2009年4月の映画
Index
- カッコーの巣の上で
- X-ファイル:真実を求めて
- ナショナル・トレジャー2/リンカーン暗殺者の日記
- 88ミニッツ
- ショーシャンクの空に
- AVP2 エイリアンズVS.プレデター
- 誘拐犯
- スクール・オブ・ロック
- オリエント急行殺人事件
- トレーニング デイ
- 僕らのミライへ逆回転
- アザーズ
- ウォーリー
- スピード2
カッコーの巣の上で
ミロス・フォアマン監督/ジャック・ニコルソン、ルイーズ・フレッチャー/1975年/アメリカ/BS録画
精神病院の話だというのであまり乗り気じゃなかったのだけれど、歴代映画史上ベストテンに入る傑作だというので観てみれば、そこはさすが、噂にたがわぬ素晴らしい出来だった。
僕がこの映画でもっとも気に入ったのが、思いのほか笑いのある映画だったこと。精神病院の話だということで、真面目一本やりのシリアスな映画だろうと勝手に思い込んでいたのに、いざ観てみれば、そんなことはないどころか、終盤になるまでは、どちらかというとユーモアのほうが勝った内容だった。
しかもそのユーモアというのが、頭のおかしい人たちの奇矯な行動を笑いものにするようなものではなく、心を病んだ悩める人たちへの共感をベースにした、心温まるものであるところがいい。この映画が入院患者たちに向ける視線は終始あたたかだ。社会的弱者である彼ら全員の生きる価値をしっかりと認めているところが、この映画の最大の魅力だと思う。
そうした作り手のまっとうな視線は、悪役である病院側の人々に対しても向けられている。こちらは患者たちとはちがって、みんなやや没個性な嫌いはあるけれど、それでも図式的に悪者としての役回りを割り振られているわけではなく、それぞれが自らの職務にふつうに取り組んでいる結果として悪役に甘んじることになってしまうという描かれ方をしている(少なくても僕はそう思った)。悪いやつがいたから弱者が悲劇の主人公になったというのではなく、それぞれがそれぞれの立場で行動した結果として、最終的に不必要な悲劇が生じてしまう──この映画のそういう悲劇性は、物語としてこの上なく見事だと思った。
まあ、あまったれの僕にはクライマックスの無情さはあまりに悲しすぎたけれど――正直なところ、作品の質を下げてもいいから、ひとつ前でハッピーエンドにしておしまいにしてくれればよかったのにと思ってしまった――、それでもそのあとにちゃんと希望を残して映画は終わっているわけで、当然そこに感動する人だっているのだろう。いや、これはまさに名画と呼ぶにふさわしいと思った。
ちなみにクリストファー・ロイドとかダニー・デヴィートとか、老け役でしか知らなかった俳優さんたちの若いころの演技が見られたのも一興でした。
(Apr 03, 2009)
X-ファイル:真実を求めて
クリス・カーター監督/デヴィッド・ドゥカヴニー、ジリアン・アンダーソン/2008年/アメリカ/DVD
テレビ・シリーズ完結から6年ぶりにモルダーとスカリーが復活! まずはそれだけでも十分に嬉しいXファイルの劇場版第二弾。
前回の劇場版は、人気絶頂期のシーズンのはざまに製作されたために、「わざわざ映画館でやるんだからがんばらなくちゃ」とはりきり過ぎてしまったような作品だったけれど、あちらと比べると今回のやつは同じ劇場版でもずいぶんと様相が異なる。
なんでも最終章のときにお蔵入りした企画を練り直したのだとかで、なるほど、超能力にマッド・サイエンスを絡めたXファイルのアナザー・サイド的エピソードに、科学者でありながらキリスト教徒でもあるスカリーの宗教的苦悩を絡めたストーリーは、まさにテレビ・シリーズの延長線上という感じで、拍子抜けするほど気負いがない。地味っちゃあ地味だけれど、これはこれで悪くないと思う。少なくても僕は好きだ。
