2004年8月のサッカー
Index
- 08/01 ● 鹿島0-5FCバルセロナ
- 08/03 ○ バーレーン3-4日本 (アジアカップ準決勝)
- 08/06 ○ 中国1-3日本 (アジアカップ決勝)
- 08/12 ● U-23パラグアイ4-3U-23日本 (アテネ五輪・グループB)
- 08/15 ● U-23イタリア3-2U-23日本 (アテネ五輪・グループB)
- 08/18 ● 日本1-2アルゼンチン
- 08/18 ○ U-23ガーナ0-1U-23日本 (アテネ五輪・グループB)
鹿島アントラーズ0-5FCバルセロナ
2004年8月1日(日)/国立競技場/MXテレビ
2002年ワールドカップ以来、2年ぶりに見るロナウジーニョはなんだか一回り身体が大きくなっているようだった。そしてプレーぶりもそれに比例して凄みを増していた。わがアントラーズをこてんぱんにやっつけてなお、余力ありありというくらいに。終始にこにこしながら、ものすごいプレーを実に楽しそうにこなして見せる。ロナウジーニョのプレーからはサッカーをする喜びが満ち溢れていた。敵ながらあっぱれ。この人のいるチームを応援したくなる人の気持ちはよくわかる。もしも僕に音楽も文学もなかったとしたら、夢中で彼のプレーを追っていたかもしれない。
それにしても本当にこてんぱんにやられた。小笠原も本山も中田浩二も曽ヶ端もいないんだから、最初から勝負にはならないかもしれないとは思っていたんだ。でもここまでならないとは……。ひとつひとつのプレーの積み重ねが、思わぬ差を生み出していった。世界はまだまだ遠くにあると思った。いつの日にかロナウジーニョのようなプレーを見せてくれる日本人選手が現れることを夢見つつ、陰ながら日本サッカーを応援してゆきたいと思う。そんな日が来るのかな?
(Aug 02, 2004)
バーレーン3-4日本
アジアカップ準決勝/2004年8月3日(火)/済南/BS1
「奇跡」と並んで「死闘」という言葉も大袈裟すぎて好きじゃない。けれどこの一戦はその「死闘」という言葉をもってして形容したくなるほどタフな試合だった。なんたって先制され、不条理なレッドカードをもらって十人となった圧倒的に不利な状況から一度は逆転に成功。しかしミスから同点に追いつかれ、残り時間5分で逆転を許すという絶体絶命の状況に陥ってしまったのだから。それでもここからロスタイムで同点に追いつき、延長前半早々に玉田のゴールで勝ち越し、残り時間をなんとか凌ぎ切っての劇的勝利。ヨルダン戦のPK戦に続き、敗色濃厚、絶体絶命の状況を気合いで跳ね飛ばしてみせてくれた。本当に今の日本代表のこの異常なまでの勝負強さはどうしたわけだろう。ジーコが僕らにはわからない何かをチームにもたらしているんだろうか……。
この試合に関して言うならば、本来バーレーンはここまでの苦戦を強いられる相手ではなかったと思う。チームの中心はオリンピック出場を逃したU-23の選手たちだそうで、実際に(疲れていたのかもしれないけれど)中盤でのプレッシャーが弱く、見るからにオマーンやヨルダンよりはワンランク下の相手に思えた。おかげで日本代表はひさしぶりに序盤からいい感じでボールが回せていたし、キックオフからしばらくの間は、今大会で一番楽な試合になりそうな雰囲気だった。
ところがこの試合でもタイ戦やヨルダン戦のリプレイを見るかのように前半早々先制点を許してしまう。でもってその後、日本は攻めに攻めるものの、フィニッシュの精度を欠いて得点をあげることができない。なまじいくつもチャンスがあるだけに、得点につながらないのが嫌な感じだった。そうこうするうちに前半も残り時間が少なくなる。そうしてカウンターのチャンスに遠藤がボールを持って攻め上がったシーンで、突如レフェリーがゲームを止めて、遠藤にレッドカードを突きつけるという不可解なジャッジが下されたのだった。僕ら観客にはわけがわからなかったし、当の遠藤がきょとんとしていた。VTRで見ると、すれ違いざまに相手選手をかわそうとして振り上げた遠藤の腕が相手の顔をたたいたように見えなくもない。少なくても相手はたたかれたという演技をしたし、レフェリーの角度からはそれがリアルに見えたんだろう。困ったもんだ。
