2007年1月の映画
Index
- 24 -Twenty Four- シーズンⅣ
- X-MEN:ファイナル・ディシジョン
- ジョー、満月の島へ行く
- 25年目のキッス
- リーグ・オブ・レジェンド 時空を超えた戦い
- Mr.&Mrs.スミス
- セレブリティ
- ノーマ・レイ
24 -Twenty Four- シーズンⅣ
ジョン・カサー監督ほか/キーファー・サザーランド/2005年/アメリカ/DVD
シーズン4で薬物中毒に陥っていたことの責任を問われてCTUをくびになったとかで、今回のジャック・バウアーは、なぜか国防長官ヘラー氏(ウィリアム・ディヴェイン)の特別顧問なんていう、前よりも偉そうな身分になって登場する。それもいきなり長官の娘オードリー(キム・レイヴァー)と一夜を過ごしたあとで身繕いをしている場面から。すっきりとしたダークスーツ姿がなかなか新鮮だ。
トニーとミシェルにも前シーズンが終わったあとに紆余曲折があって、この二人は序盤はまったく出番がない(トニーはかなり可哀想な目にあっている)。ということでCTUもすっかりさま変わりしてしまっていた。支部長はエリン・ドリスコル(アルバータ・ワトソン)という女性で、知っている顔はクロエ(メアリー・リン・ライスカブ)のみという状況。
物語は、この新生CTUが早朝に発生した列車爆破事件への対応でどたばたしているところへ、ジャックが国防長官の代理として予算案の打ち合わせのためにやってくる、というところから始まる。彼がCTUにいるあいだに国防長官の誘拐事件が発生。上司と恋人をいっぺんに奪われたジャックは、現職のCTUメンバーに煙たがられるのをものともせず、強引に現場の先頭に立って、事件の解決に乗り出すことになるのだった。
今回の話の特徴はテロの首謀者がひとりだけという点。これまではだいたい最初のテロの犯人が前半十二時間が過ぎたあたりで捕まり、後半はそれを引き継いで別のテロリストが事件を巻き起こすというパターンだった。
ところが今回は違う。序盤こそ出番が少ないけれど、最初の事件の首謀者マルワン(アーノルド・ヴォスルー)が最初から最後までひとりですべてのテロを仕切っている。しかも仕掛けてくるテロ行為が規模の上でも数の上でも半端じゃない。ひとつを解決したと思うと、次にまたとんでもないものが控えていて、まさに休む間もないという感じ。ルックスは地味だけれど、これまでのシリーズで最強のテロリストだった。この人は 『ハムナプトラ』 に出ている俳優さんだそうだけれど、そちらは僕はまだ未見。
そんな手強いテロリストを相手に、四時間に一度は重大な事件が持ち上がっては解決する、というパターンが延々と最後まで続く。それに対処するジャック・バウアーの存在感は、これまでのシリーズで一番だと思った。序盤にコンビニ強盗を仕掛けちゃうあたりでは、今回もやっぱりひどい奴だとうんざりしたものだったけれど、その後はそういう「やれやれ」と思わされる行動も減って、終盤はひたすら頼りになる人という印象だった。
そうそう、お騒がせ娘キム・バウアーが不在のため、余計な脱線が少ないというのも好印象の理由かもしれない。ドリストルを始め、ちょっとなあというキャラもいるのだけれど、そういう人たちも因果応報というか、その人たちなりにつらい目にあっているので、それぞれ同情の余地がある。なんだこいつと思わされたままだったのは、副大統領くらいじゃないだろうか。たまに事件に巻き込まれる民間人──とばっちりで襲撃を受けるスポーツ店の兄弟とか、“核のフットボール”の争奪戦に巻き込まれてしまう夫婦とか──が、不必要に悲劇的な運命にあわないのもなによりだった。
まあそれでも 『24』 は 『24』 だから、やはりひどいシーンも多い。なかでも今回は特に拷問シーンの多さが目立った。それもテロリストのみならず、民間人やCTUのメンバーまで、ありとあらゆる人が拷問にあっている。CTUの拷問担当のリチャードだかなんだかが、やたらとちょこちょこと何度も出てくるので、終盤には彼の名前が出るたびに「またリチャードだ~」と、つい苦笑してしまった。
ゲストスターでおもしろいのは、1話目に登場してテロリストに悲惨な目にあわされるハッカー役のルーカス・ハース。彼は 『刑事ジョン・ブック/目撃者』 で子役のサミュエルを演じた人だそうだ。 『マーズ・アタック』 では火星人を撃退するきっかけを作ってナタリー・ポートマンといい雰囲気になる青年だったとか。
