覚えるファンもいるかもしれないけれど、僕はこの日のライブが十分気に入った。ビリー・コーガンのはればれとした再出発に乾杯。
(Mar 02, 2003)

ローリング・ストーンズ

LICKS JAPAN TOUR 2003/2003年3月15日(土)/東京ドーム

Forty Licks

 "Brown Sugar" で始まり、 "Rocks Off" や "Before They Make Me Run" など、僕個人にとってはなによりも嬉しい楽曲を交え、"Little Red Rooster" や "Midnight Rambler" など、初期の激渋ブルーズ・ナンバーまでを聴かせた上で、"Satisfaction" で幕を閉じるという。まさに40周年と呼ぶにふさわしい、極めて完璧に近いセットリストを用意して演じられた2時間の公演だった。セットリストの豪華さでは過去最高だ(まあその完璧さというのが、新譜が出ていないことによる部分が大きいという事実はこの際おく)。ストーンズ・ファンとしてはケチのつけようのない内容だった。
 ただ、どうしても残念なのがその音響。スタンド席からだと、あまりに音の分離が悪過ぎた。ギターの音なんて、単独で鳴るイントロのフレーズ以外はほとんどまともに聞き取れない。ストーンズの音であの音響では、素晴らしいセットリストの喜びも何割減という感じ。ああ、やはり武道館へも行くべきだったか。後悔先に立たずの東京ドーム公演だった。
 ま、とりあえずここ数作のパターンからすればまず確実にリリースされるだろうこのツアーの映像作品で、最高の音を聞かせてもらえることを期待しよう。
 話はライブから逸れるけれど、この日のライブで僕ら夫婦の前に陣取って、ビールを浴びるように飲みながら騒いでいた、髪を短く刈った白人の二人連れには結構まいった。気が散ってしかたなかった。この日のライブはやたらこの手の、在日米軍の兵士かと思うようなタイプの白人の観客が多かった。それぞれに顔見知りみたいだったから、マジで兵隊さんかもしれない。
 アメリカがイラクを相手に戦争を始めたのは、このライブからわずか5日後だった。
(Mar 23, 2003)

ミッシェル・ガン・エレファント

ワイルド・ワイルド・サブリナ・ヘヴン・ツアー/2003年4月10日(木)/赤坂ブリッツ

SABRINA HEAVEN

 念願だったミッシェルのライブハウス公演を見に行ってきた。いやあ、音が馬鹿デカかった。当日の耳鳴りは当然として、翌日も午前中のあいだは、ずっと耳が遠かった。それはいくらなんでも大きすぎるんじゃないかと思うくらい。いやいや、そんなことを思わされるバンドなんて、この人たちくらいだろう。感心することしきりだ。
 プレスリーの "Love Me Tender" が鳴り響く中、青いライトをバックに四人のシルエットが浮かび上がる。センターのチバユウスケが手にしたマラカスを頭上にかかげ、振り下ろす。それにあわせて大音量でガーッと鳴り響く 『ブラック・ラブ・ホール』 のイントロ。一回、二回、三回、四回。ガーッ、ガーッ、ガーッ、ガーッ。問答無用に盛り上がる場内。オープニングから、つかみはばっちりだ。
 二曲目以降も新作からの曲が延々と並ぶ。時おり混じる知らない曲は、6月に発売が予定されているミニ・アルバムに収録される新曲なのだろう。結構キャッチーなナンバーが多いようだった。『サブリナ・ヘヴン』の重厚さには合わないという判断から、アルバムには収録されなかったんじゃないかと思う。これらの曲のリリースもとても楽しみだ。
 とにかく比較的ゆっくりめで長い曲が多いと感じていた新曲群も、こうしてライブで聞いてみると、これまでのミッシェルの曲となにも変わりがなかった。圧倒的な音圧とスピード感に溢れている。アルバムの中では風変わりに感じられたレゲエ調の 『ジプシー・サンディー』 なども、しっかりと他の楽曲に溶け込んでいた。 『マリアと犬の夜』 ではチバがキーボードを弾いてみせる。ライブは延々と新曲ばかりで押しまくる。
 ようやく昔の曲が演奏されたのは、もう終わりも近くになってからだった。 『赤毛のケリー』 や 『カルチャー』 が演奏される。本編の最後は当然 『サンダー・バード・ヒルズ』 だ(確か)。そしてアンコールが2回。 『GT400』 『ジェニー』 『リボルバー・ジャンキー』 といった選曲は、比較的重い新作に対するバランス感覚だろうか。硬派なイメージの割には、なかなかサービス精神に富んでいると思う。
 繰り返しになるけれど圧倒的な音圧とスピード感、そしてそれにあわせて暴れ狂う若者たちの姿が実に印象的なライブだった。後者に馴染めないぼくには、部分的に違和感を否めないものがあるのは致し方ないのだけれど、それでもここには間違いなく正しいロックがある。この風景を、この音を宮本浩次に一度は体験してもらいたいと思う。
 個人的には 『太陽をつかんでしまった』 のゆったり目のグルーブが一番心地よかった。やはり僕のビート感の根本はそこいら辺にあるんだと再確認させられた。
 しかしまあ、ミッシェルのこのライブが三千円台で見れちゃうとなると、さすがにストーンズに二万円は出せないよなあ。
(Apr 20, 2003)

