2009年12月の音楽
Index
- Grace and the Bigger Picture / Johnny Foreigner
- Balm in Gilead / Rickie Lee Jones
- Embryonic / The Flaming Lips
- 君にサヨナラを / 桑田佳祐
Grace and the Bigger Picture
Johnny Foreigner / 2009 / CD
去年のサマソニで来日して素晴らしいステージを見せてくれたUKの白黒男女混声スリー・ピース・バンド、ジョニー・フォーリナーのセカンド・アルバム。
すでに発売から一ヵ月以上になるのに、アマゾンUKを見ると、いまだにひとつもレビューがないので、本国ではほとんど売れていないらしい。おっかしいなぁ、なんで売れないんだろう。やかましくて明るくて最高なのにと思う。
基本的に僕は売れ線のものにしか反応しない、かなり平凡な趣味をしているという自己認識があるので──まあ、あまり音楽を聞かない人からしてみると、お前はいったいなにを聴いているんだと思われてしまうのかもしれないけれど──、自分が気に入ったバンドがここまで売れてないというのは、かなり意外だったりする。
まあ、バンド名はなんとなくあか抜けないし、曲名も長くて覚えにくいのが多いので、もしかしたらその辺の言語感覚の問題で、ネイティヴなイギリス人の鼻につくなにかがあるのかもしれない。
なんでも「ジョニー・フォーリナー」というのは、イギリス人が外国人を揶揄するときの呼び方だそうで──なんだったか忘れたけれど、この前読んでいた小説にも出てきて、おっと思った──、どこぞのインタビューでギター・ボーカルのアレクセイが、「うちのお祖父ちゃんがそう言っているのを聞いて、おもしろいなと思ってバンド名にした」みたいなことを言っていたので、あまり若い人は使わない言い回しなんだろう。確かにあまりロックな感じはしない。僕がミスチルやドリカムをバンド名のせいで敬遠しているように、それがブレイクの妨げになっていやしないかと、あらぬ心配をしたくなってしまう。
まあ、売れないバンドを好きになって、「僕だけのもの」みたいな感じで悦に入るのも楽しいかもしれないけれど、末長くつきあうには、やはり最低限のポピュラリティーは必要不可欠だ。好きになったバンドが、売れなくて明日には解散なんて憂き目にあうのは見たくないので、ぜひともブレイクして欲しいと思う。マジで。
とはいえ、ファーストと比べてこのセカンドで大きく飛躍を遂げたという感じもないので──というか、音楽的にはほとんど前作と変わらない気がする──、やはり現状のままではブレイクは難しいのかなぁと思う。願わくば、いずれは単独での来日公演ができるくらいになってくれると嬉しいんだけれど。
(Dec 09, 2009)
Balm in Gilead
Rickie Lee Jones / 2009 / CD
記憶にあるかぎり、僕が洋楽で初めて自分から聴きたいと思った女性アーティストがこのリッキー・リー・ジョーンズだった。84年のサード・アルバム 『The Magazine』 の来日公演のときに、ラジオCMでかかっていたナンバー── 『Juke Box Fury』 か 『It Must Be Love』 だったと思う──を聴いて「おおっ、この人カッコいい」と、ひと目惚れならぬ「ひと聴き惚れ」したのが最初。
そのころは自由にレコードを買える金がなかったので、きちんと聴いたのはその後、何年かしてからだったけれど、以来もっとも気にかかる女性アーティストのひとりとなっている。まあ、きちんと聴いたと言いきれない作品も多いんだけれど。
これはそんな初恋の人ともいうべきリッキー・リー・ジョーンズの新作。かなりアコースティック色が強く、ドラムが入っていない曲も多いので、印象は地味だけれど、いつも通りその音楽は良質だ。1曲目の 『Wild Girl』 の跳ねるようなリズムとか、5曲目の 『Eucalyptus Trail』 のピアノのイントロの音色とか、初期のころを思い出させる感触の曲もあって嬉しい。
全体的にはアメリカン・ルーツ・ミュージックにのっとって、いろいろやってみましたという印象。3曲目の 『Remember Me』 がカントリー、4曲目の 『The Moon Is Made of Gold 』 がジャズ・ボーカル、7曲目の 『The Blue Ghazel』 がインストのブルース・ナンバー、さらにはヴァン・モリソンがやりそうなトラッド風のナンバーが何曲かという感じ。みずからが生きる台地(アメリカ)の恵みを吸い上げて、自分なりの花を咲かせてみました、といったような作品だと思う。
まあ、なんにしろ初恋の人ですから、これはもう、つべこべいわず聴かないといけなかろうと。僕にとっては、そういう作品。
(Dec 15, 2009)
Embryonic
The Flaming Lips / 2009 / CD
今年の僕の音楽生活を語る上において──ってまあ語りゃしないけれど、あえて語るとしたならばということで──、なくてはならない存在だったフレーミング・リップス。彼らがサマソニのあとにリリースした最新作がこれなんだけれども……。
しっかしこれがまた、僕が好きになったこのタイミングで、なんでこういう作品が飛び出してくるのかなぁと思ってしまうようなヘビーな内容になっている。
とにかく重くて暗い。前作までの明るさは皆無。太いベースのリフひとつでぐいぐい引っぱってゆくような単調な曲ばかりが並んでいて、非常にとっつきにくい。
