2016年2月の映画

Index

  1. ビッグ・アイズ
  2. インターステラー
  3. ジャージー・ボーイズ

ビッグ・アイズ

ティム・バートン監督/エイミー・アダムス、クリストフ・ヴァルツ/2014年/アメリカ/WOWOW録画

ビッグ・アイズ(字幕版)

 ひとめ見たらそれとわかる大きな目をした少年少女の絵を生涯にわたって書きつづけているという女性画家、マーガレット・キーンの波乱の半生を描いた伝記映画。
 ティム・バートンの監督作品だけれど、いかにもこの人らしくもあり、らしくなくもあり……という作品だと思う。
 らしいなと思うのは、マーガレット・キーンの絵が好きだというところ。極端に目元をデフォルメした彼女の作風は、かわいい中にもちょっぴりグロテスクな感覚があって、ティム・バートン自身の作風に通じるところがある。バートン氏が好きだというのがよくわかる。
 で、一方らしくないなと思うのは、その映画の出来栄え。
 これってこれまでにティム・バートンが撮ったなかでも、もっとも普通の映画だと思う。僕はティム・バートンの特徴は、どこかが極端にデフォルメされた結果で生み出されるいびつな味わいだと思っているのだけれど、この映画にはそういういびつさがない。
 クリストフ・ヴァルツ演じるマーガレットの夫、ウォルターの性格こそ歪んでいるけれど──この人の徹底的に自分本位な世渡り上手ぶりがこの映画の肝──、あとはいたってまっとう。ほかの監督の作品だといわれたら信じてしまいそうな出来になっている。
 主人公マーガレットの終始受け身で控えめな性格をエイミー・アダムス(しばらく前のニコール・キッドマンみたいな雰囲気)が好演しているけれど、その控えめなところにもティム・バートンらしからぬ印象を受けてしまう。
 ということで、とてもおもしろい作品ではあるんだけれど、いつものティム・バートンらしさが薄い分、なんとなくものたりなく思ってしまうという。そんな自分をちょっとごめんなさいって謝りたくなるような好作品だった。
 まぁ、このところ無駄なアクションを盛り込んで失敗をしている印象が強かったティム・バートンなので、そういう意味では最近では一番いい作品ではないでしょうか。
(Feb 21, 2016)

インターステラー

クリストファー・ノーラン監督/マシュー・マコノヒー、アン・ハサウェイ/2014年/アメリカ/WOWOW録画

インターステラー(字幕版)

 このクリストファー・ノーランの最新作、宇宙飛行士が荒廃した大地をひとり歩いているポスター以外になんの前情報もないまま観始めてみれば、いきなりアメリカらしき土地で広大なとうもろこし畑とともに生きる農夫の話が始まる。砂嵐がどうしたという設定もあって、その雰囲気はまるでジョン・スタインベックの『怒りの葡萄』。まったくSFっぽくない。
 それでもしばらく観ているうちに、舞台は近未来で、その世界が絶滅の危機に瀕しており、資源不足ゆえに人々が貧しい暮らしを余儀なくされている……ということが次第にわかってくる。その過程で、主人公がかつてはベテランの宇宙飛行士であり、現在は食糧難を救うため農夫にあまんじていることもあきらかになる。
 そんな彼が、政府が秘密裏に進めていた人類救済計画の存在を知って、その計画のためにふたたび宇宙へ飛び立つことになる。あぁ、ようやく話が見えたと思ったら……。
 そこから物語は二転三転。まるでこれ一本の中に、普通のSF映画三本分くらいのアイディアが盛り込まれているくらい内容が濃い。ストーリーテラーとしてのクリストファー・ノーランの卓抜したセンスをまたもや見せつけられることになった。
 この映画には『2001年宇宙の旅』や『猿の惑星』、さらには『機動戦士ガンダム』まで、過去の傑作SF映画を思い出させる要素があちらこちらに散りばめられている。たぶん、意図的にそうした名画へのオマージュを含ませてあるのだと思う。
 それでいて物語自体は、決して過去の作品の焼き直しなどではない、素晴らしいオリジナリティを持っている。最後のほうには、若干わかりにくい部分もあるけれど、これだけの出来ならばノー・プロブレム。映像もいつもどおりにスタイリッシュで、印象的なシーンがたっぷりだし、ここまでやられたら、ただもうひたすら褒めるしかないでしょう。
 クリストファー・ノーラン、いまだ負けなしの感あり。この人の無敗記録はいったい、いつまでつづくんだろう。
Feb 21, 2016)

ジャージー・ボーイズ

クリント・イーストウッド監督/ジョン・ロイド・ヤング、ヴィンセント・ピアッツァ/2014年/アメリカ/WOWOW録画

ジャージー・ボーイズ(字幕版)

 ビートルズ以前に人気を博したアメリカのポップス・バンド、フォー・シーズンズを題材にしたブロードウェイ・ミュージカルの映画版。
 この映画の監督がクリント・イーストウッドというのは、なんとも意外だった。イーストウッドはジャズ畑の人で、ポップスにはいっさい興味がないのかと思っていたので。
 そもそも、イーストウッドの好み以前の問題として、あの人の演出って淡白だから、ミュージカルの華やかさにはなんとも不似合いな気がした。
 で、どんなもんだと観てみたら、やはり序盤はイーストウッドらしい淡々とした流れで、窃盗罪で刑務所を出入りするバンドメンバーの若い日を描いていて、いまいち盛り上がりを欠く印象。
 その後レコード・デビューを果たして、『シェリー』で大ヒットを飛ばして……みたいな大盛り上がり必至の部分も、やはりイーストウッド印の落ち着いた演出ゆえか、それほど盛り上がっている感じがしない。
 そもそも、僕はフランキー・ヴァリって誰だっけ? と思うような人間なので、『シェリー』を聴いてようやく、あぁ、フォー・シーズンズってこの曲のバンドなんだと思いはしたものの、やはりメンバーが楽器を弾きながら踊ってしまうようなバンドには、いまいち共感しにくかった。
 ミュージカルとしても、歌を歌いながら演技をするようなシーンはなく、音楽は基本、演奏シーンだけということもあり、(おそらく舞台の演出を踏襲しているんでしょう)ところどころで出演者がカメラに向かって話しかける演出ともあいまって、ある種ドキュメンタリー・フィルムを観ているのに近い感じがあった。
 そんな風に演出が浮ついていないからこそ、後半に人間関係や金銭問題のこじれからバンドが破綻してゆく過程には、普通のミュージカルとはひと味違った切実な悲しみが感じられる。
 そしてクライマックス。僕がフランキー・ヴァリという名前を聞いても思い出さなかったあの大ヒット曲が、満を持して鳴り響く。おぉ、そうか、そうか、これか~。
 さすがにここまでくると感動的だった。前半の舞台だったイタリア移民街のセットをバックに出演者が総出で歌い踊るエンド・クレジットも含め、イーストウッド作品らしからぬハッピー感のあるエンディングが素敵でした。
 キャスティングはマフィアのボス役のクリストファー・ウォーケンをのぞくと、あまり有名な人はいない(エンド・クレジットではこの人まで踊っているのが微笑ましかった)。せいぜい、バンドのリーダー格にしてトラブル・メイカーのトニー役が、『ボードウォーク・エンパイア』でラッキー・ルチアーノを演じているヴィンセント・ピアッツァなのに、おっと思ったくらい。
 あと、フランキー・ヴァリ役のジョン・ロイド・ヤングという人、やけに歌がうまいと思ったら、舞台版からの抜擢だとのことでした。これには、なるほど、道理でと納得。
(Feb 27, 2016)