2010年4月の映画
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ナショナル・トレジャー
ジョン・タートルトーブ監督/ニコラス・ケイジ、ダイアン・クルーガー、ジャスティン・バーサ/2004年/アメリカ/DVD
『ダヴィンチ・コード』 とインディ・ジョーンズ・シリーズを掛けあわせたような歴史探求アクション・アドベンチャーの第一弾。
話はニコラス・ケイジ演じる主人公のベンジャミン・ゲイツが、アメリカ史の裏側に隠された秘密の財宝を追って、ギャングまがいのライバルと人騒がせな争奪戦を繰り広げるというもの。
観終わってから2週間ちかくほったらかしていたせいで、すでに細かいところは忘れかけているけれど──僕の記憶力にも問題はあるけれど、作品自体その程度の出来だという話もある──、印象的には先に観た次回作とそれほど変わらなかった。やはり二作目同様、ディテールのリアリティを度外視した、なんだそりゃって展開が満載だけれど、それでも変に高尚ぶらずに娯楽に徹している分、それなりに楽しめた。どちらかというと続編のほうが好きだったけれど、あれは先に観たから、というだけのような気もする。なんにしろ、最近の気分からすると、無駄に人が死ぬ紋切り型のサイコ・スリラーよりも、こういうほうが罪がなくて、よほどマシだと思う。
配役でおやっと思ったのは、冒頭にニコラス・ケイジのお祖父さんの役でちょいと出てくるクリストファー・プラマーという人。名前には聴きおぼえがあるけれど、誰だっけと思ったら、『サウンド・オブ・ミュージック』 でトラップ大佐を演じた人とのことでした。ああ、そうなんだ。でも、老けているせいもあって、顔を見てもぜんぜんわからない。
なにはともあれ、この人を含め、ジョン・ヴォイト、ハーヴェイ・カイテル、そして続編のヘレン・ミレンなど、その内容からするともったいないくらいの名優たちで脇役を固めてみせたキャスティングはとても贅沢だ。そのあたりは、さすが売れっ子プロデューサー、ジェリー・ブラッカイマーの作品。
(Apr 15, 2010)
ウォッチメン
ザック・スナイダー監督/マリン・アッカーマン、ビリー・クラダップ/2009年/アメリカ/DVD
アメコミと日本のマンガの一番の違いは写実性にあるんだというのが、すごくよくわかる映画だと思う。
とにかく、オリジナルのコミックのイメージそのまんまのキャスティングが見事。とくにナイトオウルことダニエルを演じるパトリック・ウィルソンという人や、ロールシャッハ役のジャッキー・アール・ヘイリーなど、この人たちをモデルに絵を描いたんじゃないかと思ってしまうくらい、原作にそっくりで感心してしまった。
作画の時点でのデフォルメが大きい日本のマンガを映画化しても、絶対こうはならない。大友克洋あたりの作品ならば、ある程度はいけるかもしれないけれど、似ているだけならばともかく、同時にしっかりした演技力のある俳優をそろえなくちゃいけないわけだから、日本映画界のすそ野の狭さを考えると、ここまで質の高い映画を作るのはとても無理だろう。ということで、日米のマンガ感の違いを感じるとともに、ハリウッド映画の底力を思い知った一作だった。
ただ、じゃあだからアメコミが日本のマンガよりすごいと思ったとかいう話ではなく。
正直なところ、日本のマンガを読んで育った僕には、原作であるアメコミはあまり魅力的ではなかった。日本マンガのデフォルメされたダイナミックな文脈に慣れ親しんでしまった身としては、写実的な分、動きの少ないアメコミのフォーマットは、どうにもしっくりこなかった。だから作品としての評価の高さにはなるほどと思ったけれど、僕個人としては楽しめたとは言いにくい。
その点、この映画版はマンガと違って、そういう違和感がない分、すんなりと楽しめる。マンガの世界観に深みをあたえていた文学的サブプロットをばっさり切り落としたり、クライマックスの大事件を今風にアレンジしたりした点には異論もあるだろうけれど(原作のクライマックスにあったB級SFテイスト弾ける感じがなくなったのは確かに残念だった)、それでもこれは非常によくできた映画だと思う。
ロック・ファンとして大いに感心したのは、その音楽の使いかた。時代設定が60年代から80年代ということで、その時代のロック・ナンバーをあしらってみせたセンスのよさには、ぐっとくるものがあった。とくにオープニングのタイトル・バックでボブ・ディランの『時代が変わる』 を使ってみせたのは最高だと思う。あのシーケンスひとつをとっても、僕はこの映画を好きにならずにはいられない。
(Apr 25, 2010)
少年メリケンサック
宮藤官九郎・監督/宮﨑あおい、佐藤浩市/2009年/日本/BS録画
宮﨑あおいがキッスみたいなメイクですごんでいるポスターのおもしろさに惹かれて、僕としては珍しく観たいと思った日本の映画だったのだけれど……。
