2024年7月の音楽
Index
- ヨルシカLIVE「月光」 / ヨルシカ
- パレード (Original Soundtrack) / 野田洋次郎
ヨルシカLIVE「月光」
ヨルシカ / 2022
いまさらだけれど、二年前に出たヨルシカ通算二枚目のライヴ映像作品。
新型コロナ下でリリースされた前作の『前世』は水族館を舞台に無観客で収録されたイレギュラーな作品だったのに対して、今回は観客を入れた2022年のツアー映像を収録したもの。
つまりヨルシカのライヴが普通に観られる初の映像作品ということになるのだけれども――。
このライヴがちっとも普通じゃなかった。
いきなりn-bunaの詩の朗読から始まり、随所に同じような詩の朗読をインサートしつつ、最後も詩の朗読で締めるという構成。
まさに詩人n-bunaの趣味性が全方位で解放された内容だった。
語られているのは『だから僕は音楽を辞めた』と『エルマ』の二枚のアルバムで描かれたエイミーとエルマの物語。それを音楽とポエトリーリーディングのコラージュで再現してゆく。
言葉を大事にする詩人としての姿勢は映像表現にも反映されている。
全編にわたり、suisの歌に合わせてn-bunaの手書きらしき歌詞がずっと表示されている。ある部分はスーパーインポーズで、ある部分はステージの演出映像の一部として。それがランダムに入れ替わりながら、suisの歌に寄り添って、その歌の解像度を高めてゆく。
顔出しNGで、n-bunaとsuisのみならずバンドメンバー全員、映るのはシルエットのみなのに、音楽と朗読と映像が混然一体となった演出の妙で、まったく飽きさせない。
いまや時の人といった感のあるキタニタツヤが一度も素顔をさらさないまま、一介のベーシストに徹しているのもレア感を煽ってくる。
すでに何度もライヴを観てきたずとまよと違って、いまだにヨルシカは一度も生で観たことがないこともあって、隅々まで丁寧に演出が施されたそのライヴ映像はとても刺激的だ。おかげで何度も繰り返し観たくなる。
いま現在もっとも映像作品のリリースが楽しみなバンドはヨルシカかもしれない。
この秋に出る次の映像作品『月と猫のダンス』も楽しみにしてます。
(Jul. 24, 2024)
パレード (Original Soundtrack)
野田洋次郎 / 2024
野田洋次郎が手掛けた通算五枚目の映画のサウンドトラックにして、初の個人名義での作品。
RADWIMPSの過去のサントラとのわかりやすい違いは、まったくギターが鳴っていないこと。ピアノにオーケストラ、あとシンセサイザー少々みたいな音作りで、全編が緩やかでしっとりとした音楽で統一されている。
『パレード』は死後の世界を舞台にした静かな作品で、新海作品のようなダイナミックなシーンは皆無だから、つまりそれ相応の内容に仕上がっている。最後に歌もの『なみしぐさ』が一曲入っているだけで、あとはすべてスローなインストナンバーだけという点も含めて、同じく藤井道人監督作品のサントラだった『余命10年』と同系統な印象。
もともとこの手のサントラは洋次郎が主体となって作ってきたのだろうし、この内容だったらバンド要素は不要だから、ならば今回からはソロで――ということになったのかもしれない。
いずれにせよビートミュージック命の僕にとっては守備範囲外で、そう繰り返し聴く気にはなれないタイプの作品。
でもこういうのを大音量でかけて、その音の波に身を任せながらワインのグラスを傾けたりすると、それはそれで気持ちのいい時間を過ごせそうな気もする。
(Jul. 21, 2024)