2023年6月の本
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- 『街とその不確かな壁』 村上春樹
街とその不確かな壁
村上春樹/新潮社
村上春樹の通算十五作目の長編小説は『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の母体となった中編小説のリメイクとのこと。
分冊になっていない一巻ものの長編としては、たぶん過去最長の作品だし、これまで一度もあとがきを書いたことがなかった春樹氏がわざわざあとがきを載せているという点だけみても、作者にとっては特別な作品なのだと思う。
ただ、残念ながら僕自身はこの作品にいまいち乗り切れなかった。
読み終わるのに一ヵ月以上かかってしまったというのは、昨今の僕の読書力の衰えの証拠以外のなにものでもないけれど、でも長くかかってしまった原因のひとつはこの作品にそれほど強く惹かれなかったからだ。つまらなかったとは言わないものの、好きかと問われると微妙なところ。
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は『羊たちの冒険』と『ねじまき鳥クロニクル』と並ぶ村上春樹のマイ・ベスト・スリーのひとつだから、その作品の姉妹編ともいうべき今作は、どうしたってあの作品と比べずにはいられない。
で、エンタメ要素と幻想性を見事に織り成して唯一無二のムラカミ・ワールドを築き上げたあちらと比べると、こちらはいささか地味というか……。
村上春樹史上最大のドラマチックな結末を持っていたあの作品と比べるには、いささか分が悪すぎる。
作者としては比較なんかしないでニュートラルに新作として読んで欲しいんだろうけれど、一読者としてはさすがにそうもいかない。
この先の人生で『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』と『街とその不確かな壁』のうち、どちらか片方しか読ませてあげないから、どちらかを選べといわれたら、僕は迷うことなく前者を選ぶ――と思う。いや、でもあの作品を最後に読んだのはすでに前世紀の話だからな。いま読んだらもしかしたら印象が変わったりするのかな。いずれ読み返さないといけません。
いずれにせよ、この新作については、あの傑作の存在をなしにしては考えられない分、書き手も読み手もいささか損をしている気がする。
(Jun. 12, 2023)