2017年10月の音楽
Index
- 風と共に / エレファントカシマシ
- Semper Femina / Laura Marling
- Pleasure / Feist
- Mental Illness / Aimee Mann
風と共に
エレファントカシマシ / CD / 2017
十歳の時に『みんなのうた』で『はじめての僕デス』を歌った宮本が、それから四十年後にふたたび同番組からオファーを受けて書き下ろした新曲。
こどもに聴かせることを前提とした番組なのだから、それこそ『悲しみの果て』や『今宵の月のように』のようなシンプルで力強く明るい曲──でもって、できればもっとメッセージがポジティヴな曲──を期待されていたのではないかと思うのだけれど、これはそういうのとは、ちょっと違う気がする。
ポップはポップなんだけれど、なんだか妙にメロディー構成が凝っていて、一回聴いただけではすっと頭に残らない。歌詞に「逡巡」なんて言葉を使ったりしているところも、あまりこども向きな感じがしないし、ソングライターとしての宮本の最上の部分が出た曲とまではいえないかなぁと思う。
でもまぁ、村山☆潤とともに作り上げた音作りのリッチさや、「あなた」や「わたし」という言葉を選んだポジティヴな歌詞からは、幼いリスナーに向けていい曲を届けたいという誠実な思いが伝わってくる。こういうものに対して、あまりつべこべいうのも野暮なので、うん、いい曲だねといってすませたい(もう十分つべこべいっている)。
カップリングの『ベイベー明日は俺の夢』はそういう縛りがない分、宮本節の炸裂した、いかにもなロック・ナンバー。
この曲でおもしろかったのが、同時収録されたカラオケのインスト・バージョン。
僕はシングルにカラオケ・バージョンを入れて価格を水増しする商業主義的なCDの売り方が嫌いで、大好きなエレカシがそういうことを平気でやっていることには渋い思いが否めないのだけれど、この曲の場合は宮本のボーカルをオーバーダビングしたコーラス部分がカラオケでもちゃんと入っていて、そのためにある種の歌モノの別バージョン的な聴こえ方をするのが妙におもしろかった。
(Oct 02, 2017)
Semper Femina
Laura Marling / LP / 2017
ロックの歴史を振り返ってみれば、そのほとんどが男性アーティストの名前で埋め尽くされている。僕は平均的なロック・ファンなので、当然これまでに聴いてきたアーティストは圧倒的に男性が多い。
ところが不思議なもんで、ここ十年くらいに限ってみると、僕が新しく好きになったアーティストの大半が女性だったりする。そのわけはいかに?――というのはまったくわからない。二十一世紀が女性の時代だから──なんてこともないだろうし。まぁ、たんなる巡りあわせかもしれない。
なんにしろ最近はほんとうに素敵な女性アーティストが多いので、ここからしばらくはお気に入りの女性アーティストの作品をとりあげます。
手はじめは、日本での知名度はいっこうに上がらないのに、僕個人にとっての存在感はぐんぐん上がるばかりのUKのフォーク・シンガー、ローラ・マーリングの6枚目のスタジオ・アルバム。
この作品はなんといっても先行シングルの一曲目『Soothing』のアレンジが秀逸。印象的なウッド・ベースのリフでぐいぐいと引っぱってゆくような、緊張感があって完成度の高いバンド・サウンドにしびれる。
この曲の方向性でアルバムが統一されているとしたら、ものすごくシリアスでテンションの高い作品になるんじゃないだろうか……と思っていたら、そうはなっていないのがミソ。その一曲だけが特別で、それ以降はこれまで通りの定番って感じの仕上がりになっている。だいたいのところはギターのアルペジオを中心に、ウッド・ベースやストリングス、電子ピアノで厚みを出した、柔らかな温かい音作り。でも曲によって音作りのバランスが微妙に違っている。
ドラムの入った曲もあまり多くなくて、バンド・サウンドで明確にロック寄りのアプローチをしてみせているのは、冒頭の一曲目と最後の『Nothing, Not Nearly』だけじゃないだろうか。でもって、きっちりと計算されたアレンジの一曲目とは対照的に、そのラスト・ナンバーはすごくラフで開放的。アルバム・タイトルが歌詞に出てくる最後から二番目の『Nouel』なんかはアコギ一本だけの弾き語りだし、要するに音作りはけっこうバラエティに富んでいて、アルバム・トータルでの明確なサウンド・コンセプトのようなものは特にない気がする。でもそのぶん、歌詞のコンセプトが明確らしい。
