2006年12月の映画

Index

  1. キング・コング
  2. 24 -Twenty Four- シーズンⅢ
  3. パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト
  4. 三十四丁目の奇蹟
  5. ユナイテッド93
  6. Vフォー・ヴェンデッタ

キング・コング

ピーター・ジャクソン監督/ナオミ・ワッツ、エイドリアン・ブロディ、ジャック・ブラック/2005年/アメリカ/DVD

キング・コング デラックス・エクステンデッド・エディション(3枚組) [DVD]

 『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソンによる『キングコング』のリメイク版。
 当初、僕はこの作品にあまり興味を持てなかった。33年のオリジナル版を知らないのに加え、キング・コングとティラノザウルスがにらみあっているポスターを見て、なんだかあざとく思えてしまったからだ。恐竜はすでに33年版でも出ているみたいだけれど、そんなことは知らないから、今回の作品のためのCG全盛期ならではのアレンジだと思ったわけだ。『ジュラシック・パーク』じゃないんだから、わざわざ恐竜まで出すこたあ、ないだろうと。
 でも実際に観てみて、意外や意外。その恐竜の登場シーンがやたらとおもしろいのだった。本来ならば史上最大最強のはずのティラノザウルスだけれど、キング・コングとはサイズのうえでは五分。凶悪なこの恐竜に対して、キング・コングはそのぶっとい腕でパンチをお見舞いする。結果はキング・コングの圧勝だ。ティラノザウルスがパンチでぶっ飛ばされるなんてシーン、そうそうお目にかかれるもんじゃない。これはもう、恐竜と同じ大きさの類人猿が存在するとしたアイディアの勝利だろう。いや、非常に感心した。
 舞台設定もいい。キング・コングが生息しているのは、太古の生物が跋扈する地図にもない孤島、スカル・アイランド(髑髏島)。そこにはいまだに恐竜が生息していて、見たこともないような巨大昆虫が飛びまくっている。キング・コングはそんな動物たちのうちの一員という位置付けだ。なので恐竜が出てくること自体に、特に違和感はなかった。
 ジャック・ブラック演じる映画監督のカール・デナムが、俳優やスタッフ、それに船員たちを引きつれ、この島に乗り込んでくることになる。彼の映画の主演女優に抜擢されたのが、食うにも困る貧乏女優のアン・ダロウ(ナオミ・ワッツ)。この作品や『リング』で悲鳴をあげてばかりという印象のこの人だけれど、なるほどこのところ名前をよく聞くだけあって、青い眼が印象的な、とても綺麗な人だった。
 ともかく彼ら一行が無人島だと思ってこの島にやってきてみると、そこには未開の原住民が暮らしていて、キング・コングに生贄を捧げたりしている。で、ナオミ・ワッツはその原住民に誘拐されて、キング・コングの生贄にされてしまう。残されたデナムを初めとした船員たちは、美女をそのまま残してはいけないと、ライフルを手に救出に出発するのだった。そして襲いくる恐竜や巨大昆虫のため、次々と命を落としてゆくはめになる。
 たった一人の美女のために船員総出で救出に向かうという展開は、『24』のように平気で人を見殺しにする非情さに慣れてしまった目からすると、やたらとお人好しに思える。けれどここではその展開こそが{かなめ}だ。美女を救うためならば命だって投げ出すぞと。そういうヒロイックな姿勢がなくて、なにが男だと。そんな時代錯誤な男の美意識が、当然かくあるべきこととして徹底されている点、それがこの映画の魅力のひとつだと思う。「飛行機じゃない。美女が野獣を殺したんだ」という追悼の言葉を送られるキング・コングは、そんな古きよき時代の男性像を象徴する存在でもある。
 喧嘩には強いけれど、美女にはめっぽう弱い。そんな愛すべき男たちと巨大ゴリラが未知の孤島でくりひろげる冒険を、くどいほどのアクションと美しい映像満載で描いて見せた力作。『ロード・オブ・ザ・リング』に負けず劣らず、これはこれでなかなかの出来だと僕は思う。個人的には特に30年代のニューヨークを再現したシックな風景が好きだった。
(Dec 06, 2006)

