2016年12月の音楽
Index
- 人間開花 / RADWIMPS
- Blue & Lonesome / The Rolling Stones
人間開花
RADWIMPS / 2016 / CD+DVD
RADWIMPSを聴くようになって、今年で足かけ、はや十年。
この十年間に僕がもっともたくさん聴いたのは、洋楽邦楽ひっくるめて、間違いなくこのバンドだった。いま邦楽で新譜が出ると聞いて、もっとも楽しみだと思うのもそう。近年はエレカシの商業主義的な姿勢が強くなってしまって、僕の趣味からははずれつつあるので、なおさらラッドに期待する気持が強くなっている。
2016年はこのアルバムに先駆けて『君の名を。』と野田くんのソロがあったけれど、前者はサントラという性格上、普通のロック・アルバムとしては聴けないし、illionは打ち込み主体で英語も多いから、日本語のロック・サウンドの好きな僕のど真ん中を貫いてくれない。
もっと野田くんの日本語の新曲をいつもの音でたっぷりと聴きたい!──そういう思いが募ってきたところへ届けられたのが、このアルバムだった。
なので期待するなってのが無理な話。で、一聴してすぐに、やっぱ俺このバンド大好きだわ~と思った。まさに聴きたいと思ったRADWIMPSの音がたっぷりと聴けた。そういう意味では満足の一枚。
ただ、全体としての出来には不満はないんだけれど、楽曲的にこれすげー好きって思える曲もない。去年のシングルだった『'I' Novel』と『記号として』を聴いて、もしかしたらこれらがいちばん好きかもと思ってしまったくらい。過去のアルバムには一生モンって曲が必ずひとつはあったので、今回はそういう曲と出会えなかった点は、やや残念。
あえていえば、『光』、『トアルハルノヒ』、『週刊少年ジャンプ』、『棒人間』(うちの奥さんに「ビリー・ジョエルみたい」といわれて、なるほどと思った)、『告白』あたりは好きだけれど、わざわざアルバムから引っぱり出して、お気に入りのプレイリストに入れるまでにはいたらない感じ。――とはいえ、過去に「これいまいち」とか思った『タユタ』とか、いまではけっこう好きだったりするので、将来的にはわからない。
あと、今回のアルバムでは、『前前前世』と『スパークル』が『君の名は。』とは別バージョンで収録されているのが注目ポイントなわけだけれど、ではこの二曲が『君の名は。』のバージョンよりもよくなっているかと問われて、イエスとはいい切れないところも、もやもやポイント。
『前前前世』は一部の歌詞が違うだけで、全体の構成自体が変わっていないので、ほとんど変わった感じがしなくて、とくに可もなく不可もなくって感じなのだけれど、問題は『スパークル』で、こちらはどうにも『君の名は。』のダイジェスト版みたいな感が強くて、僕はいまいちだと思った。
とくに残念だったのは、映画版では一度しか出てこない「運命だとか、未来とか~」という歌詞が、こちらのバージョンではサビとして、三度も繰り返して歌われるている点。
僕はあれはクライマックスで一度だけしか聴けないところがいいと思っているので、こちらでは乱用しすぎな感あり。
まぁ、そこがいいという人も当然いるんでしょうが、佐野元春の『ガラスのジェネレーション』で「つまらない大人にはなりたくない」という決めフレーズが最後に一度だけ出てくるところがいいのと同じで、素晴らしいフレーズは一度だけのほうが余韻が残って引き立つケースもある。
僕は『スパークル』はそういう曲のひとつだと思っているので、あのパートは一回だけのままにして、映画版のいかにもサントラ的なインスト・パートを削って、もっとコンパクトにしたバージョンが聴きたかった(映画版はあいだにブレイクがあったりして、ちょっと長すぎるので)。そういうのが聴けていれば、文句なしにこのアルバムのマイ・フェイバリット・ナンバーになっていたと思う。それが聴けなかったのが、僕的にはこのアルバムでもっとも残念な点。
まぁ、とはいえ、2016年の日本のアルバムで、僕がアルバム単位でもっともたくさん聴いたのは、間違いなくこの作品だ(洋楽はレディオヘッド、楽曲だと『なんでもないや』)。繰り返し聴いているうちに、最初はどうかと思ったこのジャケットの女の子もいつのまにか、かわいいと思うようになっていたりする。
このジャケットを飾っているモトーラ世理奈という女の子、なんとうちの子と同い年で、誕生日も一週間と違わないらしい。自分の娘と同じころに生まれた女の子が大好きなアーティストのジャケ写を飾っているという事実に、ちょっぴり考えさせられたりするこの年の瀬だった。
(Dec 30, 2016)
Blue & Lonesome
The Rolling Stones / 2016 / CD
ローリング・ストーンズ11年ぶりの新作は、全編ブルースのカバー・アルバム。
いまさらストーンズの新譜が聴けるってだけで、内容うんぬんの前に、手放しで祝杯をあげたくなるわけですが、その出来がいいとなれば、なおさらのこと。
いやぁ、なんすか、この元気さは。ブルースのカバーだとかいって、ぜんぜん枯れてない。そのやんちゃな演奏は若いころそのまま。ちょっと前に出たヴァン・モリソンの新譜を枯れたなーとか思って聴いたあとだけに、ここでの四人の演奏は衝撃的ですらある。七十すぎてこんなに元気な老人たちがいていいんでしょうか?
僕はブルースってかじった程度で、とくに愛着も知識もないから、ここにずらりと並んだブルース・ナンバーを深く聴き込むどころか、そのタイトルさえ覚えられなかったりする駄目リスナーだけれど、それでもこのアルバムでストーンズの面々の奏でる音を聴くと、素直にいいなぁって思わずにいられない。
乏しいながらもバンドを組んでギターを弾いていた僕の経験からすると、ブルースって聴くよりもむしろ演奏するのが楽しいわけです。あの反復されるリズムにあわせて、バンド仲間とともに延々とスリー・コードでリズムを刻んだり、ペンタトニックで好き勝手にフレーズを紡いだりしているのって、ほんと楽しい。
このアルバムにはそういうバンドとして音楽を演奏する楽しさがあふれている。七十過ぎてなお、商売抜きで純粋に音楽を楽しんでいるってのが伝わってくる。それがなにより素敵だと思う。人生の終わりも近くなってから、こういう作品をさらりとリリースしてみせるストーンズって、やっぱり特別だなぁって思いました。
このアルバムを聴いていたら、ひさしぶりにバンドがやりたくなってしまった。
(Dec 30, 2016)