にわかファンだから昔からの流れはよくわからないけれど、基本的な音の感触は変わっていない気がする。妙なレトロ感のあるオルタナ・サウンドという点では一貫していて、方向性のぶれはなさそうに思える。ただし、その音が表現する方向性が見事に違っている。
このバンドの音にはひと昔前の特撮映画のようなキッチュな感触があると思うのだけれど、前作までのそれがウルトラマンだったとしたら、今回はウルトラQみたいな感じ。つまりヒーロー不在で、痛快さよりは歪みが表面化している。陰鬱でヘビーなビートの裏に、得体の知れない怒りが渦巻いている。
なんでこんなことになっちゃったんだろう。サマソニで巨大なビーチボールに入り込んで、オーディエンスの上を転がりまわっていたウェイン・コインを見ているだけに、このシリアスな変貌ぶりにはとまどってしまう。
でもまあ、ダブル・アルバムにするつもりだったのに、「2枚組にすると日本じゃ高くなると聞いたので、1枚にした」なんて語るウェイン・コインは、とても誠実でいい人なんだろうと思う。なんにしろこれに懲りず、このバンドはこれからきっちりとフォローしてゆく所存。まずはその前に旧譜をコンプリートしないといけない。
(Dec 16, 2009)
君にサヨナラを
桑田佳祐 / 2009 / CD
僕にはかつて、サザンがデビューした時からのファンだというディープな友達がいたため、長いこと「サザンは自分で買って聴くものじゃない」という思い込みがあった。
なんたって中学、高校のころは貧乏で、好きなだけレコードを買うなんてわけにはいかなかったし、よほど思い入れのあるアーティストでもない限り、友達が持っているレコードは借りて聴くのが当然だった(コピーにうるさい最近の音楽業界の人からは怒られそうだけれど)。
で、若いころの習慣ってのは根強いもので、長じてある程度、自由にCDが買えるようになってからも、サザンだけは自分で買うものじゃないという感覚が抜けなかった。かといって社会人ともなると、そうそう友達と遊んでばっかりもいられない。友達と会わないとサザンが聴けないなんてのも、不自由で仕方ない。そもそもいまさらテープやCD-Rなんてのも味気なくて嫌だ。というわけで、ある時期に僕はサザンのCDをどっとまとめ買いした。
それでもなお、シングルだけは買わなかった。なぜって、すでに50枚を超えるシングルが出ていたから、一から揃えるのは経済的に無理があったし、それ以上にそれらをまとめたコンピレーションを出さず、いまだにシングルを単品で買わせようというサザンの姿勢がやたらとあこぎに思えたからだ。
キャリアの長い人には長い人なりの責任ってもんがあると思う。いまさら新しいファンにシングル50枚も買わせるってのは酷な話だし、なおかつ地球にも優しくないでしょうよと。さらに、僕は基本的にコレクター気質が強い、「毒を食らわば皿まで男」なもんで、いまさら中途半端にシングルを集めるのも嫌だという思いもあった。そんなわけで、僕は長いことサザンのシングルは買わないぞと思っていたんだけれども……。
いやぁ、いい加減、根負けしました。だって、去年の30周年ライブのセットリストを iPod で作って聴こうと思ったら、持ってない曲がたくさんあるですもん。全部聴きたいぞ、ちくしょう。いちおう30周年ということなんで、しばらく待っていたら記念でコンプリート・シングルズとか出ないかなぁ……と淡い期待を込めて待っていたけれど、期待むなしく。サザンの活動休止騒動もひと段落して、桑田のソロ活動が始まってしまった。
こうなりゃもう仕方ない。30年以上の長きにわたって日本のトップ・バンドとして音楽シーンに君臨してきた快挙に敬意を表して、つまらない意地を張るのはやめることにした。で、今年になって10枚ほどサザンのシングルをまとめ買いしました。いまさらすべては買えないので、とりあえず好きな曲やライブの定番曲をチョイスして。あと、これから出るサザンと桑田佳祐のシングルはすべてフォローすることに決めた。
ということで、個人的にけっこう感慨深い思いでもって購入したのが、この最新ソロ・シングル。収録曲は3曲とも音的にあたり障りがなくて、音響面ではやたらともの足りないのだけれど、おなじみの桑田節ともいうべきメロディの冴えはあいかわらずで、繰り返し聴いていると、やはりぐっとくるものがある。ほんといい曲書くよなぁと感心してしまう。
メロディのよさというか、メロディに言葉を乗せるうまさという点では、『声に出して歌いたい日本文学』 が強烈だ。テレビ番組 『音楽寅さん』 の企画をそのまま収録した楽曲なのに、映像ぬきで音楽だけ聴いていてもまるで退屈しない。これだけの品質とボリューム(なんたって17分もある)の楽曲を、よくもまあテレビ番組の企画のためにさらっと書けるもんだと、感心するのを通り過ぎて、呆れてしまうくらい。
とくに与謝野晶子の 『みだれ髪』 を歌った部分のメロディの美しさが秀逸。この部分だけでも、あまたのソングライターが一生かかっても書けないくらいのすごさがあると思った。いやぁ、美しすぎて、鳥肌もんでした。
それにしても、ほんとこの人はすごすぎる。世の中、三十代にしてリスナーから脱落してしまう人が大半だというのに、作り手の側が五十代にしてこれだけの創作意欲があるってのは、はんぱじゃない。
若いころから親しんできているので、スポーツ選手なんかを呼ぶときと同じ感覚で「桑田」と呼びつけにするのが習慣になっているけれど、なんだか最近は「桑田さん」とか「桑田先生」とか呼ばないといけないような気がしてきました。
(Dec 30, 2009)