ただ、モルダーの部屋に貼ってあるUFOのポスターのフレーズ、"I WANT TO BELIEVE" をサブタイトルにかかげてある以上、僕らはいやおうなくUFOの存在を──ひいてはエイリアンを──意識してしまうわけで。その部分の期待にこたえてくれなかったのは、正直なところ、やはり残念だった。モルダーとスカリーのツーショットも少ないしなぁ……。Xファイル・ファンの大半にとっては、嬉しいと同時にもどかしい内容だと思う。
まあ、クリス・カーターには、テレビ・シリーズの最後で予告した2012年の一大イベントを映画化したいという意欲があるようなので、それが実現することを祈ろう。気がつけば、問題のその年まであとわずか3年しかないのだし。
とりあえずいまは、ひさしぶりにモルダーとスカリーと再会できたことを──6年の歳月がふたりの顔に刻み込んだしわの数にしみじみとしながら――素直に喜びたい。
(Apr 05, 2009)
ナショナル・トレジャー2 リンカーン暗殺者の日記
ジョン・タートルトーブ監督/ニコラス・ケイジ、エド・ハリス/2007年/アメリカ/BS録画
ハイテクを駆使してアメリカ史の裏側を探究するモダン・ファミリー版インディ・ジョーンズというか、アクション満載のダ・ヴィンチ・コードというか──ともかくそんな感じの大ヒット歴史ミステリ・アクションのシリーズ第二弾。WOWOWでやっていたので、第一作を飛ばして、いきなり二作目を観てしまった。
いやしかし、さすがに 『パイレーツ・オブ・カリビアン』 などの大ヒットメーカー、ジェリー・ブラッカイマーのプロデュース作品だけあって、これがけっこうおもしろい。話はかなりいい加減だけれど──なんで歴史に名を残したいという野心を抱いているだけのエド・ハリスが、平然と街中で銃撃戦を繰り広げるのかとか、なんで大統領がわざわざ秘密の
主人公の父親役のジョン・ヴォイトという人、顔には見覚えがないけれど、名前はよく知っていると思ったら(最近こういうのが多い)、アンジェリーナ・ジョリーのお父さんでした。おぉ、なるほど、この人が。
(Apr 05, 2009)
88ミニッツ
ジョン・アヴネット監督/アル・パチーノ、アリシア・ウィット/2007年/アメリカ/BS録画
以前に観た 『トゥー・ウィーク・ノーティス』 で脇役ながら小悪魔的な魅力を振りまいていたアリシア・ウィットが競演だというので観てみた、アル・パチーノ主演のサスペンス・スリラー。
物語はアル・パチーノ演じる心理学教授が、「お前はあと88分で死ぬ」という謎の脅迫を受けるというタイム・リミットもののサスペンス。彼が死刑宣告に追いこんだ連続殺人鬼の死刑執行日当日にふたたび同じ手口の殺人事件が発生して、自らの偽証と冤罪の可能性が疑われるなかで、なぜだか彼は命まで狙われるはめになる。
残念ながらこの映画はやや説明不足の感がある。授業中に携帯電話で脅迫を受けたアル・パチーノは、いきなり疑心暗鬼におちいり、自らの教え子のなかに犯人がいるんじゃないかと疑い始める。なんでいきなりそこまで疑い深くなるんだこの人はという感じで、観ていて釈然としない。さらに話が進んでゆくと、彼の疑心暗鬼はストーリー全体に蔓延して、ついにはアル・パチーノ自身が真犯人なんじゃないかという疑いも浮上してくる。もう誰を信じていいのやらの疑惑の玉虫色状態。この混沌とした疑わしさ全開の展開こそが、この映画の一番の見どころかもしれない。
ただ、とにかく誰かももが怪しいせいで、素直に感情移入できるキャラクターがひとりもいないから、観ている側としては身の置き場がない。おかげでアル・パチーノもお目当てのアリシア・ウィットもあまり魅力的に見えなかった。また、死刑囚のキャラクター(ある種のカリスマとして描かれる)についての説明が少なすぎて、結末には説得力がない。ということで、観ていて退屈はしかなったけれど、満足度はいまひとつだった。
