2019年11月の本
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- 『白夜』 ドストエフスキー
白夜
ドストエフスキー/小沼文彦・訳/角川文庫/Kindle
なんだかドストエフスキーを読むのもひさしぶりだなぁと思って調べたら、最後に『白痴』を読んだのが九十六年のことだった。いやはや、じつに二十三年ぶり。
僕は『罪と罰』と『カラマーゾフの兄弟』を世界文学史上に残る傑作のうちのひとつ――もとい、ふたつだと思っているので、その作品を書いたドストエフスキーも当然特別視しているんだけれど、なぜかそれほど積極的に全作品を制覇しようって意欲がわかないのは、やはり時代が古いせいか、はたまたロシア語からの翻訳にあまり惹かれないためか。まあ、もともと英米文学メインで、それほど極端な読書家ってわけでもないのだから、ロシアの文豪を積極的に読まなくても特に不思議はない気はするけれど。
それにドストエフスキーの作品に出てくる人たちって、どうにも言動が極端にデフォルメされている感じがして、いまいちとっつきづらさがある。ひさびさにこの人の作品を読んでみて、その独特さを懐かしく思った。この普通じゃない感じは、十九世紀の小説だからなのか、ロシア文学だからなのか、はたまたドストエフスキー独特の味なのか。僕にはそこんところがよくわからない。
ほぼ全編が一組の男女の会話だけで成り立っているような印象のこの短い恋愛小説は、その恋の始まりから終わりまでがわずか四日間。唐突に燃え上がった恋の炎はあっという間にピークを迎えたと思ったら、あっけなくついえる。その間の主人公ふたりの自分本位な饒舌さがものすごい。なんでそうなるのさって、読んでいて唖然としてしまう。
こういう小説って、現代では成り立たないよなぁと思う。でもその一方で、その過剰なまでに熱い語りっぷりは、一周まわって意外と現代的かもしれないなと思ったりもした。少なくてもこの作品に関していえば、なんとなくカズオ・イシグロあたりに通じるものがなくもないかもしれない。
(Nov. 30, 2019)