2006年5~6月の映画
Index
- ラ・スクムーン
- 冬の猿
- 24 -Twenty Four- シーズンⅡ
- ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月
- アンダー・ザ・チェリー・ムーン
- グラフィティ・ブリッジ
- 宇宙戦争
- アリーmy Love
- ナチュラル・ボーン・キラーズ
- アウト・オブ・サイト
- ソウル・フード
- アメリカン・ビューティー
- アスファルト・ジャングル
- ミーン・ストリート
ラ・スクムーン
ジョゼ・ジョヴァンニ監督/ジャン=ポール・ベルモンド、クラウディア・カルディナーレ/1972年/フランス/BS録画
タイトルは「死神」を意味する主人公のニックネームだとのことで(字幕では「貧乏神」となっていたような気がした)。一匹狼のギャング、ロベルト(ジャン=ポール・ベルモンド)は、無実の罪で刑務所に入れられた幼なじみのザビエ(ミシェル・コンスタンタン)を救おうと奔走したあげくに敵を作り、銃撃戦に傷ついて、自らも捕まってしまう。ともに脱走計画を練るも破綻。おりしも戦時中、囚役期間短縮を条件に不発弾撤去の仕事を引き受ける二人だったが、まわりでは次々と仲間の囚人たちが爆死してゆく……。
ロベルトの忠実な仲間、手巻きオルゴールを弾くメキシコ人のボディーガード(エンリケ・ルセロ)の存在が、一風変わったアクセントになっていておもしろい。ロベルトに敵対する新興ギャング団が黒人集団だったりと、フランスが舞台の割には、人種的にミクスチャーな点にも意外性のある、不思議な雰囲気の映画だった。とにかくこの手のフランス製のギャング映画は、つねに因果応報で、無常観漂うところに共感をおぼえる。
(May 01, 2006)
冬の猿
アンリ・ヴェルヌイユ監督/ジャン・ギャバン、ジャン=ポール・ベルモンド/1962年/フランス/BS録画
フランスの片田舎でホテルを営む初老の男アルベール(ジャン・ギャバン)と、そのホテルに滞在することになった青年ガブリエル(ジャン=ポール・ベルモンド)。かつての飲酒癖もどこへやら、いまや禁酒生活十五年のアルベルトだったけれども、酒乱気味のガブリエルの存在に、こらえていたアルコールへの渇望を抑えきられなくなってしまい、ついに禁酒の誓いを破ることに……。
「そんなに飲みたかったら、夕食の時にワインをグラスの半分くらいならばいいわよ」という奥さんに、「俺はベロベロになるまで酔いたいんだ!」と毒づくアルベール。いや、とても他人事とは思えない。若い頃から酒を飲んでは失態をくりひろげてきた僕は、酒飲みの話には人並み以上に共感を覚えてしまうのだった。年の離れた酔っ払いの名優二人組が、最後には花火まであげて盛大に世間を騒がすというこまった話だけれど、それゆえに僕はこの映画を愛さないではいられない。
(May 01, 2006)
24 -Twenty Four- シーズンⅡ
ジョン・カサー監督ほか/キーファー・サザーランド/2002~2003年/アメリカ/DVD
大統領候補暗殺未遂事件から1年。LAに核爆弾が持ち込まれ、その日のうちに爆発するかもしれないという非常事態が発生する。犯行組織が彼のかつての潜入捜査先であったことから、CTUをやめて傷心の失業生活を送っていたジャック・バウアーのもとに、デイヴィッド・パーマー大統領じきじきの出動依頼が入る、というところから始まる『24』の第二弾。
バウアー親子、セカンド・シーンズでもあいかわらずのお騒がせぶり。特にキム・バウアーがメイン・ストーリーから脱線したところでくりひろげる無駄な騒ぎの数々には、かなり困った気分にさせられる。彼女、サード・シーズンではCTUのメンバーになっちゃうそうで。見る前からため息が出そうだ。
