2002年のコンサート
Index
- シャーラタンズ @ SHIBUYA-AX (Feb 8, 2002)
- チャック・ベリー&ジェームズ・ブラウン @ 東京国際フォーラム (Mar 23, 2002)
- コーネリアス @ SHIBUYA-AX (May 13, 2002)
- エレファントカシマシ @ 渋谷公会堂 (May 30, 2002)
- エルヴィス・コステロ&ジ・インポスターズ @ 赤坂ブリッツ (Jun 28, 2002)
- エルヴィス・コステロ&ジ・インポスターズ @ 東京国際フォーラム・ホールA (Jul 5, 2002)
- エルヴィス・コステロ&ジ・インポスターズ @ 渋谷公会堂 (Jul 7, 2002)
- エレファントカシマシ @ 日比谷野外音楽堂 (Sep 28, 2002)
- エレファントカシマシ @ SHIBUYA-AX (Nov 2, 2002)
- ポール・マッカートニー @ 東京ドーム (Nov 13, 2002)
- プリンス @ 日本武道館 (Nov 18, 2002)
シャーラタンズ
JAPAN TOUR 2002/2002年2月8日(土)/SHIBUYA-AX
マーティン・ブラント(ベース)、ジョン・ブルックス(ドラム)、ティム・バージェス(ボーカル)、マーク・コリンズ(ギター)、トニー・ロジャーズ(キーボード)の五人からなるシャーラタンズ、恐らく21世紀初の来日公演(データが不確か)。
わざわざメンバーの名前を列挙したのは、恥ずかしながら僕はこれまでこのバンドのメンバーのうち、ティム・バージェス以外の人の名前をまったく知らなかったからだ。このままじゃ素晴らしいライブを見せてくれた彼らに失礼なので、ここに謝罪と記憶の意味をこめて全員の名前をあげておいた。そう思わされるくらい今回のライブはよかった。たぶん前回もよかったのだろう。見なかったことをちょっと後悔した。
今回は "Love Is The Key" で始まり、 "Sproston Green" で終わる、アンコールを含めてもせいぜい一時間半といった長さのコンサートだった。去年のイアン・ブラウンといい、あいかわらずマンチェスターのバンドは演奏時間が短くてちょっともの足りない。
選曲は順不同で新作の前半の6曲、前作から "Forever" と "Impossible" 、アルバム "Tellin' Stories" から表題作、 "North Country Boy" , "One to Another" , "How High" 、その他に "Here Comes A Soul Saver" , "Weirdo" , "The Only One I Know" といったところ。もっとやって欲しい曲はたくさんあるのに。
演奏面では音圧が十分満足のゆくレベルで嬉しい。特にドラムのパワフルなたたきぶりが印象的だった。ぜんぜんギターを交換せずにアコースティック・ギターの曲までレスポールだけで弾きこなしていたマーク・コリンズの意固地なまでの姿勢も。あと癌にかかっているという噂のキーボードのトニー・ロジャーズのプレイも、いまさらながらロブ・コリンズのあとを埋めるに十分だった。シーケンサーの使い方も堂に入っていて、見事にバンドの音に溶け込んでいる。どこぞのへたっぴなバンドに見習わせたい。
まあティム・バージェスのボーカルだけはあいかわらずだけれども、それでも新譜のドライブ感がライブだとなおさらアップするので、別にちょっとくらい歌に難があっても問題なし。十分に盛りあがれる。やはりこのバンドはアルバムの出来にかかわらずちゃんと見にゆくべきなんだろう。次からはためらわずにチケットを取ることにしよう。
それにしても SHIBUYA-AX の二階席は設計に問題がある。前の人間が立っているわけでもないのに、満足にステージが見えないんじゃ話にならないだろう。この手のライブを座ってみようというこちらの姿勢も間違っちゃいるのだろうけれど、それにしても都内で最新のライブ・ホールがあれではなあと思う。
(Feb 11, 2002)
チャック・ベリー&ジェームズ・ブラウン
2002年3月23日/東京国際フォーラム・ホールA
これはびっくり、チャック・ベリーとジェームズ・ブラウンというブラック・ミュージック界きっての超大御所二人のジョイント・コンサート。新聞で広告を見た時にはホントかよと思わず自分の目を疑った。
なんでもこの企画はチャック・ベリーの75歳の誕生日にJBが「あなたがいなかったら今の私もなかった」とか祝電を打ったのをきっかけに二人が顔を合わせ、意気投合して「一緒にやりたいね」「じゃあやろう」とかいう感じで実現したとか(本当かどうかは知らない)。そもそも発表から当日までわずか一月というのもかなり急な話だ。老人同士だからあまり先にすると実現が危ないとプロモーターが思ったに違いない。そのプロモーターというのも、いままでに聞いたことがないような会社だったし、なんにしろ企画自体が、妙に
まあ実現の理由がどうであれ、ロックン・ロールとファンクの生みの親が一度に生で見られるとなれば、足を運ばない手はない(変な日本語)。年齢的にチャック・ベリーの来日なんてこれで最後かもしれないし、JBはもとより一度は見たいと思っていたので、これは見逃せないと思った。それだから結構あわててチケットを手配したのだけれど、知名度の低いプロモーターが後援だったせいか、結局チケットは売れ残りまくっていたみたいだ。かなりおもしろいコンサートだっただけに、ホントもったいないと思う。
開演時間から遅れることわずか5分(さすが老人、早い!)、プロモーターとおぼしき、さえない日本人男性に紹介され、先に登場したのはチャック・ベリーだった。赤いラメのシャツと黒いパンツを身に着け、おなじみのヨットマンみたいな帽子をかぶっている。バンドは、ベース、ドラム、ピアノに本人の4ピース。
一発目の選曲はいきなり "Roll Over Beethoven" だ。けれども、これがその曲だとわからないくらい節回しが変えられている。その後も "Carol" や "Maybelline" などの節回しがかなり変わっていた。齢七十五にしてそこまで変えるかという感じ。それとも年をとったからこそ、何十年前と同じようには歌えないというだけなんだろうか。その辺はよくわからない。でもまあ、変化を重んじるのは、ロックの基本。それはそれでありだと思う。
そのほかの選曲で知っていたのは "School Day" , "Rock And Roll Music" , "Sweet Little Sixteen" , "Memphis, Tennessee" , "Wee Wee Hours" , "Johnny B. Goode" , "Reelin' & Rockin'" と言ったところ(順不同)。その他にも数曲、知らない曲が演奏されていた。
とにかくラフなギターと緩急をつけた演奏が印象的だった。時々ギターの音を外すのも愛嬌だ。こもったディストーション・ギターの音色と、その自由闊達な弾きっぷりは、そんじょそこらの型にはまった若いギタリストのプレイよりも十倍も気持ちよかった。