あと最後の最後に出てくる美人テロリスト、マンディ役のミア・カーシュナー。彼女はシーズン1の第1話で旅客機を墜落させたり、シーズン2の最後にパーマー大統領にバイオテロを仕掛けた女性と同一人物だった(ちょっとびっくり)。最近ではジェイムズ・エルロイ原作、ブライアン・デ・パルマ監督の 『ブラック・ダリア』 で、猟奇殺人の被害者であるブラック・ダリアその人を演じているらしい。要チェック。
(Jan 07, 2007)
M-MEN:ファイナル・ディシジョン
ブレット・ラトナー監督/ヒュー・ジャックマン、ハル・ベリー/2006年/アメリカ/DVD
『X-MEN』 シリーズ三部作の完結編となるこの作品、監督が変わってしまったのが致命的だったんじゃないだろうか。作風もずいぶんと違うし、前の二作とのつながりが薄いせいで、かなり納得のゆかない出来になっている。
ブライアン・シンガーが監督した前の二作には、人類とミュータントの闘いを描くのに平行して、もうひとつ大きなテーマがあった。メイン・キャラクターであるウルヴァリンことローガン(ヒュー・ジャックマン)の自己探求の物語だ。「誰が何のためにウルヴァリンを改造したのか」という謎が、このシリーズのもうひとつの焦点だった。完結編ともなれば、いよいよその謎があきらかにされるのを誰もが期待して当然だろう。
ところがこの第三作では、その謎はまるで解明されない。されないどころか、そんな伏線があったことさえ、きれいさっぱり忘れ去られてしまっている。「ウルヴァリンの過去なんてどうでもいいのさ」と言わんばかりの脚本が悲しすぎる。彼の過去については、来年公開予定のスピンオフ 『ウリヴァリン』 を観ろってことなんだろうか。なんだかなあ。
メインとなるストーリーもよくない。この第三作の中心となるのは、ミュータントを普通の人間に戻す特効薬が開発され、それを巡って人類とミュータント軍団が戦争になるという話。一見よさそうなアイディアなんだけれど、これが大失敗。このシリーズのおもしろさはミュータントたちの特異な能力やルックスにあるわけで、それが人間が作った平凡な薬によって一瞬で奪われてしまうなんて話で盛りあがれるはずがない。実際にその薬のせいで、これまでのシリーズ中もっとも存在感があった憎まれキャラが、前半だけでお役御免になってしまうんだから、そりゃないぜと思う。
そもそもこの映画は基本的にキャラクターが魅力的に描けていない。ハル・ベリー演じるストームだけは雰囲気が変わって前よりも可愛くなっていた気がするけれど、あとはそろいもそろってマイナス・イメージだった。
たとえば前作の最後で死亡したはずのジーン・グレイ(ファムケ・ヤンセン)。彼女はこの作品の序盤にさっさと復活を遂げる。別に生き返らせること自体には文句はないけれど、その設定があまりに強引だ。その強引さのせいでキャラクターの性格が歪んでしまい、せっかく甦らせたジーン・グレイは、それまでの二作の彼女とはまるで別の女性みたいになってしまっている。しかも最初から最後まで魅力的なところがほとんどない。これじゃあ、なんのために彼女を生き返らせたのかわからない。
さらに彼女を生き返らせる一方で、その他の重要なキャラクターをすごくあっけなく殺してしまう。自分で創造したキャラクターならばともかく、ここでのそれはアメコミ原作の、ひとさまからお借りしたものだ。それをあんな風に粗末に扱うってのは、ある意味ではクリエーターとしての倫理に反してやしないか。殺す以前の問題として、 『2』 に出てきた黒い悪魔みたいなミュータントなんて姿も形もないし。どうにも作り手のキャラクター陣に対する愛情が感じられなくて困りものだ。
もしかしたらこの映画を作った人たちは、これまでの 『X-MEN』 シリーズが嫌いなんじゃないだろうかとさえ思う。これはまるで映画界から 『X-MEN』 というシリーズを抹殺することを使命とした作品みたいだ。もしそうならばその抹殺計画は見事に達成されている。前二作で築きあげた世界観はこっぱ微塵。この映画を作ったのは第二作でミュータントを絶滅させようとしたストライカーの仲間に違いない。
少なくても僕は、こんな完結編ならば、観ない方がよかった。いっそのこと、この映画はなかったことにして、ブライアン・シンガーさんがもう一本、 『2』 の続きから別の完結編を撮り直してくれないかなと思う。彼は 『スーパーマン・リターンズ』 を撮るためにこの映画を監督できなかったなんて噂があるけれど、だとしたらとても残念だ。僕個人としてはこちらを優先して欲しかった。
