2008年12月の映画

Index

  1. HANA-BI
  2. ふたりの男とひとりの女
  3. LOST シーズン1
  4. ダークナイト
  5. 暗黒への転落
  6. 魍魎の匣
  7. カーズ
  8. 昼下りの情事
  9. 主人公は僕だった
  10. グッド・シェパード

HANA-BI

北野武監督/ビートたけし、岸本加世子/1997年/日本/BS録画

HANA-BI [DVD]

 いまさらながらようやく観ました、北野武のヴェネチア国際映画祭グランプリ受賞作。
 しっかし、これは重いっ。バイク事故のあとの最初の作品だそうだけれど、そのせいか見事に救いようがない。ところどころに差し挟まれる、いかにもビートたけしらしいギャグも、作品の重さを和らげるよりは、どちらかというとスイカの甘さを引き立てるための塩のように、その重さをなおさら強調しているような気がする。あまりにヘビーで、観ていて息が詰まる思いがした。
 ということで、かなりインパクトのある映画ではあったけれど、やや苦手かなと。観る前からこういう感じが予想できてしまうから、この人の映画を観るにはある程度の気合いが必要だったりする。毎度、観れば観たで、すごいと思うのだけれど。
 あと、僕が日本の映画をほとんど観ない理由のひとつは、相対的な演技のレベルが低いと思うからで、なんとなく北野武の作品は別格のように思い込んでいたけれど、残念ながらその点はこの映画も同じだった。たとえばたけしの演じる西刑事が殉職した同僚の奥さんと喫茶店で会っているシーンなんかを見ると、相手の女性の演技のまずさに、どうしても気分が引いてしまう。もうちょっとなんとかならないものかと思う。
 やはり映画界全体の底上げのためには、日本にもアクターズ・スタジオのように、役者を目指す人々が集まって切磋琢磨する場所があったほうがいいんじゃないかと、無責任なことを思ったりする。
(Dec 02, 2008)

ふたりの男とひとりの女

ボビー&ピーター・ファレリー監督/ジム・キャリー、レニー・ゼルウィガー/2000年/アメリカ/DVD

ふたりの男とひとりの女 (特別編) [DVD]

 ジム・キャリーとレニー・ゼルウィガー。この前、このふたりがそれぞれに主役をつとめている 『ナンバー23』 と 『ミス・ポター』 をつづけざまに観たときに「この人たちっていいなあ」と思ったもので、そのふたりが競演しているこのコメディは要チェックだと思って、(安かったこともあって)ついついDVDを買ってしまったのだけれども……。
 いやー、こりゃ下品きわまりありませんでした。最初から最後まで下ネタのオンパレード。ジム・キャリーの演技だけでも十分に笑えるのに、なにもそこまで露骨な下ネタを連発しなくたっていいじゃんと思わずにはいられない。どうしてアメリカ人はこういうのが好きなのかなぁ。それは僕らよりセックスが身近だということなんだろうか。よくわからない。
 それでも二重人格者を演じるジム・キャリーの演技はほんとむちゃくちゃおかしいし、レニー・ゼルウィガーも親しみやすい魅力をたっぷりとふりまいてる。ふとっちょ黒人三人息子の存在も、設定としてはかなりの傑作だと思うし、これであとはもうちょっと下ネタを控えめにしてくれていれば最高なのに……。ってまあ、どうやら監督のファレリー兄弟はそういう下品さが持ち味らしいから、それはないものねだりってものかもしれないけれど。
(Dec 02, 2008)

LOST シーズン1

J.J.エイブラムス製作総指揮/マシュー・フォックス、エヴァンジェリン・リリー/2004~2005年/アメリカ/DVD

LOST シーズン1 COMPLETE SLIM BOX [DVD]