あと印象的だったのが音量の緩急のつけ方。静かなブルース・ナンバーなんかをやる時には、バンド全体の音量がミニマムのレベルまで下がる。こちらが耳をすまさないとならないようなボリュームで、聞こえるか、聞こえないかというリフを鳴らすのだけれど、これが実に味があるのだった。貧弱な機材があたりまえだった時代から長年ブルーズをやっている人たちならではの見事な表現力だった。
終盤には "Did I play Johnny B. Goode?" 「ジョニー・B・グッドはやったっけ?」とか、物忘れのする自分の年齢に引っかけたジョークを飛ばしてみたり、最後の "Reeelin' & Rockin'" では観客の女の子四人をステージに上がらせて躍らせてみたりと、観客へのサービスも忘れない。演奏時間はわずか1時間ばかりだったけれど、十分に満足のいく最高の演奏を聞かせてくれた。
ピアノ・ソロが結構フィーチャーされていたこともあり、オールディーズ&鍵盤好きの僕の妻にもアピールするところが大きかったらしい。終わった後で、嬉しくて涙が出ちゃったとか言っていた。なんとなくその感じはわからなくなかった。なんだかとても幸せな気分になる演奏だった。
さて、そのチャックさんが引っ込んでから15分ばかりあとにいよいよJBが登場。必要最小限だった前者とは打って変わって、こちらはドラム2、ベース2、ギター3、ホーン3、女性コーラス4、女性ダンサー2、付き人(?)、専属司会者(呼び出し役?)に本人と、実に19人もの大所帯。
バンドのメンバーはお揃いの赤のブレザーでオーケストラ然と決めている。音の方もその服装にマッチしたもので、実に見事なアンサンブルを聞かせてくれた。以前プリンスのバンドを見た時に、なんて完全なアンサンブルなんだろうと感心したことがあったけれど、このバンドもそれに負けずと劣らない。というか、こういうバンドを観てきたからこそ、プリンスのバンドのアンサンブルはあそこまで完璧なのだということに納得がいった。それくらいこのバンドの演奏は非の打ち所がなかった。
そうそうこのバンド、おもしろいことに専属のキーボード・プレイヤーがいない(僕の見落としでなければ)。キーボードはJBが他のメンバーのソロの時にステージの後ろの方に引っ込んで自分で弾くだけ。確かにJBの代表曲にはキーボードの音は必要ないかもしれないけれど、それでも今時これだけの人数がいて、その中に鍵盤がいないというのも珍しいなと変に感心してしまった。
JBのライブで最高だったのがそのオープニング。バックバンドがインストで代表曲をワンフレーズずつ演奏する中、燕尾服を着た胡散くさい司会者が観客をあおりまくる。まさにプロフェッショナルなショーの幕開けって感じで、場内はJBの登場を待たずして興奮の
やがて満を持してJBが登場する。黒の上下に緑のシャツを着た、あの独特のハンプティ・ダンプティみたいな体型がステージ右手から姿をあらわす。これはとんでもない盛り上がりになるに違いないと誰もが思うような最高のオープニング。なのだけれど。
驚いたことに、このショーの本編が意外と盛り上がらなのだった。なぜって?
それはある意味、ジェームズ・ブラウンという人が思いのほか慎み深い人だったからだ。なんたってこの御仁がボーカルをとった時間はたぶんそのステージの半分に満たない。じゃあその他の時間はなにをしているかっていうと、他のメンバーにソロを取らせて、自分はうしろのほうで踊ったり、キーボードを弾いたりしているのだった。
とにかくバンドのメンバーのほとんど全員がソロ・パートを与えられている。コーラスの女性のうちの二人は、ソロ・パートどころか、まるまる一曲を歌わせてもらっていた。しかもそれが片方(すごく太った女性)はアレサ・フランクリンの "Respect" 、もう一人はジャニス・ジョプリンのナンバーと来た。ぜんぜんJBと関係ないじゃん。
他のメンバーも曲の合間合間にJBに呼び出されるようにしてはステージ中央に出てきてソロをとる。メンバーはなんたって司会とダンサーを除いても15人もいるわけで、一人が2分間のソロを取るとするならば、それだけで優に30分。ふっふっふ。やっぱりJBは半分くらいの時間しか歌っていないに違いない。そもそもそのオリジナル曲だってものによってはワンコーラスしかやらないで終わっちゃったのとかもあったはずだ。
全編を通じて終始そんな調子なので、どうも主役の影が薄く、結果として盛り上がりもいまいちという印象になってしまったのだった。覚えている曲なんて "Make It Funky" (オープニング)、 "I Got The Feelin'" 、 "Cold Sweat" 、 "Try Me" ──途中からサム・クックの "You Send Me" をメドレーで聞かせてくれた──、 "Please, Please, Please" (アップテンポのバージョン)、 "Prisoner of Love" 、 "I Got You (I Feel Good)" くらいなもの。半分がバラードというあたりに、この日のライブがどういう内容だったかが表れている。お目当てのファンク・ナンバーはみんなワンコーラスくらいやるとすぐメンバー・ソロになだれ込んでしまうので、いまひとつ印象に残らないのだった。
ということでなんだかいまひとつ盛り上がらないなあと思っているうちに、ライブもいつの間にか終盤となり、再び司会者が登場してJBの退場を盛り上げる。おおっ、これはアンコールに期待かと思ったら、バンドのメンバーが引っ込むが早いか場内が明るくなり、終了のアナウンスが流れ出してしまった。アンコールなし。僕らはあっけにとられて笑うしかなかった。賞味1時間半のコンサートだった。
まあ、JBが引っ込みすぎていることを別にすれば、特に悪くないというか、逆にかなりよくできたブラック・ミュージック・ショーという印象だった。これまでに観たことのない、伝統的なソウル・レビューとでも言うか。ただもっと強烈にファンキーなステージを期待していた僕としては、やはり肩透かしを食った気分は否定できない。帰り道、妻も「ジェームズ・ブラウンって、いったいなにもの?」という発言を連発していた。
この日のチャック・ベリーとジェームズ・ブラウンのパフォーマンスは、人数的にも音的にも、そして与えた印象的にも、ことごとくが実に対照的だった。ラフなロックン・ロールをストレートに鳴らしてみせたチャック・ベリーと、徹底的にショーアップされたファンクを見せつけたJB。それぞれの個性が十二分に発揮されて、なんだかんだいっても、実におもしろいジョイント・コンサートだったと思う。
ただ、普段僕らが接している音楽の原型とも言うべきそれらは、そのくせ妙に僕らの日常感覚からずれているように感じられた。なんだかとても不思議なものを見てしまったような気分で、僕らは会場の東京国際フォーラムをあとにしたのだった。
(Mar 28, 2002)
コーネリアス
from NAKAMEGURO to Everywhere/2002年5月13日(月)/SHIBUYA-AX