(Jan 08, 2007)
ジョー、満月の月へ行く
ジョン・パトリック・シャンレー監督/トム・ハンクス、メグ・ライアン/1990年/アメリカ/BS録画
この映画でメグ・ライアンが一人三役をつとめていることを知らず、ずいぶんメグ・ライアンに似た女優さんがたくさん出てくる映画だなあと思っていた馬鹿者は、なにを隠そうこの僕です。そりゃこの映画でのメグ・ライアンの化けっぷりはなかなか見事なものだけれど、それにしたって……。ポケモンでロケット団の変装を見破れないサトシたちを馬鹿にしちゃいけない気がしてくる。
なんにしろこれはトム・ハンクスとメグ・ライアンの初共演作品。製作総指揮にはスピルバーグの名前もあるのに、それにしては知名度が低い気がするなと思っていたら、なんと日本では劇場未公開だったらしい。メグ・ライアンはこれが 『恋人たちの予感』 の次回作で、トム・ハンクスもまだそれほどのビッグ・ネームではなかった時期の作品だとはいえ、その後の二人の知名度を思うとちょっと驚きだ。
でもまあ観てみれば未公開だったのもわからないでもないというか、作品の出来はそこそこ。あきれて苦笑いしちゃうような結末にはある意味インパクトがあったけれど、全体的に演出の面ではそれほど感心しなかった。部分部分で妙にカメラ・アングルに凝ってるのも、作品の雰囲気にそぐわなくて、バランスを悪くしている気がする。BGMのセレクションもブルースからポップスまで幅がありすぎて、とりとめがない。監督のシャンリーという人はこれが唯一の監督作品のようだから、余計な力が入ってしまったのかもしれない。
それでも主演の二人を始めとして、キャスティングはなかなか素晴らしい。初期のスパイク・リー作品の常連であるオジー・デイヴィスや、 『フィッシャー・キング』 『パルプ・フィクション』のアマンダ・プラマーなど、個性的な俳優が顔を揃えている。ただ、ほとんどのキャラがバトンタッチするように出てきては引っ込み、引っ込んだあとは二度と再登場しないのが、ややもったいない気がする。オジー・デイヴィスなんかは好感の持てる役柄だっただけに、簡単に出番がなくなってしまって残念だった。
とにかく俳優の使い方は贅沢きわまりないと思うし、ヨットや火山の特撮シーンにだってそれなりの費用がかかっているのだろう。そういう意味ではとても贅沢なB級映画だった。
(Jan 13, 2007)
25年目のキス
ラージャ・ゴスネル監督/ドリュー・バリモア/1999年/アメリカ/BS録画
ドリュー・バリモア演じる女性記者ジョジーが社主の命令で年齢を偽り、潜入レポーターとしてハイスクールに入学。高校時代はいじめられっ子で悲惨な思い出しかないという25才の彼女が、いまどきの高校生に加わって悪戦苦闘しながら、かつての悪夢を払拭して、初めての恋を手にすることになるまでを描くというロマンティック・コメディ。
序盤のドリュー・バリモアが演じる、もてない女性像がなかなか強烈。高校時代の彼女は痛ましいのひとことだし、現在形の彼女も垢抜けないことこの上ない。このままで大丈夫なのかと、見ていてかなり困った気分にさせられる。でも当然だいじょうぶ。最後にはすっきりとした綺麗な姿を見せてもらえる(最後までちょっと太めだけれど)。ただ恋愛映画としてみると、最近の作品の常で、恋人同士となる二人の関係の描き方が淡白で、ややもの足りない。
彼女の上司ガスを演じるジョン・C・ライリーという俳優さんは、顔にはやたらと見覚えがあるのに、どうしてもどこで見た顔だか思い出せなかった(こういうのはなかなか気になる)。あとで調べてみて、ああと納得。 『シカゴ』 でレニー・ゼルヴィガーの旦那さんを演じて、 『ミスター・セロファン』 というペーソス一杯の歌を歌っていた人だった。
そのほかのキャスティングで要チェックなのは、イケイケ高校生三人組のひとりとしてジェシカ・アルバが出演していること。いつも三人一組で行動していて、一人一人の個性が埋没してしまっているような役どころだから、僕はエンディング・クレジットを見るまで気がつかなかった。
あとこの映画とあまり関係のないところでは、ジョジーの相手役マイケル・ヴァルタン(ドラマの 『エイリアス』 にレギュラー出演している人だとのこと)は、シルヴィー・ヴァルタンの甥御さんだそうだ。
(Jan 14, 2007)
リーグ・オブ・レジェンド 時空を超えた戦い
スティーヴン・ノリントン監督/ショーン・コネリー/2003年/アメリカ・ドイツ他/DVD