 シドニーからLAへと向かった旅客機が南海の孤島に墜落。生き残った乗客たちが謎だらけのその島で繰りひろげるサバイバル生活を、彼らがその地に到るまでの回想シーンをフラッシュバックで差し挟みつつ描いてゆく話題の連続ドラマ。
 このドラマは着想が絶妙。謎の巨大生物やシロクマ(?)が徘徊していたりするミステリアスな南海の無人島を舞台に、四十人からの生存者がサバイバル生活を繰りひろげるという集団ロビンソン・クルーソー的な状況を持ち込み──旅客機が搭載していた物資が使えるから、日常生活に苦労しないという設定がうまい──、そこにさらに雑多な出自を持つ、わけありの登場人物たち──外科医、指名手配犯、詐欺師、元身体障害者、ミュージシャン、億万長者、黒人建築家とその息子、韓国人夫婦、妊婦などなど──の過去のエピソードを絡めてみせたところが素晴らしい。サスペンス・スリラーに群像劇を掛けあわせるなんて真似は、連続ドラマだからこそできた荒技だと思う。
 しかもテレビ・ドラマとはいえ、一話目でのジャンボジェット機の残骸が爆発するシーンなどは、いかにも金がかかっているなあという感じで、普通の映画に引けをとらない贅沢さだし、南の島が舞台だけあって、雄大な自然をとらえた映像の美しさも大きな見どころ。
 まあ、現在シーズン4まで続いていて、中だるみという評判もあるみたいだけれど──確かにこの先4年もなにを語りつづけるつもりなんだか不思議だ──、これは一見の価値のある秀逸な発想のドラマだと思う。うーん、つづきが気になる。
(Dec 25, 2008)

ダークナイト

クリストファー・ノーラン監督/クリスチャン・ベール、ヒース・レジャー/2008年/アメリカ/DVD

ダークナイト [DVD] ダークナイト 特別版 [DVD]

 映画史上ベスト10に入るんじゃないかというくらいの絶賛を受けている、クリストファー・ノーラン監督によるバットマン新シリーズの第二弾。
 僕は初めこの映画のDVDの日本版ジャケットが公開されたときに、そこにジョーカーの姿だけがあるのを見て不満だった。だってこれはバットマンの映画なわけでしょう。なんでバットマンが表紙にいないんだと(ちなみにアメリカ版はちゃんとバットマンがフィーチャーされている)。いかにジョーカーを演じたヒース・レジャーの演技が絶賛されていて、なおかつその人が不慮の死を遂げてしまったとはいえ、主役をないがしろにするのはどうかと思った。しかもヒース・レジャーなんて人は、これまでそれほどメジャーじゃなかったわけで。そんな人を前面に持ってくる姿勢が、なんとなく浪花節的に思えて気に入らなかった。
 しかしながら、いざこの映画を観てしまうと、そうやってジョーカーを前面に押し立てたくなる気持ちもわかるようになる。確かにこりゃすごいや。すごすぎる。
 ほんと、この映画でヒース・レジャーが演じるジョーカーは、あまりにも禍々{まがまが}しい。終始ユーモラスに振る舞っているにもかかわらず、めちゃくちゃ恐い。存在自体が強烈な恐怖心をかきたてる。
 たとえば僕は、ジョーカーが警察に捕まり、取調室で手錠をかけられて座っているシーンをみて、万が一自分がこいつと同じ部屋にふたりっきりでいることになったらいやだなあと、本気で思った。凶暴な顔をしてすごんでいるシーンが恐いとかじゃない。なにもしてなくても、ただそこにいるだけで恐い──観客にそう思わせる、そんな演技ができる俳優なんて、めったにいないだろう。彼の演技が絶賛されるのも当然だと思った。
 とにかくこの映画はヒース・レジャー演じるジョーカー、彼を見るための作品だと云い切ってしまいたいくらいだ。おかげで前作 『バットマン・ビギンズ』 で主役としての復権を果たした感のあったバットマンが、ここでは再び脇役的な立ち場に追いやられてしまっている。
 ここまでジョーカーがすごいと、どうせならばトゥーフェイスも出さないほうがよかったんじゃないかという気もしてくる。ティム・バートンの初代劇場版一作と同じように、ジョーカーだけに{まと}をしぼり、2時間きっかりにまとめていたならば、もっともっと衝撃的な映画になった気がする。そういう意味で僕にはこの映画は、やや長すぎるのが唯一の欠点のように思えた。
(Dec 26, 2008)

暗黒への転落

ニコラス・レイ監督/ハンフリー・ボガート、ジョン・デレク/1949年/アメリカ/DVD

暗黒への転落 [DVD]