オープニング。ステージを隠す形で張られた白いスクリーンに小山田のシルエットが浮かび上がる。その影が指差す先に、火が灯るように青い英単語が浮かび上がる。おおっ、なんて格好いい演出。
そんな風にとてもスタイリッシュに始まったライブは、その後もステージ後方のスクリーンに凝ったBGVを流しつつ進む。さすがに小山田圭吾、凝っている。
演出はもちろん、音的にも素晴らしかった。新譜の硬質でパーカッシブな音を見事に再現してみせてくれている。機械的に正確で、でも人肌のぬくもりのある音。途中でドラムの女の子がベードラを踏みながらフルート吹いちゃったり、ベースも管楽器を吹いていたし、ギターがキーボード兼任だったりと、メンバー四人が揃いも揃ってのマルチぶりを発揮していた(小山田くんはテルミン)。
凝ったビジュアルと音を同期させるディズニーの 『ファンタジア』 のロック版と言った演出は、恐らく 『ファンタズマ』 の頃から継承しているものなのだろう。あんなことができるのも、しっかりした演奏力があればこそだ。
全体的に歌ものが少なかったにもかかわらず(というかそれゆえにだろうか)、新作を数度聴いただけという僕でも、まったく退屈することもなく一時間半ばかりを楽しませてもらえた。本当に新作の音がいい。理屈抜きに聴いていて気持ちよかった。
ただそう感じた反動なのか、少し前の、グランジを超えてメタルに近いかというギター・ナンバーや、ポップなメロディを聴かせる歌ものの曲には逆にやや違和感を覚えた。なんだかレディオヘッドみたいだと思っていたところに、突然スマパンが混じってしまった、みたいな。まあそれ自体は悪くはないんだけれど、僕としてはない方がすっきりしていいかもと思ってしまうところがあった。
(May 21, 2002)
エレファントカシマシ
2002年5月30日(木)/渋谷公会堂
ワールドカップの開幕前夜になんかやってくれちゃうから、不覚にもその後の狂騒にまぎれて、この日のライブについて書くのを忘たまま、ひと月を過ごしてしまった。予想外に好印象のライブだったから、印象が鮮明なうちに書いておきたかったのに。ああ、まだまだ修行が足りない。
今回のライブの一番の見どころは、4ピース・バンドとしてのこだわりを捨てて、ピアノやストリングス、ホーンを大々的に取り入れてレコーディングされた新作の音を、ステージでどのように表現して見せてくれるかにあると思っていた。
エレカシがこれまでにステージでバンド外のミュージシャンのサポートを受けたことがないわけではない。時折、気まぐれにキーボードが参加することがあるし、 『東京の空』 の時にはレコーディングに参加したトランペットの近藤等則さんと共演を果たしたりもしていた。武道館では 『昔の侍』 で大所帯の弦楽団を登場させてびっくりさせたこともある。
ただ、これまでのそうしたゲスト・ミュージシャンとの共演は、正直なところあまりいい印象を残していない。基本的に演奏力に問題があるエレカシとの共演は、ゲストにとってはあまり気持ちのよいものではないのではないかと思わせる、まとまりのない演奏がほとんどだったからだ。だから今回、もしもアルバムの音をステージで再現しようとして、ゲストを呼んでみたとしても、結果はあまり期待できないかなと思っていた。
ところがエレカシはそんなこちらの失礼千万な思い込みをいい意味で裏切ってくれる。
オープニング・ナンバーは 『奴隷天国』 。正直これにはちょっと拍子抜けした。パフォーマンスのよし悪しではなく、バンドにとって大きなターニング・ポイントとなりうる今回のコンサートの一発目が、低迷期のエレカシの攻撃性とアンチ・ポップな姿勢の象徴ともいうべきナンバーというのはどうかと思ったからだ。
ただ、これに続く 『おはようこんにちは』 では、おやっと思う。これも“かつての”エレカシを代表するナンバーのひとつだけれど、 『奴隷天国』 に比べると実にひさしぶりの選曲だったし、そもそも顔を真っ赤にして喉を潰そうとしているかのように絶叫する宮本の形相がただごとではなかったからだ。こういう宮本を見るのは随分とひさしぶりだ。最近はこういう針が振り切れるようなハイテンションをほとんど見ることがなくなっていただけに、その違和感がものすごかった。最近のファンはちょっと引いちゃうんじゃないかと思った。そしてそう思えることがちょっと嬉しかった。可愛い宮本ばかりを愛して、こうした危ない宮本を受け入れずにどうする?
その後、 『デーデ』 と個人的に大好きな 『武蔵野』 をはさみ、いよいよそれからあとがこの日のライブの本編。 『女神になって』 でホーンが3人登場する。おおっ。さらに次の次あたりの 『面影』 では弦楽四重奏が登場する。おおおおっ。
当然キーボードもいたけれど、その人がどこで登場したのか覚えていない。たぶん 『女神になって』 かその前の 『武蔵野』 からだろう。ちなみにホーンの3人は一曲で引っ込んで、アンコール最後の 『あなたのやさしさをオレは何に例えよう』 まで再登場しなかった──たぶんしなかった。ひと月も過ぎているので記憶が曖昧でいけない。
とにかく5曲目から本編ラストまでは新作からのナンバーだけをずらりと並べてみせてくれた。手始めの 『部屋』 のあと、 『面影』 からはずっとバラード・コーナー。いつもならばあまり好意的には見られないのに、今回はストリングスをフィーチャーした演奏がとてもきちんとしたものだったので、批判的な気分にならなかった。特にアルバムで聴いた時にはまったくいい印象のなかった 『マボロシ』 が、弾き語りによるライブのラフな演奏だと、思っていたよりもずっとエレカシらしい曲に聴こえたのが嬉しかった。
でもまあ、バラードがそれなりによかったとはいっても、やはり好きなのはアップな新曲群。これらは思ったよりもずっとライブ映えした。 『女神になって』 『部屋』 『真夏の革命』 などは確実に 『good morning』 以降を感じさせてくれた。
これらの歌では宮本がハンドマイクで歌っていた。最近の曲ではギターを弾かない宮本を見ることがめっきり減ったけれど、新作の曲では宮本本人のギターなしでもロックとしてのダイナミズムを表現できるようになったということだと思う。これは大きな進歩だ。
本編ラストを 『普通の日々』 で静かに終えたあと、一回目のアンコールはなつかしの曲特集。 『金でもないかと』 『浮雲男』 『優しい川』 などが演奏された。そして最後が極めつけの 『珍奇男』 だ。この曲では僕の斜め前にいたスーツ姿の女性が耳を押えていたのがおかしかった。こんな危なげで騒々しいエレカシは見たくなかったのかもしれない。でもこれこそがエレカシの真骨頂。愛してあげて欲しい。
それにしても 『浮雲男』 をライブで聞いたのなんて、長年のエレカシ・ファン歴の中でも、もしかして初めてじゃないだろうか。この日の選曲で一番びっくりしたのはなによりもこの曲だった。
二度目のアンコールでは意外にも 『ハロー New York!』 が披露され(これもまたいい)、オーラスの 『あなたのやさしさをオレは何に例えよう』 には、この日出演した全ミュージシャンが参加。実に十二人の大所帯で圧巻のパフォーマンスを見せてくれた。エレカシのライブでこれだけ豪華な演奏が見られる機会は今後もそうはないだろうけれど、それ以前に本当にこの曲は最高だった。エレカシのこういう素晴らしいパフォーマンスを見ることができたことがとても嬉しい。