とにかく前半残り5分で遠藤が退場。日本は1点のビハインドを十人で跳ね返さなくてはいけない状況になってしまった。ジーコは即座に動いた。田中誠を下げてフォーメーションを4バックに変え、ボランチに中田浩二を投入する。さらにハーフタイムを挟んで後半開始と同時に福西を小笠原に代えた。体力的にフレッシュで攻守のバランスの取れたこの二人の投入は実に的確な選手交替だった。個人的には二人とも出来はそれほどでもないように見えたけれど、それでも後半早々、俊輔のCKから中田浩二がヘッドで同点弾をたたきこんだのだから、選手交替は成功だろう。さらにその後ちょっとで、玉田が4月のハンガリー戦以来となる代表2ゴール目を決めて一気に逆転に成功する。左サイドからドリブルで突っかけてゆき、角度のないところから思い切って決めた見事なシュートだった。
逆転に成功した日本は人数的にも少ないため、小笠原を中心とした落ち着いたボールキープで逃げ切りにかかる。そのままきちんと守り切ってくれれば小笠原の投入大成功ということで終わったのだけれど、よりによってバーレーンの同点弾はその小笠原のパスミスが原因になってしまう。中途半端な横パスをインターセプトされ、シュートまで持ち込まれてしまったのだった。そしてさらに残り時間5分で逆転ゴールまで許す始末。ああ、万事休す……。
後半の2失点は仕方ない部分もあった。なんたってこちらは一人少ないわけだし、その状態から、まずは追いつかないと話にならなかったのだから。ワンボランチにして攻めにいくのはありだろう。でもってその分、守備的に薄くなるのは当然。中二日の強行日程による疲労だって蓄積している。中三日のバーレーンが後半あれだけ消耗していたのを考えれば、日本代表の頑張りは超人的にさえ思えるくらいだ。
それにこの日許した3ゴールはどれもかなり絶妙なコースに打たれてしまっていた。バーレーンのその他のプレーのレベルと比べると、これらのゴールの精度の高さには、運に恵まれた部分がそれなりにあったのではないかと思う。延長後半の終了間際にはゴール前で二つほど、決定的な場面を作られてしまっていたけれど、それらの場面は相手のミスで難なきを得ている。ああいうのが通常のアジアのレベルだと思う。そういう意味でもバーレーンの3ゴールは出来すぎという印象があった。それに川口のセービングにもヨルダンとのPK戦の時のような切れがなかった。本当にいい時の川口ならば、あのうちの一本くらいは止めていたのではないかとも思う。
ともかく2-3と逆転された時点で、日本にそれをひっくり返すだけの余力があるとは僕にはとてもじゃないけれど思えなかった。ところがそんなことはない。日本はロスタイムにアレックスのクロスを中澤がダイビング・ヘッドで決めて同点に追いついてくれてしまう。しかもこれがパワープレーでのごり押しの結果などではなく、攻めに攻めた上でのなんとも美しいゴール・シーンだった。心から感動させてもらった。
ここまで来たらもう負けるはずがないと思った。実際にその後わずか1、2分の間に日本は決定的なチャンスを次々と作っていった。そのうちのひとつを小笠原がふかさずにきちんとゴールの枠に飛ばしていれば、日本は余計な延長戦を戦わないで済んでいたはずだ。あそこでゴールを決められないあたりが、彼が俊輔からスタメンの座を奪い取れない
