2024年7月の映画

Index

  1. 哀れなるものたち
  2. バービー
  3. ヴァチカンのエクソシスト

哀れなるものたち

ヨルゴス・ランティモス監督/エマ・ストーン、マーク・ラファロ、ウィレム・デフォー/2023年/アメリカ/Disney+

哀れなるものたち

 原作を読んだときにもそのセクシャルな内容に意表を突かれたものだけれど、この映画版は比較にならなかった。
 いやはや、まさかここまでファッキンな映画に仕上がっているとは……。
 原作はたしかに性的な内容をたっぷり含んでいるとはいえ、主人公の婚約者マッキャンドルス(この映画ではラミー・ユセフという俳優さんが演じている)の手記というスタイルをとっているため、基本的に性描写は皆無だった。
 それに対して、こちらではその設定が取っ払われている分、自由奔放。エマ・ストーン演じる主人公ベラの性欲まかせな行動がそのまま映像化されている。
 成熟した大人の女性の身体を与えられた幼子として登場するベラは、自らが受ける性的快感になんの恥じらいも罪悪感も抱かず、意気揚々と性的冒険へと驀進してゆく。
 同じくヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンがタッグを組んだ『女王陛下のお気に入り』でも、エマ・ストーンが女王様とのベッドシーンでヌードを披露しているのに驚いたけれど、今回はその比じゃない。
 白黒で描かれる序盤はともかく、彼女がマーク・ラファロと駆け落ちをして、映像がカラーになった途端、いきなり大胆なセックス・シーンが目白押し。まさかエマ・ストーンがここまで体当たりで濡れ場を演じるとは思ってもみなかった。
 最近はポリコレありきの風潮のせいか、映画で女性のヌードを観ることがめっきり減ったと思っていたので、この映画のあまりの露出度の高さにはびっくり仰天だった。
 まぁ、ヒロインのエキセントリックなキャラクターゆえ、数多のベッドシーンもそれほどエロティックな印象ではないけれど、でもそんな風に思うのも、そろそろ還暦も近くなって、いい加減そちら方面が枯れ気味な昨今だからで、この映画を十代に観たらどうなっていたやら……。
 あと、この映画はエロいだけではなくグロい。原作はそれほどエロくもグロくもなかったのに、この映画は見事にエログロだった(手術のシーンがグロい)。
 原作との違いはそうした煽情的な部分のみならず。この映画は小説の本編のみを映像化していて、そのあとにある作品の要というべき部分を割愛してしまっているため、物語はほぼ同じであるのもかかわらず、ある意味まったくあと味の違う作品に仕上がっている。どちらがいいかは意見の分かれるところだろう。
 ブラック・ユーモア溢れる映画オリジナルのラストシーンとか、屋敷に住まうキッチュなキメラたち、凝った衣装と色鮮やかな映像など、映像作品ならではの見どころも多い秀作だけれど、カラフルでユーモラスな装い反して、かなり過激にエログロなので、これを子供と一緒に観るのはちょっと無理かも……と思う。
(Jul. 3, 2024)

バービー

グレタ・ガーウィグ監督/マーゴット・ロビー、ライアン・ゴズリング/2023年/アメリカ/Netflix

バービー

 バービー人形の世界を実写で再現!――とかいわれても、正直まったく食指が動かなかったのだけれど、監督が『レディバード』『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』のグレタ・ガーウィグだというし、いまが旬の女性アーティストがこぞってサントラに参加しているようなので、やっぱ一度くらい観ておいたほうがいいだろうって思ったのですが……。
 やっぱこれはどうなん?――という出来の映画だった。
 オープニングで、女の子のおもちゃが赤ちゃん人形しかなかった時代にバービーが登場して与えた衝撃を『2001年宇宙の旅』のモノリスに例えた演出、それ自体はおもしろいと思ったんだけれど、そのあとがいけない。
 どれだけバービーがエポック・メイキングだったとしても、だからってそれまで大事にしていた赤ちゃん人形を地面にたたきつけて壊し始める子供たちってなに?
 つい最近アップルが新型iPadのCMで、楽器を含む様々なガジェットをプレス機で押しつぶす映像を公開して不評を買っていたけれど、この映画の冒頭部分に僕は同じ違和感を感じた。なぜ壊しちゃうかな? なんなの、その破壊衝動は。
 そのあと本編に入り、バービーランドで楽しく暮らしていたマーゴット・ロビー演じるバービーさんは、ハイヒール用にかかとが地面につかないデザインになっていた自分の足が、ある日突然ぺたっと地面につく扁平な形に変わっていることに愕然として、それを直してもらおうと、人間の世界へと向かうことになる。
 まぁ、最終的にはその部分の伏線を回収して、ハイヒールでなくフラットな靴を履いたっていいのよってポジティヴな感じで映画は終わるんだけれども。
 そんなの最初から当然すぎて、なにをいわんやじゃん?
 なんでフラットじゃダメなのさ。
 おそらく女性はハイヒールを履くべし、みたいな固定観念を揶揄した展開なんだろうけど、一度もハイヒールを履いたことがない妻を持つ身としては、そんなことで大騒ぎになるシナリオにはまったく共感ができない。
 さまざまなタイプのバービーがいることから、キャスティングを見ると、多くの女優さんの役名が「バービー」となっていて(男性はほとんどが「ケン」)、誰が誰やらって感じなのはおもしろかったけれど、でもおもしろかったのはそれだけって気がする。なんだか学芸会レベルの芸を見せられているような気分になる困った映画だった。
 たくさんの女性アーティストのポップソングが使われているにもかからわず、いちばんよかったのは、この映画のイメージからもっともかけ離れたビリー・アイリッシュのしっとりとしたバラードだというのが、この映画のバランスの悪さを象徴している気がする。おバカな映画を作るならばバカに徹してほしい。
(Jul. 8, 2024)

ヴァチカンのエクソシスト

ジュリアス・エイヴァリー監督/ラッセル・クロウ、ダニエル・ソヴァット/2023年/アメリカ/Amazon Prime

ヴァチカンのエクソシスト

 ラッセル・クロウがベスパで疾走しているビジュアルがユーモラスな印象だったので、笑える映画かと思っていたら、見当違いもいいところだった。
 「自分にとっての悪夢はフランスがW杯で優勝することだ」なんていうセリフこそあるけれど、ユーモアが感じられるのはそれくらい。あとベスパのシーン(あれはやはりちょっと滑稽)。それ以外はずっとシリアスなオカルトものだった。
 物語は、相続した屋敷の売却のためにイタリアへやってきたアメリカ人の母子三人が、幼い息子にとり憑いた悪魔に苦しめられるというもの。
 彼女たちを救うべく、ラッセル・クロウ演じるところの、教皇から直々に任命された悪魔祓い師(エクソシスト)がベスパを駆ってやってきて、ダニエル・ゾヴァットという人の演じる若き神父とともに悪魔と対決することになる。
 なんでも原作は実在する神父さんの手記なのだとかなんとか。つまり実話?――って、どう考えたってそんなはずない。ここまでノンフィクションからかけ離れた映画化作品も珍しいのではと思った。
 いずれにせよ、キリスト教にも悪魔にも興味がなく、元祖『エクソシスト』も観たことのないやつが観る映画ではない気がした。
(Jul. 21, 2024)