エレファントカシマシ

日比谷野外音楽堂2003/2003年7月21日(月)

俺の道

 新作 『俺の道』 が宮本の自ら進むべき道への決意とバンドの覚醒を強く感じさせる作品だったため、今年の野音にはひさしぶりに大きな期待を抱いて出かけた。
 ところがどうだ。ライブは本編すべてを十年以上前の曲だけで構成した内容。アンコールはゲストに 『明日に向かって走れ』 などのプロデューサー、土方某を迎えてポニー・キャニオン時代の四曲を披露。そして二度目のアンコールでようやく新曲二曲を聴かせてくれたと思ったらば、それでおしまいだった。正味一時間半程度だろうか。鳴り止まないアンコールの声を無視してスタッフが機材を片付け始めてしまったのには去年に引き続きがっくりさせられた。本当のアンコールはここからだろう? ああ、ため息しか出ない。
 もちろん一曲目でいきなり 『男は行く』 を聴かせてもらえたのが嬉しくないはずがない。その後のセットリストだって好きな曲ばかりだ。
 とはいっても、エレカシの一番の課題は、その十五年を超える活動期間を通じての紆余曲折をきちんと消化しきれない、バランスの悪いセットリストにあると常日頃から考えている僕にとっては、この日のライブはとても及第点を与えられる内容ではなかった。あまりにバランスが取れてなさ過ぎる。僕は 『男が行く』 と 『悲しみの果て』 と『 ガストロンジャー』 と 『あなたのやさしさをオレは何に例えよう』 と 『生命賛歌』 が同時に鳴らされる日が来るのを心待ちにしているんだ。
 大好きな古い曲がたくさん聴けたことへの喜びと、期待していた新しい曲がほとんど聴けなかったことなどへの失望がないまぜになったこの日のライブでの一番の収穫は、新曲 『どこへ』 と 『生命賛歌』 が石クンのギターだけで演奏されていたことだった。ロック・バンドとして今までにないダイナミズムを獲得した新作の音が、僕はまさか石クンのギター一本で鳴らせるとは思ってもみなかった。石森万歳!
 今回は最後にうろ覚えのセットリストを残して終わる。
 男は行く/珍奇男/遁生/浮雲男/ゴクロウサン/デーデ/星の砂/奴隷天国/待つ男/花男/アンコール1:赤い薔薇/悲しみの果て/四月の風/今宵の月のように/アンコール2:どこへ/生命賛歌
(Aug 05, 2003)

チャック・ベリー (opeing act: O.P.キング)

2003年8月5日(火)/赤坂ブリッツ

O.P.King

 まさか二十一世紀になってから二年連続でチャック・ベリーを見ることになるなんて思いもしなかったけれど、なにはともあれ元気そうでなによりだった。
 この日のライブのオープニング・アクトは奥田民生、YO-KINGこと倉持陽一、ピーズの大木温之、ピロウズの佐藤シンイチロウの企画ユニット、O.P.KING。最初の二人はともかく、あとの二人は全然知らない人だったのだけれど、ピーズの人が意外とよかった。自分の知名度が高くないことをわきまえつつ、それでいて遠慮しないでガンガンと飛ばしていた。ちょっとピーズが聴いてみたくなった。楽曲の雰囲気からして、おそらく僕の趣味じゃないだろうけれど。
 民生さんのミュージシャンとしての能力の高さと、それと対をなす倉持の凡庸さのバランスも印象的だった。それと驚いたのが、客の入りがいまいちだったために、とても近い距離で奥田民生が見られたこと。普段はあんな距離じゃ絶対に民生さんの勇姿は拝ませてもらえない。いちバンドマンとして楽しそうにギターを弾く奥田民生をたっぷりと見られた上に、 『まんをじして』 や "Bad Boy" のカバーも聴かせてもらえた。それだけでも見にきた甲斐があったってものだ。

St Louis to Liverpool

 45分程度のO.P.KINGに続いて、主役のチャック・ベリーは赤いラメのシャツを着て登場する。オールスタンディングの会場だし、一曲目の "Roll Over Beethoven" から結構な盛り上がりだった。"Sweet Sixteen" では観客がちゃんとワンコーラス目をフルで歌って見せる。これにはチャック・ベリーのみならず、僕なんかもびっくりだった。いやいや、いい客だ(僕ら夫婦は除く)。
 今回のライブで一番印象的だったのは、そのギターの鳴らなさ──正しくは鳴らさなさ。部分的にやたらとボリュームを下げて鳴らすものだから、イントロなどで音が聴き取れない場面が多々あった。でも、そのぎりぎりのボリューム加減によって聞こえてくる音色に、なんとも味があるのだった。そうしたギターの鳴らさなさは一聴に値すると僕は思った。歪んだ音を垂れ流すのをあたり前のように思っていた若かりし日の自分自身にこそ聞かせたい演奏だった。音がでかけりゃいいってもんじゃないんだって、くだんの老人の演奏は、無言のうちに語っていた。
 バックバンドは白髪のキーボーディストに、ロバート・B・パーカーのようなルックスのベース。そしてカーリーヘアのドラマーの三人のみ。キーボードはかなりの年だろう。ベースとドラムは年齢不詳。全員白人で、少なくても僕よりは随分年上だろうと思われた。
 チャック・ベリーという人はギター・プレーヤーとしては決して上手くない。どちらかといえば下手な部類に入るんじゃないかと、不遜にもライブを見るたびに思う。それでもそんなこと知ったこっちゃない、これがおれの音楽だといわんばかりにギターを弾き、歌を歌う七十六歳の老人がそこにはいた。これがロックでなくてなんだろう?
(Aug 12, 2003)