全体的に見ると、今度の話の方が脇役の存在感が強かった気がする。悲惨きわまりない目にあいつつ、飛ぶ鳥跡を濁さないジョージ・メイソン(ザンダー・バークリー)とか、意外なところから事件に巻き込まれてゆくケイト・ワーナー(サラ・ウィンター)とか、僕はけっこう好きだった。私情がからまない分、ジャック・バウアーが事件解決のために一途に仕事をしているせいで、まわりが引き立て見えるのかもしれない。ハラハラドキドキの度合としては前作の方が高かったような気はするけれど、今回のシリーズにはハラハラしつつも幾分安心して見ていられる感じがあって、その点がなによりだった。
(May 01, 2006)
ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月
ビーバン・キドロン監督/レニー・ゼルウィガー、コリン・ファレル、ヒュー・グラント/2004年/アメリカ、イギリス/DVD
前作よりもさらに──主演女優の体重が──ボリュームアップした、大ヒット・ロマンティック・コメディの続編。見た瞬間に、あらら、またずいぶんと太っちゃってと思わせるレニー・ゼルウィガーの体型がなかなかの苦笑もの。これぞプロフェッショナル。痩せている時の彼女がどんななのかを知りたくてたまらなくなる。そのうちに絶対ほかの作品も見よう。
主人公の体重は確実にアップしているのだろうけれど、作品の出来自体は残念ながら前作にはおよばない。ま、それでもそれなりには笑えるからよし。レニー・ゼルウィガー、恐るべしだ。
(May 01, 2006)
アンダー・ザ・チェリー・ムーン
プリンス監督/プリンス、クリスティン・スコット・トーマス/1986年/アメリカ/DVD
プリンス・ファンを名乗りつつも、恥ずかしながら20年間も見ることなく過ごしてきたプリンス主演映画の第二弾。この映画、驚いたことに監督もプリンス自身だ。
物語としてはジゴロの青年が大富豪の箱入り娘と恋に落ち、娘の親の権力により仲を引き裂かれるという、極めてオーソドックスな恋愛悲劇。自意識過剰なプリンスらしいアイドル映画ではあるけれど、ヒロインのクリスティン・スコット・トーマスも結構かわいいし、モノクロ映画にしたおかげで、プリンス独特のアクの強さが緩和されて、意外と悪くない出来になっていると思う(もしかしてそう思うのは、続けて『グラフィティ・ブリッジ』を見ちゃったあとだからかもしれないけれど)。それに誰がなんと言おうと、ここで聴ける音楽だけはまちがいなくこの時代の最高峰だ。
ちなみにC・S・トーマスという女性は『フォー・ウェディング』にクレジットされているけれど、あの映画でどんな役を演じていたのか、まったく記憶にない。彼女はその後、『イングリッシュ・ペイシェント』(僕は未見)でアカデミー賞の主演女優賞にノミネートされたりもしている。残念ながら受賞は逃してしまったようだけれど、この手の企画ものの映画でデビューした人は比較的短命に終わってしまうことが多いような気がするので、彼女がその後消えてしまうことなく、アカデミー賞を狙えるほどの女優に成長したという事実はなんとなく嬉しい。プリンスの恋人役を演じたというだけで、彼のファンの一人として、親近感をおぼえずにはいられないからだろう。
(May 01, 2006)
グラフィティ・ブリッジ
プリンス監督/プリンス、モーリス・デイ/1990年/アメリカ/DVD
これまたプリンス監督・主演の音楽映画。『パープル・レイン』のストレートな続編なのだけれど、残念ながらこれはちょっと……。