ちなみにアリシア・ウィットはこのあいだ観た 『ツイン・ピークス』 にも子役として出演していたそうで――役どころはヘイワード家の三姉妹の末娘(つまりドナの妹)で、セカンド・シーズンの一話目のエンディングでピアノを弾いている女の子がそうらしい――、これにはちょっとびっくりだった。
(Apr 06, 2009)
ショーシャンクの空に
フランク・ダラボン監督/ティム・ロビンス、モーガン・フリーマン/1994年/アメリカ/BS録画
IMDb の人気投票ではいつでも 『ゴッドファーザー』 と歴代の1位、2位を争っている超人気作品──なのだけれども。
僕にはこの映画がなんでそこまでの人気を博しているのか、わからなかった。確かにおもしろいとは思うけれど、そんな史上ナンバーワンというほどじゃなくないですか? 同サイトでは09年4月の現時点で41万人がこの映画に投票して、そのうち6割近くの人が10点満点をつけている。つまり投票した人のうちの半分以上が、この映画を完璧だと思っているというんだからびっくりだ。なにゆえそれほどまで?
もしかして僕の場合、下馬評の高さを知っていたせいで、観る前から期待しすぎていたんだろうか。考えてみれば、僕は過去に原作を読んでいるわけで(ディテールはほとんど記憶にはないけれど)、終盤にどのような展開が待っているかは知っていたから、その点、なにも知らずに観た人とは、おのずから受ける感動は異なるわけだし。前情報なしに、いきなりゼロから観ていたら……と想像してみても、結局、ホントのところはわからない。
まあいいや。そこまでの傑作かどうかは別として、普通におもしろかったのは確かなんだから、よしとする。おなじフランク・ダラボン監督作品だけあって、 『グリーンマイル』 や 『マジェスティック』 と同系統の味わいで、似たようなおもしろさだった──とかいうと、まるで映画を見る目がないやつと思われそうな……。
(Apr 07, 2009)
AVP2 エイリアンズVS.プレデター
コリン&グレッグ・ストラウス監督/スティーヴン・パスクール、レイコ・エイルスワース/2007年/アメリカ/BS録画
アメリカの片田舎にエイリアンとプレデターが襲来、地球人をまきぞえにしながら死闘を繰りひろげるという、究極の企画ものシリーズの第二弾。これまた第一作をすっとばして二作目を先に観てしまった。
僕は 『エイリアン』 は一作目だけがとても好きで、2作目以降はそれほどでもない。というか、一作目におけるエイリアンの無敵の強さ、恐さがなくなってしまうので、それ以降の作品はどちらかというとあまり印象がよろしくない。一方の 『プレデター』 については、若いころに地上波で一作目を“ながら観”したくらいで、内容はほとんどおぼえていない。だから、その両者を戦わせようという強引な企画にはまったく関心がなくて、一作目は特に観たいとも思わなかった。
この二作目については、両者の対決という図式はともかくとして、小さな町の住人たちが超常的なモンスターどうしの争いにまきこまれて全滅に追いやられるというプロットが、パニック映画としておもしろそうだったので観てみることにしたのだけれど……。
だから駄目ですって、スプラッターホラーは──好きな人にいわせれば、この程度じゃスプラッターホラーとはいわないのかもしれないけれど。いずれにせよ、いきなり子供を犠牲にする残虐さに
それにしても、プレデターの強さにはびっくりした。この映画、「エイリアンズ対プレデター」というタイトルどおり、エイリアンはわらわらとたくさん出てくるけれど、プレデターは基本的にひとりきりで孤軍奮闘している。その強いこと、強いこと。「こんなんとタイマンでわたりあったシュワルツェネッガーっていったい何者?」とか思ってしまった。
ということで、ちょっと 『プレデター』 が観てみたくなった。