残念ながら、やはりこれも駄目だった。ひとつ前の 『ウォッチメン』 がアメリカ映画の実力を知らしめた作品だったとしたら、こちらは日本映画への不満を再認識させるような作品だった。
いや、決してつまらなかったとは言わない。それなりに笑ったし、話としてはそこそこおもしろいと思う。宮﨑あおいも可愛い(そういえば彼女の演技を観るのってこれが初めてだ)。ただ、これって僕が映画として求めているような作品じゃない。
なにがダメって、演技の多くがコントと化している点。ユースケ・サンタマリアの演技なんか、音楽寅さんのときとまるで変わらない。いまが旬ならそれでよし、あとは野となれ山となれのテレビ・ドラマやバラエティ番組ならばいざ知らず、なんでこれをわざわざ映画として観なきゃなんないんだと思ってしまう。
コメディなんだから演技がシリアスじゃなくても当然だろうと言われるかもしれないけれど、僕はそうは思わない。僕の好きなスパイク・リーやコーエン兄弟は、普通の演技の積み重ねのなかでしっかり笑わせてくれる。ビリー・ワイルダーやキャプラ、ヒッチコックといった往年の巨匠だってそうだ(そうそう、ウディ・アレンも忘れちゃいけない)。少なくても僕が好きなコメディには、こういうコントのような映画ってほとんどない。
とにかく、邦画全体の傾向としてなによりもの足りないのはこの点。作風的にぜんぜんユーモアがないか、こういうコント路線に走ってしまうかのどちらかで、中間地点がない(少なくても僕個人が受けている印象ではそう)。基本的に僕が理想とするのは、笑いを含んだシリアスな作品なので、邦画のそういう両極端な現状にはどうにも不満をおぼえてしまうのだった。
これは映画に限ったことではなく、文学も似たようなものという気がする。現代日本文学において、村上春樹だけが世界で受け入られているのは、ユーモアを込めてシリアスな物語を語れる日本で唯一の作家だからなのではないかと思ったりする。その点は映画界における北野武もそう(あの人の場合はコントに流れてしまうことも多いけれど、その一方でシリアスなドラマをちゃんと撮れることでバランスを保っている)。
一概にコント乗りのコメディが悪いとは言わないけれど、それしかない状況ってのは、やはりいびつだと思う。普通の演技で笑わせてくれるコメディのなかに、この手の作品がちらほらある、みたいな状況が理想。そういうのがあたり前になる時代がきたら、きっと僕ももっと日本の映画を観るようになるだろう。なんたって可愛い女の子はたくさんいるんだから。
願わくば僕は、宮﨑あおいを主役にした粋なロマンティック・コメディが観たい。
(Apr 25, 2010)
スラムドッグ$ミリオネア
ダニー・ボイル監督/デヴ・パテル、フリーダ・ピント/2009年/イギリス/BS録画
インドを舞台にした、インド人俳優だけしか出てこない映画だというので、あまり乗り気はしなかったのだけれど、まあ、アカデミー賞受賞作だからおもしろいんだろうし、観るだけ観ておこうと思ったら、なるほど、これはだてにオスカーを獲っちゃいなかった。人口11億を誇るインドの猥雑なパワーをそのままパッケージしたような、とてもパワフルでおもしろい映画だった。
この映画、物語としてのおもしろさもさることながら、映像のインパクトも強い。『トレインスポッティング』 や 『28日後…』 で見せたダニー・ボイルの映像センスが、そのままインドを舞台に炸裂した感じで、とにかくカラフルかつエネルギッシュ。こういう映像の魅力にふれるのも映画を観る楽しみのひとつだと思う。これに限らず、最近の映画は映像がきれいな映画が多くて嬉しい。
そういえば、ひとつ前の 『少年メリケンサック』 はこういう映像的な魅力にも乏しかった。絵を観て「おー、このシーン、カッコいい」と思うことがほとんどない。たまたまひさしぶりに邦画を観たあとだということもあって、その差がとても気になってしまった。
この映画には有名なハリウッド俳優はひとりも出てこない。特別な特撮もいっさいない。それでも才能ある映画監督の手にかかれば、こんなに素晴らしい映画が撮れてしまうというのは、かなりインパクトがある。
もしも同じようにダニー・ボイルが日本を舞台に、日本人を主役に据えて映画を撮ったらばどんなことになるんだろう。やはり素晴らしい作品に仕上がるんだろうか。それともまさか、日本のいまの衰退がそのまま反映されて、すごくしょぼい映画になったりして……と、そんな埒もないことを考えさせられる映画でもあった。
(Apr 25, 2010)
地球の静止する日
ロバート・ワイズ監督/マイケル・レニー、パトリシア・ニール/1951年/アメリカ
昔の映画のなにがいいかって、話の進み方が速い点。この映画の冒頭、UFOが飛来する部分の展開の慌ただしさがすごい。いきなりそんなぁ、って感じでつかみはバッチリ。2008年のリメイク版がいま風にゆっくりとした入り方をするのと対照的だ。
