2013年10月の本
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- 『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』 ジョン・ル・カレ
ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ
ジョン・ル・カレ/村上博基・訳/早川書房/Kindle版
文庫本で読もうか、Kindle版で読もうか、悩んでいたスマイリー三部作を、結局ディスカウントにうながされて、Kindle版で読むこと決定(高ぇんだもん、文庫版)。まずは新訳版で再読しました、『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』。
これ、前回に菊池光氏の旧訳版を読んだときには、恥ずかしながら、なにがなんだかわからなかった。わからなかったというか、わかるための努力をしなかったというか。読んだのはわずか六年前なのに、どんな話だか、まったく記憶に残っていないんだから、われながら、ひどいもんだと思う。
今回はその反省を踏まえ、併読なしでこの本だけに集中して、じっくりと読んだ。とはいえ、時期的にまた集中力を欠いていて、電車で断片的に読む気になれず、夜寝る前に読み進める、というスタイルをとったら、いやぁ、おかげで、はかどらないこと、はかどらないこと。このところ、体力低下がいちじるしくて、夜は日が替わる前に眠くなってしまうので、布団に入って読み始めて、五ページも読まずに眠くなってしまう……というのを延々と繰り返していた。結局、読み終えるのに三週間半もかかってしまった。
それでも、それだけ時間をかけた甲斐あって、今回は話がよくわかった。――って、いや、実際には「よく」ってほどでもないけれど、とりあえずわかった。そしてなにより、とても楽しく読むことができた、それがなにより。うん、おもしろかった。
惜しむらくは、アマゾンでも酷評されているように、翻訳の出来がいまいちなこと。ひどいとは言わないけれど、決して読みやすい翻訳とはいえない。
翻訳家の村上博基氏は、続編二作を手がけている方なので、その人の手により三部作を揃えたいという出版社の意図はわかる。わかるのだけれど、いかんせん、村上氏は故・内藤陳氏とおない年とのことで、すでにご高齢。三十年前に手がけた続編とおなじレベルの翻訳をものするには、体力的に無理があると僕は思う(僕自身、四十後半にしてすでに文章力の衰えを切実に感じているだけに、なおさらそう思う)。
文章的にもおかしなところが散見されるし、使われている熟語にしろ、
そんなの、お前が不勉強なだけだろうと言われるならば、その通りだ。とはいえ、もともと英語の原文が読めないからこそ、わかりやすい日本語で読んでいるわけだ。そこでまた辞書を引かされたんでは、本末転倒。美文を誇りたければ、自ら小説を書けばいい。翻訳はまずはわかりやすさだと僕は思う。新訳となれば、なおのこと。
クリスティー文庫でもそうだけれど、最近の早川書房は、新訳といいながら、ご高齢の大ベテラン翻訳家に仕事をゆだねて、結果出来がいまいち、なんてことが多い気がする。文豪の衰えはそれ自体が味となるかもしれないけれど、翻訳の場合は違うでしょう? わざわざ新訳を用意するのならば、やはり今が旬な若い人に依頼してほしい。平成生まれの過半数が読めないような言葉が頻発するようでは、「新訳」のことばが泣く。
(Oct 07, 2013)