2023年3月の映画
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ウェンズデー
ティム・バートン他・監督/ジェナ・オルテガ/2022年/アメリカ/Netflix(全8回)
ティム・バートンが連続ドラマの監督を務めたというので話題になった『アダムズ・ファミリー』のスピンオフで、長女ウェンズデーを主役にした新シリーズ。
でもいざ観てみれば、ティム・バートンが監督としてクレジットされているのは前半の四話分のみ。つまり半分だった。
さすがに全八話すべてを手がける余裕はなかったのか、はたまたわけあって途中で降板したのか、誰か偉い人に更迭されたのか、その辺の理由は不明。ネットで調べればわかるのかもしれないけれど、このところ疲れていて調べる気力がない。
まぁ、半分しか手掛けていなかろうが、作品のムードはばっちりティム・バートン印だから、なんの問題もなし。『アダムズ・ファミリー』とティム・バートンの世界観がベストマッチすぎる。音楽もダニー・エルフマンだし、始まった途端にこれがティム・バートンの作品じゃなかったら、そのほうが驚きだろうって雰囲気だった。
とはいえ、この作品を特別なものにしているのはティム・バートンよりもむしろ、主演のジュナ・オルテガという女の子の存在だ。
この子がとにかくいいっ。ティーンエイジャーに成長したウェンズデーの役にこれ以上なくはまっている。にこりともせず無表情なままで、背筋をすっと伸ばして手を振らずに歩く、その奇妙な立ち姿がなにより最高だった。
でもってチェロも弾ければ、バトルも強いし、ダンスもいける。エキセントリックなのにいろいろハイスペック。世間に媚びることなく無表情のまま淡々とわが道をゆく。そんな最強のニュー・ヒロインの誕生。よもやアダムズ家の長女がこんなにもカッコよくひとり立ちしようとは思わなかった。
もうシナリオなんてどうでもいいから、ずっと彼女だけを観ていたいってくらいに魅力的。あまりにここでのウェンズデーというキャラのインパクトが強すぎて、今後俳優としての彼女がそのイメージを引きずって苦労しないか心配になるレベル。
共演者として劇場版『アダムズ・ファミリー』の初代ウェンズデー役のクリスティナ・リッチが教師役で出ているけれど、これ一作で僕個人のなかのウェンズデーのイメージはすっかりジュナ・オルテガで塗り替えられてしまった。
シーズン2も予定されているようだけれど、ここでのウェンズデーの魅力は思春期ならではの儚さに支えられているような気がするので、下手につづけてイメージを壊さないか心配。いっそこれ一作ですっきりと終わって欲しかったような気がする。
(Mar. 02, 2023)
ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密
ライアン・ジョンソン監督/ダニエル・クレイグ、アナ・デ・アルマス/2019年/アメリカ/Netflix
名探偵が登場するミステリー映画というと、ポアロとか金田一耕助とか、小説ですでに有名な名探偵シリーズが実写化されるパターンがほとんどだと思うのだけれど、これは映画オリジナルなところに作り手の並々ならぬ意欲を感じる。
過去にも『チャイナタウン』とか『名探偵登場』とか、映画オリジナルの探偵ものがなかったわけではないけれど、あってもハードボイルドやコメディが主で、アガサ・クリスティー的な本格物の謎解きミステリが映画オリジナルで制作された例はごく稀でしょう。少なくても僕の乏しい映画の知識では皆無だ。
理由はおそらく単純。本職のミステリ作家ではない映画監督や脚本家には、観客の度肝を抜くような謎解きミステリを作りあげるのは至難の技だから。
この映画はそんな難題にあえて挑んでみせている。
まぁ、ダニエル・クレイグ演じるブノア・ブランという人物が本当に名探偵なのかは疑問のあるところだし、正直にいっちゃうとあまり魅力的には思えない――というか、ぶっちゃけミスキャストじゃないかって気さえするのだけれど(クレイグはイメージが
物語は作家として巨額の富を築いた老人(クリストファー・プラマー)が謎の自殺を遂げた一週間後に、警察が名探偵ブランをともなって再調査にやってくるというもの。
