2007年2月の映画
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天使のくれた時間
ブレット・ラトナー監督/ニコラス・ケイジ、ティア・レオーニ/2000年/アメリカ/BS録画
『クリスマス・キャロル』の昔から、拝金主義的な価値観にノーをつきつけ、人と人とのつながりにこそ幸せを見いだそうというメッセージをこめた物語というのが、英語圏ではクリスマスの定番らしい。『三十四丁目の奇蹟』もそうだし、これもそのうちの一本。ちょっとばかり社会的成功と家庭的な幸せを、対立するものとして図式的に描きすぎている嫌いがなくはないけれど、それでもまあ悪くはなかった(ただし恥かしい邦題はどうにかして欲しい)。
ニコラス・ケイジ演じる主人公のジャックは若くして一流企業の社長の座に登りつめた仕事一筋の独身男性。最高級マンションのペントハウスに住まい、クローゼットには高級ブランドのスーツとシャツがずらりと並んでいる。オペラを好み、愛車はシルバーのフェラーリ。仕事はできるし、性格もいいので、職場でもプライベートでも多くの人に敬意を寄せられ、基本的には文句のつけようのない人生を送っている。ただ唯一、いまだ独身でクリスマスを一緒に過ごす人さえいないことをのぞけば。
彼には学生時代につきあっていた女性がいた。それがティア・レオーニ演じるケイト。二人は就職が決まって、ジャックが長期研修のためにロンドンへゆくことになったのが原因で別れてしまった。それから13年後のクリスマス・イブの晩、ジャックは偶然出会ったひとりのマジカルな黒人男性(ドン・チードル)のいたずらで(?)、ケイトと別れなかったらばどうなっていたかという、もうひとつの人生を追体験させられることになる。それも住宅ローンと二人の子供を抱え、タイヤ・ショップの店員をつとめるという、彼の価値観からするとかなり敗残者的な人生を。
主演のティア・レオーニという女優さんの名前にはどこかで聞きおぼえがあると思っていたら、なんとデイヴィッド・ドゥカヴニーの奥さんだった。『Xファイル』にも一度出演している。この作品のなかで、ニコラス・ケイジが幼い娘さんから、「あなたは本当のパパじゃないわね。エイリアンね。私たちを連れて行って、変なものを移植したりするの?」と言われてしまうシーンがあるけれど、あれはもしかしたら主演女優の旦那が『Xファイル』の主役をつとめているのを意識したのかもしれない──って、いや、それはちょっと
音楽監督はティム・バートン作品でおなじみのダニー・エルフマン。この人もクリスマス映画にはうってつけだ。エンド・クレジットで、初めて聴くエルヴィス・コステロのナンバー "You Stole My Bell" がかかるのも、コステロ・ファンとしては、ちょっとしたクリスマス・プレゼントみたいで嬉しかった。
(Feb 03, 2007)
ニューヨークの恋人
ジェームズ・マンゴールド監督/メグ・ライアン、ヒュー・ジャックマン/2001年/アメリカ/BS録画
物語の始まりは十九世紀のニューヨーク。ヒュー・ジャックマン演じるレオポルド(ヒュー・ジャックマン)は、エレベーターの発明家としてのちの世に名前を残すことになる英国貴族。零落した伯爵家を救うべく、不本意な花嫁探しのためにアメリカを訪れていた。
そんな彼がひとりの奇妙な男に目をとめる。カメラがメロン箱サイズのご時世に、その男はコンパクト・カメラでパチパチ写真を撮りまくっている。興味をそそられたレオポルドが話しかけると、男は一目散に逃げ出し、建造中のブルックリン・ブリッジの上へ。あとを追ったレオポルドは、橋から飛び降りようとする相手を助けようとして、ともに転落。まっさかさまに落ちてたどり着いた先は、現代のマンハッタンだった。
レオポルドが追いかけていた相手は、現代の発明家、スチュアート(リーヴ・シュレイバー)。彼はブルックリン・ブリッジの上に、ほかの時代へとつながる時空の裂け目が一定周期で開くことを発見して、みずから時間旅行へと出かけていたのだった。
物語はそんな風にして現代のマンハッタンにやってきたレオポルドが、カルチャーショックを受けながらもやすやすと時代に順応し、メグ・ライアンが演じるスチュアートの元恋人ケイトやその弟チャーリー(ブレッキン・メイヤー)を感化してゆく様子をおもしろおかしく描いてゆく。
一番の見どころは、ヒュー・ジャックマンの徹底した“いい男”ぶりだろう。容姿端麗で、芸術への造詣が深く、フランス語はぺらぺら。手紙の筆跡はあきれるほどきれいだし、乗馬が得意で、女性への態度も申し分ない。時代錯誤なファッションをのぞけば、もてる要素満点。そんないまでは絶滅した
ちなみにケイトの上司で、レオポルドに最低男呼ばわりされてしまう哀れなJJを演じているブラッドリー・ウィットフォードという人は、『Xファイル』セカンド・シーズンの『地底』に出演している人だそうだ。印象的なルックスの人ではないので、とうぜん気がつくはずがない。
(Feb 12, 2007)
