2021年4月の音楽

Index

  1. ぐされ / ずっと真夜中でいいのに。
  2. 2+0+2+1+3+1+1= 10 years 10 songs / RADWIMPS

ぐされ

ずっと真夜中でいいのに。 / CD / 2021

ぐされ ぐされ (受注生産限定アナログレコード盤)(2枚組)[Analog]

 僕にとっては疑いなく現時点での日本のポップ・ミュージックの最高峰、ずっと真夜中でいいのに。待望のセカンド・アルバム。
 僕はこのアルバムを聴いて、本当に好きになるってこういうことなのかと思った。
 このアルバムにはひとつまえのミニアルバム『朗らかな皮膚とて不服』から三曲が再収録されているし、映画のタイアップである『正しくなれない』『暗く黒く』の二曲と『勘ぐれい』は先行配信されていたので、それらの六曲については、このアルバムのリリース前から、すでに数えきれないくらいに聴いてきた。『暗く黒く』の配信シングルの再生回数が九十回というのを見て、自分でも驚いたくらい。
 アルバムの収録曲は十四曲で、そのうち一曲はボーナス・トラックの『暗く黒く』のピアノ・バージョンだから、要するに初公開となった楽曲は七曲。つまりの正味半分に過ぎない。
 でもそのことをまったく不満に感じないところがすごい。それどころか、『お勉強しといてよ』や『低血ボルト』は大好きな曲をもう一度アルバムで聴けてうれしいってくらいの勢いがある。
 普段から最近のエレカシやバンプのアルバムを聴くたびに「新曲が少なくてつまらない」みたいなことばかり書いてきたけれど、本当に好きな曲ばかりだと、そういうことをまったく不満に思わないんだなって、自分で自分にびっくりしました。これぞまさに惚れた弱みってやつかもしれない。
 ずとまよにとって二枚目となる今回のアルバムの特徴は、映画のタイアップでゴージャスな音作りがふさわしかったことから、オーケストラが大々的に導入されていること。でもそれによって全体的にメローでマイルドな仕上がりなっているかというと、一概にそうではないところがいい。『暗く黒く』とかゆっくりと始まるけれど、徐々にスピード感が増してゆく。『勘ぐれい』なんかもそうで、入りはゆっくりけれど、そんなスローペースでは我慢しきませんってばかりに、すぐに駆けだしてしまうような楽曲ばっかり。ほんと、九曲目のバラード『ろんりねす』までは、どれもけたたましくダンサブルだ。バラードと呼べるのはその曲と『過眠』の二曲しかない。これぞロック・ミュージック。この性急さが最高だ。
 オープニング・ナンバーの『胸の煙』、終盤の『繰り返す収穫』、とりを飾る『奥底に眠るルーツ』の三曲では、これまであまりなかったタイブのメジャーコード感が強い、可愛いメロディーを聴かせてくれている。人によってはこれらの楽曲が今回のアルバムのいちばんの聴きどころかもしれない。
 あと、今作でずとまよの個性が最大限に炸裂しているのが『機械油』。エレカシ宮本を思わせるドコドコとしたミディアム・テンポのリズムトラックが印象的なラップ・ナンバーで、ギターのかわりに津軽三味線をフィーチャーしたり、サビの歌詞では中国語を聴かせたりと、いろいろと無国籍ぶりが強烈なダンス・チューン。これ一曲でACAねがいかに非凡かが証明されていると思う。
 その曲と並んで、個人的に今回のアルバムでもっとも胸に染みたのが『過眠』。ふたつの違った楽曲を強引にひとつにつなげたような構成のバラードで、曲の中核を占める部分はディズニーのサントラに収録されていてもおかしくないような、オーケストラ・メインのムーディーなアレンジがほどこされている。
 でも僕が好きなのはその部分よりも、その前後の、曲のはじまりと終わりの部分。ACAねが鈴が鳴るようなウィスパー・ボイスで「冴えすぎるままに 不一致が流れてく」と歌いだす三十秒強のメロディ――これがとんでもなく切なく美しい。
 あいかわらず歌詞の意味はちんぷんかんぷんだけれど、それでいて深く深く胸の奥に沁み込んでくる。基本的にずとまよのダンス・チューンをこよなく愛している僕としては、このアルバムでもっとも気に入ったのがバラードだったという事実が、自分でも意外だった。
 まぁ、とはいっても『お勉強しといてよ』と『低血ボルト』の初出がこのアルバムだったら、その二曲がクライマックスだったかも(やはりダンサブルな曲が好き)。あと『機械油』もやっぱり特別です(なんでそんなタイトルなんだか、さっぱりわからないけど)。いずれにせよ駄作ゼロのとても素晴らしい作品。僕のずとまよフィーバーはまだまだ終わりそうにない。
 この作品で唯一惜しむらくはラスト・ナンバーがボーナス・トラックであること。『暗く黒く』のツイン・ピアノ・バージョンはそれはそれで味わい深いのだけれど、でも最後がその曲で終わるのと、『奥底に眠るルーツ』で終わるのとでは、アルバムの印象がぜんぜん違う。個人的には後者で終わってくれたら満点だったなと思います。ボーナス・トラックをはずしたほうが、アルバムとしての完成度はより高くなる。
 ということで、このアルバムについてはCDで聴くよりも、配信で全十三曲のセットリストを作って聴くのがお薦め。そういう意味でもストリーミング時代の現在進行形の作品だよなぁって思わせるアルバムだった。
 六月にリリースされるアナログ盤も楽しみだ。
(Apr. 11, 2021)

