2024年10月の音楽

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  1. 虚仮の一念海馬に託す / ずっと真夜中でいいのに。

虚仮の一念海馬に託す

ずっと真夜中でいいのに / 2024年

虚仮の一念海馬に託す

 ファースト・アルバム『潜潜話』のリリース以降、一年ごとにミニアルバムとフルアルバムを交互にリリースするのがずとまよのルーティンとなっている。
 そのインターバルに従うと、今年はミニアルバムの年となるわけだけれど、さてどうなる――と首を長くして待っていたところ、やはり今年もなんとか年内に、ACAねはミニアルバムを届けてくれた。
 ずとまよ通算五枚目のミニアルバム。タイトルは『虚仮の一念海馬に託す』。
 暗黙の了解的につづいているタイトルの縛り――フルアルバムは三文字、ミニアルバムは十文字――は今回も健在だ。いったいこのルールはいつまでつづくのやら。
 内容も期待にたがわず、ずとまよ印全開だ。
 小沢健二を思わせる明朗な一曲目『虚仮にしてくれ』(タイトルと曲調のギャップがすごい)や、ずとまよ初の英文節タイトル(でも歌詞は日本語オンリー)のラストナンバー『Blues in the Closet』など、ちょっぴり新機軸と思わせるところもあるけれど、基本的なところはあい変わらず、ずとまよらしさに溢れている。
 今回はクラシカルな楽器の音が多めなのが特徴のひとつ。一曲目のハープ、『嘘じゃない』のイントロのピチカート奏法(たぶんそうだよね?)、『Blues in the Closet』のフルートなど、クラシック畑の楽器の柔らかな音を取り入れつつも、決して保守的になることなく、彩り豊かな最新鋭のビートミュージックとならしめているところがもう本当に最高だと思う。
 今年は前作『沈香学』から一年近く新曲のリリースがないという、ずとまよ史上最長のインターバルを挟んでいたので、僕のなかでずとまよの存在感がいくぶん薄れていた感があったのだけれど、これ一枚であっという間に元通り。リリースされて、せいぜいまだ一週間なのに、それ以来ずっと僕の音楽生活はこのアルバムを中心に回っている。
 まぁ、アルバムの後半三曲(とくに最後の二曲)は配信リリースからけっこう時間がたっていることもあり、さんざん聴いて鮮度が落ちてしまっているので、今作は前半の三曲がとにかくインパクト大。清涼感あふれる『虚仮にしてくれよ』に、アニメのタイアップと思えないくらいアグレッシブな『TAIDADA』、そしてなにより『クズリ念』!――この曲のよさはほかに例えようがない。
 その次の『海馬成長痛』は後半の「段々スタンスが雑/ダンスダンス ステップ複雑」という絶妙なライムから、「皆が寝静まれば僕の出番来る」というハロウィン的な決めフレーズに至る流れが絶品だと思う。ほんと大好き。
 とにかく、アルバムのどこを切り取っても歌詞は斬新で饒舌で唯一無二だし、音作りも多彩で豊饒、でもってビートは衰え知らずに性急でダンサブル。ACAねのボーカリストとしての表現力も留まるところを知らない。
 どう考えたって、これがいまの日本のポップミュージックの最高到達点では?
 ――という思いに揺るぎがないので、なぜにメディアの全体的な評価がそうなっていないのか、不思議でしょうがない。これを聴かずしてなにを聴けと?
 こういう音楽が正当な評価が受けられないなら、ACAねが「皆がいいと思う曲や歌が響かない」とか歌っちゃうんじゃないだろうか。
 まぁ、あまり人気が高まってしまうとチケットを取るのも大変になっちゃうんだろうし、結局いまくらいの適度な人気を得ているほうがファンとしては都合がいいのかな……と思わなくもないのだけれど。
 少なくても僕は日本人として生まれて、ずっと真夜中でいいのに。の音楽が聴けることを――還暦近くになってなお、ACAねの作る音楽に夢中になれる自分を――心の底から幸福だと思っている。
 なんだか毎回ずとまよの音楽について語るたびに、幸せだ幸せだとのたまってばかりいる気がする。
(Oct. 27, 2024)