2024年8月の音楽
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- LOST CORNER / 米津玄師
LOST CORNER
米津玄師 / 2024
前作につづき記録的な大ヒットとなった米津玄師の通算六枚目のアルバム。
前作の『STRAY SHEEP』もすごかったけれど、今回も輪をかけてすごい。
なにより収録曲が20曲というボリュームがすごい。前作より25%増量。
去年出たKing Gnueの『THE GREATEST UNKNOWN』の21曲にも驚いたけれど、あちらがその曲数の中に曲間のつなぎのインストナンバーを多く含んでいたのに対して、このアルバムのインスト曲は最後の一曲のみ。
つまりきちんとした歌ものが賞味19曲も収録されている。
あのー、それってストーンズの『メイン・ストリートのならず者』(アナログ二枚組)より多いんですけど?
まぁ、最近の人気アーティストの新譜のつねで、このアルバムにも配信リリースされたタイアップ曲がたくさん入っているけれど、それでもまっさらな新曲が8曲も聴けるのがいい。だって知っている曲ばかりではつまらないでしょう?――といわんばかりのこのサービス精神が素晴らしい。
ジブリとのコラボで、かの宮崎駿監督にまでその才能を認められ、いまや名実ともに日本のトップアーティストの地位を揺るぎないものにした感のある人が、そのステータスに奢ることなく、こういう過剰なボリュームの作品をリリースしてみせる姿勢は尊敬に値する。
僕はこれまでにリリースされたばかりの新譜の感想を、リリースされた週のうちに書いたことがなかった(少なくても記憶にない)。
それというのも、最初はいまいちと思ったアルバムが、繰り返し聴いているうちに大好きになってしまう、なんて経験を何度もしてきたから。音楽についてなにかを書くのは、ある程度の回数を聴いたあとであるべき、というのがモットーだ。
だから、リリースされたばかりのこのアルバムについて、このタイミングで文章を書くのは個人的な方針としては間違っている――のだけれども。
これについてはさっさと書いちゃってもいいんじゃん?――って。
リリースから数日間、繰り返し聴いてみて、そう思った。
もとより僕は米津玄師の書く曲ならどれも無条件に好きというほどのコアなファンではないし、旧譜にしたってタイトルがわからない曲がごまんとある。大絶賛した『STRAY SHEEP』の収録曲だって、個々の曲名はうろ覚えだ。
そういう男にとって、全20曲70分越えというこの新譜のボリュームは、いささか過剰すぎるのでは?――と思っていた。
ところが、これがそうでもない。リリースから数日、繰り返し聴いているけれど、まるでだれることなく、いまだに最後まで気持ちよく聴ける。でもって終わるとすぐにリピートしたくなる。なまじ僕の趣味の真ん中というわけではない分、そのボリュームをまったく気にさせないバランスのよさに感銘を受けた。
個々の楽曲を見ても、『KICKBACK』でモーニング娘のフレーズを引用したり、『死神』で落語をモチーフにしたりと、表現者としての引き出しの多さにも驚く。『シン・ウルトラマン』の主題歌に『M七八』という漢数字のタイトルをつけるセンスとかも、本当にすごいと思う。
で、ここまで量と質を兼ね備えたアルバムを、今回も魅力的な自画像のイラストで飾ってみせるというね。
もうやっていることがすべて規格外。この人のすごさをきちんと表現できるだけの言葉を僕は持たない。ただすごいとしか言えない。
ならば、リリースされたこのタイミングであろうと後日であろうと、おそらく書けることにはたいした違いはないだろうし、鉄は熱いうちに打てで、今回に限ってはさっさと書いてしまっても、なんの問題もないのでは?
そう思った次第でした。お粗末。
(Aug. 31, 2024)