2+0+2+1+3+1+1= 10 years 10 songs

RADWIMPS / 2021

2+0+2+1+3+1+1= 10 years 10 songs(Blu-ray付)

 対岸の火事という言葉があるように、他人の悲劇に共感をよせつづけるのは難しい。
 福島第一原発の事故があったことで、東日本大震災はすべての日本人にとって共通の大災害となったけれど、それでも実際にその震災によって人生を変えることを余儀なくされた被災地の人々と、その他の土地でのほほんと生きる僕らとでは決定的に温度差がある事実は否定できない。
 仮設住宅に暮らす人たちがいまだ何万人もいる状況下でオリンピックを招致しようなんて考える人がいたのがなによりの証拠だろう。家を失ったままの人々を助けることもしないでなにが世界の祭典だと思う。
 とはいえ、かくいう僕自身だって、いまとなれば普段は震災のことなんてすっかり忘れて暮らしているのだから偉そうなことはいえない。
 「原発が吹き飛ぼうとも 少年が自爆しようとも その横で僕ら愛を語り合う」
 このアルバムの四曲目、震災から四年後の三月十一日に発表した『あいとわ』の冒頭で、野田洋次郎はそう歌う。
 僕は他人の悲劇に対する僕らの心情をこれほど見事に表現した歌をほかに知らない。
 その曲を含めて、RADWIMPSは毎年三月十一日前後になるたびに震災についての思いを込めた新曲をYouTubeで発表しつづけてきた。
 おそらく五年目の『春灯』でいったん区切りをつけようと思ったんだろう。2017年だけはブランクになっているけれど、その翌年にはふたたび『空窓』を世に問い、それ以降はまた毎年新曲をリリースしつづけてきた。
 そして震災から十年目となる今年。それまでに発表した曲に新曲二曲を加えてまとめたのがこのアルバム。
 そういう性格の作品だから、収録曲はすべてバラードだけれど、曲調や歌詞の視点はその年の気分によってさまざまだ。その多様さこそが十年という歳月の長さを物語る。
 この作品を偽善的だとそしる人もいるかもしれない。もちろん僕はそうは思わない。野田洋次郎がこの作品に込めた思いにはひとつの偽りもないと僕は信じるし、少なくてもこのアルバムの収益で被災地を助けようとする行為は、なにもしない口先だけの人のそれよりも何倍も尊いと思う。
 こういう楽曲を十年かけてこつこつと発表しつづけてきた野田洋次郎という人に僕は最大限の敬意を表する。
(Apr. 25, 2021)