そう。この日のライブにおいては、ゲスト・ミュージシャンとの共演が見事に成功していた。今まではいつもいまいちだと思っていた 『昔の侍』 も、これまでで一番の出来だった。なによりそうしたゲストとの共演が、乱れそうなギリギリのところでスリリングにまとまっていたところがいい。ロックンロール・ミュージックの醍醐味を堪能させてもらった。
今回の内容は一時的なもので、おそらく次からはまたいつものエレカシに戻るんだろう。それでも新譜やこの日のライブのような、音楽そのものに対する前向きな姿勢を忘れなければ、エレカシの未来は決して暗くないだろうと思わせてくれた。そのことが何よりも嬉しかった。ありがとう。
(Jun 28, 2002)
エルヴィス・コステロ&ジ・インポスターズ
2002年6月28日(金)/赤坂ブリッツ
新作 『When I Was Cruel』 を引っさげてのコステロの2年半ぶりの来日公演。今回も東京の三公演すべてを見にゆく。これがその一発目。
なによりもまず赤坂ブリッツのようなキャパのホールでコステロが観られることが嬉しい。しかもここニ、三年続いていたアコースティック・セットではなく、バンドでの来日だ。これはできるだけ近くで観ないと話にならない。ということで、人一倍体力のない僕はいつもならば二階席を取るところなのだけれど、今回に限ってオール・スタンディングの一階で観ることにした。なるべく近くでコステロ先生を拝みたいからだ。それなのに。
僕の視界の先は、見知らぬ白人の頭でふさがれてしまっていた。ワールドカップで来日している観光客なんだろうか、この日のライブは妙に白人の姿が多かった。僕の視界をふさいでいたのもそんな白人のうちの一人だった。身長190はあっただろう。そんなでかい奴が前へ行かないで欲しい。しかも最初からそのポジションにいたのではなく、開演直前に僕らの前を通ってそこへ移動して行った。勘弁して欲しかった。
観にくかったら観やすいところへ移動すればいいようなものだけれど、そこは根っからの日本人。自分が動くことでうしろの人たちに迷惑をかけるかもしれないと思うとなかなか動けない。連れもいることだし、結局その場所で観にくいのを我慢しながら観続けてしまった。不幸中の幸いというか、そのでかい外国人はアンコールが始まってしばらくすると帰っていった。そうしたら目の前が開けること、開けること。人がひとり移動しただけでこんなに観やすくなっていいんだろうかと思うくらい観やすくなった。最初からこういう開けた視界で観たかったよ。やれやれ。
まあ、そんなくだらない話はともかくとして。
インターネットでこのツアーのセットリストを見てみると、今回は今までよりも曲目が固定的な印象がある。 "45" で始まり、 "I Want You" で終わる。この日のライブもそのとおりだった。前回のナイーヴとのアコースティック・セットの時もエンディングはずっと同じ曲だったけれど、その代わりあの時はオープニングが全部違っていたような気がする。今回はオープニングまで同じ。それどころか冒頭の5曲、 "45" , "Waiting for the End of the World" , "Watching the Detectives" , "Spooky Girlfriend" , "Chelsea" 、以上5曲は毎回同じみたいだ。エンディングのひとつ前も必ず "Lipstick Vogue" みたいだし。常に選曲には細かい気配りを見せるコステロさんのことだから、これらの曲目を固定しているのには、なにか特別な意味があるのかもしれない。ちなみに注目のこの日の6曲目は "New Lace Sleeves" だった。くぅ、泣かせる。
今回のバンドはジ・インポスターズという。面子はお馴染みのナイーヴとピート・トーマスに加え、新譜の大半の曲でベースを弾いているデイヴィー・ファラガーという人。つまりアトラクションズからブルース・トーマスが抜けた編成で、基本的な音はアトラクションズとおんなじだ。ドタバタ、ガチャガチャしてる。この人たちの音は20何年前とほとんど変わっていないんじゃないかという気がする。その音をブリッツのようなサイズのホールで楽しめるのから、さぞ幸せだろう。いや、そのはずだったのだけれど。
なんだかいまひとつ盛り上がり切れなかった。なぜと言われても困る。コステロが悪かったわけではなく、単に僕の側の問題だと思う。ひさしぶりのオールスタンディングのせいかもしれない。視界をふさぐ外国人の頭のせいかもしれない。決勝間近のワールドカップのせいかもしれない。理由ははっきりしないものの、いまひとつ音楽を聴くことに集中し切れなかった。残念。あとニ回見られることを慰めとしよう。
とりあえずこの日の曲目をざっと。新譜からは前に上げた2曲のほかに、 "Tear off Your Own Head" , "When I Was Cruel No.2" , "Soul for Hire" , "Tart" , "Alibi" , "Episode of Blonde" が演奏された。計8曲。意外と少ない。
その他で印象に残っているのは、いかにも来日したからやりましたという "Tokyo Storm Warning" と "Smile" 。相変わらずイントロのリズムがわからない "Beyond Belief" 、本編ラストを飾った怒濤の "(What's so Funny about) Love, Peace, And Understanding" と "Radio, Radio" 、2度目のアンコールのとりだった "You Belong to Me" と "Pump It Up"。あと "Oliver's Army" や "So Like Candy" もやっていたっけ。最後の最後に "I Want You" を持ってくるのは勘弁して欲しかった。
あと数曲漏れているようだけれど、ぱっと浮かばないんだから、それほど感銘を受けなかったということだろう。それらはインターネットで調べればいいので省略。とりあえず、こうしてざっと曲目を並べてみると盛り上がり間違いなしという感じなのだけれど……。
そう言えば初期のアップのナンバーや、 『Chocolate and Blood』 の曲(ここに上げた以外にもあと2曲やっている)が多かったりするのは、やはり今回のバンドのカラーを意識したんだろう。ところどころスタンディングで見るにはきつい部分もあったけれど、それでも全体的には十分熱い内容だったと思う。それだというのに、なぜに僕はこんなに冷めているんだろう。うーん、残念だ。
(Jul 03, 2002)
エルヴィス・コステロ&ジ・インポスターズ
2002年7月5日(金)/東京国際フォーラム・ホールA
