2017年11月の音楽

Index

  1. Lotta Sea Lice / Courtney Barnett & Kurt Vile
  2. MASSEDUCTION / St. Vincent

Lotta Sea Lice

Courtney Barnett & Kurt Vile / 2017 / CD

LOTTA SEA LICE [CD]

 去年そのギター・プレイで僕を魅了したオーストラリア人のギター・ヒロイン、コートニー・バーネットと、ペンシルバニア州出身のオルタナ・アーティスト、カート・ヴァイルとのコラボ・アルバム。
 男女の共作というと、ふつうならデュエットが聴きどころになりそうなところなのに、このアルバムは違う。いや、世界は広いから、もしかしたらそこに魅了される人もいるのかもしれないけど(もともと歌の上手さが売りのふたりじゃないと思うし、ハモったりもほとんどしていないんだけど)、少なくても僕にとっては違う。
 なんたってコートニー・バーネットの作品ですから。注目すべきはまずはそのギター。のみならず、カート・ヴァイルも過去のジャケ写ではギターを手にした写真が多いので、ギターを弾くことには人一倍のこだわりがあるんだろう。そんなふたりのコラボ作品だけあって、このアルバムの主役はとにかくギターだと思う。
 ただ特徴的なのは、そこで鳴っている音が、昔ながらのブルースやハード・ロックのギター・バトルとかじゃないところ。
 ふたりともどっちかというと力みのなさが魅力なタイプなので、音のほうはいたってローファイ。最初から最後までしゃらんしゃらんと脱力している。だからギターと聞いて、クラプトン的な泣きのソロや、ハードなエッジが聴いたディストーション・サウンドを期待したら期待はずれに終わる可能性大。
 でも技術うんぬん以前の話として、ギターの弦の響きがそれだけでもう好きでしょうがないという僕のようなタイプには、この音がたまらなく気持ちよかった。
 全体的に力が抜けまくった感じの作品ながら、そこでは二本のギターがきちんと自己主張しあいながら絡みあっている。ふたりのギタリストがおたがいの才能をぶつけあった結果としての、そこはかないテンションの高さがある。ところどころでわずかに火花が散っている。この感触がとてもいい。
 共作とはいっても、ふたりで一緒に曲を書いたりはしていないらしく、楽曲のクレジットはそれぞれ個人名義だ。ただ自分が書いた曲は自分で歌うとかいうこだわりはどちらにもないらしく、なかにはカート・ヴァイルが書いた曲をコートニーがひとりで弾き語りしている曲があったりもする。要するにそれぞれが書いた曲を持ち寄って一緒に演奏してみました、というような内容になっている。
 なんにしろ、この作品にはソロでは味わえない、コラボならではのうまみがある。最初にこういうアルバムが出ると知ったときには、正直コートニー・バーネットのソロ・アルバムのほうが嬉しいんだけれどな……とか思ってしまったのだけれど、いざ聴いてみたら、そんなことを思ったことが申し訳なくなるような気持ちのいい一枚だった。
(Nov 23, 2017)

MASSEDUCTION

St. Vincent / 2017 / CD

MASSEDUCTION [CD] (8-PANEL POSTER)

 現在のアメリカの音楽シーンにおいて、もっとも個性的な音楽を作っているひとりではないかと思います。セイント・ヴィンセントことアニー・クラークの六枚目のソロ・アルバム。
 先行シングルの『New York』がメロディ重視のオーソドックスなバラードだったから、アルバムも落ち着いたものになるのかと思いきや、さにあらず。できあがったアルバムは今回も衰え知らずで刺激的だった。
 基本的な音作りはコンピュータとサンプリングによるのだと思う(でもあまり機械っぽい感触はない)。曲調もアレンジも一曲一曲方向性が異なっていて、全体的にとてもバラエティに富んだ、カラフルな印象のアルバムに仕上がっている。
 この音楽性の多様さがこのアルバムの魅力。その多様性にはプリンスやカニエ・ウエストあたりに通じる才能の深みを感じる。それでいて、いまどき珍しく黒人音楽の影響をまったく感じさせないのがこの人のおもしろいところ。
 タイトルは日本語にすると「集団煽情」とでもなるんだろうか。どぎついピンクをバッグに自らのヒップを大胆にさらしたアートワークといい、おそらくセクシャリティをメイン・テーマにしたアルバムなんでしょう(わかっていないやつ)。
 とはいえ、先の『New York』みたいな感動的なバラードもあるし、タイトル・トラックには日本語の女の子の声で「政権腐敗」なんて政治的なキーワードが入っていたりするし、きっと歌われているテーマもその音楽性に負けず劣らず、多種多様そうな気がする(ちゃんと歌詞を読み解けないのは不徳の致すところ)。
 同時期に素晴らしい作品が重なってしまって、まだあまり深く聴き込めていないのだけれど、でも聴くたびに本当にこれはいいアルバムだなって毎回思う。ポップ・ミュージックを聴く喜びを最近ではもっとも強く感じさせてくれた一枚。
(Nov 29, 2017)