世界大戦を勃発させようとする悪者相手に、十九世紀の古典娯楽小説のキャラクターたちが一同に会して立ち向かうという趣向のアクション大作。これも原作はイギリスのコミック(近頃はグラフィック・ノベルと呼ばれているらしい)で、原作者は 『Vフォー・ヴェンデッタ』 と同じ人とのことだ。
登場するのは 『ソロモン王の洞窟』 、 『海底2万マイル』 、 『ドラキュラ』 、 『透明人間』 、 『ジキル博士とハイド氏』 、 『ドリアン・グレイの肖像』 、 『トム・ソーヤーの冒険』 の主要キャラクター。おまけに 『オペラ座の怪人』 と 『007』 と某ミステリも引用されている。全員がオリジナルどおりというわけではなく、必要に応じてアレンジされていて、ハイド氏は超人ハルクと見まごうばかりだし、トム・ソーヤーは成長してアメリカの諜報部員になっていたりする。
中心となるチームを組む七人のうち、ドリアン・グレイとトム・ソーヤーは原作にはない映画版のオリジナル・メンバーらしいのだけれど、不勉強な僕が読んだことがあるのは、その二人が出てくる作品のみだった。ネモ船長、ジキル博士、透明人間は、一般常識として名前は知っていても小説は読んだことがないし、ショーン・コネリー演じる主役のアラン・クォーターメインや紅一点のミナ・ハーカーにいたっては、それは誰って感じだった。あとで調べてみたところ、ミナ・ハーカーというのはどうやらコッポラの 『ドラキュラ』 でウィノナ・ライダーが演じていた女性っぽい。
まあ元ネタとなった小説を知らなくても、アクション映画として普通に楽しめる作品だとは思う。ただ、少なくてもドリアン・グレイについては原作を知っているのと知らないのでは随分と受ける印象が違うと思うし、そういう意味では、読書好きの人間のひとりとしては、やはり元ネタとなった小説をすべて読んでから観たほうがよかったかなという気がした。とりあえず唯一名前も存在も知らなかったアラン・クォーターメインが主人公のH・R・ハガードの作品については、そのうち一冊くらい読んでみようかなという気になっている。
ちなみにこの作品の原題は The League of Extraordinary Gentlemen で、映画 『紳士同盟』 の The League of Gentlemen をもじったもの。字幕では「超人紳士同盟」と、そのまんま訳されている。確かにそのままじゃ垢抜けないけれど、それにしても邦題の 『リーグ・オブ・レジェンド』 は苦肉の策という感じだ。
(Jan 20, 2007)
Mr.&Mrs.スミス
ダグ・リーマン監督/ブラッド・ピット、アンジェリーナ・ジョリー/2005年/アメリカ/DVD
いまやハリウッド一有名なカップル、ブラピとアンジェリーナ・ジョリーが共演したこの作品、タイトルだけ聞くとヒッチコックの 『スミス夫妻』 のリメイクみたいだけれど、あの話とはまるで無関係。共通点は夫婦喧嘩を描いたコメディという点だけで、あとは似ても似つかない。あまりに違いすぎていて、比較している自分がおかしくなってしまうくらいだ。ありふれた結婚生活の危機を描いて失笑を買ってみせたヒッチコック作品に対し、こちらは殺し屋どうしのカップルが巻き起こす、映画史上もっとも壮絶な夫婦喧嘩を描くアクション映画に仕上がっている。
美男美女の殺し屋カップルが、おたがいの職業を知らないまま結婚してしまったら──。そんな現実にはあり得ない、それでいていかにもハリウッドらしいワン・アイディアをふくらませて、2時間の娯楽映画に仕上げてみせたシナリオにはなかなか感心した。アンジェリーナ・ジョリーもむちゃくちゃ綺麗だし、アクションも派手かつスピーディーで退屈させない。最後のほうで一瞬、 『俺たちに明日はない』 みたいな悲愴感あふれる結末を予感じさせておきながら、「でもここはやっぱりハリウッドだからね」と言わんばかりに、あっけらかんと幕を閉じる演出も、まあオーケー。ということで、それほど期待していなかったにもかかわらず、最近観た映画のなかでは一番おもしろかった。
それにしても、ここまで主演の二人の存在感が突出している映画というのも最近じゃ珍しいと思う。そんじょそこいらの恋愛映画なんて目じゃないってくらい、最初から最後まで主人公二人にスポットライトがあたりっぱなし。そのほかの人はほとんど印象に残らない。これはブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリー、本当にただひたすらこの二人を見せるためだけの映画だと思う。ここまで徹底してやられると、かえって気持ちいい。
