2017年7月の音楽

Index

  1. Peace Trail / Neil Young
  2. Dirty Projectors / Dirty Projectors
  3. In Mind / Real Estate
  4. Sick Scenes / Los Campesinos!

Peace Trail

Neil Young / CD / 2016

PEACE TRAIL

 今年の前半はエレカシの昔語りに時間を取られて、新譜の感想を一枚も書いてこなかったので、ここいら辺でその間に聴いていたお気に入りの新譜の紹介を。
 まずは去年の暮れにリリースされたニール・ヤングの最新作──って、すでに半年遅れだけれど。
 このアルバムについては、とにかくその音が好きだった。
 ドラムにジム・ケルトナー、ベースにポール・ブッシュネル(後述)、そしてギターがニール・ヤングというスリー・ピース・バンドによるシンプルきわまりない演奏ながら、そのシンプルな音作りがたまらなくいい。
 要はリズム・セクションのふたり。タムを多用したケルトナーのドコドコとした太鼓に、それを強調するようなモコモコとした音で控えめにベースを鳴らすブッシュネルのプレーのアンサンブルが秀逸。派手さはないけれど、味わい深くて最高。
 大御所のケルトナーさんはともかく、ポール・ブッシュネルという人については名前さえ知らなかったので、どういう人か調べたのだけれど、いまどき珍しくネットにも情報が少なくて、いまいちよくわからなかった。どうやら『ザ・コミットメンツ』という往年の映画のサントラを手がけて売り出した人で、その後はセッション・ミュージシャンとして活動してきたアイルランド人っぽい。最近では吉井和哉のソロ・バンドにも加わっていたらしい。おそらく年齢的には僕らよりちょっと上くらいなんだろう。
 要するにニール・ヤング氏よりはずいぶん下。そんな年下のベーシストと同世代の伝説的なドラマーと組んで、こういうシンプルで味わい深いアルバムを作ってみせるニール・ヤングって、やっぱいいよなぁと思う。
(Jul 02, 2017)

Dirty Projectors

Dirty Projectors / CD / 2017

Dirty Projectors

 ここしばらくはバンド体制で活動してきたダーティー・プロジェクターズが、自らのバンド名を冠したこの最新作では、ふたたびデヴィッド・ロングストレスのソロ・ユニットに戻ってしまった。なので音の傾向がここ三枚とは大きく異なっている。
 僕にとっては大きな魅力だった、手作り感あふれるバンド・サウンドから、密室性の高い打ち込み主体の音に方向転換。最初聴いたときには、これはちょっと違っちゃったかな……と思ったんでしたが。
 これが意外と──といっちゃうと失礼だけれど──いい。音の感触こそ前作までとは違うけれど、アレンジの妙で聴かせるそのセンスのよさは健在。音にしてもリズム系は打ち込み主体なんだろうけれど、単なる無機質な電子音とはちがう、温かみのある音に仕上がっている。
 コーラスワークの見事さも(今回はひとり多重録音ながら)やはり健在だし、中近東っぽい独特のメロディーセンスもあいかわらず(まぁ、その部分がとくに魅力ってわけではないけれど)。やはりこの人の作る音楽って、音楽としてとてもおもしろいなぁと思う。聴きかえしているうちに、これは無視できないなぁという気がしてきて、結局今回もCDを買ってしまった。
 スローな曲ばかりだし、聴いていてアドレナリンが出まくるタイプの音楽ではないけれど、それでも聴いているうちに音楽を聴く喜びがじわじわ湧いてくる一枚。
(Jul 30, 2017)

In Mind

Real Estate / CD / 2017

In Mind

 今年の「よもやCDを買うことになるとは思わなかったぜ」ってアルバムその二。2009年にデビューしたニュージャージー出身のオルタナ・バンド、リアル・エステートの四枚目のアルバム。
 ファーストをジャケ買いして以来、なんとなくフォローしつづけてきたバンドなんだけれど、これまでの三枚、どれをとってもちゃんと聴いたとはいえないので、このアルバムもApple Musicで一度聴いておしまいになると思っていた。
 だってバンド名が「Real Estate」ですよ? 日本語にすると「不動産」だよ? そんな名前のバンド、誰が聴こうと思うかって話で(まぁ、聴いてるんだけど)。
 ところが、そんなバンドのこの新作、なぜか今回にかぎって、僕はとても気に入ってしまった。ナチュラル・トーンのギターのアルペジオを中心とした、そのシャラシャラとしたサウンドが妙にいまの気分にマッチしたというか。なんだおい、気持ちいいじゃないか、このバンド!
 ほんと、突出した名曲があるわけではないんだけれど、全編にわたってブレなくつづく統一感のあるギター・サウンドがとても気持ちいい。このまったく力みのない中庸で涼しげな音は、蒸し暑い日本の夏にはもってこいかと思います。
 納涼的にもお薦めの一枚。
(Jul 30, 2017)

Sick Scenes

Los Campesinos! / CD / 2017

Sick Scenes

 これも我ながらCDを買ったのが想定外だった一枚。ロス・キャンペシーノスの6枚目。
 ロス・キャンペシーノスの場合、デビュー・アルバムで大いに盛りあがったものの、それ以降は可もなく不可もなくって感じだったので、今回はジャケットもいまいち好みじゃないし、とくに盛りあがることなく終わるんだろうと思っていたでしたが。
 ところがどっこい。そんな予想に反して、今作はひさびさにぐっときた。
 やっぱね、このバンドは明るくてスピード感がある曲がいい。あんまりゆっくりしたのは駄目。とにかく全力で楽しげに突っ走ってもらいたい。今回は一曲目からそういう勢いのある曲が並んでいる。そうこれだ、これが俺の聴きたかったロス・キャンペシーノスだっ!
 まぁ、なかにはゆっくりめの曲もあるし、音の質がそれほど高いとも思わないんだけれど、入り口でしっかりと気持ちをもっていかれているので、最後まで飽きることなく楽しく聴ける。僕にとってはファースト以来の彼らの会心作。
 ほんと俺はこういう軟弱そうで明るくて元気なバンドが大好きだ。
(Jul 30, 2017)