2020年9月の映画

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  1. ファイト・クラブ
  2. ロケットマン

ファイト・クラブ

デヴィッド・フィンチャー監督/エドワード・ノートン、ブラッド・ピット/1999年/アメリカ/Amazon Prime Video

Fight Club (字幕版)

 十一年前に観たときの記憶が驚くほど残っていなかったので、改めて観てみたデヴィッド・フィンチャー監督の代表作のひとつ。
 いやぁ、でもこれ、ほんとになんでこんなに覚えていないんだろうってくらいに記憶になかった。本当に過去に観たことがあるのか、疑わしくなるほどの忘れよう。もしかして、前回は途中で寝ちゃったりしたんじゃないだろうか。
 物語はエドワード・ノートン演じるところの不眠症に悩むサラリーマンが、ブラッド・ピット演じる謎の男と知り合い、彼との殴り合いに喜びを見い出すようになり、やがて殴り合いの仲間が増えて秘密結社化したあげく、ついにはテロ事件をもくろむようになり……みたいな話。
 現代的な無気力症候群をわずらう平凡な男が、それまで知らなかった肉体的苦痛をともなうサドマゾ的な快感と仲間たちとの絆に人生の意味を見いだし、ついには人の道を踏み外すという文学的な話かと思いきや、後半になんだそりゃっていう大どんでん返しが仕掛けられているのがこの映画の肝。そういう意味ではフィンチャーの前作『ゲーム』に通じるところのある、なるほどデヴィッド・フィンチャーらしいって思うような人を食った作品だった。
 前回観たときには下馬評の高さに期待しすぎたのか、いまいち盛り上がり切れなかったけれど、今回は二度目ということもあって、ニュートラルな姿勢で観れたこともあって、普通に楽しめた。まあ、大好きかといわれると、そこまでではないけれど、評価が高いのは納得した。でもラストはいまいちよくわからない。
 若き日のヘレナ・ボナム=カーターがヒロイン(と呼んでいいのか?)を演じているのも当然記憶になかった。蓮っ葉な役どころだけれど、魔女っぽくはない――というか、エドワード・ノートンとブラッド・ピットがいかれすぎているので、彼女がいちばんまともにみえる――のが一興だった。
(Sep. 21, 2020)

【過去】2009年の感想はこちら

ロケットマン

デクスター・フレッチャー監督/タロン・エガートン、ジェイミー・ベル/2019年/アメリカ/WOWOW録画

ロケットマン (字幕版)

 エルトン・ジョンの半生を描いたこの作品。
 ロック界のレジェンドであり、ゲイでもあるボーカリストの伝記映画ということで、否応なく『ボヘミアン・ラプソディ』と比較される運命なんだろう。公開時期も一年違いだし、僕もなんとなく姉妹編みたいな気分で観始めた。
 でも最初の十分でそんな思い込みが間違いだったことに気がつく。
 オープニングで角のはえた鳥人間(?)みたいなオレンジ色の奇抜な衣装をまとったエルトン・ジョン――演じているのはタロン・エガートンという人――が、場違いな依存症の自助グループに乱入したと思ったら、子供時代の彼自分の幻影がいきなり歌を歌いだす。それ以降も――序盤は特に――歌、歌、歌ってシーンがつづくのだった。
 ――なにこれ、ミュージカルじゃん。
 『ボヘミアン・ラプソディ』は演奏シーンたっぷりのヒューマンドラマだったけれど(でしたよね?)、こちらは紛うことなきミュージカルだった。
 両者に共通するのはゲイとして生まれたことで苦悩する天才ミュージシャンを主人公にしたところだけ――。いや、もとい。
 ともに同じ時代のUKで爆発的に売れたアーティストだというだけでなく、なんとこの映画でエルトンの最初の恋人になるマネージャーの人は、のちにクイーンのマネージャーも務めたのだそうだ(そういえばあちらにもゲイのマネージャーがいた気が……)。あと、『ボヘミアン・ラプソディ』の監督はブライアン・シンガーということになっているけれど、実際には完成前にシンガーは解雇されて、そのあとで映画を完成させたのが、この映画の監督のデクスター・フレッチャーという人なのだという。
 というわけで、時代背景のみならず、登場人物や監督まで共通している両者だけれど、それでもこちらがミュージカルであるために印象はぜんぜん違う。両方とも同性愛者ゆえの苦悩で泣かせるところは一緒だけれど、ピークの性格が異なるというか。向こうがドラマチックさが特徴だとしたら、こちらはコミカルで陽性。うちの奥さんにはこちらのほうが受けがよいようだった(ピアノ好きだし)。
 僕もそれなりには楽しませてもらったけれど、ただし大きな不満がひとつ。ミュージカルというコミカルなスタイルを選択しておきながら、男性どうしの濃厚なベッドシーンを描いた演出はどうかと思う。同性愛を否定はしないけれど、でもこの映画にあのシーンが必要だとはどうしても思えない。セックスを描かなきゃ同性愛者の喜びや悲しみが伝わらないなんて道理はないでしょう?
 そういうシーンを撮りたければ撮ってもいい。でもそれならばそれ相応の覚悟のある映画にして欲しい。エルトン・ジョンという偉人の名を借りたミュージカル映画で見せるシーンじゃなかろうと僕は思う。
(Sep. 29, 2020)