2024年11月の本

Index

  1. 『犬物語』 ジャック・ロンドン
  2. 『ポアロとグリーンショアの阿房宮』 アガサ・クリスティー

犬物語

ジャック・ロンドン/柴田元幸・訳/柴田元幸翻訳叢書/スイッチ・パブリッシング

犬物語 (柴田元幸翻訳叢書―ジャック・ロンドン)

 柴田元幸翻訳叢書――ずっと「ごうしょ」と読むんだと思っていたら「そうしょ」だった(いい年をして漢字が読めない男)――のジャック・ロンドンの二冊目。
 内容はタイトル通り、犬にまつわる短編三編と、代表作『野生の呼び声』、あと『火を熾す』の別バージョン(これだけは犬が出てこない)を収録したもの。
 前作『火を熾す』がめちゃくちゃよかったので、これも期待大だったのだけど、犬にフォーカスしたのがあだとなり、前作ほどのインパクトは受けなかった。やっぱ小説の主役は人間がいい(個人的な趣味の話)。
 とはいえ、端正な文体でつづられる各編はそれぞれに違ったカラーを持っていて、犬の話とひとくくりにまとめるのはどうなんだという出来映え。
 どこからか流れ着いた大型犬を引き取って溺愛する夫婦の話『ブラウン・ウルフ』、悪魔のような猛犬にまつわる逸話『バタール』、男たちがミステリアスな悪犬に翻弄されるひねりの効いた『あのスポット』、そして名犬バックの数奇な生涯を描く、犬版の貴種流離譚ともいうべき『野生の呼び声』。
 ジャック・ロンドンが描く犬たちは、どれもタフで強くて崇高でミステリアスだ。それぞれに違った魅力があって、小説としての質の高さには異論がない。作品としては間違いなくおもしろい。
 ただ、日常生活で仕事に悩まされながら、犬とはあまり縁のない生活を送ってる凡人には、犬への敬愛あふれるこれらの作品の熱量をすんなりとは受け入れきれなかったかなと。そんな感じの一冊。
(Nov. 09, 2024)

ポアロとグリーンショアの阿房宮

アガサ・クリスティー/羽田詩津子・訳/クリスティー文庫/早川書房/Kindle

ポアロとグリーンショアの阿房宮 名探偵ポアロ (クリスティー文庫)

 早川書房のクリスティー文庫に収録された、アガサ・クリスティー名義の最後の一冊。
 ほかにも『アガサ・クリスティー百科事典』とか、補記的な編集物のおまけが二、三冊あるけれど、そんなものを読んでいる暇があるならば、たまりにたまった積読をどうにかすべきだと思うので、それらは当面保留。ということで、これにて僕のクリスティー読破計画はようかくコンプリートということになる。いやぁ、長かった。
 この作品は2014年に未発表作品として刊行されたもの。もともとクリスティーが五十年代に地元の教会のチャリティー用に書いた中編で、のちに長編小説として書き改められて『死者のあやまち』として発表されたという。
 ということで、内容はほぼ『死者のあやまち』と同じ――らしい(もうよく覚えていない)。自分の書いたその本の感想には、あまりいいことが書いてないけれど、これはそこそこおもしろかったから、どうも読んだタイミングがよくなかったんだろう。
 まぁ、今作にしても文庫本にして176ページしかないのに、読み終えるのに二週間半もかかっているので、あまりちゃんと読めたわけではないんだけれども(毎日寝落ちしてばかりいたので、冒頭に収録された二本の献辞がいつまでたっても終わらず、本編に入るまで一週間以上かかった気がする)。
 『マン島の黄金』でも書いたように、クリスティー文庫のKindle版には解説が収録されていないのだけれど、これは後年に発表された作品のため、原書に含まれるまえがき二本とあとがきに加えて解説がついている。おかげでクリスティー読破計画の最後の一冊として、いい感じの締めくくりになってくれた。
(Nov. 10, 2024)