2016年11月の音楽
Index
- P.Y.L / illion
- Unfaithful Music & Soundtrack Album / Elvis Costello
- Chapter & Verse / Bruce Springsteen
- PUNKY / 木村カエラ
P.Y.L
illion / 2016 / CD+DVD
野田洋次郎のソロ・プロジェクト、illionのセカンド・アルバム。
海外進出を前提とした前作とは違って、今回はあまり海の外のことは気にしてない感じがする。英語の曲が多いけれど、日本語の曲もそれなりにある。とくに言葉にはこだわらず、創作意欲のおもむくまま、RADWIMPSとは違った形で自分自身の音楽と向きあった結果として生まれた音楽なのかなと思う。
音作りは打ち込みでいま現在の洋楽シーンの最新モードをなぞった印象。前作では『BEEHIVE』のように、そのままRADWIMPSに持っていってもよさそうな曲があったけれど、今回はそこはきっちりと分かれているように思う。あちらでやれることはあちらで、ソロはソロで別のことをって感じ。
とにかく、あまりコンセプトには縛られずに、いまの自分の内側から溢れ出てくる音楽を、いま現在の音楽シーンの方向性にのっとって表現してみたという作品なんだろう。
あえてなにに似ているかといえば、トム・ヨークのソロっぽい。あそこまで緻密な構築性は感じないけれど、ゆっくり静かな鍵盤のバラードとエレクトロニカが同居しているところに似た感触がある。
ボーナス・ディスクに収録されているのはファースト・アルバムのMVやライヴ映像が中心。このアルバム自体、もともとシングルとしてリリースする予定が、レコーディングの過程でふくれあがってアルバムになったという話のようだし、RADWIMPSの課外活動で生まれた音やらなにやらを、ここらでひとつにまとめて出しておこうという、棚卸し的な作品なのかなという印象を受けた。
ライヴ映像ではギタリストが元・東京事変の浮雲だったり、野田くんがWiiリモコンを演奏に使ったりしていてびっくりしました。
(Nov 05, 2016)
Unfaithful Music & Soundtrack Album
Elvis Costello / 2016 / CD
エルヴィス・コステロが自叙伝の出版にあわせてリリースしたコンピレーション・アルバム。一年以上前にリリースされた作品をいまさらながらちょっとだけ。
なんといっても聴きどころは未発表曲2曲──といいたいところだけれど、これがとくに大騒ぎするほどのものではなく。
そのうち1曲はボブ・ディランにまつわる企画アルバムのアウトテイクで、歌っているのは大半べつの人だし、もう一曲はデビュー前の弾き語りのホーム・レコーディング音源(しかもノイズ入り──とはいえ、素人と思えない歌唱力)。あとは『Stranger in the House』がジョージ・ジョーンズという人(誰?)とのコラボ・バージョンなのがレアなくらいで、そのほかの音源は当然すべて持っている。
こういうアルバムは現状だとスルーしないといけないと思うんだけれど、でもそこはコステロ先生の作品。やっぱり無視しきれなかった。しばらく我慢していたのだけれど、気になって、けっきょく買ってしまった。
でも、このアルバムが思いのほかおもしろい。曲順の理由とかさっぱりわからなくて、聴いていて次になにかかかるか予想がつかないところがいい。先生のライヴを観ているのに近い感覚で、とても新鮮に楽しく聴ける。
『Accidents Will Happen』がピアノ伴奏のライヴ・バージョンだったり、『Veronica』がデモ・バージョンだったりするので、コステロ入門のためのベスト盤として聴くには適さないし、そういう点でも、これはまさにコアなコステロ・ファン向けのアルバムだと思う。うん、買って悔いなし。
(Nov 05, 2016)
Chapter & Verse
Bruce Springsteen / 2016 CD
もう一枚、こちらも同じくブルース・スプリングスティーンの自叙伝連動アルバム。最近、英米ではこういうのが流行っているらしい。
コステロのアルバムと違って、このアルバムは意外とレア度が高い。冒頭5曲がデビュー前のアマチュア・バンド時代の音源。それもソロではなく、The Castiles(カスティリヤス?)とか、スティール・ミルというバンド名義。これらの音源がいかにも60年代のビート・バンドに70年代のブルース・ロック・バンドって感じで、意表をついている。おぉ、ボスって若いころ、こんなバンドやってたんだ。