エレファントカシマシ

俺の道TOUR/2003年9月5日(金)/新宿リキッドルーム

俺の道

 これだよ。こういうやつが見たいとずっと思っていたんだと、心からそう思わせてくれる快心のライブだった。
 新譜の全曲に加え、英語もどきの仮り歌がのったUKポップ風の新曲、それに 『ガストロンジャー』 と 『デーデ』 を含む、アンコールをあわせても、わずか一時間半にも満たないコンサート。けれども短いながらも、その内容は随分といい気分にさせてくれるものだった。今までのエレカシでは体験できなかったリキッドのフロアの揺れ具合が、現状の彼らのロック・バンドとしての方向性の正しさを証明していたと思う。
 今回のツアーの一番の特色は、宮本がほとんどギターを弾かないことにある。野音で 『生命賛歌』 を石クンのギターだけで演奏していたのを見て、多分そうなるんだろうと思っていたけれど、実際最新アルバムの曲は 『季節はずれの男』 を除いてすべて石クンのギター一本で演奏されていた。宮本がバンドの演奏力の低さを見限って自ら轟音ギターを鳴らすようになる前の、デビュー当時のスタイル。そうした本来のスタイルを、バンド歴が十五年を超えた今になってエレカシは再び取り戻そうとしている。
 結果として出てきた音は、正直言ってしまうと宮本がギターを弾いた時ほどの強烈な爆発力を発揮できないでいる(なぜ石クンのギターはあんなにも控えめな音でしか鳴らないんだろう)。それでも宮本がボーカルに専念することで生まれるバンドとしての求心力や説得力には、それに負けない魅力がある。結果、新曲のアップテンポなビートとあいまって、この日のライブには、これまでのエレカシには感じられなかったグルーヴが備わっていた。そんなグルーヴにフロアの観客が反応しないはずがない。おかげでこの日のライブは、今までに見たエレカシのライブのうちでも最高の一本になった。そう、ずっと僕らが見たいと思っていたエレカシがちゃんとこの日は見られたのだった。
 盛り上がった理由は単にそうした方向転換にあるだけじゃない。アンコール一曲目で披露されたのはなんとひさしぶりの 『ガストロンジャー』。しかも打ち込み未使用だ(僕の耳が信用できるのならば)。
 スタイルという点で考えると、もとより宮本がハンドマイクで歌っていたこの歌なんかは、演奏されてもなんら不思議はなさそうに思えるかもしれない。しかし、打ち込みの音が{かなめ}であるこの曲のオリジナルのアレンジは、シンプルなロックを鳴らす今の方向からするとかなりずれていた。だからこそ、この曲が演奏されたのは意外だったし、嬉しかった。それも機械に頼らず、石クンのギター・プレイだけで聞かせてくれるとなると、もう画期的としか言いようがない。これ一曲が聴けただけでもこの日のライブに足を運んだ甲斐があるってもんだ──わざわざ地上7階のフロアまで階段で──(ちくしょう、おれリキッド嫌い)。
 もちろん、こうした方向転換ですべての問題が解消したわけではない。それでも変に時流を読んで、らしくない楽曲を世に問い続けていた頃よりは、今のエレカシのやり方のほうがよっぽど魅力的だ。願わくば宮本が今のオーディエンスの反応の良さに手ごたえを得て、自分の方向性の正しさを確信してくれますように。そしてもっと多くの人が今のエレカシを支持してくれますように。十月末のツアー最終日までにどのようにバンドが変化しているか、とても楽しみになった。
(Sep 15, 2003)

テレビジョン

2003年9月25日(水)/SHIBUYA-AX

Marquee Moon (Dig)