欠点のひとつはヒロインの人選だと思う。あくまで僕個人の趣味かもしれないけれど──といいつつ結局彼女が『アンダー・ザ・チェリー・ムーン』のクリスティン・スコット・トーマスと違って、この作品一本で姿を消してしまっているのを考えると、そんなこともないと思うのだけれど──、イングリッド・チャベス(Ingrid Chavez)という女性に、謎めいたミューズ風のヒロイン役を演じさせるのは無理がある。なんでこの人がヒロインなのかよくわからない。当時のプリンスのガール・フレンドだったんだろうか。アルバムを一枚出しているようだから、もしかしたら音楽センス的には人を惹きつけるものがあって、それがプリンスの眼を曇らせたのかもしれない。
とにかくあまりに彼女が垢抜けないために、ヒロインの神秘性を強調したシナリオが浮きまくっている。モーリス・デイをコミック・リリーフにしたユーモラスなシーンも空回り気味だし、見ていて居心地が悪くなってしまうようなシーンだらけの映画だ。せっかくの素晴らしい音楽も──おなじみのザ・タイムだけではなく、ジョージ・クリントン、メイヴィス・ステイプルズ、テヴィン・キャンベルといった、新旧とりまぜた豪華なミュージシャンが出演している──さすがに映画自体の出来の悪さを救うことはできない。残念ながら失敗作だと思う。
(May 01, 2006)
宇宙戦争
スティーヴン・スピルバーグ監督/トム・クルーズ、ダコタ・ファニング/2005年/アメリカ/DVD
H・G・ウェルズ原作の古典SF映画のスピルバーグによるリメイク。トム・クルーズ演じる主人公が、幼い娘を連れて、突然やってきたエイリアンの攻撃から逃げ惑う姿を描いている。
物語の知名度が高すぎる作品のリメイクであるがゆえの弱点だろうか。随所に説明不足なところがあって、首をかしげたくなることがしばしばだった。
たとえば、最初は問答無用で人々を灰にしていた宇宙人が、どうして途中から人間を捕獲し始めるのかとか。突然生え出した赤いツタはいったいなんなのかとか。トム・クルーズ演じる主人公のティム・ロビンスに対する仕打ちとか。そしてあまりにあっけないエイリアンの末路とか。それぞれ原作を読んでみれば、ああなるほどというシーンなのだけれど、原作を知らない人間にとっては、なんだかどれも唐突な印象が強すぎると思った。
僕は原作を読んだことがなく、52年版の映画も見たことがない状態でこの映画を見てしまったので、なんだかすごいいい加減な話に思えて仕方なかった。で、とりあえず映画の出来について書く前に原作を読んでみることにした。すると読んでみたところで、ある程度納得はいくようになった。それぞれのシーンの意味が初めて飲み込めたからだ。たとえばラスト近くでトライポッドに鳥がとまるシーンがあって、とても不自然に感じたものだけれど、あれなんかもおそらく原作のシーンを踏襲しているのだろうと、読んだ人間ならばわかる。でも本来、映画ってそういうものではないはずだ。何も知らないで見てもきちんと理解でき、納得できるようでないと。
ということでこの映画は、あまり誉められる出来ではないと思う。特にエイリアンの負け方が原作のまんまというのがペケ。ウェルズが物語を書いた時代ならばともかく、地球人がすでに月を訪れて四半世紀を過ぎた今、ああいう滅び方にはまったく説得力がない。子供だましにもほどがある。もっとそれなりに納得のいく仕様変更を加えないと仕方がないだろう。それだったらば、まだ『マーズ・アタック!』の馬鹿馬鹿しいオチの方がマシに思えてしまう。
宇宙人の不条理な侵略を、迎え撃つ政府や軍の立場から描いて見せ、娯楽大作に仕立てたのが『インディペンデンス・デイ』だった。スピルバーグは同じテーマを、ウェルズの原作の一人称のスタイルを踏襲して、市井の一市民の姿のみを通じて描くことで、パニック映画として演出してみせた。そのこと自体は素晴らしいと思うし、それゆえに興味を引かれた作品でもあったので、結果としての出来がいまひとつなのが残念だった。どうせならば、余計な解決方法は用意せずに、ヒッチコックの『鳥』のような結末にしていれば、パニック映画としてもっと格が上になったような気がしてならない。