(Apr 09, 2009)
誘拐犯
クリストファー・マッカリー監督/ライアン・フィリップ、ベニチオ・デル・トロ/2000年/アメリカ/BS録画
何回観ても顔をおぼえられない俳優さんがたまにいる(うちの奥さんに言わせるとたくさんいる)。僕にとっては、この映画でベニチオ・デル・トロとコンビを組んで主演をはっているライアン・フィリップがそのうちのひとり。これまでに彼が出演した映画を3本も観ているのに(これが4本目)、いまだに名前と顔が一致しない。
反対に一度観ただけで忘れない顔というのもある。この映画にアブナーという名前のチョイ役で出演しているジェフリー・ルイスという人がそう。この人のことは 『X-ファイル』 の1エピソード(シーズン6の 『ティトノス』)で観ただけなのに、それ以来、見るたびにいつも「あ、この人知っている」と思う(このあいだ観たイーストウッドの 『真夜中のサバナ』 にも出ていた)。200本を超えるエピソードのうちのたった1本を見ただけで記憶に残るのだから、それだけ個性的な顔だちをしてるってことなんだろう。
で、驚いたことにこのジェフリー・ルイス氏は、ジュリエット・ルイスのお父さんなのだそうだ。つまりこの映画は、実の親子の共演作ということになる(まあ、ふたりが接触するシーンはなかったような気はするけれど)。言われてみればこの二人、目が寄った感じが似ている気もする。
映画のほうは、ギャングが絡んでいるとも知らずに、ある妊婦を誘拐した若者二人が巻き起こす騒動を、たっぷりの銃撃戦とともに描いてみせたクライム・ムービー。娯楽色が強いわりには、けっこう事実をぼやかして描いているところも多くて、ややわかりにくかった。主演のふたりがゲイであることとか、誘拐されたジュリエット・ルイスとギャング側の交渉人をつとめるジェームズ・カーン( 『ゴッドファーザー』 や 『ミザリー』 の人なんですね)が親子であることとか、はっきりと明示されているわけではないので、僕はそう思ったけれど、本当のところは違うのかもしれない。でもあっけらかんと派手な銃撃戦とその辺のわかりにくさのバランスが、独特の味わいを
(Apr 11, 2009)
スクール・オブ・ロック
リチャード・リンクレイター監督/ジャック・ブラック/2003年/アメリカ/BS録画
ジャック・ブラック演じる売れないバンドマンが、生活費を
とにかくこの映画はジャック・ブラックのくどさ、これにつきる。この人がとにかくクドい、くどすぎる。もう全身全霊でイケてないオールド・ロック馬鹿を演じきっていて、痛いとか思う余裕も与えてくれない感じ。笑えることはやたらと笑えるけれど、ロック好きのひとりとしては、この映画で描かれるようなあり方がロックの典型だと思われると、ちょっと嫌だなあと思う。
ちなみに小学校の校長先生役を演じているジョーン・キューザックという人は、ジョン・キューザックのお姉さんなのだそうだ。ジョンとジョーン。名前が紙一重。しかも似ているのは名前だけではなく、顔もそっくり。うちの奥さんに「知らなかったらば、ジョン・キューザックが女装しているのかと思っちゃうかも」と言われるくらいだった。さすがにそれはないと思いますが……(というか、そう言われてなければ、ふたりが姉弟だなんて気がついていない、おそらく)。
それにしても、この映画の監督は驚いたことに 『ビフォア・サンライズ』 のリチャード・リンクレイターだ。なにゆえあんな秀逸な恋愛映画を撮った監督が、一方でこんな能天気な作品を撮れるんだろう? ああ、わけがわからない。
(Apr 20, 2009)
オリエント急行殺人事件
シドニー・ルメット監督/アルバート・フィニー/1974年/イギリス/BS録画