 ライノから "Marquee Moon" のリマスター盤がリリースされたのを受けての来日なんだろうか。突然テレビジョンがやって来た。
 別に熱心なリスナーでもない僕だけれど、リマスター盤のリリースを知って、この傑作アルバムを十年ぶりに聴き直してみた。そうしたら、これがあまりに良くてですね。これは一度くらい生で見ておかないと後悔するかも知れないと思い、勢いでチケットを取ることになった。
 しかしSHIBUYA-AXの二階席というのはやはり最悪だ。前の人間が立ってもいないのに、ステージが満足に見えないんだから。どういう設計をしたらあんな席が作れるのかと思う。設計者はコンサートなんかには足を運ばない人間なんじゃないだろうか。音楽を愛していない人間に任せるからこんなことになるんだと勝手に決めつけ、困ったもんだと思う。あそこでのライブはたとえ二階席がとれたとしてもスタンディングで見た方がいい。そう思うのが初めてじゃないあたり、進歩がない僕自身が困りものだけれど。やはりライブハウスの指定席をとる、こちらの姿勢も間違っている。反省。
 さて、なにはともあれテレビジョンのライブ。
 これがリマスター盤のプロモーションだろうなんてこちらの勘繰りは大間違いという内容だった。いきなりオープニングナンバー2曲が92年にリリースされた三枚目からの選曲("1880 or So" と "Call Mr. Lee")。1時間半強の公演のうち、期待されたファーストからの曲はアルバムの半分、 "Venus"、 "See No Evil"、 "Prove It"、 "Marquee Moon" の四曲のみで、セカンドに到っては "Glory" だけ。あとはデビュー・シングルの "Little Lohnny Jewel" とサードに収録されている "Beaty Trip" を除けば知らない曲だった。ただ "Beauty Trip" なんて "Boom Boom" というフレーズが出てくるまでは、それとわからなかったくらいだから──曲名も帰宅後にCDのクレジットを見て知った──、もしかしたら僕が気がつかないだけで、他にもテレビジョン名義の曲をやっていた可能性もなきにしもあらず。
 考えてみれば "Marquee Moon" がリリースされてから25年以上が過ぎているわけで、その間、バンドが解散したり再結成したりするあいだにも、それぞれのメンバーは音楽活動を続けてきたわけだ。その年月がライブの内容に反映されているのは当然のことだし、現役を意識するならば、当然そうでなくてはいけない。だから知らない曲は多かったものの、ナツメロ大会みたいなコンサートじゃなかったことには好感をおぼえた。
 それに、個人的にはトム・ヴァーレインとリチャード・ロイドのギターの弾き分けがわかっただけでも、見に行った価値はあったと思っている。音的には、ありふれたディストーション・サウンドを聞かすロイドより、ソリッドなヴァーレインの音の方が好きだった。けれどやはり僕をテレビジョンに惹きつけたのは、盛んに上昇と下降を繰り返すロイドのギターリフだ。その極めつけといえる "Prove It" を生で聴けたのだから、嬉しくないはずがない。この曲の時だけは、どういうわけだか視界が開けて、それまで僕からは死角の位置にいたリチャード・ロイドが、非常によく見えたのもラッキーだった。
 あと印象的だったのが、ボトルネック奏法やボリューム奏法を多用していたこと。おかげでツイン・ギターのカルテットにしては、多彩な音を鳴らせて見せてくれていた。なまじ年はとっていないなと思った。
 観客は冴えないロックおたく青年と業界系の年季の入った中年ロックおじさん、外国人などが目立っていた印象だった。まあ今になってテレビジョンを見に行こうと思うのはそういう人たちだろう。とうぜん僕もそのうちの一人だから、人のことはとやかく言えない。なにはともあれ、もう一度見たいと思わせてくれる内容だった。次の来日があるかどうかもわからないけれど、その日が来るまでにはトム・ヴァーレインのソロを含めて、しっかりとこの人たちの活動をフォローしておきたいと思う。
(Sep 27, 2003)

椎名林檎

実演ツアー 雙六エクスタシー/2003年9月27日(土)/日本武道館

Electric Mole (通常版) [DVD]