24 -Twenty Four- シーズンⅢ

ジョン・カサー監督・製作ほか/キーファー・サザーランド/2003~2004年/アメリカ/DVD

24 -TWENTY FOUR- シーズン3 ハンディBOX [DVD]

 感染すれば24時間以内に90%の人が死亡する新型ウイルスをばら撒くぞ。そんな脅迫とともにメキシコのテロリストが政府に要求してきたのは、服役中の仲間、ラモン・サラザール(ヨアキム・デ・アルメイダ)の解放だった。潜入捜査によりつい最近この男を逮捕したばかりのジャック・バウアーが、大統領の威信を守るため、窮余の一策を仕掛けてゆく、というのが最初の数時間のあらすじ。
 それにしても本当にひどい話だった。これまでの三つのシーズンのうちで、最低の話だと思う。ジャック・バウアーの非道さはいまに始まったことじゃないけれど、この作品ではいくらなんでもそれはないだろうという悪行のオンパレード。彼のために何人の罪のない人々が命を落としたことか。潜入捜査でヘロイン中毒になっていたりするし、どっちが犯罪者だかわかったもんじゃない。今回はその非道さがどんどんエスカレートするので、物語が終わる頃には、最初のうち世間を騒がしていたサラザール兄弟が実はそれほど悪いやつじゃなかったんじゃないかというような錯覚に陥ってしまった。
 わが家ではジャック・バウアーと並んで24のお騒がせ御三家と呼ばれているキム・バウアーと大統領前夫人も健在だ。
 キムは唯一の家族だから身近に置いておきたいというジャックの口添えでCTUの職員となり、ジャックの相棒であるチェイス・エドモンズ(ジェームズ・バッジ・デール)と職場恋愛中だという設定。あいかわらず余計なことを言ってはCTU内部で騒動を起こしている。それでもまあ今回は事件解決のための役に立ってもいるし、前の2シーズンと比べればまだましかなとも思う。前回の騒動からわずか3年で、ベビーシッターくらいしかできなかった女の子がCTUの戦力になるだけのコンピュータ技術を身につけているというのは、かなり都合が良すぎるけれど。あ、あと他人には非情極まりないジャックが、この娘のためとなると、いきなり甘いことを言い出しちゃうのにも、かなりそれはないんじゃないのという気分にさせられる。
 大統領前夫人(ペニー・ジョンソン・ジェラルド)については、前回あれほどきわどい立場に立たされたあとで、なんで今回も出番があるのかと不思議に思っていたら、なんと大統領自らが出演依頼をしていたりする。あれだけ痛い目にあわされてまだ懲りないというのは、大統領としておおいに問題。今回のパーマー大統領は彼女を呼び寄せたこと以外にも愚行を繰り返して、これまでのとてもいい人というイメージを大きく裏切っている。側近に弟のウェイン(D・B・ウッドサイド)を迎えたのがアダになった格好というか。数少ない善人だと思っていた人が、その善良さを貫けないというのがなんとも残念だ。
 全体的に株を落としたり、命を落としたりする人が多いなかで、もっとも安心して見ていられる存在がミシェル・デスラー(レイコ・エイルスワース)。この3年のあいだにトニー・アルメイダ(カルロス・バーナード)の夫人の座におさまった彼女は、トニーの片腕として、そのアジア系のベビーフェイスからは想像できない、なかなか頼りになる姉御ぶりを発揮している。まあそんな彼女でさえ途中で民間人を射殺してしまったりするので、まるで罪がないとは言い切れないのだけれど。
 とにかくこれまでに活躍した主要なキャラクターが何人も命を落としているし、前二作とくらべると物語の展開としてはやや派手さにかけるくせに、後味の悪さでは過去一番という印象の第三シーズンだった。最後の最後でジャックが流すわずかばかりの涙にちょっとだけ救われた気分になる。
(Dec 10, 2006)

パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト

ゴア・ヴァービンスキー監督/ジョニー・デップ、キーラ・ナイトレイ、オーランド・ブルーム/2006年/アメリカ/DVD

パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト スペシャル・エディション [DVD]

 わずか2年半で前作『呪われた海賊たち』の内容をほとんど忘れてしまった僕には(なんでこんなに記憶力がないんだろう?)なんだか首をかしげたくなることの多い作品だった。ジャック・スパロウ(ジョニー・デップ)ってブラック・パール号の船長なんだったっけとか、エリザベス(キーラ・ナイトレイ)ってジャックとこんなに艶めかしい関係だったっけとか。彼女はいきなり剣の達人になっていたりするし。海賊たちの見分けがつかず、この人って誰だっけ、みたいなのも多かった。
 ということでシリーズとしてのこの映画についてはあまりどうこう言えない。とりあえず、どうして最後に『To be Continued...』というテロップが出ないのが不思議になるくらい、臆面もなく次回作に続いて終わる作品だった。僕みたいに記憶力のない人は、第三作が公開されてから三本まとめて見た方がいいかもしれない。
 基本的にこの作品、ちょっとばかり長すぎると思う。特に序盤にえんえんと続く未開人とのドタバタの部分が余計。メインとなるストーリーとはほとんど関係のないあんなシーケンスを、あそこまで力を入れて描かなくてもいいと思う。それなりに笑えるシーンも結構あるから、あそこがいいという人もいるのかもしれないけれど……。僕はあの部分をごそっと削って、もっとコンパクトにまとめた方がいい気がした。決してつまらない映画ではないけれど、かといって2時間半という長さに見合うほどの作品だとも思えなかった。惜しい。
 次回作での大団円に期待しよう。
(Dec 10, 2006)

三十四丁目の奇蹟

ジョージ・シートン監督/エドマンド・グウェン、モーリン・オハラ、ジョン・ペイン/1947年/アメリカ(スペシャル・カラー・バージョン)/DVD

三十四丁目の奇蹟 スペシャル・カラー・バージョン [DVD]

 コンピュータの恩恵をこうむるのは、なにも『スターウォーズ』などのSFX映画だけじゃなかったらしい。まさかコンピュータ技術の進化により、昔のモノクロ映画がカラーに変身しちゃう日がくるなんて思ってもみなかった。しかもそれが知らない人ならば、そうと言われなかったら気がつかないんじゃないかというくらい見事な彩色ぶりなんだからおそれいる。いや、それどころか適度に色あせている分、シックな質感があって、下手なカラー映画よりもいいかもしれない。本当にすごい時代になったもんだと、あらためて感心してしまった。
 昔の映画は元通りモノクロじゃないと許せないと言う人もいるだろう。でも僕はこれはこれでありだと思う。白黒映画は苦手という人──僕自身がちょっと前まではそうだった──が、こうした形で色がついたことで昔の名画を楽しめるようになるとしたら、それはそれで素晴らしいことなんじゃないだろうか。少なくても僕はサンタの衣装が赤いというだけでけっこう嬉しかった。
 作品自体はいまさら僕がどうこういう必要もないくらいの傑作コメディ。ニューヨークのメイシー百貨店で販促のためのサンタ・クロース役をつとめることになった老人が、自分は本物のサンタだと言い張ったことから騒ぎが巻き起こり、ついには裁判沙汰になってしまうという話。サンタ・クロースは実存するや否やという問題を裁判に持ち込んでしまう展開が──もしかしたら自虐的なユーモアが込められているのかもしれないけれど──、なにごとも最後は裁判で片をつけようとするアメリカらしくてすごい。
 ちっちゃいくせに「サンタなんているはずないわ」なんて冷めたことを言っている女の子、スーザンを演じているのは、のちに『ウエスト・サイド物語』のヒロインをつとめることになるナタリー・ウッド。彼女はこの作品で天才子役として注目を集め、一躍有名になったのだそうだ。この子が現実主義者の母親(モーリン・オハラ)とともにサンタの存在を受け入れてゆく過程がこの作品のメインとなっている。
 サンタ・クロース役のエドマンド・グウェンは、その後ヒッチコックの『ハリーの災難』に出演することになる人。この映画のサンタさんが、のちに死体を隠そうとして、てんやわんやの騒ぎを繰りひろげていると思うと、それはそれでちょっとおかしい。