延長戦はもう両チームとも消耗し切っていてヘロヘロだった。そんな中、相手DFの裏をとって、引き倒されそうになってもこらえ、GKと一対一のチャンスを見事にものにした玉田に万歳だ。そう言えばこの時間帯になってもなお前線からボールを追っていた隆行のスタミナにも敬意を表したい。彼の場合にはいいたいこともかなりあるんだけれど、この試合に関しては誰も責めたくないのでやめておく。本当にみんな、よく戦ってくれた。試合終了とともに何人もの選手がピッチに倒れこんだ。途中出場の小笠原でさえ、玉のような汗を浮かべて、苦しそうにしていた。いかにこの日の戦いがヘビーだったか、よくわかるシーンだった。本当にご苦労さまでした。
決勝戦の相手はホスト国・中国。社会問題として取り上げられるほどひどいブーイングの中でここまで上がってきた日本だ。決勝でのバッシングはさらにエスカレートするんだろう。逆境を力に変えてタイトルをもぎとって欲しいと心から思う。
(Aug 04, 2004)
中国1-3日本
アジアカップ決勝/2004年8月6日(土)/北京/BS1
前の試合でレッドカードをもらった遠藤に代えて中田浩二を起用した以外は不動のスタメン。もしも遠藤が出場停止でなければ、ジーコは間違いなくこの試合も全員同じスタメンで臨んだのだろう。不本意ながらメンバー変更を強いられたこの試合では、終始日本が優勢だったためもあり、ついに最後まで一枚の交替カードも切らなかった。ここまでくるとジーコのメンバー固定はある種の哲学だと言える。選手は90分間戦うべきだと思っているんだろう。本人が現役時代に途中交替させられるのが嫌いだったのかもしれない。
なにはともあれ、今大会を通じて、別にジーコが海外組を海外組だからといって贔屓にしていたわけじゃないのははっきりしたと思う。海外でプレーしている、していないにかかわらず、ジーコという人はベストの十一人で極力長い時間を戦うべきだというポリシーを持っているに違いない。だからたとえ疲労が心配されてもメンバーは変えない。交替選手の切れのある動きよりも、長い時間を一緒にプレーしてきた選手同士のコミュニケーションに期待する。そんな姿勢が準決勝での中澤の同点ゴールを生んだのかもしれない。
選手たちの間でもそんなジーコのやり方が(納得されたかどうかは別として)きちんと認識されたに違いない。サブのメンバーが腐らずにチームを盛り上げて、とてもいいムードを醸し出していると言われていたけれど、その一番の原因は今回のスタメンの大半が、サブの時に出場機会を得られなかった経験をしているからだろう。出られなかった選手もチャンスさえものにすれば、まわりが呆れるくらい、本人が嫌になるくらい出場し続けることになる。選手であるからには試合には出たいだろう。でも自分と同じくらい、ピッチに立っている選手だって出場機会に飢えていたのを知っていれば、サブだからって腐ってはいられなくなる。楢崎、藤田、松田といった実績のある選手たちがバックアップに甘んじてなお、あれほど大会での優勝を喜んでいたのには心を打たれた。
なにはともあれジーコ監督のサッカーは十一人を選んだ時点で九割方決まってしまうという、きわめて単純なものだ。サブのメンバーにとってはチャンスが限られてしまってもどかしいかもしれないけれど、逆に選ばれた選手たちにとってはサブの選手の分までの責任が課せられることになる。調子が悪いかろうと、疲れきっていようと、ジーコは代えてくれないのだから。スタメンに選ばれた選手は最後の最後まで最善のプレーを強いられる。
今回のチームの意外な強さは、そんな風に任されたことに対する責任感からくるものだったのではないかと思う。またジーコが標榜する自由もしかり。彼らには自分が最善だと思うプレーを選択する自由が与えられている。そして与えられた自由に対する責任を要求される。チームの感動的な粘り強さや、俊輔のFKの精度の高さなどは、勝つために選ばれた選手たちが自分たちの背負った責任を強く自覚するがゆえだったんじゃないだろうか。そんな風に思っている。