 デビューアルバム 『無罪モラトリアム』 に魅了されてから、はや4年。念願叶って、ようやく椎名林檎嬢のライブを生で見ることができた。
 とはいえ、席は武道館東2階席の最上列、なんたってX列だ、 ”X(エックス)”。普段あまりチケット上では見慣れない文字だったから、最初に見た時は一瞬、これはもしやスペシャルな席なんだろうかと、ほのかな期待を抱いたりしたのだけれど……(馬鹿)。
 調べてみたら、単なるX、アルファベットの最後から三番目。二階席の一番上の上だった(うしろは立ち見客)。ステージが遠いよ~。でもまあ、以前エルヴィス・コステロを同じように、ステージ真正面の二階席の一番上で見た時よりはマシだったけれど(斜めの分だけ、ステージへの直線距離が近かった)。しかしあの広い武道館で、最上列の席を二度も経験するってのは、どういうことだろうか。嫌になっちゃうぜ、チケットぴあ。
 なんて林檎さんとはなんの関係もない話はやめてライブのことを。
 今回の武道館では、通常は使われないステージのうしろ、北側の席も解放して、ステージを360度ぐるりと観客が取り囲む形を取っていた。U2やR.E.M.、スプリングスティーンなど、最近の海外大物アーティストのライブ映像で見られるスタイルだ。スピーカーなどで林檎さんが死角になる席を除いて、すべての席が観客で埋め尽くされている。当然ライティングなどは限られてしまうので、演出よりも演奏重視のバンドが、より多くの人に見てもらえるようにと取る形態だと言える。基本的に演出には凝りたがる性分の林檎さんだけれど、今回はそれよりもライブの臨場感をより多くの人と分かち合うことを優先したということだろう。
 まあ、とはいっても、ステージの上方には、どこからでも見られるようにした筒状のスクリーンが用意してあった。ライブの臨場感を最大限に生かすステージ構成をとった上で、なおかつ、できる限り演出に凝ってみせる。椎名林檎というアーティストの表現に向かう姿勢がとてもよく表れているステージだったと思う。
 この日の林檎さんは、水色の振袖に黄色っぽい帯という、意表をつく和服姿で現れた。今回は着物かもしれないと予測はしていたけれど、まさか振袖とは……。あれはさぞや暑かろう。芸のためなら暑さも厭わぬというところだろうか。さすが腹の据わりが違う。彼女ほどの覚悟がないバックのメンバーたちは(失礼)、みんな揃って浴衣姿で、凛とした林檎嬢とくらべると、だらしがない印象が否めなかった。
 でもって、晴れ着姿の彼女がぶちかます一発目が、なんと 『幸福論(悦楽編)』 だ。いきなり拡声機だ。振袖姿に拡声機で、伝統を重んじつつ、乱暴にアジる。このミスマッチの感覚こそ、林檎さんならではのセンスだ。なかなかこうはできない。やはりこの人は特別だよなあと一発目で痛感させられる。ようやく見ることができたライブの一発目がこれだもの。とても感極まるものがあった。
 残念なのは一緒にいった友人がこのオープニング・ナンバーに間に合わなかったこと。思わぬ彼の不在に若干集中力を奪われていたのが、個人的に不覚だった。
 ライヴはその後、 『罪と罰』、 『真夜中は純潔』 と続く。四曲目になってようやく 『ドッペルゲンガー』 が登場。アルバムの複雑な音作りとは違って、比較的シンプルなロックとして鳴らされていた。
 今回のバンドは、原曲のフックを損なわない形で、それぞれの曲をあらためて解釈し直して、新しいバンドの音として鳴らしていた点にとても好感がもてた。 『加爾基 精液 栗ノ花』 の和風ロック路線がメインになるのだろうと想像していた僕には、こうした純然たるロック・バンド・サウンドですべての楽曲を楽しめたのは、嬉しい誤算だった。 『加爾基』 の音をステージで再現してもらえたならば、それはそれで感動的なんだろうけれど、今回のライブではこっちの方が絶対に嬉しかった。なんたって根が単純なロック・ファンなもので。そんな僕に訴えた椎名林檎というアーティストの一番の魅力は、ロックという音楽を真正面から鳴らすことのできる稀有の才能だったのだから。
 ライブ序盤の個人的なクライマックスは 『すべりだい』 だった。この曲が生で聴けるなんて嬉し過ぎた。さらに早い時間に 『依存症』、 『丸の内サディスティック』、 『警告』 がどーっと演奏される。いやいや、もうどの曲も素晴らしい。バンド・サウンドは若干ギターが引き気味だけれど、その分、林檎さんのボーカルの抜けのよさは抜群。こんなに歌がよく聞こえるライブというのも、僕が足を運ぶコンサートの中では珍しい。なまじテレヴィジョンでトム・ヴァーレインのボーカルのとおりの悪さを残念に思った直後だけに、余計に気持ちが良かった。あらためて彼女のボーカリストとしての魅力を堪能させてもらった。
 その後、ライブは新譜の曲を中心としつつも、カバー曲(美空ひばりですと)や 『ギプス』 などのシングルヒットを挟みつつ、グランジ風にアレンジされた 『茎』 で最初のフィナーレを迎える。 『茎』 にはやられた。今までオーケストラやジャズ・アレンジでしか聴いたことがなかったから、あんな風に鳴らせられるなんて思っていなかった。もちろん、僕みたいな人間にとってはこのアレンジが一番くる。もうこれだけで十二分に満足だ。
 洋装に着替えてのアンコールで 『正しい街』 他を聴かせ、二度目のアンコールではマラカスを振りながらマンボ風の新曲 『りんごのうた』 を披露してくれた。スクリーンで控え室の模様を映したPVを流してみせた演出が見事だった。
 演奏最後には、そのスクリーンに、「私の名前がわかりました。りんごといいます」という、テロップが映し出された。それは本人がこれまでずっと否定的だった自らの芸名を肯定的に受け止めて、これからも活動してゆくということの決意表明だろう(そうであって欲しいと思う)。その直後に唐突に場内の照明がついて、コンサートは終了した。僕を含め、あっけにとられた観客たちからのどよめきが印象的だった。
 この日のライブは十二月にDVDで発売されるようだ。遠かったステージをもう一度、映像作品として見直せる幸せを噛みしめよう。これからも、もっともっと素敵なステージを見せてもらえることを願って。椎名林檎がしあわせでありますように。
(Oct 05, 2003)