 珍しくハンフリー・ボガートが弁護士の役を演じている法廷劇だというので、おもしろそうだなと思って観てみたのだけれど、これはちょっと期待はずれ。映画のほぼ半分は、殺人容疑で起訴された被告役の青年がいかに身を持ち崩したかという説明で、あまりにもボガートの出番が少なすぎる印象だった。
 まあ、それでもそのチンピラ青年の「暗黒への転落」の過程に説得力があればまだしも――それにしてもなんとも大仰なタイトルがついている──、観ていてもあまり同情心がわかず、どっちかというと「なんだ、単に駄目なやつなだけじゃん」とか思えてしまう。
 最終的にこの映画はボガート演じる弁護士が、「犯罪者というのは、その個人が悪いからというだけで生まれるものではなく、貧困などの社会的なゆがみによっても生まれるものだ」という社会的メッセージを熱く訴えて終わるのだけれど、残念なことに彼の熱演も空回り気味。なるほどそのとおり、と素直に膝をたたく気にはなれなかった。
(Dec 26, 2008)

魍魎の匣

原田眞人監督/堤真一、阿部寛、椎名桔平/2007年/日本/BS録画

魍魎の匣 スタンダード・エディション [DVD]

 『姑獲鳥の夏』 につづく、注目の京極堂シリーズ映画化第二弾。
 今回の作品に関しては、まずは映像がいい。前作はテレビドラマ的な奥行きのないものだったけれど、こちらはしっかりと金をかけて、これでこそ映画という映像に仕上げてある。どこでロケをしたんだか知らないけれど(おそらく台湾か香港あたり?)、舞台である戦後東京の昭和レトロな雰囲気がとてもいい感じで再現されている。まあ、美馬坂研究所の不自然なまでのおどろおどろしさや、原作にはないクライマックスの派手すぎるほどのカタストロフなど、ちょっと作りすぎな感はあるけれど、それでも作り手のやる気は十分に伝わってきた。
 演出的にも、とてもユーモアが効いていてテンポがいい。ただ、ときとしてユーモアが効きすぎてしまっているのが玉にきず。特に、不用意に笑いに走ったあまり、まったく貫禄がなくなってしまった京極堂にはイメージ狂いまくりだった。クライマックスのラストシーンでの彼のぶざまさと来た日には……。あれはちょっとないんじゃないだろうか。もとより堤真一は僕の抱いている京極堂のイメージとはかなりずれているので、そのうえあれではがっかりもいいところだった。
 キャラのイメージが違うといえば、関口くんもそう。彼の場合は、前作での永瀬正敏がけっこうしっくりきていたので、配役変更であとを継いだ椎名桔平の、口下手でうつ病の小説家というよりは、どちらかというと適度に調子のいい銀行員とでもいったような演技には、最後までなじめなかった。途中からコメディエンヌのようになってしまう敦子ちゃん(田中麗奈)もしかり。彼女の場合はなまじ、はまり役だけにもったいない気がした。
 まあ、でもそんな風に思うのも僕が原作を偏愛しているからであって──なんたってこれまでにシリーズのほとんどの作品を二度、三度と読んでいるもので、固定的なイメージがすっかりできあがってしまっている──、そういう先入観を抜きで観たならば、決して彼らの演技がまずいわけではないんだろうと思う。単にイメージのずれが許容できないという、それだけの問題。反対にもともといい味を出していた阿部寛の榎木津はさらにパワーアップしているし、前作ではいまひとつだった宮迫博之の木場シュウなどは、前回よりも板についてきた感じがして、それなりに好印象だった。
 とにかく映画自体は、映像的にも演出的にも上出来だと思う。なによりあれだけ長大な原作をよくも二時間強にまとめたものだと、その点には感心した。ただしストーリーにはそれなりに手を加えてあって、原作でもっともインパクトがある──と僕が思っている──電車内での久保竣公(宮藤官九郎!)と某氏との邂逅シーンがなくなっていたりするし、原作の一番の魅力である憑物落としのシーンが思いきり簡略化されていたりするので、これを観ても京極夏彦のミステリのすごさは伝わらない気はする──というか、そもそもこの映画をミステリと呼べるかというと、それさえ疑問だったりする。
 そう、この映画の場合、作り手があえてミステリ映画を撮ることを放棄してしまっている感がある。原作は京極堂のくどいまでの冗舌さによってミステリとして成立しえている。でも映画でそれをそのまま再現するのは無理がある。だからこの際、ミステリとしての本来の姿はいったん反故にして、一編の娯楽映画として別の形で成立させよう──そういう意図が作り手側にあったのではないかと思う。
 だから前作同様、この映画でも京極堂は憑物落としの際に黒い服を着ていないのだけれど、そのことがあまり気にならなかった。なぜって、彼の憑物落としがまともに描かれていないからだ。となれば、そんな主人公に本来の姿を期待する必要もない。
 ということで前作同様、ミステリとして観た場合には不満の残る作品だけれど、それでも一編の娯楽映画としてはなかなかの力作だと思う。とりあえず京極作品のリミックス・バージョン的な映画としてならば、それなりに楽しめたかなと──そういう作品。
(Dec 27, 2008)