(May 07, 2006)
アリーmy Love ファースト・シーズン
デイヴィッド・E・ケリー制作・脚本/キャリスタ・フロックハート/1997年/アメリカ/DVD
幼なじみで恋人だったビリー(ギル・ベローズ)と別れて数年。勤めていた法律事務所をセクハラで辞めたアリー・マクビール(キャリスタ・フロックハート)は、学生時代の同級生リチャード・フィッシュ(グレッグ・ジャーマン)とばったり出会い、彼の事務所にスカウトされる。ところがそこではビリーが働いていて、彼にはジョージア(コートニー・ソーン=スミス)という妻までいたから、さあ大変。変人そろいの法律事務所でのアリーの多難な毎日を描いた法廷ロマンティック・コメディ。DVDボックスにはファースト・シーズンの全23話と、『ザ・プラクティス』というドラマ(脚本家が同じデイヴィッド・E・ケリー)にアリーがゲスト出演した一話、計24話が収録されている。
キャリスタ・フロックハートという人はルックス的にはあまり好みではないのだけれど、すらりとした彼女がしかめ面をして首をかしげているパッケージがキュートだったので、つい見てみたくなってしまった。おまけに基本的に法廷劇好きなもので。
で、見てみれば、これが5年も続いただけのことはあって、なかなか楽しいドラマだった。アリーのルックスや性格には第一印象のままそれほど惹かれなかったけれど、それでもまわりを囲むキャラクターが個性的で、最後まで飽きさせなかった。特に事務所の経営者コンビ、堂々俗物に徹するリチャードと内気な切れ者ジョン・ケイジ(ピーター・マクニコル)がいい。ビリーのキャラクターに面白味がないところを彼らが補っている。
(May 07, 2006)
ナチュラル・ボーン・キラーズ
オリヴァー・ストーン監督/ウディ・ハレルソン、ジュリエット・ルイス/1994年/アメリカ/BS録画
90年版ボニーとクライドともいうべき殺人鬼カップル、ミッキー&マロリー・ノックスの血みどろな暴挙の軌跡をたどる問題作。タランティーノが原作だそうで、なるほど、冒頭の乱闘シーンやアニメの使い方などには『キル・ビル』のプロトタイプと言えそうな雰囲気がある。
この映画、社会的な非難を覚悟した上で大胆に暴力シーンを描いてみせる一方で、映像表現の上でもさまざまな挑戦を試みている。随所に無関係な動植物のドキュメンタリー映像をインサートしたり、アニメやモノクロのシーンを多用したり。主人公二人の出逢うシーンなんてシットコム──「シチュエーション・コメディ」の略で、なかでも『奥さまは魔女』のたぐいの、観客の笑い声が入るタイプのテレビドラマをこう呼ぶらしい──仕立てになっている。ありとあらゆる映像表現を取り入れようとしたみたいだ。
ただ、そうした挑戦が結果として上手くいっているとはあまり思えない。シーンがコマ切れにされ過ぎていて、見ていて落ち着けない。サブリミナル効果で洗脳されそうな居心地の悪さがあるというか……。かなりインパクトのある作品なのけれど、手放しに好感がもてる映画とは言いにくい。
有名どころでは、アコギなテレビ・リポーター役でロバート・ダウニー・ジュニアが、胡散臭い刑務所所長役でトミー・リー・ジョーンズが出演している。後者の冴えない役作りがなかなか見事だ。
(May 13, 2006)
アウト・オブ・サイト
スティーヴン・ソダーバーグ監督/ジョージ・クルーニー、ジェニファー・ロペス/1998年/アメリカ/DVD
200件を超える銀行強盗の経歴のあるジャック・フォーリー(ジョージ・クルーニー)と、彼を捕まえようとするFBI捜査官のカレン・シスコ(ジェニファー・ロペス)が主人公の、ロマンティック・コメディの要素をたっぷりと盛りこんだクライム・ムービー。『セックスと嘘とビデオテープ』で鮮烈なデビューを飾ったあと、鳴かず飛ばずだったソダーバーグが、その後のヒットメーカーとして地位を確立することになった一編だそうだ。
