2011年6月の映画
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シャッター アイランド
マーティン・スコセッシ監督/レオナルド・ディカプリオ、マーク・ラファロ/2010年/アメリカ/BS録画
沖の孤島にある精神病患者だけを収容した刑務所が舞台のミステリだというので、テーマ的にはまったく惹かれなかったのだけれど、マーティン・スコセッシの最新作にしてオスカー受賞後第一弾、そして原作は 『ミスティック・リバー』 のデニス・ルヘインとなると、やっぱこりゃ観ておかないわけにはいかないだろーと思う。
で、いざ観てみれば、そこはそこ。さすがにスコセッシの作品だけあっておもしろい。女性患者が失踪したという通報を受けて、ディカプリオ演じる連邦保安官が現地に駆けつけてみると、そこはいかにも秘密のありそうな怪しげな施設で、なにやらよからぬことが行われている雰囲気。彼は悪事を暴きだそうと奮闘するも、もとより自身が深刻なトラウマをかかえていたために、夜ごとの悪夢にうなされ、徐々に現実と幻想の境目がはっきりしなくなってゆく。やがて彼自身の正気さえもが疑われるような展開に……。
クライマックスでの大どんでん返し、悲劇的な真相、そして苦味のあるエンディング。とても見ごたえのある、よくできた映画だと思う……のだけれど。
HD時代ならではのヴィヴィッドでシャープな映像が、全体的なおどろおどろしい雰囲気にいまいちマッチしていない気がした。この内容だったら、もっと陰影の深い、昔風のくすんだ絵のほうが合う気がする。その点、ちょっとだけもったいないかなぁと思ってしまった。
どうやら、なんでもかんでもハイヴィジョンで絵が綺麗になればよくなるというものでもないらしい。それとも、こういうのも慣れの問題で、いずれこのレベルの画質でないと満足できない日がくるんでしょうか?
(Jun 15, 2011)
アイアンマン2
ジョン・ファブロー監督/ロバート・ダウニー・ジュニア、ミッキー・ローク/2010年/アメリカ/BS録画
この映画はとにかくキャスティングがものすごい。ロバート・ダウニー・ジュニアとグウィネス・パルトロウが競演しているってだけでも、僕なんかは贅沢だと思うのに、そこに加わるのが、ミッキー・ロークにスカーレット・ヨハンソンにサム・ロックウェルにドン・チードルって。さらにはサミュエル・L・ジャクソンまで出てきちゃったりして(知らなんだ)。いったいどんだけの大金をつぎ込んでいるんでしょうか。
だいたいにして、人気アメコミ実写版の第二弾ってだけで、ある程度のヒットは保証されているのに、そこにここまで豪華なキャストを配するってのは、無駄に贅沢すぎる気さえしてしまう(貧乏人の悲しい
映画自体も(前作をしのぐほどではないけれど)おもしろかった。個人的にもっともインパクトを受けたのは、本編とはほとんど関係のないシーケンスで披露された、スカーレット・ヨハンソンによる、思いがけないバトル・アクション。
美女によるアクション・シーンというと、どうにも 『イーオン・フラックス』 でのシャーリーズ・セロンのそれを思い出してしまうけれど(あれはひどかった)、ここでのスカーレット・ヨハンソンのそれはとても素晴らしい。それまではしゃなりしゃなりと優雅に腰をくねらせていた彼女が、いきなりバドル・マシンのようになって、ばったばったと野郎どもをなぎ倒してゆく様は、あまりにもギャップが激しくて笑えた。
──とはいっても、これは彼女の女優としての演技力がどうしたというより、監督の腕前とCG技術の進歩の問題だろうという気はする。ジョン・ファブローの演出が見事なんであって、これをしてシャーリーズ・セロンよりもスカーレット・ヨハンソンの方がアクション・スターの素質があるとは誰も思わないだろう(いや、そうだったりして)。なんにしろ、とてもおもしろかった。アイアンマン、スカーレット・ヨハンソンに食われるの巻。
