2007年1月の音楽

Index

  1. Born in the U.K. / Badly Drawn Boy
  2. We Are Little Barrie / Little Barrie
  3. The Sweet Escape / Gwen Stefani
  4. The Peel Sessions 1991-2004 / PJ Harvey
  5. Antidepressant / Lloyd Cole
  6. Supply and Demand / Amos Lee
  7. Love / The Beatles

Born in the U.K.

Badly Drawn Boy / 2006 / CD

Born in the UK

バッドリー・ドローン・ボーイもこれがもう5枚目。ずいぶんひさしぶりの新譜のような気がしていたけれど、調べてみたら、前作からまだ2年しかたっていなかった。
 この人の場合、デビューから4年で4枚のアルバムをドロップしているので、勝手に多作な人というイメージを持ってしまっていたけれど、2000年のデビュー後は、映画『アバウト・ア・ボーイ』のサントラだった2枚目を例外として除けば、あとは2年に1枚という標準的なリリース・ペースで活動を続けているようだ。
 とにかくこの人は現在のUKシーンではもっともポップ・センスのあるソロ・アーティストだと思う。スプリングスティーンに真っ向勝負を挑むようなタイトルのわりには、今回はこれだという決め球になるようなナンバーはないけれど、それでもこの人ならではの優しいメロディラインと繊細で温かみのあるアレンジメントは健在だし、決してわるくない。
(Jan 11, 2007)

We Are Little Barrie

Little Barrie / 2006 / CD

We Are Little Barrie

 去年デビューしたUKのスリーピース・バンド、リトル・バーリーのファースト・アルバム。
 リリース当時に1曲目の "Free Salute" がヘビーローテーションでかかっているのを聴いて、「おっ、これは」と思いつつ、その時はけっきょく見送ってしまった作品だった。なぜって、本国UKではあまり話題になっていなかったからだ。NME.COMにはまったく情報がなかったし、Amazon.co.ukのレビュー数もいまだに十件。いままでにいくつものバンドが現れては消えてゆくのを見てきた身としては、本国できちんと評価されていないバンドに手を出すのは気が進まない。それでなくても聴かなくちゃいけないCDは多いのだし。
 でもこのバンド、夏フェスへの出演などもあって、その後も日本ではけっこう人気があるみたいだ。中心人物のバーリー・カドガン君は去年のプライマル・スクリームの来日公演でサポート・ギタリストを務めていたらしいし、調べてみたらCDがやたらと安くなっていたので、いまさらながら聴いてみようという気になった。
 で、聴いてみるとこれがかなりいい。特別なことはせず、ただひたすら60年代しまくっているだけなのだけれど、それでも古さを感じさせないのは、エンジニアの腕前か、はたまたアーティストの自意識のたまものか。とにかく録音が最高にいい。こりこりとした絶妙なひずみ具合のギターの音色がとても好きだ。もしも自分がバンドをやっていて、こんな音のレコードを作れたなら最高だろうなと思う。
(Jan 11, 2007)

The Sweet Escape

Gwen Stefani / 2006 / CD

Sweet Escape

 映画『サウンド・オブ・ミュージック』の挿入歌『ひとりぼっちの羊飼い』から引用したヨーデルと最新ヒップホップ・ビートのミスマッチが楽しい先行シングル "Wind It Up" が収録されたグウェン・ステファニーのソロ第二弾。特別好きでもないのに、「ヨロレイヨロレイ」というヨーデルが頭に残ってしまって困っている。
 個人的にはノー・ダウトの『Tragic Kingdom』に感心して以来、とりあえずフォローし続けているけれど、現状の音楽性に対する思い入れはかなり低いので、あまり語るべきことはない。でも前作は世界中で800万枚を売ったという噂だし、日本ではそれほど知名度が高くないにもかかわらず──まあJ-Waveではかかりまくっているけれど──、世界的には(もしくはアメリカ限定でだろうか)実はすごい人気みたいだ。
 ヴィジュアル面では、前作の原宿ガール礼賛なコンセプトから一転して、今回は超セレブな高級ブランドのマネキンみたいな格好をしている。どちらにせよあまり趣味がいいとは思えないのだけれど、もしかしたらその辺の不思議な感性を含めたトータルな部分でアメリカでは大受けなのかもしれない。
(Jan 11, 2007)

The Peel Sessions 1991-2004

PJ Harvey / 2006 / CD

Peel Sessions 1991-2004

 僕にはギターは女性には向かない楽器だという先入観がある。アコースティックならばともかく、ことエレキとなるとなおさらだ。ひずんだギターを鳴らす必然性や、ギターを弾くことに対する過剰な愛情を感じさせる女性というのは、なぜだか思いつかない。ギターがなくては音楽にならない、みたいな切実さを感じさせる女の人って、ほとんどいない気がする。たんに不勉強なゆえの偏見かもしれないけれど。
 そんな僕にとってPJハーヴィーという人は、女性であるにもかかわらずギターを鳴らすことの必然性を感じさせる点で稀有な存在だ。彼女のシンプルで説得力のある音楽の魅力は、そのギターの響きに負うところが大きい。ジョン・ピール・セッションの音源を集めたこのコンピレーションでは、いまさらながらそんな彼女の音楽の素晴らしさを再確認できる。新作というわけではないし、大半の曲は知っているので、それほど期待しないで手にしたアルバムだったけれど、そのわりには思いがけないほど盛りあがってしまった。めちゃくちゃカッコいいです。
(Jan 21, 2007)