なるほど、適度なユーモアと軽快なストーリー、美男美女のカップルと、売れる要素は満点。僕には無縁の単なるポップ・シンガーだと思っていたジェニファー・ロペスが、意外に演技が上手くて可愛いのにも驚いた。日本だと歌も演技もなんて女性は、たいていどちらも中途半端で終わってしまうものだけれど、そこはエンターテイメントの本場アメリカ、やっぱりタレントの質が違うらしい。おみそれしました。
それにしても、この
(May 14, 2006)
ソウル・フード
ジョージ・ティルマン・ジュニア監督/ヴァネッサ・L・ウィリアムズ、ヴィヴィカ・A・フォックス/1997年/アメリカ/DVD
日曜日にはお祖母ちゃんのうちに集まって、ソウル・フードの食卓を囲むのが習慣となっている黒人一家の話。中心人物だったビッグ・ママ──『レディ・キラーズ』のイルマ・P・ホール──が重病で入院してしまったことにより、問題を抱えていた一家の三姉妹の仲はバラバラになってしまう。もとのファミリーを取り戻そうと、次女の息子で小学生のアマッド(ブランドン・ハモンド)が一計をめぐらすのだった。
『ハンナとその姉妹』を黒人版人情話にしたみたいな作品だった。でも残念ながら、あちらほどの奥行きは感じられない。悪くはないけれど、それほど突出したところもない印象だった。ベビーフェイスが製作総指揮を担当、自らもちょい役で出演して、バンド・メンバーの一人として、ステージでベースを弾いている。
長女役は、『アウト・オブ・サイト』のジェニファー・ロペスとおなじく、歌手としても活躍しているヴァネッサ・ウィリアムズ。次女役のヴィヴィカ・A・フォックスは『インディペンデンス・デイ』でウィル・スミスの奥さん役を演じたり、『キル・ビル』にも出演していたりする。おそらく最初にユマ・サーマンと乱闘している人だろう。
三女の前科持ちの旦那役が『クロッカーズ』のメキー・ファイファー。彼は年中こんなチンピラ系の役ばっかりだと思って調べてみたら、ここしばらくは『ER』にレギュラー出演しているらしい。活躍しているようで、なによりだ。
(May 20, 2006)
アメリカン・ビューティー
サム・メンデス監督/ケヴィン・スペイシー、アネット・ベニング/1999年/アメリカ/DVD
なんとも言葉に困る映画だった。よくこれにオスカーをあげたものだと、アカデミー賞選考委員の思いがけない大胆さにちょっぴり感心した。
とにかくのっけから、ケヴィン・スペイシー演じる主人公の「一日の生活で最高の瞬間は朝起きてシャワーを浴びながらオナニーしている時だ」なんてナレーションつきの実演シーンを見せられるんだから困ってしまう。オープニングで彼の高校生の娘ジェーン(ゾーラ・バーチ)が彼のことを最低と言っていた理由がわかるというかなんというか……。奥さんは奥さんで変な顔の不動産王──『セックスと嘘とビデオテープ』に出ていた人だ。十年以上前に一度見ただけの映画だけれど、あの顔はそうそう忘れない──と簡単に浮気しちゃうし。
ささやかでみっともない出来事の積み重ねが、ありふれた中流家庭を崩壊させてゆき、偶然のめぐりあわせが、思いがけない悲劇を招きよせる。そこにはある種の自虐的なユーモアとシニシズムが感じられはした。でも途中まではあまり見ていて気持ちのいい話ではなかった。
ところが終盤になって、それまで作品全体を支配していたある種のぶざまさが、思いがけない
おそらくそれらすべての相乗効果だろう。なんだかなあと思って見ていたこの映画は、前半のさえない印象が嘘みたいな、あと味のよさを残して終わる。決して大好きだとは言わないけれど、一見の価値のある映画には違いない。