カーズ

ジョン・ラセター監督/2006年/アメリカ/BS録画

カーズ [Blu-ray]

 CGアニメにおける自動車の存在というのは、テレビゲームが普及しだした時点から存在する定番中の定番なわけで。それを擬人化して、車しか存在しない世界を舞台にしたアニメーションに仕立て上げる……そんなこの映画のアイディアは、僕には安直すぎるように思えて仕方なかった。おかげでこの作品は、これまでの数あるピクサーのアニメのうちでも、もっとも興味のわかないもののうちのひとつとなっていた。
 でもそこはさすがピクサー。観てみれば、やはりちゃんと楽しめる。しゃべる自動車という設定も、思っていたような陳腐さはなくて、意外と新鮮だった。CGによって金属ならではの硬質な質感を再現されたキャラが、人間のようにしゃべりながらくねくねと動いて、いざ走り出すときには、いかにも車ならではの滑からさですーっと路上へと走り出し、ぐんと加速する。そんな人と車の属性を融合したキャラたちの動きはそれ自体がとてもおもしろかった。
 ストーリーも、一匹狼のレースカーが、ひょんなことから足止めを食った田舎町で、飾らない人柄(いや、くるま柄)の仲間たちと知り合いになって、人間関係(いや、くるま関係……しつこい)の大事さに目覚めるという、普遍的な友情のドラマで──やや安直な部分はあるものの──安心して楽しめる。
 惜しむらくは、いかにもディズニー映画らしいラブ・ロマンスがよけいに思えてしまうこと。子供向けの話なんだから、単純に友情の物語として描けばいいものの、なんでディズニーは──というよりはアメリカは?──なんでも恋愛に結びつけたがるんだろう。自動車どうしにラブラブになられても、みんな困ってしまうと思うんだけれど……。あの辺の感覚はよくわからない。
(Dec 30, 2008)

昼下がりの情事

ビリー・ワイルダー監督/オードリー・ヘプバーン、ゲイリー・クーパー/1957年/アメリカ/BS録画

昼下りの情事 [スタジオ・クラシック・シリーズ] [DVD]

 この映画については、オードリー・ヘプバーンがパリの音大生に扮し、真っ昼間のホテル・リッツでアメリカの大富豪を相手にアバンチュールにふけるという展開が、公開当時はそうとうセンセーショナルだったんじゃないかという気がする。
 なんたって、『ローマな休日』 や 『麗しのサブリナ』 で清楚な魅力を振りまいていた彼女が、ですよ。そのあとのこの映画では、真っ昼間から初老の大富豪に抱かれているってんだから、おだやかじゃない。ベッドシーンは皆無だけれど、その設定だけで当時の若い男性ファンの胸を痛めさせるに十分だったんじゃないかという気がする。
 だいたいにして一般的な男性は、この映画でゲイリー・クーパーが演じているフラナガン氏の立場になんて共感できるはずがないので──世界中をまたにかけて美女らと逢瀬を重ねている独身の大富豪なんて、平凡なる男性諸君の敵でなくてなんだろう──、僕らはどちらかというとヒロインの男ともだちであるミシェルという冴えない青年に自分を重ね合わせることになる。でもってなんとなく惨めな気分になってしまう。
 ということでこの映画、ひとりの女子大生が遊び人のアメリカ人の気を引くために背伸びをしてみせるという話の展開は 『アパートの鍵貸します』 などと同じパターンで、いかにもビリー・ワイルダーらしいと思うのだけれど──それにしてもこの人の映画はほんと、恋を成就させるために嘘をつくという話ばっかりだ──、男女の関係があちらとは入れ替わっているせいで、素直な気分で、ああおもしろかったとは、とてもじゃないけれど思えなかった。
 そんな自分がちょっぴり情けない年の暮れ。
(Dec 30, 2008)