エルヴィス・コステロ

2003年10月1日(水)/東京芸術劇場大ホール

North

 フジ・ロック出演からわずか2ヶ月。新作 "North" のリリースにあわせて、コステロが再来日した。ただ、バンドでの来日だったそのフェスティバルの時とは異なり、今回はスティーヴ・ナイーヴとのアコースティック・セット。新譜がバラード集なのだから、まあそれが当然という印象ではあった。
 コステロのファンになって以来、東京近辺の来日公演はすべて見るという方針でいるけれど、今回は新譜があまりに僕の趣味からかけ離れていたことと、時期的に他にもライブが立て続けにあったために一度だけしか見に行かなかった。フジ・ロックも行っていないし、最近コステロ熱もやや醒め気味かもしれない。まあ、もとよりライヴ自体が得意な方ではないので致し方ない。
 しかし今回の公演は個人的にはちょっと意外な内容だった。 "North" の曲を中心に、すべてをあのアルバムのようなスロー・バラードで固めてやるんだろうと勝手に思いこんでいたら、そんなことはなく。いきなりアコギを弾きながら "Accident Will Happen" を歌い出すコステロ先生。その後も "Brilliant Mistake"、 "45"、 "Little Trigger" と聴きなれたナンバーが続く。要するに、以前に観させてもらったナイーヴとのステージそのまんまの内容なのだった。その要所要所に新譜のコーナーが挟み込んであるという構成。なのであまり乗り気じゃなかった新曲群もそれほど苦ではなかった。というか、あらかじめしっかりと予習して聴き込んでから行ったので、思っていたよりは楽しむことができた。ま、もちろんある程度という感じなのだけれど。やはり個人的にはガチャガチャした音を鳴らすコステロの方が圧倒的に好きなもので。
 一番嬉しかったのは、前回のツアーでは聴けなかった "Radio Silence" が聴けたこと。アレンジがやたらと格好よかった。そのちょっと前の "Peace, Love, and Understanding" のアコースティック・バージョンも、数少ないラウドなナンバーだったこともあって、いっそう嬉しかった。
 あと、新曲だかカバーだかわからないのだけれど、初めて聴いた "Either Side Of The Same Town" もよかった。バラードはバラードでもソウル・バラードならばオーケーらしい。
 アンコールの最後の方では、ナイーヴと交替して自らピアノを弾きながら3曲ばかりを披露してくれた。考えてみればコステロ先生がピアノを弾くのを見るのは初めてなので、ある意味貴重な体験だった。なんとなくぎこちない姿でピアノを弾いて見せて、終わってから「どうだ?」というような仕種をして見せる姿が微笑ましかった。
 当然のことながら、ピアノだけで演奏される新曲群はやたらと静かだった。演奏前にコステロ自らが「とても静かな曲をやるから、よく聞こえるようにシートの前の方に腰かけた方がいい」みたいなことを言っていたけれど(それくらいの英語ならばわかる)本当に静か。空気の流れる音が聴こえそうなくらいだった。会社帰りに空腹をかかえていったらば、お腹が鳴る音が響いちゃって大変だったかもしれない。食事を済ませていて幸いだった。クラシックを聴きにゆく人にはそういう気苦労があるんだなと変なことに感心した。
 なんにしろこの日の中心だった新曲郡があまりに静かだったから、本編最後のナンバーである、本来は比較的地味な音作りの "In The Darkest Place" がやたらとラウドなアレンジに聴こえたくらいだった。本当に新曲は静かな曲ばかりだった。印象的には家でスピーカーのボリュームをあげて聴いていた時よりも音が小さかったんじゃないかと思う。おかげで若干消化不良な気分になったりもしたけれど、まあいいです。演奏は素晴らしいんだから。でもやっぱり次はまたバンドでの来日をお願いします。
(Oct 05, 2003)

ミッシェル・ガン・エレファント

LAST HEAVEN TOUR 2003/2003年10月11日(土)/幕張メッセ大展示場ホール

BURNING MOTORS GO LAST HEAVEN [DVD]

 ミッシェル・ガン・エレファントもこれで見納めだ。だだっ広い幕張の展示場ホールをぶち抜いて作ったスペースで行われたミッシェルのラスト・ライヴ。最後ということで会場の使い方を去年と変えて、より多くのファンが入れるようにしたためだろう、去年と同じように一番うしろの方に陣取ったらば、やたらとステージが遠かった。
 一曲目が "Drop" という極渋の選曲。それに続くのが "Get Up Lucy" と "Birdmen" という強烈なナンバー。以降、これまでのキャリアを総括するような選曲でステージは続く。(僕の耳がおかしかったのかもしれないけれど)途中ギターのチューニングがあやしかったりして残念な場面もある。それでも新旧の素晴らしいナンバーをまじえながら、ほとんどMCもなくライブは続いてゆく。
 そして二度目のアンコール。アベ君のギターから強烈な轟音で 『世界の終わり』 のイントロが鳴り始める。ああ、これでおしまいなのかと思う。おそらくこれほどこの曲が演奏されることが望まれなかったことはいまだかつてないんじゃないかと思う。だってこの曲が演奏されてしまったら、そのあとにはもうなにも残らないのはあきらかだったから。にわかファンの僕らでもそう思うのだから、ずっとこのバンドを愛してきたファンの心は如何{いか}ばかりだろう。
 メンバーがステージを去ったあと、スクリーンにはゆっくりと "Thank You Rockers / I Love You Baby" という英語が映し出された。ラスト・シングル 『エレクトリック・パレード』 のジャケット写真にあるバイクが炎上する映像と共に大音量でインスト・ナンバーが流れる中、僕らは静かに会場をあとにした。
(Oct 13, 2003)