アジアカップでの6試合目となったこの決勝は、中盤でのプレスも今までよりは効いていて、終始優勢な試合内容となった。失点の場面だけはいただけなかったけれど、それ以外は危なげのない試合展開だった。セットプレーからの2得点(福西、中田浩二)と勝利を決定づけた終了間際の玉田の3点目、どれも基点となったのは俊輔だった。この大会での俊輔のキックの精度はものすごかった。日本のセットプレーがここまでの精度の高さを誇ったことはなかったんじゃないだろうか。その中心にいたのは間違いないく俊輔だった。日本の得点の大半に絡んだ彼がMVPに選ばれるのは当然なのかもしれない。けれど僕には今大会の日本の苦戦の一番の原因はボールが動いている状況での彼の存在感のなさだと思っている。なので一概に彼を褒め称える気にはなれない。
やっぱりこの大会の真のMVPは、攻守に渡って驚くべきパフォーマンスの高さを見せた中澤だろう。パワフルでクリーンなボール奪取の技術、積極的な攻撃参加とセットプレーでの強さ。彼のプレーは最高だった。
僕は今まで3バックを支持していたけれど、中澤がここまでのパフォーマンスを見せてくれて、代表に定着するということになれば、4バックでもいけるんじゃないかという気がしている。とにかく今回のチームはボール・ポゼッション率が低過ぎた。きちんとボールを回すにはディフェンダーを減らして中盤の枚数を増やさないと。今後の課題は4バックでの守備力を安定させることだと勝手に思っている。
なにはともあれ日本代表、アジアカップ二連覇おめでとう。
(Aug 08, 2004)
U-23パラグアイ4-3U-23日本
アテネオリンピック(グループB)/2004年8月12日(金)/テッサロニキ/BS1
メキシコ以来、36年ぶりとなるメダルを狙って戦うと公言して臨んだアテネ・オリンピックの緒戦は、思ってもいないミスの連発で苦杯を嘗めることになった。4失点のうち、3点までがミスから奪われたものだ。一試合の中でそんなにミスが重なるというのは、まだまだ日本のサッカーが世界レベルに達していない証拠だろう。本当に強いチームはそんなにミスはしない。逆に相手のミスを見逃さず、得点を重ねたパラグアイの強さが印象的だった。さすがに南米予選でブラジルを蹴落として本戦に進んできたチームだけのことはある。見事にしてやられてしまった。
日本のスタメンは曽ヶ端、茂庭、闘莉王、那須、徳永、阿部、今野、森崎弟、小野、大久保、高松の十一人。オーバーエイジの小野をトップ下に置く布陣だった。けれど残念ながら前半はこれが機能しない。小野のボールタッチは少なく、日本の2トップにはあまりボールが入らない。リズムが掴めないうちに那須の信じられないうようなミスから早々に先制点を許し、以降はその動揺から慌てふためいてどたばたしてしまった印象だった。PKをもらって一度は追いついたものの、その直後にペナルティ・エリア付近で徳永がファールをとられ、このFKから2点目を奪われ、さらに那須のこの日二つ目の致命的なミスから3点目を献上する。犯したミスがことごとく失点に結びつく悲惨な展開。
後半になって山本監督は那須を下げて松井大輔を投入。阿部をディフェンスラインに、小野をボランチに下げ、トップ下に松井というフォーメーションをとる。キャプテンマークを託した那須を下げるのは山本さんとしても忍びなかっただろうけれど、2点ビハインドの状態では致し方なかった。とりあえずこの交替が功を奏して、後半の立ち上がりは日本の攻勢。小野を基点にしてボールが回せるようになる。そして高松が(幸運にも)得たこの日二つ目のPKを、小野が二度目も落ち着いて決めて一点差に追い上げる。
けれどこの日は負けるべくして負ける運命だったんだろう。4点目の失点は小野のミスパスをカットされてのものだった。タックルにいった阿部もかわされ、フリーでミドルを叩き込まれる。ミスを重ねた日本と、そこから得たチャンスを積極的なシュートで得点に結びつけたパラグアイ。チーム力の差はあきらかだった。