「今回はオープニング5曲とエンディング2曲が固定的らしい」などと思っていた僕に、そんなわけないだろうと反論を突きつけるようなコステロ氏だった。2曲目が "Daddy Can I Turn This?" 、3曲目が "Less Than Zero" 。さらには僕が勝手に今回のツアーの目玉だと思っていた "Episode of Blonde" は抜き。2度目のアンコールで一気に7曲を演奏して終わりという怒濤のエンディングにも驚いた。オープニングとエンディングは同じだったし、セットリストにもそれほど意外性はなかったけれど、曲の並べ方やライブの構成が微妙にずらしてあって、2週続けて見ても全然マンネリを感じさせないあたりが、やはりさすがだ。
この日は先週の曲のうち7曲が減って、代わりに8曲が新しく演奏された。一曲お得。新譜からは "Soul for Hire" と "Episode of Blonde" の代わりに "Daddy..." と "15 Petals" が披露された。 "My Blue Swing" とかなんとかという新曲もあった(追記:BlueじゃなくてMood、 "My Mood Swings" とのこと。ブロドスキー・カルテットとレコーディングした曲らしい)。後半に演奏された "Watching the Detective" はそのままメドレーでワンコーラスばかりの "My Funny Valentine" になだれ込んだから、これを一曲とカウントするのならば先週よりニ曲多かったことになる。
この日のライブで一番よかったのは、意外なことにバラードだった。 "Tart" を間に挟んでアコギで演奏された "All This Useless Beauty" と "All the Rage" は絶品だった。来日公演アンコールのサービス・メニュー、 "Smile" もやたらと染みた。
これらはこの日の席が2階席の前から7列目という位置だったのが影響したのだと思う。東京国際フォーラムの2階席は、2階と言いながら実質はおそらく4階か5階くらいの高さなので、前の方だと言ってもやたらとステージが遠い。そのせいもあったんだろう、ありがたいことに前の観客がまったく誰も立たず、終始座ったまま観ることができた。おかげで立ちっ放しだったブリッツの時とは違い、バラードをゆったりとくつろいで味わうことができた。そうやって腰を落ち着けて聴くと、インポスターズのアンサンブルが素晴らしい。普段あまりスローナンバーを好まない僕も、この日の彼らの円熟味溢れる演奏ぶりにメロメロだった。特に大好きな "All The Rage" をやってくれたのが嬉しかった。
バラードと言えば "Alison" もやってくれたのだけれど、あの曲はレコーディング・バージョンのギターがめちゃくちゃ好きなので、それと同じフレーズの聴けないライブでは、いつでもいまひとつ盛り上がりに欠けてしまう。
なにはともあれ、この日のライブは座って観られた分だけ、前の週の赤坂ブリッツよりは楽しめてしまった感じだった。やはり体力が人の半分以下の僕にはどれだけ近くで観れたところでオールスタンディングは駄目みたいだ。ああ、情けない。
(Jul 07, 2002)
エルヴィス・コステロ&ジ・インポスターズ
2002年7月7日(日)/渋谷公会堂
日本公演最終日。この日はついにオープニング、エンディングともに前二回のパターンから逸脱していた。そもそも "I Want You" は演奏されさえしなかった。型にはまっていたのはコステロのステージじゃなくて、僕の頭の方だったということが明らかに……。正直なところ、来日前はそろそろ三回も見に行かなくてもいいような気がし始めていたのだけれど、終わってみれば三回見てまだもの足りなさが残っている。コステロ先生、一生おつきあいさせていただきます。
ということで最終日のオープニングは "Tokyo Stom Warning" だった(そういえば、ちょうどこれを書いている今日は台風来襲中)。さらに二曲目から "Shabby Doll" , "Accident Will Happend" , "You Little Fool" とお初の三連発。さらに2曲を挟んで、ソロモン・バークの新譜に提供したという "The Judgement" 、その後に "High Fidelity" から始まる 『Get Happy!!』 からの4連発ときた。最後の "Clowntime Is Over" はナイーヴのオルガンをフィーチャーしたスロー・バラード・バージョンだ。そしてアコギ・コーナー(別に弾き語りではないので、念のため)では新譜からようやく登場の "My Little Blue Windows" 、さらに "Suite of Lights" だよ、おいおい。タイトルちゃんと思い出せなかったよ。こういう隠れた佳作をさらりと演奏してくれちゃうところが素晴らしい。
なんにしろここまでの1時間ちょっとの間に、前の二日には演奏されなかった曲が実に10曲もあった。だからコステロのライブはこたえられない。結局その後はアンコールの "This Year's Model" を除くと新しい曲はなかったけれど、それでも十分満足だった。
満足といえば、席もこの日が一番よかった。一階席中央の5列ばかりを占拠したPAブースの斜め右うしろ。シート自体は妙に狭くて難儀したものの、ステージまでの距離は赤坂ブリッツの時と変わらないか、もしかしたらあの時よりも近かったかもしれない。少なくても視界をふさぐ長身の人はいなかったし、客席自体に段差があるからまったく邪魔になるものがなく、終始ストレスなく観ることができた。おかげで三日目にして初めてナイーヴがテルミンやピアニカを使っていたことを知った(音で気がつかないあたりが情けない)。ベースのデイヴィー・ファラガーという人は、ベーシストとしての力量がどうなのかは判断できないものの、元気過ぎるほどのコーラスを聞かせてくれていた。ブルース・トーマスはあれほどコーラスでの貢献はなさそうだから、その点でアトラクションズとは違うんだなということを感じさせた。
上手いのか下手なのかわからないといえば、なによりもピート・トーマスのドラムで、時折コステロがわざと節回しをずらして歌ったりすることがあっても、我関せずと突っ走っていく。おかげでこちらがリズムに乗れなくなってしまう時がたまにある。僕のリズム感が悪いせいかもしれないけれど、いまさらながら難儀なバンドだと思った。
ともかくこの日はもう一度ちゃんと聴きたいと思っていた "Uncomplicated" と "Episode of Blonde" も無事演奏された。 "Smile" では後半転調するところでのガッガン、ガッガンというピアノがものすごく格好よかった。オーラスの "Alison" (!)で催促されたわけでもないのに、自然と合唱が起こったのも感動的だった。そもそもその曲で終わったこと自体がとても意外だった。最後の最後まで観る側の予想を裏切るステージを展開してくれるエルヴィス・コステロはやっぱり素敵だ。次回の来日時も東京の公演はやっぱりはしごしないではいられないと思った七夕の夜だった。
最後にこの三日間の楽曲を整理して終わりにする。全45曲(たぶん)。
3日とも演奏された曲(13曲)。