(Jan 21, 2007)
セレブリティ
ウディ・アレン監督/ケネス・ブラナー、ジュディ・デイヴィス/1998年/アメリカ/BS録画
ひさしぶりにウディ・アレンらしい作品を観た気がする。主人公のリーを演じるケネス・ブラナーの演技が、ものの見事にウディ・アレンご本人を連想させるためだろう。なんでこのキャラを本人が演じなかったのだろうと、ちょっと不思議な気さえする。でも考えてみれば、ウディ・アレンさんもこの映画の制作の時点ですでに六十を過ぎている。さすがにあまたの美女たちと浮名を流す人物を演じるには、年をとりすぎたということなんだろう。
この作品の主人公リーは平凡な生活を嫌い、学生時代から連れ添った妻と別れて、小説家としての成功を目指している中年男性。控えめな物腰にもかかわらず、もの書きだけあって女性を口説くのがうまく、メラニー・グリフィス、シャーリーズ・セロン、ファムケ・ヤンセン( 『X-MEN』 のジーン・グレイ)、そしてウィノナ・ライダーという、そうそうたる美女たちと関係を重ねてゆく。ライターとして取材のために有名人と行動することも多く、いっけん華やかな生活を送ってはいるものの、肝心の小説のほうは大作家から駄作とひとことで片付けられる程度のものしか書けていないし、浮気性がわざわいして女性との関係も表面的で、いつまでたっても成功とは縁がなさそうな雰囲気が漂っている。
対する彼の元妻ロビン(ジュディ・デイヴィス)は、ひょんなことからでTVプロデューサーのトニー(ジョー・マンテーニャ)に見初められ、それまでの平凡な高校教師としての生活が一変、テレビ業界で大成功を収めることになる。パーティーに明け暮れるショービズ界を背景に、そんな二人の対比をモノクロ映像でもってシニカルに描いてみせたところが、いかにもウディ・アレンらしい。
前述した美女たちやディカプリオをはじめとして、その他にもとても多くのセレブリティたちがちょい役で顔を出している風なのだけれど、僕にそれとわかる人はあまりいなかった。おっと思ったのは、 『ザ・ソプラノズ』 でトニーの姉ジャニスを演じていたアイダ・タトゥーロと、ポーリー役のトニー・シリコくらい。ポーリーのほうはあの役柄のイメージが強いので、ウディ・アレンの映画に一瞬でも出ているというミスマッチに、つい笑ってしまった。
(Jan 27, 2007)
ノーマ・レイ
マーティン・リット監督/サリー・フィールド、ロン・リーブマン/1979年/アメリカ/DVD
不当な労働を強いられているアメリカ南部の紡績工場で、ひとりの女性が労働組合結成のために立ちあがるという話。アメリカン・ニューシネマ全盛期の作品だからか、脚本も演出もかなり
サリー・フィールド演じる主人公ノーマ・レイは、二人の子供を抱えて両親と同居しているシングルマザー。最初のダンナと死に別れたあと、二人目の子供は別の男性とのあいだで「彼のキャデラックの窓に足をかけているあいだに」出来ちゃったという、なかなか奔放かつ恵まれない過去を持っている。そんな彼女が両親とともに働く紡績工場に、ロン・リーブマン演じるルーベンが労働組合を作るためにやってくる。もとより
この作品でおもしろいのは、中心となるノーマ・レイとルーベンのあいだに普通の恋愛感情が生じないところ。ノーマが別の男性(まだ痩せているボー・ブリッジス)と再婚するというちょっぴり意表をついた展開で三角関係を成立させ、ひと波乱あるような雰囲気を作っておきながら、それでも二人の関係は最後までプラトニックなままで終わる。途中、二人が裸になって川で泳ぐなんてシーンもあるものの、それさえもあまりセクシャルな方に流れないよう、気をつかって描かれている。真面目に組合の問題にフォーカスするためにも、二人の関係を月並みな男女関係におとしめたくないという思いが作っている側にあったんだろう。その辺の徹底したストイックさのおかげで、二人が別れの握手を交わすエンディングには、なかなか
ちなみにノーマ・レイの「レイ」は主人公の苗字ではなくミドル・ネーム。ルーベンがこの辺にはそういう名前が多いとかなんとか言うシーンがあったけれど、そう言えば南部の女性を主人公にしたフィッツジェラルドの短編 『氷の宮殿』 でも主人公の名前はサリー・キャロルだったし、南部には女性にそういう風にミドル・ネームをつける慣習があるらしい。
(Jan 28, 2007)