おもしろいのは4曲目、そのものずばりザ・ブルース・スプリングスティーン・バンドの音源。それまでは「これって本当にスプリングスティーンが歌ってんのかな?」と思うようなナンバーなのが、この曲からいかにもこれぞって感じになる。でも、演奏自体はその後のEストリート・バンドでは聴いたことがないくらいスライド・ギターがぎゅんぎゅん鳴っていて、南部ロック色が強い。このミスマッチが新鮮。
そのあとに弾き語りの未発表曲を一曲はさんで、6曲目以降はデビュー後の音源となる(ただし『Growin' Up』は弾き語りバージョン)。
曲順不明だったコステロ先生とは違い、ボスの場合はオーソドックスにリリース順。それも各アルバムから1曲だけをセレクションするという企画になっているのがポイント。
つまり『Born to Run』からはタイトル・ナンバーの1曲だけで、『Thunder Road』も『Jungle Land』も収録されていない。『The River』も『Born in the U.S.A.』もおなじくタイトル曲だけ。『Hungry Heart』も『Dancing in the Dark』もなし。『Nebrasca』にいたっては、なぜか『My Father's House』という謎かつ激渋な選曲になっている。
そんなわけで代表曲と呼べる曲がいろいろと抜け落ちているので、これもコステロ先生のそれと同じく、入門用のベスト盤には向かない。
とはいえ、この各アルバムから1曲だけ、そのかわりデビュー・アルバムから『Devils & Dust』まで──ただし同時リリースされた『Lucky Town』と『Human Touch』はあわせて一枚の勘定として──律儀にちゃんと1曲ずつ選曲してあるってのが、意外と味わい深い。一作一作、大切に作ってきましたって、作り手の誠意が伝わってくる。スプリングスティーンという人が音楽に向かう真摯な姿勢がよく表れていると思う。
ちなみにアルバムの最後だけは──おそらく収録時間の都合で全アルバムからは選べなかったらしく──アルバム3枚をぶっとばして『Wrecking Ball』となってます。でもこれは最近のボスではいちばんキャッチーな曲なので、あぁと納得。これはこれでとてもいい終わり方だと思う。
(Nov 05, 2016)
PUNKY
木村カエラ / CD / 2016
Apple Musicで聴けばいいやと思って発売日をスルーしたにもかかわらず、発売と同時には聴けるようにならなかったので、ついつい気になって買ってしまった木村カエラの新譜(リリースから一ヶ月が過ぎたいまはもう聴けるようになっている)。
でもこれはよかった。予想以上に好きだった。買って後悔なし。
今回のアルバムは、第一期東京事変のキーボーディストだったヒイズミマサユ機こと、H ZETT Mとのコラボが出色。高速で転がるような彼のピアノが、カエラさんの伸びやかな歌声とベスト・マッチしている。彼のピアノが音作りの中心となっていることで、前作、前々作のシンセっぽさが抜けて、サウンドがより僕好みになっているのも魅力。
まぁ、歌の世界は『PUNKY』というタイトルから連想するほどパンキッシュで反抗的な印象ではなくて──というか、それどころか『みんなのうた』系の「こども向け?」って思ってしまうような歌詞が多くて、そこはややこそばゆいんだけれど、カエラさんもいまや二児の母なのだそうだから、その辺は親としての価値観が反映された結果なんでしょう。なので、あえてつべこべいわない。
とにかく『僕たちのうた』、『PUNKY』、『BOX』といったパンキッシュな高速ナンバーがひたすら気持ちいい。こんなにBPMの高いナンバーがたっぷりと入った女性のアルバムって、あまりないのではないかと思います。そこが僕的にはとても貴重。
ヒイズミ氏の曲ではないけれど、『恋煩いの豚』も(童謡みたいな歌詞はともかく)スピード感のあるスカ・ナンバーでとても好きだ。あと、カエラ作品ではおなじみの AxSxE という人──僕のマイ・フェイバリット・カエラ・ナンバーはほとんどがこの人の作曲だったりする──による『SHOW TIME』が、今回も僕のつぼ。
まぁ、個人的には『おばけなんかないさ』は入れないほうがよかったと思うし、そのほかにもこれはちょっと……と思う曲がなくはないけれど、それでも上にあげた曲だけで十二分に盛りあがれる。僕にとってはこれぞポップという好作品。
(Nov 27, 2016)