豪邸を舞台に遺族や使用人らの愛憎劇を描いてみせたりあたりは、まさしくクリスティーへのパスティーシュだけれど、それでいて『刑事コロンボ』のような倒叙ミステリーの形式をとってみせたところも意外性があっていい。先人たちが残したミステリのいいとこどりしたミステリ映画の秀作だと思う。
キャスティングで驚いたのが、事件の鍵をにぎる女優さんが『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のアナ・デ・アルマスだったこと(気がつかなかった!)。
この人は最新作の『ブロンド』で主役のマリリン・モンローを演じているんだそうだけれど、この映画ではそんなセックスアピールの片鱗も感じさせない。たしかに部分的に「あれ、この子ってもしかして美人さん?」と思わせるシーンがなくもないのだけれど、そういうシーンはごくわずかで、主役といってもいいほどの役どころであるにもかかわらず、全編にわたって冴えない庶民の女性役を見事に演じきっている。
マリリン・モンローと、ここでの看護師役をどちらも演じられるられるのって、なかなかの演技力のような気がする。彼女が出演しているほかの作品も観てみたくなった。
配役では、そのほかに僕が知っているところだと、マイケル・シャノンや『キャプテン・アメリカ』のクリス・エヴァンスなどが出演している。
監督は『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』のライアン・ジョンソン。
よもやあの映画を撮った監督が、のちにこれほど気のきいた作品を作ってみせるとは思わなかった。恐れ入りました。
(Mar. 10, 2023)
ナイブズ・アウト:グラス・オニオン
ライアン・ジョンソン監督/ダニエル・クレイグ、ジャネール・モネイ/2022年/アメリカ/Netflix
ひきつづき『ナイブズ・アウト』の続編で、去年公開されたシリーズ第二弾。
前作はふつうに劇場公開されたのに、これはNetflixオリジナル。劇場でスタートしたシリーズの続編がNetflixでしか観られないというのはどうなんだと思わないでもないけれど、まぁ、いまや映画ファンならばNetflixは避けて通れないだろうし、契約している身としては新作が即座に観られてありがたい。
今作の舞台は沖の孤島。エドワード・ノートン演じるIT富豪が毎年親しいセレブの友人らを招いて開いているパーティーへの招待状が、なぜか今年は名探偵ブランも届く。さらには富豪のかつてのパートナーであり、その後の彼の裏切りにより、いまや敵対関係にある女性(ジャネール・モネイだっ!)までもが乗り込んできたことで、リゾート島での楽しいはずのバカンスが一転して不穏な雰囲気に……。
世間から隔離された沖の孤島での殺人事件!
――というその設定だけで、これまた本格ミステリへのオマージュであることがあきらかな本作なのだけれど。
舞台がリゾート地ということで、ダニエル・クレイグのファッションがカジュアルすぎて、まるで名探偵には見えないのがこの映画の残念なところ。
沖の孤島での殺人事件は『そして誰もいなくなった』などへのオマージュだろうし、リゾート地での殺人事件というのも『ナイルに死す』などに通じるところがあるのだけれど、なぜか前作よりもクリスティーっぽく感じられないのは、クレイグの服装のせいのみならず、架空の新エネルギー発見にまつわるSF的な設定が入っているせいかもしれない。
まぁでも、これはこれで決して悪くないです。あいかわらずブランは名探偵っぽくないけれど、ミステリとしてはちゃんと提示された謎が解明されて大団円に至る。やや結末が派手すぎる嫌いはあるけれど、僕は今作もそこそこ楽しめた。
キャスティングでは、そのほかに『あの頃ペニー・レインと』のケイト・ハドソン(すんごいひさしぶりに見た)、『ガーディアン・オブ・ギャラクシー』のドラックス役のデイヴ・バウティスタ(全身タトゥーが同じ感じ)等が出演している。あと、イーサン・ホークやヒュー・グラントが顔見世程度のちょい役で出てます。
イーサン・ホークはサングラスをかけているせいもあって、キャスティングで名前をみてもなお、どこに出ていたかわからなかった(冒頭で波止場にやってきて、メンバーの喉に薬を打ち込むアシスタント役がそうらしい)。
ヒュー・グラントは一目でわかったけれど、いつの間にかずいぶんと更けてて、おまけにあまりの端役すぎて驚いた。