対照的ということでいえば、その後の展開もそう。リメイク版ではゆっくりと始まり、いざ事件が起こってからは、休む間もないって感じだけれど、こちらは最初こそパニクっているものの、その後はいたってのんびりとしたムードになる。宇宙人が地球人にまじって普通に日常生活を送っているおかしさがいい。
アメリカ人の好戦的な気質を皮肉った序盤の展開や(いきなり宇宙人を撃つかな)、原子爆弾の脅威に警鐘を鳴らすような部分には、単なる娯楽映画以上を目指したらしき啓蒙性があって、その部分がいまとなるとやや堅苦しいかなという気がしてしまうけれど、当時の映像技術からすれば革新的な特撮を用いながらも──巨大なUFOが公園に着陸する部分の特撮はどうやって撮ったのかわからない──そうした映像の斬新さだけに頼らない地に足がついた映画作りがされている点に好感が持てた。
B級SFテイストあふれるUFOやロボットの造形に苦笑しつつ、昔の映画ならではの良心的な人間ドラマが楽しめる秀作。
(Apr 30, 2010)
地球が静止する日
スコット・デリクソン監督/キアヌ・リーヴス、ジェニファー・コネリー/2008年/アメリカ
これはあきらかに失敗作でしょう。
ひとつ前に観た1951年のオリジナル版のプロットを踏襲しつつ、ディテールをいま風にアップデートしてみせた結果、派手なSFX以外はなにも残らなかったという印象の作品。たまに予告編のほうが本編よりもおもしろいんじゃないかという映画があるけれど、これがまさにそれ。言っちゃ悪いけれど、予告編だけ見れば、まじで用が足りてしまうような作品だと思う。
主演のキアヌ・リーヴス、ヒロインのジェニファー・コネリー、彼女の息子役のジェイデン・スミス(ウィル・スミスのお子さん)に、キャシー・ベイツと、これだけ豪華なキャスティングをしておきながら、なおかつSFXにも大金を投じているんだろうに、それでこの程度の映画しかできないってのは、いったいなぜなんだろうと不思議になってしまう。
もしかしてこれがリメイクでなければ、もう少しいいところも見つけ出せたのかもしれないけれど、いかんせんこれはリメイク版。オリジナルとの比較は避けられない。旧作のうわっ面を踏襲しただけで、その持ち味のよさをいっさい失ってしまったこのリメイクを誉める言葉が、僕にはどうにも見つけられない。一生懸命作った人たちには悪いとは思うけど。
(Apr 30, 2010)
アクロス・ザ・ユニバース
ジュリー・テイモア監督/ジム・スタージェス、エヴァン・レイチェル・ウッド/2007年/アメリカ
ビートルズ・ナンバーをたくさん使った映画だというので、シルク・ド・ソレイユのようにオリジナルをそのままBGMとして使っているのかと思っていたらそうではなく。ビートルズ・ナンバーだけを使ったミュージカル映画だというんで(つまり楽曲はすべてカバー)、そりゃビートルズ&ミュージカル好きな僕としては必見だと思って、ついDVDを買ってしまった作品(3枚3千円のうちの1枚)。
ロック・ミュージックを使ったミュージカル映画というと、僕がまず思い浮かべるのはラズ・バーマンの 『ムーラン・ルージュ』 なのだけれど、あれとくらべると、こちらは全体的に生真面目な感じ。主要な俳優が若いせいもあるんだろうけれど、なんとも初々しくて、あまりひねりがない。そこが微笑ましくもあり、もの足りなくもありという感じだった。
最大の目玉であるビートルズ・ナンバーの数々も、あまりにオリジナルのイメージが強いせいか、いまいちしっくりこなかった。もともとビートルズの曲が持っているメッセージをそのまま羅列してつなぎあわせただけという感じで、あまり意外性がないのも、もの足りなさの要因だと思う。そういう意味では残念ながら 『ムーラン・ルージュ』──それほど愛着はないけれど、よく知っているロック・ナンバーが、意外性のある使われ方でもって、絶妙なユーモアとペーソスを生み出していた──には及ばないかなと思う。
ということで絶賛するまでには到らないけれど、これはこれで悪くなかった。登場人物にビートルズ・ナンバーでおなじみの名前──ジュード、ルーシー、マックス、セディー、ジョジョ、プルーデンスなど──をつけてみせたのは気がきいているし、なにより主役のジム・スタージェス── 『ラスベガスをぶっつぶせ』 の主演の彼。この人は若手の俳優のなかではジェイムズ・マカヴォイと並んで好感度が高い──をはじめ、若い子たちがみんな気持ちよさそうに歌っているのがいい。こちらまで一緒に歌いたくなった。
そうそう、この映画でなにより驚いたのは、U2のボノが出演していること。役名はドクター・ロバート(!)で、珍妙な口髭をつけてサイケデリックなシーンで 『アイ・アム・ザ・ウォラス』 を歌っている。なんだかロビン・ウィリアムスみたいで、なかなかの役者ぶりだった。彼の歌と演技が観られるってだけでも、個人的には必見の作品。
(Apr 30, 2010)