三十四丁目の奇蹟 [DVD]

 ちなみにこのDVDは20世紀フォックスの『スタジオ・クラシック・シリーズ』のスペシャル・バージョンとしてリリースされている。このシリーズ、ブロンズ色を基調とした統一デザインのパッケージが地味きわまりなくて、どうにも好感が持てないでいるのだけれど──誰があんなに地味なDVDを欲しがるんだろう?──、このDVDはなかなか綺麗なアウターケース付きだったので喜んでいたら、アウターケースを外した中のジャケットは、通常盤のものと同じデザインだった。しかも人物のイラスト部分だけに彩色したもので、白黒のものよりも印象がよくない。アウターケースがなかったら、たぶん買っていなかったと思う。スタジオ・クラシック、地味すぎる。
(Dec 17, 2006)

ユナイテッド93

ポール・グリーングラス監督/2006年/アメリカ/DVD

ユナイテッド93 [DVD]

 2001年9月11日の同時多発テロにおいて、ハイジャックされた四機の旅客機うち、目標に到達しないで墜落したものが一機だけあった。それがタイトルとなっているユナイテッド航空の93便。この映画は(おそらく)その飛行機に乗りあわせた乗客や乗務員の遺族や関係者へのインタビューをもとに、その一機だけがどのようにテロリストたちの企てを妨げたかを再現してみせた作品だ。
 テロを防いだとはいっても、飛行機は墜落して乗客乗務員は全員死亡しているわけだから、それが実話だと知っていては、とても娯楽として楽しもうなんて気分になれるわけがない。この映画はあらかじめ、そういう観る側の気持ちを踏まえた上で撮られている。それゆえに、とても重いけれど、それでいてとても淡々としたパニック映画に仕上がっている。
 この作品は単に93便のみにスポットを当てるのではなく、あの日の朝のテロリストたちの目覚めの風景から始まり、管制塔で働く人々や政府や軍の関係者が、あの空前絶後の事件をどのように体験することになったかを再現している点がポイントだ。あの日の出来事を複数のシーンが同時進行する手法で描いている点で、『24』に通じる雰囲気がある。ただしあのお騒がせなドラマと違って、この映画が素晴らしいのは、そのすさまじい慌しさのなかで、もしも実際に自分がその立場にいたらどんなことになっていたかという想像力をいやおうなく掻きたてる点にあると思う。
 ほんと、ドキュメンタリータッチのこの映画には、まるで自分がその事件を実際に体験しているようなリアリティがある。無名な俳優たちと一部の関係者自身の出演によって撮影されたというのも大きいのだろう。ハイジャック機になにが起こっているかわかわらず、CNNのニュース映像で初めて事態の真相を知り、言葉を失う管制塔の職員や軍関係者たち。不運にも問題の旅客機に乗り合わせてしまい、自らの死を覚悟させられる乗客や乗務員たち。この映画は僕らに、彼らの感じただろう痛いほどの絶望や無力感を間接的に追体験させてくれる。
 もちろん普通に考えれば、そんなものは好んでしたいような体験ではない。けれど実際に世の中にはあの事件によりこの世を去った人々がいて、あの事件により愛する人々を奪われた人がいまも暮らしている。彼らは特別な人ではない。僕らと同じように生活している(していた)普通の人たちだ。すべての事件は平凡な個人の体験の積み重ねの上に成り立っているんだということを、9.11という空前絶後の悲劇を追体験させることにより思い出させてくれる。これはそういう意味でとても優れた映画だと思う。
(Dec 10, 2006)

Vフォー・ヴェンデッタ

ジェームズ・マクティーグ監督/ナタリー・ポートマン、ヒューゴ・ウィーヴィング/2006年/アメリカ/DVD

Vフォー・ヴェンデッタ 特別版 [DVD]