二点を追う山本さんはその後、森崎に代えて田中達也、高松に代えて平山を投入してパラグアイに食い下がる。そして田中のがんばりから大久保へとパスがつながり、この日初めての流れの中からの得点で3点目を奪取。終盤になって動きの落ちた相手に対して、最後まで諦めずに攻撃を仕掛けていった。けれど結局追いつくことができずに試合終了。痛い痛い一敗を喫した。
これで次のイタリア(なんてこった)に負ければ早々とグループ・リーグでの敗退が決まってしまう状況となってしまった。でもこんなところで帰れないだろう。歯を食いしばって、一勝をもぎ取って欲しい。
(Aug 15, 2004)
U-23イタリア3-2U-23日本
アテネオリンピック(グループB)/2004年8月15日(日)/ボロス/NHK
格上の相手に勝つには、なによりもまず失点を許さないことだ。マイアミの奇跡だって、日韓ワールドカップのグループリーグ突破だって、安定したディフェンス力があったからこそだ。それが初戦のパラグアイ戦では4失点、この試合も開始10分で2点を失うようでは万事休す。山本さんはチーム作りの基礎が間違っていたんじゃないかと思う。結局ディフェンスに限らず、このチームからはどうやって戦うというコンセプトがまるで見えてこなかったから。
この試合で一番悔いが残るのはディフェンスラインを4バックにしたことだ(第一戦でミスを連発した那須を外し、徳永と駒野を両サイドに起用してきた)。今までずっと3バックで戦ってきたと言うのに、なんでこの大事な試合でそれを変えてしまうんだ。イタリアの両サイドを警戒したというのが山本さんの言い分だけれど、だとしたらなおさらなおさら4バックじゃ駄目だろう。3バックのままで両サイドの選手を守備力の高い選手に代えるのが常道。右にはディフェンス力の高い徳永を起用しているから問題ない。あとは左の森崎を駒野と代えるだけでオーケーじゃないか。それで5バック気味になったとしてもそれはそれ。まずはディフェンスありき。守れずに勝てるはずがない。ましてや付け焼刃の4バックで強豪イタリアの攻撃がしのげるはずがない。試合開始前に4-3-3だと聞いて大丈夫かと心配したんだ。案の定、駄目だった。あぁ。
いかんせん、このチームは完成度が低過ぎた。トルシエのチーム運営を踏襲した山本さんが最後まで選手を固定せずに選考を繰り返したためだ。その象徴がOA枠で参加し、一度も実戦を戦わないまま本番のピッチに立った小野だろう。彼の起用には必然性が感じられなかった。チームに足りない部分を補おうという戦術面より、使ってみたい、出させてあげたいという感情論で起用した印象を受けた。本当にチームに足りない部分をOAで補うつもりならば、必要だったのはボランチやトップ下のオプションよりも右サイドのスペシャリストだろう。大久保という素晴らしいFWがいるというのに、最後まで高原の招集にこだわったのもおかしい。GKだって実力だけで選ぶならばA代表との兼ね合いがあるとはいえ、現状の曽ヶ端よりも川口か楢崎のどちらかを呼ぶべきだった。こうしたOA枠の選考基準のあやふやさが山本さんの戦術的な未成熟さを証明していると思う。
トルシエが結局最後まで選手選考を繰り返してスタメンを固定しなかったことを批判してきた僕としては(彼の場合は性格に対する不満も大きかったけれど)、山本さんはそのトルシエの一番悪い部分を踏襲してしまったように思えてならない。選手間の競争心を煽ってチーム力を高めるとかいうけれど、そうやっていつまでの選手選考を繰り返したことで、チームのコンビネーションが成熟することはなくなり、もとよりリーダーシップに欠けるといわれたチームがますます結束力を欠くことになってしまったように思われる。世間の非難を浴びるほどの