ちなみにこの映画、主人公のナレーションの使い方が、思いっきりビリー・ワイルダーの『サンセット大通り』のスタイルを踏襲している。あの作品も見ていて困ってしまうような傑作だったけれど、もしかしたら意図的に同じ路線を狙ったのかなという気がした。だとしたらば、それはそれで実に見事だ。
(May 20, 2006)
アスファルト・ジャングル
ジョン・ヒューストン監督/サム・ジャッフェ、スターリング・ヘイドン/1950年/アメリカ/DVD
『マルタの鷹』『黄金』のジョン・ヒューストン監督によるギャング映画の古典。ただしギャング映画というと、どちらかというと『ゴットファーザー』のような作品を想像してしまうので、間違いのないように言えば、『オーシャンズ11』や『スコア』の元祖といった感じのケイパー・ムービー(強盗映画)だ。傑作との呼び声が高いし、ブレイク直前のマリリン・モンローが出ているというし、映画の一シーンをイラスト化したレトロなパッケージ・デザインも気に入ったので、いずれ見ようと思っていた映画だった。
物語は、刑務所から出たばかりの天才プランナーが、仲間を集めて大仕事に打って出る、というもの。仲間の内訳は金庫破りにドライバーに用心棒、それに出資者の悪徳弁護士といったところ。僕にとってはミステリ作家ドナルド・E・ウェストレイクのドートマンダー・シリーズから笑いをのぞいたような作品だという形容が一番ぴったりくる内容だった。どっちかと言えば、あのシリーズの方こそが、この手の映画や小説をベースにしたパロディなんじゃないかという気がするけれど。
なにはともあれ、同じジャンルの後続作品とはちがって、お気楽ではない展開が特徴の、なかなか渋い映画だった。
(May 25, 2006)
ミーン・ストリート
マーティン・スコセッシ監督/ハーベイ・カイテル、ロバート・デ・ニーロ/1973年/アメリカ/DVD
主人公はハーベイ・カイテル演じるイタリア系移民の青年チャーリー。彼はマフィアのボスである叔父の恩恵を受けて、働きもせずに悠々と暮らしている。近々、借金のかたとして取り上げたレストランを譲り受ける話が持ち上がったりもしている。
デ・ニーロが演じるのはチャーリーの親友ジョニー・ボーイ。後ろ盾のいないこっちの青年は、ギャンブルの借金で首の回らない、だらしのない男だ。おまけに危ない真似ばかりしていて、周囲からは煙たがられている。
チャーリーはどうしてあんな奴とつきあうんだと疑問視されながらも、ジョニーとの友情を大切にしている。さらにはジョニーの従妹で、てんかんの持病があるテレサ(エイミー・ロビンソン)とは、人目を忍んで寝ていたりする。
物語はジョニーの困ったちゃんぶりがどんどんエスカレートしてゆき、ついにいはチャーリーを巻き込んで、唐突な悲劇に終わるまでを描いている。インパクトのある結末のせいか、初期のスコセッシの作品の中でも評価の高い作品だけれど、僕はあまり楽しめなかった。基本的にこの人の作品というのは、映像的な鮮明さに欠ける印象が強い。その点が、スパイク・リーやゴダールとは対照的に、僕があまりこの人の映画に惹かれない理由だったりする。音楽ファンとして親近感をおぼえているんだけれども。
それでもこの映画、リアム・ギャラガーを思い出させる雰囲気の若き日のデ・ニーロが、駄目男ぶり全開ながらも──というかそれゆえに──格好いい。驚いたことに『ゴットファーザーⅡ』はこの映画の翌年、『タクシードライバー』はさらにその2年後の作品だ。どちらもデ・ニーロの代表作にして映画界に燦然と輝く名画だけれど、この人のキャリアの上では初期の作品にあたることになる。両方とももっと売れてからの作品だろうと思っていたので、まだキャリアもそこそこの時期の作品と知って、かなりびっくりした。
(May 28, 2006)