(Mar. 10, 2023)
メタモルフォーゼの縁側
狩山俊輔・監督/宮本信子、芦田愛菜/2022年/日本/WOWOW録画
マンガ原作の日本映画ってだけで、いつもはまったく食指が動かないのだけれど、これは原作の存在を知らなかったこともあり、宮本信子と芦田愛菜が縁側でマンガを読みながら談笑している予告編をみて、即座に観たいと思った。BLが縁で出会った老人と女子高生の友情を描いたハートフルなコメディ映画。
僕が原作のマンガの存在を知ったのは映画の予告編をみたあとだったのだけれど、結局映画よりも先にそのマンガを無料で読める範囲(五分の四)で読んでしまったので、物語はほぼ把握済み――ってまぁ、最後までは知らないわけだけれども(先週全巻読んだ)。
それでもその知識の範囲内でいうならば、この映画は僕が原作でもっとも重要だと思うエピソードをはしょってしまっている。そこがなにより残念なところ。
そのシーンというのが、主人公ふたりが同人誌イベントに客として参加するくだり。
宮本信子さん演じる市野井さんが客として同人誌販売会に参加して、「こんなお年寄りが?」という驚きを周囲にあたえたのちに、改めて出店者側になるという段取りを踏むところが原作のいいところなのに、この映画版にはその前段となるイベントへの参加シーンがない。
おかげで、一度もコミケに行ったことがなければ、マンガさえ書いたことがないうらら(芦田愛菜)がいきなりコミケにエントリーしてしまうという展開が、僕にはまったく腑に落ちなかった。その展開はいささか、いきなりすぎる。
しかもコミケ参加シーンもちゃんと描かないし。コミケをきちんと撮ろうとすると、膨大なエキストラが必要だから、予算的に無理だったのかもしれないけれど、それにしてもねぇ。
そこだけだ。そこだけ。二度のイベント参加シーンをもっとちゃんと表現してくれていれば、僕は文句なしでこの映画が好きになれたかもしれないのに。
祖母と孫――いや、もはや曾孫?――くらいに年が離れたふたりがマンガを絆に友情をはぐくむという部分は大好きだし、主演のふたりも見事なはまり役なので――まぁ、マンガと比べるとうららが可愛すぎるきらいはあるけれど、それでもここでの芦田愛菜は彼女の国民的ステータスを考えると嘘みたいに冴えない腐女子のJK役を演じている――そこだけがまじで残念だった。
(Mar. 12, 2023)
トップガン
トニー・スコット監督/トム・クルーズ、ケリー・マクギリス/1986年/アメリカ/Netflix
続編の『トップガン マーベリック』がやたら大好評なので、やっぱ先に前作を観とくべきだろうってことで、いまさらながら初めて観ました。トム・クルーズ主演、トニー・スコット監督の大ヒット作。
いやー、オープニングでかかったケニー・ロギンスの『デンジャラス・ゾーン』を聴いて、あぁ、この曲が主題歌の映画なのか~って思った。懐かしい。でもって、なるほど、これは観ようと思わないよなぁとも思った。どうにも80年代の映画って苦手だ。性格が暗いもんで、イケイケなムードが肌にあわない。
とはいえ、十代のころに『エリア88』が大好きだった身としては、F-14トムキャットなどの戦闘機の飛行シーンにはなかなかぐっとくるものがあった。オープニングの空母からの離発着のシーンとか、まるでミュージック・ビデオのようでカッコいい(ケニー・ロギンスはとくに好きじゃないけれど)。
出演者については、トム・クルーズのライバル役がヴァル・キルマーなのに、おーっと思った。そうか、これが出世作だったんだ。なるほど、若いっ。
その他のキャストに関しては、これだけの大ヒット作なのに、ヒロインのケリー・マクギリスという人をはじめとして、ほとんど有名人がいないのが、いまとなるとちょっと不思議だったりする。戦闘機を撮るのにお金がかかりすぎて、キャスティングに回す予算がなかったんでしょうかね?
あ、そうそう、そういやメグ・ライアンが出てました。ヒロインなのかと思ったら、主人公の親友の奥さん役。出番の少ない思わぬ端役だったので、あぁ、このころはまだブレイク前なのかーって思いました。人に歴史あり。
いやしかし、これの続編がアカデミー賞の作品賞にノミネートされたとか、にわかには信じがたいな。どんな映画なんだか、逆に興味津々だ。
(Mar. 25, 2023)