僕は中学生のころアガサ・クリスティが大好きだったので、この映画もきっと一度くらいは観ていると思うのだけれど、内容にはまったく記憶になかった。もちろん、このミステリの大胆なトリックは忘れようがないから、犯人が誰かとかは忘れちゃいないけれど、どんな俳優が出ているかとか、どういう映画だとかは、これっぽっちも覚えてなかった。
そんな僕が今回この映画を観て感銘を受けたのが、なによりそのキャスティングの豪華さ。ポアロ役がアルバート・フィニーだというのは知っていたけれど――でも、僕の知っている 『ミラーズ・クロッシング』 や 『エリン・ブロコビッチ』 のアルバート・フィニーよりもずいぶんと若くて、エキセントリックな演技をしているのにはびっくりした――、それ以外のキャストがローレン・バコール、ショーン・コネリー、イングリッド・バーグマン、アンソニー・パーキンス、ジャクリーン・ビセットって……。なんですか、この普通じゃない豪華な顔あわせは。ある意味、 『オーシャンズ11』 よりすごい気がする。そのほかの人たちもみんな演技力は抜群だし、僕が名前を知らないだけで、きっと有名な人たちなんだろう。なるほど、オールスターキャストという言葉はこういう映画のためにあるんだと手を打ちたくなった。
ミステリ映画としては、2時間強は決して長いほうではないし、尋問シーンなどがテンポよく進むので──金田一耕助シリーズの轟警部みたいな鉄道会社の重役さんがいい味出している──、もしかしたら知らないで見ていても、簡単に謎が解けちゃうんじゃないかなという気がしたけれど、この映画はネタばれしていても、その雰囲気だけで十分に酔えると個人的には思う。いや、これはよかった。
(Apr 21, 2009)
トレーニング デイ
アントワーン・フークア監督/デンゼル・ワシントン、イーサン・ホーク/2001年/アメリカ/BS録画
デンゼル・ワシントンが
スパイク・リーのファンの僕としては、『マルコムX』 や 『モ・ベター・ブルース』 で主演を務めていたデンゼル・ワシントンにはけっこう思い入れがあるので、この映画は前々から観たいと思っていたのだけれど、残念ながらこれまで観る機会がなかった。
基本的に僕んちの映画鑑賞はセルDVDのリリースと衛星放送での放映スケジュールをベースにしているので、興味があっても観られない映画がやたらと多いのだった。地上波はコマーシャルが入るので、初めての映画は絶対に観ないし(わざわざ観るからにはきちんと観たい)、買ったり録ったりしたまま観てない作品が家に百本近くもある状態だと、わざわざレンタル屋に映画を借りにゆく気にもなれない。どうしても観たい新作はDVD買っちゃうし、そこまででない作品ならば、いずれ機会があるだろうと先延ばし。これもそんなうちの一本だった。
この映画については、アカデミー賞を獲っただけあって、デンゼル・ワシントンの演技がいいのはもちろんだけれど――ちなみに相棒のイーサン・ホークも助演男優賞にノミネートされている――、個人的には、エンド・テロップに知っている黒人ミュージシャンの名前がいくつも並んでいたのに驚いた。スヌープ・ドッグについては、出てきたときにおや、そうかなと思ったけれど、ドクター・ドレとメイシー・グレイについては彼らだと気づきもしなかった。あとで確認してみたら、ふたりともドアップで映っているのに……(ちなみにドクター・ドレはデンゼル・ワシントンの弟子のひとり、メイシー・グレイは麻薬密売人の情婦の役)。思わぬところで自分が黒人アーティストの顔をよく知らないという事実を再確認してしまった。
これだけ有名な黒人が出ているので、もしやと思って調べてみれば、案の定、監督のアントワーン・フークアという人も黒人だった。なるほど。
(Apr 21, 2009)
僕らのミライへ逆回転
ミシェル・ゴンドリー監督/ジャック・ブラック、モス・デフ/2008年/アメリカ/DVD