そしてまた彼は日本の実力を過信していたのだろう。確かに個々の選手の技術力はとても高くなった(ことトラップに関してはこの世代は歴代日本代表で一番上手いと思う)。けれどそうした基礎技術だけではサッカーは勝てない。一番いい例が松井だ。彼ほどの技術がありながら(この試合ではスタメンだったけれど)代表でもクラブでもレギュラーを確保しきれないというあたりに、技術を超えたプラスアルファの必要性を強く感じる。ボールを蹴ったり受けたりという基本技術だけではない、勝つための技術というものが必要なんじゃないだろうか。それはなにと問われると困るけれど。
とにかくそんな風に実績のない選手たちを最後まで入れ替え続け、最良の形を模索したあげくに結局完成形を提示できないまま本番に送り出してしまったこと。それが山本さんの一番の功罪だと思う。谷間の世代と言われた選手たちだったからこそ、早いうちにコアとなるメンバーを固定して、より多くの実績を積ませてあげるべきだったんじゃないか。そうやってチームの完成度を高めてさえいれば、また違った結果が見られたのではないかと思わずにはいられない。
とにかく日本代表はメダルを狙うといいながら2連敗を喫し、グループリーグ敗退一番乗りという不本意な結果でこの大会を終えることになった。消化試合となってしまった最後のガーナ戦でこのチームはいったいどんなサッカーを見せてくれるのだろう?
(Aug 18, 2004)
日本1-2アルゼンチン
2004年8月18日(水)/静岡スタジアム・エコバ/TBS
アジアカップ優勝から二週間足らず。今の日本の実力を測るにはもってこいのアルゼンチン戦だった。来日したメンバーは主力を欠いたものの、それでも強豪は強豪。いいプレーを見せてレギュラーに食い込みたいと思う選手ばかりだから、モチベーションも高い。中盤からのディフェンスの意識がとても高く、思うようなサッカーをさせてもらえなかった。しかも前半5分にもならないうちに、加地のイージー・ミス(DF三人がお見合いをしてしまった形だけれど、一番ボールの近くにいた彼の消極性が生んだミスだと思う)から失点。セーフティにクリアしておけばなんの問題もないところで不要な
前半のメンバーはアジアカップ決勝のメンバーを中心に、俊輔を小笠原に、川口を楢崎に入れ替えただけだった。小笠原は結局俊輔を脅かすようなプレーはできていなかった。後半途中に本山と交替でピッチを退いたのがその証拠だ。残念無念。
この試合でおもしろかったのは後半。ジーコは最初からメンバーを変えてくる。田中を下げて4バックというのはこれまでもあったパターンだからわかるのだけれど、一緒に中澤を松田に代えてきたのは驚きだった。僕はアジアカップの活躍で当分中澤のレギュラーは確定だと思っていたのに……。ジーコの考えることはよくわからない。ま、松田は日本の最終ラインに欠かせない人材なので、この機会にどれくらいできるか試しておきたかったということなのだろう。
ともかく4バックにして藤田を投入したことで、後半はボールのキープ率が高まり、幾分いい感じで試合を運べていたように思う。その後もジーコはガンガン交替のカードを切ってくる。福西→遠藤、オガサ→本山、玉田→山田卓也。結局フィールドプレーヤーの半分を入れ替えている。本番と親善試合じゃえらい違いだ(ま、負けていたせいもあるんだろうけれど)。アジアカップで出番がなかった選手へのサービスだったのかもしれない。
ともかく後半は相手の疲れもあってそれなりにボールを回せるようにはなったものの、それでもフィニッシュまでは遠かった。全然得点できそうな雰囲気がなかった。
そんな中でアレックスのCKから鈴木がヘッドで決めて1点は返したのには感心してしまう。日本代表のセットプレーは俊輔抜きでも、強豪アルゼンチン相手でも通用するのか。いやいや、お見事だった。やはりスコアレスで負けるのと1点とるのとではすごく違う。この1点は気分的にでかかった。
(Aug 18, 2004)
U-23ガーナ0-1U-23日本
