2016年3月の映画
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バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)
アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督/マイケル・キートン、エドワード・ノートン、エマ・ストーン/2014年/アメリカ/WOWOW録画
昨年度のアカデミー賞・最優秀作品賞を受賞したときから、こりゃおもしろいに違いないと、大いに期待していた作品。
でもこれ、予想していた内容とは、だいぶ印象が違った。もっとエンターテイメント寄りな作品かと思っていたら、なんとも形容しがたい、不思議な作風の作品だった。
マイケル・キートン演じる主人公のリーガンは、かつて「バードマン」というスーパーヒーロー役の俳優として人気を博しながら、その役を降板してからは落ちぶれ、現在はブロードウェイの舞台で一旗揚げようと躍起になっている人物。
彼が舞台にかけようとしているのが、レイモンド・カーヴァーの『愛について語るときに我々の語ること』だってあたりで、すでにこの作品がお気楽なコメディではないってのがあきらかだ。
いや、コメディはコメディなんだろうけれど、ギャグで笑わすのではなく、登場人物の置かれたどん底の状態で苦笑を誘うタイプのコメディ。演出自体はちょっぴり暗いタッチで、あまりそれ自体で笑いを誘う感じでもない。
それなのに主人公が唐突に超能力を使っちゃったりする──というか、始まるなり宙に浮いていたりする──ところに変な味がある。それが本当なのか彼の妄想なのかさだかでない、その曖昧模糊としたところに不思議な味わいが生まれている。
全編をジャズ・ドラムのソロで統一した音楽の使い方は非常に印象的だし──ところどころで映画のセットのなかでドラマーがドラムをたたいているメタフィクショナルなシーンもインサートされる──、楽屋での音響では、会話のバックでコツコツと響く時計の音が、とても効果的に場面の緊張感を高めている。
主役のマイケル・キートンを始め、エドワード・ノートン、エマ・ストーン、ナオミ・ワッツ、ザック・ガリフィアナキス(プロデューサー役の彼は『史上最悪の二日酔い』の人だった)ら、俳優の演技もみんな素晴らしい。
癖のあるシナリオに、苦い笑いを誘う演出、気の効いた映像と音響。そして素晴らしい演技。この映画は作品を構成する個々の要素がすべて上質だ。メキシコ人監督の作品だからか、昨今のアメリカ映画よりも、ゴダールあたりの往年のヨーロッパの名画を思わせるビンテージ感がある。
そんな風に古典的な感触を残しつつ、それでいてラストが死のカタルシスで終わらないところが、きわめて現代的だとも思った。こりゃアカデミー賞を取ったのもわかる。
──うん、わかる。わかるにはわかるんだけれど、僕にはなぜだか、いまいちしっくりこなかった。いい映画だとは思うので、素直に好きっていえないのが残念。
(Mar 07, 2016)
ライフ・アクアティック
ウェス・アンダーソン監督/ビル・マーレイ、オーウェン・ウィルソン、ケイト・ブランシェット/2004年/アメリカ/WOWOW録画
ウェス・アンダーソンの映画はどれも変だけれど、こと設定に関していえば、これがいちばん変じゃないかと思う。海洋探検家であり、海洋ドキュメンタリー監督としても人気を博す主人公ズィスー(ビル・マーレイ)とその仲間たちの冒険の日々を描いた海洋冒険映画。
この映画に関しては、とにかく全編に漂うB級感がはんぱない。もともとオフビートな演出が持ち味の人が、海を舞台に砂遊びではしゃぎまくってしまいました、みたいな作品。
まずは撮影チームのトレードマークが赤のニット帽で、寝るときは全員水色のパジャマ姿って、そのファッションセンスのずれ加減がすごい。パジャマの色は一緒なのに柄が統一されていないところがさらにすごい。
船の断面図をそのまま実物化したセットあり、海賊相手のまったくリアリティのない銃撃戦ありと、終始演劇っぽい演出が施されているところもB級感たっぷり。紅一点のヒロイン、ケイト・ブランシェットが妊娠中の女性記者の役って設定も、いまいち意図がよくわからないところに斜め上な感覚がある。
さらにはBGMにデヴィッド・ボウイの名曲の数々が使われているのもポイント。それもオリジナルではなく、クルーのひとりがポルトガル語(らしいです)で弾き語りするシーンがあちこちにインサートされていて、この偽物感がやたらおかしいのだった。
あと、ほとんどの海の生き物がアマチュアっぽいCGで描かれているのも印象的──と思ったら、あれはCGではなく、『ナイトメア・ビフォー・クリスマス』の人が手がけたストップ・モーション・アニメーションなんだそうだ(おぉっ)。だからあのぎこちなさなのかと、それはそれで納得。
まぁ、いずれにせよ、実写にそういうアニメーションを加えたことが、作品にさらなるB級感をあおっているのは間違いのないところ。それらを含めて、とにかく全編にわたってオフビートなB級感というか、学芸会的な手作り感が途切れることがなくつづいている。そこがこの映画のいちばんの特徴。
いわば『海底二万マイル』に憧れたこどもの遊び心を、こどもがそのままのイメージで大枚はたいて映像化したような。これは要するにそういう映画だと思う。
(Mar 13, 2016)
セッション
デミアン・チャゼル監督/マイルズ・テラー、J・K・シモンズ/2014年/アメリカ/WOWOW録画
ジャズ・ドラマーとして歴史に名を残すことを夢見る青年と、音楽大学の鬼教師との葛藤を描いた音楽映画。
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』とオスカーを争った作品だけれど、これもあれと同じく、予想外の作品だった。
よくあるタイプのスポ根ものの舞台を音楽学校に移した、スパルタ教師と生徒がいっときの確執ののちに信頼関係で結ばれてゆく……というような話かと思っていたら、そんなに甘くなかった。
とにかく主人公と教師がともにエゴイストで、まったく信頼関係なんて生まれない。エゴとエゴのぶつかりあいの果てに、ようやく感動のラストにたどり着いたかと思えば、あにはからんや。最後にまたもや一波乱ある。おいおい。
というわけで、最後まで心温まるところのない、困った映画なのだけれど、それでいて──というかそれゆえに──全編に満ちる緊迫感がはんぱじゃない。音楽をテーマにしながら、こんなに手に汗握る感触を残す映画はまれじゃないだろうか。不協和音たっぷりの名演奏とでも言おうか。ほんとラストの『キャラバン』の迫力とか特筆もの。
登場人物にあまりに共感できなくて、素直に好きとはいえないんだけれど、それでもその出来映えには
キャスティングではメインのふたり以外ほとんど目立たたない中に、『Glee』でマーリー役を演じていたメリッサ・ブノアという女の子がちょい役で出てます。ほとんど色気のない話だから、ほんとちょい役だけど。
(Mar 27, 2016)