アルバム・タイトルはローマの詩人ヴェルギリウスの詩から引用したラテン語で、「女はいつもきまぐれ」というような意味とのことで、今回はアルバム全体がこの「女性性」をテーマにした歌で統一されているらしい。なるほど歌詞を気にしてみると、やたらと「She」とか「her」とかが出てくる。最初はそうと知らなかったので、「女性のことばかり歌っていて、もしかして彼女ってレズビアンだったっけ?」とか思ってしまったくらい(マーカス・マムフォードとの交際の噂とかあったから、そんなことはないと思います)。
僕はこのアルバム、奮発して限定版のアナログ盤で入手したのだけれど、そちらにはアルバム収録曲全曲のライヴ・バージョンを収録したボーナス・ディスクがついてくる(なおかつ、その音源も含めたダウンロード・コードもついてきて、至れり尽くせり)。そちらはライブなので、当然演奏はスタジオのそれよりもラフだけれど、でもそれはそれで違った味わいがあって、とてもよかった。
まぁ、なんにしろ、良質な音作りで女性をテーマに歌った本作。ローラ・マーリングは今回もとても素敵です。
(Oct 15, 2017)
Pleasure
Feist / CD / 2017
カナダのシンガーソングライター、ファイストの最新作。
このごろは特別に愛着のあるアーティストの新譜以外は、Apple Musicで聴いてよかったものだけ買うのがあたり前になっているのに、僕はとくに思い入れがあるわけでもないファイストのこの新譜を予約オーダーして買った。
なぜって? それは先行リリースされたアルバム一曲目のタイトル・トラック『Pleasure』がめちゃくちゃカッコよかったから。とにかくそのギターの音色が最高に好みだった。もしもアルバムがこの曲と同じ音作りでまるまる一枚仕上がってきたら、傑作になるのは間違いないと思った。
そしたらどんぴしゃ。まさに期待どおりの音がこのアルバムでは鳴っている。こと音響の好みで今年の一枚を選ぶならば、マイ・フェイバリット・サウンド・オブ・ザ・イヤーはこのアルバムで決まりだと思う。アルバム全編に鳴り響くメタリックでラフなギター・サウンドがほんと最高だ。
僕がファイストを聴くようになったのは、ご多分に漏れずアップルのCMで使われた『1234』を耳にしてからだけれど(もう十年も前の話なんですね)、でもその曲が収録されたアルバム『The Reminder』にはそれほど感銘を受けなかったし、つづく『Metals』も──こちらはかなり好印象だったにもかかわらず──なぜかあまり聴かずに終わってしまった。なので今回のこの新作をここまで気に入るとは正直思ってもみなかった。
いやぁ、とにかくこのアルバムのギターの音色はほんと最高~。決して技巧的にすごいわけではないけれど、それでもとにかくカッコいい。音楽スタイル的にはブルースではないにもかかわらず、古典的なブルースを聴くときと同様の感動がある。ジャキジャキとした金属弦の響きが深い情感をかきててくる。その感触はまるで女性版のジャック・ホワイトのよう。
CDに封入されたポスター・タイプの歌詞カードには、スタジオで胡坐をかいてアコギを弾く彼女のうしろ姿の写真が使われているけれど(これまた素敵!)、まさかこんなにもギターが似合う女性だったとは……。
いやぁ、驚いた。僕にとっては今年いちばんのサプライズ。
(Oct 16, 2017)
Mental Illness
Aimee Mann / CD / 2017
僕はエイミー・マンをフェイバリットと呼べるほどに聴いていない。前作『Charmer』はシンセ寄りの音がチープに感じられてしまってほとんど聴かなかったし、その後に出たサイド・プロジェクトの『The Both』はリリースされたことさえ知らずにいたくらいだった(遅ればせながら今年聴いた)。
なのでこの新譜もApple Musicで何回か聴けばいいかな……と思っていたら、これがなかなか気持ちよく。年とって白髪になったバーバママみたいなアートワークも気に入ったので、今回もやはりCDを買ってしまった。
いやでもこれ、音作りは過去でもっとも地味かもしれない。アコギやピアノの弾き語りに途中から控えめにバンドや弦楽が絡んでくる、みたいな曲ばかり。ドラムレスの曲もあるし、バラードばっかでダンサブルな要素は皆無。熱い血をたぎらせたいロック・ファンの聴くもんじゃないと思う。
でも、こういうアコースティックな生楽器の心地いい響きをバックに、けだるくハスキーなボーカルを聴かせてくれる女性たちの音楽って、ここ数年の僕にとっての泣きどころのような気がする。すっかり年をとったってことなのかもしれないけれど、じわっと胸が温かくなって、なんかもうたまりません。エイミー・マン素敵。
しかしこの人、俺より6つも年上なんだな。若々しくてすごい。あと3年で還暦とはとても思えない。
(Oct 30, 2017)