45 / Spooky Girlfriend / (I Don't Wnat to Go to) Chelsea / Tear Off Your Own Head (It's a Doll Revolution) /Tart / Oliver's Army / Dust 2... / (What's so Funny about) Love, Peace And Understanding / Radio Radio / Smile /When I Was Cruel No.2 / Alibi / Pump It Up
1、2日目に演奏された曲(6曲)。
Watching The Detectives / I Hope You're Happy Now / Beyound Belief / You Belong to Me / Lipstick Vogue / I Want You
2、3日目に演奏された曲(2曲)。
My Mood Swings / Alison
1、3日目に演奏された曲(3曲)。
Tokyo Storm Warning / Episode Of Blonde / Uncomplicated
赤坂ブリッツでのみ演奏された曲(4曲)。
Waiting for the End of the World / New Lace Sleeves / Soul for Hire / So Like Candy
東京国際フォーラムでのみ演奏された曲(6曲)。
Daddy Can I Turn This? / Less Than Zero / Honey, Are You Stragight Or Are You Blind? / All This Useless Beauty / All The Rage / 15 Petals
渋谷公会堂でのみ演奏された曲(11曲)。
Shabby Doll / Accidents Will Happen / You Little Fool / The Judgement / High Fidelity / Possession / Temptation / Clowntime Is Over / My Little Blue Window / Suit Of Lights / This Year's Model
(Jul 11, 2002)
エレファントカシマシ
2002年9月28日(土)/日比谷野外音楽堂
エレカシ恒例の夏の野音。でも今年は夏というよりは秋。そう、ブレイク以降はずっと初夏だったのに、今年はひと昔前のように初秋。単にブッキングの関係で夏場に取り損ねただけなのかもしれないけれど、それでも意図的にこの時期にしたってことだってあり得る。そもそも昔から野音で秋口にライブを行っていたのは、その時期にやるのが好きだったからだろう? そういう意味では今回の野音には初心に返るという意味があるんじゃないか、これは期待してもいいのかもしれないと密かに思わせた。そしてそんな期待は裏切られなかった──まあ、とりあえずのところは。
この日の席はこれまで十数年の間、様々なバンドのライブに足を運び続けてきたうちで、おそらくもっともステージに近い席だったんじゃないかと思う──って記憶力が怪しいので確信は持てないけれど。なにしろ座席番号はAの4列目。1列目はなぜか使われていなかったから実質は前から3列目。しかもステージ真正面のブロックの通路際。ステージが近過ぎちゃって困るんじゃないかとちょっと心配だった。
まあ、実際にはステージから座席までにスペースがあったりする関係でそんなに近いという感じでもなかったけれど、それでも個々のプレーヤーの指の動きは確認できる近さ。これぞライブって感じで、生演奏が堪能できてよかった。朝から降っていた雨がその時間には上がっていたのもなによりだった。
この日のオープニング・ナンバーは 『夢を見ようぜ』 。やる気があるんだか、ないんだか、なかなか判断に迷うナンバーだ。「今日はロックをエンジョイさせてやるぜ」という決意宣言とも取れなくはない。ただどちらかといえば、いかにもそう宣言するようなこの曲をオープニングに持ってくることには、やる気よりも安直さの方を強く感じてしまう。演奏の出来うんぬんよりも前に、まずはそのストレートなわかり易さに引っかかる。エレカシというバンドは基本的にそうした意味でわかり易いバンドであっていいはずはないと思っているから。なのに盛り上がり必至の野音の一曲目がこの曲。この局面でそれは安直過ぎないかと思ってしまうのは致し方ない。
昔から僕はエレカシのライブにおける一番の弱点はセットリスト選びの安直さにあると思っている。観客の意表をつくような努力があまり見られないことに対しては、いつも失望させられてばっかりだ。ライブといえばこの直前に見たのが、常にこちらの期待の上をゆくような曲を並べて見せてくれるエルヴィス・コステロなのだから、今回はなおさらそう感じる。なぜもっと意表をついた曲でライブを始められないのか。もっと意外性のある曲順が思いつかないのか。そう思わずにはいられない。ああ、もどかしい。
そういう意味では、どうせならば二曲目の 『女神になって』 が一発目だったらば、僕はより一層盛り上がることができただろう。新譜の中でもビート感の強さでは一、ニを争うこのナンバーが僕は大好きだ。特にライブでは格別だと思う。それでいてアルバムの代表曲というイメージでもない。だからこそある意味ではオープニングに持って来て意表をつくには持ってこいのナンバーなのに。どうせならばこっちを一曲目にしないかな。このバンドに──というよりも宮本に──そういう発想がないのがとても残念だ。残念といえば、同じようにもう一度ぜひともライブで聞きたいと思っていた 『真夏の革命』 をやらず仕舞いだったのも、とても残念だったのだけれど。
なにはともあれ、今回の野音はそんな風に最高の席で悲喜こもごも(ちょっと大袈裟)の感慨を抱かせつつ始まったのだった。席がいいのだからといつもより集中して見ようと努力していたにもかかわらず、その後の曲順はいっこうに記憶にない。インターネット某所の記録によると、 『暑中見舞』 『デーデ』 『風に吹かれて』 『武蔵野』 『普通の日々』 『月の夜』 『秋』 『ひまつぶし人生』 『極楽大将生活賛歌』 『ファイティングマン』 と続いたらしい。ここまでで本編は終了。一時間弱とかなり短めだった。
最近のライブでは常に僕にとってのベスト・パフォーマンスである 『武蔵野』 のあとに、そこで得た熱を冷ますためとでもいうようにバラード・コーナーに突入してしまったりして、やはり曲の選び方はさえない。 『月の夜』 の前に免停を食らったことにまつわる即興の弾き語り曲を披露、これはこの手のコミカルなパフォーマンスの中ではこれまでで最高の出来だったと思う。 『ひまつぶし人生』 の選曲には意外性があったし、それに続いた 『極楽大将』 は、たぶん今だからこそという感じで客の受けもよかった。これまで何度かこの曲を聴いた中でも最高の出来じゃなかったかと思う。
アンコールの一発目は 『男餓鬼道空っ風』 『おまえと突っ走る』 『いつものとおり』 『星の降るような夜に』 『あなたのやさしさをオレは何に例えよう』 という内容。 『男餓鬼道』 が始まった時は、ひさしぶりの野音だし、こんな前で見ている時に、かつてのようなぎこちないコール・アンド・レスポンスを要求されたらどうしようとちょっと心配してしまった。なにもなくすんなり終わってひと安心。