汚れた顔の天使
マイケル・カーティス監督/ジェームズ・キャグニー、パット・オブライエン/1938年/アメリカ/DVD
ジェームズ・キャグニー演じるこの映画の主人公、ロッキー・サリヴァンは、イギリスの映画ファンのあいだで2004年に行われた、もっとも印象に残るギャング役の人気投票で第5位に選ばれたのだそうだ。第一位は『ゴッドファーザー』のドン・コルレオーネことマーロン・ブランドで、ベストテンに入っているそのほかの作品も『ゴッドファーザー』以降の作品ばかりだ。その中にぽつんと一本だけ、この古い映画が選ばれている。そのことからも、いかにこの作品が高い評価を得ているかわかると思う。
主人公ロッキー・サリヴァンとジェリー(パット・オブライエン)は幼なじみの親友どうし。ただし、かたやギャングで、かたや神父と立場はぜんぜん違う。二人の道が分かれたのは、少年時代に一緒に盗みをして見つかった時で、逃げおくれたロッキーは捕まって少年院へ入り、悪の道へ。逃げ延びたジェリーは更正して神父になった。
最後の刑期を終えて出所してきたロッキーは、仲間の裏切りをしたたかに切り抜け、再びギャングとして羽振りをきかせ始める。地元の不良少年グループを更正させようと努力していたジェリーは、少年たちがそんなロッキーに憧れて悪の道に誘い込まれてゆくのに抵抗しようと、犯罪撲滅キャンペーンに打って出る。ジェリーの行動をよく思わないギャングの悪玉たちが彼の暗殺をたくらみ、それを知ったロッキーは親友のため仲間に銃を向け……。
この映画の一番の見どころは、最後にロッキーが友情のため、自らの男としてのプライドを捨ててみせるところ。映像特典の解説によると、そうした展開はカソリックが幅をきかせていた時代の要請によるものだったようだけれど、でもそのおかげで、この映画はいまになってもなお語り継がれるだけの深みを得ることになったのだと思う。観終わったあとに、なんともいえないやる瀬なさが残る作品だった。
ロッキーを裏切るギャングのおかかえ弁護士役で、ブレイク前のハンフリー・ボガートが出演している。ボガートのちんけな悪人ぶりというのも、なかなか味があって好きだ。
(Feb 12, 2007)
すべては愛のために
マイケル・キャンベル監督/アンジェリーナ・ジョリー、クライヴ・オーエン/2003年/アメリカ/BS録画
主演がアンジェリーナ・ジョリー、監督は最新作 『007/カジノ・ロワイヤル』 が好評を博しているマイケル・キャンベルということで観てみた作品。でもこれが恋愛映画であるにもかかわらず、あまりに扱っているテーマがシリアスなものだから、ロマンスの部分が余計に思えてしまうような映画だった。
主人公のサラは、イギリス人の資産家の息子(ライナス・ローチ)と結婚したアメリカ人美女。彼女たちが結婚記念かなにかの慈善パーティーにうち興じているところへ、クライヴ・オーエン演じるニック・キャラハン(なにやら聞いたような名前だ)が、やせ細った難民の少年を引き連れて乱入してくる。豪華なパーティーを楽しみながら慈善を訴える人々の偽善性を糾弾するこの人の言葉に感化されたサラは、夫の反対を押し切ってすぐさま行動を起こし、自らエチオピアの難民キャンプへ乗りこんでゆくことになる。
この映画がすごいのは、砂漠のエチオピア、森林のカンボジア、雪原のチェチェンと、まったく異なる自然環境の国を順番にめぐりながら、悲惨な難民問題の現状を観客に見せつける点。最初にサラがエチオピアで命を救うことになる子供の、ガリガリという表現をとおり越した痩せ方なんて、痛ましいのひとことだ。こんな子供を映画に出演させてしまっていいのかと、複雑な気分にさせられる。この映画はそんな痛ましい難民問題の現実を、見事な映像とドラマティックな物語で補って、説教臭くなることなく、みせてくれる。
ただ、もしも観客に難民問題を真面目に考えて欲しいと思っているのならば、主人公二人の関係はちょっとイージーすぎると思った。特に二人が最初に結ばれるのが、どちらにとっても最高の友人であったエリオット(ノア・エメリッヒ)の死の直後というのがいただけない。あの局面で性欲に流されてしまったのでは、そのほかのどんな行動も説得力を欠いてしまう(しかも不倫だし)。シリアスなメッセージ性と恋愛の描き方の安直さがつりあっていないと思う。
もしも『ノーマ・レイ』のように、主人公二人が惹かれあいつつも、最後までプラトニックな関係を貫いていれば、もっといい映画になったんじゃないかという気がした。惜しい。
(Feb 18, 2007)
ノッティングヒルの恋人
ロジャー・ミッシェル監督/ジュリア・ロバーツ、ヒュー・グラント/1999年/アメリカ・イギリス/BS録画
NHKがBS2でこの手のロマンティック・コメディをたくさん放送してくれるので、あれこれと観る機会が多いのだけれど、正直なところ、出来はどれもそこそこで、これはというものはあまりない。それなりには楽しめるのだけれど、もう一度ぜひ観たいと思うほどではないという作品ばかり。なぜそうなんだろうと考えてみて、思い浮かぶ理由がふたつある。