エレファントカシマシ

俺の道TOUR/2003年10月31日(金)/渋谷公会堂

俺の道

 もうもうとスモークが立ち込めるステージに宮本を除く三人が姿をあらわし、幾分スローテンポで 『生命賛歌』 のイントロを奏で始める。おくれて宮本が登場。 「俺の道ツアー」の最後を飾るこの日は、さらに 『俺の道』 『ハロー人生』 とアルバムの並びどおりに新曲群が続く。その後の曲順は既に記憶にない。とりあえず本編は 『クレッシェンド・デミネンド』 を除くと新譜の曲だけで構成されており、タイトル不明のボーナス・トラックまで披露して終了となった。
 アンコールの一回目は 『この世は最高!』 だけやってさっさと引っ込む。あまりにあっけないので、これで終わりかと思ったら、ちゃんと二度目もある。 『星の砂』 『武蔵野』 『どこへ』 という選曲。 『星の砂』 のイントロが突然弾けるように始まった時にはかなりしびれた。一方で同期モノなしの 『武蔵野』 は、残念ながらあまり良い出来じゃなかった。
 最後に「まだまだやるぞ~」と言い放って宮本は帰っていった。そのくせ、三度目のアンコールはなかった。おかげでこの日も鳴り止まないアンコールの雨あられ。
 それにしてもシンプルなコンサートだった。楽曲の構成はもとより、ライティングは最小限でスポットライトもない。MCもほとんどない。ただただロックをかき鳴らすだけ。観客が踊っているのを除けば、ブレイク以前に近い雰囲気になっている。それ自体は良いことだと思う。
 ただ演奏に関しては期待外れだった。石クンのギターはあいかわらず音が小さ過ぎるし、バンドのアンサンブルもなんだかあやしい。特にギターのチューニングがおかしかったために、宮本が途中でギターを投げ出すという醜態をさらすことになった 『クレッシェンド・デミネンド』 はかなりひどかった。途中、あいだをつなぐために宮本から即興のギターソロを任せられた石クンの尻込み気味のプレーも歯がゆかった。
 とにかく、ここのところの宮本の態度の悪さは目にあまる。メンバーを蹴りつけたり、スタッフへの怒りもあらわに、ギターを床に投げつけたりするのを見せられるのは興ざめだ。あんな風に振る舞わなくてはいられないようならば、さっさとエレカシなんて解散してしまってソロでやった方がいい。現状維持は単なる甘えに過ぎないんじゃないだろうか。宮本自身のためにも、メンバーのためにならないと思う。
(Nov 02, 2003)

ニール・ヤング&クレイジー・ホース

グリーンデイル・ジャパン・ツアー2003/2003年11月15日(土)/日本武道館

Greendale (Bonus Dvd)

 単独公演は十数年ぶりなのだそうだ。個人的には初めて観ることになったニール・ヤングのコンサートは、しかしとても風変わりな内容だった。
 ステージには、右手にグリーン家のテラスの舞台セットが、左手に留置場の舞台セットが配されている。バンドセットの後ろにはスクリーンがあり、その前にせり出しが用意してあって、場面ごとに違ったセットが登場する。これらを使って新作 『Greendale』 の歌の世界を、無言劇として再現してみせようという、なんとも珍奇なコンサートだった。曲順もアルバムの収録順のまま。これがなんたって全十曲で78分を超える作品だから、それをやるだけで本編はすべてだった。
 たまたまライブのニ、三日前にラジオでニール・ヤングのインタビューを聞く機会があって、その中で「今回のステージには50人を超えるスタッフが参加している」とかなんとか言っていたので、いったいなにをするつもりなんだと不安に思っていたのだけれど、まさかこんなものを見せられるとは思ってもみなかった。
 あらかじめ客席には、舞台の出演者のリストやグリーン家の家系図と略歴が紹介された小冊子まで配布してある。その裏には拡声機を片手にしたサン・グリーンの凛々しい姿をフィーチャーしたアルバムの告知が。やる気まんまんなのが伝わってくる。
 ニール・ヤング&クレイジーホースの面々が登場するのとあわせて、ステージ左右の舞台セットを隠していた覆いが取り払われる。グリーン家のテラスでにはロッキングチェアに揺られて新聞を読むグランパの姿。一曲目 "Falling From Above" の歌詞に合わせて芝居をするグランパ。そうやって楽曲のイメージを実際に寸劇で見せてくれようってわけだ。わはは、なんて企画だと一人でニヤついてしまった。
 始まった時にはやや音が小さ過ぎる印象だったけれども、ステージが進み、物語が進行してゆくのを辿っているうちに、そんなことも気にならなくなっていた。とにかく普段は洋楽のコンサートでほとんど歌詞なんか意識することのないのに、この日はそれが視覚化されて延々と繰り広げられている。歌詞カードを読んでいる時には漠然としていてよくわからなかったことが、芝居として演じてもらうことによってはっきりとわかる。それがおもしろくて仕方なかった。こうした音楽と演劇の妙なシンクロは初めての体験で、個人的には非常に楽しめた。
 ラストの "Be The Rain" は、それまでに出演した俳優やダンサーたちが一同に集まっての大ダンス・パーティーと化していた。エコロジカルなメッセージが炸裂するこの楽曲をバックに、星条旗や日の丸が掲げられちゃったり、途中のディスコのシーンで登場した──いかにもニール・ヤングなんて聴いたことがなさそうな──、いまどきの若者風日本人ダンサーたちが派手に踊り狂っていたりして、いくぶん違和感があった。でもまあ、楽曲自体は好きな曲だったし、これで終わりだと思うから、そんなことは気にしないようにして、風変わりなこのステージのエンディングをただひたすら楽しんだ。
 アンコール(じゃなくて第二部?)はうって変わって、ノーギミックの直球勝負だった。"Hey Hey My My" に始まり、"All Along The Watchtower"、 "Sedean Delivery"、 "Love And Only Love" で一度目が終了。二度目のアンコールでは "Powderfinger"、 "Rockin' In The Free World"、 "Like A Hurricane" を聴かせてくれた。これこそがニール・ヤングという、おそらく長年のファンには、こたえられない内容だったろう。しかしにわかファンの僕には、それまでの派手なステージと対照的な地味なステージングと、やたらと長過ぎるギターソロとがあいまって、それほど楽しめなかった。
 ニール・ヤングという人は、しかめつらしい表情からくるその地味なイメージとは裏腹に、時々とてもおかしなことをする人だ。かつての "Rust Never Sleep" などでの巨大なギターアンプのセットも珍妙だし、この日のステージではミュージカル風の演出はもとより、特注マイクスタンドはB級SFチックなデザインで、リモコン制御で首をふる拡声機が取り付けられていたりする。 "Like A Haricane" では、天井につるされていた天使の羽付きキーボードが降りてきたりしたし、なんだか終始へんてこりんだった。基本的に、そのあたりの変なユーモアセンスと、生真面目なスタンスとのとりあわせが、この人の個性の一部として意外と重要なんじゃないかという気がした。
 なにはともあれ、個人的にはとても楽しいコンサートだった。 『Greendale』 の物語をきちんと把握していない人や、こういう過剰な演出を楽しめない人には不評かもしれないけれど、僕としては非常に楽しかった。もっとも、年がら年中こういうのばかりやられたら、それはそれで困るとは思うけれど。
(Dec 14, 2003)

