2010年6月の映画

Index

  1. キャピタリズム ~マネーは踊る~
  2. かいじゅうたちのいるところ

キャピタリズム ~マネーは踊る~

マイケル・ムーア監督/2009年/アメリカ/DVD

キャピタリズム~マネーは踊る プレミアム・エディション [DVD]

 アメリカの怒れるドキュメンタリー映画監督、マイケル・ムーアの最新作。
 彼が今回の作品で槍玉に挙げているのは「資本主義」。なんでいまさら資本主義なのかと思ったら、フォーカスしてるのは、せんだっての世界金融恐慌の原因となったサブプライムローンだった。ああ、なるほど。
 ムーアは、この金融政策に踊らされて住む家を奪われた多くの人たちと、反対にこの機に乗じて巨額の富を築いた小数の資本家や政治家たちの姿を対比させて、いつもどおり母国の現状をはげしく糾弾してみせる。
 政府が税金をつかって破綻した大手金融機関を救済する一方で、住む場所もなくなった貧しい人々は平気で見捨てている現状に憤慨して、ウォール街へと乗り込んでゆき、メガホン片手に「税金を受けとってばかりで返さないあんたたちは泥棒だ。市民逮捕する!」と吠え立てる(で、お約束のように門前払いを食らう)。
 警察が犯罪現場保持のためにつかう黄色いテープで大手銀行の本社ビルや証券取引所をぐるぐる巻きしながら「市民逮捕する!」と叫んでいるマイケル・ムーアの姿は滑稽でちょいとばかり痛く、とても真面目な人には見えない。しかめ面をして見守る人も少なくない。
 それでも、自分らが主導した金融緩和により路頭に迷う人たちをわんさと生み出しておきながら、自分たちはそれで大儲けして億万長者になったロビイストたちの存在を知らされてしまうと、そんなマイケル・ムーアの道化者ぶりなんて、まるでかわいいもんだって思える。この作品は彼のこれまでの作品同様、アメリカ社会の歪んだ現状をこれでもかと見せつける。
 ただ、少しだけこれまでの作品とちがうところもある。不当解雇された労働者たちが集団で工場に立てこもって、それ相応の補償をもぎ取ったり(まるで 『ノーマ・レイ』 そのままだ)、立ち退きを迫られた一家を近所の住民が団結して守った事件など、この映画の終盤には、いままでの作品にはなかった前向きなエピソードが紹介されている。
 そしてなによりも感動的なのは、第二次大戦終戦直前に放送されたという、ルーズベルト大統領による所信演説。「すべての国民が将来を心配することなく暮らしてゆける福祉国家を目指します」みたいなそのスピーチは、理想とリーダーシップに溢れて輝かんばかりだ。政治にはなにひとつ期待することができないといった風潮のいまの日本に生きるものとして憧れずにはいられない。日本にもこんな政治家がいてくれたなら、どんなにいいだろう……と思ってしまった(まあ、ルーズベルトは敵国だった日本に対して、つよい差別意識を持っていたという話もあるようだけれど)。
 なんにしろ、そんなわけでこの映画の終盤には、いつもよりも若干ポジティヴなメッセージが含まれている。そこのところが、マイケル・ムーアがこの作品に「ラブ・ストーリー」なんていう、らしくないサブタイトルをつけた所以{ゆえん}なのだろうと思う。そこのところをまったくわきまえず、「マネーは踊る」なんて浮ついた邦題をつける日本は、あいかわらずなってないとも思った。
 そういえば、この映画の中にはマイケル・ムーアが母国の駄目さ加減と対比させて、「それと引きかえ、敗戦国のドイツや日本は……」と嘆くシーンがある。僕らにしてみれば、日本だってアメリカと似たようなものなので、かなり気恥ずかしかった。
(Jun 08, 2010)

かいじゅうたちのいるところ

スパイク・ジョーンズ監督/マックス・レコーズ/2009年/アメリカ/BD

かいじゅうたちのいるところ [Blu-ray]

 アメリカのベストセラー絵本作家、モーリス・センダックの原作をスパイク・ジョーンズが実写映画化した話題作。
 この作品に関しては、最初にポスターで「かいじゅう」のビジュアルを見た時点でひとめ惚れだった。小さな少年と大きな毛むくじゃらのかいじゅうの対比が秀逸。さらに予告編で、巨大なかいじゅうたちがおかしな重力感でふわりと飛んでいる映像のコミカルさにやられ、こりゃやっぱ必見だと思った。
 もひとつおまけに、映画に先駆けて、いまさら絵本も買ってみて、そのシュールさとストーリーのなさに愕然。これをいったい、どう映画化するんだと、それはそれでまた興味をかきたてられた。
 でも、いざ映画を見てみると、そこには絵本をベースにしつつも、絵本とはまた異なった作品世界が展開されていた。残念ながら、僕にはそこがやや引っかかった。
 要するにここには、いかにも普通の物語があるんだった。絵本には、滑稽さと不気味さが入り混じった、意味のない空想がボーダーレスに広がっていくような自由さがあるけれど、この映画にはそれがない。かいじゅうの造形や動きは、やはりとても魅力的なんだけれど、下手に物語があったり、かいじゅうたちが性格づけされていたりする分、せっかくのそうした映像的な魅力が、平均的なハリウッドっぽさのなかに埋没してしまっているように感じる。
 僕は余計な説明抜きに、子供部屋がジャングルになり、そこからマックスが海へ出て、かいじゅうたちのいる国にたどりつく──絵本にあるそういう不条理なナンセンスが、不条理なまま展開される──、そういう映画が観たかった。その点、やや残念。
 でも、子供相手の映画だとするならば、これくらいの出来で十分なのかもしれない。というか、子供向けといいながら、モーリス・センダックの原作は、あまりにシュールだ。ある意味、わかりやすさに拘泥してばかりのハリウッド的エンターテイメントよりも、ああいう不条理さがそのまままかり通る絵本の世界のほうが、よほどすごいと思う。おそるべし、絵本の世界。
(Jun 27, 2010)