ひとつめは、多くの作品が女性中心の物語となっている点。この手の映画は主演女優に誰を起用するかが重要なわけだし、わざわざ高いギャラを払って人気女優にご出演願った以上、物語をその女性中心のものにするのは当然のことなのだろう。でも、おかげで相手方の男性の内面がほとんど見えなくなり、男としてはあまり共感できない作品になるというパターンが多い。
それに加えて、もうひとつは、作品の主題が恋愛ではないことが多い点。いちおうロマンティック・コメディの体裁はとっているものの、恋愛よりもヒロインの生き方を描くほうが主体で、恋愛は作品の性格上、ないと納まりが悪いから、とってつけました、みたいな作品がかなりある。こういうのは物語としてはそこそこおもしろくても、ロマンティック・コメディならではの甘さや切なさが希薄で、ものたりない思いをすることになる。
どちらのケースも結局は、恋愛を描こうとしたときに、相手の女優さんと肩を並べて主演を張れるだけの味のある男優が少ないのが原因なのかもしれない。
そんなご時世にあって、ヒュー・グラントという俳優さんは、まさにこの手のロマンティック・コメディにはうってつけの人だ。ハンサムはハンサムなんだけれど、どことなく頼りないところがあって憎めない。だから本来はもてるはずなのに、もてない役を演じさせても説得力がある。そんな彼が主演を演じるこの映画は、男性のキャラがきちんと立っているおかげで、このジャンルの作品としては、ひさしぶりに満足のゆく内容だった。
基本的にロマンティック・コメディでもっともポピュラーなパターンは、恋愛が成就するまでの紆余曲折をコミカルに描いてみせるものだ(それに対して、成就したあとの愛憎を主題とするとロマンスになる)。パターンはいろいろあれど、もてない男性が艱難辛苦を乗り越えて、高嶺の花というべき女性を射止めるという展開は、その王道だと言える。
しがない本屋の経営者がハリウッド女優と恋をするというこの作品のストーリーは、まさにその王道中の王道。アナ(ジュリア・ロバーツ)がウィリアム(グラント)のことを好きになるという部分は、唐突な感がいなめなくて、やたらと説明不足だけれど──なんであそこでいきなりキスしちゃうんだか、さっぱりわからない──、その点をのぞけば、非常にいい出来だと思う。なにより男女それぞれのせつない胸のうちがきちんと描かれていて、とても好感が持てた。
この映画はコメディとしてもちゃんとしていて、しっかりと笑わせてくれる。テレビやスクリーンでしか見たことのないハリウッドの大女優が、ロンドンの一般市民の生活のなかに闖入してくるという展開が、コメディの設定としてばっちりだからだろう。ウィリアムの同居人スパイク(リス・アイファンズ)の変人ぶりもなかなか笑えるし、個人的には度入りの水中メガネの扱い方がとても気に入った。
で、ロマンティック・コメディといえば、クライマックスは告白シーンということになる。この作品はその部分でもとても見事だ。おかげでそのあとに流れるエルヴィス・コステロの 『She』 が感動的なことときたら……。それほど好きな曲でもなかったのに、あまりにこの映画での使われ方が感動的だったので、映画を観終わったあとでCDを引っぱり出してきて、くりかえし聴いてしまった。いやホント、ここしばらくに観たロマンティック・コメディのなかでは最高の作品でした。この映画はいずれまた観たい。
(Feb 25, 2007)
アイス・エイジ
クリス・ウェッジ監督/2002年/アメリカ/DVD
氷河期を舞台に、人間の赤ん坊を拾ったマンモスとナマケモノとサーベルタイガーが、その子を父親のもとへ返すためにともに旅をして、友情を育んでゆくというCGアニメ。子供のために吹替でいっしょに観た(爆笑問題・太田光の吹替が見事)。
この作品はとにかくスクラット、この存在が最高。身体はリスで顔がネズミという、両者の祖先らしきこの小さな生き物が、むちゃくちゃおもしろいのだった。
なにがいいって、このリスが百パーセント脇役なところ。ときどき出てきては、メインストーリーとはほとんど関係のないところで、ひとつのどんぐりを追っかけて右往左往しているだけ。ルーニー・チューンズなどに出てくるような、アメリカの子供向けアニメの定番キャラって感じではあるんだけれど、とにかくこのリスにひとつもセリフを与えず、単なる馬鹿な脇役に徹させたところが素晴らしい。作品としてはまったくといっていいほど期待していなかったにもかかわらず、このリスのおかげで、予想外に楽しめてしまった。小学二年生のうちの子も大笑いしながら観ていた。物語としてもなかなか感動的だし、あなどれません。
DVDに収録されている『アイス・エイジ2』の予告編もいい。スクラットが出てきてドタバタを繰りひろげるだけで、どういう話だかまるでわからない。でも、わからなくてもぜんぜんオーケー。話なんてどうでもいいから、このリスのためだけにでも、続編も観ないではいられない気分になってしまった。
(Feb 25, 2007)