2024年8月の映画

Index

  1. ヘイル、シーザー!
  2. ジャズ・フェス:ニューオーリンズ・ストーリー
  3. マクベス
  4. 自由研究には向かない殺人

ヘイル、シーザー!

ジョエル&イーサン・コーエン監督/ジョシュ・ブローリン、ジョージ・クルーニー/2016年/アメリカ/Apple TV

ヘイル、シーザー! (字幕版)

 ひさしぶりのコーエン兄弟作品。
 タイトルが『ベン・ハー』とかのローマものを思わせたので、いまいち乗り気がしなくて長いこと放置してあったのだけれども、いざ観てみたらタイトルはローマが舞台の作中劇につけられたもので、物語自体にはローマ要素はほぼなし(ジョージ・クルーニーの衣装だけ)。
 内容はさまざまなトラブルに悩まされる映画プロデューサー(演じるのはジョシュ・ブローリン)を中心に、五十年代の映画製作の裏側を描いた群像劇タッチのコメディだった。
 ジョージ・クルーニー演じるローマ劇の主役俳優はコミュニストの脚本家チームに誘拐され、スカーレット・ヨハンソン演じる人気女優は不倫して妊娠、オールデン・エアエンライク(『ハン・ソロ』の主演の人ですって)演じるウエスタン俳優は大根すぎて、レイフ・ファインズ演じる映画監督を悩ませる、等々。
 その他、双子(なのかな?)の記者役でティルダ・スウィントン、女性映画編集者役でフランシス・マクドーマンドなどもちょっとだけ出演している。
 とにかく俳優陣は豪華で芸達者なひとたちばかり。撮影中の映画の一シーンとして本格的なミュージカルシーンがあったりもするし、犬と戯れるシーンとか、潜水艦のシーンとか、往年の名画っぽいシーンを次々と再現して見せるコーエン兄弟の映画オタク的な演出が楽しい好作品だった。
 この内容で『ヘイル、シーザー!』というタイトルは失敗なのでは?
(Aug. 07, 2024)

ジャズ・フェス:ニューオーリンズ・ストーリー

フランク・マーシャル、ライアン・サファーン監督/2022年/アメリカ/Apple TV

ジャズ・フェス:ニューオーリンズ・ストーリー

 2019年に五十回目を迎えたニューオーリンズ・ジャズ&ヘリテッジ・フェスティヴァルのその年の映像を中心に、同フェスの歴史を振りかえりつつ、ニューオーリンズの文化を語るドキュメンタリーフィルム。
 Apple TVのバーゲンコーナーで見つけて、予告編を観てみたら、ニューオーリンズ好きなうちの奥さんが大喜びしそうな内容だったから買ってみたら、アル・グリーンやブルース・スプリングスティーンの貴重なパフォーマンスが観られて、どちらかというと俺得な内容だった。
 字幕だと細かいニュアンスが抜け落ちてしまう感があって、フェスの詳細を理解しきれた気がしないのだけれど、それでも五十年ぶんの貴重映像があれこれ見られるし、ガンボやベニエなど、フェス名物のご当地フードの紹介もおいしそうだし、たまたまフジロックに行った余韻の残る時期だったから、そのフェスの熱気を追体験するような感じで、なかなか楽しめた。
 なかでもハリケーン・カトリーナの被害を受けた翌年に、賛否両論ある中、復興のためにと強行開催したステージで、シーガー・セッションズ・バンドとともに初めて出演したブルース・スプリングスティーンが『マイ・シティ・オブ・ルーインズ』を歌ったというエピソードとその映像はとても感動的だった。
 惜しむらくは版権の問題なのか、2019年のヘッドライナーだったローリング・ストーンズの映像が微塵もないこと。ストーンズの映像がちょっとだけでも入っていたら完璧だったのに。残念。
(Aug. 12, 2024)