二度目のアンコールでは 『この世は最高!』 が披露され、この日のライブは終了のナレーションが流れたあともなお、鳴り止まないアンコールの拍手の中で終わりとなった。この日のライブの問題点はここからだ。
あれだけのアンコールを受けて再登場しなかったバンドというのも逆に珍しい。総立ちの観客を前にしてビジネス・ライクに後片付けを進めるスタッフの姿には、とてもあと味の悪い思いをさせられた。アーティストの意向は仕方ない。けれどスタッフが率先して客の興奮を無視してどうすると思う。やはりあのバンドはスタッフに恵まれていないんじゃないだろうか。
ともかく 『ガストロンジャー』 も 『コール・アンド・レスポンス』 もなしで終わってしまったのはとても意外だった。観客のいつになく熱心なアンコールの理由はそれゆえの不完全燃焼だろう。打ち込みの比重が高いあれらの曲は、用意していない限り、いきなりはできないだろうとは思う。けれどあれだけの観客の熱狂を前にして、それを無視できてしまうバンドと関係者の姿勢には、やはり失望を感じずにはいられない。よいコンサートだったと思うだけに、最後にあと一曲、宮本の弾き語りでもなんでもいいから聴かせてもらいたかった。僕らが席を立ったあとにそうした場面があったというならば、たとえ自分がそれを見られなかったとしても僕はそれで十分満足する。
やはりエレカシはいい意味でも悪い意味でもロックの異端児なんだということを再確認させられたコンサートだった。それとあれだけステージに近かったにもかかわらず、終わった後で耳鳴りを覚えなかったという事実とともに、ある種の心地よさとささやかな失望が残ったコンサートだった。
(Oct 14, 2002)
エレファントカシマシ
LIVE HOUSE TOUR 2002/2002年11月2日(土)/SHIBUYA-AX
サボっているあいだにライブから二週間が過ぎてしまい、いい加減印象も薄れてしまっているので簡単に。
この日のライブは簡単に言ってしまえば、野音のセット+新曲4曲という内容だった。オープニングの 『夢を見ようぜ』 に続いて3曲続けて新曲が披露され、さらに 『女神になって』 と続いたところまでは、その新鮮さにかなりの高揚を覚えることができた。けれどライブが続くにつれ、その内容が野音の時のリピートであることが明らかになったことで、最初の興奮はすっかり沈静化してしまった。
さらにこの日は宮本の各メンバーへの苛立ちがひどく目についた。冒頭から妙な感じだったのだけれど、だんだんその態度が邪険になっていく。 『星の降るような夜に』 では一緒にコーラスをつけようと近寄ってきた石クンを冷たく退けたりする。その意味不明の怒りはついには 『ファイティングマン』 でピークに達してしまった。
この日は終始トミのドラムが気に食わなかったらしい宮本は、なんとこの歌の途中でドラム・セットに向かってマイクを投げつけるという暴挙に出てしまったのだった。あまりのことに中断する演奏。静まり返る場内。
とりあえず、その場面は宮本がすぐさま続きを
なんにしろそんな風な具合で、この日は宮本の機嫌が悪かった。途中で突然スタッフに指示を出してギターを持ってこさせたことから推測するに、たぶん予定されていた選曲も一部割愛されたものと思われる。だから一度目のアンコールの 『この世は最高』 が終わった時点で今日のライブはもうこれで終わりだろうと思った。 『あなたのやしさを~』 をまだやっていなかったのだけれど、あれだけ不機嫌な宮本がその後のステージを続けるとは思えなかった。そこまで正味一時間半にも満たない。こりゃ最悪だなと思った。
ところが。ここから宮本くんはこちらの予想をさらに裏切り、ちゃんともう一度登場してこの曲を演奏してくれたのだった。さらにさらに。最後の最後にもう一曲、よりによって 『花男』 を披露して幕を閉じるというサービスまで見せてくれた。
この二度目のアンコールはでかかった。これがなければこの日のライブのあと、僕らは救いようのない気分で家路につくことになっただろう。宮本浩次という人の成長の証しをちょっとだけ見せてもらえたような気がする。音的にも気持ちがよかったし、最終的にはそれなりに満足のいくコンサートだった。
この日のライブでは僕らのうしろにいた女の子たちの存在がおもしろかった。ファン歴はそんなに長くなさそうなのだけれど、とても熱心で楽しそうな子たちで、やたらと盛り上がっている。 『この世は最高』 で「サイコー、サイコー」という可愛い声のコーラスがうしろから聞こえてきたのがなんとも微笑ましかった。ああいう女の子たち──といってもたぶん二十歳はとうに過ぎているんだろうけれど──の存在を見ると、売れたのもまんざら悪くなかったのかなという気になる。
最後になったけれど新曲について。最初の曲は 『奴隷天国』 の頃の作品を髣髴させる内容の、独特の和風なリフに男っぽい詩ののったナンバーでとてもよかった。あとはバラード一曲、ヘビー・ロック風のインスト・ナンバー、そして 『男餓鬼道』 と 『ベイビー自転車』 を足して今風の味つけをしたような妙な曲調のアップな曲という内容。なんだか方向性を模索している感じがするバラエティの豊かさだ。情緒不安定なライブの内容もあいまって今後の活動にやや不安を感じさせる。
(Nov 17, 2002)
(補足)この日に演奏された新曲のうちインストを除く3曲は、のちに 『DEAD OR ALIVE』 に収録された。
ポール・マッカートニー
Driving Japan/2002年11月13日(水)/東京ドーム
いきなり宮廷貴族やサーカスの曲芸師たちが広い場内をパレードし始める。一周してからステージへと上がり、様々な芸を披露する。場内を花や中華提灯のバルーンが一周する。そんな余興が延々と続いて、お目当ての主役はいつまでたっても登場しない。こんなものやらなくていいから、その分チケットを安くして欲しかったぞ。1万4千円はいくら元ビートルズのライブとはいっても高過ぎる。
そんな風にこちらの期待をはぐらかすような余興でさんざんじらされた後、ポール・マッカートニーの還暦記念(?)ライブは、 "Hello Goodbye" でもって始まった。
ライブの構成はつい先日、国内先行発売されたUSAツアーのライブ盤とほぼおんなじだ。ざっと見た限り5曲ばかりが除かれ、2、3曲が代わりに追加になっていた。僕にわかった範囲では、 "Let 'Em In" と "She's Leaving Home" がライブ盤には未収録のナンバーだった。ほかにも一曲、僕の知らないナンバーが演奏されていたような気もするのだけれど、情けないことに既に記憶がさだかではない。
それにしても見事なまでのヒット・パレードぶりだった。ソロのオリジナル作品はわずか2、3枚しか聞いていないという僕でもほとんどの曲を知っていた。ビートルズとポールのベスト盤をそれぞれ一組ずつ聞いておけば、ほとんどすべてをカバーできてしまうんじゃないかと思われるくらいの、徹底したサービスぶりだった。とにかく半分以上はビートルズの曲。さすがに人間六十歳にもなると若い頃の作品に対する妙なこだわりもなくなるものらしい。素晴らしい吹っ切れ方だ。
