2010年5月の映画
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キャッチ・ミー・イフ・ユーキャン
スティーヴン・スピルバーグ監督/レオナルド・ディカプリオ、トム・ハンクス/2002年/アメリカ
スピルバーグが監督をつとめた実話をもとにした映画。でもってトム・ハンクスが出ていて、空港を舞台にして……というこの映画の構成要素は、考えてみるとかなり 『ターミナル』 とかぶる。でも出来はこちらのほうがいいと思う。少なくても僕はこっちの方が断然好きだった。なのに 『ターミナル』 はリリース当時にDVDを買っていて、これはいままで観たことがなかったというのは、われながらちょっと間違っている気がする──なんて話は、まあどうでもいいとして。
で、おもしろかったと言いながらこういうのもなんだけれど、この映画、冷静に考えるとけっこうおかしいと思う。主人公のフランク・アバグネイルは十代ですでに何億ドルって金をだましとった天才詐欺師だ。それって、つまり年よりも老けて見えたってことなんじゃないの? とても十代には見えないくらい落ち着いていたからから、人々が信用して小切手を受けとったり、パイロットや医者としての偽装を見破れなかったりしたんじゃないかと思う。失礼ながら、Wikipedia にあるご本人の写真からすると、あまり美少年だったようには見えないし。
でもこの映画の設定はまるで逆。二十代後半のディカプリオが、じゅうぶん十代に見えるという点は詐欺師っぽいけれど、かといってこんな若々しくてハンサムな優男がそんな風にあらゆる人の信頼を勝ち取れるっていわれても、おいそれとは信じられない。要するにこれは、実話をもとにしたといいつつ、キャスティングからしてすでにリアリティを無視しているんだった。
ただ、そのおかげでこの映画はある種のおとぎ話のような雰囲気になっている。ディカプリオがやっていることは本来卑劣な犯罪のはずなのに、あまり悪いことをやっているような印象を受けない。最終的に主人公が更正することもあって、罪のない子供のいたずらを見たくらいの感じで、あと味の悪さがない。きっとなかには彼に騙されて人生に失敗した人だっているだろうに、こんな能天気な話でいいのか──という気がしなくもないけれど、でもこの気持ちのいい楽観性こそがスピルバーグの持ち味だという気がする。
(May 17, 2010)
レッドクリフ Part I
ジョン・ウー監督/トニー・レオン、金城武/2008年/中国/BS録画
三国志のうちの一エピソード、赤壁の戦いにスポットをあてたジョン・ウー監督による歴史アクション大作の前編。
自慢じゃないけれど、僕は過去に 『三国志演義』 を二度も通読している。それでいて内容についてはまったくといっていいほど覚えていなくて、「赤壁の戦いってなに?」とか思ってしまうんだから、われながらなってないというか、なんというか……。岩波文庫にして全八巻(講談社の単行本では全三巻)のボリュームだから、読むにもかなりの時間がかかるのに、それだけの時間を費やした甲斐がまるでない。
ま、なんにしろ二度も読むくらいだから三国志についてはそれなりに関心があるわけだ。その三国志を 『フェイス/オフ』 で強烈なインパクトを残したジョン・ウーが映画化したとなれば、自然と興味もわいてくる。僕はふだんアジアの映画はまったく観ないし──トニー・レオンなんか顔さえ知らなかった──、基本的に歴史ものもあまり好きではないのだけれど、これに関してはそんなわけで「三国志」という言葉に踊らされて、珍しく観てみようって気になった。
で、観てみて、まずなによりも意表をつかれたのが、主人公が劉備ではないこと。諸葛孔明が目立っているのは当然として、誰だよ
──と。そういう紋切り型の三国志観を裏切っている点が、この映画のなによりの特徴だと思う。劉備が主役じゃないどころか、下手したら彼より部下の趙雲のほうが目立っていたりするので、三国志を劉備の物語だと思い込んでいる僕のような人間にとっては、その点はやや違和感があった。少なくても僕の目には、この映画の劉備軍の面々はそれほど魅力的には映らなかったし……(もっとも、原作を読んでも劉備という人がそれほど魅力的だとは僕には思えないんだけれど)。