マクベス

ジョエル・コーエン監督/デンゼル・ワシントン、フランシス・マクドーマンド/2021年/アメリカ/Apple TV

 コーエン兄弟の兄、ジョエル・コーエン監督によるシェイクスピアの『マクベス』の映像化作品。
 コーエン兄弟の作品だから、バズ・ラーマンの『ロミオ+ジュリエット』のように独自のセンスでシェイクスピアを現代的に意訳した作品なのかと思ったら、そうでなく。
 主役のマクベスに黒人のデンゼル・ワシントンを起用したり、三人の魔女の役をキャスリン・ハンターという女優さんがひとりで演じていたり、全編モノクロで画角がブラウン管時代の4:3だったりと(でも角が丸くトリミングされているあたりはデジタル世代)、細部の演出にはそれなりの創意工夫が感じられるけれど、基本はシェイクスピアの代表作をできるかぎり原作通りに再現することなのだろうと思った。
 まぁ、『マクベス』を最後に読んでから何十年もたっているので確かなことはいえないけれども、大仰なせりふ回しからして、おそらくきわめて原作に忠実なつくりになっているものと思われる。
 いやでも、いまさらだけれど『マクベス』ってひどい話だな。
 僕は善人のマクベスが悪妻にそそのかされて心ならずも王を裏切って自滅する話かと思っていたけれど、フランシス・マクドーマンド演じるマクベス夫人にあまり悪妻感がないこともあいまって、この映画のマクベスは単なる極悪人だった。同情の余地なし。
(Aug. 21, 2024)

自由研究には向かない殺人

ポピー・コーガン制作/エマ・マイヤーズ/2024年/イギリス/Netflix(全六回)

 女子高生が夏休みの自由研究で未解決事件の調査に乗り出すというベストセラーミステリを映像化した連続ドラマ。主演は『ウェンズデー』で主人公のルームメイト役を務めていたエマ・マイヤーズ。
 彼女が演じる主人公のピップは有名大学(オクスフォードかケンブリッジ? 忘れた)への進学を志す女子高生。大学に提出する自由研究の課題として、過去に発生した女子生徒の失踪事件の真相を突き止めようとする。
 五年前にその土地では、一人の女生徒が行方不明になり、殺害をほのめかすメッセージを残して彼女のボーイフレンドが自殺するという事件が起こっていた。
 事件の当日に二人に会った自分が、もしかしたら事件に影響を与えてしまったのではと気に病んでいたピップは、うちに秘めた罪悪感を晴らすべく、自殺者の弟ラヴィ(ゼイン・イクバル)の協力を得て、事件の関係者への聞き込みを始める。するとやがて彼女のもとに何者からの脅迫が……。
 エマ・マイヤーズは現在二十二歳だそうだけれども、あどけなくて高校生の役になんの違和感もなし。『ウェンズデー』同様、素晴らしく自然に高校生の役を演じている。
 ピップの部屋は壁が黒板になっていて(そんな部屋ってある?)彼女はそこに事件の経緯を書き込み、調査の結果わかった事実や入手した証拠写真をペタペタと貼ってゆく。プロファイラーの捜査室のようなその風景がおもしろい。あまり現実味はないけれど、ドラマの演出としてはありだと思った。
 ただ、ミステリとしての謎解きの部分はそんなにすごいって感じでもなく、主人公が調査のために軽犯罪おかしまくりなところはいささか気になった(飲酒、住居不法侵入、器物破損、エトセトラ)。犯人が最初からあやしげなのもどうかと思う。
 あと、主人公を含む男女五人組の設定とか、しつこくリピートされる子供のころの回想シーンとか、森の樹々に結わいつけられた思わせぶりな黒い布とか、それがなぜ必要なのかわからないシーンがいくつもあって、演出の上でのまとまりの悪さを感じた。
 原作は四部作らしいので続編が撮られる可能性もありそうだけれど、この出来ならばつづきは観なくてもいいかなという感じ。
(Aug. 26, 2024)