2010年1月の音楽

Index

  1. Phrazes for the Young / Julian Casablancas
  2. Jukebox / Cat Power
  3. Contra / Vampire Weekend

Phrazes for the Young

Julian Casablancas / 2009 / CD

Phrazes for the Young

 ストロークスのボーカリスト、ジュリアン・カサブランカスのファースト・ソロ・アルバム。
 僕は特別ストロークスのファンではないけれど、とりあえずデビュー当時からフォローし続けてはいるし、たまたま聴いたストロークスのギタリスト、アルバート・ハモンド・ジュニアのソロ・アルバムもとてもよかったので、こうなるとフロントマンのソロ・アルバムを聞かないって選択肢はあり得ない。
 なによりこのアルバムはジャケットがカッコいい。少なくても僕はとても気に入った。なぜだか犬がいるのもいい(犬ジャケ好き)。これなら、もしかしたらストロークスのネーム・バリューがなくてもジャケ買いしたかもしれない。
 ただし、肝心の音のほうはというと、正直なところ平均的な出来という感じ。チープ&カラフルなシンセサイザーが彩りを添えたギター・サウンドはいかにも最近のニューヨークらしいけれど、時代を揺るがすような革新性はまったく感じられない。ストロークスという00年代を象徴するバンドのフロントマンの処女作としては、やや期待はずれかなという気がする。
 とかいいつつも、じつは僕はこのアルバムがけっこう気に入っている。変にきばって時代を背負ったりしていないところが、逆に気持ちいい。けっしてすごいとは思わないのだけれど、それでいてなんとなく繰り返し聴きたくなる好作品。これはこれでありだと思う。
(Jan 20, 2010)

Jukebox

Cat Power / 2008 / CD

Jukebox

 名前は知っているけれど、音は知らないというアーティストはたくさんいる。
 名前も音も知っているけれど、好みじゃないから聴いてないというアーティストもたくさんいる。
 でも、音楽的にとても好きなタイプなのに、デビューから10何年かたつまで、名前さえ知らなかったというケースは、ちょっと珍しい。
 つい最近来日公演があったばかりの、このキャット・パワーという女性がそう。
 最初におっと思ったのは2年前、ボブ・ディランの伝記映画 『アイム・ノット・ゼア』 のサントラで彼女の歌を聴いたときだった。歌っているのが大好きな 『スタック・インサイド・オブ・モービル・ウィズ・ザ・メンフィス・ブルーズ・アゲイン』(タイトル長い)だったというのもあるけれど、それ以上にそのボーカルに惹きつけられた。
 シャウトを知らないPJハーヴイーというか、信仰に無関心なシンニード・オコーナーというか。カウボーイ・ジャンキーズも思い出させる。とにかく、その手のけだるい声に、いかにもオルタナティヴなギター・サウンド。これがとても好みだった。
 で、調べてみればこの人、その時点ですでに10年以上のキャリアがあり、アルバムが8枚も出ている。なんでいままで知らないでいたんだろうと、不思議になってしまった。
 ともかく、それ以来ずっと気になっていたキャット・パワーを、つい最近になってようやく聴いた。彼女が2年前に発表した最新作が、このカバー・アルバム。
 カバー・アルバムといっても──でもって、おしゃれなジャケット・デザインにもかかわらず──、収録されているのは、僕なんかが知らない渋い曲ばかりだ。一曲目の 『ニューヨーク』 はシナトラで有名なやつらしいけれど、これのどこがシナトラなんだって感じだし、そのほかボブ・ディランとジャニス・ジョプリンのナンバーがあるのに、そうとわかんないあたりが、われながら情けない。
 とにかく、これがもうめちゃくちゃ渋かった。なんで知らずにいたのか不思議だったけれど、もしもオリジナル作品がこの手の音楽ばかりだったらば、そりゃわからなくもないやと思ってしまった。これはあまり日本のラジオとかでは、かかりそうにない。
 とはいえ、そんな地味な楽曲ばかりながら、やはりこの声はとても好きだ。それに加えてシンプルなバンド・サウンドもとてもいい響き具合だし、この声と音だけで要チェック。これはもう残りの作品すべてをフォローしとかなきゃという気にさせられた。
 ということで、またひとりフォローすべきアーティストが増えて困ったぞと。そういう話でした。おそまつ。
(Jan 21, 2010)

Contra

Vampire Weekend / 2010 / CD

Contra

 なんとインディーズ盤にしてビルボード初登場一位という偉業をなし遂げたヴァンパイア・ウィークエンドのセカンド・アルバム。まさかここまで人気があるバンドだとは思っていなかった。いやはや、びっくりだ。
 正直なところ、僕はこのバンドのファーストをまったくいいと思わなかった。ジャケットが気に入ってCDこそ買ってみたものの、その当時のニューヨークの音楽シーンに対する知識がなかったこともあって、「なんだこのへなちょこなバンドは」と思って、軽くスルーしてしまった。その後サマソニで観ても印象は変わらず。「生で見てもやはりへなちょこだなぁ」と思って、それきりだった。
 ただ、その後に遅ればせながらアニマル・コレクティヴやグリズリー・ベア、ダーティー・プロジェクターズなどを聴いて、現在のニューヨークの音楽シーンをある程度理解して初めて、このバンドの音楽性のありかたが腑に落ちた。ああ、なるほど。まわりにこういう音楽があったからこそ、こういう音が生まれてきたのかと、妙に納得してしまった。
 そんな僕の側の変化もあったからか、このセカンドはファーストよりも断然、印象がいい。音の方向性はそのままながら、ファーストで受けた高評価に自信を深めて、以前よりも力強さが増した印象。骨が太くなったというか、もともとポジティブでカラフルな音が、さらに彩りよくなり、輪郭がはっきりした感じ。このところデビュー後に停滞してしまう新人バンドが多い気がしていただけに、きちんと成長の跡がみてとれるこの新作は、とても好印象だった。
(Jan 31, 2010)