2025年1月の本

Index

  1. 『クリスマスの殺人』 アガサ・クリスティー
  2. 『マルドゥック・アノニマス2』 冲方丁
  3. 『薬屋のひとりごと10』 日向夏
  4. 『薬屋のひとりごと11』 日向夏

クリスマスの殺人

アガサ・クリスティー/深町眞理子・他訳/早川書房

クリスマスの殺人 クリスティー傑作選

 クリスティー完読プロジェクト締めの一冊。
 もともとは2020年にアメリカで刊行された企画ものの短編集で、日本では翌年に箱入りの特製単行本として刊行された。
 Kindle版も出ているけれど、買うならここはやっぱ箱入りの特装版でしょう?――ということで、クリスティーの全作品を電子書籍のKindle版で読んできたので、最後にこれを紙で読んで企画を締めることにした。
 刊行から一年後の2022年には『アガサ・クリスティー完全攻略』の霜月蒼氏による解説が追加された改訂版が出ているのだけれど、そちらは箱のデザインが赤に変更されている。僕は青いほうが好みだったので、あえて古いほうを買った。解説がないのは残念だけれど、でもわざわざ紙の本を買うのだから、悩みつつも装丁を重視した。
 日本では『クリスマスの殺人』というタイトルだけれど、原題は『Midwinter Murder』(真冬の殺人)で、その名の通り、冬やバカンスシーズンを舞台にした短編を集めたもの。ポアロ、ミス・マープル、トミーとタペンス、パーカー・パインにミスター・クインと、クリスティーの生み出した主要キャラが勢揃いした楽しい一冊だ。調べてみたら、アメリカではその後、春・夏・秋をテーマにした続編も刊行されている。残念ながら日本ではそれらの刊行予定はないらしい。
 各短編はそれぞれが収録された短編集からの転載で、新訳ではないから、つまりすべて再読になる。それなのに大半の話をすでに忘れていたので、けっこう新鮮な気分で読めてしまった。記憶力がない人生も意外と楽しいかも。
 本当は去年のうちに感想を書いて終えるつもりだったのに、年末に体調を崩したせいで、不覚にも年をまたいでしまったけれども、これにてクリスティー完読プロジェクトも本当に終了。
(Jan. 20, 2025)

マルドゥック・アノニマス2

冲方丁/ハヤカワ文庫JA/Kindle

マルドゥック・アノニマス 2 (ハヤカワ文庫JA)

 前作を読んでから半年以上あいだがあいてしまったのが敗因。クインテットのメンバーがハンターとラスティしか記憶にない。さらにはこの本も読み終えてから一か月近く放置してしまったせいで、ディテールの記憶が……。
 前作の最後にクインテットと対決したライバルチームの面々がクインテットの仲間となり、クインテット――増員したらもう「クインテット」ではないのではないかと思うんだけれど――はハンターの指揮のもと、マルドゥックの裏社会の覇権を得るべく、既存勢力の四大組織の牙城を崩しにかかる。
 ということで、今回はほぼすべてクインテットの立身出世の話。途中でウフコックがパロットとつかのま憩いのときを過ごすシーンこそあるけれど、あとはずっとクインテットがいかにして新興勢力としてマルドゥックの裏社会でその存在を知らしめてゆくかが描かれてゆく。
 ハンターは自分たちに異能――ヒロアカの「個性」みたいにこの作品特有の呼び方があったはずだけれど忘れた――を授けた謎の権力者の正体を突き止め、彼らの能力のメンテナンスを担う「ホスピタル」を手中に収めてと、着々とその歩みを進めてゆく。
 いやしかし。ただでさえ登場人物が多い作品なのに、新たな敵対組織が四つも出てきたことで、二巻目にしてすでにもう誰が誰だかって感じになりつつある。この作品はあまりあいだを置かずに、さっさとつづきを読まないと駄目みたいだ。
 今年は二ヵ月に一冊くらいのペースで読み進めていきたい。
(Jan. 22, 2025)

薬屋のひとりごと10

日向夏/ヒーロー文庫/主婦の友社/Kindle

薬屋のひとりごと 10 (ヒーロー文庫)

 こちらの薬屋さんもおよそ半年ぶりの続編。
 壬氏(ジンシ)とともに西都へと到着した猫猫(マオマオ)たちが、ついに懸念していた蝗害{こうがい}(バッタの大量発生による大被害)に巻き込まれることになる。
 五巻で初めて話題にあがった蝗害がついに発生!
 まさかこの話題をここまでひっぱるとは思わなかった。アニメ化したらワンクールに収まらなくて大変そう……とかいらぬ心配をしたくなる。
 キャラでは前作で初登場した雀(チュエ)さんがひきつづき大活躍。この人のくどさにもようやく慣れてきた。また、農業方面の才能を買われて旅に同行してきた羅半兄――変人軍師・羅漢の養子・羅半(つまり猫猫にとっては義理の兄)の実兄(ややこしい)――が意外な存在感を発揮している。
 でもこの人がなぜか誰にも名前を覚えてもらえず、ずっと「羅半兄」と呼ばれているのは、ギャグにしても、ややくどいと思う。
 今回は表紙の猫猫が凛々しくてカッコいい。ラノベ版の表紙のイラストでは一、二巻につぐお気に入り。デジタル版だから大型のタブレットを使えばこの美麗なイラストを文庫本よりも大きなサイズで楽しめるのも嬉しい。
(Jan. 25, 2025)

薬屋のひとりごと11

日向夏/ヒーロー文庫/主婦の友社/Kindle

薬屋のひとりごと 11 (ヒーロー文庫)

 前回で発生した蝗害{こうがい}の後始末が気になって、つづけて読んだ『薬屋のひとりごと』の第十一集。
 西都をあずかる玉鶯(ギョクオウ――玉葉妃の兄)が隣国の砂欧(シャオウ)に対して戦争を仕掛けようと画策するというのが今回の大事件で、彼に利用されて進退窮まった壬氏(ジンシ)がいかにしてこのピンチを乗り切るかというのがクライマックスなのだけれど、そこには思わぬ結末が待っていた。
 猫猫(マオマオ)とともに表紙を飾っているのは、元変人軍師の部下だった陸孫(リクソン)。西都の領主・玉袁(ギョクエン――玉葉の父)が上京する際に、彼の代理として西都へと使わされた彼が、なにゆえ今回の表紙?――と思っていたら、実はこの人が今作の最重要キャラだった。
 かつての子翠といい、今回の陸孫といい、モブだと思っていたキャラがじつは……というサプライズを仕掛けるのがこの作者の好みらしい。
 なんにしろ、なぜに羅漢の部下の陸孫が玉袁の命令で西都へ使わされたのかはちょっとした疑問だったので、今回きちんとその辺の理由がわかってよかった。そうやって伏線だとも思っていなかった伏線を、数巻をまたいできっちりと回収して見せる手波はなかなか見事だ。
 ちなみにこれは去年の大みそかに読んだ本。これにてようやく去年からの積み残しが片づいた。
(Jan. 27, 2025)