まあ、そんな風に本編と関係のないところで盛りあがってしまうというのは、その分、全体的な印象として前作におよばない証拠かなぁ、と思ったりもする。
たとえば、そのスカーレット・ヨハンソンやサミュエル・L・ジャクソンがアイアンマンとどういう関係なのかとか、観ていてもよくわからなかった。なんでもマーベルのスーパーヒーローが一堂に会する 『アベンジャーズ』 という映画が来年公開の予定だそうで、そこにはアイアンマンと並んで、彼らふたりも登場するのだとか。そうと知って、ああ、なるほどとおもったけれど、でもこの映画を観ても、そんなことはわからない。そこんところはやや説明不足かなという気がした。
ということで、確かにおもしろかったし、好きか嫌いかと問われれば好きなんだけれど、ただ、DVDやBDが欲しいかと問われると(つまり何度でも見直したいかというと)、それほどでもないかなと。そういう作品だった。まあ、いずれは買うことになりそうな気はするけれど。
そうそう、あとひとつ。ささやかなことながら残念だったのは、話の流れでアーク・リアクターのデザインが変わってしまったこと。あれはやはり逆三角形よりも丸いほうがカッコよかった。
(Jun 24, 2011)
NINE
ロブ・マーシャル監督/ダニエル・デイ=ルイス、マリオン・コティヤール/2009年/アメリカ、イタリア/BS録画
フェデリコ・フェリーニの『8 1/2』をもとにしたブロードウェイ・ミュージカルを映画化した作品。監督は 『シカゴ』 のロブ・マーシャルとのこと。この人、ブロードウェイ・ミュージカルの映画化が大好きらしい。
なにはともあれ、これもキャスティングがすんごい。とくに女優さんが豪華絢爛。ニコール・キッドマンにペネロペ・クルス、マリオン・コティヤールにケイト・ハドソン、ベテランではソフィア・ローレンにジュディ・デンチと、それぞれに主演級の新旧の美人女優がずらり。さらには歌姫ファーギーまで出ているからびっくりだ。これだけの大女優ばかりを集めただけでも拍手もの、という気がする。
とはいえ、映画としての出来はまあまあ。オリジナルの 『8 1/2』がもともと物語として云々という作品ではないので、それをミュージカルにするというアイディア自体はおもしろいと思ったし、あちらがモノクロなのに対して、こちらは基本カラーで、映像もとてもきれいだ。ただ、なんとなく全体的に映画としてまとまりがないというか、しっくりこない感じがする。
それはおそらく、主演のダニエル・デイ=ルイスのせいではないかと思う。とてもいい俳優だし、この映画での彼は間違いなくカッコいい──とは思うのだけれど、いかんせん、この話にはそんな彼が似合わない気がして仕方ない。
基本的にこの映画の主人公は、過去に多くの美女と逢瀬を重ねつつ、いまは仕事に行き詰まってぐだぐだしている、いわゆる「憎みきれないろくでなし」といったキャラだ。
大事なのはこの「憎みきれない」って部分で、要するに母性本能をくすぐるタイプってことだと思うのだけれど、ダニエル・デイ=ルイスはそういうタイプではない。少なくても僕はそう思う。『8 1/2』 のマルチェロ・マストロヤンニはまさにそういうタイプだったけれど、ダニエル・デイ=ルイスは違う。うちの奥さんも同意見だったから、あながち外れてもいないと思う。
そういう意味で、この映画は主演男優のミス・キャストだと思う。それこそ、ひとつ前に観たロバート・ダウニー・ジュニアや、その前に観たレオナルド・ディカプリオが主演だったら、もっとしっくりきていたんじゃないだろうか。そんな気する。女優陣が豪華なだけに、ちょっともったいなかったなぁ……と思ってしまった。
まあ、いい俳優がいい演技をすれば必ずいい映画になるってものでもないってところが、表現のおもしろいところかもしれない。
(Jun 24, 2011)