主人公は僕だった

マーク・フォースター監督/ウィル・フェレル、マギー・ギレンホール/2006年/アメリカ/BS録画

主人公は僕だった [Blu-ray]

 自分の人生が見知らぬ作家の創作活動にシンクロしてしまい、小説の筋立てどおりのことが起こるようになってしまった国税監査官の悲喜劇を描くコメディ。 『ネバーランド』 のマーク・フォースターの監督作品で、あの作品がよかったので観てみようという気になった。
 主演のウィル・フェレルという人は、サタデイ・ナイト・ライヴの出身だそうだけれど、この映画も含めて、これまでに僕が観たことのある映画では、まったくコメディアンらしい演技を見せていないので、どこがいいのか、よくわからない。
 この映画での彼は、マギー・ギレンホール──つい先日、『ダークナイト』 でもヒロインを演じているのを見たばかりで、そのときにうちの奥さんと「この人って前にもどこかで見たけれど、なんだったっけ」なんて話をしたばかりだった(答えは『モナリザ・スマイル』 )──の演じるパン屋さんといい関係になるのだけれど、彼のいまひとつぱっとしないルックスのせいで、その展開にはあまり説得力があるようには思えなかった。言っちゃなんだけれど、もうちょっと華のある俳優が主演だったらば、この作品はもっとよくなったんじゃないかという気がする。
 でも、映画自体はけっこう好きだ。シナリオはわるくないし、数字が得意で病的に几帳面な主人公の性格を表現するために、実写の上にさまざまなもののサイズをCGで書き入れた演出もおもしろかった。マギー・ギレンホールは 『ダークナイト』 よりもこっちの方がいきいきとしていて可愛いし、ダスティン・ホフマン、エマ・トンプソン、クィーン・ラティファといった競演陣も豪華だ。なかでも奇行がめだつ女流作家を演じたエマ・トンプソンの演技は出色だと思う。
 ということで、唯一ウィル・フェレルの主演ってのはどうなんだろうと。その一点だけが惜しいと思ってしまった佳作。
(Dec 30, 2008)

グッド・シェパード

ロバート・デ・ニーロ監督/マット・デイモン、アンジェリーナ・ジョリー/2006年/アメリカ

グッド・シェパード [DVD]

 ロバート・デ・ニーロの監督第二作。この人のデビュー作は 『ブロンクス物語/愛につつまれた街』 という作品で、そちらはまた観たことがないけれど、なんでも13年も前の作品だそうだ。デ・ニーロ氏、あまり監督業には執着がないらしい。それにしても 「愛につつまれた街」 たあ、なんともまあ、デ・ニーロにふさわしからぬ……。そういう邦題をつけたくなる人のセンスが不思議だ。
 こちらの映画はCIAの誕生からキューバ侵攻での失態に至るまでの歴史を、組織の中心になって活動したエドワード・ウィルソンという架空の人物の半生を軸に描いてゆくというもの。マット・デイモン演じる主人公がとても無口な人で、そんな主人公の寡黙さが映画全編を支配しているかのような、なかなか重厚な雰囲気の作品に仕上がっている。マット・デイモンが飛んだり跳ねたりの派手なアクション満載の 『ボーン・アルティメイタム』 と同時期に、こういう押さえた演技をしていたというのが興味深かった。
 主人公の奥さんの役はアンジェリーナ・ジョリー。ただし、彼女の役どころは仕事ひと筋で家庭をかえりみない旦那のせいで不幸な家庭生活をしいられるというもので、出番はあまり多くない。持ち前の華やかさを感じさせるのは、ふたりが出会った最初のころのみだし、彼女を目当てにしていると、かなり肩すかしを食うと思う。まあ、彼女のような旬の女優にああいう役を演じさせるというのも、考えようによってはかなり贅沢なことかもしれない。
 この映画はそのほかのキャスティングに関しても豪華だ。デ・ニーロご本人がちょい役で出演しているのを始めとして、アレック・ボールドウィン、マイケル・ガンボン、ウィリアム・ハート、ジョー・ペシ、ジョン・タトゥーロ、ビリー・クラダップなどなど、実力派がずらりと顔をそろえていて、派手さはないけれど、見ごたえ十分。さすがデ・ニーロ、なまじ何本もの傑作で主演をつとめてきたのは伊達じゃないと思わせた。
(Dec 31, 2008)