ニュージャージーの小さなレンタル・ビデオ屋で、とあることからすべてのテープの中身が消えてしまい──この辺からして、かなりしょうもない──、困りはてた店員が親友とともに苦肉の策で作りあげた自作自演のリメイク版 『ゴーストバスターズ』 が大当たり。これをきっかけに町中を巻き込んだリメイク映画の一大ブームが巻き起こるというコメディ映画。
監督が 『エターナル・サンシャイン』 のミシェル・ゴンドリー、主演がジャック・ブラックと 『16ブロック』 が好印象だったモス・デフだというので、なんだかとても観たくなって、ついついDVDを買ってしまったのだけれど、でもこれは買って正解──いやもとい。わざわざ買わなくてもよかった気もするけれど、それでもこれはとても僕の好みだった。
いきなりジャズ・ピアニストのファッツ・ウォーラーがニュージャージー出身だったという嘘の(でも重要な)エピソードが紐解かれるオープニングから、『ニューシネマ・パラダイス』 が引き合いに出されるような心温まるエンディングまで、遊び心満載で楽しすぎ。ダニー・グローヴァーやミア・ファローら、脇役もかなり魅力的だし、最後のほうで著作権がどうしたという野暮な話が出てくるのが興ざめだったので、絶賛するところまではいかないけれど、それでも基本的に僕はこの映画がとても好きだった。なんとも愛すべきB級映画(いや準A級?)だと思う。
それにしても残念なのがタイトル。この邦題は駄目でしょう。とくにセンスがいいとは思えないし、内容とマッチしているわけでもないし。タイトルを聞いてこの映画に関心を持つ人なんてひとりもいなんじゃないだろうか。うちの奥さんも「わけがわからない」と言っていた。どうせ意味不明なんならば、原題のまんま 『ビー・カインド・リワインド』 にしときゃあいいのにと思ってしまった。
(Apr 21, 2009)
アザーズ
アレハンドロ・アメナーバル監督/ニコール・キッドマン/2001年/アメリカ、スペイン/BS録画
時は第二次大戦終戦直後。ニコール・キッドマンが演じる主人公は、光アレルギーの幼い子供ふたりをかかえ、屋敷じゅうをカーテンで閉ざしてひっそりと暮らしているイギリス人女性。夫は戦地に赴いたまま行方不明、家政婦たちはある日突然いなくなったという。そんな彼女たちの屋敷には、目に見えない正体不明のなにものかの気配が……。
これはけっこういい。血なまぐさいところのない、いまどき珍しいくらいの正統派ホラーというか、古典的な幽霊譚というか。霧に閉ざされたイギリスの郊外の、しーんと静まり返った豪邸を舞台に、誰もいないはずの部屋でピアノが鳴ったり、二階で誰かが動き回ったりする音が聞こえてくる。なまじ全体が静かなので、そんな中に織り込まれるびっくりもんの演出がとても効果的。ニコール・キッドマンの前でいきなり音楽室の扉が閉まるところとか、彼女が物置部屋を調べるシーンで、暗闇にぼうっと肖像画の顔の部分だけが浮かび上がる演出とか、臆病な僕は思わず「うわっ」と声をあげてしまうくらい、ぞっとした。びりびりと鳥肌が立つなんて経験はひさしぶりだ。
でもってこの映画、恐がらせ方は古典的だけれど、エンディングには思いがけないひねりが効いている。その点は非常に現代的だと思った。アイディアとしては、その2年前に大ヒットした某映画の流用かもしれないけれど(おそらくタイトルを書いただけでネタがばれる)、全体的な雰囲気がまったくちがうので二番煎じという感じはしないし、これはこれでなかなかいい映画だった。
(Apr 27, 2009)
ウォーリー
アンドリュー・スタントン監督/2008年/アメリカ/DVD(吹替)
この映画はやはり映像がすごい。 『レミーのおいしいレストラン』 でも感心したけれど、次回作のこれはさらにグレードが上がっている。ことスクラップ置き場と化した地球のシーンは、それがCGであることを忘れるってくらいの出来映え。アメリカのCGアニメはひとつ作品を重ねるごとに、どんどんものすごいことになってゆく。いったいこの先、どんなことになってしまうのやら。
