2012年6月の音楽
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- MASTERPIECE / エレファントカシマシ
MASTERPIECE
エレファントカシマシ / CD / 2012
自ら「傑作」と銘打ったエレファントカシマシ通算20枚目のオリジナル・アルバム。公式には21枚目といっているようだけれど、ミニ・アルバム『DEAD OF ALIVE』をアルバムとしてカウントするのはなしだと思うので、ここではあえて20枚目とする。
まずは再生したとたんに、一曲目『我が祈り』のアグレッシブなハード・ロック・サウンドに驚く。いきなりうるせ~。先行シングル2枚の聴きやすい音作りから予想していた中庸さを裏切る、この馬鹿でかいロック・サウンドがいい。それでこそ宮本。
さらに2曲目の『Darling』。「桑田か!」ってつっこみを入れたくなるようなタイトルのこの曲では、まったく逆方向のアプローチを見せて意表を突く。驚くことにストリングをフィーチャーした音作りといい、可愛らしい曲の雰囲気といい、まさしく桑田佳祐を連想させるのだった。エレカシを聴いて桑田を思い出す日がくるなんて、思ってもみなかった。
でもこの曲が意外といいんだ、僕の好きなエレカシとはぜんぜん違うにもかかわらず。ライブではおなじみの金原・笠原のストリングス・コンビにご参加ねがってポップに仕上げたその音の感触が、エレカシならではの適度なまとまりのなさとあいまって、桑田に似ていながら、それでいてあそこまでウェルメイドでないという、絶妙のさじ加減に仕上がっている。しかもこれ、宮本の単独プロデュースだ(過半数の曲は蔦谷くんやYANAGIMANが参加している)。僕はそのことにちょっぴり感動した。いまや宮本ひとりでもこういうポップ・ソングが作れるんだと。
この2曲を両極端として、3曲目以降にはシングル曲を並べて、そのあとにキャニオン時代を思い出させる『ココロをノックしてくれ』や、『真冬のロマンチック』のニューバージョンみたいなロックン・ロール・ナンバー、『穴があったら入いりたい』(送り仮名の「い」が余計なのはなぜだ)などがあり、宮本得意の弾き語りを珍しく気どったタイトルに乗せた『七色の虹の橋』をへて、シングル『ワインディング・ロード』のあとに、ふたたび一曲目と双璧をなすラウドなロック・ナンバー『世界伝統のマスター馬鹿』(タイトル最高)を持ってきて、最後は『飛べない俺』でしんみりと締めると。
僕には宮本がこのアルバムを『MASTERPIECE』と名付けた訳がわかる気がする。ここには音作りの面でも、楽曲の質の面でも、これまでにエレカシがやってきたことが様々なバリエーションで収められている。硬軟とりまぜ、シリアスな面とコミカルな面がきちんと同居している。その音楽性やメッセージの多様性という意味では、エレカシ史上いちばん豊かなアルバムかもしれない。そこが「傑作」の「傑作」たるゆえんだろう。でも、そんなキャリアの集大成ともいえる内容であるにもかかわらず、ここが終わりじゃない、まだまだ道は先へつづいてゆくんだとも思わせる。そこんところが素晴らしい。
僕自身にはこれよりも好きなエレカシのアルバムが何枚もあるけれど、作品を作り上げたことに対する本人たちの充実感がしっかりと伝わってくる点で、このアルバムはとてもいい作品だと思う。
(Jun 17, 2012)