Antidepressant

Lloyd Cole / 2006 / CD

Antidepressant

 ロイド・コールの3年ぶりの最新作。なんでネオアコの残党とでも言うべきこの人の作品をフォローするようになったのか、いまひとつ記憶がさだかじゃないのだけれど、そのくせ新作が出るたびにきちんと聴いては、毎回それなりに楽しませてもらっている。僕にとってはちょっとばかり不思議な距離感のあるアーティストだったりする。
 今回も音作りはここ数作と同じく、アコギのアルベジオ中心のバンド・サウンド。一時期はもっとダイナミックなロック・サウンドを志向してみたものの、その後ネオアコに回帰してみたら、あまりに居心地がよかったので、そのままそこに腰を据えてしまいましたという感じ。派手なところはないけれど、情感豊かなボーカルと適度なポップさの{さじ}加減がとても気持ちいい。ちょっとおとなしすぎやしないかと思いつつも、ついつい繰り返し聴いてしまっている。
(Jan 25, 2007)

Supply and Demand

Amos Lee / 2006 / CD

Supply & Demand

 05年にブルーノートからデビューした黒人シンガーソングライター、エイモス・リーの2枚目。
 スローナンバー中心のアコースティックな音作りという点ではロイド・コールと変わらないのだけれど、こちらはアコギのストロークが中心のせいか、あまり楽しめなかった。
 正直なところ、ファーストも "Keep It Loose, Keep It Tight" だけは好きだったものの、あとは全体的におとなしすぎる印象だったから、本当はこのセカンドは買おうかどうしようか迷っていたのだった。でも、どこぞのインタビューで、セカンドは前よりもちょっとアッパーになっているという記事を読んだので、じゃあ聞いてみようかと思ったのに……。残念ながらほとんど前作と印象が変わらなかった。これくらいならば、ジャック・ジョンソンを聴いた方がよほど盛りあがれそうな気がしてしまう。だいたい『需要と供給』という色気のないタイトルもなあ。若いんだから、もっととんがったところを見せて欲しい。
(Jan 25, 2007)

Love

The Beatles / 2006 / CD

Love

 僕は当初このアルバムにまったく関心がなかった。よりオリジナルに近いフォーマットだった『Yellow Submarine Songtrack』 や 『Let It Be...Naked』 も一度聴いたきりCDラックに放り込んでおしまい、みたいな僕のようなすちゃらかビートルズ・ファンが、こんな添加物入りまくりのビートルズ作品を楽しめるとは思えなかったからだ。だから発売日を過ぎてもずっと無視したままだった。今回入手したのだって、年末年始のバーゲンで輸入盤があまりに安くなっていたからだ。こんなに安く手に入っちゃうならば、聴いてみてもいいかなと思った。
 そうしたらばだ……。これが意表をついて、むちゃくちゃおもしろかった。聴き始めたとたんにニヤニヤ笑いが引っ込められなくなってしまうようなアルバムだった。
 なんたってビートルズは僕に洋楽を聞くきっかけを与えてくれたアーティストだ。いくらすちゃらかだとは言っても、これまで二十数年にわたり、それなりに繰り返し聴き続けている。いかにずさんな聴き方をしてきたとは言っても、記憶の隅にこびりついている印象というものは当然ある。このアルバムはそうした僕の“ビートルズの記憶”を、いい意味で裏切ってみせる。
 典型的なのが、オリジナルのコーラスの部分だけを抜き出して、アカペラ仕立てにした1曲目の "Because"。アカペラにしただけならば、ふーんという感じで終わったんじゃないかと思うのだけれど、この曲ではさらにそこにひと工夫加え、ワンコーラスごとの曲間のブレイクを少し長めにとってある(少なくても僕にはそう聴こえる)。このブレイクがやたらとおもしろい。無音部分を長めにとったことでオリジナルとの違いが際だち、単にアカペラにしたという以上の効果を発揮している。音のなさにものを言わせるとは、さすが手練{てだれ}の音楽プロデューサー、ジョージ・マーティン(とその息子)。とても感心してしまった。
 まあ、音源が限られているだけあって、大半の楽曲はそれほど変わってはいない。大半は微妙な違いという程度のものだから、一曲一曲をとりあげて聴かされただけならば、これほど感銘は受けなかったと思う。ところがそうした微妙な違いも、アルバム一枚分、80分近く続けて聴かされるとなると、塵も積もれば山になる。その違和感の蓄積がもたらす新鮮さはかなりなものになる。だからこの作品のおもしろさはアルバムでないとわからないと思う。最初はこんなものおもしろんだろうかと懐疑的な姿勢で聴き始めた作品だったけれど、気がつけばその後もけっこうくりかえし聴いてしまっている。"Lady Madonnna" の間奏に "Hey Bulldog" のリフが入るところなんか、聴くたびに思わずニヤついてしまう。
 まあ、これを「ビートルズの新作」と言うのはさすがに言いすぎだと思う。けれどそう言いたくなる人がいるのもわかならいでもないかなという、意外な新鮮さのある作品だった。むかし、スターズ・オン45で盛りあがったことのあるロートル・ファンならば必聴だ。あれを不届きにもビートルズのオリジナル音源を使ってやっちゃいました、みたいな感じで笑えます。どうせならば、次はもっとマイナーなナンバーを使った第二弾を出しちゃって欲しい。
(Jan 28, 2007)