 この映画の舞台となるのはアメリカが滅びた近未来の、独裁政権下にあるイングランド。私怨絡みの復讐心に燃える仮面のテロリスト“V”が腐敗した政府の転覆をもくろみ、たまたま彼と知り合ってしまった美女イヴィー(ナタリー・ポートマン)がそれに巻き込まれて大変な目にあうという話。Vは「血の復讐」を意味する Vendetta の頭文字をとった仮名。
 Vのつけている仮面はイングランド史上に残る火薬陰謀事件の首謀者ガイ・フォークスという人物の顔をかたどったものだそうで、イギリスでは毎年その事件にちなんで、花火をあげたり、ガイ・フォークス人形をひいて街中を練り歩いたりするイベントが営まれるのだとか。犯罪者をたたえるってのも変な感じだけれど、日本で言えば忠臣蔵のようなものなんだろう。
 とにかくVの破戒工作もその祭事を踏まえて、11月5日の午前0時に街中のスピーカーで交響曲を鳴り響かせつつ、議事堂を花火で爆破するというものになっている。圧政下にある民衆は彼の祝祭的なテロ活動を好意的に受け止め、草の根的な支持を与えることになる。9.11以来、テロというと許されざるものというイメージが浸透しているけれど、ここでのそれは、より許されない政府の隠蔽工作に対する報復活動として、必要悪として描かれている。政府から見ればテロでも、圧政に苦しむ側から見れば革命ということになる。Vもテロリストではなく、革命家と呼ぶべきなのかもしれない。
 製作が『マトリックス』のウォシャウスキー兄弟ということで、スローモーションを多用したアクションにはあの映画の影響が強く感じられる。そうした迫力あるアクションや派手な爆破シーンなど、純粋にエンターテイメントとして楽しめる演出もたくさんあるのだけれど、その半面、ナタリー・ポートマンが頭を剃られて拷問にかけられたり、主人公には政府の人体実験の犠牲になった過去があったりと、かなり重いテーマも含んでいて、単純に娯楽として楽しんでいいものか躊躇{ためら}わせるようなところがある。バットマンなども暗いテーマを含んでいるけれど、この映画は掲げたテーマが革命という、ほかより大規模なものであるだけに、その中途半端さにちょっとばかり据わりが悪い印象を受けてしまった。
 もうひとつ言わせてもらえば、映像的にはもうちょっと暗いほうがいい。シリアスな過去を滑稽な仮面で隠したヒーローという設定には、もっと陰影のある映像のほうが似合うと思う。オリジナルはイギリスのコミック──アメコミならぬイギコミ?──だそうで、ちらっと絵を見た限りでは、暗い色調の重厚な雰囲気の作品だった。だからあの仮面でも物語が引き締まるのだろう。この映画も原作を見習って、もっと陰影に気を配った暗い映像で撮れていたら、さらに魅力的な作品になっていたのではないかという気がした。なかなかいい作品だけに、それらの点がちょいと残念。
 ちなみにVを演じているのはヒューゴ・ウィーヴィング。名前には聞き覚えがあるのに顔を思い出せないでいて、この人はいったいいつになったら顔を見せてくれるのだろうと思っていたら、結局最後まで顔を隠したままで終わってしまった。仕方なくあとでネットで調べてみれば、なんだ『マトリックス』のエージェント・スミスじゃないか(もしくは『ロード・オブ・ザ・リング』のエルロンド)。『インサイド・マン』でクライヴ・オーエンが、ずっとマスクをかぶってばかりの役で、引き受けたのを後悔したみたいなことを言っていたけれど、この映画のウィーヴィングさんは一度たりとも素顔をさらさないんだから、もっとすごい。そんな役柄に文句ひとつ言わず(言っていたのかもしれないけれど)、その饒舌さだけでかなりの存在感を発していたのにはとても感心した。
 彼やナタリー・ポートマン以外の俳優さんたちの演技もとてもいい。特にスティーヴン・レイ、 スティーヴン・フライの両氏が好印象だった。独裁者サトラーを演じているジョン・ハートという人は、『エイリアン』でお腹を食い破られている方らしいです。
(Dec 29. 2006)