2023年7月の本
Index
- 『あんときのRADWIMPS 人間開花編』 渡辺雅敏
- 『ハロウィーン・パーティ』 アガサ・クリスティー
- 『更に、古くて素敵なクラシック・レコードたち』 村上春樹
あんときのRADWIMPS 人間開花編
渡辺雅敏/小学館
RADWIMPSのスタッフによる公式ヒステリー本の第二弾。
今回のこれはいきなり重いっ!
前作でも終盤になるとバンド活動が決して順調とはいえなくなっていたので、そのあとを描くこの本がある程度重い内容になるのは予想ができたはずだけれど、まさかここまでとは。
取り上げているのは、アルバムでいうと『絶体絶命』から『人間開花』までの四枚の時期。期間は2011年から2017年のツアーまで。
――ということで、始まりが2011年という時点で鋭い人は気がつくはず。
そう、この本はいきなり東北大震災という未曽有の災害に対するRADWIMPSという一バンドのドキュメンタリーとして始まるのだった。
『絶体絶命』のリリース日は2011年3月9日。なんと震災の二日前だ。
渾身の一枚を完成させ、いざプロモーションに打って出ようという矢先にあの大地震が起こったことで、ラッドの面々とスタッフがこのアルバムのために用意していたプロモーションはすべて日の目を見ることなく終わってしまう。
この緊急事態を前に、洋次郎は即座に動く。スタッフや知人の助けを借りて、チャリティーサイト『糸式 -ITOSHIKI-』を立ち上げ、募金や応援メッセージを集める。
震災後のツアー、メンバーの結婚、洋次郎の映画出演に単独野外ライブと、息つく暇のない激動の日々のあと、ついにドラマーの山口智史が職業性ジストニアという病気で活動休止を余儀なくされてしまう。
そこまででほぼ全体の三分の二なのだから重いのも当然。ラッドにとってもっとも厳しかったであろう数年のバンド史がこの本では描かれている。
救いがあるのは、終わりのほうは明るいこと。新海誠との運命的な出会いから『君の名は。』の音楽を手がけ、『前々前世』の大ヒットを受けて紅白歌合戦に出演した時期までを描いてこの本は終わる。
困苦の時期を乗り越えてきたあとだからこそという吹っ切れた明るさがこの本の最後にはある。
(Jul. 01, 2023)
ハロウィーン・パーティ
アガサ・クリスティー/中村能三・訳/クリスティー文庫/早川書房/Kindle
ポアロものもこれを含めて残すところあと三冊。
この作品は『ハロウィーン・パーティ』というキャッチーなタイトルに惹かれて読んでみたら、内容はいまいち?――とか思った記憶があるのだけれど、そんな先入観があったせいか、今回再読してみたら、思っていたよりもよかった。
内容はたくさんの子供が集まったハロウィンのホーム・パーティで、ひとりの女の子がバケツに首を突っ込んで溺死させられるという陰惨なもの。
その子が直前に「私は人が殺されるのを見たことがあるの」といっていたことから、そのパーティに居あわせたミステリ作家のアリアドニ・オリヴァ夫人がポアロの登場を願うことになる。
いざポアロが知人のつてをたどって捜査を始めてみれば――たまたまその土地には隠居生活を送っていた旧知のスペンス元警視がいた――被害者の女の子は嘘つきと評判で、「人殺しを見た」発言もオリヴァ夫人以外、誰ひとり信じる人がない状況。
さて、本当にその女の子は殺人を見たことがあるのか? 彼女はそのせいで殺されたのか?――という謎をポアロが解きあかす。
犯人が誰かにはそれほど意外性がなかったけれど(当たらずとも遠からず)、女の子の発言の真相にはおーっと思いました。さすがクリスティ。
(Jul. 01, 2023)
更に、古くて素敵なクラシック・レコードたち
村上春樹/文藝春秋
村上春樹が自宅のレコード棚にある膨大なアナログ盤からお気に入りをチョイスして語ったクラシック本の第二弾。
このところ春樹氏の本は出版された順を追って読んできたのだけれど、これは前作に大苦戦したこともあって手を出しかねているうちに『街とその不確かな壁』が出てしまったので、ついそちらを先に読んでしまった。
内容については前作同様ちんぷんかんぷん。知らない曲を知らないオケが演奏しているレコードについてのうんちくを延々と読みつづけるのって、なかなか骨が折れる。それでもくじけずに半月くらいかけて最後まで読みきった。
こういう本を読む行為って、ジョギングと似ている気がする。
ジョギングをしている人だって、全部が全部走るのが楽しくて走っているわけではないでしょう? 走るのは好きではないけれど、健康のために走っているとか、走るのはつらいけれど、でも走り切ったあとの達成感が味わいたいから走っているという人もそれなりにいるんじゃないかと思う。
僕にとっての読書にもそういう部分がある。すべての本が読んで楽しいわけではないけれど、それでも読み始めたら好き嫌いに関係なく最後まで読みきらないと気分がよくなし、読むという行為を通じて自分を叱咤している部分が少なからずある。
なのでこつこつと地面を蹴って走り続けるマラソン・ランナーのように、日々一生懸命活字を追いつづけている。
ぜんぜん関係ないけれど、この本には「流麗」と「艶やか」という言葉が頻繁に出てくる。恥ずかしながら僕はどちらの言葉も自分では使ったことがなかったので、読み方がわからずちょっと困った。
前者は「りゅうれい」だろうと推測がついたけれど、後者は「あでやか」なのか「つややか」なのかわからない。もしかしたらどこかにルビが振ってあったのかもしれないけれど、だとしたら見落とした。まぁ、文脈からすれば「あでやか」の一択なのかもしれない。
でもこういう読み方が複数ある言葉を使うときにはルビを振ってくれると嬉しいなぁと思います。出版もデジタル時代になったせいか、近年はルビが見過ごされがちなのが残念だ。
(Jul. 16, 2023)