ただ、そんな劉備軍にあってもさすがに金城武の演じる諸葛亮だけは例外。この人だけはトニー・レオンの周瑜と肩を並べるだけの存在感がある。まあ、稀代の策士という役どころにしては、あまりにいい男すぎて説得力を欠く嫌いはあるけれど、とりあえず彼がいるおかげで、なんとか劉備軍の面目が立っている印象だった。
ということで、僕なんかからすると不思議な視点から撮られているこの映画だけれど、赤壁の戦いのなんたるかも知らない僕と違って、中国人のジョン・ウーは一般常識のレベルで三国志に親しんでいるんだろうし、そんな人がこういう映画を撮るからには、周瑜という人は三国志の世界では意外とポピュラーな存在なのかもしれない(ウィキペディアの説明も詳しいし)。もしや直江兼続が大河ドラマの主役に抜擢されるのと似たようなものかと思ったりした。
以下、Part II につづく。
(May 26, 2010)
レッドクリフ Part II ~未来への最終決戦~
ジョン・ウー監督/トニー・レオン、金城武/2009年/中国/BS録画
中国人としては世界でもっともネームバリューがある映画監督が、ハリウッドばりの予算をつぎ込んで三国志を映像化したアクション大作の完結編。
──というのが、この作品の売り文句としては定番的なものだと思うけれど、いざ観て僕が個人的に一番インパクトを受けたのは、ジョン・ウーならではの派手なアクション・シーンや、絢爛豪華なセットや衣装よりもむしろ、たったひとりの女性だった。
周瑜の妻、小喬を演じるリン・チーリン(林志玲)。この人、めちゃくちゃきれいじゃないですか~。これぞアジアン・ビューティーと呼びたくなるような清楚な美しさに、思わず見惚れてしまった。彼女のためだけでもこの映画は観る価値があるとさえ思う。曹操が年甲斐もなく横恋慕するのも、もっともだ。
で、あまりに彼女がきれいだったもんで、映画を観終わったあとでインターネットを検索してみたのだけれど、それで僕はさらにびっくりすることになる。なぜって、引っかかってきた彼女の画像が、どれもあまりに平凡だったから。
きれいはきれいなんだけれど、映画の中で見たような、思わず目を見張るような美しさはほとんど感じられない。どこにでもいる最近の美女って感じで、なかには水着のセクシー・ショットとかもあって、映画のなかでの可憐さは微塵もない。さらに調べれば、日本ではエイベックスと契約していて(公式ページあり)、キムタク主演のドラマへの出演も決まっているという(現在放映中ですね)。なんだい、ふつうじゃん!って思った。
そう、インターネットで見るかぎり、リン・チーリンという人は容姿的にも人となり的にも、日本にいくらでもいそうな、ふつうの美人女優としか思えないのだった(ま、「美人女優」という時点でその存在自体がふつうじゃないんだけれど)。それなのに、この映画の中での彼女は、輝かんばかりの魅力を放っている。あぁ、これぞ映画のマジック! 彼女の美しさをしっかりフィルムに焼きつけたジョン・ウーに大きな拍手を送りたいと思う。
ちなみに孫権の妹、孫尚香というおてんば娘を演じているヴィッキー・チャオという女優さんも可愛いですけど、彼女の場合はとってつけたようなシナリオでやや損をしている気がする。最高権力者の妹が男に変装して敵陣に潜入する──しかも彼女が女性だと気がつかないで親身になる野郎がいたりする──なんて話、あまりにあり得なさすぎるだろーと思ってしまった。あの一連のエピソードは僕としては余計だと思った。
そういう意味ではこの映画、前後編で5時間近いというのは、さすがに長過ぎると思う。おもしろいことはおもしろいけれど、もうすこしコンパクトなほうが好み。英米では2時間半ばかりに編集した1本の作品として公開されたというので、どうせなら僕もそのバージョンでよかった気がした。
(May 27, 2010)