まあ、ただこの映画の場合、すげーと感心させたのは、宇宙に出るまでの話。物語がメインとなる宇宙船へと移って、人間が出てきたとたんに、なんだこりゃって感じになる。地球を逃れて宇宙船で暮らすようになった人類のデザインが、極端にデフォルメされた、まるまると太ったマンガ絵なのだった。僕は最初にその絵を見たとき、人間の着ぐるみを着た別の生き物かと思ってしまった。
この映画には部分的に実写と見まごう写実的な人物描写があるので、作り手はあえてそういうキャラクター・デザインを選んでいるのだろうけれど、それにしてもあまりにそれまでの描写のリアルさとギャップがありすぎて、前半と後半でちがう映画を観ているみたいだった。まあ、だから悪かったということもないんだけれど。
それよりも物語的には無理やり恋愛映画にしたところが僕は気に入らない。 『カーズ』 のときにも思ったことだけれど、本来は無機質な存在であるロボットや車に恋愛をさせる感覚が、僕にはどうにもよくわからない。ロボットならではの淡い感情の芽生えから生ずる孤独感とでもいったものを、恋愛感情とはべつものとして描けないもんだろうか。そうしていれば、もっと好きになれたのに。
なまじロボットの恋愛劇なんてほうに話を持ってゆくから、ついどうでもいいところにケチをつけたくなる。宇宙空間に植物をさらしたら、瞬間で凍死してしまうんじゃないのとか、何百年も前のライターがつくわけないじゃんとか(ジッポーのオイルは半年で蒸発します)。あ、でもあれは宇宙船が作れるくらい未来の話だから、半永久に火がつくジッポーが開発されていてもおかしくないのか。
なんにせよ、そんな揚げ足とりをしたくなるのは、心ならずも涙腺がゆるむくらい感動させられてしまったから。物語としてはあまり褒められたものではないと思いながら、目をうるうるさせている自分がちょっとくやしかった。不本意ながら感動的でした。
(Apr 27, 2009)
スピード2
ヤン・デ・ボン監督/サンドラ・ブロック、ジェイソン・パトリック、ウィレム・デフォー/1997年/アメリカ/BS録画
大ヒット映画の続編は数あれど、これほど必然性のない続編も珍しいんじゃないでしょうか。第一作の主役だったキアヌ・リーヴスは降板してしまっているし、悪役も別人だし。そもそも「スピード」とは名ばかりで、巨大な豪華客船にそれほどスピードが出せるはずがない。要するに前回とのつながりは、ヒロインのサンドラ・ブロックがさらにスケールの大きなトラブルに巻き込まれるという、ただそれだけ。そりゃあまりに強引すぎる。
それを無理に続編として売ろうとするから酷評されるのであって――IMDb の評価は3.3と、めったにないくらい低い──、単体のアクション・スリラーとして見せておけば、そうまでひどい評価は受けなかったんじゃないかという気がする。話はかなりいい加減だけれど──サンドラ・ブロックがなんで人質になるんだかさっぱりわからないし、ジェイソン・パトリックが船のスクリューを止めようとするシーンなんて、とても動いている船上での出来事には見えない──、それでも巨大客船が石油タンカーや港町につっこみそうになる部分の迫力は、それほど捨てたもんじゃないと思う。少なくてもクライマックスの派手さ加減には目を見張るものがあった。さぞや金がかかったこったろう。
まあ、なんにせよエコロジーからはほど遠い、なんともバブリーな映画だった。そういう意味では、いまのご時世ならば、批判されてしかるべきかなという気がする。
配役で面白いところでは、 『ツイン・ピークス』 でルーシーの役を演じていたキミー・ロバートソンがちょい役で出演してます。見た目はかなり違うけれど、声があのまんまなのがおかしかった。
(Apr 29, 2009)