ソウル・フラワー・ユニオン with うつみようこ

結成10周年記念ライブ~大阪・東京編~/2003年12月19日(金)/新宿リキッドルーム

シャローム・サラーム

 知らないうちにソウル・フラワーともすっかりご無沙汰してしまっていた。調べてみたら、生で見るのは実に2年9ヶ月ぶり。その間にバンドを取り巻く環境も随分と変わったようだ。なんたってステージに登場したメンバーの中に伊丹英子がいない。でもってベーシストが河村博司じゃない。髪を短くしただけかと思ったけれど、どう見ても顔が違う。よく見れば、河村はいつもは伊丹英子がいる位置でギターを弾いているじゃないか。なんだあ?
 ニ、三曲目のあとのMCで中川曰く、「2年ぶりに伊丹英子がステージに出てくれます」とのこと。なんだ、英坊は知らないうちにそんなに長いことバンドを離れていたのかとびっくりした。考えてみればその間に子供を産んでいたりするわけだから、まあ当然といえば当然なのだろうけれど……。
 結局、そんな英坊の出演は、ほんの数曲だった。ゲストの内海陽子よりも少ない。かくいうヨウコさんもそんなには出てこない。というわけで、バンドは基本的にはコアのメンバーである三人に加え、ベースがJIGENという青年、ドラムはヤポネシアン・ボールズ・ファンデーションのコーキという編成だった。不覚にもこれって、最新作 『シャローム・サラーム』 にクレジットされている最新ソウル・フラワーの正規メンバー編成だった。十周年をうたうわりには、随分と様変わりしてしまったと淋しがるべきか、それとも十年を超えてなお新陳代謝を続けるバンドの生命力を称えるべきか……。なかなか判断に迷うところがある。
 まあメンツが変わってもバンドの演奏力は衰えないし、一時期よりもアップなナンバーの比重が高くなっているような気もするし、ボリュームも満点だったし、ライブ自体はとても楽しかった。だから良い方にとっておきたい。ただ、バンド編成が新しくなったせいか、はたまた英坊がほとんどステージにいなかったせいか、内海洋子さんの参加が以前ほどバンドのプラスになっていない感じがしたのはちょっとばかり残念だった。
 なにはともあれ、バンドをうんぬんする以前に、ライブからわずか十日足らずにして既にあの日のセットリストがほとんど頭から消え去っている自分の記憶力と集中力のなさを危惧すべきだろうと思う2003年の年の瀬だった。いけねえと思いつつ、これといった感想もないまま終わってしまう。来年もう一度ちゃんと見させてもらおう。
 そういえば新宿リキッドルームは3月でクローズするのだそうだ。あのウンザリするほど長い階段を上り下りするのもどうやらあの晩が最後だったらしい。赤坂ブリッツも9月でなくなってしまったし、デフレの波は僕らの世代にとって馴染みのライブハウスを次々と{ほふ}ってゆく。ちょっとばかりさびしい。
(Dec 28, 2003)