アテネオリンピック(グループB)/2004年8月18日(水)/ボロス/BS1
オリンピック最後の試合、山本さんは前の試合で故障した徳永に替えてようやく石川を右サイドに起用してきた。左サイドは森崎じゃなく駒野。この大会敗退の原因となってしまった那須も起用せず、阿部を最終ラインの右に回し、でもってボランチの位置にはなんと菊地を起用してきた。今までの親善試合でたった一度しかボランチで起用しなかった菊地を本番でボランチ起用とは……。確かに選手のユーティリティの高さを重視しての選考だったから、一概にそれを悪いとはいわないけれど(実際に彼のボランチとしてのプレーはかなりのものだった)、でもこんな采配では、山本さんのユーティリティ重視は、結局戦術眼の不安定さの裏返しでしかないように思えてしまう。こうやって戦うという明確なビジョンがないから、選手をさかんに入れ替えないではいられなかったんじゃないかという……。最後の最後にこういう成熟度の低いフォーメーションで戦うことを選んでしまうというのは、指揮官としてまずいと僕は思う。ジーコのスタメン固定に対する非難は多いけれど、その反対の山本さんのこうしたやり方に対する批判が少ないのが不思議で仕方ない。それはやはり新しいもの好きな日本人の国民性なんだろうか。なんだかなあと思う。
なんにしろこの日のスタメンによって、この大会で選手登録されたフィールド・プレーヤーは全員ピッチに立ったことになるんだそうだ。ま、疲労度を考えれば、できるだけ選手を入れ替えながら戦うのが理想かもしれない。けれどわずか3試合でその全員を使う必要性が僕には見いだせない。そもそも入れ替え可能な選手と不可能な選手の違いはどこにあるんだと思う。体力のあるない? 本当にそうかいと思わずにいられない。とにかくいざという危急の場合に備えてユーティリティ・プレーヤーばかりを揃えた結果、どこでも守れる選手の多さからここはこの人という決め事が曖昧になってしまい、連係が高まることもないままに本番に臨んで玉砕してしまったというのが今回のオリンピックの印象だった。
ま、この試合では前の二試合ように失点を重ねることもなく。攻撃では菊地(!)からのロングボールに大久保が頭であわせてループで決めた虎の子の一点を守りきって、日本は勝ち点3をあげて大会を終了した。モチベーションでは勝てば決勝トーナメント進出が決まるガーナの方が高いはずなのに、結果はなんとも危なげのない日本の勝利だった。
パラグアイに勝っている相手にこういう勝ち方ができるんだから、ちゃんと戦っていれば決勝トーナメント進出は別に高望みじゃなかったはずだ。実際、同じグループのもう一試合ではイタリアがパラグアイに敗れ、ガーナとの得失点の差でかろうじて決勝進出を決めている。それはつまり(結果論ではあるけれど)パラグアイかイタリアとの試合のどちらかで日本がもう一点だけ取って引き分けていれば、総得点で日本がイタリアとガーナを上回って決勝トーナメントへ進出できていたということを意味する。二連敗でグループリーグ敗退が決まってしまったので悪い印象しかなかったけれど、最終的には日本が負けたニチームのうち、パラグアイが決勝へ、イタリアが準決勝まで駒を進めているのを考えると、決して今回の日本代表がそれほどひどい出来だったとは思えない。ただ運がなかった。そして僕にはその運のなさを招いたのは山本さんの定まらないチーム作りの方針にあった気がしてならない。
とにかくアテネオリンピック・チームの戦いはこの試合で終わった。前の世代と比べられて評価の低いチームではあったけれど、僕はこのチームには将来が期待できる、才能がある選手が揃っていたと思う。みんなここでの悔しさをドイツで晴らすべく精進して欲しいと心から思っている。ま、そのためにはまず十月のオマーン戦にA代表が勝ってくれないと話にならないのだけれど。
(Aug 27, 2004)