そうそう、このライブではMCを翻訳家が同時通訳して、スクリーンに字幕スーパーで映し出すというおもしろいサービスもしてくれていた。ポールがしゃべるたびに、その発言がPCによるキーボード入力と日本語変換の分だけ遅れながら、文節ごとに巨大モニターに映し出されていく。これは結構おもしろかった。それをネタにして「本当に生でやっていることを証明してあげるよ」と言って、「犬がバナナですべった」とか意味不明の発言で場内の笑いを誘うマッカートニーさんは楽しくて元気なおじさんだった。
ただこの字幕スーパー、途中のジョン・レノンやジョージ・ハリスンとの思い出を語ったコーナーではステージ中央のモニターにしか映し出されず、ほぼ真横からステージを見ていた僕らには読むことができなかった。ある意味この日のライブで一番翻訳があって欲しかった部分だけに、これはかなり致命的な演出上のミスだと思う。
ちなみに僕らの席は三塁側スタンドの一階席、レフト・ポールのすぐ近く。ほとんどステージの真横といっていいような位置ではあったけれど、同じスタンドならば真正面とかよりもまだステージには近かったおかげで、音は意外と悪くなかった。ドームであれくらいの音響で聴ければ上出来だ。
それにしても本当にポール・マッカートニーは元気だった。当然楽器は達者だし、声も十分出ている。これが最後の来日になるんじゃないかという噂があったけれど、あの姿を見る限り、もう一度くらいは来てくれそうだ。それくらい元気一杯だった。僕よりも年下の女性と再婚しちゃうのにも納得がいった。
そのほか、バラバラと感想を連ねていくなら、ソロ・ナンバーではもっとも盛り上がるだろう "Jet" がまだライブの雰囲気に馴染みきっていない2曲目に演奏されたのはちょっと残念だった。 "Getting Better" の選曲はとても新鮮でよかった。ビートルズ、ソロ、両方の珠玉のバラード群は、我ながら意外なほどすんなりと楽しめた。ラストの "Sgt. Pepper" と "The End" のメドレーも感動的だった。 "Freedom" をやらなかったのも好感が持てた。バンドのメンバーではスキンヘッドの巨漢のドラマーが、その外見に似合わず一生懸命コーラスもこなしていて強烈に個性的だった。
なんにしろまた来日することがあるならば、再度見てみたいと思うような楽しい2時間半だった──繰り返しになるけれど、冒頭の余興は余計だったけれど。
最後にこのライブに誘ってくれた友人に感謝を。そしてチケットを持っていながら、つまらない理由で見そこなうことになった別の友人にはありったけの哀れみを。
(Nov 18, 2002)
プリンス
One Night Alone with Prince World Tour 2002/2002年11月18日(月)/日本武道館
プリンスを見るのはこれで四度目になるのだけれど。
なんたって僕の場合、この日のライブで一番最初に登場してドラム・ソロを聞かせたのがプリンスその人だったということに気がつかない大ボケ男なので──というかそもそもドラム・ソロがあったことさえ記憶にない──あまりちゃんとした感想は書けない。
今回のバンドはこれまでになく少人数だった。ドラム、ベース、キーボードに、サックスのメイシオ・パーカーとトロンボーン。殿下を加えてわずか6人という小編成。
プリンスは黒っぽいタイトなスーツ姿で、胸ポケットには白いハンカチーフまでのぞかせてビシッと決めている。ベーシストは胸の大きな、いかにもプリンスのバンドのメンバーというセクシーな雰囲気の女性(まあ遠目に見た限りでは)。キーボードは七三分けのアジア系男性。あと曲芸まがいの、上手いんだかなんだかわからない変なソロを叩くドラマーに、大御所メイシオ・パーカーと名も知らぬトロンボーン奏者。少人数ながらバンドのメンバーはなかなかバラエティ豊かだ。
ライブは "Rainbow Children" から始まった。アルバムでもかなりの長さのこの曲、ライブだとなおさら長い。そのあと "Pop Life" と知らない曲を挟んでいきなり四曲目にして "Purple Rain" が演奏されるという意表をつく展開。
続く "The Work pt.1" では観客5~6人をステージに上げてのダンス・タイムなんて余興がある。プリンスが選んだ中に一人、ミョウに気持ちの悪い青年がいたので、大いに盛り上がった。この企画にたぶん二十分くらいは費やしたんじゃないだろうか。この辺までで既に一時間近くが経過していた。
とにかく一曲一曲が長いし、その後も知らない曲が結構あったせいもあり、集中力が持続しない。なんだかぼうっと見ているうちにあっという間に本編が終わってしまった。
圧巻だったのが10分近く待たされたあとの一度目のアンコール。プリンス自ら観客に坐るようにと言って始めたのは、 "Condition Of The Heart" から始まるのピアノ弾き語りによるバラード・メドレーだった。80年代のバラードをワン・コーラスかワン・フレーズずつつなげた "Purple Medley" のバラード版といった趣向だったのだけれど、これがもうすごい感動的。なんたってこのメドレーで演奏された曲は次のとおりだ。
Condition Of The Heart / The Most Beautiful Girl In The World / Diamonds and Pearls / Adore / The Beautiful Ones / Nothing Compares 2 U / The Ladder / Starfish And Coffee / Sometimes It Snows In April
まさに珠玉のバラード群。あらためて80年代のこの人のメロディメイカーとしての才能を思い知らされた。特に "The Ladder" 以降の3曲はまさかライブで聴けることがあるなんて思わなかった曲ばかりだったので、感慨もひとしおだった。
惜しむらくは "The Beautiful Ones" のクライマックスで普通ならばスタンティング・オベーションが起こって当然のところなのに、そこは日本人、(僕を含めて)ほとんど誰も立とうとしなかったこと。結局、殿下自らに "Stand Up!" と催促されちゃったのは情けなかった。
ライブはその後にもう一回アンコールがあって "Days of Wild" というスローなファンク・ナンバー──"Crystal Ball" に収録されているらしい。いかにちゃんと聴いていないかよくわかる──が延々と演奏されたあとで幕となった。メイシオ・パーカーがフィーチャーされていたこともあり、全編通じて非常にファンク色が強い渋めのライブだった。そのせいか、 "Take Me With U" や "Raspberry Beret" の極端なキャッチーさがとても際立っていた。個人的にはもう少しそういうナンバーが聴きたかったなと思う。
(Nov 28, 2002)