2019年12月の本

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  1. 『オーバーストーリー』 リチャード・パワーズ

オーバーストーリー

リチャード・パワーズ/木原善彦・訳/新潮社

オーバーストーリー

 個人的に二十一世紀の最重要作家だと思っているリチャード・パワーズの最新作。
 原書の刊行からわずか一年ちょいのインターバルで日本でも翻訳が刊行されたのがまずはめでたい。本国ではピューリッツァー賞を受賞したそうで、なおめでたい。
 有名な文学賞をもらっただけあって、内容も素晴らしい。
 メインとなるのは地球温暖化の原因である森林伐採への反対運動にまつわる話。最初の「根」と称した章で、主要登場人物八組をそれぞれ別々に描いてゆき、次の「幹」で各自が出会って物語の本編へと突入するという構成なのだけれど、もう最初の「根」の部分だけで、良質の短編集一冊分くらいの満足度がある。それが「幹」へと突入して、物語の全体像が見え出してからのおもしろさたるや……。
 間違いなく、これまでのパワーズの作品で中でももっとも読みやすく、もっともおもしろい作品だと思った。まぁ、後半に入って最重要人物のひとりがリタイアしてしまってからは、いくらか話が難しくなって物語の推進力が落ちる気はするけれど、それでも最後まで読みごたえたっぷりの素晴らしい作品だった。
 最初に書いたとおり、物語のメインとなるのは環境保護運動にまつわる話なのだけれど、おもしろいのは序章で描かれた登場人物の全員がその運動にかかわってくるわけではない点。主要八組の登録人物のうち、二組のエピソードは最後までメインの物語とは交わらない。老女性学者が書いた一冊の本を介して、緩くつながっているだけ。
 でも樹木によるコミュニケーションを扱い、作品自体をひとつの樹木になぞえられて構築されたこの小説にとっては、そういう枝葉が絶対に必要なんだろう。樹木が一方方向へのみ枝葉を広げるわけではないのと一緒で、この物語も豊かな枝葉末節を持っている。そこもまたこの小説の魅力のひとつだ。
 読書量がた落ちの一年だったけれど、来年はもっと本を読まなきゃなぁという意欲を高めさせられる、一年の最後を飾るにふさわしい作品だった。
(Dec. 30, 2019)